Night/Knight 第3話 「光の傀儡(かいらい)」 作:福山漱流

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夜巳 鎮(やみ まもる):純血の吸血鬼。見た目17歳くらいだが、実年齢は200オーバー。感情の起伏が浅く、常に怒っているように思われる。
           

水原 裕美(みずはら ひろみ):夜巳に仕える吸血鬼。20代の見た目をしている。
              人間との混血である故に、捨てられて居たところを鎮に拾われる。瀟洒で人付き合いの良いタイプ。

ローランド・ワインバーガー:封滅騎士団第一装甲騎隊 隊長。20代にして隊長に就任した天才。
              基本の戦闘は中身の無い空の鎧を操っての傀儡術式。
              どこか相手を見下した言い方をするタイプ。

ブランドン・マールスフェルト:20代後半。聖十字協会所属の魔術師。男爵の爵位を持つ。
               鎮とは腐れ縁のライバルであり、しょっちゅう小言をいう保護者の様な存在。
               術式形態はアゾット剣を用いた魔術を織り交ぜた近接攻撃。及びアゾット剣に封印された人工魔獣をつかったもの。

マリアン・グロリア・シサリーザ:20代後半から30代。聖十字協会所属の魔術師。伯爵の爵位を持つ。
                聖十字協会の幹部であり、普段の仕事はもっぱらのデスクワークである。
                ブランドンの直属の上司。若くして聖十字協会の幹部となっただけあり、頭の回る策師。
                常に冷静であるが冗談も言える社交的なタイプ。
                結界術に長け、護身術式である結界術であっても中位魔族相手に苦戦しないほど。


♂鎮(やみ まもる):
♀水原 裕美(みずはら ひろみ):
♂ローランド・ワインバーガー:
♂ブランドン・マールスフェルト:
♀マリアン・グロリア・シサリーザ:
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       (ヘブリニッジ魔術特区内、潜入魔術師寮 ブランドン自室) 

ブランドン:街に潜ってみたは良いモノの・・・コレといって情報があつまらねぇなぁ・・・。

       (猫が一匹入り込む。)
       (猫の鳴き声)

ブランドン:ん?猫?

マリアン :やあ、ブランドン。

ブランドン:なんだ。シサリーザか。

マリアン :なんだとはなんだ。失敬な奴だな。

ブランドン:別に良いだろ。それにしても、使い魔を寄越してくるなんて珍しいな。

マリアン :お前が一向に情報を寄越さないもんだから、こっちから連絡したまでだ。
      ・・・マシューはどうした?

ブランドン:アイツは今寝てるよ。昨日ちょっと夜遅くまで連れ回したからな。

マリアン :どこに行ったんだ?

ブランドン:ん?化け猫亭だろ?それに騒霊のバーだろ?あと・・・

マリアン :まさか、サキュバスの娼館にまでいってないだろうな?

ブランドン:あそこはあの坊ちゃんには刺激が強すぎるからな。まだ行ってねぇ。

マリアン :仕事に関係する以外に行くなよ?いろいろと面倒になる。

ブランドン:分かってるっての。

マリアン :まぁ、そんなことはどうでもいい。
      聞きたかったのは、街の様子だ。

ブランドン:変わっちゃいねぇ。なにか争いが起こりそうな雰囲気はない。
      だが、鬼島(きじま)の代替わりが近いっていう噂もあってピリピリはしてる。

マリアン :ふむ・・・。どうやら、そのようだな。
      上辺では平和を見せてるが、どことなく怯えている。

ブランドン:わかるのか?

マリアン :感覚だ。保証はない。

ブランドン:なるほどね。で、本題に戻るんだけどよ。

マリアン :ああ、続けてくれ。

ブランドン:どうやら、本格的に近々代替わりがある。
      次の党首は鬼島の長男坊だ。
      
マリアン :ほう?長女ではなく?

ブランドン:ああ、血統が理由だろうな。

マリアン :ふむ、厄介なことになりそうだ。

ブランドン:内側で揉めるかもな。

マリアン :ああ、警戒しておいて損は無さそうだ。

ブランドン:俺が伝えられるのは以上だ。

マリアン :分かった。このまま偵察を続けてくれ。
      至急の事態になったら・・・

ブランドン:そうなる前に連絡するっての。

マリアン :フフ、そうかい。とりあえず、こちらはすぐに介入出来る準備はしておく。

ブランドン:おう。頼むわ。
      
マリアン :それでは、私はそろそろ戻ることにするか。

ブランドン:もっとゆっくりしてても良いんだぜ?

