Night/Knight 第11話 レイズ・ベット 作:福山漱流

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夜巳 鎮(やみ まもる):純血の吸血鬼。見た目17歳くらいだが、実年齢は200オーバー。感情の起伏が浅く、常に怒っているように思われる。

水原 裕美(みずはら ひろみ):夜巳に仕える吸血鬼。20代の見た目をしている。
              人間との混血である故に、捨てられて居たところを鎮に拾われる。瀟洒で人付き合いの良いタイプ。

サンタナ・A・スミス:魔界にあるBar『ファンタズム』のオーナーであり亡霊。お調子者な性格で盛り上がることが大好き。
          

アルマ・フォン・ターク:純血吸血鬼であり、吸血鬼界の名家『ターク家』の家長。見た目20歳くらいだが、実年齢は300オーバー。
            騎士道に準じた在り方を重んじる。

マルリス = アヴィラ:純血吸血鬼であり、吸血鬼界の名家『アヴィラ家』の子女。見た目18歳くらいの少女だが、実年齢は200オーバー。
           生粋のお嬢様であり、口調もお嬢様。しかし、怒ると地が出てしまい荒い口調になる。

ダレル・ハイド:吸血鬼であり、マルリスの側近。ヘブリニッジの治安維持を務める『アヴィラ家』の重役。筋骨隆々の大男。
        見た目30代後半。荒事対応や事件現場整理などの外役の責任者を務める。
        荒っぽい口調だが、身内に対して義理人情の厚い人物。

ウォリス・ヒューズ:吸血鬼であり、マルリスの側近。ヘブリニッジの治安維持を務める『アヴィラ家』の重役。細身の男性。
          見た目、30代前半。事務処理や、情報管理などの内役の責任者を務める。
          折り目正しい人物だが、神経質が欠点。


♂鎮:
♂サンタナ:
♂ダレル:
♂ウォリス:
♀裕美:
♀アルマ:
♀マルリス:

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鎮   :鬼の一族、鬼島家との戦闘となった吸血鬼マフィア、アヴィラ家

サンタナ:鬼島家党首との和睦で一時休戦に持ち込めたものの。
     
アルマ :吸血鬼と鬼の抗争は避けられない状況となった。

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サンタナ:Night/Knight 第11話 レイズ・ベット

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マルリス:負傷者は奥の部屋に!魔力が残っているヤツは負傷者の救護!

ウォリス:あっ!お嬢様!どうしたんですこれは!?

マルリス:それは後から説明する。とりあえず今は・・・つっ・・・。

ウォリス:お、お嬢様!?負傷されているじゃないですか!

マルリス:うっせぇ!それより負傷したヤツらの方が先だ!

ダレル :だから、お嬢も負傷者なんだっての!大人しくしてくれ!

マルリス:ほっとけ!私は大丈夫だ!

鎮   :全く、騒々しい事だな。

マルリス:誰の所為か解って言ってますの?

ダレル :少なくとも『夜の王』の所為じゃあないがな。

ウォリス:とりあえず、お嬢様は自室へ。手当てします。
     ダレル。鎮様を来賓室(らいひんしつ)に。

ダレル :おう、わかってるっての。こっちへ。

鎮   :ああ、済まないな。後でな、マルリス。

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ウォリス:失礼します。

鎮   :ウォリスか。どうだ?マルリスの様子は?

ウォリス:安定しました。後は、お嬢様の自然治癒力次第です。

鎮   :そこそこ酷くやられていた様だな。

ウォリス:肋骨骨折と腕に重度のヤケドですね。あと、鉄骨の一部が腹部に刺さってました。

鎮   :フン、思っていたより重傷だったか。

ダレル :アンタ、ウチのお嬢を何だと思ってるんだよ・・・

鎮   :そうだな。・・・血が上りやすいお子様だな。

ダレル :お、おう・・・。

ウォリス:あ、ある意味、的確ですね・・・(苦笑

マルリス:誰が、お子様ですって?

ダレル :お、お嬢!?音もなく忍び寄るなよ!

ウォリス:も、もう戻って来たのですか!?

マルリス:大丈夫と言ったはずでしょ。

ウォリス:ですが、あの傷では1日安静にしておかないと・・・

マルリス:だから!大丈夫っつってんだろ、しつけぇんだよ!ウォリス!

ウォリス:そうは言いますけど・・・

ダレル :腹に随分な穴を作ったんだぜ?仮止めはしたけどよ。それじゃあ完治してねぇんだぞ。

マルリス:そこにいる鎮様の使用人のおかげで完治したの!

ウォリス:はい?

裕美  :少しはお役に立てましたでしょうか?

