Night/Knight 第30話 濡れた鴉羽(からすば)  作:福山漱流

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マシュー・フランクリン:22歳。聖十字協会の魔術師。爵位は無し。
              新米魔術師であり、ブランドンの部下としてヘブリニッジに派遣された。
              使用魔術は基礎的なものを幅広く扱い、威力も平均的。典型的な知性派であり、近接戦闘には向かない。
              優等生タイプで、頭もよく回るが、ルールに縛られやすく、柔軟に対応できない面を持つ。

ブランドン・マールスフェルト:20代後半。聖十字協会所属の魔術師。男爵の爵位を持つ。
               鎮とは腐れ縁のライバルであり、しょっちゅう小言をいう保護者の様な存在。
               術式形態はアゾット剣を用いた魔術を織り交ぜた近接攻撃。及びアゾット剣に封印された人工魔獣をつかったもの。


狩屋 夕姫(かりや ゆうき):21歳。元封滅騎士団特務攻撃隊。戦争孤児であり、魔術研究結社『ヴィクティム』に拾われた後、魔術師に。
                 戦闘は目に刻まれた魔術紋を使った「黒鳥召喚術」と強化された肉体での超接近戦。
                 寡黙な口調。性格は常に冷静であり淡泊。自分がどうなろうと気にしない自己破滅思考を持つ。

ミーシャ・シモーヌ:純血吸血鬼であり、ルドルフの弟(もしくは妹)。性別不明。精神的にも肉体的にも幼く、歪んだ感情表現をしがち。
           知識、魔術すべてにおいてルドルフより遥かに優れており、それを畏れ、憎んだ兄から幼いころから虐待を受けていた。
           その結果として、精神的に「壊れて」しまった。

♂マシュー:
♂ブランドン:
♀夕姫:
♀ミーシャ:

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ブランドン:よお、マシュー。現場は?

マシュー:こっちです。・・・一体、何があったんでしょう?

ブランドン:見てねぇ俺がわかるかっての。・・・うえ、こりゃひでぇ。バラバラじゃねぇか。

マシュー:被害者はマリク・ハサフ、あとその部下3人。シモーヌ家直轄の風俗街の元締めです。
     血の渇き具合から見て、殺害されたのは今日の朝早くですね。

ブランドン:あー、ガサツで有名なハサフ君でしたかぁ。この塊は。で?魔術の痕跡はあったのか?

マシュー:いいえ。ありません。魔力残留はしてないので魔術師による殺害ではありません。

ブランドン:ってことは、魔族同士でのやり合いか。シモーヌ家に連絡は?

マシュー:入れました。後のことはこちらでやると言われたのでとりあえず、現場保存しておきました。

ブランドン:グッド。それが正解だな。・・・にしても、だ。こりゃあ、並の魔族がやった事件じゃないぞ?

マシュー:やっぱりそう思いますか。

ブランドン:ああ、三下とはいえ、ハサフは幹部だ。そこらのチンピラができた仕事じゃない。
      それに、この切断面。綺麗なもんだ。すっぱり両断してやがる。

マシュー :正面からの一刀ですね。こっちと、あとこの傷は続けざまの連撃で受けたものでしょう。

ブランドン:正面からのだけでも致命傷なんだが、ダメ押しの二撃。用意周到にも程がある。

マシュー :やはり、内密に調べますか?

ブランドン:・・・いや、よしておこう。ミーシャの奴に喧嘩は売りたくない。

マシュー :わかりました。じゃあ、後は彼らに引き継ぎましょうか。

ブランドン:来たのか?シモーヌは。

マシュー :多分今、表にいます。封鎖結界を正規手順で解いてます。

ブランドン:そうか、ならさっさとずらかるぞ。鉢合わせると面倒だ。

マシュー :はい。行きましょう。

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ミーシャ :こーんにーちはー。誰かいますかー?

夕姫   :・・・来客?誰でしょう。・・・はい。どちら様で・・・。

ミーシャ :あ、女の子だ。こんにちは!

夕姫   :っ!・・・ミーシャ、シモーヌ・・。

ミーシャ :あれ?お姉さん。僕と会ったことあったっけ?

夕姫   :いえ・・・。貴方は有名人ですので。

ミーシャ :ふぅん?そっか。まぁいいや。

夕姫   :シモーヌ家当主が何用ですか?

