Night/Knight 第33話 三種族会談

♂ヴィシュワズ・G・カレン:見た目年齢20代後半から30代後半。天使。天界の上院議会『ルウルティナ・アポストロ(L'Ultima apostolo:最後の使徒)』第一席。
             天使最上主義であり、天使以外は劣った存在として見下している面がある。性格は何事にも覚めており、淡白。
             自らの職務を全うすること以外に興味を持たないロボットのようなタイプ。反面、気心の知れた天使に対しては慈しみを持って接する。

♀アルファリット・М・ライヤー:見た目年齢20代後半から30代後半。天使。天界の上院議会『ルウルティナ・アポストロ(L'Ultima apostolo:最後の使徒)』次席。
               ヴィシュワズの同僚であり、気心の知れた仲。天界の中でも扱いにくいとされている彼を唯一理解できる人物。
               天使至上主義な者が多い中、数少ないリベラル派の天使でもある。
               性格は穏やかであり、母性を持った女性。誰に対しても慈しみを持つ反面、叱咤すべきところは否定し正す事ができる。

♀マリアン・グロリア・シサリーザ:20代後半から30代。聖十字協会所属の魔術師。伯爵の爵位を持つ。
                聖十字協会の幹部であり、普段の仕事はもっぱらのデスクワークである。
                ブランドンの直属の上司。若くして聖十字協会の幹部となっただけあり、頭の回る策師。
                普段は飄々としているが、締める時には締める抜け目ない人物。
                結界術に長け、護身術式である結界術であっても中位魔族相手に苦戦しないほど。

♂クレメント・アッカーソン:30代後半。封滅騎士団 総統。若くして封滅騎士団の総統の座に着いたエリート。
              上昇志向が高く、使えるものはなんであれ使ってのし上がってきた。
              人を駒としか見ておらず、人を自分の目的達成のための手段に過ぎない。
              掴みどころのない口ぶりであるが、その背後には猛禽のような『相手を食いつくそうとする』意志が感じられる。

♂夜巳 鎮(やみ まもる):純血の吸血鬼。見た目17歳くらいだが、実年齢は200オーバー。感情の起伏が浅く、眉間に皺が寄っているため常に怒っているように思われる。
             達観とも諦観ともとれる思考をしており、物事に対して醒めている。


♂ヴィシュ:
♀アルファ:
♀マリアン:
♂クレメント:
♂夜巳 鎮:


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アルファ(N):人民評議会 貴賓室。そこでは、一人の魔術師が待ち人の到来する時を待っていた。

マリアン  :また、唐突な招集があったものだ。天使サイドはそんなにやることがないのか?

アルファ(N):マリアンは、自分の前に置かれたコーヒーカップの水面(みなも)を眺め、思案する。
       これからもたらされる会談に一抹の不安を抱えながら。



ヴィシュ  :Night/Knight 第33話 三種族会談



クレメント :失礼する。おや、これはこれは。シサリーザ卿。お早いですな。

マリアン  :アッカーソン総統。ご無沙汰をしております。

クレメント :こちらこそ。活躍は聞いていますよ。様々な諜報活動で成功をあげてこられたとか。

マリアン  :過分な評価ですよ。それに最近では大した活動はしておりませんので。

クレメント :また、ご謙遜を。あぁ、そこの君。コーヒーを頼めるかね?出来れば、モカのブラックで。

マリアン  :活動という意味では、封滅騎士団の方も近頃よく動いているようで。

クレメント :ああ、そうですな。魔術犯罪。特にテロリズムに関する案件が多くて困っているのですよ。

マリアン  :それは、人間が起こしたものです?

クレメント :ええ、もちろん。魔術犯罪は「魔術師」が起こすものなのですしねぇ。

マリアン  :それにしては、ヘブリニッジに派遣している魔術師の数が多いようですが。

クレメント :それはそうでしょう。なんせ、犯罪を起こした魔術師はことごとくがヘブリニッジへ逃げ込むわけですから。

マリアン  :そうですか。ですが、そのような案件があるのでしたら、聖十字協会の方(ほう)にもご連絡をいただきたいのですが?