マルリス:・・・ええ。いささか不服ですが。

鎮   :フッ・・・そうか。ならいい。

ダレル :ちょ、ちょっと待ってくれ!お嬢!それに『夜の王』!あんたら何言ってんだ!?

ウォリス:腹部の状態はとても悪かったはずです!それを完治レベルに治したんですか!?

マルリス:うるさいわね。そんなに気になるなら見せてあげますわ。ほら。

ウォリス:・・・塞がってる。

ダレル :っつか、キズ1つ残ってねぇ。

マルリス:ワタクシも驚きましたわ。あんな芸当が出来るなんて。

鎮   :それは感謝しているのか?

マルリス:一応。してますわ。

鎮   :だったら、本人に言ってやれ。

裕美  :いえ、構いません。私が勝手にしたことですから。

マルリス:・・・裕美、と言いましたわよね?

裕美  :あ、はい。

マルリス:この借りは必ず返しますわ。

裕美  :・・・はい。お待ちしておきます。(微笑

ダレル :なぁ、お嬢のあのセリフってどっちかと言えば、脅し文句だよな?

ウォリス:ノーコメントにさせてくれないか。

マルリス:聞こえてますわ。ダレル。ウォリス。

ダレル :わ、わるかったから睨むなっての!

マルリス:それで?どうするおつもりですの?

鎮   :それは、人が集まってからだ。

マルリス:人?

アルマ :遅くなった。

マルリス:アルマ様?

サンタナ:そしてぇ・・・オレ様登場ーぅ!

マルリス:・・・騒霊(そうれい)もいるとはね。

アルマ :私が連れてきた。夜巳のの指示でな。

マルリス:鎮様の?

サンタナ:そうだぜぇ!理由は知らないがよ。ったくよぉ!丁度良い身体探すのに手間取ったぜ!

マルリス:・・・せめて土を床に落とさないで下さる?

サンタナ:ん?あーわりぃわりぃ。掘り返したばっかりでよ!なるべく気をつけるわ!

ダレル :ぜってぇコイツ気をつける気ネェだろ・・・

ウォリス:今日は非番なのに・・・掃除という仕事が増えそうだ・・・(小声

鎮   :これで揃った。

サンタナ:おいおい。みんなテンション低いな!
     オレ様が登場したんだぜ!?もっと盛大に迎えてくれよ!

    (鎮、サンタナの後頭部をはたく)

サンタナ:いってぇっ!

鎮   :サンタナ。ちょっと黙れ。

サンタナ:ったく、悪かった。
     つか!この身体は大事に扱ってくれっての!首がもげたらどうする!?

鎮   :知らん。

サンタナ:おい、頼むぜぇ!?

マルリス:で?なんですの?
     これからパーティでも開く訳じゃないでしょう。

アルマ :そうだな。本題に入ろう。

鎮   :本題・・・だな。そうだな、どこから話す?

マルリス:とりあえず、この騒霊が居ることから。

鎮   :俺が呼んだ。

裕美  :マスター。そういう理由じゃないと思うのですが?

ダレル :ネタ・・・だよな?

サンタナ:この超絶ハイパーなオレ様が解説してやろうじゃないか!

マルリス:暑苦しいから結構。

サンタナ:おーい。つれねぇなぁ。

鎮   :コイツを呼んだ理由は後で分かる。
     とりあえず、ここに集まって貰ったのは他でもない。
     この頃、頻発していた連続殺害事件と、今日の鬼島家との衝突に関してだ。

アルマ :災難だったな。マルリス嬢。

マルリス:本当ですわ。それで?何か解ったんですの?

鎮   :解ったことは少ない。しかし、ゼロじゃない。

裕美  :ですが、まずはこちらから皆様に問いを投げかけたいと存じます。

アルマ :問いだと?

鎮   :以前、四名家会談を行った時があるだろう?

サンタナ:オレ様のバーでな。

マルリス:あの時がどうしたのです?

鎮   :おかしいと思った事は無かったか?

アルマ :おかしいとは?

鎮   :コイツのバーで会談が開かれたこと。

裕美  :そして、封滅騎士団(ふうめつきしだん)がその会談をピンポイントで襲撃したこと。

マルリス:二つ目の方はそちらのミスではなくて?

鎮   :確かに、ヤツとは因縁がある様だ。一方的だがな。
     しかし、だからといってヤツ個人が会談の行われる場所が解るとは思えない。

アルマ :それは・・・確かにそうだな。
     背後に何かが居るなら別だが。

マルリス:でも、聞く限りフリーランスじゃなさそうですわ

サンタナ:あー・・・ふぅーめつ・・・なんだっけか?なんだか大層な名前だったのは覚えてるんだが・・・。

裕美  :封滅騎士団、ですね。

サンタナ:そーそ!それだ!ふーめつきしだん!

