Night/Knight 第26話 Grave Ravens(グレイブ レイブンズ) 作:福山漱流

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♂ローランド・ワインバーガー:封滅騎士団第一装甲騎隊 隊長。20代にして隊長に就任した天才。
              基本の戦闘は中身の無い空の鎧を操っての傀儡術式。最大で一度に20体の鎧を操ることが出来る。
              そのことから「傀儡師(パペッター)」の二つ名を持つ。
              どこか相手を見下した言い方をするタイプ。

♂クレメント・アッカーソン:30代後半。封滅騎士団 総統。若くして封滅騎士団の総統の座に着いたエリート。
              上昇志向が高く、使えるものはなんであれ使ってのし上がってきた。
              人を駒としか見ておらず、人を自分の目的達成のための手段に過ぎない。
             
♀ブリット・ノイマン:23歳。封滅騎士団特務攻撃隊所属。戦争孤児であり、魔術研究結社『ヴィクティム(犠牲)』に拾われた後、魔術師に。
           戦闘は両手の平に刻まれた魔術紋を使った「破壊術」と強化された肉体での超接近戦。
           魔術師になるにあたって強化されており精神面が不安定。
           また、戦闘時は術発動の衝撃を押さえるため腕の関節や筋肉を魔術で増加させる。その際に、腕が人間の二倍に伸びる。



ローランド:
クレメント:
ブリット:
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 (封滅騎士団 総統執務室前。ローランド、ドアをノックする)

ローランド:失礼します。第一装甲騎隊、ローランド・ワインバーガーです。総統閣下。居られますでしょうか?

クレメント:ああ、ドアは開いている。入ってきたまえ。

ローランド:はっ。失礼いたします。

 (ローランド、入室)

クレメント:いやいや。忙しい中よく来てくれた。ローランド君。

ローランド:ご無沙汰しております。閣下。私に御用があると聞いたのですが・・・

クレメント:まぁまぁ、それはゆっくりと話そうじゃないか。な?さ、掛けたまえ。

ローランド:は、はぁ。それでは、失礼します。

クレメント:ヘブリニッジに君を派遣して三ヶ月程・・・。少しは馴れたかね?あそこの環境に。

ローランド:ええ、まぁ・・・一応。

クレメント:そうか。なら安心というものだ。いやね?実は危惧していたのだ。
      ヘブリニッジは魔界と繋がる荒れた土地だ。いくら君とは言えど危ない事に遭っていないかと気を揉んでいたよ。

ローランド:ご配慮いただきありがとうございます。おかげさまで、まだ五体満足に。

クレメント:うむ。いいことだ。危険分子の排除はどうだね?

ローランド:と、言われますと?

クレメント:そのままの意味だよ。ローランド君。危険分子。この社会に危険な存在。魔族の討伐はどうかと聞いているんだ。
      いくらかは消せたかな?

ローランド:は、はい。そのことなのですが・・・。

クレメント:おや。暗い顔だ。上手く進まないかね?

ローランド:抵抗が激しく、なかなかに。

クレメント:ほぅ。君という者でも手こずるのか。これは、やり方を変えなければならないかな?

ローランド:いえ!必ず!・・・必ず私がヘブリニッジを魔族から開放してみせます!ですから……。

クレメント:いやいや。無理は言わなくていい。大丈夫だ。ローランド君。
      大変なのだろう?ただでさえ、多くの魔族が住む町だ。いくら君が有能でも一人では荷が重いだろう。

ローランド:いえ、総統から賜ったこの任務。荷が重いなど・・・。

クレメント:謙虚なのは良いことだ。だがねぇ、評議会がうるさいのだよ。「早く終わらせろ」と。

ローランド:評議会が・・・ですか。

クレメント:我々、封滅騎士団のパトロンとなっている人民評議会。彼らが最近、金を出し渋っているんだ。
      無駄な所に金を使ってる癖にねぇ。困ったもんだよ。

ローランド:心中お察しします。

クレメント:うん、ありがとう。だからね?君には、パートナーを付けなきゃいけないんだよ。
      ずっと一人でやってきた。功績もある。そんな君だ「一人でやりたい」という君の思いはよく分かる。
      けど、こうなってしまったモノはしょうがないんだ。わかってくれるよね?

