Night/Knight 第7話 姉妹 作:福山漱流
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夜巳 鎮(やみ まもる) :純血の吸血鬼。見た目17歳くらいだが、実年齢は200オーバー。
感情の起伏が浅く、常に怒っているように思われる。
水原 裕美(みずはら ひろみ):夜巳に仕える吸血鬼。20代の見た目をしている。人間との混血である故に、捨てられて居たところを鎮に拾われる。
瀟洒で人付き合いの良いタイプ。
ブランドン・マールスフェルト:20代後半。聖十字協会所属の魔術師。男爵の爵位を持つ。
鎮とは腐れ縁のライバルであり、しょっちゅう小言をいう保護者の様な存在。
術式形態はアゾット剣を用いた魔術を織り交ぜた近接攻撃。及びアゾット剣に封印された人工魔獣をつかったもの。
マシュー・フランクリン:22歳。聖十字協会の魔術師。爵位は無し。
新米魔術師であり、ブランドンの部下としてヘブリニッジに派遣された。
使用魔術はレイピアに埋め込まれた精霊石を用いた戦闘。
基礎的なものを幅広く扱い、威力も平均的。典型的な知性派であり、近接戦闘には向かない。
優等生タイプで、頭もよく回るが、ルールに縛られやすく、柔軟に対応できない面を持つ。
御園 晴実(みその はるみ):セントマリーに住む魔術師。35歳。占術や呪術に長けている。
魔術師は副業で、本来の職業は東方の織物を使った小物製作。
細かい所まで気を回す、良くも悪くもお節介焼き。
御園 明奈(みその あきな):セントマリーに住む魔術師。35歳。晴海の妹。口寄せや思念読みに長ける。
魔術師は副業であり、本来の職業は景色を撮るフリーのカメラマン。
竹を割った様な性格で、快活。
謎の人物:真っ黒なフードを被った人物。レイピアを下げている。正体はマシュー。
♂鎮:
♂ブランドン:
♂マシュー:
♀裕美:
♀晴実:
♀明奈:
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晴実(N) :前回のNight/Knight(ナイト/ナイト)
明奈(N) :吸血鬼の領地で起こった殺人事件。
マシュー(N):事件解決の糸口を掴むため、鎮は街の外にある情報屋の元に行くことを決めた。
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鎮 :さて、行くぞ。裕美。
裕美 :はい。
ブランドン :よーう。居るかい?「夜の王」
鎮 :この声は・・・ブランドンか。
裕美 :どうします?
鎮 :厄介だな。こんな時に・・・。
仕方ない、相手するか。通してやれ。
裕美 :はい。
ブランドン :おう、やっぱり居たな。鎮。
鎮 :何しに来た。
ブランドン :何って、お前を妨害しに来た。・・・なんてな。冗談だ冗談。
鎮 :どういうつもりだ?
ブランドン :お前、街の外に出るつもりなんだろ?そうなると、付添人(つきそいにん)が必要だからな。この俺が・・・
鎮 :断る。
ブランドン :おいおい。断るの早いな。そう邪険にしなくてもいいじゃねぇか。
鎮 :お前がついてくると色々と面倒になる。
ブランドン :それは、鬼島(きじま)組のことだからか?
鎮 :耳が早いな。
ブランドン :情報は鮮度だからな。
裕美 :マスター。そろそろ時間です。
鎮 :わかった。行こう。
ブランドン :まてまて!お前!こんな真っ昼間に出歩いて良いのかよ!?
鎮 :問題ない。
ブランドン :まさか。アレを使う気か?
鎮 :ミッドナイト・ヴェーゼ、展・・・
ブランドン :(遮って)ストップストップっ!
鎮 :なんだ。
ブランドン :お前!その術は影響力がでかすぎるって知ってるだろ!
鎮 :だが、こうしないと俺は出歩けない。
ブランドン :だからって、擬似的に夜を創り出すのはダメだっての!
鎮 :じゃあ、どうしろと?
ブランドン :俺が手伝ってやるって。
鎮 :どうするつもりだ?
ブランドン :こうすんのさ。
『対価は閉塞(へいそく)。その名を以て彼の者を封じよ。ロッキングルーム』
裕美 :なっ!?結界術式!?
鎮 :どういうつもりだ?ブランドン。
ブランドン :なに、別にお前等を拘束しようって訳じゃない。ただ、お前の『夜を創り出す術式』が、外の世界に影響しない様にするための策だよ。
裕美 :なるほど・・・。ですが、こんな簡易的な結界で闇形成の術式を遮断することが出来るのですか?
