Night/Knight 第38話 畏れる鴉

♂マシュー・フランクリン:22歳。聖十字協会の魔術師。爵位は無し。
              新米魔術師であり、ブランドンの部下としてヘブリニッジに派遣された。
              使用魔術は基礎的なものを幅広く扱い、威力も平均的。典型的な知性派であり、近接戦闘には向かない。
              優等生タイプで、頭もよく回るが、ルールに縛られやすく、柔軟に対応できない面を持つ。

♀狩屋 夕姫(かりや ゆうき):21歳。元封滅騎士団特務攻撃隊。戦争孤児であり、魔術研究結社『ヴィクティム』に拾われた後、魔術師に。
                 戦闘は目に刻まれた魔術紋を使った「黒鳥召喚術」と強化された肉体での超接近戦。
                 寡黙な口調。性格は常に冷静であり淡泊。自分がどうなろうと気にしない自己破滅思考を持つ。

♂夜巳 鎮(やみ まもる):純血の吸血鬼。見た目17歳くらいだが、実年齢は200オーバー。
             感情の起伏が浅く、眉間に皺が寄っているため常に怒っているように思われる。
             達観とも諦観ともとれる思考をしており、物事に対して醒めている。

♀マリアン・グロリア・シサリーザ:20代後半から30代。聖十字協会所属の魔術師。伯爵の爵位を持つ。
                聖十字協会の幹部であり、普段の仕事はもっぱらのデスクワークである。
                ブランドンの直属の上司。若くして聖十字協会の幹部となっただけあり、頭の回る策師。
                普段は飄々としているが、締める時には締める抜け目ない人物。
                結界術に長け、護身術式である結界術であっても中位魔族相手に苦戦しないほど。

♂マシュー:
♀夕姫:
♂鎮:
♀マリアン:

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マシュー  :極大・・・魔術・・・こんな・・・

夕姫    :じゃあネ。敵サン。

マシュー  :まずっ・・・

マリアン  :断界っ!

夕姫    :結界ッ!魔術師ィィィッ!

マリアン  :大丈夫か、マシュー!

マシュー  :シサリーザ卿!

マリアン  :どうにも妙な気配がして見に来たら・・・夕姫が暴走しているとは。

夕姫    :ダメ・・・ダメっ!コワいこワいっ!きえろぉぉぉっ!

マリアン  :やらせんよっ!断線結界!

夕姫    :壊れろぉぉっ!

マリアン  :ぐっ・・・!抜かれるか!

マシュー  :狩屋さん!ダメだ!そんな・・・

マリアン  :無駄だマシュー!下がってろ!
       四獣噛断!(しじゅうこうだん)

夕姫    :わタしをぉぉぉ!閉じ込めるノォぉぉ!?

マシュー  :シサリーザ卿!無理です!省略詠唱では

マリアン  :わかってる!其は北の玄武。断固たる鉄壁。

夕姫    :割れロ!割れロ!壊れろォぉッ!

マシュー  :後述追加詠唱・・・。

マリアン  :其は南の朱雀。高貴たる守護。其は東の青龍。厳格なる波濤(はとう)

鎮     :四神を祀(まつ)る結界か。

マシュー  :鎮さん!?

鎮     :これは、どういうことだ?マリアン。

マリアン  :説明できる状態に見えるか?

鎮     :だろうな。止めればいいのか?

マシュー  :止められるんですか!?

鎮     :殺すしかないがな

マシュー  :それはダメです!

マリアン  :其は西の白虎。絶対たる支配者!四帝(してい)の間にてその悪を封ず!

夕姫    :がぁぁっ!出セェッ!出セヨぉぉッ!

鎮     :さぁ、いつまで持つ?マリアン。

マリアン  :さぁな・・・だが、持たせてみせるっ!
 
夕姫    :オーバーフロー・・・回路全開っ!

鎮     :ほう?まだ魔力量が上がるか。

マリアン  :ぐっ・・・四獣噛断でも抑えきれないかっ!

鎮     :そろそろ解いたらどうだ?これ以上続けるとお前に返るぞ?

マリアン  :わかってるっ!だが・・・だがっ!私の部下を殺させはしないッ!