ローランド:・・・了解しました。

クレメント:そうか、ありがとう。それじゃあ、早速だが、君のパートナーのことなんだけれど。

ローランド:まさか、もう決まっているんですか?

クレメント:ああ、もちろんだよ。私が選んでおいた。・・・不満かい?

ローランド:いえ、そんなことは・・・。

クレメント:うん。そうだろうね。さ、付いてきたまえ。相棒の待つ場所へ案内しよう。


ブリット :Night/Knight 第26話 Grave Ravens(グレイブ レイブンズ)


クレメント:さて、ローランド君。相棒に会う前にこの施設を見せたのだが。感想はどうかね?
      この研究結社「サジェスティ」の姿は。

ローランド:言葉になりません。なんなのですここは?このような研究施設をもっているなんて知りませんでした。
      術式研究に霊装開発までやっているなんて・・・。

クレメント:我々の施設ではないよ。ただ、この結社にも協力者が居てね。戦闘員を用意してくれると言う事なんだ。

ローランド:そうですか・・・。1つよろしいですか?

クレメント:質問かな?なんだろう。

ローランド:その戦闘員とは、この研究所が雇っている人間なのですか?

クレメント:いや、違う。雇っている訳じゃない。ここに所属する人間ではあるが。

ローランド:所属する人間。ならば、研究員なので?

クレメント:それも違うかな。うん。まぁ、そんな事は良いじゃないか。
      さ、ここだ。ここが彼女の居る部屋だ。

ローランド:彼女・・・って、女ですか!?

クレメント:どうした?そんなに驚くことではないだろう。このご時世、女魔術師などごまんといる。
      スキルはしっかりしているから。安心しなさい。

ローランド:総統が、そう仰るのなら。

クレメント:よろしい。

  (クレメント。ドアをノックする)

クレメント:ブリット君。いるかね?

ブリット :・・・ん?クレメント?

クレメント:そう。私だ。部屋に入っても良いかな?君に逢わせたい人がいるんだ。

ブリット :・・・いいよ。勝手に入って。

クレメント:それでは失礼するよ。紹介しよう、ローランド君。彼女がブリット・ノイマン君だ。

ブリット :・・・誰?この人。

ローランド:私はローランド・ワインバーガー。封滅騎士団 第一装甲騎隊 隊長だ。

ブリット :ローランド・・・。クレメント、コイツ壊せばいいの?

クレメント:違うぞブリット。その逆だ。彼は君の相棒だ。

ブリット :相棒・・・?飼い主じゃなくて?

クレメント:ああ、うん。そうとも言う。

ブリット :へぇ、こんなひょろいのが私の飼い主ねぇ?強いの?

クレメント:私は評価しているよ?それでも足りないかな?

ブリット :別に。興味無い。

ローランド:あの、総統。大丈夫なのですか?彼女は。

クレメント:普段がこうなだけだ。戦闘になればまた変わる。

ローランド:なら良いですが。

ブリット :・・・なに?文句でもあるの?

ローランド:いや、そう言う訳では・・・

ブリット :あぁ?殺すぞテメェ!

クレメント:落ち着きたまえ。ブリット君。

ブリット :止めんな!・・・それとも、アンタから死ぬか?

クレメント:それは勘弁願いたいな。

ブリット :だったら

ローランド:ぐっ!?・・・な、何だ。この力はっ!?

クレメント:止めろ。ブリット。

ブリット :うるせぇ!止めんじゃねぇよっ!コイツ・・・ぶっ殺してやる!

ローランド:ぐっ・・・緊急展開・・・ガーディアン!コイツを追い払えっ!

ブリット :なんだこの甲冑!どこから入ってきた!

クレメント:二人とも止したまえ。

ブリット :私に指図するなぁっ!

ローランド:総統!危険です!下がって下さい!
      装甲展開。ブロック・フォーメーション。

ブリット :そんなおもちゃで私を止めるつもりかぁっ!?

ローランド:速さはなかなか。だが、ヤツに比べればまだ・・・遅いっ!
      
ブリット :回り込まれた!?

ローランド:取ったッ!

ブリット :んなわけネェだろバーカッ!