ブランドン :心配すんな。この護符の構造式に俺なりのアレンジを加えて、外から攻撃されない限り、割れない様に組んである。
鎮 :手先の器用な奴だ。
ブランドン :ま、これで出歩いても良くなった訳だ。さっさと行こうや。
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マシュー :Night/Knight(ナイト/ナイト) 第7話 姉妹
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(セントマリー外縁 桜屋。 縁側で晴実が人形を作っている)
晴実 :ふぅ・・・。いい天気ねぇ。こういう日はのんびりできていいわぁ。
明奈 :ねぇーえーさぁーん!
晴実 :はぁ・・・明奈はもうちょっと落ち着いてくれたらいいんだけど。
明奈 :見て見てー!綺麗じゃない?この並木!こないだ仕事で行ったんだけどね!
人間の手が入ってないのに、この整列感!
晴実 :あら、ほんと。すごいわね。何処で見つけたの?
明奈 :へへーどこでしょー
晴実 :にしても・・・、相変わらず写ってるねぇ。
明奈 :へ?
晴実 :ここ、木の枝の先。人の手が写ってる。
明奈 :あ・・・。
晴実 :ホント、霊媒体質ね。明奈は。
明奈 :もー。撮りたくないんだけどなぁ。
晴実 :なら、訓練しないと。力の制御をね。
明奈 :えー。めんどっちぃー。
晴実 :そんなこと言ってる場合じゃ・・・
ブランドン :いよう、桜屋さん。いるかー?
晴実 :あら、お久しぶり。
明奈 :お、ブランドンじゃーん。やっほー。
ブランドン :おう、相変わらずだな。お二人さん。
晴実 :それで?今日、魔術師さんは何用で?魔術道具?それとも鑑定?
ブランドン :あー。今日用事があるのは俺じゃねぇんだ。
明奈 :へ?じゃあ、誰が用事あんのさ?
ブランドン :あーっと、その前に。部屋の中、入らねぇか?
晴実 :え?まぁ、構わないけれど。
ブランドン :それに悪いんだが、ロウソク立てて光源作っておいてくれ。
明奈 :今、昼間だよ?暗くないし、光源って要らないでしょ?ってか、ロウソクって。
ブランドン :いいから、頼むよ。そうしないと依頼主がダメなんだ。
晴実 :なんだかよく分からないけれど・・・。まあ、いいわ。明奈、手伝って。
明奈 :ほいさーっと。
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明奈 :準備できたよー。
ブランドン :済まねぇな。あー、あと、済まないついでにもう1つ頼みたいことが・・・
晴実 :相変わらず図々しいこと。まぁ、いいけれど。
明奈 :なんかオモシロそーね。なになにー。
ブランドン :耳を貸してくれ・・・(内緒話)っていうことを頼みたいんだがよ。
明奈 :おー、たのしそう!
晴実 :ちょっと、明奈!
ブランドン :たのむ!ほら、お宅さんにとっても今回の依頼主がどんな実力があるかも知っておきたいだろ?
晴実 :だとしても、危険なことに代わりはないでしょう?そんなことに明奈を貸す訳には・・・
明奈 :大丈夫大丈夫ー。そこらへんはブランドンが何とかするでしょー?
晴実 :でも、明奈・・・。
明奈 :心配性だねぇー姉さんはー
ブランドン :ちゃんと、フォローはすっから!
晴実 :もし、何かあったら、その時は解ってるわよね?(微笑
ブランドン :お、おう・・・。覚悟はする・・・。
晴実 :それに、修理費もちゃんと出して貰えるんでしょうね?(微笑
ブランドン :あ、当たり前だっての!だから、そう威圧すんなっての!
晴実 :ふぅ・・・。なら、その依頼主を早く連れてきなさいな。
ブランドン :おう、ちょっと待っててくれ。
明奈 :ふふーん。どんな人だろうねぇ。
晴実 :どうせ、ロクでもない相手でしょうけど。
鎮 :ロクでもなくて悪かったな。
明奈 :おおっ?なになに?この真っ黒い結界。
ブランドン :ちょっと待ってな。封印・・・『解』!
晴実 :なんとまぁ・・・よりにもよって『夜の王』なのね。
鎮 :なんだ、ブランドン。言ってなかったのか?
ブランドン :サプライズは重要だろう?