マリアン :こう見えても多忙なんでな。
      ・・・おっと、そういえば、伝えることがあったんだ。

ブランドン:なんだよ?

マリアン :関係は無いだろうが、コレを見てみろ。

ブランドン:魔術師・・・封滅騎士か?

マリアン :ああ。紛れ込んだ様だ。

ブランドン:コイツ、どこかで見たことがあるな。

マリアン :名前は、ローランド・ワインバーガー。

ブランドン:思い出した、【パペッター】か。

マリアン :ああ、あの有名人が来た様だ。

ブランドン:一番マークしてねぇとな。

マリアン :頼めるか?

ブランドン:任せとけ。

マリアン :すまないな。
      ・・・それでは、よろしく頼む。

     (猫、消える)

ブランドン:それじゃ、俺も動くことにしますかね。

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     (ヘブリニッジ 大通り)

ブランドン:ったく。厄介なことになりそうだ。

ローランド:おや?これはこれは。聖十字協会の。

ブランドン:あ?・・・げ。

ローランド:どうされました?苦虫でも口に入りましたか?

ブランドン:何で、封滅騎士団がここにいる?

ローランド:簡単な話。この辺りに滅するべき妖魔がいるからですよ。ブランドン卿。

ブランドン:仕事熱心だな。封滅騎士は。

ローランド:ええ。日和見主義の十字協会とは違いますので。

ブランドン:それは、俺らに喧嘩を売っていると思われてもおかしくはないぞ?パペッター。

ローランド:喧嘩を売るなど、そんなつもりはありませんよ。

ブランドン:・・・なにを狙っているのかは知らないが、ここらにいる妖魔はお前等が出てくるほどの相手じゃない。

ローランド:それは、そちらの尺度で測った話でしょう?我ら封滅騎士団はレベル付けで脅威を計るなどはしない。
      圧倒的に強くとも、弱くとも、民のため害悪は消し去るのが我ら。

ブランドン:そうかい。なら、1つ忠告だ。あまり調子に乗っていると痛い目にあうぞ?ローランド。
      特に、「夜の王」には手を出すな。

ローランド:在りがたい忠告、痛み入ります。ですが、釈迦に説法を解くのは無益なことですよ。
      おっと、こんな時間か。それでは、そろそろ私は仕事に移ります。夜道にお気を付けて。ブランドン卿。

ブランドン:お前こそな!・・・ったく、今日はツいてねぇな。
      ・・・【パペッター】ローランド・ワインバーガー。封滅騎士団の装甲騎隊が出てくるなんてな。
      これはいよいよ雲行きが怪しくなって来やがったな。


裕美   :Night/Knight 第3話 「光の傀儡」


鎮    :全く。面倒なことだな。

裕美   :どうされましたか?マスター。

鎮    :長老会から招集が掛かった。

裕美   :長老会から・・・ですか。
      吸血鬼の中でも一番の権力を持つ長老会がどうしてこんな時期に。
      マン・ハントの時期にはまだ早いですよ?

鎮    :いや、これは人を狩る算段の議会招集じゃない。
魔術師に対する緊急議会だからな。      

裕美   :もしかしたら・・・。

鎮    :心当たりがあるのか?

裕美   :確定情報ではないので、真偽は不明ですが。
      先日、バルトリオ家が一家惨殺され、滅んだと。

鎮    :バルトリオ家・・・。たしかウチのブロックに住んでいる純血種の家だったな。

裕美   :はい。50年前に人間から転化してきた吸血鬼一家です。長老会にも名を並べていたかと。

鎮    :ぽっと出の吸血鬼とはいえ、家柄のあった所がやられて、残った長老会のメンバーが怯えたか。

裕美   :おそらくは。

鎮    :だとしたら、欠席しても問題はないな。

裕美   :行かないんですか?

鎮    :俺は長老会に媚びを売るつもりはないし、売ったとしても旨味がない。

裕美   :ですが、同胞ですよ?

鎮    :夜巳家はどこまでも中立でいる。それが例え同胞だろうとな。

裕美   :それはそうでしょうけど・・・。

鎮    :・・・この話は後だ。何か来る。

裕美   :魔術師でしょうか?我々妖魔を術式で探してますから。

鎮    :かもしれない。ブランドンの奴と違う波長だ。流れ者か?

裕美   :迎撃に出ましょうか。

鎮    :俺が行く。裕美はここいらの弱い妖魔達を避難させてくれ。

裕美   :わかりました。避難が終わったら合流します。

鎮    :そうしてくれ。それじゃ、後でな。

裕美   :はい。ご武運を。

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ローランド:ここいらだったな。目的の吸血鬼の居所は。さて、どこを探したモノかな?