ローランド:なにっ!?装甲が剥がされた!?魔術強化の鎧だぞ!?

ブリット :そんなに素手で剥がすのが珍しいなら、テメェのツラまで剥いでやるよ。

ローランド:ふん、二度も出来ると思うな。出来るモノならやってみろ!

ブリット :その言葉、後悔すんじゃねぇぞ?術式ロック解除。さぁ、ちょっとだけ本気でいくよ?

ローランド:なんだ・・・腕が、伸びた・・・?

クレメント:いかんな。

ブリット :よぉい・・・ドン!

ローランド:ぬっ!?さっきより速い!

ブリット :まず、こっちの鎧だ。・・・ぶっ壊れろ。

ローランド:ちっ、片腕で易々と兜を壊すか。だがな!

ブリット :なっ!?

ローランド:頭が壊れようと、動かすことは可能!そして・・・

ブリット :コイツ・・・離せっ!

ローランド:さぁ、貫かれろ!ランスショット!

ブリット :させるかぁぁぁっ!

ローランド:なんだ・・・手が光って・・・?

ブリット :ブレイクアウト!

ローランド:ぐっ・・・完全破壊だと!?

ブリット :頭に来た。もう・・・お前。・・・殺ス。

クレメント:彼になら止められるかと思ったが、仕方ない・・・。ブロックコード『グレイブ』

ブリット :ひっ!?いや・・・いやぁ・・・止めて・・・止めてぇっ!。

クレメント:駄目な子だ。ブリット。いいかい?君が殺そうとしている相手は、君の飼い主だぞ。
      悪い子には、お仕置きが必要だね。

ブリット :ご、ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!

クレメント:ほら、もう一度言うぞ?『グレイブ』

ブリット :いやぁぁぁっ!

ローランド:これは・・・一体?

クレメント:全く。君という男はうかつ過ぎるよ。レディには優しく接しなくては。

ローランド:なんなのですか?この娘は。

クレメント:少々、精神が不安定なんだ。許してやってくれ。

ローランド:暴走するリスクがある戦闘員を使えと?

クレメント:その不必要な暴走を避けるためにブロックコードがある。

ローランド:さっきの『グレイブ』という奴ですか?

ブリット :いやぁっ!こわいっ!こわいぃっ!

クレメント:うかつに口にしたらダメだよ。ローランド君。君の音声も登録してあるんだから。
      
ローランド:登録だなんて。機械じゃないのですから・・・。

クレメント:それに近いとは思うがね?なにせ、彼女はいろいろ強化されているのだから。
      ほら、見てみたまえ。彼女の手を。これだ。

ローランド:これは・・・!この紋章は、破壊術式の紋章!?禁忌ですよ!?

クレメント:魔術研究者共が言うには、コンセプトは『人間を越えた人間』らしい。

ローランド:人間では扱えない紋章を刻みつけるだなんてどうかしてます!

クレメント:そう、人では扱えない。だから、強化して魔力値と身体能力の底上げをした。その結果がこの不安定だ。

ローランド:非人道的です。こんな・・・。

クレメント:いいかね?ローランド君。人道的か人道的でないかは勝者が決めることだ。君が決める事じゃあない。
      そして、彼女はな?こうでもしなければ殺されるんだ。どうだ?このまま実験動物のように見殺すのとどちらが人道的だ?

ローランド:つまりは、この研究所の厄介払いをしろということですか。私はそんなことのために魔術師になったのではないです。

クレメント:厄介かどうかは今後にならねば分からないさ。それにな?ローランド君。君は一つ勘違いをしている。

ローランド:勘違い?

クレメント:私は君に対して選択の余地を与えているのではないんだ。・・・やってくれるよね?

ローランド:おっしゃることはわかります!ですが・・・

クレメント:すまない、よく聞こえなかった。やって、くれるんだよね?

ローランド:・・・わかりました。

クレメント:よろしい。・・・ブリット。もう大丈夫だぞ。

ブリット :こわい・・・こわいよ・・・。

クレメント:よーしよし。もう大丈夫だ。ブリット。怖いものはもう無いからな。

ブリット :本当・・・?怖いの・・・ない?

