闇ツ世界 第38話 怒りの日

♂森戸 戒斗(モリト カイト):17歳。
               政府特務機関「クガタチ」の中でも十指に入るエリートメンバーだった。
               現在はケイの洗脳によりトローノ・コンクエスト側に居る。
               何事にも柔軟に対応できる冷静さを持つが、同時に淡泊でもある。
               電気や磁力を扱う事のできる異能者。武器は刀。銘は『雷斬(らいきり)』

♀早凪 藍子(ハヤナギ ランコ):20代後半。穏やかな性格、言い方を変えれば何事にも無関心。だがその実、人に危害を加えるのが大好きな人物。
                    SとMが頻繁にひっくり返る。触れた相手に対しての危害を与える『反射』の能力。

♀伊達 千晶(ダテ チアキ):17歳。あまり積極的に人と関わろうとしない。異能のスキルは高く、それもあり、他者からねたみも買いやすい。
                 異能は「細胞変化」。

♂柳原 光(ヤナギハラ ヒカル):17歳。傲岸で、見下した発言をよくする。しかし、その傲岸に似合う戦闘スキルと能力を持っている。
                    異能は「エネルギーの吸収・放出」

♂ケイ:40代後半から50代。人よさげだが、実は腹黒な狸親父。
    国を代表する製薬会社の社長でもある。
    異能は『異能を統べる異能』異能の能力を持つ人間を洗脳可能。
    かつ、全異能保持者の能力を使用可能。

戒斗:
ケイ:
藍子:
千晶:
光:
_______________________

藍子:リフレクション!

千晶:ぐぁぁっ!

光 :千晶っ!ちっ。ブラストぉッ!!

藍子:甘いわ。

光 :なっ!捌かれ・・ぐあっ!

藍子:んー。惜しかったわね。

千晶:か、勝てない・・・。

光 :ば、バケモンかよ・・・。

藍子:人を化け物呼ばわりしないでくれないかしら?
   化け物なら、貴方も似たような物でしょ?

光 :俺の技を能力も使わないで躱すヤツが居るなんて。

藍子:あれはただ、貴方の腕を横から叩いて衝撃波の放出位置をずらしただけよ?
   躱したとかじゃないわ。

千晶:遠距離でも、近距離でも崩せないなんて・・・。

光 :万能過ぎだ!んなの、勝てる訳がねぇ。

藍子:ま、ウィークポイントは減らしておかないとね?
   でも、段々良くなってきてるわ。あなた達。

光 :ほ、本当か!

藍子:ええ、一番最初はお互いの位置確認や、連携なんてものは無いに等しかったんだけど。
   今はちゃんと出来てるし、フォローのし合いもしっかりしてきてる。

千晶:あ、ありがとうございます。

藍子:でも、一押しに欠けるわね。あなた達の技はどれも中途半端だから。

光 :う・・・。

藍子:光君は、大味過ぎて軌道が読みやすい。瞬間威力が高いけれど、連続攻撃は苦手。単発高威力は当たらないと意味がないわ。
   そして、千晶ちゃんはその逆。瞬間威力が低い代わり、連続攻撃が可能。
   でも、弾幕を張るってレベルじゃないし、持久戦に持ち込む体力も無いんじゃ、どのみち詰みね。

千晶:そう・・・ですね。

藍子:光君は、低威力でもいいから連発可能な能力攻撃を見つけなさい。

光 :うっす。

千晶:私は・・・高威力技ですか?

藍子:いいえ。異能のタイプから言って高威力技は見込めないから、貴女の場合は持久力。
   戦闘を続行出来るスタミナをつけなさい。

千晶:スタミナ・・・。

藍子:今の貴女は、光君の展開する戦闘に追い付くのに精一杯で、中盤以降は失速してる。
   だからといって、光君が貴女のペースで戦闘を展開したら、今度は手数不足で封殺されるのがオチ。
   
千晶:そう・・・ですね。

藍子:とりあえず、あなた達の改善点を明確にしたところで今日は終わりにしましょう。

光 :なぁ。アンタ。

藍子:私には早凪藍子って名前があるんだけど?まぁ、いいわ。なに?

光 :なんで、俺らにこんな事教えようと思ったんだ?

藍子:簡単な事。私の利益のため。

光 :アンタの利益?俺らが強くなることが?

