Night/Knight 第23話 幕間 その1 作:福山漱流

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夜巳鎮(やみ まもる):純血の吸血鬼。見た目17歳くらいだが、実年齢は200オーバー。感情の起伏が浅く、常に怒っているように思われる。

マルリス = アヴィラ:純血吸血鬼であり、吸血鬼界の名家『アヴィラ家』の子女。見た目18歳くらいの少女だが、実年齢は200オーバー。
           生粋のお嬢様であり、口調もお嬢様。しかし、怒ると地が出てしまい荒い口調になる。

アルマ・フォン・ターク:純血吸血鬼であり、吸血鬼界の名家『ターク家』の家長。見た目20歳くらいだが、実年齢は300オーバー。
            騎士道に準じた在り方を重んじる。

ミーシャ・シモーヌ:純血吸血鬼であり、ルドルフの弟(もしくは妹)。性別不明。精神的にも肉体的にも幼く、歪んだ感情表現をしがち。
          知識、魔術すべてにおいてルドルフより遥かに優れており、それを畏れ、憎んだ兄から幼いころから虐待を受けていた。
          その結果として、精神的に「壊れて」しまった。

バラック・べリンガル:死霊魔術を得意とする魔術師。どこかに所属することのないフリーランス。
           人や魔族を呪い傀儡とする事から「骸狩り」という二つ名を持つ。
           敵対者はすべて「コレクション対象」としか見ておらず、見下している。

♂夜巳鎮:
♀マルリス ・アヴィラ:
♀アルマ・フォン・ターク:
♀ミーシャ・シモーヌ:
♂バラック・べリンガル:
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マルリス:行きなさい!ブラッドエッジ!
     ふん、これくらい労働のウチに入らないわね。

鎮   :ご苦労なことだな。マルリス。

マルリス:鎮様!?(咳払い)・・・な、なにをしに来たんです?

鎮   :すこし、これから四名家会談を執り行う予定でな。

マルリス:三名家会談の間違いじゃなくって?ルドルフが死んだのですから。

鎮   :それについての会談だ。アルマには渡りをつけてある。奴の事務所で話すぞ。

マルリス:あっ、ちょっと鎮様!?・・・まったく、言うだけ言って勝手に行くんだから。

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アルマ :おや?ようこそ、マルリス嬢。

マルリス:どうも。アルマ様。

アルマ :夜巳のに呼ばれてきたのだろう?まぁ、掛けたらどうだ?

マルリス:そうさせてもらうわ。・・・はぁ。

アルマ :茶でも持て成そうか。とはいえ、今スコッチしかないのだがね。

マルリス:結構。私は紅茶しかたしなみませんの。

アルマ :そうか・・・。新鮮な血のアクセントも効いて美味なのだが。

鎮   :遅れてすまないな。

マルリス:いつぞや言っていたことをお忘れかしら?鎮様。
     主催は早めにいるのがスジじゃなかったです?

鎮   :端からそのつもりだったさ。奴がごねなければな。

アルマ :それで?わざわざこんな会を持ったんだ。何か重要なことがあるのだろう?

鎮   :ああ、そのことなのだが。まず、紹介したい奴がいる。

ミーシャ:こんばんわ。みなさん。

マルリス:ミーシャ!?あなた、どうしてここに。

アルマ :シモーヌの所の次子(じし)か。彼がどうした?

ミーシャ:あ、初めましての人が居るー。

鎮   :そうか、アルマは知らなかったか。

アルマ :ん?彼か?ああ、名前は聞いていたが、会うのは初めてだ。

マルリス:あの、アルマ様。少し、勘違いされていますわ。

アルマ :勘違いとは?

鎮   :ミーシャは女だ。一応な。

アルマ :なっ!?

ミーシャ:そうみたいだよ?僕はよくわかんないけど。

マルリス:あなたの性別の話ですわよ?よくわかんないもなにもないでしょうに。

鎮   :まぁ、申請された性別が「女」ってだけだから、本当に女かどうかはわからんがな。

ミーシャ:ん?そなの?ま、僕はどーでもいいやー。

アルマ :・・・う、うむ。とりあえず、初にお目にかかる。私はターク家が家長アルマ・フォン・タークと申す者。

ミーシャ:アルマ・・・さん。うん。わかった。僕はミーシャ・シモーヌ。よろしく!ぎゅーぅ

アルマ :ちょっ・・・おい。抱き着くな。

マルリス:離れなさいって!

ミーシャ:うわぁ!

マルリス:で?鎮様。このミーシャが我々の話にどうかかわりが?

鎮   :・・・先日の吸血鬼と鬼の闘争。その背後で、アヴィラ家がシモーヌ家を倒したのは知っての通りだ。

アルマ :そうだな。マルリス譲、その後の怪我は大丈夫か?