ミーシャ :うん、ちょっとブランドンに知らせたいことがあってね。

夕姫   :そうですか。ですが、申し訳ありません。うちのブランドンは今、外へ出ていて。

ミーシャ :そっかぁ。いないのかぁ。

夕姫   :はい。ですので、申し訳ないのですが、お引き取りを。

ミーシャ :うーん、仕方ないかぁ・・・。マシュー君に関する「早急の」お話だったんだけどねぇ。

夕姫   :っ!マシューさんの?

ミーシャ :あれ?お姉さん、気になる?

夕姫   :い、いえ。別に。

ミーシャ :うーん、本当は言っちゃダメなんだけど・・・。教えてあげよっか?(抱き着く

夕姫   :っ!ちょっ!?なにを・・・

ミーシャ :ウチの幹部にね?マシュー君に対して恨みをもってる奴がいるんだ。
      それが今日、夜中に襲撃計画を立ててる。夜間巡回、今日マシュー君の担当だよね?

夕姫   :・・・ええ、そうですが。

ミーシャ :巡回の時、強襲をかけるんだって。数は30。荒事になれた手練ればっかり。
      それに、ウチの商品を勝手に持ち出して使ってるから、一筋縄じゃいかないかも。

夕姫   :商品って、まさか魔術武器・・・

ミーシャ :そう。防具だけじゃなく、象くらいなら簡単に消し炭にできるレベルのやつを持ち出してる。
      いくらマシュー君でも相手出来ないんじゃないかな?

夕姫   :・・・なぜそれを私に?

ミーシャ :深い意味はないよ?ただ、危険を教えてあげてるだけ。

夕姫   :・・・ありがとうございます。

ミーシャ :あ、あと最後に。集合場所を教えてあげる。38区の廃マンション。そこのロビーが結集地点。

夕姫   :私に、襲撃しろと?

ミーシャ :ちがうよー?ただ、知ってることを全部教えてあげただけ。お姉さん優しそうだから。

夕姫   :そうですか。

ミーシャ :ふふっ。じゃあ、僕は帰るね?(夕姫から離れる)
      あ、今言ったこと他の人には内緒だからね?

夕姫   :ええ、わかりました。

ミーシャ :それじゃあ、またね?お姉さん?

夕姫   :襲撃・・・。私の飼い主はやらせない。

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ブランドン:ったく、あっちでもこっちでもドンパチやりやがって。
      今日は厄日か!

マシュー :厄日・・・っていうか当たり日っていうか・・・

ブランドン:もっと大人しく過ごしてもらいたいもんだぜ!

マシュー :協会本部からの無線によれば・・・次は38区のマンションですね。多数の魔術反応を検知。抗争の可能性があると。

ブランドン:外縁(がいえん)スラムかよ!
      派手になる前に動くぞ!
      あそこはいろんな意味で火の回りが早い!

マシュー :了解!急ぎましょう!

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夕姫   :・・・戦闘終了。あっけないですね。この程度ですか。

ミーシャ :(ゆっくりとした拍手)

夕姫   :・・・誰?

ミーシャ :いいもの見せてくれてありがと。すっごく面白かったよ。カラスさん。

夕姫   :ミーシャ・・・シモーヌ。

ミーシャ :あー、でも、もう名前がわかってるんだから名前で呼ぶべきだね。ごめんね。狩屋夕姫さん。

夕姫   :っ!

ミーシャ :どうしてその名前を!・・・ってところかな?
      簡単な種明かしだよ?僕は君にしかここの情報を漏らしてない。
      
夕姫   :すべて、貴方の策・・・罠ですか。

ミーシャ :罠?ううん違うよ?これはお誘い。

夕姫   :お誘い・・・。

ミーシャ :パーティだよ!楽しい楽しいパーティの始まり!

夕姫   :血に濡れた舞踏・・・。ということですか。

ミーシャ :そう。じゃあ、いくよ?

夕姫   :エンチャント・カースエッジ。

ミーシャ :バレットエッジ!

夕姫   :回避。反転、攻勢に移る。

ミーシャ :速い速い!いいね!楽しくなってきたよ!

夕姫   :はぁっ!

ミーシャ :っ!・・・ハハッ!一撃も重いや!

