Night/Knight 第35話 嘲(あざけ)りの笑み

♂夜巳 鎮(やみ まもる):純血の吸血鬼。見た目17歳くらいだが、実年齢は200オーバー。
感情の起伏が浅く、眉間に皺が寄っているため常に怒っているように思われる。
             達観とも諦観ともとれる思考をしており、物事に対して醒めている。

♀水原 裕美(みずはら ひろみ):夜巳に仕える吸血鬼。20代の見た目をしている。
人間との混血である故に、捨てられて居たところを鎮に拾われる。
                瀟洒で人付き合いの良いタイプ。

♂ミッキー・ダグ:年齢不詳。「切り裂きピエロ」という異名を持つ魔術師。封滅騎士団所属。
         ピエロの衣装やメイクをまとった異常者。常にケラケラと笑っている。
         魔術師になる以前から連続殺人犯であり、サイコパス。
         被害者の口角を切り裂き無理やり笑わせるという。

鎮:
裕美:
ダグ:

==========================================================

裕美:マスター。今日の予定なのですが・・・

鎮 :・・・ん?どうした。

裕美:いえ、外出されるのですか?

鎮 :ああ。たまにはな。

裕美:ですが、まだ日中です。出歩かれるなら、日が落ちてからの方が。

鎮 :心配ない。

裕美:夜を疑似的に作り出す『ミッドナイト・ヴェーゼ』を使われるのでしたら魔術師の皆様に連絡を入れないと・・・

鎮 :必要ない。

裕美:ブランドン卿がうるさいと思いますが。

鎮 :大丈夫だ。そのブランドンが出歩いていいと言った。

裕美:・・・は?

鎮 :これを寄越してきた。

裕美:これは・・・?日焼け止め・・・ですか?

鎮 :なんでも、吸血鬼用に改良したものらしい。試しに使ってみろと。

裕美:マスターがですか?

鎮 :どこまで支障がでるかの検体代わりといったところだろう。

裕美:危険では?

鎮 :別に日に当たった瞬間に死ぬわけではない。全力が出せない程度だ。
   それに、これが実用に耐えるなら、他の純血の吸血鬼たちも出歩けるようになる。

裕美:・・・わかりました。では、御供を。

鎮 :心配には及ばん。

裕美:いえ、もしもが有ってはいけませんので。

鎮 :フン。なら、好きにすればいい。

裕美:では、そのように。すぐ準備してまいります。

=============================

ダグ:Night/Knight 第35話 嘲りの笑み

=============================

鎮 :フン。なかなかどうして、有用だな。

裕美:はい?

鎮 :ブランドンの寄越したこれだ。
   日光の痛みも暑さも感じん。

裕美:そうでしたか。

鎮 :うれし気に持ってきたから、何かあると思ったが、取り越し苦労だったか。

裕美:マスターはブランドン卿と懇意ですし、いち早く知らせたかったのでは?

鎮 :フン。懇意な訳があるか。妙な腐れ縁があるだけだ。

ダグ:はいは~い。良い子なオチビさんたち~。いいかい?ボクの鼻をよーくみててよぉ~?
   いち、にの・・・?さん!ほーらでっかくなっちゃったー!

鎮 :なんだ。

裕美:興行のサーカスのようです。客引きのピエロですね。

鎮 :どこの家が招いた?

裕美:連絡は来ていません。おそらく魔術師側でしょう。

鎮 :こういう連絡さえ寄越さんのに懇意と言えるのか?

裕美:マスターを信頼しているからでは?

鎮 :ああいえばこう言うな。誰に仕込まれた?

裕美:強いて言うなら、マスターからかと。

鎮 :フン、言うようになった。

ダグ:次はオチビさんたち皆に協力してもらおう!みんなー。このボクのお鼻を一回ずつ押して行ってねー

裕美:・・・・。

鎮 :・・・思い出すか。

裕美:はい?なにがです?

鎮 :サーカスだ。お前を拾ったのも、ああいった見世物で、だった。

裕美:ええ、・・・そうですね。

ダグ:よぉーし、みんな押してくれたねー?おかげで帽子の飾りがこぉんなに膨らんじゃった~。
   それじゃあ、この飾りを・・・あ!そこの綺麗なおねーさんに割ってもらおう!

裕美:私・・・ですか?

ダグ:そうそう。アナタ!この針で思いっきり刺しちゃって!

裕美:いえ、私は・・・。

鎮 :やってやれ。子供たちの前だ。

裕美:ですが。

鎮 :ほら、見てるぞ。

裕美:・・・。では。

ダグ:それじゃー合図で割ってよネ!さん、にぃーの、いち!パァン!
   あぁらびっくり!中から一杯のハトさん登場~!!種も仕掛けもないんだよ~!?

