Night/Knight 第9話 少女の瞳 作:福山漱流

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マリアン・グロリア・シサリーザ:20代後半から30代。聖十字協会所属の魔術師。伯爵の爵位を持つ。
                聖十字協会の幹部であり、普段の仕事はもっぱらのデスクワークである。
                ブランドンの直属の上司。若くして聖十字協会の幹部となっただけあり、頭の回る策師。
                普段は飄々としているが、締める時には締める抜け目ない人物。
                結界術に長け、護身術式である結界術であっても中位魔族相手に苦戦しないほど。

マシュー・フランクリン:22歳。聖十字協会の魔術師。爵位は無し。
            新米魔術師であり、ブランドンの部下としてヘブリニッジに派遣された。
            使用魔術は基礎的なものを幅広く扱い、威力も平均的。典型的な知性派であり、近接戦闘には向かない。
            優等生タイプで、頭もよく回るが、ルールに縛られやすく、柔軟に対応できない面を持つ。      
      
狩屋 夕姫(かりや ゆうき):21歳。元封滅騎士団特務攻撃隊。戦争孤児であり、魔術研究結社『ヴィクティム』に拾われた後、魔術師に。
              戦闘は目に刻まれた魔術紋を使った「黒鳥召喚術」と強化された肉体での超接近戦。
              寡黙な口調。性格は常に冷静であり淡泊。自分がどうなろうと気にしない自己破滅思考を持つ。

♂マシュー:
♀マリアン:
♀夕姫:
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マシュー(N):前回のNight/Knight

夕姫(N)  :魔族達の街でうずまく様々な思惑

マリアン(N):それは、ゆっくりと火種を大きくする。

夕姫(N)  :Night/Knight 第9話 少女の瞳

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       (聖十字協会 セントマリー支部 備品室。捜し物をするマシュー)

マシュー  :んーっと、火の魔法石は・・・あれ?どこにあったかな・・・?

マリアン  :おや、マシュー。なにやってるんだ?こんな所で。

マシュー  :うわぁっ!?し、シサリーザ卿!失礼しました!

マリアン  :そんなに驚かないでくれ。不躾に声をかけて済まなかった。

マシュー  :い、いえ、そんなことは。

マリアン  :時に、火の魔法石がどうとか言ってたが?なにに使うんだ?

マシュー  :あ、それはですね・・・。これです。

マリアン  :ほう、それはキミの剣か。レイピアだな。

マシュー  :はい。これのハンドガードに宝石が付いているんですが、これに使うんです。

マリアン  :なるほどな。・・・うん?これはどうした?1つ石が欠けているが。

マシュー  :ああ、これですか?さっき戦闘した時に使っちゃって。

マリアン  :戦闘?どこでだ?

マシュー  :廃ビルで。『夜の王』とちょっと・・・あ。

マリアン  :『夜の王』?今、『夜の王』と言ったな?

マシュー  :え、えっと、その、これはですね?

マリアン  :マシュー。

マシュー  :はい!

マリアン  :正直に、全て、話せ。

マシュー  :は、はい・・・。
       あのですね。『夜の王』が街で起こっている事件について調べたいということで、
       ヘブリニッジの外に出たがっていたんです。

マリアン  :それで?

マシュー  :ブランドンさんが、目的の情報屋さんに『夜の王』の実力を見せるってことで、僕と戦闘を・・・。
       ぼ、僕はイヤだって言ったんです!でも、ブランドンさんが聞かなくて!

マリアン  :ほう?ブランドンの奴め・・・。

マシュー  :もしかしなくても、まずかったですよね・・・?

マリアン  :ああ、非常にまずい。・・・といいたいが、まぁ今回は大目に見よう。

マシュー  :ほっ・・・。

マリアン  :それで?『夜の王』はなにか言っていたか?

マシュー  :なにか・・・とは?

マリアン  :戦ったんだろう?彼と。何か言われたか?

マシュー  :いえ。特になにも。ただ、『弱い』とだけ。

マリアン  :だろうな。当たり前だ。奴はヘブリニッジの頂点と言って良い相手だ。

マシュー  :そんな人と戦った・・・。

マリアン  :生きていてよかったな。マシュー。

マシュー  :はい。今、すごく実感してます。

マリアン  :ふむ・・・それでは、そんな生を実感しているマシュー君に1つ罰を与えよう。

マシュー  :ば・・・罰!?なんでですか!?