鎮 :話が進まない。
ブランドン :わーるかったね。
明奈 :おー、部屋が一気に真っ暗闇。
裕美 :マスターは、日の光が苦手なんで。
ブランドン :だから、ロウソクを点けて貰ったんだ。
晴実 :やっと合点がいったわ。ここまで大げさな事をした理由が。
鎮 :それは悪かったな。
裕美 :こちらの事情とはいえ、驚かせてしまい申し訳ありません。
明奈 :いいっていいってー。面白かったし。ニヒヒ。
晴実 :もう、明奈ってば。・・・それで?『夜の王』は何がご用命で?
鎮 :早速、本題か。
晴実 :慣れ合う方がよかった?
鎮 :いや。話が早い方が助かる。
裕美 :ヘブリニッジの現状は知っていますか?
晴実 :ええ、充分に。一触即発なんでしょう?吸血鬼と鬼で戦争っていう。
裕美 :流石ですね。その通りです。そして今、その火種が火薬に落ちそうな事件が起こっているんです。
明奈 :あ、それの解決しろってお話?それは無理だよ?私達そんな力ないから。
鎮 :解決は頼まない。ただ、情報が欲しい。
晴実 :情報・・・ねぇ?
鎮 :過去視が出来ると聞いたが?
晴実 :ここにいる明奈がね。
明奈 :はーい。できるよー。あ、でも見たい過去に関係するアイテムが無いと、見ることはできないんだけど。ある?
鎮 :裕美。
裕美 :はい。こちらではダメでしょうか?
晴実 :これは、その『事件』とやらの証拠?
裕美 :はい。被害者が持っていた、唯一の証拠です。
明奈 :んー。多分大丈夫だと思う。
鎮 :やって貰えるか?
晴実 :タダで、とはいきません。
鎮 :だろうな。幾らだ?
晴実 :金銭ではなく、貴重品で。
鎮 :・・・何が良い。
晴実 :あなた方の髪の毛。
裕美 :髪の毛?そんなものでいいのですか?
晴実 :ええ。貴重品ですから。(微笑
ブランドン :はっはーん。確かに貴重品だな。
鎮 :何に・・・使うつもりだ?
晴実 :それは、秘密です。
明奈 :企業秘密ってやつだね。
鎮 :ふん・・・。(店内を見渡す)
なるほど、そういうことか。いいだろう。
晴実 :それでは、これで交渉成立・・・
(窓が割れ、侵入者がやってくる)
マシュー :目標補足。奪取する。
明奈 :はえ?何が起こって・・・きゃっ!?
晴実 :明奈!?
鎮 :侵入者か・・・裕美。
裕美 :はい。追撃しま・・・
ブランドン :まてまて!お前に結界を張り直してないだろうが!
鎮 :そんな事を言っている場合じゃないだろう!
ブランドン :周りに影響が出るのは看過(かんか)できねぇんだよ!
鎮 :ちっ・・・仕事人間め。
晴実 :どうでもいいから、さっさと明奈を取り返さないと!
あの子、魔術戦闘なんて出来ないの!
ブランドン :わかってるっての。ひっそりと発信器付けといた。これを辿れば、犯人に行き着く。
鎮 :相変わらず、小細工が上手いな。
ブランドン :うるせぇ!とりあえず、追うぞ!
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マシュー :はぁ・・・。なんで僕がこんな目に・・・。
明奈 :大変だねぇ~。ガンバレ!新人君!
マシュー :はい・・・。というかホント、すいません。危険な事に巻き込んじゃって。
明奈 :あー、いいっていいってー。案外楽しんでるから。
マシュー :えっと・・・すこし緊張感持って貰えます?一応、今の明奈さん、僕の人質なんですけど。
明奈 :形式上でしょー?いいのいいのー。
マシュー :僕が良くないんです!
明奈 :真面目過ぎはハゲるぞー?
マシュー :おちょくらないでください!
(警報機のアラートが鳴る)
明奈 :警報音?
マシュー :き、来た・・・。
明奈 :あ、もしかしてブランドン達?
マシュー :はい。魔力探知機を改造した警報機を置いて正解でした。
これで落ち着いて対処できる。
明奈 :にしては緊張してるみたいだけど
マシュー :い、言わないで下さい!
鎮 :追い付いたぞ。人攫い。
マシュー :来ましたね・・・。
鎮 :丁度良く屋内に居てくれて助かる。日の光も入らないしな。
裕美 :明奈さんを返して貰います。
マシュー :残念ですが、そういう訳にはいきません。
鎮 :目的はなんだ?