クレメント :いやいや、それには及ばないですよ。シサリーザ卿。そちらは抑えの効かない魔族の監視業務で手が足りないでしょう。
       ですから、我々封滅騎士が及ばずながらも肩代わりをとね。

マリアン  :左様でしたか。御心配(おこころくば)りありがとうございます。しかし、それは無用に願います。
       我々にも魔術師としてのプライドがありますので。

クレメント :それはそれは、失礼いたしました。・・・時に。

マリアン  :まだなにか?

クレメント :最近、聖十字協会は人類側にも諜報活動をかけるようになったのですかな?

マリアン  :っ。・・・といいますと?

クレメント :おや?ご存じない?では、この際ですからお伝えしておきましょうか。
       最近、私の周りを聖十字協会の諜報員がうろついてましてねぇ。少々困っているのですよ。

マリアン  :なるほど、なにか後ろ暗いことでも御有りなのですか?

クレメント :まさか。私はいたってクリーンですよ。
       ですので、困っていたのです。誰も、身の回りを探られてうれしいものではないですからね。

マリアン  :なるほど。では、私の方で事実確認をした後、対処いたしましょう。

クレメント :おお、それは助かる申し出です。かたじけない。

鎮     :相変わらず、利権争いか?人類は暇なのか?

マリアン  :夜の王。戯言としては、あまりに笑えないのですが?

鎮     :戯言として言ったつもりはなかったのだがな。

クレメント :これはこれは手厳しい。お初にお目にかかります。クレメント・アッカーソンと申します。
       以後、お見知りおきを。夜の王。

鎮     :噂は聞き及んでいる。なんでも悪どいことを平気でやるとか。

クレメント :悪評恥じ入る次第ですな。やはり、身の回りに敵は作りたくないものです。

鎮     :そうか。では、新しい総統にでも椅子を渡せばどうだ?

クレメント :ハハハ。そうですなぁ。いずれ、考えておきましょうかね。

鎮     :ふん、にしてもだ。あの偉そうな奴らはまだ来ていないのか。

マリアン  :夜の王。口には気を付けた方がいい。彼らは・・・

鎮     :知っている。どうせ今も聞いているんだろう?天使。

ヴィシュ  :不愉快だな。魔族如きが。

鎮     :やっとのお出ましか。ヴィシュワズ。

アルファ  :皆さま、遅参の段、申し訳ありません。ここに謝罪を。

クレメント :いえいえ、謝罪はいりませんよ。ようこそおいで下さいました。
       では、これで皆揃ったわけですな。さっそく、会談と参りましょうか。

鎮     :無駄な時間と思うがな。

ヴィシュ  :それは、内容を聞いてから判断したらどうだ。夜巳。

マリアン  :いざこざはそこまでにしていただこう。話を前に進めたいのですが。

アルファ  :申し訳ありません。お呼び立てしておきながら。
       ヴィシュワズ。少し、やり過ぎです。我々がこの会を主催したのですから、もう少し。

ヴィシュ  :なぜ我ら天使が頭を垂れなければならない?アルファリット。

アルファ  :道理の話です。その様だから、身の周りに敵を作るのですよ。

ヴィシュ  :知ったことか。

クレメント :まぁまぁ、我らは気にしておりませぬので。でしょう、シサリーザ卿。

マリアン  :私は、早くこの会を終わらせたいだけです。

鎮     :それには同意する。天使と同じ空間には居たくないからな。

ヴィシュ  :貴様・・・

アルファ  :遮って)では、お言葉に甘えて、先を進めましょう。
       今回、皆様をお呼び立てし、この場所を設けたのは他でもありません。
       我々、天使側から、早急に事実確認を致したいことがありましたので。

クレメント :ほう、事実確認ですか。それはまた、どういった?

ヴィシュ  :『眠れる紅薔薇(べにばら)』吸血鬼 マリア・ウォーターフィールド。

鎮     :っ。

ヴィシュ  :それの封印が解かれたという情報が入ったのだが?

マリアン  :それが本当なら、情勢不安の火種となりますね。

クレメント :『眠れる紅薔薇』・・・。申し訳ないのですが、詳細をお聞かせ願えますかな。

マリアン  :総統。貴方が知らない訳がないでしょう?

