Night/Knight 第24話 幕間(まくま) その2 作:福山漱流

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マシュー・フランクリン:22歳。聖十字協会の魔術師。爵位は無し。
            新米魔術師であり、ブランドンの部下としてヘブリニッジに派遣された。
            使用魔術は基礎的なものを幅広く扱い、威力も平均的。典型的な知性派であり、近接戦闘には向かない。
            優等生タイプで、頭もよく回るが、ルールに縛られやすく、柔軟に対応できない面を持つ。      
      
ブランドン・マールスフェルト:20代後半。聖十字協会所属の魔術師。男爵の爵位を持つ。
               鎮とは腐れ縁のライバルであり、しょっちゅう小言をいう保護者の様な存在。
               術式形態はアゾット剣を用いた魔術を織り交ぜた近接攻撃。及びアゾット剣に封印された人工魔獣をつかったもの。

マリアン・グロリア・シサリーザ:20代後半から30代。聖十字協会所属の魔術師。伯爵の爵位を持つ。
                聖十字協会の幹部であり、普段の仕事はもっぱらのデスクワークである。
                ブランドンの直属の上司。若くして聖十字協会の幹部となっただけあり、頭の回る策師。
                普段は飄々としているが、締める時には締める抜け目ない人物。
                結界術に長け、護身術式である結界術であっても中位魔族相手に苦戦しないほど。


狩屋 夕姫(かりや ゆうき):21歳。元封滅騎士団特務攻撃隊。戦争孤児であり、魔術研究結社『ヴィクティム』に拾われた後、魔術師に。
              戦闘は目に刻まれた魔術紋を使った「黒鳥召喚術」と強化された肉体での超接近戦。
              寡黙な口調。性格は常に冷静であり淡泊。自分がどうなろうと気にしない自己破滅思考を持つ。


マシュー: 
ブランドン:
マリアン:
夕姫:
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ブランドン:あー・・・よく寝た

マシュー :あ、ブランドンさん。おはようございます。

ブランドン:うーす。やっべ、疲れがとれねぇ・・・。俺ももう歳かな。

マシュー :よく言いますよ。まだまだ現役の癖に。

ブランドン:いやいや、引退の日は近いかもなぁ。

マシュー :はいはい。そーですね。あ、そうそう聞きました?

ブランドン:ん?ナニをだ?

マシュー :四名家(よんめいけ)。死んだルドルフの代わりに、誰が頭首になったと思います?

ブランドン:あ?シモーヌは没落だから・・・。元老院のジュベリオ家辺りが四名家入りしたとかじゃねぇのか?

マシュー :残念。違います。正解はシモーヌ家、第二子「ミーシャ・シモーヌ」が頭首を継いだんです。

ブランドン:・・・はぁ?ミーシャがだと!?あの狂人がか!?

マシュー :そう。なんでも、ミーシャは、ルドルフが自分の立場を確保するために、ワザと「狂人」に仕立てあげたもの。いわば「作られた狂人」らしいんです。
だから、その「狂人が狂人たりえる」要素を『夜の王』が排除したということらしいです。

ブランドン:鎮(まもる)が?どうやって?

マシュー :詳しいことは知りませんが、なんか特別な礼装を使っただとかなんとか。

ブランドン:へぇ?つか、シモーヌの狂人が支配し直しってことは・・・今そこはカオスじゃないのか?

マシュー :ええ。そのとおり。彼のおかげで今、シモーヌ家の支配地域は盛大に混乱してますよ。
      なんせ、ここぞとばかりに、成り上がるためにひと商売しようとしてたチンピラたちが店をあっちこっちに開いてた訳で。

ブランドン:あー、察しがついた。今、血なまぐさい状態と。

マシュー :正解です。裏で粛清が続いてるそうです。

ブランドン:想像に難くないな。

マシュー :ま、自業自得ってとこですかね。

ブランドン:・・・いやぁ、板について来たなぁ?

マシュー :はい?何がです?

ブランドン:何がってそりゃあ、お前だよ。この街になじんだな。

マシュー :・・・そうですか?

ブランドン:前のお前だったら、「粛清なんてやめさせるべきです!」とかなんとか言ってたぞ。

マシュー :あ、それはその・・・イイじゃないですか!そんなことは!

ブランドン:「街の外に影響が~」とかなんとか言ってうずうずしてた奴が、血みどろ粛清パーティを横目に、今やのんびり書類整理と来たもんだ。
      あー、本格的に引退を考えるかねぇ~。

マリアン :残念だが、それはできない相談だ。

マシュー :し、シサリーザ卿!?