マシュー :あ、えっと・・・。貴方には関係無い。
明奈 :しどろもどろだねぇ・・・大丈夫?(小声)
マシュー :人攫いなんてやったことないからどう答えていいのか解らないんです!(小声)
明奈 :そりゃそうだろうけどさぁ(小声
鎮 :なにをブツブツ言っているのか知らないが、大人しく返して貰えないなら、実力行使させて貰うぞ?
マシュー :の、望むところです。
鎮 :ふん、いいだろう。・・・裕美。
裕美 :はい。なんでしょう。
鎮 :お前は手を出すな。
裕美 :はい。解っております。
鎮 :それじゃあ・・・行くぞ?(突進)
マシュー :は、速いっ!?
鎮 :来い、ブラッドエッジ!
マシュー :血で作った・・・大剣!?
鎮 :本来は投げるものだが、近接攻撃も出来ないって訳じゃない。・・・それじゃあ、死ね。人攫い。
マシュー :ショートカット。ウッド・ガード!
裕美 :詠唱を省略した!?
鎮 :ふん、防いだか。そう簡単には行かないようだな?
マシュー :あ、当たり前です。
鎮 :なるほど、じゃあもう少し本気出すか。
マシュー :こちらも!『赤き石に灯るは光。その名は焔(ほむら)』
明奈 :ふぅん、なかなか詠唱速いんだ。
鎮 :詠唱を止める訳にはいかないか。なら、受け止める。
マシュー :フレイムバーストっ!
鎮 :ぐぅっ!?
裕美 :マスターのブラッドエッジに・・・ヒビが!?
マシュー :これなら・・・行ける。
鎮 :・・・ふふっ。なかなか良い火力だ。
マシュー :わ、笑ってる・・・?
鎮 :だが、これじゃあ足りない。
マシュー :っ!?剣が・・・もう一本!?
しまった!この距離は!
鎮 :詠唱の時間はやらん。斬る。(振り上げる
マシュー :くっ!『赤き石。開放』!
鎮 :自爆魔法!?ぐあっ!?
裕美 :ま、マスターっ!?
鎮 :大丈夫だ!殻翼(がいよく)で防いだ!
マシュー :けほっごほっ・・・アレでも・・・ダメなのか・・・?
鎮 :すこし焦ったぞ?
明奈 :ちょ、ちょっと大丈夫?
マシュー :まだ・・・行けます。
鎮 :まだ行ける・・・か。殺さないつもりだったが、そういう訳にもいかないな?
裕美 :マスター?なにを・・・?
マシュー :剣を消した・・・?何をするつもりなんだ・・・。
鎮 :『舞うは紅(くれない)の花弁。残るは屍(かばね)』
マシュー :詠唱・・・?魔族が詠唱なんて・・・
鎮 :その剣は飾りか?
マシュー :えっ・・・?
鎮 :さっさと俺を止めないと、お前。死ぬぞ?
マシュー :あっ!『青き石。纏うは清流。その名は水禍(すいか)』
鎮 :フォークロア・ウィンド。
マシュー :ウォーターブラスト!
明奈 :おおー。押し負けてない!
鎮 :だが、いつまで持つかな?
マシュー :ぐっ・・・魔力が・・・足りない・・・。
鎮 :これで・・・仕舞いだ!
ブランドン :グラインド・ウェイブ!
マシュー :う、うあぁっ!?
鎮 :くっ・・・なんだ!?
ブランドン :いやー、あぶねーあぶねー。大丈夫か?マシュー。
鎮 :どういうつもりだ。ブランドン。
ブランドン :どういうつもりって言われてもなぁ・・・。んー。とりあえず、部下守った。
マシュー :遅いですよ、ブランドンさん!
裕美 :ど、どういうことです?
鎮 :ふん。もしかして、お前・・・。俺をハメたな?
ブランドン :ハメてなんかねぇよ。ただ、紹介したまでだっての。
明奈 :紹介って感じにはみえないけどねー。
鎮 :また、回りくどいことを・・・。
ブランドン :ほら、サプライズは大事だろう?
晴実 :そんなものサプライズにもならないんだけどね。本当に。
明奈 :あれ?姉さん?来たんだ。
晴実 :あたりまえでしょ。待ってても仕方ないし。
鎮 :で?ちゃんと説明しろ、この茶番は何なんだ?
ブランドン :ちゃんとっつってもなぁ・・・。さっきも言った通り。部下を紹介したかったってのと、
晴実 :私達にあなたの実力を見せて貰うため。
ブランドン :で?合格かよ?コイツら。
晴実 :ええ。文句なしにね。さすがは『夜の王』
裕美 :で、この方は?