藍子:そう。あなた達が強くなれば私の利益になるの。もういい?

千晶:どういう利益が生まれるんですか?ちゃんと説明して下さい!

藍子:別にあなた達をどうこうしたい訳じゃないわ。安心して。

光 :だったら、内容は喋れるだろ?

藍子:なんでこんな事にこだわるのかしら?別に知ったところであなた達に利益はないわ。

千晶:いいえ。少なくとも、知ることによってこれからのあなたの対応について考えさせてもらいます。

藍子:対応・・・とくるのね。

光 :どうすんだ?てめぇの思惑によっちゃあ、今の状態はマズいはずだぜ?

藍子:そうね。力でねじ伏せるなんて芸のないことはしたくないし。いいわ。教えてあげる。
   でも、その代わり。1つだけ条件。

千晶:なんでしょう?

藍子:これを聞くということは、私と共犯になるってこと。聞いたからには絶対に協力しなさい。
   どんな手を使ってでも。

光 :んなもん、内容を聞いてからじゃねぇと・・・

千晶:解りました。協力しましょう。

光 :お、おい千晶!

千晶:これ以上交渉しても藍子さんは落ちないの解らない?ここが妥協点よ。

光 :でもよ!ことによっちゃあ、俺らの身が危なくなるだろ!

千晶:解ってる。それも覚悟のうえ。それとも、怖じ気づきましたか?光君。何だったら降りてもいいけど。

光 :怖じ気づいてなんかねぇっ!

千晶:なら、腹を決めたら?男らしく。

光 :ちっ。仕方ねぇ。

藍子:じゃ、交渉成立でいいかしら?

光 :ああ、わーったよ。いいぜ。乗ってやる。

藍子:そう、なら言うわね?私の思惑。どうして、あなた達の能力アップに協力しているか。
   それはね?私の生存率を上げる為よ。

光 :生存率だぁ?どういう事だよ?

藍子:これから私はケイのやろうとしていることにある意味抵抗するつもりだから。

千晶:抵抗・・・って。

光 :裏切るってことか?

藍子:裏切る訳じゃない。ただ、このままじゃ私は死んでしまうから、一手を打つの。

千晶:死んでしまう?・・・なぜですか?

藍子:あら?知らないの?ケイのやろうとしてること。

光 :俺ら下っ端がそんなこと知るかよ。

藍子:てっきり、戒斗君が教えてるものと思ってたわ。すっごい怖い顔してたから。

千晶:戒斗さんからは全く。なにか、あるんですか?

藍子:もう、この際だから言おうかしら。ケイがやろうとしてること、それはね・・・?


光 :闇ツ世界 第三十八話 怒りの日


戒斗:ねぇ。父さん。今いい?

ケイ:戒斗か。どうした?

戒斗:ちょっと聞きたいことがあるんだけど。

ケイ:・・・作業しながらでいいなら。

戒斗:そろそろ、教えてくれない?

ケイ:なにをだ?

戒斗:父さんがやろうとしてること。

ケイ:そんなことか。言わずともわかっているだろう?

戒斗:この世界を変えるっていう大まかなことはね?だけど、その概要は知らないから。

ケイ:概要か。

戒斗:手伝うのに、やり方を知らなければ何を手伝えばいいか解らないからね?

ケイ:戒斗。・・・お前は私の言う事に従っていたらいい。

戒斗:それじゃあ、つまらない。

ケイ:私を信じられないと?

戒斗:そうは言ってないって。ただ、楽しみたいんだ。

ケイ:ふむ・・・そうか。ま、隠す必要もないか。では言おう。
   私の計画はな?世界の統一だ。

戒斗:世界の統一?そんな事ができるの?

ケイ:できる。だからやっている。戒斗。何処まで知っている?

戒斗:なにを?

ケイ:『異能を統べる異能』についてだ。

戒斗:知らないに等しいかな?現存している異能を全て使えるってことくらい。

ケイ:そうか、なら教えよう。『異能を統べる異能』とはな、全ての異能を使えるだけではない。
   全ての異能者を統一することが出来る。思うがままにな?

