闇ツ世界 第三十四話 『衷心(ちゅうしん)と別離と 』

♀菱山 馨(ヒシヤマ カオリ):18歳。
              政府特務機関「クガタチ」のエリートメンバーであり、戒斗のパートナー。
              快活なキャラクターで変人が集まるエリートメンバーの中では常識派。
              水を扱う事のできる異能者。武器は槍。銘は『海割(うみわり)』
              戒斗が抜けた穴を埋めるため現在、隊長職を継いでいる。

♀卜部千里(ウラベ チサト):17歳。戒斗と馨によって暴走しているところを『保護』された異能者。
            重量移動の能力を持つ。ほがらかであるが、すこし抜けている。
            いわゆる天然。頑張りが空廻ってドジするタイプ。
            27話以降、能力は『重量移動』から『重力操作』にまで発展した。

♂室井朝永(ムロイ トモナガ):16歳。
             二番隊隊員。
             熱血漢で猪突猛進。プライドばかり高い残念な子。
             頭で考えるより、身体が動くタイプ。
             異能は磁力。戒斗とは違い電気は使えない(異能のレベルが低いため)。
             戦闘スタイルは、メリケンサックを用いた超接近戦。

♂森戸 戒斗(モリト カイト):17歳。
               政府特務機関「クガタチ」の中でも十指に入るエリートメンバーだった。
               現在はケイの洗脳によりトローノ・コンクエスト側に居る。
               何事にも柔軟に対応できる冷静さを持つが、同時に淡泊でもある。
               電気や磁力を扱う事のできる異能者。武器は刀。銘は『雷斬(らいきり)』




馨:
千里:
朝永:
戒斗:

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朝永:久方ぶりの任務がこれってねぇ。

千里:しっ!気付かれますよ!

馨 :ぐずぐず言わないの。これは正式な任務なんだから。

朝永:だったら諜報部にでもやらせればいいじゃねーか。偵察なんてよ。

馨 :出来ないから私達に振られてるんでしょ。

千里:それにしても、どうしましょう?この警戒網。

馨 :警備の無人機が巡回してるから、下手に飛び出せないわね。

朝永:ぶっこわしても警報は鳴るしな。生身の人間の方が制圧出来て楽なんだけどよぉ。

千里:その対策も兼ねての無人機ですね。・・・ここは退いた方がいいのでは?

馨 :そうだけど・・・。他に侵入できそうな箇所は?

朝永:ちょっと待ってくれ。探ってみる。

千里:朝永さんの能力っていろいろな事が出来るんですね。・・・ちなみに今は何をしてるんですか?

馨 :磁場を広範囲に展開して、人間やロボットの出す微弱電気を感知するって所かな。

千里:なるほどぉ。人間レーダーですね。

馨 :レーダーとは感知方式が違うけど・・・まぁ、そう言うことにしておきましょう。

朝永:分かったぜ。右舷側が巡回してる個体数が少ない。つまりは手薄だ。いけるかもしれねぇ。

千里:数はどれくらいですか?

朝永:5機だ。ちなみに左舷が10機、正面と背面が15機。

千里:・・・これって。

馨 :誘われてるね。

朝永:もしくは誰か居るって所かもな。

千里:え、でも。人がいるならむしろ警戒態勢は強化する物じゃないですか?

馨 :一般的にはね。でも、異能者の場合は逆。少なくしないと。

朝永:邪魔になんだよ。無人機がうろうろして能力を全開でつかえねぇ。

千里:えっと、無人機だからこそ全開で使えるんじゃ?

朝永:はぁ・・・お前、何もしらねぇのな。

馨 :仕方ないことだけどね。異能について知る前に戦闘に組み込んだ訳だし。
   説明するとね?異能を使うにはそれなりに広さが必要なの。

朝永:俺やお前みたいな『戦闘時に狭い範囲』に能力発動させるタイプは別に支障は無いんだが、
   『広い範囲』に能力発動させるタイプは違う。自分の能力に適した空間作りが能力のでかさに繋がるからな。

馨 :例として四班隊長の壬車(みぐるま)隊長を引き合いに出すね?
   あの人はまず自分の周囲に氷を張り巡らせてから戦闘を開始するでしょ?
   あれは自分の能力を最大限に使うために広げてるの。
   身の回りに氷がたくさんあるとその分戦闘に使える媒体が増える訳。

千里:うーん。分かるような・・・分からないような。

朝永:お、簡単な例え思いついた。敵を倒せって言われた時にだ。
   『銃が1つしか置かれてない部屋』と『銃がたくさん置いてある部屋』どっちに入りたい?

千里:それはたくさん置いてある部屋ですね。・・・ああ、なるほど。

朝永:分かったか?それなりには。

千里:はい。一応!

馨 :無人機なら巻き込めば良いって発想もできるけど、制圧面積が巻き込む無人機分、広がるから避けたがるのよね。

千里:勉強になりました!