マシュー :あ、申し遅れました。僕、マシュー・フランクリンって言います。
この度、ブランドンさんの下について、聖十字協会(せいじゅうじきょうかい)の魔術師に・・・。
鎮 :(遮って)わかった。とりあえず、ブランドン。コイツ少し訓練が必要だぞ。
ブランドン :わーってるよ。
明奈 :あれ?なかなか良い線行ってたんじゃないの?
裕美 :マスター。どれくらい力をセーブしてました?
鎮 :5割出してないな。
ブランドン :途中から気付いたみたいだしな。
鎮 :当たり前だ。なんせお前が、こんな厄介ごとを俺に任せる訳がないからな。
なにか裏があると思って力をセーブした。
ブランドン :はっはー。たしかになー。
マシュー :あの・・・やっぱり、弱いですかね。僕・・・。
鎮 :弱い。
マシュー :あ・・・ですよね・・・。
明奈 :おー。心を折られたねぇ少年。よしよーし。
ブランドン :おいおい。すっぱり言い過ぎだろ。
鎮 :だが、本当だ。ヘブリニッジで生き残るには力が足りない。
これじゃ、そこらの雑魚でもてこずるぞ?
ブランドン :そうかよ。まぁ、だったら頑張って鍛えるか。な。
マシュー :はい・・・。
晴実 :さて、一応、一段落したかしらね?
明奈 :今度は私達の仕事だね。
ブランドン :あ。そういやそうだったなぁ。
マシュー :本題を忘れたらダメでしょう。
鎮 :いつまでも時間を無駄にはしたくないからな。
よろしく頼む。
明奈 :ほいほーい。まっかせてー。
晴実 :それじゃ、帰りましょうか。
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(桜屋。魔術部屋)
明奈 :それじゃ、いくよー?
『物に宿る記憶。我が眼前に呼び覚ませ』
マシュー :紙が・・・光った・・・!?
晴実 :しっ!静かに。大きい声ださないで。
マシュー :す、すいません・・・。
裕美 :これが、過去視ですか。
晴実 :珍しい?
裕美 :はい。ヘブリニッジ内でも見ることは、ほぼ無いですね。
マシュー :僕も、初めて見ます。
晴実 :でしょうね。これって後付けで出来る能力じゃないみたいだし。
ブランドン :生まれ持っての力・・・ギフトだな。
マシュー :神様からの贈り物ですか・・・。なんだかかっこいいですね。
鎮 :(鼻で笑って)かっこいいねぇ?
晴実 :厄介な贈り物よ・・・。(小声
ブランドン :かっこいいとか、厄介とかっていう考え方は人それぞれだわなー。
晴実 :一人言を盗み聞きなんて悪い人。
ブランドン :んー?なんのことかねぇ?
マシュー :え、えっと?
明奈 :見えてきた・・・人・・・。おでこの辺りに突起が・・・これは鬼?
裕美 :マスター。
鎮 :やはりな。
明奈 :あぁ、これは・・・ひどい。殴って殺すなんて。
晴実 :大丈夫?明奈。
明奈 :うん。大丈夫。・・・あれ?ちょっとまって・・・もう1人・・・?
裕美 :もう1人?鬼の仲間でしょうか?
明奈 :違う、これ・・・鬼じゃない。なんだろ。んー、ノイズが酷くてよく見えない・・・。
裕美 :なにか、小さいヒントでも。
明奈 :なんだろう。コウモリの羽根・・・みたいな?サキュバスか・・・吸血鬼?
ブランドン :吸血鬼と鬼?戦ってるのか?
明奈 :ちがう。なにか、話してる。・・・夜の王。鬼。解体。これはチーム・・・。だめ、声が小さくて。
ブランドン :吸血鬼と鬼がチームってことか?
裕美 :ありえません。ヘブリニッジが出来る以前から争い合う関係ですから。
マシュー :じゃあ、一体どういう事でしょうか?
晴実 :これは予測だけど、一時的に同盟を組んだのではないの?
裕美 :と、いいますと?
明奈 :権力を奪おうってことでしょ。
晴実 :終わった?
明奈 :うん。終わったよ、姉さん。
(鎮の方を向いて)ごめんねぇ。ノイズが酷くってちゃんとした過去視できなかったや。
鎮 :かまわない。それで、その権力についてなんだが、詳しく意見を聞きたい。
晴実 :今、ヘブリニッジで一番の権力を持っているのは誰?