ブランドン:お、おい!?いつからここに・・・ってか、何でここにいる!?

マリアン :ん?今、到着したばかりだが?ああ、マシュー。ホットミルクを頼む。ぬるめでな。

マシュー :た、ただいま!

ブランドン:お前、取り決めはどうした!?お前は人間の姿でこの街に入るのはご法度だろうが!

マリアン :ん?ああ、そういえばそうだったな。だが、問題ない。この姿で衆目に現れなければどうということもない。

ブランドン:鎮(まもる)が見てたらどうする!?

マリアン :心配ないさ。見られた所で、悪巧みしてなきゃあ、奴は文句など言ってこないさ。

ブランドン:そうかもしれんが・・・。

マシュー :おまたせしました!ホットミルク、ぬるめです!

マリアン :うむ。(口を付ける)うむ。いい加減だ。熱すぎず、ぬるすぎず。よい給仕になれるぞ、マシュー。

マシュー :ありがとうございま・・・って、僕は給仕係じゃないですって!

マリアン :フフーン。わかっているさ。ほんの茶目っ気じゃあないか。

ブランドン:んで?何用でこんなところにおいでましやがったんだ?マリアン。遊びに来たわけじゃないだろ。

マリアン :そうだったそうだった。ブランドン。そしてマシュー。君たちに朗報であり、悪報になる話を持ってきたのだが聞くかい?

マシュー :悪報って・・・。

ブランドン:却下しても言うんだろうがよ。

マリアン :もちろん。その前にマシュー。君は今の仕事に慣れたかね?

マシュー :え、ああ。まぁ、ほどほどに。

マリアン :よろしい。ブランドン。君から見たらどうだね?

ブランドン:ぼちぼちって処か。とりあえず、一人で街には出せるくらいにはなったか。

マリアン :ということは、マシュー個人がこの街に認知されたということか。

ブランドン:そういうことだ。下手に手を出すとやばい奴って感じで。

マシュー :えっ!?そうなんですか!?

マリアン :まぁまぁいいじゃないか。こうなることで君の生存確率は上がるんだ。

マシュー :すこし納得いかないです・・・

マリアン :さて、そんなわけでマシュー。君に部下を付けようと思う。

マシュー :はい!?

ブランドン:おー、えらくなったなぁ

マリアン :とはいえ、ブランドンの管理下ではあるがな。

ブランドン:俺の責任が増えただけかよ!?

マリアン :いわばレジデントって言う奴だな。中堅どころって感じだ。
     したがって、チーフであるブランドンの指揮の元、新米を教育するんだ。

ブランドン:じゃあ、教育係は任せた。

マリアン :全体教育はお前だがな?チーフ。

ブランドン:わかってるっての。つーか、チーフとかやめろ。

マリアン :さて、それでは紹介しよう。狩屋 夕姫君だ

夕姫   :・・・はじめまして。狩屋 夕姫です。よろしくおねがいします。

マシュー :あ、君は。

夕姫   :ご無沙汰しています。その節はどうも。

マシュー :い、いえいえこちらこそ・・・。

ブランドン:なんだ?知り合いか?

マリアン :以前、模擬戦をしてもらった仲だ。なぁ、マシュー。

マシュー :え、は、はい。

夕姫   :マリアンさん。私はどなたにつけばいいですか。

マリアン :ああ、簡単な雑務はこのマシューに教えを乞うと良い。
      重要な案件や作戦遂行の場合は、ブランドンが指示を出すから。

ブランドン:ブランドン・マールスフェルトだ。よろしく。

夕姫   :はい。よろしくおねがいします。無作法者ですが、大目に見てくださると幸いです。

ブランドン:え、えらく堅苦しいな・・・。気楽に行こうぜ気楽に。

マリアン :じゃあ、顔合わせも済んだということで。マシュー。さっそく君にミッションだ。

マシュー :はい?何でしょう?

マリアン :夕姫を案内してやってくれ。

マシュー :案内って・・・どこを。

マリアン :決まっているだろう。ヘブリニッジの中だ。

マシュー :はいっ!?いや、それならブランドンさんの方がいいんじゃ・・・。

マリアン :それがな、少しブランドンはこれから所用があってな。なぁ?ブランドン。

ブランドン:あ?・・・ああ、そうなんだよ。ちぃと厄介ごとがあってな。手が離せねぇんだ。

マリアン :というわけだ。マシュー。頼んだぞ。

夕姫   :よろしくおねがいします。

マシュー :え、いや、ちょっと・・・。

ブランドン:へいへい。ごねてないで行った行った。楽しんで来いよー。

マシュー :ちょっ・・・ブランドンさぁぁぁん!