マシュー  :シサリーザ卿・・・。

鎮     :まぁ、どうなろうと俺は知らんがな。この結界が壊れた瞬間に行動に移させてもらうだけだ。

マシュー  :なにか・・・なにか手立ては・・・

夕姫    :壊れ・・ナイ?ならぁっ!

マリアン  :ぐっ・・・!?魔力切れを狙えないかっ!?

マシュー  :っ!そうか!鎮さん!

鎮     :なんだ。マシュー。

マシュー  :1つ手がありました!なにも言わずに協力してくれませんか!?

鎮     :それに乗るかは提案次第だ。

マシュー  :僕の狙いが正しければ、双方に損害はでません!

マリアン  :ちっ・・・、そこで相談はいいが・・・そろそろ持たんぞ!

鎮     :・・・フン。お前の守りたいものはこれか。

マシュー  :え?

鎮     :乗ってやる。何すればいい。

マシュー  :上空で攻撃をひきつけてください!回避するだけでいいです!

鎮     :撃ち落とすかもしれんぞ?

マシュー  :信頼してます!

マリアン  :マシュー・・・なにをするつもりだ・・・!

マシュー  :魔術礼装を無理やり解析して、強制終了させます!

マリアン  :強制終了って・・・そんなこと・・・

マシュー  :一度見たんでできます!

マリアン  :見たって・・・そんな・・・

鎮     :マリアン。気を散らし過ぎたな。

マリアン  :なっ!

夕姫    :ハァァァッ!吸血鬼もいる・・・殺スゥぅぅ!

鎮     :フン、着いて来い。遊んでやる!

マシュー  :其れは術技の奏者!その名をもって在り方を暴け!マジック・ワイズマン!

マリアン  :なんだ、その魔術は・・・

マシュー  :ミーシャさんが使ってた礼装解析魔術を盗用しました!

マリアン  :オリジナルマジック・・・だと・・・?

マシュー  :なんだ・・・これ・・・

マリアン  :どうした

マシュー  :ありえない・・・ふざけてるとしか言いようがないですよ!

マリアン  :だから、なにが・・・っ!これは・・・

マシュー  :狩屋さんの魔力炉と回路の位置・・・全部・・・心臓に集まってます。

マリアン  :つまり、夕姫は生命エネルギーを変換してあれを・・・

マシュー  :そうなります。・・・こんなの、どうやって解除したら・・・

マリアン  :一本でも強制的に分断したら、夕姫は魔力炉の暴走を起こして死ぬぞ!?

マシュー  :わかってます!でも、こんなのどうやって・・・

鎮     :いつまで遊んで・・グッ!?

マシュー  :鎮さん!?

夕姫    :ちょこまか・・・うっとぉしぃっ!

鎮     :いい加減手を出していいな?そこで手をこまねく程度なら・・・

マシュー  :待ってください!すぐに・・・

鎮     :もう、待てん!カーネイジ・レイ!

夕姫    :ガアッ!

鎮     :チッ、吠えただけで魔術を消すか。ならば。来い、ブラッドエッジ!

夕姫    :潰すゥっ!

鎮     :近接戦を挑むまでっ!

夕姫    :がぁッ!うがぁっ!

鎮     :ふっ!せいっ!

夕姫    :黒鳥・・・魔弾生成!

鎮     :魔力弾・・・フン、舐めるなっ!

夕姫    :いけぇっ!

鎮     :フォース・ブラストっ!

夕姫    :まだまだ!増やしてあげるっ!

鎮     :だろうな、だからこうするっ!

夕姫    :なっ!?どこに・・・ハッ!そこっ!

鎮     :遅いんだよ。カース・フレアエッジ。堕ちろ、鴉。

夕姫    :ぐあっ!

マシュー  :まずい・・・まずいまずい!どうすれば・・・

マリアン  :そうか。魔力を使わせればいい・・・。マシュー!

マシュー  :はい!

マリアン  :切断が無理ならバイパスさせろ!夕姫の魔力を一時的に体表につないで、虚脱させるんだ!

マシュー  :そうか!それなら、駆動に必要な魔力量が確保できなくなって止まるかも・・・

マリアン  :できるか?

マシュー  :やってみます!
       三番から五番回路バイパス、七番、八番に接合、放出量調整

夕姫    :ぐ・・・アァァッ!?

鎮     :ふん、隙ができたな。では、死ね。行け、ブラッドエッジ

マリアン  :刺突結界!

