Night/Knight 第8話 思惑 作:福山漱流

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魁村 輝久(かいむら てるひさ):鬼島組直系 魁村組 組長。インテリタイプで神経質。見た目30代前半。
               元々二次団体の組だった魁村組を一代で直系にまで押し上げた実力者。

ルドルフ・シモーヌ:純血吸血鬼であり、吸血鬼界の名家『シモーヌ家』の子息。見た目は20代前半だが実年齢120歳。
          つねに偉そうな態度で人に接するヤクザ者。その割に、行動は臆病者そのもの。鎮曰く「口先だけの男」

謎の人物     :黒い外套で身を包んだ人間。人をどこか相手を見下した言い方をする。
          人を駒としか見ておらず、人を自分の目的達成のための手段に過ぎない。

マルリス・アヴィラ:純血吸血鬼であり、吸血鬼界の名家『アヴィラ家』の子女。見た目18歳くらいの少女だが、実年齢は200オーバー。
          生粋のお嬢様であり、口調もお嬢様。しかし、怒ると地が出てしまい荒い口調になる。

アルマ・フォン・ターク:純血吸血鬼であり、吸血鬼界の名家『ターク家』の家長。見た目20歳くらいだが、実年齢は300オーバー。
            騎士道に準じた在り方を重んじる。

♂輝久:
♂シモーヌ:
♂謎の人物:
♀マルリス:
♀アルマ:
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シモーヌ(N):前回のNight/Knight

輝久  (N):連続する吸血鬼の殺害事件と、鬼の殺害事件。

謎の人物(N):その事件に関する情報を、街の外で得た鎮(まもる)たち。

シモーヌ(N):事件について調べを進める彼らと同時刻。

謎の人物(N):幾人かはそれぞれの考えを持ち。

輝久  (N):様々な場所で密談が行われていた。

謎の人物(N):Night/Knight 第8話 思惑

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アルマ   :やぁ、マルリス嬢。

マルリス  :アルマ様。どうされました?こんなところに呼び出すだなんて。

アルマ   :特に意味はない。強いて言うなら、人目につきにくい場所だからかな。

マルリス  :それが、よりにもよってこの資材置き場とはね。

アルマ   :なつかしいか?

マルリス  :別に。いやな思い出しかないわ

アルマ   :・・・苛ついているな。どうしたね。

マルリス  :解っているはずですわよ?

アルマ   :連続殺害事件の事か。長老会のメンバーが殺された。

マルリス  :当たり前ですわ。今、この街で一番の問題事件ですもの。

アルマ   :ああ、そうだな。鬼島組(きじまぐみ)の仕業という噂だが。

マルリス  :どうやら、その線が有力ですわ。

アルマ   :何か手がかりが見つかったのか?

マルリス  :馬鹿力で顔の形が変わるまで、殴れる種族がいるとでも?

アルマ   :ワーウルフも可能だが?

マルリス  :なれ合うのを嫌うヤツらがこのような事件をしでかすとでも?

アルマ   :可能性はあるぞ?

マルリス  :あり得ないですわ。絶対に鬼の仕業に決まっていますわ。

アルマ   :決めつけは良くないぞ?マルリス嬢。

マルリス  :決めつけているとでも?

アルマ   :決めつけているじゃないか。

マルリス  :そんなことっ!

アルマ   :落ち着け。・・・マルリス嬢。功を焦った所でなにもならん。

マルリス  :さっきからごちゃごちゃとうるせぇよ!何が言いたい!

アルマ   :視野を狭めるなということだ。マルリス嬢。

マルリス  :アンタに言われなくたって!

アルマ   :情報がある。連続殺害事件のな。

マルリス  :っ・・・どんな情報?

アルマ   :鬼の側でも死人が出ている。特に、鬼島組に関わる幹部レベルがな。

マルリス  :同じように顔を潰されて?

アルマ   :いや、ちがう。我々吸血鬼がやったような死に様らしい。
       それも、この事件が始まった時と同時期にな。

マルリス  :(溜め息)・・・それとこれとに、どんな関係が?

アルマ   :こうは考えられないか?
       誰かが、鬼と吸血鬼が争い合う様に仕組んでいると。

マルリス  :この街の仕組みを変えようってヤツが?

