Night/Knight 第13話 街の仕組み 作:福山漱流

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マシュー・フランクリン:22歳。聖十字協会の魔術師。爵位は無し。
            新米魔術師であり、ブランドンの部下としてヘブリニッジに派遣された。
            使用魔術は基礎的なものを幅広く扱い、威力も平均的。典型的な知性派であり、近接戦闘には向かない。
            優等生タイプで、頭もよく回るが、ルールに縛られやすく、柔軟に対応できない面を持つ。      
      

ブランドン・マールスフェルト:20代後半。聖十字協会所属の魔術師。男爵の爵位を持つ。
               鎮とは腐れ縁のライバルであり、しょっちゅう小言をいう保護者の様な存在。
               術式形態はアゾット剣を用いた魔術を織り交ぜた近接攻撃。及びアゾット剣に封印された人工魔獣をつかったもの。

マリアン・グロリア・シサリーザ:20代後半から30代。聖十字協会所属の魔術師。伯爵の爵位を持つ。
                聖十字協会の幹部であり、普段の仕事はもっぱらのデスクワークである。
                ブランドンの直属の上司。若くして聖十字協会の幹部となっただけあり、頭の回る策師。
                普段は飄々としているが、締める時には締める抜け目ない人物。
                結界術に長け、護身術式である結界術であっても中位魔族相手に苦戦しないほど。

藤堂小虎(とうどう ことら):定食屋『化け猫亭』の店主。見た目40代後半。
              ヘブリニッジという街が出来た当初からいる古株の魔族。
              古くからいるため、ヘブリニッジにいるあらゆる魔族に顔が利く。
              性格は頑固で融通が利かない江戸っ子気質。

お紺:ヘブリニッジに住む妖狐。見た目30台後半から40台。性格は快活であり姐御肌。
   幼い妖魔たちに文字書きや算数を教える寺子屋を営む反面、裏ルートで街への輸入を禁止されている薬草を流している。
   小虎とは幼なじみであり、しょっちゅう将棋を指している。勝ち負けではすこしリード中。


ブランドン♂:
マシュー♂:
小虎♂:
マリアン♀:
お紺♀:
______________________________________________

マシュー :う・・・うん・・・?

小虎   :だーっ!畜生!また負けた!

お紺   :はっはっは。将棋になると弱いなぁ、虎の字。

小虎   :もう一回だ!もう一回!

お紺   :やめときな。今日は勝てないんだから。

小虎   :勝つ!なにがなんでもな!

マシュー :ここは・・・『化け猫亭』?

小虎   :お、起きたか。小僧。

マシュー :小虎さん。僕は一体どうし・・・いつっ!

お紺   :安静にしておきな。こっぴどくやられてんだから。

小虎   :ったくよぉ・・・。お紺。裏から薬草取ってくる。

お紺   :あいよ。店番はしとくよ。・・・で、アンタはブランドンの弟子だね?

マシュー :え?僕のこと知って・・・?

お紺   :当たり前じゃないか。今この街じゃ、あのブランドンが若い魔術師を連れてるって有名だよ。

マシュー :そうだったんですね・・・。

お紺   :挨拶がまだだったね。私はお紺。この街で寺子屋をやってる者さ。

マシュー :聖十字協会所属。マシュー・フランクリンです。

お紺   :マシューね。よろしく。

小虎   :ほれ、小僧。薬草に浸した湿布を持って来たぞ。痛いとこに貼っとけ。

マシュー :ありがとうございます。

小虎   :んで、なにがあったんだ。小僧。

マシュー :えっ?

小虎   :俺が、ぶっ倒れてたお前を連れて帰ってきたんだぜ?
      聞く権利くらいはあるだろ?

お紺   :ま、気になるところではあるわなぁ。

小虎   :なにがあった。小僧。

マシュー :えっと・・・ですね。その、すごく言いづらいんですが・・・。

お紺   :聞くだけ聞くから言いなさいな。

マシュー :その・・・ブランドンさんと衝突しまして・・・

小虎   :そらぁ・・・つまり・・・

お紺   :喧嘩したってことかい。

小虎   :なっはははは!ガキ共はやっぱりガキか。あはははは!

マシュー :わ、笑わないで下さいよ!

お紺   :で、その原因はなんだい。ブランドンとやり合ったきっかけは。

マシュー :えっと、吸血鬼と、鬼のことで。

小虎   :あー。あれか。

お紺   :ついに衝突するみたいだねぇ。

小虎   :んで?それがどうした?

マシュー :吸血鬼と鬼の抗争に介入すべきと言ったんです。そしたら。

小虎   :殴られた。と。

お紺   :へぇ?あのブランドンがねぇ?