朝永:おう、なら良かったぜ。

馨 :変な講義みたいになっちゃったけど、いい加減動かないと。

朝永:戦闘するかどうかは置いておいて、右舷に回ってみるのは手じゃねぇか? 

馨 :そうね。一応見てみましょう。警戒を怠らずに進みましょう。

千里:了解です。



朝永:闇ツ世界 第三十四話 『衷心(ちゅうしん)と別離と 』


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戒斗:へぇ、ネズミが潜り込んでるな?
   三人か・・・。はっ。誰かを呼ぶまでもないな。俺が潰そう。
   さて、どこまで耐えられるか?ネズミ。
   無人機を攻撃態勢、俺の指示で行動するようにプログラム変更。
   さぁ、多重の包囲網から逃げてみろ?


朝永:やべぇ!バレた!

馨 :何が向かってきてる?

朝永:わっかんねぇ。でも、速度的に無人機じゃねぇ。異能者だ。

馨 :撤退します。追ってきている向きは分かる?

朝永:一人が真後ろから追ってきてる。無人機も後から追随してる。左翼・右翼に展開中だ。

千里:包囲して頭を抑えるつもりです!

馨 :このまま撤退します!散開すると個別撃破されかねない。

朝永:了解!

千里:了解です!


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戒斗:先回りしすぎたか?まぁ、今頃この林の中では、三人に対する無人機の包囲網が完成してる。
   そして、逃げる場所は此所に限られる。

馨 :この先を抜けたらっ!

戒斗:・・・来たか。

馨 :っ!・・・戒斗。

朝永:隊長!?

千里:戒斗さん!

戒斗:ああ?だれだ?お前等は。

朝永:おい、ふざけんなって隊長!

戒斗:至って真面目だけど?

馨 :戒斗・・・。ホントに忘れたの?

戒斗:ああ、分からない。分かることはただ1つ。お前等はクガタチで、俺の敵って事だ。

千里:戒斗さん!目をさまして下さい!私達はあなたと戦いたく無い!

戒斗:武器を抜け。クガタチ。それともここで死ぬか?

馨 :・・・二人とも。武器を抜いて。

千里:馨さん!

朝永:だがよぉ!

馨 :ここで死にたくないなら抜きなさい!副隊長命令です!

朝永:ちっ・・・やるしかねぇのかよ。

千里:仕方・・・ありません。

戒斗:構えたな?それじゃ・・・いくぞ?

千里:くっ!早い!

戒斗:ほら、防がないと死ぬぞ?

千里:っぐ!一撃が重いッ!

朝永:千里!

戒斗:フレイム・スロウ

朝永:ちっ。炎で視界が遮られて・・・

馨 :朝永君!左っ!

戒斗:遅い。

朝永:がっは!?・・・

戒斗:腕の骨がイッたか?

朝永:くっそ、左腕が・・・

千里:はぁぁぁっ!

戒斗:良い重さだ。だが、な?

千里:しまったっ!?体崩し(たいくずし)!?

戒斗:ほら、チェックだ。紫電掌(しでんしょう)!

千里:がああぁぁぁぁっ!

馨 :千里ちゃん!

戒斗:ふぅ・・・。次はお前だな。

馨 :そうね。・・・戒斗。

戒斗:変な感じだな。知らないヤツに名前を知られてるってのは。

馨 :最初から一緒だったんだから。そんなに知らないことはないよ?

戒斗:へぇ。じゃあ、ワザもそこそこ知ってる訳だ。この刀の特徴も。

馨 :一応。

戒斗:じゃあ、少し本気でいくぞ?・・・雷塵爪(らいじんそう)!

馨 :永氷壁(えいひょうへき)!

戒斗:絶縁体は、内から壊すのが得策ってね?雷針(らいしん)!

馨 :くっ・・・壊されたか。だけど、いつまでも防戦はしないよ!水柱・突(すいちゅう・とつ)!

戒斗:はっ!鈍重な攻撃だ。簡単に避けきれる。

馨 :それはどうかな?

戒斗:なに?

馨 :この槍。海割の本当の力。見せてあげる。はぁぁっ!

戒斗:なぎ払いで来るか?それを受け流し・・・っ!?

馨 :とっさに避けたのは良い判断ね。

戒斗:なんだ?この威力。振り下ろしただけで地面がえぐれた。

馨 :槍は突く物。なんて思われてるけど、槍の本当の攻撃は殴打にあるの。
   その威力を科学の力でギリギリまで高めたのがこの海割。

戒斗:後、異能の力もあるな。

馨 :・・・思い出したの?

戒斗:イヤ、見切っただけだ。振り下ろしの瞬間、ちょっとだけ不自然な動きをしたからな。

馨 :不自然?