マリアン  :私の許可無く『夜の王』と戦闘をしたことに対する罰だ。当たり前だろう?
       仮にも奴は、一番の危険対象だからな。

マシュー  :そ、そうでした・・・。

マリアン  :で。その罰についてなんだが。その欠けた火の魔法石を補充したらすぐに1号訓練室に来たまえ。

マシュー  :1号訓練室・・・ですか。そこでなにを?

マリアン  :とある人物の戦闘データ収集に付き合う。それがキミの罰だ。

マシュー  :はぁ・・・。(困惑)
       戦闘訓練みたいな感じですか?

マリアン  :つまりはそういう事だ。だが、しっかりと準備はしてきたまえ?いいね?

マシュー  :あ、はい。わかりました。

マリアン  :それでは、先に行って待って居る。

マシュー  :はい。それでは。

マリアン  :あーちなみに。火の魔法石は一番右の棚にあったぞ?
    
マシュー  :え、あ、はい!

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      (数分後。1号訓練室)

マリアン  :ふむ、そろそろ来るかな?

夕姫    :相手が、ですか?

マリアン  :ああ。そうだ。ヘタレだが、そこそこやる奴だよ。

夕姫    :そうですか。

マシュー  :お、遅れました!

マリアン  :遅いぞ。マシュー。

マシュー  :すいません!

夕姫    :彼が、相手ですか?

マリアン  :そうだ。

マシュー  :マシュー・フランクリンです。よろしくお願いします。

夕姫    :狩屋夕姫・・・。よろしく。

マリアン  :では、このテストのルールを説明しよう。
       武器の指定は無し。自分の好きな武器をつかっていい。
       魔術の使用も可。しかし、致死レベルの高威力魔術や違法魔術は禁止。

マシュー  :あの・・・それって下手をすると死ぬルールなんですけど・・・。

マリアン  :大丈夫だ。危なくなれば、私が止める。

夕姫    :いつから開始ですか?

マリアン  :そうだな・・・。私がコールしようか。
       マシュー、夕姫。・・・お互いに構えなさい。

マシュー  :はい、大丈夫です。

夕姫    :了解。

マシュー(M):ナイフ・・・?

マリアン  :それでは・・・スタート!

夕姫    :行きます・・・。はぁっ!(突進

マシュー  :受けるっ!(つばぜり合い

夕姫    :ちっ・・・。

マシュー(M):力もなかなか。・・・女の子なのにやる。

夕姫    :はあっ!ふっ、せいっ!(連撃)

マシュー  :っと、はっ、よっ!(回避)

夕姫    :よく避ける・・・。

マシュー  :避けないと、怪我するし・・・ねっ!(蹴り飛ばす

夕姫    :(防御。よろけて距離を取る)ぐっ!?・・・あっ、しまっ!?

マシュー  :ショートカット。フレイム・スロー!

夕姫    :火の球ね・・・

マシュー  :回避・・・しない!?

夕姫    :はぁっ!(火の玉切断)

マリアン  :ほう。

マシュー  :火の玉を・・・斬った!?

夕姫    :せぇぇぇいっ!

マシュー  :ちっ・・・くっ!はっ!せいっ!(斬り合う

マリアン(M):なかなかにやるな。2人とも。

マシュー  :ショートカット!ウッドロック!

夕姫    :蔦!?捕まる訳には・・・っ(回避

マシュー  :逃がさないっ!

夕姫    :付いてくる・・・ならっ!

マシュー  :また、切り伏せるつもりならっ・・・

夕姫    :『紡ぐは風塵。纏うは刃(やいば)』ウィンド・スラッシュ!

マシュー  :っ!?風(かぜ)魔術の使用者か!

夕姫    :すぐに落とす。はぁっ!

マシュー  :ショートカット。ウォーター・ブラスト!

夕姫    :回避・・・出来る。はぁぁっ!

     (夕姫、逆手で胴を狙う。マシュー、レイピアで受け流す)

マシュー  :くっ、懐に入られると手数で負ける。後ろに・・・

夕姫    :距離は取らせない。(足払い

マシュー  :あっ!?しまっ・・・

夕姫    :獲(と)ったっ!

マシュー  :ショートカット!スモーク・ディフューズ!

夕姫    :っ!(驚愕)・・・だけどそこには居るはずっ!

      (夕姫、ナイフを振り下ろす。)

夕姫    :ちっ・・・逃げていたか。

マリアン(M):攻撃系だけでなく、錯乱系も使えるか。意外に器用なヤツだマシュー。・・・さぁ、どうする?夕姫。

夕姫    :『降(お)り来るは風。その力を解放し、薙ぎ払え』ダウンバースト!