鎮    :その手間は要らないぞ?

ローランド:うん?ああ、君かここらに潜伏しているという吸血鬼は。
      えらく大仰な場所に現れたな。街灯の上とは。

鎮    :ただ、丁度着地した場所がここだっただけだ。

ローランド:そうか。まぁ、そんな事はどうでも良い。
      さっそくで悪いのだが、この私と手合わせを願いたい。よろしいか?

鎮    :フン。好きにすればいい。

ローランド:そうか。ならば、まずは面と向かって話そう。鎧を着たまま見上げて喋るのはつらい。

鎮    :断ったら?

ローランド:このランスが君の身体を貫くぞ?

鎮    :鈍重(どうじゅう)な鎧に、そんな事が出来るか?

ローランド:では・・・お見せしようっ!フンっ!

鎮    :っ!?速いっ!・・・ちっ!かすった!

ローランド:まだ、行くぞ?第二投だっ!

鎮    :いつの間に槍をっ!?ぐあっ!?

ローランド:射貫いたな。言ったであろう?貫くと。

鎮    :どうやら、単なる鎧じゃなさそうだな。

ローランド:これでも、隊を率いる者なのでな。

鎮    :そうか、なら、この程度で吸血鬼を仕留められるとは思ってないよな?

ローランド:どういう意味かな?

鎮    :こういう意味だ。づっ・・ぐあぁぁぁ・・・。

ローランド:何をする気・・・

鎮    :ほら、よっと。コレ、返すぜっ!

ローランド:ほう、引き抜いたか。それに、超回復も扱うか。やはり「夜の王」の二つ名は伊達ではないようだな。
      だが、よいのか?今の投擲(とうてき)を、私を貫くためにつかわなくて。命を取る絶好の機会だったぞ?

鎮    :その機会はまだあるからな。

ローランド:そうか。ならば、この私と戦う気になったという訳だな?

鎮    :どうなってもしらないぞ?

ローランド:覚悟の上っ!はぁぁぁっ!


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裕美   :遅くなってしまった。マスター、無事だと良いのですが・・・。

マリアン :そこ行くお嬢さん。

裕美   :っ!?誰です!?

マリアン :んー。名乗るほどの者ではないってだけ言っておこうかな?

裕美   :・・・猫?使い魔ですか。

マリアン :ご名答。諸事情があってね。姿はさらせないのさ。

裕美   :そうですか。それで、名無しの猫さんは何用です?

マリアン :そう警戒しないで欲しい。別に私は危害を加えようとしてる訳じゃない。

裕美   :それは出来ません。

マリアン :真面目なのか、それとも・・・。いや、まぁいい。
      じゃあ、私がこれから言う事をただ聞いていてくれればいい。

裕美   :では、手早くお願いします。私、これでも急いでいるので。

マリアン :それは失敬。では、手早く済まそう。
      争いは絶対に起こすな。

裕美   :どういうことです?

マリアン :そのままの意味さ。
      でないと、厄介な事が起こるぞ?

裕美   :それは、脅迫ですか?

マリアン :忠告さ。この街は、色々な人物の欲望が渦巻く場所だしな。

裕美   :・・・知っております。

マリアン :それを、君のマスターに伝えてくれ。

裕美   :それで、私に何の得が?

マリアン :それはいずれ分かる。すぐにでもな。

裕美   :・・・考えておきます。

マリアン :ああ、頼むよ。さて、話は以上だ。
      フフ、時間を取らせてしまって申し訳ないね。行くと良い。

裕美   :言われなくとも。失礼します。

     (裕美、去る)

マリアン :さて、これで少しは情勢が変わるかな?
      

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ローランド:ちょこまかとよく逃げるな!

鎮    :ぐっ!ブラッドエッジ!

ローランド:何処を狙っている!

鎮    :ちっ!

     (鎮、槍を防ぐ)

ローランド:ほう?殻翼(がいよく)で防いだか。

鎮    :俺に、翼を出させる奴がいるとはな。

ローランド:はははっ!光栄だよ。だが、まだまだこれからだ!

     (槍投擲、鎮回避。街灯に直撃)

鎮    :一撃で街灯を潰すか。

ローランド:これくらいは朝飯前だな。

鎮    :だが、まだまだやっぱり鈍重だな。そんな動きで俺を捉えられるか?

ローランド:ああ、捉えるさ。・・・この通り。

鎮    :なっ!?後ろだとっ!?