戒斗:ただ、振り下ろすだけならしなくて良いほどの、深い握り方をしてたからな。お前。

馨 :癖が抜けなかったわけか。

戒斗:見た目にそぐわずパワータイプなんだな。お前。

馨 :それも、技能の内。

戒斗:それじゃあ俺も。力でぶつかってみるか。はぁっ!

馨 :くっ・・・珍しいね。正面からぶつかってくるなんて。

戒斗:ただ正面からぶつかってる訳じゃないがな?辺りを見てみろ。

馨 :な・・・っ!?雷針がまだ残ってっ!?

戒斗:雷針・二式 紫電交差(らいしん・にしき しでんこうさ)

馨 :しまったっ!

朝永:やらせるかよっ!磁力掌波(じりょくしょうは)!

馨 :助かった!ありがとう!

戒斗:痛みの中、動いたか。良い忠誠心だ。なら、褒美にお前の方から潰そう。紫電交差。

朝永:ぐあっ!?・・・ちっくしょうがっ!磁力掌波!

戒斗:その程度か?

千里:素手で・・・弾いたっ!?

戒斗:この程度の磁力なら同じ力をぶつけるまでもないな。

馨 :しかたない。朝永くん、千里ちゃん。やるよっ!

朝永:了解!オラ、これでも喰らってな!フラッシュバン!

戒斗:ちっ・・・目くらまし程度がっ!

千里:仕方ないよね・・・反重力・三式!(はんじゅうりょく・さんしき)

戒斗:跳躍して何になる?

千里:馨さん!

馨 :氷の奔流。受けきれる?戒斗!爆流氷塵(ばくりゅうひょうじん)

戒斗:この程度、跳躍で逃げ・・・なっ!?

千里:三式重力球(さんしきじゅうりょくきゅう)。動きを止めさせてもらいます。戒斗さん。

戒斗:高重力場だと・・・。やってくれる。ぐあぁぁぁぁぁっ!

朝永:やったかっ!?

戒斗:・・・・はぁぁぁぁぁ!

馨 :嘘・・・

千里:馨さんの・・・全力が、打ち消された?

戒斗:流石に焦ったぞ?さっきの攻撃はまともに受けられるモンじゃない。とっさに炎の膜を纏ったのは正解だったな。

朝永:どうするよ・・・副隊長。

千里:このままじゃ、止められません。むしろ私達が・・・

馨 :なんとかして、脱出を・・・

戒斗:・・ぐっ・・・がぁっ!?なん・・・だ。この痛みはっ・・・!

朝永:なんだ?一体何が?

馨 :戒斗!

戒斗:くっ・・・なるほど、俺を塗りつぶすつもりか!

千里:何を言っているんでしょう?

朝永:俺が、分かるかよ!

戒斗:いいだろう・・・この場は明け渡してやる。最後の別れでもするんだな!・・・ぐあぁぁぁっ!

千里:戒斗さん!

朝永:行くな!罠かもしれない!

戒斗:う・・・、やっと、意識が抜けた・・・。

馨 :戒斗!あなた・・・

戒斗:やり合ってたのはお前等だったか。・・・暫く見て無い気がするなぁ。

千里:戒斗さん!元に戻ったんですか!?

朝永:だったら、今すぐ戻ろうぜ本部に!改めて体勢を整えて・・・

戒斗:いや、違う。元に戻った訳じゃない。もう一人の人格を、俺が無理矢理押さえ込んでるだけだ。
   すぐにアイツは戻って来る。そうなったら、俺はまた離反する。お前等を殺してな。

千里:そんな・・

朝永:なんとかならねぇのかよ!

戒斗:帰れない代わりに情報をやるよ。馨、PID(ピー・アイ・ディー)は持ってるか?

馨 :持ってるけど・・・どうするの?

戒斗:今から送る情報はPID端末でしか開けない。それを室長に渡せ。

馨 :分かった。なにが入ってるの?

戒斗:ケイの起こそうとしてる計画の一部だ。たぶんな。

朝永:確証はねぇのかよ。

戒斗:記憶がおぼろげなんだ。しかたないだろ・・・・ぐっ・・・そろそろ限界か・・・

馨 :二人とも、撤収するよ。

千里:戒斗さんを置いてですか!?

馨 :戒斗が正気でいる間にこの場を離れるわ。そうしないと私達は消されるわ。戒斗に。

戒斗:良い選択だ。馨・・・ぐっ・・・早く行け!

朝永:しゃーねぇ。いくぞ、卜部(うらべ)!

千里:・・・ごめんなさい!

馨 :・・・またね。戒斗。

戒斗:おう・・・早く行け。馬鹿。

馨 :うん。ごめん。

戒斗:・・・・行ったか。わりぃな、みんな。俺はもう、戻れねぇ・・・。


千里:次回の闇ツ世界は

朝永:因縁の糸は繋がる

戒斗:闇ツ世界 第三十五話 Dear my past(ディア・マイ・パスト)

馨 :過去の思いは、怒りを熾(おこ)す。





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