アルマ   :居るはずだ。それも、なかなかに頭がキレるやつがな。

マルリス  :ふぅ・・・面白くないですわね。反吐が出るほどに種族が混ざったこの街を、更に混ぜ返すつもりなのかしら?

アルマ   :綺麗に線を引いた訳でも無いが・・・これ以上にこの街の色が混ざるのは良くないな。

マルリス  :より一層、急がないといけなくなった・・・。

アルマ   :それを見越したのか、夜の王は街の外に出たぞ。ブランドンと一緒にね。

マルリス  :鎮(まもる)様が?

アルマ   :外の情報屋に協力を仰いだらしい。

マルリス  :外を使って何が解るっていうのよ。

アルマ   :わからん。だが、視点はリセット出来るとは思うが?
       
マルリス  :無駄に部外者を巻き込んだだけになりそうだけれど。

アルマ   :どうなるかは解らんね。でも、面白いやり方だ。

マルリス  :それにしても。ブランドンまで出てきているなら更に厄介ね。

アルマ   :ああ、妨害は入るだろう。我々の自治に介入するようにしてな。

マルリス  :・・・魔術師風情が。

アルマ   :まぁ、そこは夜巳(やみ)のが何とかするだろう。使い方は解っているはずさ。

マルリス  :どうだかね。

アルマ   :やけに噛み付くな?マルリス嬢。

マルリス  :別に。ま、鎮様のやっていることが無駄足にならなければいいですわね。

アルマ   :相変わらず、夜巳(やみ)のには辛辣(しんらつ)だな。マルリス嬢。
       嫌っているのか?

マルリス  :・・・気にくわないだけですわ。

アルマ   :ふむ。そうか。まあ、私には関係無いか。

マルリス  :ええ、人の事には触れないでくださいます?

アルマ   :そういうことにするよ。

マルリス  :・・・どう動くつもりですかしら?ターク家は。

アルマ   :そうだな。とりあえず、もう少し静観だな。
       情報収集は止めないが。

マルリス  :遅くなって自分の首が飛ぶ様な事にならなければいいですわね。

アルマ   :そこら辺は大丈夫だ。見る目には自信がある。
       そういうそっちはどうする?

マルリス  :・・・鬼を監視しますわ。

アルマ   :考えは変えないか。

マルリス  :ええ。同胞の死に方がそうとしか考えられない以上、疑うのは当然。

アルマ   :そうか。わかった。・・・だが、深みには填るなよ?

マルリス  :わかってますわ。・・・言われなくても。

アルマ   :もう行くのか?

マルリス  :これ以上、何を言うことがあります?

アルマ   :そうだな。
       ああ、1つ言わせてくれ。

マルリス  :なんですの?

アルマ   :今度は、いつ私と踊ってくれるのかい?

マルリス  :それは、ワルツのお誘いですか?それとも。

アルマ   :この場所での続きさ。マルリス・アヴィラ。

マルリス  :・・・鎮様が黙ってませんわ。

アルマ   :だが、私はあの血の沸く様な時がたまらなかった。
       危険を冒しても、また味わいたくなるくらいに。
       
マルリス  :相変わらずですわね。血反吐を吐くことがお望みとは。

アルマ   :鬼なんかとより、私と踊ってくれないか?

マルリス  :また、いずれ。アルマ様。

アルマ   :・・・フられたか。
       一応これで、「夜の王」に恩は売ったことになるが・・・。
       上手くやってくれるかどうか。

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輝久    :遅くなりました。

シモーヌ  :やっと来やがったか。

輝久    :申し訳ありませんね。これでも組を治める立場なもので。

シモーヌ  :ハン。ま、今お宅は大変な状況だしなぁ?

輝久    :一体誰の所為だと思っているのです?

シモーヌ  :クックック・・・。まぁ、それはお互い様ってやつじゃねぇのか?

輝久    :よく言えますね。・・・時に、彼はまだですか?

謎の人物  :ふん、揃っていたか。時間通りだ。

シモーヌ  :ああ、最後はアンタだぜ?

謎の人物  :それは悪かったな。
 
輝久    :それで?呼び出しの理由はなんですか?