クレメント :もちろん。私が知らないのではないですよ?『私は』ですがね。
       しかし、下の者どもはその存在を軽視していましてね。

ヴィシュ  :あれを軽視だと?

クレメント :はい。お恥ずかしい限りですが、人類は天使や魔族と違いまして短命です。
       あっという間に危機感という情報を忘れていくものでして。

ヴィシュ  :愚かな。全くもって理解できんな。

アルファ  :仕方がないでしょう?我々と違い、知識、意識の統一化など意図してできないのですから。

ヴィシュ  :統一思想こそが、安寧への第一条件だ。差異が生まれなければ軋轢は生まれん。

鎮     :代わりに個性は死ぬがな。
       パーソナリティは、個人が個人であることを示す、生まれながらにして持つ唯一不可侵の自由だ。
       
ヴィシュ  :流石は欲望に忠実な魔族だな。パーソナリティを自由と言う。
       我らからすれば無用の長物にすぎんというのに。

鎮     :無用と言い切るか。ずいぶんとくだらない生をすごしているんだな。

ヴィシュ  :個性とはすなわち、思想の偏りを生む存在。思想が偏ればそれは混乱の火種となる。
       統一化、平均化することで世は安定を生む。

鎮     :安定ではなくディストピアの創造がお前たちの理想だったか。

マリアン  :両者とも、やめてもらえないか!話が進まないだろう!

アルファ  :失礼を。話を戻します。
       『眠れる紅薔薇』について、でしたね。
       過去に起こった『人魔大戦』。
       魔術師と我々、天使や魔族が土地の割譲を競い争ったあの大戦で一番の活躍を見せた魔族です。

クレメント :圧倒的な力をもつ人物だと言われていますが?

アルファ  :ええ。そのとおりです。
       そちらの記録にも探せば残っていると思いますが、魔術師の二個大隊をたった一人で壊滅させた存在です。

ヴィシュ  :評価をするならば、あれは災厄の権化だ。歩けば血が流れ、後には屍(しかばね)しか残らん。

クレメント :それはそれは、非常に危ないですな。例えるならば、旧時代の核兵器と言われるものと同義の危険性を持つと。

ヴィシュ  :ああ。一番厄介なのは、それが『自立した意志を持っている』点だろう。
       自分の興味、自分の感情のまま、すべてを破壊する存在だ。本来ならば殺しておかねばいけないものだ。

鎮     :だが、そのおかげでお前たちの居住できる土地が手に入ったことを忘れてもらっては困る。

ヴィシュ  :我らは貴様ら魔族に頼った覚えはないが?

鎮     :フン、よく言う。人類と戦闘状態になった時、無防備にも奴らの前に立ち、攻撃の受けるままにしていたのはどこの誰の陣営だ?

ヴィシュ  :我らは対話によって決着をつけるため、無防備を選んだのだ。

鎮     :対話が行える段階を超えていたのにか?

ヴィシュ  :貴様ら魔族が余計な火種を巻き起こしたことに起因していると承知しているが?

アルファ  :ヴィシュワズ。いい加減にしてください。鎮様も。
       お互い、相容れないかもしれませんが、ここは融和と対話を行う場です。罵り合う場所ではないでしょう。

マリアン  :アルファリット女史の言う通りだ。話を戻そう。
       その、『眠れる紅薔薇』。「マリア・ウォーターフィールドの封印が解かれた疑いがある」ということが、今回の会談の趣旨で間違いないのだな?

アルファ  :ええ、その通りです。彼女の存在は、我々天使でも抑えられないほど強大です。
       人類にしてみれば、言わずもがなでしょう。
       したがって、今一度確認と、再度の封印強化を行いたく。

鎮     :必要はない。

クレメント :ほう?夜の王は拒否なさると?

鎮     :拒否ではない。『必要がない』と言ったんだ。本旨をしっかりと捉えてもらおうか。総統。

クレメント :これはこれは、失礼を。『必要がない』と言った意図をお聞かせ願えますかな?

鎮     :そもそも、今回の話は『封印が解かれた』前提の話だろう?
       現状、封印が解かれていないため、その必要はないと言った。

アルファ  :その証拠は提示できるのですか?

