闇ツ世界37話 プラン51

♂相田 蒼哉(アイダ ソウヤ):25歳。
              政府特務機関「クガタチ」のトップ。
              切れ者で若くして政府機関の責任者となっている。
              戒斗を組織に引き入れた張本人。
              現在では事務職に力を注いでいるが、もともとは前線で闘う武闘派。
              何を考えているのか分からない、ひょうひょうとしたキャラクターをした不気味な人物。風を扱う異能者。武器は鉄扇。

♂ジャック:見た目20歳前後。
      不気味な雰囲気を持つ人物。本名不詳。見た目は人付き合い良さげな人物だが、その内面は冷徹が服を着たよう。
      仲間であろうと切り捨てる時は切り捨てる。能力は遮断。
      トローノ・コンクエストを率いていたが、ケイの裏切りにより失脚。現在、クガタチに加勢中。
      使用武器は刃のない刀『無銘』


♂黒井 尚(クロイ ナオ):25歳。クガタチ諜報部、部長。
            藤堂隆がトローノ・コンクエストに忍び込むために作った仮の人格。少々荒っぽい性格。
            しかし、現在ではこの人格が定着してしまったため、名前を変えることなく再びクガタチへ編入。
            異能は人の視覚情報に介入し攪乱させる能力。


♂御堂 玲一(ミドウ レイイチ):22歳。
               人の視界と聴覚を盗み見る能力を持つ異能者。
               倒錯した異性への愛情から『ウィジ』に手を出した結果、人の視界を盗み見る(ピーピング)能力を得た。
               常におどおどとしている。しかし、欲望には忠実。故に倒錯し、反道徳的なことにも平然とやってのける。
               ジャックと軋轢が生じ、殺されそうになった時に黒井 尚に助けられ、それ以来クガタチの諜報部に参加。


            

蒼哉  :
ジャック:
尚   :
玲一  :

_______________________

玲一  :失礼・・・します。

尚   :資料持って来たぜ、室長。

蒼哉  :いらっしゃい。隆(たか)。いや、今は黒井尚か。それで君がえっと・・・

玲一  :玲一です。御堂玲一。

蒼哉  :そうそう。玲一君だ。クガタチにようこそー。

尚   :わりぃな。ウチの室長は人の名前を覚えるのは苦手なんだ。小難しいことしか興味が無いんでな。

蒼哉  :小難しいって、必要だから覚えてるだけだよ。

尚   :ってなると、人の名前は重要じゃないって事になるな。

蒼哉  :まったく、ああ言えばこう言う。手厳しい限りだよ。

尚   :本当の事だろ?

蒼哉  :ははっ、うるさいよ。・・・さて、そろそろ茶番は終わりにしようか。
     どうだった?持って帰ったデータの中身は。

玲一  :詳しいことはこの書類の中に。どうぞ。

蒼哉  :どうもありがとう。

尚   :口頭で軽く内容を言うぜ?
     まず、俺が持ち帰ったもの。アレは兵器の設計図だった。
     LICBM(エル・アイ・シー・ビー・エム)、最新型の大陸間弾道ミサイルだ。
     弾頭は特殊な設計になってて、戦術核じゃなく、むしろ科学兵器かなにかを搭載するタイプのようだ。

蒼哉  :科学兵器・・・国会議事堂に継ぐテロを企ててる訳か。

尚   :ま、そうなるな。あと、謎の容器だが、アタッシュケースサイズの噴霧器だった。
     これはなにに使うか解らない。

蒼哉  :仮定するのであれば、ミサイルに載せるものと同じ化学兵器をコレに入れて、拡散させるって所かな?

尚   :ミサイルの射程範囲外も想定に入れた容器制作か。

蒼哉  :だろうね。・・・玲一君の方は、実験概要が書かれたものだったね?

玲一  :あ、はい。僕の方は『プラン・クィーン』及び『プラン・ジャック』と銘打たれたものである種の人体実験プログラムであったことが判明しました。

蒼哉  :クィーンにジャック・・・ねぇ。

玲一  :被験者には生駒 穂乃華(いこま ほのか)と森戸 戒斗(もりと かいと)の名前があり・・・

ジャック:僕の名前は消されたと。

玲一  :っ!