マルリス:封滅騎士・・・。また厄介な。

ダレル :確か・・・人間の魔術師集団だったな。

ウォリス:聖十字協会とは気色の違う集団ですね。

アルマ :そうだな。情報収集や工作に秀でた聖十字協会とは違って、戦闘に特化したものが封滅騎士団だ。

裕美  :彼らが出てくるのは異様な事態のみ。特に、我々魔族が人間に対して戦闘行動を起こした時のみのはずです。

鎮   :今のところ俺だけに目を着けているようだが、だとしても、異様な事態だ。

アルマ :夜巳のは敵対行動などした事無いからな。

マルリス:危険人物と認識されている様ですが?

鎮   :潜在的危険度数・・・とか言ったか?それが高いらしい。

サンタナ:へぇ?なにもしてねぇのに危険人物ねぇ?人間共の考えることはわかんねぇや。

アルマ :ともあれ、一大事でもない限り出て来ない魔術師の出没。これらが連続殺害事件に関与していると?

鎮   :可能性はあると踏んでいる。

マルリス:突拍子もないですわね。それは、街のソトで仕入れた情報ですの?

裕美  :いいえ、違います。

鎮   :外で仕入れたのは一番最近の事件に関する事だ。過去視ができるという魔術師に頼んで見てもらった。

裕美  :これが、その件に関するレポートです。

アルマ :ほう?どれどれ。

裕美  :皮膜翼(ひまくよく)を持った魔族と、角を持った魔族が何かの打ち合わせをしているビジョンが見えたとのことでした。

マルリス:これが、改ざんされていないという証拠は?

鎮   :その魔術師に聞いてみると良い。あと、ブランドンもその場に居たからヤツも証言人になる。

アルマ :ほう?ブランドン卿もか。・・・マルリス嬢。これは信用して良いのではないか?

マルリス:嘘を言っている可能性もありますわ。

ウォリス:お言葉ですが、お嬢様。魔術師やブランドン卿が嘘をついてまで『吸血鬼と鬼との結託』という状況を作り出すとは思えません。

ダレル :ま、確かにそうだな。なんせ、そんなことをしてもヤツらに利益はない。この街の管理がややこしくなるだけだ。

マルリス:むぅ・・・。つまり、鎮様はこう言いたいのです?
     連続殺害事件はこの結託した鬼と吸血鬼によるもので、その犯人はこの街の均衡を崩して利益を得ようとしている。と。

アルマ :それに便乗しているのが、封滅騎士団の魔術師。と。

鎮   :話が早くて助かる。

ダレル :って、なると身内に犯人がいるってことになるな。

ウォリス:にわかには信じられませんが・・・。

アルマ :信じたくないと言った方が正しいがな。

マルリス:ですが、鎮様。これだと、犯人の目星は付きませんわ。
     むしろ、ある意味この事件が複雑化したということにさえなります。

裕美  :いえ、目星は立っています。

鎮   :サンタナ。言ってやれ。

サンタナ:おーけぃ!やっと俺の『ショウ・タイム』だな!みんな耳をかっぽじってよーぉく聞きな!

マルリス:普通に喋ることは出来ないんですの、この騒霊は。

アルマ :まぁまぁ、いいじゃないか。聞こう、サンタナ。

サンタナ:会談の襲撃事件の後、オレ様はここにいる夜巳のお坊ちゃんにあるミッションを言いつかったのさ。
     そ・れ・は・だ・なァ・・・?

裕美  :シモーヌ家の監視です。

サンタナ:おぉぅい、メイドちゃぁん!俺の仕事を取るなよぉ!

アルマ :シモーヌ家だと?

マルリス:どうして、シモーヌ家が怪しいと?

鎮   :理由はルドルフが会談を主催したことだな。

アルマ :仮にも、シモーヌ家は四名家だ。会談を開く権利はあるぞ?

マルリス:そうですわ。疑う謂われはないはず。

鎮   :たしかにそうだ。しかし、ヤツの性格をよく考えて見ろ。
     傲岸で自己の利益を優先するタイプだ。身内が数人死んだところでこのような会談を開く訳がない。

アルマ :それは、少し言い過ぎだと思うが?

マルリス:そうですわ。偏見というものではなくて?

鎮   :そう見られても仕方ないが、結果としては疑って正解だったんだ。

サンタナ:あー。話して良いかい?(咳払い)
     オレ様は三日三晩寝ずの番でルドルフのクソガキちゃんを監視したわけよ。
     す・る・と・だ。とある日に、フードの付いたクロークを羽織った謎の人物と面会してたんだよ。

アルマ :その人物の正体は?

