Night/Knight 第32話 妹様、襲来

ネリー・アヴィラ:純血吸血鬼であり、吸血鬼界の名家『アヴィラ家』の次女。見た目18歳くらいの少女だが、実年齢は200オーバー。
         根っからのお嬢様であり、口調もお嬢様。姉大好きでシスコン気味。
         少々根の性格はいい方だが、いたずら心が強く、すこし対人に難あり。

マルリス・アヴィラ:純血吸血鬼であり、吸血鬼界の名家『アヴィラ家』の子女。見た目18歳くらいの少女だが、実年齢は200オーバー。
          生粋のお嬢様であり、口調もお嬢様。しかし、怒ると地が出てしまい荒い口調になる。

ネリー:
マルリス:
(家人については、マルリスと被り、もしくは、読まずに会話をしている体でネリーが会話してください。)

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ネリー :邪魔をするわ。御姉様はいる?

家人  :ね、ネリー様!?どうしてここに!?

ネリー :御姉様が怪我をなさったと聞いたので飛んでまいりましたの。
     ・・・あぁ、御姉様。御労しい・・・。

家人  :そうだったのですか・・・、ありがとうございま・・・

ネリー :全くどういうことですの!?あなた達という者が居ながら!
     私の御姉様が傷ついているのに何をのんびりと過ごしているのです!

家人  :は、はい。面目次第もございません。

ネリー :恥じ入る暇があったら、御姉様を完治させて見せなさい!

家人  :それなのですが・・・。現状、我々では手の打ちようがなく・・・。

ネリー :手の打ちようがない?

家人  :はい。治癒専門の者に見せたところ、ここまでの損傷では、お嬢様の自己治癒力に頼るしかなく・・・。

ネリー :全く、無能にも程がありますわね。

家人  :・・・ですので、今は・・・我々にはどうしようも・・・。

ネリー :フン、仕方ないですわね。無能たちの手助けをするのは癪ですが。
     御姉様が苦しんでおられるのは私にとって耐えがたいことですし?
     私が一肌脱ぎましょう。

家人  :ネリー様?一体何を?

ネリー :これから私は、御姉様の精神に干渉します。

家人  :精神に干渉って・・・そんなことができるのですか!?

ネリー :できるから言っているのです。全く、頭の足りない者の相手は疲れますわねぇ。
     ということで、貴方はすこし席を外しなさい。

家人  :ですが・・・

ネリー :いいから出てゆきなさい!これは命令ですわ!

家人  :は、はい。では、失礼いたします。

ネリー :・・・はぁ・・・。御姉様・・・。御労しい姿の御姉様。
     けれど、そんな姿も美しいですわ・・・。
  
   (横たわるマルリスの肌に触れ、撫でるネリー)

ネリー :それでは、御姉様。すこし、恥ずかしいかもしれませんが、『心の中』見せてもらいますわね?


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マルリス:ん・・・ここは?

ネリー :御姉様ー?どこですのぉー?

マルリス:この声・・・。

ネリー :あっ!御姉様!やっと見つけましたわーっ!

  (マルリスに抱き着くネリー)

マルリス:ネリー!?ど、どうしてここに!?

ネリー :御姉様が愛しすぎて来てしまいました!

マルリス:来てしまったって・・・貴女、本家はどうしたの!?

ネリー :お暇(いとま)を取ってきたので大丈夫ですわ!

マルリス:暇(いとま)って、貴女は次期当主として活動中の身でしょう!?
     そう簡単に休める訳・・・。あ、もしかして。

ネリー :はぁ・・・御姉様御姉様御姉様・・・。

マルリス:テメェ・・・勝手に飛び出てきたんだろ!

ネリー :もう、御姉様ったら口が悪いのですから。
     乱暴な言い方はダメですわよ?

マルリス:うるせぇよ!アンタは少しは人の話を・・・

ネリー :ダ・メ。ですわよ?

マルリス:ぐっ・・・。はぁ・・・もう、わかった。解りましたわ!これでいいんでしょう?