蒼哉  :あらら、ジャック。いたのかい。

ジャック:居たよ。って言ってもついさっき来たばっかりだけど。・・・お久しぶり。玲一くん。

玲一  :ど・・・どうも。

ジャック:そんなに怯えなくていいよ。今さら、君をどうこうしようとは思わない。
     する必要もないしね。

玲一  :は、はい・・・。

蒼哉  :フフン。君たちにはなかなかに遺恨が在るようだね。・・・そんなことより、ジャック。君の名前が消されたとはどういう事かな?

ジャック:もともと、ケイが想定した『プラン・ジャック』の被験者はこの僕だ。
     人工的にウィジの異能レベルを上昇させるプログラムであり。そして、最後には『異能を統(す)べる異能』を発現させることを目標にしていた。

蒼哉  :『異能を統べる異能』を作る・・・か。成功したら、僕らは手出し出来なくなるね。

ジャック:しかし、それは成功には至らなかった。この僕がそうだから。

尚   :ま、被験者本人だもんな。

蒼哉  :でも、なんでこのプランの被験者を実験途中に殺そうとしたんだ?

ジャック:簡単な事だよ。僕じゃあ出来ないから捨てたのさ。

玲一  :捨てた・・・。

尚   :研究を進めるウチに今の被験者では効果がないということが発覚し、別の素体が見つかった。
     だから廃棄、か。なんとも、絵に描いた外道だな。

玲一  :そして、次に選ばれた素体というのが二班隊長だった森戸戒斗(もりと かいと)ということですか。

蒼哉  :そうなるね。

ジャック:聞くところによると、その噂の戒斗隊長は、ケイの実子だそうじゃない。

尚   :なんだって!?

蒼哉  :あらぁ・・・耳聡(みみざと)いねぇ。どこから仕入れたんだい。

ジャック:企業秘密だよ。

尚   :おい。室長!それは本当か!?

蒼哉  :仕方が無いから言うけれど、彼の言った『戒斗が敵のトップ、ケイの実子』という事実は本当の事だった。

ジャック:調べ上げたんだね?

蒼哉  :ま、いろいろ無茶はしたけどね。結果的にケイの本名も突き止められたし。

玲一  :ケイの・・・本名。

蒼哉  :森戸 和匡(もりと かずまさ)。数年前までこの国を担うといっても過言では無い製薬会社に務める一社員だった。

尚   :だった?過去形かよ。

蒼哉  :そう、彼は書類上死んでいるからね。

玲一  :死んでいる!?

ジャック:偽装したんだね。自分の死を。

蒼哉  :そうなる。彼はとある実験に携わっていた。その実験とは、人間の脳が日々セーブしている力を解放するという実験。

玲一  :力の・・・開放?

尚   :昔からよく言われてた超能力開発ってやつか。

蒼哉  :そうなる。今までことごとく失敗してきて。今回も失敗に終わるはずだった。・・・ところが。

ジャック:幸か不幸か、事故が起こった。・・・そうでしょう?

蒼哉  :当たりだよ。10年くらい前にこの会社、大きな爆発事故を起こしていたでしょう?

玲一  :ええ、ニュースで見たこと在ります。下請け会社の倉庫が保存していた燃料が爆発したっていう。

蒼哉  :そう。あの事件。あの事件の時、彼はその場に居たことになっている。
     ・・・しかし、妙だとは思わないか?

尚   :妙・・・まぁ、そうだな。

ジャック:なぜ、一介の研究員が用もないはずの倉庫に居たのか。

蒼哉  :搬入やその他もろもろの事は作業員がやり、研究員は研究しかしないはずなのに、彼は『偶然』ここに居て、
     そして、『偶然』この爆発事故に巻き込まれた。 

尚   :偶然が重なりすぎてるな。

蒼哉  :そう思って、いろいろ調査してみたんだけどね?
     フタを空けてみたらビックリ、その倉庫って言われてた所は、なんと隠し研究所だったんだよ。

ジャック:なるほど。ということは、その偽物の倉庫の爆発っていうものの真実は。

玲一  :研究施設の爆発。ってことですか。

蒼哉  :そういうことだね。

尚   :あー、1ついいか?さっき、ジャックが言った『幸か不幸か爆発があった』ってどういう事だ?

