闇ツ世界 三十九話 リフレイン

森戸戒斗:17歳。政府特務機関「クガタチ」の中でも十指に入るエリートメンバーだった。
     現在はケイの洗脳によりトローノ・コンクエスト側に居る。
     何事にも柔軟に対応できる冷静さを持つが、同時に淡泊でもある。
     電気や磁力を扱う事のできる異能者。武器は刀。銘は『雷斬(らいきり)』

森戸戒斗(精神):裏切る前の戒斗。ケイによって強制的に抑圧された人格であり、精神的な存在。
                

伊達千晶:17歳。あまり積極的に人と関わろうとしない。異能のスキルは高く、それもあり、他者からねたみも買いやすい。
     異能は「細胞変化」。戒斗に対しては献身的であり、従順。


戒斗:
カイト:
千晶:

※精神側戒斗の役名はカタカナ表記です。
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戒斗 :づっ・・・。クソっ・・・。また頭痛か・・・。

千晶 :大丈夫ですか!?戒斗さん!すぐに医務員を・・・

戒斗 :大丈夫だ。すぐ収まる。・・・ぐっ・・・。

千晶 :でもっ!その感じだと・・・。

戒斗 :支障は無い。・・・水を貰えるか?

千晶 :あ、はい。すぐ持って来ます!

戒斗 :収まってきたな・・・。一体、何が起こってるんだ・・・俺に・・・。


カイト:闇ツ世界 第39話 リフレイン


千晶 :持って来ました。どうぞ。

戒斗 :済まない。(水を飲み干す)

千晶 :・・・最近酷いですね。

戒斗 :ああ・・・そうだな。

千晶 :先日受けた検査の結果はどうだったんですか?

戒斗 :異常は無い。能力値も。脳波も。なにもかも。

千晶 :原因不明ってことですか?

戒斗 :簡単に言えばそうなるな。

千晶 :心理的要因・・・とかは・・・。

戒斗 :トラウマか?今更そんなものを抱えてどうする?
    今まで何人の人の命を奪ってきたと思う?
    異能者だろうが、普通の人間だろうが、俺は敵対する者なら斬ってきた。
    もう、感覚がマヒするくらいにな。

千晶 :それは・・・そうかもしれないですけど。

戒斗 :むしろ、千晶。お前の方はどうなんだ?
    寝られないとかはないのか?

千晶 :それは・・・まぁ。

戒斗 :あるんだな。

千晶 :たまにですけど。

戒斗 :そうか。

千晶 :自分で言うのもおかしいですけど、私や私と同じ施設の子達は『異能で戦うため』に育てられた言うなれば強化人間です。
    暴力を振るったり、殺したりすることに抵抗がないように調整されてます。

戒斗 :だが、人によってはその調整が効きにくいってことか?

千晶 :そうですね。だからなのかもしれません。

戒斗 :後悔や恐怖することは悪い事じゃない。

千晶 :それはわかってるんですけどね。
    こんな事があると、思ってしまうんです。自分は出来損ないじゃないかって。

戒斗 :出来損ないだったら、俺は千晶を側に置いていないぞ?

千晶 :えっ?

戒斗 :見込みがあったから手元に置いた。だから、お前は出来損ないなんかじゃない。

千晶 :あ、ありがとう・・・ございます。

戒斗 :俺の頭痛の件に関しては気にしなくていい。
    父さん・・・ケイにも言わなくてかまわない。

千晶 :言わないんですか?

戒斗 :言ったらどうなるか分かったものじゃないからな。
    あいつに身体を下手にいじられる位ならこっちの方がマシだ。
    だから、言うな。

千晶 :・・・分かりました。

戒斗 :ケイを信用していない訳じゃない。
    だけど、このことで、下手に勘ぐられるのも嫌なんだ。
    暴走しないように見張りが付いたりなんかしたら厄介だしな。

千晶 :そうですね。では、そうします。

戒斗 :頼む。・・・それはそうと、良いのか?ここで油を売ってて。

千晶 :え?なにがですか?