ブランドン:・・・で?二人で話すってことは何かあったか?マリアン。

マリアン :ああ、ちょっとね。

ブランドン:封滅騎士がらみか。

マリアン :その通り。ブランドン。以前、クレメント・アッカーソン総統が今回の鬼と吸血鬼の騒動に絡んでいるかもしれないと言ったろう?

ブランドン:ああ、そうだな。・・・まさか、何かつかめたのか!?

マリアン :その逆だ。全くつかめん。
      確かに、指示は封滅騎士の中から出ていた。工作員が動いてシモーヌ家や鬼島組の一部に接触しているのも確実だ。だが・・・

ブランドン:総統自身が命じたこととは言えないと?

マリアン :ああ。指令書の一部を手に入れたんだが・・・これだ。作戦の指令は確かに出ている。出ているが、そこに総統の印(いん)は据わっていない。
      つまり、この指令は総統を介さず「独断で行われたミッション」ということになる。

ブランドン:そいつはちょっとばかりおかしいぜ。マリアン。確かに上層部が総統に許可なく作戦を立案して、独自に動くことは禁止されてはいない。
      だが、それにしてもヘブリニッジの趨勢(すうせい)を変える大博打だ。総統に通さないわけがない。

マリアン :だろう?そして、こういった作戦を実施するなら魔術師連合で協議ののち、我々にも通達や協力要請が行われるはず。
      それすらも飛ばして行ったなぞ、知れたら大問題になる。

ブランドン:総統の首が飛ぶわなぁ。・・・まてよ?そういうことか。

マリアン :ん?どうした?

ブランドン:こうは考えられないか?クレメントの野郎はワザと自分を介さない指示を書面にして残した。

マリアン :ふむ、続けて。

ブランドン:この書面を、切り捨てても問題ない部下に、第三者を通じて渡す。「上層部の指示だ。すでに口頭での許可は取ってある」とか言ってな。
      まぁ、受け取った部下は、もちろんリスクを感じて実行を渋るとは思うが、「成功したら高い報酬がある」とかなんとか言って利益をちらつかせる。
      それに乗ったら作戦は成功。自分の痕跡はないままに、ここの通りのイベントが大発生。自分は高みの見物としゃれこめるって寸法だ。

マリアン :なるほど。そうすれば、自分に影響が出ない範囲で行動ができると。

ブランドン:その通り。

マリアン :しかし、本当にできると思うか?不測の事態が起きる可能性はあるだろう?

ブランドン:そこはクレメントのやることだ。複数のプランを同時に発動させてやがるだろうよ。お互いの作戦がお互いの作戦をフォローし合う形にして実行してるはずだ。

マリアン :ふむ・・・手に入れた指示書はこれだけだ。奴に詰め寄るには証拠が弱い。

ブランドン:しかたねぇよ。まぁ、こっちの目的は奴を失脚させるのが目的じゃねぇんだ。あくまで俺らはヘブリニッジを「このままの状態」に保つのが仕事。だろう?
      だったら、俺らは俺らの仕事をやるだけだ。

マリアン :そうだな。やれやれまったく。厄介なことこの上ないよ。

ブランドン:で?どうするつもりだ?今後は。あんなタダもんじゃなさそうな嬢ちゃんも連れてきて。

マリアン :そのことにも絡むんだがな。聖十字協会の上層部は、今回の鬼と吸血鬼の事件にひどくご立腹でね。
      魔族たちの監視を強化するとのお達しだ。まぁ、その裏には封滅騎士のいいようにさせたくないという派閥争いも絡んでいるだろうがね。

ブランドン:なるほど、そのための補充要因か。・・・ほかの奴らも増員されんのか?

マリアン :ああ、これから三人一組、もしくは四人一組のチームで動いてもらうようになっている。

ブランドン:やれやれ、大変だな。・・・で、一番俺が聞きたいことなんだが。

マリアン :夕姫だろう?プロフィールはここにあるが、簡単に説明しよう。彼女はな「ヴィクティム」出身者だ。

ブランドン:なに?あれはとうの昔に解体されたはずだろう。

マリアン :それが、陰ながら細々と活動していたようでね。ウチの人間が発見して保護したんだ。

ブランドン:で?手に負えないからお株が回ってきたってか?