蒼哉  :それはね?・・・ジャック。君に質問しようか。

ジャック:なんだろう?

蒼哉  :闇のマーケットに詳しい君なら解ると思うけど。
     本格的に、裏の薬物市場に『ウィジ』っていう薬が出回り始めたのはいつだい?

ジャック:大体、この爆発事故があった時期だったかな。

玲一  :爆発があったのも、ウィジが広まりだしたのも10年前。

蒼哉  :つまり、ここで、1つの仮定が出来上がる。この10年前の事件は、単なる爆発事故ではなく、人の手によって起こされた事件である、と。

ジャック:その中心に居たのは、森戸和匡(もりと かずまさ)・・・つまり、ケイだと。

蒼哉  :そうなるね。そして、コレは僕の仮説なんだけどね?
     ・・・この爆発は、『ウィジ』という薬物を急激に進化させるきっかけになってしまった。
     そういう事件でもあると思うんだ。

ジャック:へぇ?面白い仮説だ。

尚   :その根拠は?

蒼哉  :根拠は、このデータ。
     闇市場にそれ以前に出回っていたウィジっていう代物と、爆発以後に広まった物の比較グラフなんだけど。
     ここ、脳波に干渉する数値が格段に上がってるのが見て取れるんだ。

玲一  :薬品事故のおかげで、能力開発に近づく何かが起こったと言う事ですか。

ジャック:なるほど。それを利用して彼は今、大悪党として活動中な訳か。

蒼哉  :そればかりじゃなく、超能力開発の第一人者でもあるね。
     その第一人者が見つけた被験者が、自分の息子、森戸戒斗(もりと かいと)。
     本名が解った時点で、この二人の血縁関係は簡単に見つける事ができたよ。

尚   :ってことは、今もこの『プラン・ジャック』ってのは進んでて、もしかすると明日には完成をみるかもしれないって事か。

玲一  :悪ければ、既に成功しているのかもしれませんね。

蒼哉  :なんにしても、ケイがこれから何をどうしようとしているのかを見定めるのが肝心だ。
     そこから、僕らが打つべき手段が見えてくる。

ジャック:ああ、そのことなんだけど。・・・ちょっといいかな?

蒼哉  :なんだい?

ジャック:こんなものを手に入れたんだ。

玲一  :これは?

ジャック:プラン・51(ファイブワン)
     ケイが今、熱心に進めている実験のデータだよ。

尚   :ワオ。どうやってこんなものを手に入れたんだ?

ジャック:簡単な事さ。研究所を襲ってかっぱらってきた。

蒼哉  :また、僕に断りもなくやったんだね?

ジャック:フフン。意趣返しさ。ケイに一泡吹かせたくて。

玲一  :それで・・・この中身は?

ジャック:うん。彼は、ウィジの更なる進化を目指してるみたいでね。
     この中に詰まってたデータは、各年齢層で起こった能力発現レベルの調査と、ウィジという薬物の形状変化調査だね。

尚   :形状変化?

玲一  :つまり、今の様な錠剤ではなく、別の摂取方法ってことですか?

ジャック:そう。そして、ここで提言されているのは、呼吸に伴う摂取。つまり、液体を霧状にし、気管から摂取する方法が有力とされている。

玲一  :霧状って・・・まさか。

蒼哉  :さっきのアタッシュケース型の噴霧器に搭載してテロを起こすつもりか。

ジャック:そうなる。ちなみに、能力発現レベルは今の錠剤と変わらない程度。十代から二十代の青年に特に見られ、死亡する割合もほぼ一緒。

蒼哉  :ウィジを使ったテロ・・・。噴霧器・・・。ミサイル・・・。異能を統(す)べる異能・・・。

尚   :お、おい。どうしたよ?室長。

蒼哉  :ねぇ、ジャック。ちょっと聞きたいんだけど。

ジャック:なにかな?

