NIGHT/KNIGHT 第1話 ヘブリニッジ魔族特区 作:福山漱流

タイトル画像

マシュー・フランクリン:22歳。聖十字協会の魔術師。爵位は無し。
            新米魔術師であり、ブランドンの部下としてヘブリニッジに派遣された。
            使用魔術は基礎的なものを幅広く扱い、威力も平均的。典型的な知性派であり、近接戦闘には向かない。
            優等生タイプで、頭もよく回るが、ルールに縛られやすく、柔軟に対応できない面を持つ。      
      

ブランドン・マールスフェルト:20代後半。聖十字協会所属の魔術師。男爵の爵位を持つ。
               鎮とは腐れ縁のライバルであり、しょっちゅう小言をいう保護者の様な存在。
               術式形態はアゾット剣を用いた魔術を織り交ぜた近接攻撃。及びアゾット剣に封印された人工魔獣をつかったもの。

マリアン・グロリア・シサリーザ:20代後半から30代。聖十字協会所属の魔術師。伯爵の爵位を持つ。
                聖十字協会の幹部であり、普段の仕事はもっぱらのデスクワークである。
                ブランドンの直属の上司。若くして聖十字協会の幹部となっただけあり、頭の回る策師。
                普段は飄々としているが、締める時には締める抜け目ない人物。
                結界術に長け、護身術式である結界術であっても中位魔族相手に苦戦しないほど。

藤堂小虎(とうどう ことら):定食屋『化け猫亭』の店主。見た目40代後半。
              ヘブリニッジという街が出来た当初からいる古株の魔族。
              古くからいるため、ヘブリニッジにいるあらゆる魔族に顔が利く。
              性格は頑固で融通が利かない江戸っ子気質。

マシュー♂:
ブランドン♂:
マリアン♀:
小虎♂:
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マシュー :この門の向こうが、ヘブリニッジ魔族特区・・・。緊張するな・・・。
      それにしても、人多いなぁ。迎えが来てると言われてたんだけど・・・。

ブランドン:ん?あー、おい、そこの坊や。

マシュー :はい。何でしょう。

ブランドン:お前、マシュー・フランクリンか?

マシュー :ええ、マシューは僕ですけど。

ブランドン:よく来たな。俺はブランドン・マールスフェルト。
      この魔族特区を担当してる聖十字協会の魔術師で、等級は男爵だ。よろしくな。

マシュー :あっ!失礼しました!聖十字協会所属 マシュー・フランクリンです!
      以後、よろしくお願いします!ブランドン卿!

ブランドン:敬礼なんかしなくていい。爵位もここじゃあ飾りにもならねぇよ。
      ブランドンって呼んでくれ。

マシュー :いえ、でも、上官に対しては敬礼するのがルールで・・・。

ブランドン:それは外のルールだ。言ったろ?俺らが活動するヘブリニッジじゃその礼は意味はない。
      郷には入ればなんとやらってな。
      ま、無駄話は後でも出来る。とりあえず、まずは協会支部に行こうぜ。案内してやる。

マシュー :は、はい!


マリアン :NIGHT/KNIGHT 第一話 ヘブリニッジ魔族特区


ブランドン:さて、ここが、ヘブリニッジの聖十字協会 セントマリー支部だ。

マシュー :思っていたより・・・大きいですね。

ブランドン:支部つっても、隣のヘブリニッジの街を全てを監視しなけりゃならんからな。これでも小さい方だ。

マシュー :そうなんですか・・・。

ブランドン:ほれ、こっちへ来い。まずは支部長に挨拶だな。

マシュー :わかりました!・・・あの、支部長ってどんな方ですか?

ブランドン:あー・・・そうだな。えっと、バカだ。

マシュー :ば・・・か?

ブランドン:とりあえず、いろんな意味でバカだ。以上。

マシュー :はぁ・・・そうなんですか・・・。

ブランドン:ま、話してみれば分かる。
      さて、ここだよ。支部長執務室は。ほれ。

マシュー :はい?

ブランドン:さっさと挨拶してこい。俺はここで待つ。

マシュー :あ、僕1人でいくんですね・・・。

ブランドン:俺はお前のお袋じゃねぇんだよ。分かったらさっさと・・・

マリアン :ブランドン。さっさと入ったら?そこにいるのは分かってるんだけど?