ネリー :そう、そのとおり。あぁ、愛しの御姉様・・・。

マルリス:その、隙あらばくっ付いてくるのやめなさいって。

ネリー :いいじゃないですの。今、ここには御姉様と私の二人きりなんですし。

マルリス:っ!そうよ!ネリー!ここはいったいどこなの!?私は、いったい・・・。

ネリー :あら?御姉様、おぼえてないんですの?

マルリス:覚えてないって、なにを。

ネリー :御姉様。マンハントの祭りの日に殺されかけたんですわよ?魔術師に。

マルリス:マンハント・・・あっ!そう!それであの魔術師は!

ネリー :落ち着いてくださいまし。順序立てて説明しますから。そうやって喚かないでくださいまし。

マルリス:あ、えぇ。そうね。

ネリー :まず、マンハントの件ですが。あの後は特に何事もなく行われました。
     魔術師は逃げた様ですが、「夜の王」が何とかしたそうです。

マルリス:・・・鎮(まもる)様が?

ネリー :ええ。今、四名家(よんめいけ)が全力で捜査してるそうですわ。

マルリス:そう・・・そうなのね。

ネリー :はぁ~。全く、「夜の王」が絡むと急に乙女の顔になるのですから。御姉様ったら。

マルリス:なっ!?お、乙女の顔って・・・

ネリー :隠さなくっても解ります。というより、昔からぞっこんでしたものね。「夜の王」に。

マルリス:・・・うるさいっ。

ネリー :全く、あの偏屈無表情のどこがいいのです?冷淡が服を着た様なものですのに。

マルリス:鎮様はそんな冷淡じゃ・・・

ネリー :冷淡ですわよ。なんせ、許嫁だった御姉様をあっという間に振ったんですから。

マルリス:あ、あれは鎮様のご両親が亡くなって。

ネリー :破談ってことにしたのはあの人でしょう?こちらは別にそのつもりはなかったというのに。

マルリス:きっと、なにか考えがあって。

ネリー :御姉様・・・。心惹かれる殿方をお慕いするのはわかります。
     ですが、どれもこれも受け入れるものではないのですよ?
     恋というものは、『駆け引き』なのですから。

マルリス:うぅ・・・。

ネリー :恋は盲目とはよく言ったものですわ。おかげで、御姉様は跡目争いを脱落する羽目になったのですから。

マルリス:そうよ、ネリー。貴女、本家は・・・

ネリー :ご心配なく。アヴィラ家は名実ともに、私が継ぐことになりましたから。

マルリス:あ・・・そう。

ネリー :長男であるアルフレッドが先日、大ポカをやらかして、御父様の大目玉を食らいましたの。

マルリス:大ポカ?     

ネリー :御父様の領地の半分。隣街の領主に持っていかれかけたのです。まったく、バカでしょう?
     その時、御父様がおっしゃったのです。「今日、この時を持ってネリーが次期当主となる」と。

マルリス:そう、よかったわね。おめでとう。

ネリー :ちっともうれしくないですわ。御姉様をこんな辺境に追いやった家を継ぐなんて。

マルリス:いや、私の事は。

ネリー :わかっています。自分で選んだんだということは。
     ヘブリニッジという街へ出奔(しゅっぽん)するように来て、今や四名家と呼ばれるまでに大きくしたのですから。
     私が言いたいのは、そんな実績を上げながら、少したりとも評価しない御父様が許せないということですわ。

マルリス:御父様は・・・私を嫌っているから。

ネリー :単なる八つ当たりにも等しいですわ。言うことを聞かないから放逐(ほうちく)するなど。

マルリス:でも、家訓に従わなかったのは私で・・・。

ネリー :「アヴィラたるもの、冷淡にあれ。無慈悲であれ」・・・古びた家訓ですわ。

マルリス:冷淡になれない私は、出来損ないなんでしょう。

ネリー :冷淡であることがすべてではありませんわ。
     これはあくまで、「法治者として、正しくあれ。一方に加担するな」という意味ですわ。

マルリス:でも、御父様はそう思っていない。

ネリー :それは・・・。そうですけれど。

マルリス:いい。私は、出来損ないだけれど、こっちではうまくやれてる。だから・・・ネリー。

ネリー :・・・なんでしょう?