マシュー  :ぐっ・・・うわぁっ!

マリアン  :この風の威力っ・・・。並の力じゃないな。ふふっ、面白い子だ。
       さぁ、どうする?マシュー。

夕姫    :見つけた!

マシュー  :しまった!今の風で目隠しの煙が吹き飛んで・・・

夕姫    :今度こそもらったっ!はぁぁぁっ!

マシュー  :ぐ、うわぁぁぁぁ!

マリアン  :一枚上手だったな。・・・マシューの方が。

夕姫    :手応えが・・・ない?
       あっ!これは・・・幻!?

マシュー  :はぁぁっ!

      (マシューの一撃をナイフで受ける夕姫)

夕姫    :づっ!姑息な奴・・・

マシュー  :こうでもしないと、君には勝てそうに無いから・・・ねっ!

夕姫    :厄介・・・だっ!

      (夕姫、蹴りを放つ。マシュー回避。距離を取る)

マシュー  :うおっ!?っとと・・・。

マシュー(M):あの子のナイフ・・・。魔術が施されてない?

夕姫    :なにを余所見してる!

      (夕姫、投げナイフ投擲。)

マシュー  :投げナイフ!?

夕姫    :もう一投!

マシュー  :くっ・・・ショートカット。ディフェンド・ウインド!     

夕姫    :っ!?旋風(つむじかぜ)でナイフがっ・・・

マシュー  :『緑の石に宿るは疾風。刃となって敵を討て!』ウィンドドライブ!

夕姫    :高威力魔術!?くっ・・・避けるしか・・・っ!

マシュー  :隙有りっ!

夕姫    :なっ!?先回りを!?

マシュー  :はぁあっ!ふっ、たぁっ!(連続したレイピアの刺突

夕姫    :くっ・・・こっ・・・のっ・・・!(間一髪の所で回避

マシュー  :ショートカット!ショック・ボム!

夕姫    :爆発っ!?ぐあっ!?

マシュー  :やった!

マリアン  :ふむ、此所までだな。以上!両者そこま・・・・

夕姫    :(遮って)くそがぁぁぁっ!なめるなぁぁぁぁっ!

マシュー  :右目が光った!?

マリアン  :まずい!よせ!止めるんだ夕姫!

夕姫    :私を・・・よくも・・・よくもぉぉぉっ!

マシュー  :な・・・なんなんだ、この魔力の漏れ方・・・普通じゃない・・・

マリアン  :マシュー!そこから下がれ!今すぐに!

マシュー  :えっ!?あのっ!?

夕姫    :黒鳥魔光っ!(こくちょうまこう)死ねっ!死ね死ねしねシネッ!

マシュー  :黒い・・・魔術弾!?回避・・・できない!?

マリアン  :ちっ!断線結界!(だんせんけっかい)

      (魔弾、結界に阻まれ消失)

マシュー  :っ!?ふ、防げた・・・?

マリアン  :危なかったな。マシュー。

マシュー  :は、はい。

マリアン  :すこし、下がってくれ。夕姫の視界に入ったらダメだよ?

マシュー  :あ・・・はい。

夕姫    :潰す・・・潰す潰す潰す・・・

マリアン  :はいはいストーップ。落ち着いて。こっちを見なさい。夕姫。

夕姫    :あっ・・・マリアン・・・さん。

マリアン  :身体から力抜いて。・・・そう。それから、そのナイフ。私に渡しなさい。

夕姫    :・・・ごめんなさい。

マリアン  :大丈夫だから。

マシュー  :あの・・・。

マリアン  :お疲れ様、マシュー君。これで、キミの罰は終わり。帰っていいから。

マシュー  :いや、あの・・・。

マリアン  :(小声)後で説明する。支部長室に来たまえ。

マシュー  :(小声)わかりました。

マリアン  :それではな。マシュー。

マシュー  :はい。わかりました。

      (マシュー去る)

マリアン  :ふむ・・・落ち着いたかな?夕姫。

夕姫    :・・・はい。

マリアン  :彼の事は気にしなくても良い。さっきのことはちゃんと説明しておく。

夕姫    :はい。

マリアン  :にしても、制御はまだ難しいみたいだね。

夕姫    :やはり、私は廃棄・・・

マリアン  :(遮って)それは出来ない。君は私の物だからね?