クレメント :そうですな。それがないと、こちらとしても納得できませんしねぇ。

ヴィシュ  :よもや、要らぬの一言で片づけるつもりだったのか?

鎮     :証拠など見せる必要もない。前提が間違っている時点で今回の一件は終わりだ。

アルファ  :その言動は、波乱を起こすことにつながるのをお分かりですか?

マリアン  :物事にはバランスが必要だ。それを崩すカードを持っているというのなら、誠実に対応してもらいたいのだが?

鎮     :それは、そちらにも言えることではないのか?封滅騎士、及び聖十字協会。
       そちらも大きな伏せカードを持っているようなのだが?

クレメント :伏せカード・・・なんのことでしょう?

鎮     :破壊魔術。禁忌の魔術を使う奴と遭遇したのだが?

ヴィシュ  :破壊魔術だと?人の分際でそのようなものに手を出したのか?

マリアン  :待ってほしい、それを我々の陣営が使ったと言いたいのか!?

鎮     :実際に戦闘をしたんだ。先日の「マン・ハント」の時にな。
       この世のありとあらゆるものを文字通り『破壊する』破壊魔術の使い手にな。

クレメント :それが本当なら、由々しき事態ですなぁ。

ヴィシュ  :由々しき事態だと?その程度の認識で放置するつもりか。

クレメント :滅相もない。すぐさま対応させてもらいましょう。
       ですが、1つ言わせていただきたい。
       我ら、封滅騎士団に『破壊魔術』の使い手などはいません。

マリアン  :っ!こちらにも、そのような魔術師が居る訳がない。

アルファ  :そうなると、おかしいですね。

鎮     :ああ、破壊魔術を使うとなれば、それ相応の知識と技術が必要になる。

ヴィシュ  :独学で修められるほど、容易い魔術でない物を習得しているならば、それはどちらかが噛んでいるとしか思えんぞ?

クレメント :しかし、居ないのですからどうしようもない。そうでしょう?シサリーザ卿。

マリアン  :え、ええ・・・。そうなりますね。こちらとしても、疑いを掛けられるいわれはない。

鎮     :これで分かったろう。バランスを言うのであれば、お互いに伏せカードを持っている時点でバランスはとれている。
       仮として、こちらにマリア・ウォーターフィールドが復活しているというカードがあったとて、破壊魔術があるならイーブンだ。

アルファ  :しかし、それは理屈に合っていないと・・・

鎮     :それは本当か?そう言えば、噂なのだが。最近、天使の方でも『クラウ・ソラス』を禁断の宝物庫から失ったと聞いたが?

ヴィシュ  :・・・それをどこから聞いた。

鎮     :ほう?ということは本当の様だな?

マリアン  :炎を統べ、因果を曲げ、絶対の勝利をもたらす『クラウ・ソラス』。
       天使上院議会「ルウルティナ・アポストロ」の上位者でしか知りえない在り処にあると聞きましたが。

鎮     :それが『禁断の宝物庫』だ。天界で作られた、世界級の礼装を収めた蔵。
       そこから、そんな逸話のある剣が失われたということは、つまりどういうことだろうな?

クレメント :まぁ、上位者しか知らず、立ち入れないとなれば、『何かを企てている』としか、思えませんな。

ヴィシュ  :貴様ら!我らを愚弄する気か!

鎮     :何を言っている。愚弄などではないだろう?ただ、事実を言ったまでだ。
       「伏せカード」を持っているのは『俺たちだけじゃない』ってことだ。(ト:鎮、立ち上がる)

クレメント :どこへ行かれるのですかな?ヘブリニッジ辺境伯。

鎮     :話は終わりだ。これ以上喋っていても無為な時間が過ぎるだけだからな。

ヴィシュ  :貴様らの疑いは晴れていない!

鎮     :晴れていなくとも、お互いにきな臭いものを抱えているんだ。手打ちには丁度いい幕引きだと思うがな?
       では、失礼する。

マリアン  :まて、辺境伯!チッ・・・すみません。私も立たせてもらいます。では。

クレメント :おやおや、これは・・・お開きですかな?