戒斗 :時間。これから訓練じゃなかったか?千晶。

千晶 :えっ!?今、何時ですか!?

戒斗 :午後3時44分。予定だと4時から訓練だったろ?

千晶 :いっけない!すいません。お邪魔して。

戒斗 :いい。暇していたところだったし、水を持って来てくれて助かったよ。

千晶 :だったらよかったです。それじゃ、失礼します!

戒斗 :訓練、頑張ってこいよ。

千晶 :はい!いってきます!

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戒斗 :・・・トラウマ、か。そんなもの・・・ある訳・・・

カイト:ある訳無いな。

戒斗 :誰だ!

カイト:お、やっと会話できたな。

戒斗 :お前は・・・誰だ!

カイト:俺はお前だよ。で、お前は俺。

戒斗 :訳の分からないことを!

カイト:そりゃ、そうだろうな。

戒斗 :貴様はだれだ!名前を言え!

カイト:だから、俺はお前だ。森戸戒斗だよ。

戒斗 :俺は・・・俺は俺一人しか居ない!

カイト:んー。ラチがあかないな。よし、こう言い換えよう。
    俺は、お前が現れる前の俺だ。

戒斗 :俺が現れる前の俺・・・。どういうことだ・・・。

カイト:あー忘れてんのか。もしくはケイにいじられたか・・・。
    まぁ、それは考えたって仕方ないな。

戒斗 :お前はなんなんだ・・・。

カイト:じゃあ、こう言うか。俺はお前の良心って奴だ。

戒斗 :良心・・・だと?

カイト:お前、疑問に思ってないか?ケイのこと。

戒斗 :・・・どうして分かる。

カイト:なんせ、俺はお前だからな。で?疑問はなんなんだ?

戒斗 :言ったら答えてくれるのか?

カイト:分かる限りは。

戒斗 :・・・どうして父さんは計画を教えてくれないのか。

カイト:確かに、何も言ってくれないな。

戒斗 :俺はなぜ、父さんに従おうと思ったんだ?
    何も教えてくれないのに、何に共鳴して、こんな血を流すような事をしたんだ?

カイト:さぁな。俺には分からない。

戒斗 :お前は一体何がしたい?

カイト:俺?俺は・・・そうだな。お前を正しく導きたいって感じかな?

戒斗 :正しく・・・だと?

カイト:なぁ。お前はどう思う?ケイが言っていること。

戒斗 :言ってることって、腐った世界を作り直すってことか?

カイト:そう。本当にこの世界は作り直すべきなのか?ってこと。

戒斗 :・・・・・。

カイト:弱者が虐げられ、死んで、有力者ばかりが力を持つ。
    確かに下らない世界だ。だけど、本当にそうか?

戒斗 :何が言いたい。

カイト:ケイがやろうとしているのは平均化だ。
    世界全土の人間を同じにする。能力も、立場も、なにもかも。

戒斗 :それが、作り直すってことなのか・・・。だったら、いいことじゃないか。
    それのどこがいけない。

カイト:確かに、聞こえは良いかもしれない。全部が均等になる。それはイイコトだ。
    だけど、その平均化で生まれる弊害を考えたとき、お前はそれをイイコトにできるのか?

戒斗 :弊害・・・?なにがあるんだ?

カイト:思い出してくれ。ウィジっていう異能者を創り出すクスリの副作用はなんなんだ?

戒斗 :ウィジの副作用?・・・人の死だ。

カイト:そう。死。それも圧倒的な確率で人は死ぬ。ケイもいくらかは改良してるみたいだけれど、その生存率は5%にも満たない。

戒斗 :世界にそれを撒いて。平均化する・・・。それがケイが創りだした計画・・・?
    そこで、生き残るのは?えっと・・・一億弱しか残らないのか。

カイト:簡単な計算だとそうなる。生き残るのは世界の全人口、70億人の内2%。それも、運が良ければの話だ。もしかしたらそれ以下になる可能性だってある。
    そうまでしてこの世界を平均化する必要はあるのか?