戒斗:統一・・・ねぇ。

ケイ:そうだ。私が命ずれば、異能者はどんなことでも行う道具と化す。
   笑えと言えば笑い出すだろうし、死ねと言えば死ぬ。

戒斗:それでそんな統一をしてどうするつもり?まさか、自分が王様になるってか?(ト、戒斗洗脳突破)

ケイ:そうとも言えるな。・・・戒斗。この世界をどう思う?

戒斗:どうって・・・そうだな。腐ってるかな?

ケイ:ほう?その心は?

戒斗:守られるべき者は守られず、死なぬべき人が死んでいく。全ては金の有る無しで決まっていく。
   バカバカしいにもほどがある。

ケイ:フフフ・・。そうか。確かにそうだな。私もそういう考えだ。
   この腐った世の中は一度ゼロに戻らなければならない。そして、選ばれし人間が生き残るべきだ。
   
戒斗:その理想のため、こんなことをしてるのか。

ケイ:そうだ。・・・私はウィジという薬物を研究していて思った。この薬はふるいに掛けるために在るモノだと。

戒斗:ふるいねぇ。

ケイ:面白い結果を見たのだ。ウィジは異能を与える人を選んでいる。

戒斗:へぇ?

ケイ:ウィジは、死にたくない、生きたいと強く願う人間に対して力を与える。
   だが、楽に生きてきた人間はそうじゃない。ウィジはそのことごとくに死を与える。

戒斗:なるほど。上昇志向がない人間は死んでいくわけかよ。

ケイ:ああ。そして、最後に残るのは進化した人間と、我ら、『統べる力』を持った人間達だけだ。

戒斗:なるほど。それが統一。

ケイ:世界は誰かによって統一され、一本化した社会とならねばいけない。
   そうならない限り、弱者はことごとく望まない死を迎えるだろう。

戒斗:そう・・・なんだな。

ケイ:どうだ?良いプランだろう?

戒斗:・・・ふざけんな。

ケイ:なに?

戒斗:ふざけんなって言ってんだ!和匡(かずまさ)!

ケイ:戒斗、貴様っ!まさか、私の洗脳を解いたのかっ!?

戒斗:全ての統一!?弱者を救う!?やってる事は単なるディストピアを作ろうとしてるだけじゃねぇか!

ケイ:ディストピアだと!?

戒斗:そうじゃねぇかっ!普通に生きたい人間を自分の言いなりにしてこき使う。意志を奪ってしたい放題にすることの何処が救いだ!

ケイ:腐った世界を壊し、作り直すためにはこうするしかない!

戒斗:そんな訳ないっ!お前はっ!ただ、自分に優しい世界を作りたいだけだろう!

ケイ:ええいっ!もういい!貴様と語っても仕方が無い!大人しくその身体を私の戒斗に譲れ!

戒斗:ぐっ・・・がぁぁぁっ!こうやって・・・自分の思い通りにならないと排他するのかっ。戦わないで自分の世界に閉じこもって・・・っ!

ケイ:そうだ!この世界はすべて取り替え可能だ!お前も!この私も!

戒斗:だからって・・・許される訳じゃ・・・ないっ!

ケイ:うるさいっ!黙れ・・・。黙れぇぃっ!

戒斗:ぐっ・・・が、あっ・・・。

ケイ:これで、戻っただろう。

戒斗:そうか・・・これで解った。全てな。(ト、洗脳復帰)

ケイ:まだ、引き下がらんか!

戒斗:・・・父さん。なに怒鳴ってるの?

ケイ:っ!?どういうことだ?

戒斗:どういうことって・・・それは俺が聞きたいんだけど?

ケイ:1つ聞く。戻ったのだな?戒斗?

戒斗:なにが?戻るも何も。元から俺は俺だよ。

ケイ:・・・・。もういい。戒斗。少し1人にしてくれ。

戒斗:そう。・・・解った。じゃあね。


ケイ(M):・・・なにか。・・・なにか計算が間違っているのか?
     計画が狂い始めている。・・・ふざけるな。此所で私は死ぬ訳にはいかない。計画を止める訳にはいかないのだ。


戒斗(M):くそっ・・・。クガタチのヤツらと戦ってから、元の人格が混ざって来やがる。
     ・・・だが、なんだこの感じ。俺は、父さんのいうことを受け容れられないのか?
     これが、主人格の意志ってことか?俺は・・・おれは一体どうすればいい。

______________________________________________

藍子:・・・って事があったの。

光 :盗み聞きかよ。

藍子:いいえ。違うわ。全て見たのよ。私の能力で。

千晶:能力って・・・藍子さんの能力は反射じゃ・・・

藍子:1つ目はね?2つ目はサイコメトリー。

光 :デュアルスキル!?