マルリス:アヴィラをお願いね。

ネリー :・・・御姉様っ!

  (涙ぐみ、マルリスに抱き着くネリー)

マルリス:ちょっ!?ネリー。どうしたの。

ネリー :御姉様。きっと私が、御姉様をアヴィラに戻して差し上げますわ。

マルリス:・・・うん。ありがと。・・・ところで、ネリー。

ネリー :・・・はい。なんでしょう?

マルリス:ここ、どこだかまだ聞いてないんだけど。

ネリー :・・・あぁ。

マルリス:・・・忘れてたみたいな反応しないでもらえるかしら?

ネリー :いえ、忘れていた訳ではありませんわ。ただ、気づいてなかったのですね?

マルリス:気づいてない・・・?

ネリー :御姉様?上をご覧になってください。

マルリス:・・・海?

ネリー :その通りです。頭上に広がるのは、一面真っ青な海。では、今度は下を。

マルリス:・・・荒れた野原。

ネリー :ええ、残り火くすぶる、荒れ果てた大地。・・・こんな場所、この世にあります?

マルリス:ないわね。

ネリー :ですね。ということはここは、「この世の存在じゃない」のです。

マルリス:まさか貴女は、「私は生死を彷徨う亡者」とでも言いたいの?

ネリー :違いますわ。ここは、御姉様の精神世界です。

マルリス:精神世界・・・?

ネリー :私の力で、御姉様の精神世界に入らせていただきました。
     御姉様を起こすために。

マルリス:私を・・・起こす。

ネリー :現実世界の御姉様は、現在、意識不明です。魔術師によって四肢をもがれた衝撃によって精神が死んだ状態であると。

マルリス:四肢を・・・あ・・・あぁっ・・・!

ネリー :思い出しましたか?

マルリス:わた・・・私・・・!そうよ!あのとき!あいつが・・・っ!

ネリー :落ち着いて。御姉様。ここには誰も居ません。私と、御姉様。二人きり。

マルリス:殺される・・・あいつに・・・また・・・!

ネリー :大丈夫です。殺されませんわ。

マルリス:そんな簡単に言わないで!あの怖さも知らない癖にッ!

ネリー :ええ、わかりません。ですが。

マルリス:あっ・・・

ネリー :こうやって抱きしめて差し上げることはできます。

マルリス:ネリー・・・。

ネリー :怖かったですわね。大丈夫ですわ。御姉様。

マルリス:・・・こわい

ネリー :ねぇ。御姉様。どうして、負けたかお分かりになります?

マルリス:私が・・・負けた理由?

ネリー :御姉様はお強い人。それは誰しもがわかっておりますわ。
     私や、御姉様の部下たち。そして、あの朴念仁な「夜の王」だって。
     けれど、そんな御姉様が大敗を喫した。それはなぜでしょう。

マルリス:それは、私が・・・弱かったから・・・。

ネリー :いいえ、違います。御姉様。弱かったからじゃありませんわ。
     ・・・なぜ、本当の力をお隠しになっているのです?

マルリス:っ!?ネリー!貴方知って・・・!?

ネリー :ええ、知っていました。というより、頭首になるにあたり、御父様から教えられたのですけれど。
     『二重根源』魔族の中でさえも、数少ない存在。それが御姉様。

マルリス:自嘲気味に)・・・そうよ。・・・あーあ、知られちゃってたのね。隠しておきたかったのに。

ネリー :なぜです?私は誇らしいですわ。

マルリス:理由は単純よ。「『二重根源』は『悪魔の力』」そう思われているからよ。

ネリー :悪魔の力・・・?聞いたことありませんけど・・・。

マルリス:本来、「根源」とは何を指すの?

ネリー :『この世の生き物すべてが持った、存在そのものの本質』ですわね。

マルリス:そう、『根源』とは『本質』。つまり生命につき「1つ」の根源であるべきはずなの。
     でも、私にはそれが二つある。

ネリー :つまりは、どういうことですの?