鎮     :ぐうっ!?・・・マリアン、貴様。

マリアン  :すまないな。鎮。だが、私の部下をみすみす殺させはしない。

鎮     :・・・いいだろう。貴様がそのつもりならば、俺も久しぶりに本気でやるまで。

マリアン  :くっ・・・どうしても引かないのか

鎮     :当たり前だ。言ったはずだ、この街の利益を害するならすべてを滅すると。

マリアン  :だとしても、ここは譲らん!

夕姫    :何を・・・何ヲしたぁぁっ!アァァァッ!

マシュー  :よし、礼装に流れる魔力量が減ってる。この調子なら・・・

夕姫    :貴様かぁぁぁっ!

マシュー  :まずっ・・・!

マリアン  :これを使え!マシュー!

マシュー  :は、はいッ!保護よきたれ!エルハズ!

夕姫    :また、結界かァッ!!

マシュー  :すごい・・・単純なルーンなのに、出力が違う・・・

鎮     :バレット・レイン!

マリアン  :させんと言ったっ!断界っ!

鎮     :ちっ、流石は世界を絶つ『断界の魔女』といったところか。

マリアン  :その名で呼ばないでもらいたいね。

夕姫    :コワい・・・全部・・・壊さなキャ・・・

マシュー  :動きが止まってきてる・・・今ならッ!
       礼装術式再構成、魔力回路再配置。

夕姫    :私を・・・見ルなぁぁっ!!

マシュー  :礼装・・・再構成完了ッ!

夕姫    :あぁぁぁぁっ・・・。

マシュー  :あっ!狩屋さん!!(抱き留める

鎮     :フン。止まったか。賭けはマシューの勝ちか。

マリアン  :まだ、手を出すつもりか?鎮。

鎮     :・・・どうせ、お前が阻むんだろう?

マリアン  :当たり前だ。二人には手を出させん。

鎮     :さて、本当にできるのか?半分以上も魔力を使い果たしていても?

マリアン  :・・・やってみねばわからないだろう。

鎮     :虚勢はよせ。全力でぶつかってなんとかなるとでも思っているのか?

マリアン  :言ってくれるじゃないか。

マシュー  :狩屋さん。狩屋さん大丈夫?

夕姫    :・・・う、わ、私は・・・?

マシュー  :はぁ、よかった。意識が戻ったんだね。

夕姫    :マシュー・・・さん。私は一体・・・?

マシュー  :暴走してたんだ。大丈夫、被害は出てないから。

夕姫    :暴走・・・。私は・・・また・・・。

鎮     :マシュー。

マシュー  :はい。なんでしょ・・・

鎮     :はぁッ!(剣を喉元につきつける)

マシュー  :くっ!?・・・な、なにを・・・

鎮     :いつかの問答だ。マシュー。お前の、守りたいものはなんだ?

マシュー  :ぼ、僕の・・・守りたいもの・・・ですか?

マリアン  :やめろ!鎮!これ以上やるならこちらも相応の手段にでるぞ!

鎮     :できるならやってみろ。今のお前だったら、その「相応の手段」に出る前に貫くことは易いぞ?マリアン。

マリアン  :魔術の早撃ち勝負というわけか?いいからその武器を下ろせ、鎮。

鎮     :ああ、下ろすとも、コイツの返答次第でな。さぁ、答えは決まったか?お前の、守りたいものは、なんだ?

マシュー  :僕の、守りたいものは・・・この街やこの世界の安寧で・・・

鎮     :違うな。全くなっていない。お前は今、命を奪われかけているんだぞ?

マシュー  :それは・・・

鎮     :ヒントをやろう。脅迫されているときにやるべきことはたった2つ。
       1つは相手を納得させること、2つ目は相手に利益を与えることだ。さぁ、どうだ?

マシュー  :僕は・・・

マリアン  :マシュー!黙ってろ

鎮     :さぁ、アンサーを聞こう。

マシュー  :僕の・・・守りたいものは。自分のエゴです。

鎮     :ほう?エゴか。その意味は?

マシュー  :僕は、僕の身近なものを守りたいだけです。
       人も、物も、関係性も。

鎮     :故に、剣を取ると?