夕姫   :受け止めた!?そんな・・・

ミーシャ :あれ?なにかおかしかったかな?ま、いいや。それっ!
  
  (ミーシャ、受け流して夕姫の態勢を崩す。バランスを崩す夕姫)

夕姫   :ぐっ!?しまっ!?

ミーシャ :それっ!ドーン!

夕姫   :黒鳥(こくちょう)!

  (外套が翻り、ミーシャの視界を遮る)

ミーシャ :ぶっ!?な、なに!?

夕姫   :戦技、単刺・二突(たんし・にとつ)

ミーシャ :ぐっ!?

夕姫   :連撃、双牙連刃(そうがれんじん)

ミーシャ :ぐあぁぁっ!

夕姫   :これでっ!

ミーシャ :終わりにしないよ?(夕姫の腕を掴む

夕姫   :っ!?このっ!離せっ!

ミーシャ :カース・リベンジ

夕姫   :ぐっ!?呪いの・・・逆流!?がっ・・くうっ・・・

ミーシャ :いっぱい呪いを叩きこんでくれたからね。倍返しだよ?

夕姫   :そんな・・・呪い返しなんて・・・上級の・・・神聖魔術・・・

ミーシャ :うん、いろんな人に言われる。魔族が神聖魔術つかうなんてーって。

夕姫   :・・・そうか、根源・・・。

ミーシャ :こんげん?なんのこと?

夕姫   :其は祈りの歌。人を救う慈愛の翼・・・。

ミーシャ :あ、解呪するんだ。いいよ?待ってあげる。

夕姫   :そして来たれ、天空のつぶて!セイント・レイ!

ミーシャ :っ!?がぁぁぁっ!?

夕姫   :黒鳥の構成を変更。必要領域を呪いの解読に分配。

ミーシャ :熱い・・・っ!あついあついあついぃぃっ!

夕姫   :ぐぅっ!・・・解呪進行度85パーセント。

ミーシャ :・・・食いつくせ。グリードハンガーっ!

夕姫   :上級魔術を飲み込んだ!?そんな魔術・・・

ミーシャ :・・・痛いじゃない。お姉さん。まさか、神聖魔術の呪いを放って僕に攻撃するなんて。

夕姫   :解呪進行度100パーセント。・・・解呪完了。

ミーシャ :あーあ、間に合っちゃったか。けど、いっか。これから本気だすから。

夕姫   :なぜ、こんなことを?

ミーシャ :んー?なにが?

夕姫   :ここに転がる死体。すべてあなたの配下です。なぜ、見殺しに?

ミーシャ :言ったはずだよ?ここにいるのはマシュー君を狙った暗殺者たちだって。

夕姫   :貴方が、止めたらいいはずです。

ミーシャ :アハハッ!止める訳ないじゃん!こんな丁度いいエサ!

夕姫   :仲間を切り捨てると?

ミーシャ :仲間じゃないから。

夕姫   :部下ではないのですか?

ミーシャ :だって、僕の言うこと聞かないし、そもそも僕に内緒で楽しそうなことするのはダメだよ。

夕姫   :従わないなら、殺すと?

ミーシャ :仕方ないよね?

夕姫   :そうですね。世界とはそういうものです。

ミーシャ :でしょ?弱っちいなら支配されなきゃ。

夕姫   :そして、それから外れたら排除される。

ミーシャ :うん、そうだよ。それが、この街の仕組み。

夕姫   :わかりました。ならば、私はそれに従いましょう。

ミーシャ :そうこなくっちゃ!じゃあ、続きだよ?

夕姫   :ええ、全力でお相手しましょう。

ミーシャ :行け、ブラッドエッジ!

夕姫   :出でよ!風の刃!ウインドスラッシュ!

ミーシャ :あはっ!相打ち!

夕姫   :喜ぶには早いです!アシッドレイ!

ミーシャ :ミラーウォール!全部返すよ!

夕姫   :黒鳥、飛行形態!

ミーシャ :すっごーい!そのマント、飛べるんだ!

夕姫   :其は怨嗟(えんさ)の壱。妬みの炎は地を這い、食らう!

ミーシャ :黒魔術も使えるんだ!さっすが!じゃあ、僕は!

夕姫   :グリードストーク!

ミーシャ :ホワイト・アフェクション!

夕姫   :くっ・・・相打ち・・・

ミーシャ :まだまだ足りないなー♪もっと遊ぼう!