藍子:そう。なんかね。ケイの実験に協力したら芽生えちゃったみたい。

千晶:それで・・・。どうするつもりなんですか?

藍子:なにが?

千晶:藍子さんは・・・ケイを、御父様を殺すんですか?

藍子:必要となれば。

光 :こうなったならしかたねぇだろ。

千晶:でも、御父様は私達の・・・

光 :つっても、このまま従ってても利益はあんのか?
   俺らの意思なんてもんはなくなって、いいように使われてポイだ。
   俺はそういう事はクソ喰らえだ。

千晶:それは・・・そうだけれど・・・。

光 :ったく。さっきの意気込みはどうしたよ?お前こそ、腹をくくれよ。

藍子:さ、どうするのかしら?千晶ちゃん?

千晶:分かりました。協力します。でも、これから何をどうすれば?

光 :出し抜くんだろ?あのクソ爺を。

藍子:そうね。そのためには、戒斗君。あなた達の主人の動向が重要になってくるのよ。

千晶:その協力をしろと?

藍子:そ。頼めるかしら?

光 :やるしかねぇな。こうなったら。

藍子:たすかるわ。

戒斗:ここに居たか。2人とも。

藍子:あら。噂をすれば。

千晶:あっ、戒斗さん・・・って。なんですか!?その血!?

光 :誰かにやられたのか!?

戒斗:安心しろ。返り血だ。俺のじゃない。

藍子:あなた・・・一体、何をしてきたの?

戒斗:単なる憂さ晴らしだ。絡んできたチンピラを切り刻んだだけだ。

光 :おっかねぇ・・・

藍子:その憂さ晴らしの原因は、ケイかしら?

千晶:ちょっ!?藍子さん!?

戒斗:・・・まぁ、そんなところだ。
   それにしても、こんなところで悪巧みか?

光 :い、いや。悪巧みとかそんなんじゃなくってだな・・・

藍子:今更、隠してもしかたないと思うけど?お二人さん。

戒斗:まぁな。で?どんな悪巧みだ?

千晶:その・・・ですね。

藍子:ケイを出し抜こうって話。

戒斗:えらく大胆な事をしようとしてるんだな。

藍子:まぁね。自分の命が掛かってるんだから。

戒斗:どこまでも、自分本位だな。・・・アンタらしいが。

藍子:どうも。・・・それで?そんな悪巧みを聞いた貴方はどうするつもり?

戒斗:別にどうもしない。・・・俺はどうすればいいか分からない。

千晶:なにか・・・悩み事でも?

戒斗:まぁ、そんなところだ。

千晶:私達でよければ・・・

戒斗:これは、俺の問題だ!

千晶:は・・・はい。

藍子:何抱えてるか良く分かんないけど・・・。現状言えるのは、私達に干渉しないのね?貴方。

戒斗:まぁな。ケイに言ったところで俺に得はない。

藍子:貴方もなかなかに、腹黒いのね。

戒斗:中立なだけだ。

藍子:そういうことにして置くわ。・・・ま、これで、私の方針は固まったしこれで帰らせてもらうわ。

戒斗:もういいのか?

藍子:ええ。いいわ。
   ・・・お二人さん。これから大変よ?いろいろ。

光 :・・・覚悟の上だ。

千晶:そうですね。

藍子:いいお伴を見つけたわね?

戒斗:・・・そのようだ。

藍子:それじゃ、後はよろしく。・・・お二人さん。

光 :あ、そう言えば御曹司。俺らに何か用事でもあったのか?

戒斗:・・・もういい。なんだか疲れた。

千晶:あ・・ちょっ!戒斗さん!?

光 :はぁ・・・なにがなんだか。

千晶:・・・とりあえず、これからホントに大変になりそうね。藍子さんも、戒斗さんも。

光 :ああ、やることは多いな。



ケイ:次回の闇ツ世界は

光 :怒りは反響する。

千晶:その響きは、心を壊す。

藍子:闇ツ世界 第三十九話 リフレイン

戒斗:耳を貸すべきや、否や。





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