マシュー  :ええ、そうですよ。そのためには自分が傷つくのも厭わない。

鎮     :なるほど、30点だ。まだ、答えはあるか?

マシュー  :でも、それは・・・貴方も同じですよね?鎮さん。

マリアン  :マシュー!

鎮     :ほう?同じだと?俺と、お前が?

マシュー  :ええ、同じですよ。だって、こんな些事に他の者を差し向けるのではなく、鎮さん自身が来るんですから。

鎮     :その些事に対応できる者がいないからな。

マシュー  :本当に、そうでしょうか?今、この場には多くの使い魔が居ます。姿を出さないだけで我々をずっと見張ってる。
       アヴィラやターク、それ以外の様々な場所からも見られているでしょう。
       対応できるものは、ごまんといる。それなのに、第一に手をだしたのは貴方だ。鎮さん。

鎮     :・・・それで?

マシュー  :つまり、貴方はこの街を自分の手で操作したい。動くべき場所、収まるべき場所に誘導したい。それが貴方のやり方だ。
       それは、エゴと言っても過言でないのでは?

鎮     :フン・・・なるほど。・・・ん?

マシュー  :狩屋さん!動いちゃだめだよ!

夕姫    :マシューさんは・・・殺させ・・・ません。

鎮     :ほう?その疲弊した身体で俺をどうにかするとでも?

夕姫    :できない・・・でしょう。でも、それでも・・・盾くらいになら、なれる。

マシュー  :狩屋さん!?なにを・・・

夕姫    :私に・・・私に、生きていいと、言ってくれた人を・・・守りたい。
       そのためなら、私は・・・盾にでも、なんにでも・・・ぐうっ!

マシュー  :狩屋さん!!

鎮     :美しき主従関係・・・と言ったところか。
       マリアン。いい部下を持ったな。

マリアン  :警戒したまま)
       まったくだ、日々、慌ただしくてしかたがないね。
       鎮、もういいだろう。武器を、下ろせ。

鎮     :ああ、今回の所はここらで勘弁してやろう。それなりに楽しめたからな。

マリアン  :人をおもちゃにするのはやめてもらおうか。

鎮     :フン、それはそちらにもいえることじゃあないのか?

マリアン  :・・・ともかく。今回の事はこれで、手打ちでいいな?

鎮     :ああ、あと、この市場の修繕にかかる費用の半分は持ってもらうぞ。

マリアン  :わかってる。本来なら、相手側にも請求したいがな。

鎮     :ではな、マシュー。それに、狩屋 夕姫。

マシュー  :・・・はい。失礼、します。

鎮     :ああ、そうだ、最後に1つだけ。
       今後、夕姫の手綱はしっかり握っておけ?
       調子に乗った阿呆どもがちょっかいをかけてくるだろうからな。

マシュー  :あ、はい。

鎮     :ではな。ようこそ、狩屋 夕姫。ヘブリニッジ魔族特区へ。

マリアン  :・・・全く、キザを気取っているのか。アイツは。

夕姫    :ぐっ・・・ごめんなさい・・・マシューさん。また、迷惑を・・・

マシュー  :いいって、大丈夫。今は休んで。

夕姫    :はい。ありがとう・・・ございます・・・。

マリアン  :マシュー。

マシュー  :はい、なんでしょ・・・

マリアン  :マシューの頬をはたく)馬鹿かお前は!鎮に対して危険な橋を渡り過ぎだ

マシュー  :はい・・・すみません。

マリアン  :今回は鎮が変な気を起こして剣を引いたからいいものの・・・

マシュー  :アハハ、本当ですね。

マリアン  :他人事で済ますな馬鹿もん!

マシュー  :あ・・・はい。

マリアン  :全く。・・・とりあえず支部まで戻るぞ。夕姫のバイタルを見ないとな。

マシュー  :はい。わかりました。

マリアン  :じゃあ、帰ろう。

マシュー  :はい。

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夕姫    :・・・ありがとうございました。失礼します。

マシュー  :狩屋さん。検査終わった?

夕姫    :あ、マシューさん。はい。ちょうど今。

マシュー  :そっか、じゃあちょっと今、時間いい?

夕姫    :はい。どこへ・・・?