ブランドン:げ・・・。ちっ、仕方ねぇなぁ・・・。
   
(ブランドン、マシュー入室)

マシュー :失礼します・・・。

マリアン :やぁ、よく来たね。マシュー・フランクリン。
      私は、ここの支部長。マリアン・グロリア・シサリーザだ。
      以後、よろしく頼む。

マシュー :は、はい。よろしくお願いします。シサリーザ卿。

マリアン :堅苦しいのは止めてくれ。ここでは敬礼も無意味だよ?

ブランドン:ったく、真面目だな。マシュー。さっきも言ったろ。

マシュー :え、いや。あの・・・。すみません。

マリアン :まぁ、いい。こんな些細な事はどうでも良い。
      魔術統括院を主席で卒業した君には期待しているよ?

ブランドン:へぇ、主席卒業か。賢くていらっしゃる訳だ。

マリアン :どうした?嫉妬でもしてるのか?ブランドン。

ブランドン:そうじゃねぇよ。というか、俺が嫉妬なんてする訳ねぇの知ってるだろ。

マリアン :違いないな。さて、早速だが君達には・・・

ブランドン:まてまて、ちょっとまて!

マリアン :ん?なんだ?ブランドン。

ブランドン:いや、今、『君達』って言ったよな!?
      俺の仕事って此所までじゃねぇのか!?

マリアン :当たり前だろ。これから君らにはコンビとして活動してもらうんだから。

マシュー :コンビ・・・ですか?

ブランドン:はぁっ!?俺がか!?

マリアン :他に誰が居る?教育係にはぴったりだと思うが?

ブランドン:俺はベビーシッターじゃねぇっ!

マリアン :心配するな。マシューは自分の世話くらいちゃんと出来る。

ブランドン:そんな意味じゃねぇよ!

マリアン :君の意見は聞いてない。

ブランドン:なぁーっ!?

マシュー :えっと、これは一体どういう・・・。

マリアン :簡単に説明しよう。現在、ヘブリニッジ魔族特区は大変危険な状況なのさ。
      
ブランドン:本当に簡単だな。

マリアン :知っての通り、ヘブリニッジという街は人間界に作られた魔族達の魔族達による街だ。
      半径24kmの狭い中にさまざまな種族が暮らしてる。

マシュー :はい。それは統括院で学びました。

マリアン :だろうな。では、質問だ。ここで今、勢力を二分する魔族の種(しゅ)がある。それはなにかな?

マシュー :吸血鬼と鬼の一族ですね。

マリアン :その通り。先史時代よりひっそりと、この土地を支配していた魔族である鬼。
      そして、500年ほど前にゲートが生まれた直後やってきた有力種族である、吸血鬼。

ブランドン:この二種族が今、緊張状態にあるんだよ。

マシュー :緊張って。それは400年前に起こった紛争の後、和平協定が結ばれたんじゃなかったんです?

ブランドン:表向きはな。でも、現実はそうじゃないんだ。

マリアン :協定なんてヘブリニッジに住むヤツらに取っては在って無い様なものだ。
      今でも互いに牽制している。小競り合いも日常茶飯事だ。

マシュー :あ、つまり、それを鎮圧するのが僕らの任務ということですね。

ブランドン:いや、それは違う。

マシュー :はい?

マリアン :我々は、干渉しない。ただ、見守るだけだ。

マシュー :干渉しないって・・・どういうことですか?

ブランドン:どうもこうもねぇよ。極力手は出さないし、向こう側から協力要請があれば協力する。

マリアン :だが、一旦こちら側に危害が及ぶ様な案件となったなら『消す』・・・それだけだよ?

マシュー :でも・・・それじゃあ後手に回りませんか?

マリアン :そうならないために、常に監視しているのさ。
      戦闘の起こりそうな所とかをね。

マシュー :監視だけですか・・・。

マリアン :なんだ?不満そうだな?見かけによらず暴れん坊なのか?

マシュー :いえ、そう言う訳じゃないですけど。

ブランドン:ま、いざって時にへっぴり腰になるよりは良いけどよ。

マリアン :話を戻すが、我々の任務は魔族の監視だ。時と場合によっては魔族と協力して問題解決を図る。
      その先兵として君の力を発揮して欲しい。

マシュー :は、はぁ・・・。

ブランドン:不安か?

マリアン :そう気負うな。サポートに此所にいるブランドンが付くんだ。
      こう言うのもなんだが、コイツはこの支部で一番のやり手だぞ?

ブランドン:珍しく褒めるなんてな。今日は雪でも降るのか?

マリアン :素直に評価したまでだよ。ま、こういってたまに調子に乗るのが玉に瑕だが。

マシュー :いえ。頼らせてもらいます。

マリアン :その意気だ。・・・さて、ということでだ。では、ブランドン。さっそく案内してやれ。

ブランドン:あー。街をか?