夕姫    :でも、迷惑じゃ・・・。

マリアン  :そんなことはないさ。君は、重要で、大切な、人間さ。

夕姫    :・・・ありがとうございます。

マリアン  :疲れただろう。先に部屋へ戻っておくと良い。

夕姫    :いえ、大丈夫です。

マリアン  :だが、不可抗力とはいえ、黒鳥の力を使ったんだ。
       魔力はあまり残っていないだろう?

夕姫    :戦闘をしなければ、大丈夫です。枯渇するほどでは。

マリアン  :たしかにそうか。本気なら、私の結界でさえ壊せる訳だものな。

夕姫    :・・・・。

マリアン  :ああ。すまない。別に深い意味はないんだ。
       ただ、手加減は出来る様になっているなと言いたいだけだよ。

夕姫    :だと、いいんですが。

マリアン  :そうさ。出来ている。ただ、もう少し訓練を続けような。

夕姫    :はい。わかりました。

マリアン  :うん。良い返事だ。さて、ならばこれで解散にしよう。

夕姫    :一緒に、支部長室へ行って良いでしょうか?

マリアン  :ん?かまわないが、どうして?

夕姫    :さっきの彼に説明すると。

マリアン  :ああ、そうだが。

夕姫    :立ち会わせて下さい。

マリアン  :何故?

夕姫    :その方が、良いと思って。

マリアン  :大丈夫なのか?

夕姫    :衝動ですか?・・・はい。一応。

マリアン  :一応では困るんだ。いろいろとね。今日の所は部屋に戻っておきなさい。
       機会があれば、また紹介する。

夕姫    :・・・はい。わかりました。

マリアン  :うむ、もう戻って良いぞ。

夕姫    :はい。失礼します。


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マリアン  :済まない。待たせたな。

マシュー  :いえ。大丈夫です。それで・・・

マリアン  :ああ、夕姫の事だったな。ま、まずは掛けたらどうだ?

マシュー  :あ、はい。失礼します。

マリアン  :さて、どこから話した物か。
       マシュー。ヴィクティムという組織を知っているか?

マシュー  :ヴィクティム・・・いえ、知りませんね。

マリアン  :だろうな。とっくの昔に無くなったはずの研究機関だ。

マシュー  :研究機関・・・?

マリアン  :そうだ。魔術という概念がまだ充分に解明されていなかった時代にあったものでね。
       そりゃあ、いろいろな実験が行われていたみたいだよ。

マシュー  :そのいろいろの部分は聞かない方がいいみたいですね。

マリアン  :夢見が悪くなったり、肉が食べられなくなってもいいなら、詳しく語るが?

マシュー  :遠慮します・・・。

マリアン  :まぁ、簡単に言えば非人道的なことをやってた訳だ。

マシュー  :でも、それと彼女にどんな関係が?

マリアン  :夕姫はな。その研究所出身なのだよ。

マシュー  :えっ?その研究所って、その、廃止されたヴィクティムの?

マリアン  :そうだ。

マシュー  :じゃあ、彼女のさっきの魔術って。

マリアン  :その研究所で生み出された魔術らしい。

マシュー  :だから見たことが無かったんだ。

マリアン  :ちなみに、あの黒鳥魔光という魔術。
       テニスボール位の大きさで、ヘブリニッジの壁に備えてある魔術砲と同じ威力が出るからな?

マシュー  :魔術砲って・・・あれ、幅6メートルの鉄板を貫通するレベルのヤツですよ!?

マリアン  :ああ、知ってる。あれと同等だ。よかったなマシュー。再びお前は生きて居るぞ?

マシュー  :か、感謝します・・・。

マリアン  :とりあえず、話を戻す。彼女は研究所出身で、出生は不明。
       夕姫という名前もその研究所でつけられた物らしい。

マシュー  :それを、シサリーザ卿が保護したんですか?

マリアン  :保護・・・というより、隔離だね。
       聖十字協会のどっかの部隊が、不可思議な活動をしている研究所があるっていう情報を得た。
       そして、その研究所を漁ってみたら彼女が居た。

マシュー  :もしかして、さっきみたいに暴走した・・・とか?

マリアン  :いや、それはない。だが、生体レベルが異様値を叩き出したから、隔離するという決定が上から来た。
       でも、隔離する方法も場所もない。どうするも無く、行き場を失った彼女を引き取ったのが私、ということだ。

マシュー  :シサリーザ卿なら抑えられると上層部は踏んだ・・・ということですか?
       