マリアン :私にな。能力や素質は抜群にいい。誤解しないでほしいが、彼女は性格も真面目だ。いきなり暴れだしたりなんぞは無いと言っていい。
      ・・・ただな。

ブランドン:ただ、なんだよ?

マリアン :兵器として扱われてきたようでな。非常に考え方が極端だ。「自分は道具である」「所有者の命令は絶対」ってな具合にね。

ブランドン:・・・頭痛がしてくるな。そりゃあれか?もし「今ここで死ね」とか言ったら真顔で自分の首掻っ捌く勢いのあれか?

マリアン :残念ながらその通りだ。だから、デリケートに扱ってくれ。

ブランドン:なんでそんな奴を俺んとこに持って来やがったよ。

マリアン :ここしかなかったんだ。マシューという緩衝材があるしな。

ブランドン:そうなればいいがな。マシューはこの件に関しては知ってるのか?

マリアン :知っている。ある程度お互いに会話しているようだしな。大丈夫だろう。

ブランドン:了解。なら後は下手を打たないように見ておくだけだな。

マリアン :ああそうだな。ま、それなりに良い仲になるように見ておいてくれ。

ブランドン:くっつけるつもりかよ?

マリアン :まぁいいじゃないか。それはそれで面白そうだからな。

ブランドン:ま、そこらへんもそれとなーく見ておくよ。

マリアン :たのんだ。さて、それでは私は自分の仕事場に戻るとするよ。

ブランドン:おう。お疲れ。・・・はぁ、やれやれ。

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  夜。マシュー、夕姫の部屋に段ボールに入った荷物を届けに来る。ドアをノックするマシュー。


マシュー :(ノック)狩屋さーん。いるー?荷物が届いてるんだけどー。
      ・・・いないのかな?狩屋さーん?
      あれ?鍵がかかってない?・・・狩屋さーん?入るよー?


  マシュー、荷物を持って入室。簡素な部屋。ベッドとタンスしか置かれていない。


マシュー :あれ?ホントにいないや。仕方ないな。これ、どこに置いておこう・・・?
      ここ・・・でいいかな?よいしょっと。

  マシュー、床に荷物を置く。ふと見た先に仮面が置かれているのに気付いた。


マシュー :これ・・・なんだろう?仮面・・・?黒くて、くちばしっぽい・・・。
      カラスのマスク?変なデザインだなぁ。
      ・・・被って大丈夫かな?よいしょと・・・うわ、案外視界遮られるんだ。


  夕姫、バスタオルを巻いただけの状態でシャワールームから出てくる。


夕姫   :・・・なに、してるんですか?

マシュー :あっ!?えっ・・と!?あの!これは!そのっ!


  夕姫、マシューが仮面をかぶっていることに気付いて顔色を変える。


夕姫   :・・・返して。それ。

マシュー :えっ?なに?いや、それより服を・・・

夕姫   :返して!(マシューに掴み掛る夕姫)

マシュー :わっ!?ちょっ!?えと、ちょっとまって!返す!返すからつかみかからないで!

夕姫   :外して!すぐに!私に返して!

マシュー :か、返すからとりあえず、落ち着い・・うわぁっ!?


  マシュー、バランスを崩す。倒れ込み、夕姫を床に押し倒す。


マシュー :いたた・・・あっ!えと・・・

夕姫   :・・・返して。

マシュー :あ、う、うん・・・(マスクを外して床に置く

ブランドン:おーい。マシュー。大丈夫か?なんかでかい音がしたけ・・・ど・・・

マシュー :あっ・・・。えっと・・・これは・・・。

ブランドン:・・・はぁ。ったく、なんだそういうことか。

マシュー :へ?

ブランドン:そういうことなら早く言っとけよ。もうお前ら「そういう関係」だったんだな。

マシュー :いや、ちょっ!?誤解です!そうじゃなくてですね!

ブランドン:いやいや。隠さなくていいって。お楽しみを邪魔して悪かったな。
      俺の事は気にしなくていいからな。俺はちょっくら『化け猫亭』にでもいってくるわ。

マシュー :いや、だから違うんですってーっ!?・・・行っちゃった。・・・ヤバイ、殺される。

夕姫   :・・・そういうことでしたか。

マシュー :えっ?

夕姫   :どいてもらっていいですか?