マリアン :そうだ。知っておくべきことは多いだろう?特に化け猫亭はな。

ブランドン:たしかにな。あそこの親父には顔を見せておいた方が良いな。

マシュー :え、えっと・・・、どういうことでしょう?

ブランドン:まぁ、行きながら解説するわ。とりあえず、付いてこいや。

マシュー :あ、はい!それでは、失礼します。シサリーザ卿!

マリアン :気をつけて行ってくるといい。・・・全く、面白い新人がきたものだ。


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マシュー :それで、化け猫亭へ行くんですよね?

ブランドン:ああ、そうだ。

マシュー :その、化け猫亭ってどんなとこなんですか?

ブランドン:文字通り、化け猫がやってる定食屋さ。それ以上も以下もねぇ。

マシュー :でも、顔を見せて置いた方が良いってさっき。

ブランドン:ああ、あれな。なんせ、そこの親父がこのヘブリニッジで一番顔の広い奴だからだ。
      モグリの魔術師って見下されたくなけりゃ、一度会っておくべきなんだよ。

マシュー :そんなすごい魔族がいるんですね。

ブランドン:その、人と魔族を区別すんのはやめろ。ここじゃ、魔族も人間も一緒。単なる人だ。
      下手に差別する言い方してると、街を歩ききる前に墓場に行くことになるんだからよ。

マシュー :き、気をつけます・・・。

ブランドン:分かればいいさ。・・・さて、ここが例の化け猫亭だ。

マシュー :案外、大きいんですね。このお店。

ブランドン:ま、定食屋って雰囲気じゃないわな。
      なんせこの街に唯一のマトモな飯屋だ。

マシュー :そうなんですか!?

ブランドン:いや、一応他にもあるんだがな?俺の口に合うのは此所しかなかったんだよ。

マシュー :あ、そういうことですか。

ブランドン:ま、俺のお墨付きだ。味には期待しな。

マシュー :な、なんか趣旨が違ってきてる気が・・・

ブランドン:んじゃ、入るとするかー。
      
      (ブランドン入店、後に続くマシュー)
      
ブランドン:おーい、親父ぃ。やってるか?

小虎   :らっしゃい。・・・なんじゃい。ブランドンの小僧か。

ブランドン:なんだとは失礼な。良い金ヅルだろ?

小虎   :自分で言う奴があるかバカタレ。ん?そっちのはなんだ?

ブランドン:ああ、紹介する。今日から俺の部下になったマシューだ。

マシュー :マシュー・フランクリンです。よろしくお願いします。

小虎   :フン。またこの街にガキが増えるのか。

ブランドン:そう、邪険に扱ってやんなよ。俺がちゃんと面倒見るんだしよ。

小虎   :オメェが面倒を見るから不安なんだバカヤロウ。

ブランドン:信用しろっての。

小虎   :なぁ、ガキんちょ。

マシュー :えと、僕でしょうか・・・?

小虎   :オメェ以外に誰がいる。
      とりあえず、忠告しとくぞ。街を歩く時はブランドンの小僧から離れんじゃねぇ。

マシュー :は、はい。

小虎   :その様子じゃあ、こう言った理由分かってねぇな?
      大丈夫かぁ?ブランドン。コイツなかなか苦労するぞ。

ブランドン:そりゃあ、まぁ、覚悟はしてるよ。何せ、シサリーザのお墨付きだコイツは。

小虎   :あー。シサリーザの嬢ちゃんな。なら、苦労しろ。しかたねぇや。

ブランドン:ああ、そのつもりだっての。

マシュー :あの・・・。離れちゃいけない理由って教えて貰えます?

小虎   :少しは自分で考えやがれバカタレ!

マシュー :す、すいません!

小虎   :まぁ。理由は簡単な事だ。お前はまだまだお上りさんだ。
      この街に住む人間に取っちゃ良いカモだ。ちょいと路地に連れ込まれて殺されて腹の中ってな。

マシュー :は、腹の・・・

小虎   :そうなりたくなけりゃあ、コイツの側を離れんな。いいな、ガキ。

マシュー :わ、わかりました。

小虎   :で、小僧。コイツを見せるためだけに来たのか?

ブランドン:あー、いや。それだけじゃねぇ。腹ごしらえも兼ねてちょいとね。

小虎   :フン。だろうと思った。何が良い?いつものか?

ブランドン:そうだな。頼むわ。

マシュー :いつもの?