小虎   :・・・小僧。

マシュー :あ、はい。

小虎   :それだけか?ブランドンに言ったのは。

マシュー :一応、そう・・・だと思いますけど。

小虎   :んー。だとしたら、短気すぎるな。ヤツらしくねぇ。

マシュー :僕は、ただ戦火を広げない為に、今動くべきと言っただけなんです。
      昔から衝突しあっていた両者が、全面戦争する状態になっているわけですから。
      早く手を打たないと、街の外にまで被害が・・・

小虎   :おい。小僧。今、『街の外』がっって言ったか?
      そりゃ、言い換えるとこの街の中はどうなっても良いって言ってんだぞ?

マシュー :えっ・・・?

お紺   :止しなよ、虎の字。みっともない。

小虎   :フン。

マシュー :あの・・・

お紺   :聞いたのが、私らでよかったね。マシュー。
      四名家あたりに聞かれていたら、その傷じゃ済まなかったよ。

マシュー :僕は、何かへんなことを・・・?

お紺   :そうさ。そりゃ、ブランドンも怒るさ。その考えじゃね。

マシュー :考え・・・?

お紺   :気付いてなさそうだね。

小虎   :バカか。てめぇは。

お紺   :仕方ないね。それじゃ、ここは私が一肌脱ぐかねぇ

小虎   :んなことする必要はねぇだろ。お紺。

お紺   :若人(わこうど)がこの街で自滅するのは寝覚めが悪いからね。

マシュー :えっと、あの・・・これはどういう流れでしょう?

お紺   :マシュー。なんで、ブランドンが動かないか、知りたくはないかい?

マシュー :知っているんですか?

お紺   :知ってるもなにも、ヤツはこの街のルールを守ってるだけだからな。

マシュー :ルール・・・ですか?

お紺   :そうさ。単純なルール。
      『魔族の政治に手を出すな』っていうね

マシュー :手を出すなって・・・。

小虎   :そんな事はできねぇって言いたそうだな。

マシュー :だって、僕たちはそのためにこの街に居る訳で・・・

お紺   :その考えが間違っているのさ。

マシュー :え?間違いって・・・。

お紺   :マシュー。私ら、魔族をなんだと思ってる?

マシュー :えっ?なんだって言われても・・・

小虎   :手の付けられネェ化け物とでも思ってるか?

マシュー :そんなわけないでしょう!

お紺   :でも、手を出したいんだよねぇ?マシュー。

マシュー :それが、役目ですし・・・

お紺   :この街で『魔術師が手を出す』って事はね。
      魔族にとってはとても気にくわないんだよ。

マシュー :気にくわない・・・ですか?

小虎   :俺ら魔族を侵略者みたいに見てるんだろ?この街の『外』はよ。

マシュー :えっ、いや、そんなことは・・・
      まぁ、ごく一部でそんな考えの人はいますけど・・・

小虎   :ほれみろ。居るんじゃねぇか。
      んで、そんなやつらの為にこの街にはバカでかい壁と、俺らに銃口が向いてる魔術砲があるんだろ?

お紺   :全く、止しなって言ってるじゃないか。虎の字。喧嘩腰で話しても結論が遠のくだけだよ。

小虎   :けっ。

お紺   :話を戻すよ。そこの虎の字が今言ったけどね。
      人間には少なくとも私達「魔族」を良く思ってないヤツらが居る。

マシュー :はい。申し訳ないことですけど・・・

お紺   :で、この街の「魔族」はね。こう思う訳さ。
      自分達はこの街に『閉じ込められてる』ってね。

マシュー :そんな事は無いです!ちゃんとした手続きさえすれば街の外に出ることだって!

お紺   :それが通るのは、ごく一部なの。しらないのかい?

マシュー :えっ・・・そうなんです・・・?

小虎   :ふん。『外』はこれだから好きにならねぇんだよ。

お紺   :どういう振り分けをしてるか全く知らないけどね。
      この街を出られるのはほぼ、この街のトップに君臨しているトコしか無理なのさ。

マシュー :この街の・・・トップ・・・

小虎   :吸血鬼の四名家(よんめいけ)と、鬼島組(きじまぐみ)だな。

お紺   :ま、そんなもんだから、余計にね。『閉じ込められてる』って思うのさ。
      
マシュー :そんなの、間違ってますよ・・・!

小虎   :だが、これが現実なんだよ。

お紺   :私らに残ったプライドは自治権って事くらい。
      で、ここからが重要。
      この街で問題が起こったとして、魔術師が事件解決に乗り出したらどう思う?

マシュー :それはえっと・・・

小虎   :この街の不満が『外』に流れ出すんだよ。

マシュー :そんな・・・。

お紺   :それを知ってるから、ブランドンは動かなかった。
      ただ、サボってる訳じゃないのさ。

小虎   :これでわかったろ。殴られた訳は。

マシュー :・・・はい。

お紺   :ま。解ったなら、早急に謝ってくることだねぇ。
      でも、その前に。・・・虎の字。

小虎   :あいよ。待ってな。

マシュー :えっと・・・?