裕美:そ、そうですね・・・。

ダグ:さーチビチャンたち、協力してくれたオネーさんに拍手~!

鎮 :フン。

裕美:マスター・・・意趣返しですか・・・?

鎮 :さて、なんのことだか。・・・では、行くぞ。


=============================

ダグ:あ・れ・がぁ。夜の王って言う奴ですかァ。
   確かに魔力だけはバカにデカそうですが・・・それだけですねぇ。
   やれないことはない。
   そのしかめた表情。にっかり笑わせてさしあげましょう。切り裂いてねェ?アハハハハ!

=============================

裕美:脳裏によみがえる記憶。
   幼い頃の自分。
   素肌に打たれる鞭の痛み、押し付けられる焼きごての熱さ。
   そして、私を汚そうとしたゴミどもの血だまりと破片。
   高鳴る鼓動、体中の血が沸騰する感覚が巻き起こる。
   だめ・・・抑えないと・・・私は・・・。

=============================

鎮 :さて、日も落ちたか。割と、持つものだな、この薬は。

裕美:(何かを我慢するように)マスター・・・。

鎮 :ん?どうした。裕美。

裕美:あ、いえ・・・。なんでも。

鎮 :フン、そうか。次はなんだ?

裕美:あ、はい。予定・・・ですね。元老院の皆様と会食です。今日の予定はこれのみで終わりです。

鎮 :そうか。わかった。・・・裕美。

裕美:はい、なんでしょ・・・っ!?

鎮 :(抱きすくめる)血が昂るか。

裕美:・・・はい。

鎮 :なら、やることは1つだな。首を出せ。

裕美:はい・・・

鎮 :少し痛むぞ。(首筋に噛みつき、吸血

裕美:つっ・・・く、んぅ・・・っ

鎮 :・・・はぁ。少しは落ち着いたか?

裕美:は、はい・・・。申し訳ありま・・・

鎮 :構わん。落ち着いたならそれでいい。

裕美:はい。

鎮 :珍しいな。お前の血が昂るとは。

裕美:はい・・・。最近はなかったのですが。

鎮 :サーカスを見たからか?

裕美:っ!・・・それは。

鎮 :表に出ないようにしてもわかるぞ。・・・まだ、夢に見るか。

裕美:・・・はい。消えない過去です。

鎮 :だが、今と昔は違う。割り切れ。裕美。

裕美:はい。マスター。

鎮 :・・・裕美。少しいいか。

裕美:あ、はい。なんでしょう?

鎮 :少々厄介な者が伏せているようだ。ここ近辺の住人を批難させろ。

裕美:魔術師ですか。

鎮 :その可能性がある。

裕美:では、そのように。・・・御武運を。

鎮 :ああ・・・。さて、姿を現せ。魔術師。

ダグ:クヒヒヒ。おやおやぁ?暗い顔ですねぇ?笑わないとダメですよぉ?

鎮 :ピエロ・・・昼間のか?

ダグ:笑わせて差し上げないといけませんねぇ。なんせ、私ピエロですから。

鎮 :血なまぐさい臭いをさせてか?行け、ブラッドエッジ!

ダグ:オホホホッ!危ないですねぇっ!

鎮 :避けるか!だがっ!これはどうだ!

ダグ:ハハッ!

鎮 :フォークロア・ウィンド!

ダグ:ばぁーん!

鎮 :なにっ!?ウィンドが消えた!?

ダグ:あぶないあぶない。あんなのに当たったらぐちゃぐちゃのミートパテになっちゃいますねぇ。

鎮 :厄介だな。来い。ブラッドエッジ。

ダグ:スラッシュウィンドぉ!

鎮 :フン。

ダグ:おぉ!避けもせずに消し飛ばすとは!すばらしいです!

鎮 :力の差を知るがいい。

ダグ:力の差、ですかァ?わかりませんねぇ!

鎮 :同じ技を何度も・・・っ!?

ダグ:キエェェェイ!

鎮 :づっ!このっ!

ダグ:ホラホラぁ!切り結ぶのは不得意ですかァ!?

鎮 :チッ!厄介なっ!俺に追いつくか!

ダグ:ソラソラぁ!

鎮 :っ!?腕が増えっ・・・!?

ダグ:貰いぃっ!

鎮 :フラッシュアウト!

ダグ:ぐぅっ!?目くらましぃ!?

鎮 :奇怪な技を使うか。魔術師!

ダグ:なんのことですかねぇ!

鎮 :近づけさせん!ブラッドエッジ!最大展開!

ダグ:数で押すというのなら。こちらも数ですゥ!
   カーニバル・バレッジ!

鎮 :分身か!ならば、すべてを射殺すまでだ!

ダグ:あがががががががが!

鎮 :消えうせろ!

ダグ:しかし、無駄ですネ

鎮 :ちっ!まだ増えるだと!