蒼哉  :『異能を統べる異能』ってウィジによる超能力を持つ人間を自由に操ることが出来るんだよね?

ジャック:そうだよ。『異能を統べる異能』をもつ人間の命令には、嫌でも従ってしまう。

蒼哉  :それに人数制限はある?

ジャック:細かい事は分からない。・・・けど、おそらく簡単な命令なら莫大な人数でも命令するのは可能じゃないかな?

蒼哉  :なるほど・・・そういうことか。

玲一  :なにか、わかったんですか?

蒼哉  :ケイは、このテロを実行してこの地球全てを乗っ取るつもりなんだ。

尚   :地球を乗っ取るだぁ!?まってくれよ、くだらねぇSF映画じゃねぇんだから。

ジャック:あの狸親父なら考えそうだね。そういうこと。

蒼哉  :下らない話に見えるかもしれないけど、此所にある情報全てが示している最終目標はコレしか見つからない。
     ケイという男が目指しているのはそれだ。

尚   :って言ったとしてもだぜ?結果、この地球全土を意のままにしたってどうするつもりだよ?
     俺が王様だって威張り散らすのか?

蒼哉  :真相は分からない。でも、これは思っていたよりも危険なことをになりそうだ。

玲一  :すぐに対策を打たないと!

尚   :対策って言ってもよ。情報はまだ少ねぇし、ヤツらが今、何処で、何をしてるか見当も付かないんだ。
     隠された研究施設を見つけて、ちまちまぶっ壊していくわけにも行かないしよ。

蒼哉  :大丈夫。まだ、打つ手はある。

ジャック:あの、データか。

玲一  :あのデータって?

蒼哉  :二班が持ち帰ってくれた暗号化された謎のデータがあるんだ。まだ、解析に時間がかかってるんだけど。

尚   :だったら、諜報部がやってやるよ。

蒼哉  :諜報部じゃダメなんだ。これは、僕宛に届けられたデータで、どんな手段であっても他人がデータのロックを解錠する事は出来ない。

尚   :それって、認証うんぬんの先でもって事か?

蒼哉  :そう。使用できるコンソールが常に人物認証をしている。データロックを外す作業中でも。

尚   :厄介なシステムをこさえやがって。

蒼哉  :これが解けた暁にはチェックメイトが掛けられるはずだ。
     よし、そうと決まれば、さっそく解錠に移るとしよう。それじゃ。情報ありがとう!
     
ジャック:あらら、もう行っちゃった。

尚   :あの人は、やる気になったら突っ走る人だからなぁ。

ジャック:苦労してそうだ。

尚   :人使いは荒いな。

玲一  :・・・あ、あのっ!

ジャック:ん?なんだい?玲一君。

玲一  :ジャック・・・さん。聞いていいですか?なんであなたはあれだけ敵対していたクガタチに・・・

ジャック:聞いていいって言ってないんだけど?・・・ま、いいか。
     簡単な事さ。ケイに復讐するため。

玲一  :それだけですか?

ジャック:それだけだよ。・・・ふふ、疑り深いのは変わりないようだね?

尚   :へいへい。ここで喧嘩すんじゃねぇよ。
     裏切るだの、疑うだのはよそでやってくれ。今それよりもやるべき事が在るんだからよ。

玲一  :・・・・。

尚   :とりあえず、前まで敵だったかどうだったかは抜きにして、協力してくれるってんなら俺らは在りがたく協力してもらう。
     ま、その後、敵になるってんならどっちだろうと相手になるがな。

ジャック:・・・だそうだよ?

玲一  :・・・・・。

尚   :とりあえず、行くぞ、玲一。お前には色々と教え込むことがあるからな!

玲一  :あ、ちょっ!引っ張らないで下さい!

ジャック:やれやれ・・・なんだか慌ただしいことになりそうだ。
     ・・・これは早めに『マザー』を見つけないといけないか。


玲一  :次回の闇ツ世界は。

尚   :真の目的。

ジャック:王を継ぐ者の答え。

蒼哉  :闇ツ世界 第38話 怒りの日

ジャック:その怒りは誰のために。




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