マシュー :吸血鬼の長(おさ)である四名家(よんめいけ)と鬼島組(きじまぐみ)ですね。
明奈 :じゃあ、その2つが衝突したとして。四名家も、鬼島組も、どっちもなくなったらどうなる?
裕美 :必然と吸血鬼も、鬼も、新しく勢力が・・・。あっ!
晴実 :そう、つまり、この犯人は自分達の権力欲しさにこんなちっぽけな事件を仕立て上げた。
ブランドン :はっはぁ~ん?考えられてるなぁ。
マシュー :そうでしょうか?ちょっと、回りくどい様な・・・
鎮 :ブランドン。この部下の教育は策略の方も重要かもな。
マシュー :あ、あれ?
ブランドン :ったくよー。いいか?マシュー。解説してやる。えっと・・・晴実さん、この4つの人形借りて良いか?
晴実 :どうぞ。
ブランドン :いくぞ?右側にある2体の人形を吸血鬼、左の人形たちを鬼とする。
マシュー :はい。
ブランドン :鬼と吸血鬼は昔から仲が悪い。それは解ってるだろ?
マシュー :そりゃあ、常識になってますから。
ブランドン :よし、じゃあつづけるぞ?今、この街では鬼側の代替わりが起こってる。そのせいで情勢が不安定だ。
裕美 :鬼の中で、次期当主に反対しているグループが生まれました。
ブランドン :つまり、こうやって鬼の中でも対立が起こってるわけだ。
晴実 :それに目を点けた吸血鬼のグループ。たぶん、大して力を持ってないヤツらね。
そいつらが、この離反グループに声をかける。
明奈 :『おい。俺らと手を組んで下克上しねーかぁ?』ってね。
ブランドン :離反組は自分の思う党首を立てる事が出来る。吸血鬼側は、権力を手に入れられる。
マシュー :はい。それも大丈夫です。僕が釈然と来てないのは・・・
ブランドン :解ってるっての。お前が言いたいのは、なんで無関係の同族達を殺してるのか?だろ?
裕美 :簡単な事です。吸血鬼が鬼を殺す。鬼が吸血鬼を殺す。
すると、この鬼の権力者と吸血鬼の権力者はどう思います?
明奈 :お互いがお互い、不安定な情勢を隠れ蓑に、自分達を潰そうとしてるって考えるでしょ?
マシュー :あ、なるほど。自分達に目が向くことなく、同士討ちが狙えると・・・。
鎮 :おかげで、今はどこもかしこも疑心暗鬼だ。火が付くのも当然だな。
ブランドン :コイツは厄介なことになりそうだぜ?鎮。
早めに手をうたねぇと本当に火種が弾丸を飛ばしちまう。
鎮 :ああ、解っている。しかたない。こうなったら、お前達にも協力して貰うぞ?
ブランドン :あいよ。つか、そのつもりでわざわざ今日、お膳立てしたんだっての。
晴実 :協力したいけど、私達にはここまでね。
明奈 :あとは、がんばってーって言うしかないや。
鎮 :ああ、2人には感謝する。
裕美 :これをお納め下さい。
明奈 :これは・・・?
鎮 :こっちは約束の品の髪の毛だ。それと、この小瓶は。
晴実 :血ね?あなたの。
鎮 :ああ。ブラッドエッジが壊されかけた時のカケラを残しておいた。
マシュー :な、なんかすいません・・・。
鎮 :髪と違って、血の方は魔術道具の霊媒にはならないが、ちょっとした魔除けにはなるだろう。
幻霊(げんれい)から妹を守りたいなら使うといい。
裕美 :扱いにはお気を付け下さい。
晴実 :バレてたわけね。コワイ人。
鎮 :賢くないと死ぬ世界だからな。塀の向こうは。
明奈 :んー?なんの話ー?
晴実 :あなたは気にしなくてよろしい。
明奈 :仲間はずれずるーい!
ブランドン :さて、そろそろ行くかね。鎮。
鎮 :ああ、そうしよう。
晴実 :待って、これ。持って行きなさい。
鎮 :これは?人形?
晴実 :お釣りよ。依り代にもなるお人形。
使い方は任せるわ。
鎮 :フン。ありがたく貰っておこう。
裕美 :それでは。失礼致します。
晴実 :それじゃね。
明奈 :また、遊びにおいでー
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マシュー :次回予告
裕美 :一方は立身のために
晴実 :一方は自らのために
明奈 :Night/Knight 第8話 思惑
ブランドン :2つの思惑は宴の机に。
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