ダグ:一人が消えたらもう二人。二人が消えたら今度は三人。三人消えたら四人か五人!(歌うように
   私を殺せば殺すほど、数は増えマス次々と!さぁてお次は貴方の番!(歌うように

鎮 :開けっ!万魔(ばんま)の牢獄!フォークロア・ゲート!

ダグ:アハ!・・・これはマズい。

鎮 :すべて、消えうせろ!

ダグ:ここで死ぬわけにはいきまセーン!ということデ!
   3、2、1、どっかーん!

鎮 :自爆っ!?ぐうっ!?

ダグ:巻いててよかった腹巻さん。火薬をもれなくプレゼント!

鎮 :小癪な・・・次から次にっ!

ダグ:ゲートは閉じさせていただきますネ!そーれ、死んで来いワタシ15号!

鎮 :ちっ・・・。

ダグ:これで、終わり。な訳ないですよねェ?夜の王サマ?

鎮 :当たり前だ。来い、ブラッドエッジ。

ダグ:一騎打ちデスカ?いいでしょう。受けてたちまス。
   なぁんて、甘いですよォ!

鎮 :それはどちらが・・・ガっ!?

ダグ:アハ!背後を取るのが得意なのは、吸血鬼だけではないのですよ?

鎮 :このっ!

ダグ:回復は、させませんよォ!?切り刻め!スラッシュ・ジェイル!

鎮 :がぁぁぁぁっ!?

ダグ:アハハハッ!内臓までズタズタでス。

鎮 :貴様・・・っ!ぐぅっ!?

ダグ:おやおや。顔が歪んでますねぇ?
   笑わないとダメですよぉ?

裕美:っ!?マスター!?

ダグ:んー?まだ居ましたか。

鎮 :ひろ・・・み・・・ぐっ!

裕美:そんな、マスター・・・。

ダグ:おやおや、悲しい顔ですか。ダメですよぉ。ちゃんと笑わなくては。

裕美:・・・貴様。

ダグ:んー?なんですかな?

裕美:貴様が・・・マスターを・・・マスターをッ!

鎮 :やめろ・・・

ダグ:かわいらしいお顔が涙で台無し。これは笑わさなくてはぁっ!

裕美:・・・いざ響け。狂宴の鐘。

ダグ:っ!?な、なんだ!?この鐘の音は!?

鎮 :マズい・・・これは・・・

裕美:響け、響け。狂え、狂え。踊れ、踊れ!

ダグ:なんだ・・・コレはぁッ!身体が・・・動かないっ!?

裕美:この手に落ちろ。・・・血の宴!

鎮 :やめろ裕美っ!

ダグ:があぁぁぁぁっ!?なんだなんだなんだぁぁぁ!?
   身体が・・・身体が身体がァっ!?しぼられ・・・っ!?

裕美:唄え唄え。狂気の賛歌。

ダグ:血が・・・血がぁっ!?私のっ・・・私の血がぁッ!?
   奪われる奪われていくぅぅう!

鎮 :裕美っ!

裕美:っ!マスター?・・・づっ!?くぅっ!

鎮 :(吸血する)血に酔うな裕美。その力を使うな。

裕美:・・・すみ、ません。マスター。

ダグ:は・・・ハヒッ!ハヒハハハハッ!

裕美:っ!貴様まだ・・・・っ!(頭痛に見舞われる

ダグ:動けるともぉ。あまりに・・・あまりに驚いてしまって。
   笑ってしまいましたよぉ?

裕美:・・・下がれ。下郎。

鎮 :よせ、裕美!お前では・・ぐっ!

裕美:控えい。鎮。お主は回復に専念するがよい。

鎮 :っ!?その喋り方・・・まさか。

ダグ:ほほう?雰囲気が変わりましたねぇ?けれど、真顔は美しくないですよぉ?
   ほら、ほらほら笑わせて差し上げましょう

裕美:出来るのならば。

ダグ:行きますよぉっ!スラッシュ・ウインドっ!

裕美:L、D(エル、ディー)

ダグ:っ!?逸れた!?

裕美:当たらぬよ。その様な小手先は。

ダグ:ははっ!まだまだですよぉぉ!

裕美:乱射をすればいいと?ハッ。笑えるな。いや、下らなさ過ぎて笑えぬわ。

ダグ:魔術では効きませんねぇ、ならぁっ!

鎮 :避けろ!

ダグ:後ろを取ってっ!・・・なっ!?

裕美:フン。無駄なことを。

ダグ:刃が・・・届かない・・・?

裕美:届かぬではないよ。届かそうとしてないのだ。お主がな。

ダグ:なんたること!

裕美:ほれ、曲がるぞ?・・・お主の腕がな。

ダグ:ぐ、あっがああぁぁぁ!