アルファ  :ええ、そのようですね。・・・仕方がありません。

ヴィシュ  :我々天使を愚弄するなど・・・万死に値する。

アルファ  :しかし、こちらの対応も良いものではありませんでしたよ。ヴィシュワズ。
       それに、夜の王が言っていた「手打ち」としてはちょうどよかったでしょうし。

クレメント :おや。天使様からそのような言葉が出るとは。

アルファ  :事実ですからね。こちらの不行き届きにより、礼装が逸失したのは事実です。
       それが、どこにあり、誰の手の中にあるか。それがわからない以上、魔族側を追求することはできません。

クレメント :たしかに、我らも同じことですなァ。破壊魔術ですか・・・。
       禁止しておきながら、その裏で動いている輩がいるかもしれないというのは・・・。危惧せざるを得ませんな。

ヴィシュ  :アルファリット。お前は先に戻れ。

アルファ  :どうしましたか?ヴィシュワズ。

ヴィシュ  :どうもしない。すこし、頭を冷やしてから帰るだけだ。

アルファ  :・・・そうですか。ならば、私は先に。後で今回の議事録を纏めて提出いたします。

ヴィシュ  :任せた。

アルファ  :では、失礼を。

クレメント :・・・お互いに大変ですなァ。

ヴィシュ  :貴様はどう見る。クレメント。

クレメント :夜の王のことですか?それとも、『眠れる紅薔薇』のことですか?

ヴィシュ  :どちらもだ。

クレメント :私としては、クロですなぁ。封印は解かれているとみていいかと。

ヴィシュ  :そうか。

クレメント :それで、どうするおつもりですか?ヴィシュワズ第一席。

ヴィシュ  :過程は変らん。今後も、魔族を滅ぼすのに尽力するまで。

クレメント :では、その一助に我々も。

ヴィシュ  :期待している。

クレメント :ええ。承ってございます。

ヴィシュ  :そちらはどうするつもりだ?

クレメント :今後ですか?ウチのエースを何人か忍ばせております。
       四名家を倒せるまではいかずとも疲弊させるくらいはできましょう。

ヴィシュ  :よろしい。ならば、我々はその陰で目的を達成できる『聖杯』を探すことにする。

クレメント :それがよろしいかと。・・・では、そろそろお帰りになられますか?

ヴィシュ  :ああ、遠いところ苦労を掛けたな。

クレメント :いえいえ、こちらこそです。では、失礼いたします。第一席。

ヴィシュ  :夜巳 鎮・・・。貴様の好きにはさせんぞ。

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マリアン  :夜巳辺境伯!待ちたまえ!

鎮     :マリアンか。その名前で呼ぶなと何度言えばわかる。

マリアン  :一応、ここは公式な場所だ。変に呼ぶと怪しまれる。

鎮     :俺はその呼び方は好かん。

マリアン  :わかった。鎮。これでいいか?

鎮     :それで?呼び止めた理由はなんだ?マリアン。

マリアン  :なんだって・・・決まっているだろう!さっきのあの会談でのことだ!

鎮     :会談。あそこの話でどれが気に食わなかった?

マリアン  :すべてだ!マリア・ウォーターフィールドのことも、破壊魔術のことも、天使のクラウ・ソラス紛失の件も!
       すべて私の耳に入っていない!どういうことだ!

鎮     :それはそうだろう。耳に入れてないからな。

マリアン  :夜の王。失礼だが、君は私をバカにしているのか?
       聖十字協会と魔族は友好的な側面から生活を保障する取り決めであったはず。
       それを反故にするつもりなのか。

鎮     :そのつもりはない。

マリアン  :ならなぜ・・・!

鎮     :すべては釣るためだ。

マリアン  :釣る・・・?

鎮     :今日の会談でよくわかった。
       マリアン。破壊魔術の件、伏せていたことは謝ろう。
       だが、おかげで理解できた。「マン・ハント」で襲ってきた魔術師。あれは封滅騎士団の差し金だ。

マリアン  :なに?なぜそう言える。

鎮     :俺が「破壊魔術」の件を口に出したとき、クレメントは言っただろう「破壊魔術の使い手はいない」と。

マリアン  :ああ、確かに言ったが・・・でも、だからってすぐさまおかしいとは。

鎮     :おかしいんだ。そもそも俺は・・・。

マリアン  :まて、ここではまずい。こちらに来て話そう。

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マリアン  :それで?なにを理由に総統が怪しいと?