マルリス:結論から言えば、「私はどういう存在になるかが掴めない」ということよ。

ネリー :どういう存在?

マルリス:生まれた時から変えようのない『本質』。それがわかるということは、「この人はどんな人か」がわかるということ。
     けれど、「二重」「三重」と根源が重なるとどう?

ネリー :その、どれにもなり得る・・・と?

マルリス:そう。私の「根源」は『激情』と『冷酷』。激情家にも冷酷な残虐家にもなり得るってことよ。

ネリー :でも、御姉様はそんな人では・・・!

マルリス:それは貴方だからよ。ネリー。でも、人はすべて貴方みたいに優しくない。・・・御父様もね。

ネリー :まさか・・・御父様が御姉様を呼び戻さない理由って・・・。

マルリス:そう、私が『生まれつき出来損ない』だから。二重に根源を持っているから。

ネリー :そんな!そんなのって・・・あんまりですわ。

マルリス:けれど、これが現実よ。だから、私はこの力を使いたくない。

ネリー :御姉様・・・。

マルリス:せめて、激情家で居たい。ただの『怒り』なら、他人に対して残虐にはならないから。
     ・・・けれど。

ネリー :・・・けれど、もうそのこだわりは、お捨てになった方が・・・。

マルリス:やっぱり、そう思う?貴方も。

  (悲しげなマルリスの表情に息をのむネリー)

ネリー :っ・・・。ごめんなさい。

マルリス:怖いのよ。私自身が。二重である私自身が、自分の本質に怯えてるの。
     残虐な殺人鬼になる可能性に。

ネリー :・・・そんなことありませんわ。

マルリス: ネリー・・・?

ネリー :そんなこと、絶対にありませんわ!あったとしても、させませんわ!御姉様!
     
マルリス:え?

ネリー :御姉様は、どちらの根源に接続しようとも、御姉様です!
     絶対に、殺人鬼になんてなりませんわ!

マルリス:ネリー・・・。

ネリー :もし・・・もしそうなったとしても、この私が!御姉様の目を覚まして差し上げます!

マルリス:・・・ありがとう。やさしいね。ネリーは。

ネリー :ですから、御姉様。そんな悲しい顔をなさらないで。
     そして、帰ってきてくださいませ。ヘブリニッジへ。私たちのいる場所へ。

マルリス:ネリー。でも、私は・・・。

ネリー :今、ヘブリニッジのアヴィラ家は、燃え上がる一歩手前ですの。
     「夜の王」の介入で何とかなっていますが、それでも、いつ火を噴くか。

マルリス:それって。

ネリー :御姉様を殺しかけた魔術師に対しての、仇討ち。ですわ。

マルリス:仇討ちって・・・。私はまだ、死んでないのよ。

ネリー :それでも、死んだも同然なのですわ。
     アヴィラ家には御姉様という存在がそれだけ大きかったのです。

マルリス:あのバカたち・・・。

ネリー :ですから、御姉様。帰ってきてくださいませ。
     怖いのはわかります。魔術師も、御姉様の抱える根源についても。
     それでも、どうか。アヴィラのために、家族たちのために。帰ってきてくださいまし。

マルリス:まったく・・・世話の焼ける家族ね・・・。

ネリー :御姉様・・・。

マルリス:ごめんね。ネリー。わざわざこんなことまでさせて。

ネリー :いえ、そんなことはありませんわ。御姉様のためならば。このネリー、どんなことだって!

マルリス:頼もしい妹ね。・・・ねぇ。ネリー。

ネリー :はい。御姉様。

マルリス:愛しているわ。

ネリー :・・・はい!

マルリス:帰りましょうか。元の世界へ。

ネリー :はい!案内しますわ。御姉様。

マルリス:ええ。お願い。

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ネリー :次回予告
     双方の元へ、定期会談の知らせが届く

マルリス:Night/Knight 第33話 三種族会談
     天の使者が語るは、新たな諍(いさか)いの予兆。




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