ローランド:はあぁぁぁっ!

鎮    :ぐっ・・がぁっ!

ローランド:ふふ。気を抜きすぎだぞ?吸血鬼。

鎮    :ちっ・・・。身体強化術式か。

ローランド:どうだろうな?はたまた、別の術式かもしれん。

鎮    :いけしゃあしゃあとっ!

ローランド:能もなくただ突っ込んでくるだけか?

鎮    :そんなわけないだろ。ハートバインド!・・・なっ!?手応えがない?

ローランド:ふふ・・・はははっ!効かんなぁっ!?

鎮    :どうなってるんだ、コイツ・・・。

鎮(M)  :確かに心臓の位置に時間停止魔術を発動させたのに・・・

ローランド:この程度で「夜の王」とは笑わせるなぁっ!

     (鎧。ランスを構え突っ込む)

鎮    :ちいっ!

     (鎮、間一髪で回避)

ローランド:そら、そらそらそらぁっ!

     (連撃、鎮、回避)

鎮    :くそ、手が出せないっ

ローランド:ちょこまかと逃げるだけじゃ決着は付かないぞっ!?

鎮    :だからって、やられる訳にもいかないんだよっ!はぁぁっ!

ローランド:ぬっ!?懐に入られたっ!?

鎮    :俺も組み手が出来ないわけじゃないんだっ!

ローランド:しまった!?

     (鎮、掌底をたたき込む。鎧、空洞音が響く)

鎮    :この手応え・・・この鎧、中身が無いな?

ローランド:ちぃっ!一度距離を・・・

鎮    :させるかよっ!ブラッドバインド!

ローランド:血を使った拘束術だとっ!?う、うごけん・・・

鎮    :中身が無いなら・・・壊すのみっ!

ローランド:や、やめろぉぉぉっ!

鎮    :はぁぁぁぁぁっ!おらぁっ!(鎧の頭部破壊

ローランド:ぐうっ!?腕力だけで頭部が壊されただと!?・・・だめだ、何も見えん。

鎮    :これで、戦闘不能だな。後はどこかに隠れている操作主を探すだけだな。

ローランド:クソ・・・これではいかん・・・。一度撤退する。

鎮    :鎧を放棄して逃げたか。

裕美   :マスター。

鎮    :裕美か。敵は撃退したぞ。

裕美   :おつかれさまです。避難は完了していました。連絡が遅れて申し訳・・・

鎮    :構わない。被害がないのなら問題はない。

裕美   :追跡術式は使いますか?

鎮    :いや、いい。どうせ、どっかのお節介魔術師が教えてくれるんだからな。

裕美   :?(困惑

鎮    :とりあえず、辺りを警戒しながら帰るか。避難してるヤツらを帰しても良いぞ。

裕美   :分かりました。そのように計らいます。

鎮    :ああ。頼んだ。

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ローランド:まさか・・・ここまでとは・・・

ブランドン:おや?封滅騎士のパペッター。どうしたのですかねぇ?そんな青い顔して。

ローランド:くっ・・・ブランドン卿。

ブランドン:あー。なるほどなるほど。騎士様は、夜の王に手を出されたのですね?そして、返り討ちに遭って青ざめてるとか?

ローランド:くっ・・・!

ブランドン:大事な鎧も失って、この後は上司からのお説教ですかな?

ローランド:黙れ。裏切り者がっ!

ブランドン:裏切り者?何のことだか?

ローランド:何もせず見ていたな!?貴様!俺が戦っている間も!

ブランドン:さて。なんのことだろうな?

ローランド:倒すべき妖魔を前に戦いもしないモノは魔術師ではない!
      
ブランドン:我ら聖十字協会は、全ての妖魔の動向を観測し、管理する組織。戦闘の行方を見張るのも私達の仕事です。・・・知らないとはいわせないが?

ローランド:くっ・・・。

ブランドン:ま、相手が悪かったと思って、暫く大人しくしておくことだな。
      でないと、次に壊されるのは、あなたのその頭ってことになるが?

ローランド:黙れ。次こそは俺が奴を殺す。

ブランドン:出来ればいいな?おっと、こんな時間か。では、私はここらで失礼する。夜道には気をつけて。騎士様?

ローランド:くっそがぁっ!夜の王・・・夜巳 鎮・・・。アイツは、絶対にっ・・・。


鎮    :次回予告

裕美   :吸血鬼の集いに現れる侵入者。

ブランドン:次回 Night/Knight 第4話「ポルターガイスト」

ローランド:集うは騒霊の酒場



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