鎮     :あの会談の時、そもそも俺は「封滅騎士団に破壊魔術の使い手がいる」とは言っていない。

マリアン  :・・・そうだな。確かに言ってはなかった。

鎮     :そして、もちろん「聖十字協会にいる」とも言っていない。
       俺が言ったのはただ別々の事柄の2つだ。
       「聖十字協会と封滅騎士団には伏せカードがある」「破壊魔術の使い手が『人類に』いる」。
       なのに、クレメントは「うちに破壊魔術の使い手はいない」と言った。

マリアン  :だが、それは言葉の上での解釈だ。つなげて考えるのが普通だろう。

鎮     :そんな凡庸な頭で封滅騎士や聖十字協会の頭目を名乗れるのか?

マリアン  :・・・それは・・・。

鎮     :人類にも政治的な思惑がひしめいているんだろう?それを押しのけて立つくらいの人間が、この程度のことを読めなくてどうする。

マリアン  :では、クレメント総統は・・・。

鎮     :ああ、読んでしまったが故に、思わず裏をかいた反応を返してしまった。「リーダーにそぐわぬ、凡庸な返答」という形で。

マリアン  :総統は自分が怪しまれないために打った布石で、自分の首を絞めたということになるのか。

鎮     :そうなるな。・・・ブラフでない限りは。

マリアン  :まて、お前はこちらも疑っているのか?

鎮     :違う。俺が疑っているのは天使だ。

マリアン  :天使・・・?ヴィシュワズ第一席のことか?

鎮     :ああ、奴ならやりかねん。

マリアン  :まさか。天使がこの世界を牛耳るみたいな話が・・・。

鎮     :起こらないと断言できるか?

マリアン  :それは・・・わからないが・・・。

鎮     :たしかに、秩序を司ると言われる天使どもだ。そう言った欲はないかもしれん。
       だが、魔族を毛嫌いするのもまた事実。

マリアン  :つまり、ヘブリニッジ自体を潰すつもりで・・・?

鎮     :封滅騎士と結託している可能性もある。
       ・・・お前が追いかけてきてくれて助かった。

マリアン  :・・・は?

鎮     :今後の事だ。マリアン。できるだけ、封滅騎士に近づくな。
       探りを入れているなら即刻中止しろ。

マリアン  :だが、そうなるとお前たち側を庇うことができなくなるぞ?

鎮     :かまわない。それよりも、やってもらいたいことがある。

マリアン  :やってもらいたいこと?なんだ。

鎮     :『聖杯』を探せ。

マリアン  :『聖杯』?・・・神が作った聖遺物礼装か?
       だが、あれは架空のものだと・・・。

鎮     :いや、聖杯は必ずある。それがどういったものかはわからないが、それが必要になる。

マリアン  :・・・それは、お前の『予知』か?

鎮     :・・・ああ。忌々しい『ギフト』の賜物だ。
       「聖杯を探せ」とささやいて来た。

マリアン  :・・・ふぅ。わかった。眉唾だが、お前の『予知』が外れたためしはないからな。
       やってみるとするよ。

鎮     :頼む。あと、こちらの薔薇の件だが。

マリアン  :ああ、把握している。あの時、ああは言ったが、あれはパフォーマンスだ。
       管理はできているんだろう?

鎮     :一応な。これでも夜巳家の頭首だ。

マリアン  :だが、解き放つ時には一言かけてくれ。こちらでも準備がある。

鎮     :間に合えばな。

マリアン  :よし、それでは。引き留めて悪かった。気を付けて帰ると良い。

鎮     :ああ、そっちもな。寝首をかかれるなよ?

マリアン  :もちろんだ。お互い、気を付けていこう。

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鎮     :次回予告

クレメント :裏切り者の粛清。それは血の贖(あがな)い。

マリアン  :ヘブリニッジに一片の蝶が舞い込む。

アルファ  :Night/Knight 第34話 蟲愛ずる姫君

ヴィシュ  :毒を司るは可憐なる貞女の手。




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