お紺   :まずは腹ごしらえしなさいな。
      ここは私が持つからね。

小虎   :今日の定食は、湯豆腐の吸い物とカレイの煮こごりだ。しっかり食っとけ。

マシュー :・・・はい。ありがとうございます。

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マリアン :で?喧嘩して帰ってきた訳か。ブランドン。

ブランドン:悪いかよ。

マリアン :まるで子供だな。

ブランドン:うるせぇ!

マリアン :ガキめ。

ブランドン:腹立つな。

マリアン :フフン。ま、冗談はさておき。
      マシューは今どうしてる?

ブランドン:『化け猫亭』の親父が面倒見てる。お紺のばぁさんもいっしょだ。

マリアン :そうか、なら安心だ。

ブランドン:余計な事を吹き込まれることも無いしな。

マリアン :今頃、お紺さん辺りがマシューの考えを改めている所かも知れないな。

ブランドン:ま、そうだろうな。それを思っておいてきた。

マリアン :なるほど。それにしても本当に、良い関係性を保てていると思うよ。

ブランドン:だから、俺らが街の『影』で居られるんだけどな。

マリアン :間違いないな。さて・・・本題に入ろうか。

ブランドン:その前に、一本良いか?

マリアン :煙草か?構わんさ。

ブランドン:すまねぇな。

マリアン :一本寄越すならな。

ブランドン:・・・めずらしいな。

マリアン :そうか?私だって喫煙者さ。

ブランドン:ほらよ。葉は俺特製のスペシャルブレンドだ。

マリアン :この香り。セージが入ってるか?

ブランドン:一応な。魔力補強も兼ねてるからな。この煙草は。

マリアン :ちゃっかりしているな。

ブランドン:褒めてもなにもでないぞ。

マリアン :貶しているんだよ。

ブランドン:はいはい。んで?本題はいいのか?

マリアン :ったく。・・・本題は、目下の頭痛の種のことさ。

ブランドン:吸血鬼と鬼の衝突か?

マリアン :どうなっている?

ブランドン:一週間後に戦闘になる。今はどっちもそれに備えてるとこだな。

マリアン :全面戦争か。騒がしくなるな。

ブランドン:そうなる。とはいえ、鎮(まもる)が間に入ってるからな。なにかするとは思うが。

マリアン :鎮火の鍵は『夜の王』次第か・・・。とはいえ、むやみに介入する訳にも行かないな。

ブランドン:そっちはどうなんだ?今回の事件に魔術師側の介入はありそうか?

マリアン :それがな・・・。封滅騎士団(ふうめつきしだん)の上層部がどうにも怪しい。

ブランドン:封滅騎士上層部が?どうしてだ。
      あいつらが魔族に手を貸すタマとは思えねぇ。何が目的だ?

マリアン :そこまでは解らん。
      だが、封滅騎士団が所有する、ここセントマリーの駐屯地に、搬入される物資が以前より増えている。

ブランドン:状況だけ見たら、手を引いているかもしれねぇってところか?

マリアン :だが確定じゃない。近々、大規模な戦闘予行会が予定されているからな。

ブランドン:それって、一般にも公開されるやつか。魔術師の模擬戦闘が見られるっていう。

マリアン :ああ。そうだ。だから、莫大な物資が搬入されたからといって難癖は付けられない。

ブランドン:厄介な存在だな。あっちは。

マリアン :聖十字協会と封滅騎士団。母体は同じであれ、お互いがお互い目の上のたんこぶだからな。しかたないさ。

ブランドン:バカバカしいにも程があるぜ。全く・・・。
      とりあえず、街の中に関してだが、俺は静観しておくつもりだ。

マリアン :それでいい。『夜の王』から連絡があるまでは、な。

ブランドン:了解。そうするわ。
      あ、さっきの上層部が絡んでいるっつー話。鎮(まもる)には伝えるか?

マリアン :いや、黙ったままで良い。下手に情報を伝えて、外にまで波紋は呼びたくない。

ブランドン:ま、そりゃそうか。
      鎮はともかく、他の四名家がどうこうしてくると厄介だ。

マリアン :私は、引き続いて封滅騎士を警戒しておく。
      なにか分かり次第、また使い魔をやる。

ブランドン:あいよ、待ってるぜ。

マリアン :じゃ、お互いスマートに行こうか。

ブランドン:おう、『影』らしくひっそりと、な?

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お紺   :次回予告

小虎   :衝突の日が刻々と迫る中。

マシュー :鬼の当主は心中(しんちゅう)を乱していた。

マリアン :Night/Knight 第14話 Do or Not

ブランドン:思いとは裏腹に、事態は進む。




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