戒斗 :・・・わからない。

カイト:そうか・・・。なら、これも教えよう。
    ケイは『異能を統(す)べる異能』を持ってるよな?

戒斗 :ああ、全ての異能を司る王の力だ。異能者の能力、その全てを使え、異能者の思考さえも操ることもできる力。

カイト:その前提で考えてみるぞ?
    もし、この世界が異能者のみになったとする。そして、ケイだけが『異能を統べる異能』を持っている。
    そうなると、なにが起こる?

戒斗 :ケイの独裁・・・?

カイト:そう。独裁だ。全ての人はケイに従い。刃向かうこともなくその一生を終える。
    感情は無いに等しく、ロボットのように使われて最後には捨てられる。
    そんな世界が出来るんだ。

戒斗 :それが・・・ケイの望む世界?

カイト:その片棒を担がされてるんだよ。お前は。
    ケイの望む世界は人権とかそんなモノすらない。ただ、ケイ一人のためにある世界なんだ。
    おもちゃの箱庭と同じ世界。それが今、本当に実現しようとしているんだよ。

戒斗 :これが・・・救い?単なる独りよがりだ・・・。

カイト:そう。独りよがり。何処までも自分本位の考え方だ。
    自分を見てくれない世界を捨てて、自分の欲しい世界にする。
    その言い訳に、世界の救済なんて理念を掲げてる。

戒斗 :俺は・・・本当にそんなことを・・・。

カイト:今なら失敗を取り返せる。そして、ケイを止められる。
    お前次第だ。俺はお前に協力してやる。

戒斗 :協力?なんだ?

カイト:お前一人でどうこうできるか?お前がどれだけ強くても、今のままじゃケイの力には及ばない。

戒斗 :確かにそうだな・・・。

カイト:一人で出来ないなら、協力者を見つければいい。

戒斗 :だが、そんな簡単に・・・。

カイト:簡単にできる策はある。敵を利用するのさ。

戒斗 :敵って・・・クガタチか?

カイト:そう。ヤツらを利用する。俺があいつらに渡りをつけてやるよ。

戒斗 :それじゃあ、俺は・・・。こちらの中でか。

カイト:そう。ケイに知られないようにな。従順な息子の振りしたらいい。

戒斗 :本当に・・・。本当にそれで上手くいくのか?

カイト:ああ、自信はあるぜ?とりあえず、俺が言う時にその身体を貸してくれたらそれでいい。

戒斗 :・・・信用するぞ?

カイト:おう。任されて。
    ・・・っと、そろそろ時間だな。

戒斗 :時間?

カイト:そう、お目覚めの時間だ。心配させるとヤバイからな。じゃ、その時までサヨナラだ。

戒斗 :おい、待て、俺はまだっ・・・

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千晶 :・・・さん。・・・戒斗さん!戒斗さん!

戒斗 :う・・・ん?千晶・・・か?

千晶 :良かった・・・。目が醒めたんですね?

戒斗 :俺は・・・。一体・・・?

千晶 :訓練が終わって見に来たら倒れてたんですよ。なにか、うわごとも言ってて、心配したんですから。

戒斗 :倒れてた・・・じゃあ、アレは夢なのか?

千晶 :夢・・・?なにかあったんですか?

戒斗 :いや、何でもない。こっちの話だ。

千晶 :そう・・・ですか。

戒斗 :アイツは一体何だ。・・・俺は一体どうしたんだ・・・。

千晶 :・・・戒斗さん。

戒斗 :なんだ?

千晶 :あの、大きなお世話かも知れませんけど。つらいこととか、なにかあったら言って下さい。

戒斗 :別に、なにも・・・。

千晶 :ありますよ。だって、最近の戒斗さん、ずっと、なにか抱え込んでいる気がします。
    私は、戒斗さんに無理して欲しくないんです。

戒斗 :それは・・・どういう意味でだ?

千晶 :どういう意味って・・・。

戒斗 :お前が気遣う必要はないだろ。ケイはそこまでしろと言ってない。

千晶 :そうですけど!でも、それでも私は心配なんです!