夕姫   :流石、四名家(よんめいけ)に名を連ねるだけありますね。

ミーシャ :あれ?降参?

夕姫   :イチかバチかです。・・・黒鳥、最終かいほ・・・ぐっ!?

ミーシャ :ん?なになに?

夕姫   :ぐっ!あっ・・・がぁぁぁっっ!?

ミーシャ :・・・あれ?お姉さん?

夕姫   :こんな・・・時にっ・・・くっ・・・ふぐっ!?あッ・・・!

ミーシャ :ふぅん・・?もしかして、リバウンド?

夕姫   :っ!?なぜ・・・それを・・・っ!?

ミーシャ :知ってるよ。人間が、扱えないレベルの礼装を使ったときに起こる現象でしょ?
      体内魔力が一気にぜーんぶ礼装に吸い取られて、苦しくなるってやつ。

夕姫   :はっ・・・はっ・・・はっ・・・ひっ・・・ぐっ・・・あぁっ!

ミーシャ :それ、止めたら?そんなんだと、死んじゃうよ?

夕姫   :・・・ここで、死んでも・・・貴方を・・・殺す・・・

ミーシャ :ふぅ・・・仕方ないなぁ。礼装発動権限。強制介入。

夕姫   :なっ!?なにを

ミーシャ :止めるんだよ?その礼装。大丈夫、一気に全部は切らないから。

夕姫   :そんな・・・ことっ、できる・・・訳がっ!

ミーシャ :魔術バイパス3番から5番、段階切断。

夕姫   :そんな・・・、魔術リンクが・・・切られて・・・

ミーシャ :これでも僕、シモーヌ家のトップだよ?礼装のいじり方くらい知ってるから。

夕姫   :くっ!やめろ!それ以上はっ・・・

ミーシャ :お姉さん、死にたいの?

夕姫   :っ!?

ミーシャ :バイパス切らなきゃ死んじゃうんだよ?それなのに切るなって、死にたいとしか思えないんだけど?

夕姫   :や、やめっ!・・・私はッ!黒鳥とつながっていないとっ!死・・・(んでしまう)

ミーシャ :さ、最後の一本。これを切ったら・・・

ブランドン:飲み込め炎牙(えんが)!ファイヤーエッジ!

ミーシャ :おわっ!?・・・っとと、あぶないなぁ!

ブランドン:ミーシャ・・・テメェ、何してやがる。

ミーシャ :んー?お姉さんを助けてあげてただけだよ?

ブランドン:あ?思いっきり苦しんでたのにか?

ミーシャ :そうだよ?苦しんでたから、助けて・・・

ブランドン:行けマシュー!

マシュー :アイシクル・レイ!

ミーシャ :うわぁっ!?・・・まったく、次から次に。

ブランドン:ミーシャ。とりあえず、お前がなにしてたかはこの際どうでもいい。
      ・・・なに、ウチの人間に手ェ出してやがんだ?(威圧

ミーシャ :っ!・・・アハハッ!すごい魔力圧。・・・ヤル気なの?

ブランドン:ああ、そうだよ。悪い子にはお仕置きが必要だろう?

ミーシャ :あはは!お仕置きだって!いいよ?受けて立ってあげ・・・

マシュー :其は四方を塞ぐ反転の牢獄!四極封緘陣(しきょくふうかんじん)!

ミーシャ :なっ!?しまっ!結界!?

ブランドン:言ったろ、ミーシャ。お仕置きだって。誰も真っ当から戦うつもりはねぇんだよ。

ミーシャ :ははっ!じゃあすぐにこの結界壊して・・・

ブランドン:立ち上げるは炎の柱!

ミーシャ :がぁぁぁっ!?

ブランドン:壊す隙は作らせねぇ。そこで燃えてろ。

ミーシャ :あ・・・あぐっ・・・。アハッ!この程度で燃えおちる訳・・・

ブランドン:次だ。

ミーシャ :あああぁぁぁぁっ!

ブランドン:一回で終わるって言ってねぇぞ?

ミーシャ :は、ハハッ!本気なんだァ・・・ブランドン。

ブランドン:ああ、本気でブチ切れてるからな。・・・マシュー!

マシュー :は、はいっ!