マルリス:ええ、この通り。

アルマ :ほう、きれいなものだ。

マルリス:休息は十分に取りましたからね。さっきもそこらのチンピラを絞めてきたところですわ。

アルマ :チンピラとな。

マルリス:シモーヌ家の管轄地域でね。勝手に商売をしてた輩がいたの。ウチが一手に引き受けてた魔術装具を横流ししてやがった。

アルマ :なるほど。あと、マルリス嬢。地が出ているぞ?

マルリス:(咳払い)気の所為じゃなくって?

鎮   :・・・話を進めるぞ。さっきのマルリスの話とも絡んでくるのだが、シモーヌ家が潰れてしまった結果。今、シモーヌ管轄だった地域が空白となっている。そして・・・。

アルマ :我々の仕事に障害の出る活動をしている奴らが出てきたと。

マルリス:そうね。おかげで休まるときがないわ。

アルマ :なるほど、だからここで支配地域の分配をしようということか。

マルリス:まぁ、いい加減、宙に浮いたままにしておくのはやめにしておかないとね。これ以上要らない仕事が増えるのはごめんですわ。

鎮   :その件だが、折半はしない。

アルマ :・・・ほう?

マルリス:鎮様。それはどういう意味ですの?

鎮   :その通りの意味だ。シモーヌ家の領地はシモーヌ家が管理する。

マルリス:鎮様。ルドルフは死んだんですのよ?それなのに、シモーヌが管理するとはどういう・・・。

アルマ :まさかとは思うが・・・これか?

ミーシャ:んー?なになにー?

鎮   :そう、そのまさかだ。

マルリス:・・・ヤクのやりすぎで脳が溶けましたか?鎮様。それとも耄碌(もうろく)しました?
     こんなのが今のシモーヌ家を仕切れると?

鎮   :仕切れるから言った。これを使う。

アルマ :それは・・・。礼装破壊の呪符か?

鎮   :こいつの脳内に仕込まれている礼装を破壊する。

マルリス:脳内に礼装ですって?

鎮   :気づきにくいかもしれないが、中に思考阻害の礼装がある。探知してみろ。

アルマ :少々頭、失礼するよ?・・・たしかに。なにかおかしな術式が働いているようだな。

マルリス:もしかして、これ。ルドルフがやったと?

鎮   :可能性は十分にある。奴はとことんまでにこのミーシャを恐れていたからな。

ミーシャ:がーおー。どう?びっくりした?ねぇ、びっくりした?

アルマ :・・・少々。それで?夜巳のはそれを壊せば、彼・・・いや、もとい彼女の思考はましになると考えているわけだな?

鎮   :まぁな。少し賭けにはなるが。

マルリス:まさか、そんなことの許可を取る取らないで我々を呼んだのです?
     だとしたら茶番ですわ。時間の無駄にしかならないですし。

アルマ :確かに。そういった些事は貴君に任せるとしていたからな。

鎮   :形だけとしては必要だ。ともすれば混血共の元老院が口をはさんでくる可能性があるからな。
     ・・・この件に関しては以上だ。あと、もう1つ耳に入れなければならないことがある。

マルリス:なんです?これ以上に重要なお話ですの?

鎮   :ああ。この街に流れの魔術師が忍び込んだという情報が入ってきた。

アルマ :なんだ、その程度の事か。それがどうした?

マルリス:魔術師なんてそこらへんにごろごろといるじゃないですの。

鎮   :確かにいる。だがな。こいつはそこらの魔術師とは違う。

アルマ :というと?

鎮   :バラック・べリンガル。通称『骸狩り(むくろがり)』と呼ばれている。

マルリス:あぁ、それなりに聞いたことがありますわ。

アルマ :むしろ、噂を聞かない方が難しいな。

ミーシャ:僕、しらなーい。だれ?その人。

アルマ :バラック・べリンガル。どこにも所属しないフリーランスの魔術傭兵だ。
     死体や死霊を使った魔術や呪いといった類の術式にも長けた奴だ。

マルリス:奴によって殺された相手は、身体も魂も奴の手に落ちて、どちらもが使い物に成らなくなるまで使役される。
     よって付いたあだ名が『骸狩り(むくろがり)』

ミーシャ:へー!その人強いの!?

アルマ :これまで多くの魔術師や魔族が挑みその尽くが敗れたと聞く。それなりに骨のあるやつではないだろうか。

鎮   :ブランドンから警戒するように連絡が来た。まぁ、そう恐れることはないだろうが、部下や支配域の奴らが『骸狩り(むくろがり)』の獲物になるのは癪(しゃく)に障るだろう?