戒斗 :どうしてだ。

千晶 :それは・・・戒斗さんが、なによりも大事だからです。

戒斗 :・・・・・。

千晶 :私には、何も無いですから。小さい頃からあの施設に居ましたし、大事なモノなんて一切なかった。
    守ってくれる人もなにもかも。

戒斗 :そりゃそうだろうな。あんな施設だから。

千晶 :私は誓いました。力を付けて、一刻も早く施設を出ると。
    それだけが、私の唯一の願いで、大切なモノでした。

戒斗 :・・・それで?

千晶 :戒斗さんに付くように言われて、施設から出た後の事です。
    私は気付いたんです。自分には何も無いことが。全部が虚ろで。

戒斗 :一番の目的が達成されたから。か?

千晶 :そうです。何も無い。虚ろな私。人を傷つける力しか持っていない私。
    今だから言うんですけどね?もう、いっそのこと死んでしまいたい。そんなことを思ってたんです。でも、今は。

戒斗 :今は違うのか。

千晶 :そうですよ。戒斗さんのおかげで。

戒斗 :なにもしてないけれどな。

千晶 :いいえ。クガタチから守ってくれました。そして、戦い方を教えてくれました。

戒斗 :そんなことでか?

千晶 :そうですよ?でも、そんなことで良いんです。
    その時に私は思ったんです。戒斗さんの力になりたいって。
    私はそれに少しでも恩を返したい。・・・それくらい大事な人なんです!戒斗さんは!

戒斗 :・・・そうか。

千晶 :だから・・・あまり、無理しないで下さい。私や、光(ひかる)君を信じて欲しいです。

戒斗 :・・・すまない。酷いことを言った。

千晶 :いえ、いいんです。

戒斗 :これからは、努力する。

千晶 :・・・はい。
    あっ、な、なんかごめんなさい!

戒斗 :ん?

千晶 :いえ、体調が悪いのに変なこと長々としゃべって・・・

戒斗 :いいんだ。別に体調が悪い訳じゃないから。・・・1つ聞くが、医務へさっきのことは。

千晶 :言ってません。言おうかと思ったんですけど・・・。

戒斗 :それでいい。これからもそうやって隠しておいて貰えると助かる。特に、ケイの耳に入らないように。

千晶 :・・・わかりました。詳しいことは聞かない方が良さそうですね。

戒斗 :ああ、いずれ、時期が来たらいう。

千晶 :はい。待ってます。

戒斗 :にしても、まさか千晶に励まされるとはな。

千晶 :なっ、何ですかその言い方。

戒斗 :いや、深い意味はないさ。ただ、思ってみなかっただけさ。

千晶 :むっ、聞き捨てなりませんね。私は人の気持ちを察する事が出来ないほどバカじゃないですよ。

戒斗 :ああ、知ってる。いや、今知った、と言うべきか。

千晶 :全く、戒斗さんってば。

戒斗 :ふふ。・・・なぁ、千晶。

千晶 :なんでしょう?

戒斗 :お前は、俺に従うんだよな?

千晶 :はい。そのために、ここにいますから。

戒斗 :もし、俺がケイと違うことをしたとしても、それは変わらないか?

千晶 :それって・・・裏切るって事ですか?

戒斗 :もしもの話だ。そうなった時、お前は俺に付いてきてくれるか?

千晶 :それは・・・その時にならないと分からないですけど・・・

戒斗 :けど?

千晶 :多分、戒斗さんに付いていきます。信じてますから。私。

戒斗 :そう・・・か。うん。ありがとう。少し楽になった。

千晶 :なら、良かったです。

戒斗 :よし。気が楽になった所で、俺も身体を動かしてくるかな。

千晶 :訓練ですか?

戒斗 :ああ、そんなところだ。・・・いってくる。

千晶 :はい。頑張ってきて下さいね。

戒斗 :・・・おう!


カイト:次回の闇ツ世界は。

戒斗 :隠された情報は開かれる。

千晶 :闇ツ世界 第四十話 Lock Off(ロック・オフ)

戒斗 :それは王手のための手がかり。




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