マシュー  :シサリーザ卿の所。ちょっと伝えたいことがあって。

夕姫    :・・・はい。わかりました。

マシュー  :じゃあ、行こう。

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マリアン  :来たな。二人とも。

マシュー  :失礼します。

夕姫    :失礼・・・します。

マリアン  :掛けたまえ。さて、検査結果はどうだった?夕姫。

夕姫    :特に異常は。急激な魔力不足になった欠乏症状と。

マリアン  :だろうな。我々が無理やりそうした。

マシュー  :暴走を止める為とはいえ・・・ごめんね。

夕姫    :いえ、正しい判断だと思います。・・・すみません。

マリアン  :謝る必要はないさ。さて、私が伝えたいことはそのことじゃあなくてな。

マシュー  :狩屋さん。これを見てくれる?

夕姫    :何でしょう?これは・・・魔力回路図ですか?

マシュー  :正解。今、見てもらってるのは通常の魔術師の魔力回路ね。

マリアン  :この通り、通常は頭の先からつま先に至るまで、魔力回路が走っている。
       まぁ、魔術師ならば知っていて当たり前の話だろうがな。

夕姫    :はい。・・・でも、この話をするということは、私に関係あるんですよね?

マシュー  :・・・うん。今度はこっちを見てほしい。

夕姫    :これは・・・

マリアン  :言わなくともわかるだろうが、これは君の魔力回路図だ、夕姫。
       おかしいところはわかるな?

夕姫    :はい・・・。

マシュー  :通常、全身を走っているはずの魔力回路が、心臓と右目の間にしか走ってないんだ。

マリアン  :これが、どういう意味か分かるか?

夕姫    :・・・なんとなくは。

マシュー  :残酷なことを言うようだけど。狩屋さん。このまま魔術を使い続けたら・・・

マリアン  :その右目に、命を奪われるということだ。

夕姫    :この目に・・・。

マシュー  :だからね。狩屋さん。提案なんだけど・・・

夕姫    :魔術師はやめません。

マシュー  ;けど、狩屋さん

夕姫    :私にはこの生き方しかできないんです!戦って、壊すことしか私は知らない!だからッ!

マリアン  :それ以外の方法を学ぶ時が来た。そう思ってみてはどうかね?

夕姫    :マリアン・・・さん

マリアン  :今はシサリーザ卿、だ。・・・夕姫。君は自ら望んで魔術師になった訳じゃない。
       そんな人間を無理やり戦いに巻き込むいわれはない。それに・・・

夕姫    :それでも!私は・・・!

マリアン  :では、こう言おう。夕姫。これ以上、命を無駄に使う必要はない。
       今すぐ剣を置きたまえ。

夕姫    :ッ・・・!(部屋を飛び出す)

マシュー  :狩屋さん!シサリーザ卿!いいすぎですよ!

マリアン  :事実を言ったまでだ。・・・ふぅ。

マシュー  :でも、あまりにも・・・!

マリアン  :ここから先は、夕姫が決めること。つまりここが、彼女が選ぶべき分水嶺(ぶんすいれい)というわけだ。

マシュー  :・・・狩屋さん。

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夕姫    :はぁッ・・・ハァっ・・・!・・・くっ!私は・・・戦うことしか・・・

鎮     :珍しいな。お前ひとりか。狩屋夕姫。

夕姫    :ッ!?

鎮     :そう警戒するな。お前を殺すために来たわけじゃあない。

夕姫    :では・・・なんの用でヘブリニッジの外に・・・?

鎮     :・・・散歩、とでも言っておくか。

夕姫    :嘘、なんでしょう?

鎮     :さぁ、どうだかな。シサリーザに告げ口でもするか?

夕姫    :・・・いいえ。私は今・・・。

鎮     :フン。何かあったということはわかる。全く、昨日の今日でせわしないな。お前たちは。

夕姫    :・・・わかった風に

鎮     :戦力外通告

夕姫    :っ!?

鎮     :当たりか。予想した通りだ。
       ・・・なぜわかったのか。と言いたげだな?

夕姫    :覗き見ていたんですか

鎮     :そんな下世話をするわけないだろう。
       単純な話だ。狩屋夕姫。お前の魔力は異常だ。

夕姫    :異常・・・?