マリアン  :そうなるね。まったく、厄介なことを押しつけてくれた。

マシュー  :それで、僕が彼女と戦闘訓練をしたのは一体どういう・・・。

マリアン  :ああ、それ?単なる私の興味さ。

マシュー  :えっ!?

マリアン  :なんてね。冗談だ。本当は、夕姫の適性検査と安定度調査だったのさ。

マシュー  :適性検査って、戦闘員に加えるんですか?彼女を。

マリアン  :いずれはそのつもりさ。いや、そうせざるを得ない。

マシュー  :何故ですか?

マリアン  :彼女には破壊衝動が組み込まれている。定期的に発散させないとね。

マシュー  :破壊衝動が組み込まれているって・・・そんな、酷いことを。

マリアン  :憤(いきどお)るのはわかる。だが、こうなってしまったモノは仕方が無い。
       しかし、今のままではダメだな。危険が大きすぎる。

マシュー  :そう・・・ですね・・・。

マリアン  :この件については、おいおい決めていくことにするさ。
       ・・・それにしても、面白い魔術を使うな。マシュー。

マシュー  :僕の魔術・・・ですか?面白いですか?

マリアン  :ああ、とても興味がある。なんせ、詠唱を省略するなんて技、そうそう見ない。

マシュー  :そうなんですか?意外です。

マリアン  :そもそも、詠唱省略は失敗しやすい。しかもそのミスは、詠唱した本人に返ってくる。
       反動っていう形でな。

マシュー  :でも、ここにおられる方々はやり手ですよ?

マリアン  :とはいえ、みんなリスクは避けるのだよ。
       でも、君はそんなリスクを知っていてやっていた。どうしてだ?

マシュー  :この魔法石のおかげです。四元素を込めた魔法石をそれぞれあてがってあるんです。

マリアン  :その魔法石に魔力を通して、発動ってことねぇ。
       それなら省略も理解出来るな。

マシュー  :はい。魔法石がショートカットのリスクを軽減するプロテクターの代わりになっているんです。

マリアン  :良い仕組みだ。自分で思いついたのか?

マシュー  :あぁ、いえ、これは・・・ある人からの譲り受けた物で。

マリアン  :ふぅん。なるほど。おもしろい事を考える人がいたものだ。
       会ってみたいモノだな。そのレイピアの元々の持ち主に。

マシュー  :そう・・・ですね。

マリアン  :フフーン?その顔はなにか隠し事をしているんだね?

マシュー  :え、いや、その・・・。

マリアン  :深くまではつっこまないよ。さて、語りすぎたな。時間は大丈夫か?

マシュー  :あ、はい。大丈夫です。今日は夜間巡回無いんで。

マリアン  :そうか、なら、気をつけて帰ると良い。

マシュー  :はい。ありがとうございます。

マリアン  :うむ、良い返事だ。それでは、な。

マシュー  :はい、失礼します。

マリアン  :ふむ・・・。どうしたものやら。

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マシュー  :ふぅ・・・。今日は1日いろいろありすぎて疲れたー

夕姫    :あっ、あなたはさっきの。

マシュー  :えっ?あっ、確か・・・夕姫さん?

夕姫    :はい。・・・先程は、すいませんでした。

マシュー  :え?ああ、いいんだよ。不慮の事故みたいなものだし。

夕姫    :・・・怖くないんですか?

マシュー  :怖いってなにが?

夕姫    :私の事がです。

マシュー  :ううん。別に。なんで?

夕姫    :私の力を見たら、ほとんどの人が怖がります。

マシュー  :んー。僕はそう思わなかったけどなー。

夕姫    :なぜです?

マシュー  :何故って・・・うーん。そうだなぁ。
      『知りたい』って思ったから・・・かな?

夕姫    :『知りたい』ですか。おかしな人ですね。

マシュー  :そ、そうかなぁ・・・。(困惑

夕姫    :ここには変な人が多いです。

マシュー  :それは、他人のこと言えないとおもう・・・(小声

夕姫    :なにか言いました?

マシュー  :いや、なにも!なにもいってないから!

夕姫    :そうですか。・・・お帰りですか?

マシュー  :え?あ、うん。支部には魔法石の補充に来ただけだから。

夕姫    :そうですか。お気を付けて。

マシュー  :君はまだ帰らないの?

夕姫    :はい、まぁ、一応。

マシュー  :あ、もしかして寮なのかな。

夕姫    :いえ、寮でもないです。

マシュー  :え?ってことは何処に?