裕美:まずは、一本。

ダグ:ばかな!!バカな馬鹿な馬鹿なぁぁぁっ!

裕美:下がれ。道化。貴様の出番はここにない。

ダグ:なにが・・・何が起こって・・・?

裕美:前後不覚か。愚者にとっては当たり前の反応だわの。

ダグ:このっ・・・化け物がぁぁあっ!

裕美:おうとも。元より化け物よ。だがな、快楽で殺すお主よりはマトモだぞ?

ダグ:カーニバル・バレッジ!

裕美:無駄よな。魔術も、なにもな!

ダグ:な・・・にぃぃっ!?

裕美:我が前で魔術はすべてひれ伏す。私は、私こそはマリア・ウォーターフィールド。
   魔の力の権化なるぞ。

ダグ:ま・・・さか、そんな。

裕美:さて、死ぬがいい道化。我が姿見たこと。知られるわけにはいかぬでな。

ダグ:そんな・・・そんな馬鹿なぁぁあ!

裕美:ブラッディ・コフィン。

ダグ:がぁぁぁぁっ!・・・あ・・・

裕美:終わりじゃの。さて、少しは良くなったか?鎮。

鎮 :ああ、大分治った。

裕美:全く、久しくぶりに話したというに、つれない反応じゃの。
   相変わらずか。お主は。

鎮 :・・・うるさい。

裕美:愛い奴よの。

鎮 :いい加減、元に返れ。

裕美:いいじゃないか。しばしの旧交を温めようではないか。

鎮 :そんな状況じゃない。

裕美:あぁ、つれない、つれない。つれないのぅ。
   だが、そういうところも愛おしい。我が愛すべき騎士。

鎮 :その呼び方は。

裕美:夜の王よりは似合っておるよ。
   なぁ、鎮。

鎮 :・・・はい。なんでしょう。我が君。

裕美:そう、それでこそ我が騎士よ。
   ・・・なぁ、鎮。この世界。どうなると思う?

鎮 :どうなるとは?

裕美:言葉の通りだよ。我が騎士。
  お主は・・・天に唾(つば)するんだろう?

鎮 :・・・そうですね。そのつもりで。

裕美:やってきたか。面白い。
   神とやらに目に物を見せてみよ。我の前で。

鎮 :きっと、ご覧に入れましょう。

裕美:よし、楽しみにしている。
   ・・・では、名残惜しいが私は去るとしようか。

鎮 :・・・旧交を温めるのでは?

裕美:ハハッ、さっきと言ってることが違うぞ?

鎮 :・・・私は、このままでいいのでしょうか。

裕美:・・・それは、己のみが知るのだ。
   私が『血塗られた姫』と称されるのと同義にな。

鎮 :それは・・・!

裕美:私は狂人でもなくば、殺戮を喜ぶ暴虐の君主でもない。
   だが、それを人が望むなら、私はこの身を血に染める、それだけよ。

鎮 :他者から望まれるからといって・・・それは。

裕美:あんまりだと思うか?だが、これがこの世界の在り方よ。
   各々が各々の「ロール」を演じなければならない。
   お主が、この地での魔族の長としてあるようにな。

鎮 :我が君は、殺戮者であることを演じ続けるおつもりですか。

裕美:それを望む者が少なからずおろう?魔族にも、人間にも。

鎮 :人が・・・良すぎます。我が君は。

裕美:今更だよ。鎮。
   ・・・そういうお前も、人が良いな。

鎮 :それは・・・そうかもしれませんが。

裕美:見せておくれ。鎮。私が、この役割を演じなくてよいように。
   その世界を見てみたい。私は。

鎮 :・・・きっと、作り出してみます。

裕美:待っている。・・・では、後のことは任せるぞ。我が騎士。

鎮 :はっ。お任せください。我が君。

裕美:フフッ、硬いのぅ。・・・愛しておるよ。鎮。

鎮 :・・・お戯れを。

裕美:・・・私は、今まで?

鎮 :大丈夫か。・・・裕美。

裕美:え、ええ。マスター。あの、私は一体。

鎮 :気にするな。また、血に酔っただけだ。

裕美:・・・もうしわけありません。

鎮 :いい、正気に戻ったなら。
   ・・・帰るぞ。

裕美:あの、元老院の皆様との会食がまだ。

鎮 :・・・そうだったな。
   仕方がない、行くか。

裕美:ええ、案内します。

============================

鎮(М):この世界。役割・・・。このすべてを変えるため、俺は・・・。

=============================

裕美:次回予告

ダグ:流転する情勢。

裕美:魔族は相互に在り方を模索する。

鎮 :Night/Knight 第36話 Quad-Alliance(クアド・アライアンス)

ダグ:結束はさらなる火の前触れに。



もどる


前の話へ/