マルリス:確かに。ウチの者どもに、警戒するよう伝えますわ。

アルマ :こちらとしてもそうだな。市中警戒の回数を増やそう。

ミーシャ:骸狩り・・・。強いおもちゃ・・・。ねぇ、鎮さん!

鎮   :なんだ?

ミーシャ:コレ、壊していいの?

鎮   :ああ、かまわない。だが、ミーシャ。こいつは・・・

ミーシャ:わかった!じゃあ、コイツ僕にちょうだい!壊してくる!

マルリス:ミーシャ!あなた今の話聞いてましたの!?勝手な行動は・・・

ミーシャ:強くて怖い人なんでしょ?だから気を付けよう!ってことだよね。大丈夫!まかせて!

アルマ :まて、シモーヌの。如何に貴君は四名家の人間とはいえだな・・・

ミーシャ:もー、みんな心配性だなー。怖い人なんだったら、殺しちゃえばいいんだよ?そうすればみんな怯えなくて済むんだから。

アルマ :簡単に言うが・・・

ミーシャ:あ、もしかして手柄が欲しいの?だめだからね!僕が殺すんだから!
     そうと決まれば探さなくっちゃ!じゃあね!みんな!いってきまーす!

アルマ :・・・なんだ、あの台風のような奴は。

マルリス:鎮様?これで、さっき言った礼装がどうのという作戦が失敗したら、貴方の所為ですからね?

鎮   :まぁ、何とかなるだろう。それよりも、今。もう一つ問題が発生したな。

マルリス:仕方ありませんわね。ミーシャが行きそうな場所の住民は避難させますわ。

アルマ :では、うちから偵察隊を派遣しよう。シモーヌのの足取りがつかめ次第マルリス嬢に連絡を入れさせる。

マルリス:おねがいしますわ。

鎮   :俺はミーシャがやられないように控えよう。それと、骸狩りの燻りだしだな。

マルリス:頼めます?

鎮   :ああ、まだ夜が明けるのには時間がある。

アルマ :全く、ひと騒動が終わった直後にこれか。休めんな?夜巳のも。

鎮   :ああ、とりあえず、行動を開始しよう。すばやく、ひそかにな。


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バラック:ふんふん。ひぃ、ふぅ、みぃ・・・。クハハ、今日一晩でなかなかいい獲物が手に入りましたねぇ。
     ワーウルフに、ナーガ。ハーピィ。魂も肉体も美しく強靭。素晴らしいコレクションだ。
     ・・・しかし、私が欲しいものはそれじゃない。・・・『夜の王』。
     あの凛々しく高貴な存在を手に入れること。そのためにわざわざここに出向いたのですから。

ミーシャ:おにーさん。こんばんわ。

バラック:おや?君は・・・吸血鬼だね?こんばんは。いい夜だね。

ミーシャ:うん。そだね。ねぇ、おにーさん。遊んでくれない?

バラック:遊ぶ?どうしたのかな?お友達とはぐれたのかな?

ミーシャ:ううん。違うよ。暇だから遊んでくれる人を探してたの。

バラック:そうか・・・。でも君。いいのかい?お父さんやお母さんは心配しないかい?

ミーシャ:大丈夫。お父さんもお母さんも居ないから。心配する人はいないよ?

バラック:孤児・・・か。確かにこの荒れた街なら孤児の一人二人は居ておかしくないな。
     丁度いい。心配する者がいないならコレクションに加えるのも悪くない。

ミーシャ:なにぶつぶつ言ってるの?遊んでくれないの?

バラック:いいよ。何して遊ぼうか?

ミーシャ:やった!ありがと!それじゃあ、鬼ごっこしよ!

バラック:鬼ごっこか。いいだろう。それじゃあ、私が鬼かな?

ミーシャ:ううん。おにーさんは逃げるの。だって僕は吸血鬼だからね?

バラック:ははっ、そりゃあ大変そうだ。できるかな。

ミーシャ:できるはずだよ?だって、おにーさんって・・・『骸狩り』でしょ?

バラック:っ!?貴様、なぜそれを。

ミーシャ:魔族たちいーっぱい殺したんだよね?っていうことは追いかけっこは得意なんだよね?
     だから、鬼ごっこ。捕まったら、おしまいの鬼ごっこ。・・・しよ?

バラック:クハハッ!・・・いいだろう。正面切っての決闘は久しくしていなかった。受けてたとう、幼き吸血鬼!
     行け!我が眷属たちよ!「ソウル・ハンガー」!

ミーシャ:ふぅん。亡霊か。マーク!サリヴァン!食べていいよ。

バラック:魔獣だとっ!?だが、死霊を食えるはずがない!呪い殺せ!亡霊たちよ!

ミーシャ:本当に食べられないと思った?