サンタナ:そりゃーわかんなかった。なんせ目深に被ってずぅーっと取らなかったからな。
     だが、そいつの話口調と言ったらもー、エラそーでイライラ来るモノだったぜ。
     お前はどこの政治家崩れだってくらいの上から目線でよ!

ダレル :その人物は鬼か?それとも、魔術師なのか?

サンタナ:魔術師だろうな。鬼だと角があるはずだろ?だが、それが無かった。

ウォリス:フードで隠れて見えなかったとか・・・。

サンタナ:ねぇよ。なんせ、ヤツらの角は特徴的だ。
     それに、ヘルメットを被っているなら別だが、被っているのはフードだ。鬼なら角が邪魔で布地が盛り上がるじゃねーか。

ダレル :そうなると、本格的に魔術師が関わってやがるってことになるか・・・。

鎮   :ルドルフは魔術師を嫌う、反魔術師派だっただろう。そんなヤツが会談を持つはずがない。
     ・・・自分に相当な利益が無い限りはな。

アルマ :なるほど、そうなると筋はある程度通るのか・・・。

マルリス:しかしですわ。鎮様。明確な物的証拠も無ければ、証人も居ない。
     言うなれば、状況証拠しかないのです。そんな中、どうやって鬼を説き伏せるのです?

鎮   :言ったはずだぞ。マルリス。俺は、鬼を説き伏せて戦争を回避するということはしない。

アルマ :初耳だ。それはどういう事だ?

ダレル :戦争にするってことは、血が流れるってことだぜ?

ウォリス:向こうもこちらも、損害は出したくないはずです。

サンタナ:派手なのは好きだが、血生臭いのは勘弁だ。

ウォリス:そうです。それはなんとしても避けるべきでは?

鎮   :もう、避けられる段階では無くなっているはずだ。

マルリス:そうかもしれませんが・・・。
     たとえば、一週間で犯人を見つける。・・・ルドルフを差し出すってことで回避は?

鎮   :ルドルフのヤツがそうそう犯行を認める訳がない。部下に責任を押しつけて逃げるに決まっている。
     それよりも、危険だが戦争を起こして、首謀者の尻尾を掴む方が早い。

ウォリス:ですが、それでは全面的な解決にならないのではないですか?

裕美  :吸血鬼側だけの犯人を見つける訳ではありません。

ダレル :鬼側にも居るだろう犯人を同時に見つけるってことか。危ない橋だな。

サンタナ:おいおい、聞いてりゃあマジモンに物騒な話じゃねぇかよ。
     大丈夫かこれ?

裕美  :それは、皆さんのご協力によりますね。

鎮   :もちろん、サンタナ。お前にも協力して貰う。

サンタナ:おいおい、俺もかよぉー!

鎮   :当たり前だ。報酬はやる。

サンタナ:まったくよぉ・・・。ま、仕方ねぇかぁ。わかった、やるよ。やりゃあいいんだろ。

アルマ :ふむ、これは倍率の高い賭けだな。どうする。マルリス嬢?

マルリス:選択肢はないのでしょう?やるしかありませんわ。
     いいですわね。ウォリス、それにダレル。

ダレル :おう。お嬢の決定なら従うぜ。

ウォリス:・・・はい。わかりました。(気落ち気味

マルリス:ウォリス?

ウォリス:いえ、なんでもありません。

鎮   :ふん・・・。アルマはどうだ?

アルマ :些か掛け金が高い気がするが・・・。面白そうだ。乗ろう、その賭けに。指揮は任せるぞ、夜巳の。

鎮   :ああ。では、各自は気取られぬ様にしてくれ。
     俺たちが気付いていると知れば、この計画は破綻する。

裕美  :必要に応じて、私が連絡致します。

鎮   :忙しい中済まない。以上、解散としよう。

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マルリス:全く、迷惑なことですわ。

ウォリス:鎮様のことですか?

マルリス:もちろんですわ。

ウォリス:しかし、決まったことを覆す訳には

マルリス:解ってますわ。そんなこと。

ダレル :お嬢、どうした?最近荒れすぎだぜ?

マルリス:引っかかるだけよ。何かがおかしい気がするの。

ダレル :おかしい?

ウォリス:さっきの会話がですか?

マルリス:なにがどうとは言えない・・・。けれど、引っかかるのよ。
     
ダレル :考えすぎなんじゃねぇの?お嬢。

マルリス:だと良いけれど・・・。

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サンタナ:次回予告。

アルマ :吸血鬼と鬼の衝突。

ウォリス:その一報は街に轟く。

ダレル :またそれは、魔術師たちの耳に。

裕美  :NIGHT/KNIGHT 第12話 魔術師として

鎮   :若さ故の焦り。それは危険と隣り合わせ。




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