ブランドン:結界の維持権限を俺に渡せ。

マシュー :え、でもそしたらブランドンさん・・・

ブランドン:このくらい持てる!それより、夕姫をセーフハウスに連れてけ!手当が必要だ!

マシュー :わ、わかりました!

ミーシャ :はーっ・・・はーっ・・・このっ・・・程度、まだまだ足りな・・・

ブランドン:へぇ?じゃあ、おかわりだ

ミーシャ :いぎゃあぁぁぁぁっ!

ブランドン:なぁに、殺しゃあしねぇ。なんせ、四名家様だ。殺したら俺が鎮(まもる)に殺される。

ミーシャ :が・・・あが・・・は、ハヒッ・・・ヒハハハハッ!

ブランドン:ふん、まだ笑えるのか。

ミーシャ :ハハッ!笑えるのかって?もちろん!楽しいよ!こんなに追い詰められたの久しぶりだから!

ブランドン:少しは、反省したか?クソガキ。

ミーシャ :ハンセイ・・・?アハッ!なんのこと?僕は!ボクは!したいようにやるだけだよ!

ブランドン:じゃあ、もう一回燃えおちろ!

ミーシャ :その結合は乱れ狂う。

ブランドン:ぐっ・・・!?なにっ!?結界が、安定しない!?

ミーシャ :乱れた結合は解(ほつ)れ、塵へと返る。(結界が崩れる)

ブランドン:ぐぅっ!・・・テメェ、何しやがった。

ミーシャ :なにって?結合をほどいただけだよ?結界の結合を。

ブランドン:そんなこと、どうやって・・・

ミーシャ :それは企業秘密。・・・あー、楽しかった。それで?まだやる?

ブランドン:ぐっ・・・

ミーシャ :僕は良いよ?やり合っても。ブランドンとなら楽しめそうだし。
      けど、できないよね?

ブランドン:・・・・・。

ミーシャ :だんまり?ま、いいけど。
      とりあえず、今からお互いに本気でやったら、鎮さんが出てきて問題が大きくなる。

ブランドン:わかってんじゃねぇか。俺が、こうなった瞬間、お前に手が出せなくなったってことを。

ミーシャ :うん。こう見えて僕、頭いいから。

ブランドン:不気味なガキだ。

ミーシャ :ブランドンより、年上だけどね?
      そういうわけだから、これで帰るね?楽しかったよ。

ブランドン:覚えてろ。次にウチの人間に手を出したら本気でやる。

ミーシャ :わかった。じゃあ、こっちからも忠告。
      ちゃんと見張ってないとダメだよ?
      さもないと悪いカラスさんは焼き鳥にされちゃうから。じゃね。(ミーシャ消える

ブランドン:・・・はぁっ!はぁっ・・・はぁーっ!
      なんだよ、あのプレッシャー。不気味ってレベルじゃねぇ。
      俺が圧されるなんて、あってたまるか!このやろう!
      ・・・・とりあえず、帰るか。夕姫のことも気になるしな。

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  (セーフハウス。ベッドに横になっている夕姫。むすっとした表情で、夕姫に取り付けた機器を見ながら数値を確認していくマシュー。)

マシュー :バイタル数値・・・安定。魔力回路・・・正常。

夕姫   :あ、あの・・・マシューさん・・・

マシュー :黙って。・・・魔力循環に異常なし、礼装とのバイパス正常。血中魔力値も正常。
      ・・・うん、大丈夫かな。起き上がってみて。

夕姫   :・・はい・・・。

マシュー :指先と足先動く?あと、関節に痛みは?

夕姫   :あ、えと・・・無い・・・です。

マシュー :筋肉のけいれんとか、つっぱり感は?

夕姫   :ないです。・・・あの、マシューさん。私なら大丈夫・・・

マシュー :勝手に決めつけない!目の霞みや頭痛、あと吐き気は?

夕姫   :ないです。異常はなにも。

マシュー :ふー・・・。なら、一応は安心かな。とりあえず、明日、本部で正式な検査を受けて。

夕姫   :はい。そう・・します。

マシュー :・・・・。

夕姫   :・・・・。

マシュー :ねぇ、狩屋さん。

夕姫   :はい。

マシュー :今、僕がどういう感情を抱いているかわかる?

夕姫   :おこって・・・ます。

マシュー :正解。じゃあ、その理由はわかる?