鎮     :戦ってみてわかった。お前の力は、お前自身の力じゃないだろう。
       おそらく、後付けされた「何か」の力をお前が借りて使っているだけ。

夕姫    :・・・ええ。そうです。私の力は・・・『黒鳥(こくちょう)』

鎮     :その右目か。なるほど、使い魔を宿す瞳とはな。

夕姫    :この力で私は戦って来た、何人も殺してきた!私は戦うことしか知らない!
       なのに私は・・・戦ってはいけないなんて・・・

鎮     :一つ聞くが・・・お前はどうしたい?

夕姫    :私・・・

鎮     :どうせ、あの魔女の事だ。さながら命令のように退く道をお前に指し示したんだろうが・・・。
       その結論をだすのはお前自身だ。奴らではない。

夕姫    :・・・そう、なのでしょうか。

鎮     :人間とはそういうモノだ。自ら選び、自ら進み、勝ち取る。
       そう創られているからな。

夕姫    :・・・私は、命を削るとしても・・・戦いたい。

鎮     :ならば、その選択に胸を張るがいい。ヘブリニッジはそれすらも飲み込み、迎え入れるだろうさ。

夕姫    :夜の王・・・貴方は、何者です?

鎮     :フン、何者でもない。単なる街を構成するパーツの1つだ。
       お前と同じくな。

夕姫    :いいひと。なんですね。

鎮     :なに?

夕姫    :敵になるかもしれない人を助言するのは「いいひと」と教わりました。

鎮     :バカバカしい。ではな、夕姫。簡単に消えてくれるなよ。

夕姫    :・・・自分で決める・・・。うん。

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マリアン  :ああ、私だ。・・・うん?なんだ。・・・ああ、そのことか。
       必要だと思ったから伝えたまでだ。・・・口下手?なんのことかな?
       それで?そんなために私に連絡を取ってきたのか?
       ・・・全く、そうならそうと言いたまえ。・・・わかった。では、こちらも動くよ。

夕姫    :マリアンさん!

マリアン  :すまない。急用だ。また、連絡してくれ。じゃあ。
       どうした?そんなに息をきらせて。

夕姫    :すみません。ですが、どうしても・・・

マリアン  :さっきの件か?では、ヘブリニッジへの通行証とバッジを・・・

夕姫    :お返ししません。

マリアン  :なに?

夕姫    :私は、死ぬことを恐れません。それに、この生き方は、もう変えられない。

マリアン  :戦うだけが人生ではないと伝えたはずだが?

夕姫    :兵器として作られた人間に、それ以外を耐えられるとは思えません。

マリアン  :それを学ぶいい機会と・・・

夕姫    :マリアンさん!

マリアン  :・・・なんだ?

夕姫    :これは、私が自分で選んだ道です。どうなろうと自分の責任です。

マリアン  :それで?

夕姫    :私には、守りたい人ができました。それに、守りたい場所もある。
       それを守れるなら、この命が短くなったってかまわない!

マリアン  :・・・それを選んで、後悔しないな?

夕姫    :・・・はい。

マリアン  :・・・わかった。だ、そうだよ?マシュー君?

夕姫    :え・・・?いたんですか。

マシュー  :ごめんね。・・・本当にいいの?

夕姫    :はい。これでいいんです。私は、貴方のものですから。

マシュー  :え!?・・・いや、その・・・

マリアン  :ほほう?キミタチはすでにそんな仲だったとは・・・

マシュー  :ち、ちがいますって!

マリアン  :フフ、ま、冗談だ。
       夕姫。君の選択はわかった。だが、これからは一層と気を付けるんだ。
       その力は、今のままでは君を殺す。

夕姫    :はい。解ってます。そのためにも、強くなってみせます。

マリアン  :いい覚悟だ。マシュー。ちゃんと守ってやれよ。

マシュー  :言われなくても。

マリアン  :フム。では、今日はもう下がり給え。以上だ。

マシュー  :はい。失礼します。

夕姫    :失礼します。・・・マリアンさん。

マリアン  :なんだ?

夕姫    :・・・ありがとうございます。

マリアン  :フフン。こんな年でもう、親離れを経験するとはね。
       頼もしくもあり、寂しくもあり・・・か。
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鎮     :次回予告 
       指揮官の帰投。

夕姫    :それは、戦いにしか生きられぬ者たちにとっての、福音。

マシュー  :Night/Knight 第39話 出航

マリアン  :戦いを求める艦(ふね)たちに、息吹を。



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