謎の人物  :各々の進行状況について聞かせて貰おう。定期連絡という奴だ。

シモーヌ  :進行状況ねぇ?つつがないぜ?予定通りだ。
       吸血鬼の方は、どこもかしこも『鬼の仕業』ってことで警戒してる。

輝久    :こちらも。特に支障は出ていません。
       鬼の連続殺害事件については『犯人は吸血鬼である』という見解で進んでいます。

謎の人物  :そうか。「夜の王」の動きは?

シモーヌ  :食いついてきたぜ。予想通りだ。鬼のリーダーとの関係を利用して調査に乗り出した。

輝久    :聖十字協会の方も便乗する形で動いている様ですが?

謎の人物  :それに関しては無視しろ。こちらで抑える。

シモーヌ  :頼むぜ?あのブランドンの野郎に出て来られると厄介なんだよ。

謎の人物  :重々承知だ。貴様に言われるまでもない。
       「夜の王」と「鬼島組(きじまぐみ)」の共倒れを狙う以上。
       現状を安定させるつもりの聖十字協会が出てくると、我々の目的の障害になるからな。
       あえてもう一度言うが、聖十字協会は我々が抑える。

シモーヌ  :いちいち腹の立つ言い方をしやがって。

輝久    :ならば、今日の件はどういう心計(つもり)でしょうか?

謎の人物  :今日?なんのことだ?

輝久    :「夜の王」が街の外に出た件です。

シモーヌ  :なんだ。アンタ知らなかったのか?

輝久    :聖十字協会所属 ブランドン・マールスフェルトと共に。
       目的は不明ですがね?・・・先程。街の外に出て、戻ってきたという情報が。

シモーヌ  :まさか、俺らの計画がバレる状況になってないよなぁ?
       明るみに出ない様に手を回しておくって話だもんな?

謎の人物  :もちろんだ。言われるまでもない。
       ブランドンや、「夜の王」に関係する話は初耳だが・・・。
       しかし、お前達が今すぐに焦る必要はない。

輝久    :なるほど。

シモーヌ  :えらく自信たっぷりだなァ?

謎の人物  :当たり前だ。でないと、このようなことはしない。

輝久    :吸血鬼が私の配下の幹部候補の鬼を。私の配下が吸血鬼の長老会を殺す。・・・ですか。

シモーヌ  :そうやって、鬼と吸血鬼で潰し合わせ。
       不安定なヘブリニッジの力関係を崩して、のさばってやがる権力者を蹴落とす。
       普通思いつかねぇぜ?こんなこと。

謎の人物  :どうした?臆病風に吹かれたか?ルドルフ・シモーヌ。

シモーヌ  :んな訳あるかよ。むしろその逆だ。
       偉そうにしてやがる四名家(よんめいけ)のメンバーが死ぬ様を見たくてうずうずしてらぁ。

輝久    :その油断。

シモーヌ  :あぁん?

輝久    :命取りにならなければいいですが?

シモーヌ  :言ってろ。そんなことにはならねぇ。

謎の人物  :頭に乗って余計なことをしないようにな。

シモーヌ  :うるせぇよ。テメェは俺のお袋か?

謎の人物  :話を戻す。2人とも、次のプランは解っているな?

輝久    :はい。お互いが戦火を交える事件を起こす。

シモーヌ  :待ちに待った混乱の火種だな。

謎の人物  :種火を育てる時期は過ぎた。
       その火を投げ入れ、そして・・・薬莢に火を付けろ。

シモーヌ  :弾丸を撃ちあえって事だな。

輝久    :どちらが先手を打ちます?

謎の人物  :鬼側から仕掛けろ。その方がスムーズに事が進む。

輝久    :そうですね。現状、鬼島組(きじまぐみ)の直系団体も一枚岩じゃあない。

謎の人物  :犀魏組(さいぎぐみ)は嗾(けしか)けるのに丁度いいだろう?

輝久    :ええ。組長の犀魏(さいぎ)は、以前の会議でも『すぐに吸血鬼と戦争をするべき』という考えでした。

シモーヌ  :じゃあ、その犀魏(さいぎ)組と、どこの四名家をかち合わせる?あぁ、四名家つってもウチ以外で頼むぜ?