バラック:なっ!?・・・にぃ・・・?

ミーシャ:この子たちはね?ソウルイーター。魂が大の好物なんだ。だから、おにーさん。もっと出していいよ?

バラック:くっ!ならばこれだ!さまよえる肉体は生の脈動を求む。「リビング・デッドマーチ」!
     魂なくした亡者の群れだ!これらを相手にできるかな!?

ミーシャ:便利そうなかばんだね。いっぱい出てきた。いち、にぃ、さん、しぃ・・・んー数えきれないや。
     じゃあ、こうしよう。マーク、サリヴァン。下がっててね?「サディコ・ルーチェ」!

バラック:何をする気か知らないが!少々の魔術でこいつらは止まら・・・え?

ミーシャ:あ、やっぱり。神聖魔術は一発なんだ。

バラック:・・・バカな。魔族が神聖魔術を使うだと・・・?あ、ありえん!

ミーシャ:ねぇ、おにーさん。もう終わり?
     終わりなんだったら、早く鬼ごっこしよう?僕つまんない。

バラック:私の、死霊たちが・・・?こんなにもあっけなく・・・?

ミーシャ:ねぇ、聞いてる?オニーサン。

バラック:認めるか・・・認められるかっ!こんなことあってはならないんだ!
     其は闇の根源。妬み、怒る感情の刃。穿ち、貫く混沌の恨み。「グロル・アシュテクング」!

ミーシャ:うわぁっ!?

バラック:・・・ははっ!ハハハッ!どうだ!ありとあらゆる恨みが籠った呪詛の奔流!
     一度受けたら体中をむしばむ憎悪に呑まれて焼かれる!

ミーシャ:ん。・・・んー。ヒリヒリする。違う?ちくちく?ピリピリ?ま、いいか。

バラック:・・・ハァ?待てよ!?上位呪術だぞ!?そこらの魔族でも足掻けぬほどの呪いだぞ!?そ、それを受けて・・・平気だと!?

ミーシャ:いい加減、飽きてきちゃった。オニーサン。そろそろ逃げないとダメだよ?

バラック:く、くそっ!

ミーシャ:あ、やっと鬼ごっこ開始だね?十秒待つからその間に逃げてねー

バラック(М):奴の言葉に従うようで癪だが・・・。ここはまず即時撤退して、態勢を立て直す!
       リーンフォース、レッグストレングス。

ミーシャ:じゅーう、きゅーう、はーち、なーな

バラック:逃げ切れる!この速度なら、いかに吸血鬼といえども・・・

ミーシャ:ご、よん、さん、にぃー、いーち。ドーン。

バラック:なっ!?

ミーシャ:おーいつーいた。

バラック:ばかな。3キロは離れてたはず・・・。

ミーシャ:はい、おにーさんの負けー。そんで、負けた人はぁ罰ゲームぅー

バラック:ば、罰ゲーム・・・

ミーシャ:何がいい?拷問?それとも、僕の友達の餌になる?

バラック:まて!まってくれ!わ、私は。

ミーシャ:なぁに?

バラック:私は、まだ死にたくない・・・。
     なんでもする!お前の、いや!貴方様の望むこと!なんでもいたします!ですので命だけはっ・・・!

ミーシャ:なんでも・・・か。そか、じゃあオニーサン。

バラック:なんでしょう?

ミーシャ:家族になってくれる?僕の、家族に。

バラック:それって。まさか・・・?

ミーシャ:大丈夫、チョーっと痛いだけ。すぐに、眷属にしてあげるから。

バラック:それって、や、まて、待ってくれやめ、やめろぉぉぉ!

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鎮   :ふん。なんとかなったか。

ミーシャ:よわっちかったー。つまんなーい。

鎮   :けれど。よかったな。いい奴隷が手に入ったじゃないか。

ミーシャ:どれい?違うよ?僕の家族だから。

鎮   :そうか、まぁ、使い方はどうしようが構わんがな。

ミーシャ:それで?鎮さん。僕は合格?

鎮   :ん?なんのことだ?

ミーシャ:これ、試験でしょ?四名家に入れるかどうかの。

鎮   :フン。さぁ、どうだろうな。

ミーシャ:ンフフ、ま、いいや。つまんない割に楽しかったし。ありがと、鎮さん。

鎮   :ミーシャ。

ミーシャ:なに?

鎮   :明日から忙しくなるぞ?

ミーシャ:うん。任せておいて。それじゃね。

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ミーシャ :次回予告

アルマ  :魔術師たちにも一時の安寧が訪れる。

マルリス :そして、新たな仲間も。

鎮    :Night/Knight 第24話 幕間(まくま) その2

バラック :不器用な少女は新たな居場所へと。



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