マシュー :あ、う、うん。ごめん。


  夕姫の上から離れるマシュー。少し離れたところに夕姫に背を向けた形で座る。


マシュー :ほ、ほんとごめんね!さっき、狩屋さんに荷物が届いてて!
      持って行かなきゃって思って!シャワー浴びてるとか気づかなくって!

夕姫   :マシューさん。

マシュー :は、はいッ!?

夕姫   :私を使いたければ、そう言ってもらって構いませんから。

マシュー :えっ・・・?使うって・・・。

  夕姫、バスタオルを取る。

マシュー :ちょっ!?何やって・・・

夕姫   :マシューさん。私は貴方の「道具」ですから。私を使いたいように使ってください。
      この体は「飼い主」である貴方の使いたいように。

マシュー :えっ。ちょっと。なに言ってんの!?
      「飼い主」?「道具」?・・・意味が解らない・・・。

夕姫   :さっき、ブランドンさんが言ってました。「おたのしみ」と。
      つまりは、私を犯したいのではないのですか?そのためにここに。

マシュー :違う!それは、勘違いだよ!そもそもシャワー浴びてるのには気づいてなかったわけで!
      僕は本当に荷物を届けに来ただけなんだ!

夕姫   :そうですか。・・・なら、そういうことに。

  夕姫、シャツを取り、羽織る。

夕姫   :ですが、先ほど私が言ったことは本心ですので。

マシュー :「使いたいように」・・・ってこと?

夕姫   :はい。私は「道具」であり、マシューさん。貴方は今、私の「飼い主」ですから。

マシュー :なんでそんなこと言うの・・・?狩屋さん。
      「道具」って・・・。それって人じゃないみたいじゃないか。

夕姫   :ええ、そうです。私は人ではないです。魔族を殺すために作られた「道具」。
      人間としての私は過去に死にましたので。

マシュー :死んだって・・・、狩屋さんは現に生きてるじゃないか!

夕姫   :言葉のあやです。私は、孤児となり施設に預けられたその日に一度死に。そして、「道具」として生まれ変わった。だから、今ここに居る私は単なる道具。

マシュー :違う!それは違うよ!狩屋さん!それはどう考えたって・・・。おかしいよ。

夕姫   :どうおかしいのです?知っているはずです。私は魔族を殺すために作られた兵器。
      壊れたとしても替えの効く「道具」なんです。ヒトの形をした「道具」。

マシュー :狩谷さんは人だよ!!なに言っているの!?

夕姫   :マシューさん。おそらく、貴方は理解できないのでしょう。だから、納得はしなくてかまいません。
      ですが、私はこう生きることしかできない。「こう生きることしか許されなかった」

マシュー :許されなかった・・・?

夕姫   :「お前は兵器であり、生きた道具。副産物として「女性」という要素を含んでいるため性処理の道具にもできる」

マシュー :やめろ!

夕姫   :「魔族を殺さなければ意味はない。」「持ち主の意に沿わなければ価値は無い」

マシュー :やめてくれ!

夕姫   :「使い物に成らなければ死」「思ったような成果を得られなければ死」「持ち主に逆らえば死」

マシュー :もうやめてくれっ!!

夕姫   :・・・そう言われたので今、私はここに居ます。今までの「飼い主」の思い通りにしてきたから生きていられた。

マシュー :そんなのは・・・違うよ。

夕姫   :違いません。これが私の「生きる方法」です。ですから、マシューさん。貴方は私を好きに「使って」ください。

マシュー :・・・・間違ってるよ。

夕姫   :そうですか。これ以上、話しても平行線のようですね。・・・マシューさん。

マシュー :・・・なに?

夕姫   :他に何か用件がありますか?

マシュー :・・・ないよ。

夕姫   :では、退室をお願いできますか。これでも人並みには恥じらいというものを持っていますので。

マシュー :・・・ごめん。

夕姫   :謝る必要はありません。貴方は私の「飼い主」ですから。

マシュー :っ!・・・おやすみ。

  退室するマシュー。残される夕姫

夕姫   :おやすみ・・・。今の私には縁遠い言葉・・・。


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夕姫   :私の「世界」はどこまでも残酷だ。でも、生きることはできた。
      誰が私の飼い主になっても、これからも私は生きていく。ただ、「殺す道具」として。

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ブランドン:次回予告。
      少女の言う「飼い主」は告げる。

マリアン :残酷だけが世界ではないと。

マシュー :Night/Knight 第25話 残酷人形(ざんこくにんぎょう)

夕姫   :その四肢は赤に染まる




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