夕姫   :・・・私が、独自行動をしたから。

マシュー :違う。

夕姫   :マシューさんや、ブランドンさんの命令を待たなかったから。

マシュー :違う。

夕姫   :四名家の一人と戦闘をしたから。

マシュー :それも違う。全部違う。他には?

夕姫   :・・・マシューさんの、障害になる魔族を殺して回っていたから・・・

マシュー :・・・違う。いや、違うわけじゃないけど、今それはどうだっていい。

夕姫   :・・・わかりません。

マシュー :はぁ・・・。なんで、怒っているか教えてあげる。
      なんで、あんな無茶をしたの。

夕姫   :それは・・・。

マシュー :大体は予測がつくけどね。
      大方、いろんな魔族を暗殺して回ってる最中に、ミーシャさんに目を付けられて。
      それで、ちょっかいをかけられたんでしょう。

夕姫   :・・・否定しません。

マシュー :まぁ、ミーシャさんのことだから、むこうはお遊び半分だったんだろうけどね。
      それにまんまとハマって、勝手に突っ走って、ボロボロになりかけたわけだ。

夕姫   :・・・否定しません。

マシュー :そう。なにか言い訳がある?

夕姫   :私は、飼い主であるマシューさんを守ろうとしただけです。
      命令を待たなかったのも、危険が迫っていたためで、その排除が私の使命。

マシュー :それで?

夕姫   :飼い主を守るためには、命を投げ捨ててでも、闘うのが私の在り方です。兵器として生まれた私の。

マシュー :たとえ、それで死んでもいいって?

夕姫   :はい。私は使い捨ての道具です。飼い主を守れるならそれで。

ブランドン:ふぃーつっかれたー。今帰った・・・

マシュー :(夕姫をはたく)いい加減にしろ!

夕姫   :っ!・・・えっ・・・?

マシュー :飼い主を守れたら死んでもいい?自分は使い捨て?バカを言うなよ!
      狩屋さんは道具なんかじゃない!ちゃんと生きてる人間だ!

ブランドン:な・・なぁ、マシュー。なにが・・・

マシュー :黙っててください!・・・狩屋さんの過去に何があったかなんて僕は知らない!
      知りたくもない!確かにつらいことが沢山あったのはわかるけど、だからって僕がそれに付き合うつもりはない!

夕姫   :・・・はい。

マシュー :かわいそうって思うよ。だけど、それで狩屋さんが救われるわけじゃないから何も言わない。
      昔のつらいことを聞くだけなら、何度だって話に付き合ってあげるさ!
      けど、だからって、僕は狩屋さんの望む「飼い主」なんてものに、なるつもりはない!

ブランドン:おい、マシュー。そこらへんに・・・

マシュー :言わせてください!狩屋さん。いい加減、悪い過去にしがみついて、自分を殺すのをやめてよ。
      その過去に振り回された結果、今日どうなったの!
      狩屋さんは殺されかけて、僕とブランドンさんは、街中を走り回って、ミーシャ・シモーヌとやり合うことになった!

夕姫   :・・・すべて、私の責任です。

マシュー :そうだよ!自分が危険になるだけじゃなく、僕やブランドンさんまで危険に巻き込んだんだ!

夕姫   :・・・わかりました。マシューさん。

マシュー :なにが、わかったの。

夕姫   :どうぞ、私を断罪してください。皆様を危険にさらしたのです。今ここで、私を廃棄して・・・

マシュー :なんにもわかってない!さっき言ったことまるで分ってないじゃないか!

ブランドン:おい、マシュー!落ち着けって!怒ってるのはわかるが話が迷走してんぞ!

マシュー :ふー・・・ふー・・・。すみません。とりみだしました。

ブランドン:お、おう。ったく、驚かせんなよ。何事かと思っただろうが。

マシュー :おかえりなさい。ブランドンさん。その後の処理は?