小虎   :煮物だ。魚のな。

マシュー :あ。普通なんだ。

小虎   :なんだぁ?ウチが訳の分からないモン出すとおもってんのか!?

マシュー :や、そう言う訳では・・・

ブランドン:わりぃな。親父。コイツまだ頭かってぇから。

小虎   :ちゃんと教育してからつれて来いッてんだ。・・・ほれ。鯖の煮付けだ。

ブランドン:お、これこれ。今日は味噌か?

小虎   :ああ、いいのが入ったからな。白飯は?

ブランドン:付けてくれ。

小虎   :あいよ。・・・ん?どうしたガキ。さっさと座って喰えよ。

マシュー :え、いや。いいんですか?

小虎   :ここは飯屋だ。食わないでなにをすんだよ。

マシュー :た、確かに。

ブランドン:ま。今日は俺が奢ってやッから。食え食え。うめーぞぉ?

マシュー :じゃあ、お言葉に甘えて・・・
      (マシュー、魚を一口食べる)
      あ、美味しい。

小虎   :だろう?他のとこにゃあ、負けられねぇからな。

マシュー :すごく美味しいです!こう、魚の風味を残しながら、でも味噌の旨味がこう・・・

小虎   :こいつ、ホントに魔術師か?どっかのリポーターみてぇな喋り方しやがって。

ブランドン:実はそっちの方が向いてたりしてな。

マシュー :ちょっと、やめてくださいよ。僕はれっきとした魔術師で・・・

小虎   :わかったから、さっさと食っちまえ。全く、騒々しいヤツらだ。

ブランドン:お、そうだそうだ。親父。ちょっといいか?

小虎   :あん?なんだ。

ブランドン:ちょっと聞きたいことが・・・な?

小虎   :ああ、そういうことか。・・・裏にこい。

マシュー :あ、ブランドンさん。どこか行かれるんです?

ブランドン:いんや、すぐ戻って来る。お前は大人しくそれ食ってな。

マシュー :わかりました。じゃ、遠慮無く。


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小虎   :で、用件はなんだ?小僧。
      テメェが飯ってだけの理由で来る訳ねぇとは思ってたんだ。

ブランドン:お見通しかよ。ま、実際はその通り。
      最近はどうだい?吸血鬼と鬼の関係は。

小虎   :フン。変わりはない。表向きは落ち着いてる。でも、いつ火が付いてもおかしくはねぇ。

ブランドン:理由は代替わりか?

小虎   :ああ。鬼の一族のな。2代目がそろそろ年貢の納め時らしい。

ブランドン:何歳だ?あの爺さん。

小虎   :二代目か?1000は優に行ってたはずだ。

ブランドン:マジかよ。そりゃ寿命だろうな。次の当主は・・・長男か?

小虎   :ああ、噂じゃあ涼(りょう)とかいう小僧だ。

ブランドン:なるほどね。アンタの目から見てどう思う?

小虎   :次期当主か?・・・ダメだな。ありゃあ。

ブランドン:ほぉ?えらく辛辣(しんらつ)だな。その理由は?

小虎   :当主としての器が小せぇ。部下を使う意味も、他の種族と手を組む理由も何一つ分かっちゃいねぇ。

ブランドン:政治も武力も苦手ってか。こりゃ、いよいよヤバイか?

小虎   :そういう意味だと吸血鬼の奴が上手だ。

ブランドン:鎮(まもる)のことか?

小虎   :そのとおり『夜の王』のことだ。アイツは鬼の長男より色々知ってる。この街のルールもな。

ブランドン:あいつ、ここを戦場にすると思うか?

小虎   :いや、それはないだろう。『夜の王』はそれを一番嫌うからな。

ブランドン:そうか・・・なら今度、話をしてみるかね。『夜の王』に。

小虎   :ああ、そうしろ。・・・で、話はそれだけか?

ブランドン:一応な。今の状態を知りたくてな。

小虎   :そうかい。ま、平和の為にがんばって働けクソガキ。

ブランドン:はいはい。頑張るよ。さて、それじゃ、そろそろ俺も飯にするかな。

小虎   :冷めちまうぞ。さっさと戻って食え。

ブランドン:あいよ、ありがたくもらうぜ。

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マシュー(M):これが、僕が正式に魔術師として活動し始めた日のこと。
       そして、この日からこの街は混沌に包まれていく。


マリアン  :次回予告

小虎    :友からの知らせ

ブランドン :それは、争いの火種となるか否か

マシュー  :次回 NIGHT/KNIGHT 第2話 BEGINNING(ビギニング)

マリアン  :歯車は動き出す。




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