夕姫    :マリアンさんの家です。居候の形で。

マシュー  :そ、そうなんだ。

夕姫    :ということなので、おきになさらず。

マシュー  :う、うん。なんか変なこと聞いてゴメン。

夕姫    :なぜ謝るのです?

マシュー  :な、なんとなく。

夕姫    :変な人です。

マシュー  :(笑って)そうだね。
       ・・・じゃあ、そろそろ行くよ。

夕姫    :はい。お気を付けて。

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マリアン  :やれやれまったく。今日も疲れた。

夕姫    :おかえりなさい。

マリアン  :やぁ、夕姫。ただいま。

夕姫    :今日のことですが・・・

マリアン  :ストップ。家では仕事の事は無し。オーケィ?

夕姫    :はい。すいません。

マリアン  :そのよく謝る癖もどうにかしないとね?
       私は別に怒っている訳ではないよ。

夕姫    :はい。すいま・・・

マリアン  :ほら、それそれ。

夕姫    :・・・どう言えばいいでしょう?

マリアン  :んー。そうだね。気をつけまーすとかでいいんじゃないかな?
       もしくは、笑ってみるとか。

夕姫    :笑うですか。

マリアン  :そ、そーんなムスーってしてたら可愛くないからねぇ。
       レディは愛想良く居なくちゃ。

夕姫    :私は、そういうことは苦手です。

マリアン  :知ってるよ。でも、夕姫はやっぱりニコっとした方が可愛いはずだよ。
       顔も端正なんだし。ほら、こうやって口角上げて。ほら、にこーって。

夕姫    :ちょ、ちょっと、やめてくださ・・・

マリアン  :ほれほれー。にぱーって。アハハハ。うん、かわいいかわいい。

夕姫    :ひ、人の顔で遊ばないで下さい!

マリアン  :あ。怒った?夕姫ってば怒った?ごめーん。いじりすぎたー。

夕姫    :怒ってないです。

マリアン  :ふふーん。そうやってむくれてる夕姫もかわいいー。

夕姫    :・・・・・。

マリアン  :ふぅ・・・。夕姫。真面目な話をしよう。

夕姫    :はい。

マリアン  :近々、君を現場に出す事にする。

夕姫    :現場・・・。あの壁のむこうですか?

マリアン  :ああ、ヘブリニッジの中だ。ただ、その際に約束して貰いたいことがある。

夕姫    :なんでしょう。

マリアン  :絶対に無茶はするな。特に、自分を軽んじる様なことはな。

夕姫    :・・・努力します。

マリアン  :努力・・・かぁ。ま、良いとしようか。

夕姫    :ヘブリニッジには私1人でですか?

マリアン  :いや、違う。今日会った彼、覚えているか?

夕姫    :はい。マシュー・フランクリン。

マリアン  :そう。彼についてもらおうと考えている。

夕姫    :あの人が、新しい飼い主に・・・?

マリアン  :その言い方。多分彼は嫌うだろうから止めておいた方が良い。
       とはいえ、君のスタイルから言えばそういう事だ。
       
夕姫    :わかりました。

マリアン  :とはいえ、彼も君も新米だ。だから、目下の上司は別にいるんだが・・・。
       まぁ、それは別の機会に紹介しよう。

夕姫    :私に、出来るでしょうか?

マリアン  :出来るさ。まだまだ、壁の向こうに行くまでには時間が有る。
       それまでに、しっかりと訓練をしておこう。黒鳥を制御できる様にな。

夕姫    :わかりました。

マリアン  :うむ。ならよし。さて、すこし遅くなったが晩ご飯にしよう。
       なにかあったかな?

夕姫    :昨日作っておいた炒め物が少しと、スープが。

マリアン  :あー、そうだったそうだった。夕姫のお手製があったんだった。
       いただこう。

夕姫    :じゃあ、準備してきますね。

マリアン  :頼んだー。


マリアン(M):夕姫の投入は、少々急ぎすぎの気がするが・・・。
       封滅騎士団(ふうめつきしだん)の動きも気になる。
       杞憂(きゆう)だといいのだが・・・。

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マシュー  :次回予告

夕姫    :開戦の火蓋が切って落とされる

マリアン  :力と力がぶつかる時

マシュー  :友との軋轢は確実な物になる。

夕姫    :Night/Knight 第10話 龍の一撃

マリアン  :鬼と吸血鬼。歯車は回り出す。




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