クレメント:ああ、本当だ。此所にいるローランド君が追い払ってくれたからね。

ブリット :ローランドが?

ローランド:・・・いや。私は・・・。

クレメント:ローランド君。・・・そうだね?

ローランド:あ・・・。ああ、そうだ。

ブリット :・・・ありがとう。(ローランドに抱きつく)

ローランド:お、おい。なにを。

クレメント:上手く教育できたようだな?

ローランド:教育って、コレじゃまるで洗脳・・・まさか。

クレメント:ハハハハ。何のことかな?

ローランド:破壊術に洗脳術。これらは全てやってはいけない禁忌で!

クレメント:良いから。ローランド君。いいんだ。

ローランド:しかしっ!

クレメント:問題は、『無い』よ?

ローランド:くっ・・・。

ブリット :ねぇ、ローランド・・・。

ローランド:っ!(ブリットを突き飛ばす)

ブリット :ローランドのこと、私が・・・守るから・・・。

クレメント:おやおや、もう懐かれたようだね。うん、良いことだ。いい相棒になれそうじゃないかローランド君。
      いいかね?ブリット。これからローランド君の言う事を聞いてしっかり彼を守るんだよ?

ブリット :私が・・・守る。守るんだ・・・。

クレメント:さて、一段落したところで、私は帰るとしよう。
      彼女のこと、よろしく頼んだよ?

ローランド:私に・・・どうしろと?

クレメント:分かっているはずだ。ただ、やることをやればいい。彼女と共に。
      いいね?君には後がないから頼むのだよ?・・・返事は?

ローランド:・・・はい。

クレメント:よし。それでは、良い結果を待っているよ?英知の剣(つるぎ)の導きのままに。

ローランド:英知の剣(つるぎ)の導きのままに。・・・くそっ!

ブリット :っ!(驚愕)・・・ローランド。大丈夫?

ローランド:俺は・・・体よく捨てられた訳か・・・。何が騎士だ。何が正義の守り手だ!やっていることは正義でなく背徳じゃないか!

ブリット :ローランド、だいじょ・・・。

ローランド:そんな風に俺を呼ぶな!(頬をはたく

ブリット :づっ!?

ローランド:これも、ヤツの所為だ・・・夜の王が、ことごとく邪魔を。俺の邪魔をっ!

ブリット :私が付いてるから・・・。

ローランド:なに・・・?

ブリット :なんでもシてあげるよ。なんでも壊してあげる。ローランドのためなら。
      だから、そんな顔しないで。・・・私を捨てないで。私を、殺さないで。

ローランド:っ・・・そうか。俺はもう・・・。そういう・・・ことなんだな?

ブリット :どうしたの?

ローランド:大丈夫だ。ただ、悟ったんだ。もう、戻れやしないってな。

ブリット :どういうこと?

ローランド:お前は知らなくて良いさ。すまなかった。さっきは殴ったりして。
      気が動転して・・・どうにかなってたんだ。

ブリット :私は、大丈夫だから。私ってば、頑丈だから。ね?ほら。

ローランド:そうか・・・そうだな。
      なぁ、ブリット。

ブリット :なに?

ローランド:これから、壊しにいこう。

ブリット :壊すって何を?

ローランド:全てさ。俺たちの敵になるやつらを壊すんだ。

ブリット :敵を、全部?・・・フフフ。アハハハハッ!

ローランド:どうした?

ブリット :いや、何でもないよ。すごく、楽しそうだなって思って。

ローランド:そうさ。きっと楽しいぞ。

ブリット :うん、楽しみにしてる。

ローランド:復讐だ。俺の持てる全てをもって、俺をこうしたヤツらに復讐してやる。

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クレメント:さて。次の手はどうするか。しばらくはローランドに任せるとして。
      ・・・吸血鬼。『夜の王』。奴はどうにも目が良い。いや、良すぎる。
      千里眼、とでも言えばいいか。奴は早目に退場してもらわなければ・・・。
      
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ローランド:次回予告。
      年に一度の祭り。

ブリット :活気に沸くヘブリニッジに破壊が忍び寄る。

クレメント:Night/Knight 第27話 マン・ハント

ブリット :狂騒の宴は絶叫に染まる。




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