ブランドン:ミーシャには逃げられた。けど、お互いに大事にはしない感じでオチた。と思う。

マシュー :わかりました。・・・狩屋さん。

夕姫   :はい。マシューさん。

マシュー :さっき、いろいろ言ったけど。僕が怒った理由は、ただ一つなんだよ。
      狩屋さん。君を心配したから。

夕姫   :しん・・・ぱい・・・。

マシュー :狩屋さんが何と言おうと僕たちは仲間だ。その仲間が自分の知らない所で、死ぬとか、危険な目にあうなんて、嫌なんだ。
      だから・・・。

ブランドン:勝手に一人で突っ走んなってことだ。一人はみんなのため、みんなは一人のために動かにゃならん。
      誰かが欠けても問題ないっていうチームなんざ、チームじゃねぇ。

マシュー :僕たちは三人でチームだ。狩屋さんが欠けても、ブランドンさんが欠けても、僕が欠けても駄目なんだ。
      だから、一人で全部なんとかしようとか、思わないでよ。

夕姫   :でも、私は・・・

ブランドン:わりぃ、道具だなんだについて言うんなら俺からも言わせてくれ。
      そりゃあ、屑どもの言い訳だ。お前が引きずる必要はねぇ。

夕姫   :言い訳・・・。

ブランドン:夕姫。それはお前に人体実験したクソ研究者共の情けねぇ言い訳だ。
      「自分たちは人を実験につかってない。ただの道具をいじってるだけだ」っていうな。

マシュー :そうでもしなければ、自分の罪から目を逸らせない、情けない研究者の言い訳。
      そんなものに、狩屋さんが付き合う必要はないんだよ。

夕姫   :でも・・・でも!それがこの世界だって・・・!
      人を踏みつけないと、人は生きていけないって・・・そうしないと・・・

マシュー :そんなのは、出まかせの世界だよ。人それぞれに世界はある。
      人が人を犠牲にしていく暗いだけの世界なんてありはしないんだよ

ブランドン:俺も、マシューも。お前にゃ負けるだろうが、それなりに辛い目に遭ってここまで生きてきた。
      けど、そんなクソッたれな世界にも愉快になれる時はある。俺だったら風呂上りのビールとか、腹減った後の食事とか。
      ・・・なぁ、夕姫。いい加減わかれ。この世の中、テメェの居場所はごまんとあるんだ。

マシュー :一緒に笑おう。狩屋さん。そうなれるためにも。自分を血で濡らし続けるのはやめよう?
      僕らがそばにいるから。一緒に、協力していこう?

夕姫   :・・・いいんでしょうか。私が・・・。

ブランドン:いいんだよ。・・・夕姫。オメェは少しくらい傲慢になれ。少しくらい大胆に自己主張してみな。
      「神様みてやがるか!私はここにいるぞ!」ってな。

マシュー :少しずつでいいから。一緒に笑おう。僕たちと。

夕姫   :・・・努力、します。

ブランドン:よし!んじゃ、これで一件落着ってことにしようや!あーつかれた。

マシュー :おつかれさまでした。ブランドンさん。

ブランドン:まったくだ。腹が減ってしかたねぇ。

夕姫   :あの・・・ごめんなさい。

ブランドン:あ?ああ、いいってことよ。コイツで慣れた。

マシュー :僕ですか!?何かしましたっけ!?

ブランドン:忘れたとは言わせねぇからな。お前がここに来た当初・・・

マシュー :あぁぁ!それを持ち出すのはなしですって!

ブランドン:夕姫、今度聞かせてやるよ。コイツの情けねぇ話。ごまんとあるぞー

マシュー :ダメですって!だから、そういうのはパワハラって言って・・・

夕姫   :・・・アハハッ

マシュー :え?

ブランドン:お?

夕姫   :・・・はい?

マシュー :今、狩屋さん笑ったよね?

ブランドン:俺も聞いたぞ?

夕姫   :えっ、私・・・。

ブランドン:おい、マシュー!ビールもってこい!酒盛りだ!

マシュー :わかりました!

夕姫   :えっ、ちょっと。なにが・・・

ブランドン:いやー!今日はよく寝られるぞー

マシュー :ですね!記念日です。

夕姫   :えっ・・・えっ・・・?

=============================

ミーシャ :ふふーん。楽しそうだね。でも、いつまでそれが続くかなぁ?
      彼女の抱える闇の根っこ。案外深いんだよ?
      ま、僕は遠目でゆーっくり見させてもらうね。この喜劇を。

=============================

ブランドン:次回予告
      戦艦の名を冠する魔術師たち。

マシュー:彼らは集い、帆を掲げる。

夕姫  :Night/Knight 第31話 第三艦隊

ミーシャ:出航の汽笛。それは高らかに。



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