謎の人物  :アヴィラ家かターク家が妥当だろう。どちらかが勝っても、負けても計画は失敗だ。

シモーヌ  :軍備のターク家か、警備のアヴィラか・・・。ターク家の家長は中々に戦闘狂だからな。
       アヴィラ家が妥当だろ。

謎の人物  :では、犀魏組(さいぎぐみ)とアヴィラ家にまずは犠牲になって貰おう。
       そして、改めて我々の計画はスタートする。

シモーヌ  :楽しみだぜ。

輝久    :戦闘のきっかけを作る場所はどうします?

謎の人物  :双方の長(おさ)が戦闘するように仕向けられるか?

シモーヌ  :アヴィラにはウチの家のモンが紛れてる。偽情報を流すのは可能だ。
       それに、犀魏組(さいぎぐみ)のトップが戦闘に来てるなんて知ったら、アヴィラのお嬢ちゃんは出ざるを得ないだろう。

輝久    :犀魏(さいぎ)は情報の真偽に気を遣わないですからね。
       ちょっとした小競り合いの情報をリークすれば釣れます。

謎の人物  :では、こうするといい。
       まず、ヘブリニッジの外縁(がいえん)スラムで戦闘を起こせ。そこへ犀魏組に対して吸血鬼の一派が攻めてきたと誤報を流す。
       
シモーヌ  :そして、犀魏が出てきたところで今度はこっちがアヴィラに「犀魏組が出てきた」という。

謎の人物  :そうだ。そうすれば、めでたく火事が起こるという寸法だ。

輝久    :ふむ。スマートなやり方です。いいでしょう。

シモーヌ  :上手くやらねぇとな。

謎の人物  :もちろんだ。ここで失敗するとすべての計画がダメになる。

輝久    :その責任が我々にあるということですか。

シモーヌ  :責任重大ってか?プレッシャーだな。

輝久    :今更でしょう?

シモーヌ  :ああ。当たり前だな。

謎の人物  :では、私は特等席でヘブリニッジに上がる花火を観賞することにしよう。

シモーヌ  :もう行くのかよ?

謎の人物  :裏の手引きが必要だろう?それをしなくてはな。

輝久    :くれぐれも、聖十字協会のこと。頼みますよ?

謎の人物  :くどいぞ。解っている。それではな。

シモーヌ  :あーあ。行きやがった。

輝久    :何処まで信用できますかね。

シモーヌ  :あ?それはヤツがか?それとも俺がか?

輝久    :彼ですよ。如何に魔術師サイドに影響力があるとはいえ、あの聖十字協会を抑えることができるでしょうか?

シモーヌ  :俺が知るかよ、そんなこと。だが、俺らはもうダイスを振って勝ちが出ると踏んだ。
       後はやることヤルだけだ。

輝久    :・・・よもやの事態に対応する術はあった方がいいかもしれませんね。

シモーヌ  :考え過ぎなんだよ、輝久ァ。気楽に行こうぜ?これはまごう事なき勝ち馬だ。
       下手にアレコレやってると、馬に蹴られるぜ?

輝久    :騎手を蹴る馬など、調教が行き届いていない証拠でしょう?
       蹴られぬよう仕込むことも身を守る策と思いますが?

シモーヌ  :ハン!勝手に言ってろ。

輝久    :おや、もうこんな時間ですか。そろそろ次の場所に行かねば。

シモーヌ  :なんだよ。もう一杯くらい飲んでいかねぇのか?

輝久    :生憎、私も彼と同じく多忙なので。

シモーヌ  :そうかよ。それじゃあ、俺も動きますかね。
       この一杯を飲んでから。

輝久    :お互い、首尾良く行きましょう。

シモーヌ  :ああ。楽しくやろう。

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謎の人物  :ああ、計画は順調だ。どちらも上手くやってくれている。君は引き続いて街に潜み、状況を見たまえ。
       聖十字協会の「あの2人」や、「夜の王」には警戒したまえ?なにをしてくるか解らないからねぇ。
       ・・・ああ、そうだ。そのようにやってくれ。期待しているよ?
       それではな?聖なる剣(つるぎ)の導きのままに。

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シモーヌ  :次回予告

マルリス  :聖十字協会にいた少女

輝久    :彼女の力は禁忌

アルマ   :Night/Knight 第9話 少女の瞳

謎の人物  :邂逅せよ。禁忌と。




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