闇ツ世界 第三十三話 It's just begun.(イッツ・ジャスト・ビガン
♂相田蒼哉(アイダ ソウヤ):25歳。
政府特務機関「クガタチ」のトップ。
切れ者で若くして政府機関の責任者となっている。
戒斗を組織に引き入れた張本人。
現在では事務職に力を注いでいるが、もともとは前線で闘う武闘派。
何を考えているのか分からないとらえどころのない人物。
良く言えばひょうひょうとしたキャラクター。悪く言えば不真面目。
風を扱う異能者。武器は鉄扇。
♀伊藤常葉(イトウ トキワ):25歳。「クガタチ」三班隊長。冷静沈着な性格。クガタチの戦闘班の中でも頭脳派。
でも戦闘も出来るオールマイティ(体育会系とも言う)。武器は大槌。能力は物質振動。
蒼哉とは幼なじみ。現在、異能障害(異能を使った時に起こる副作用)により前線からは離脱中。
♀壬車沙耶(ミグルマ サヤ):19歳。四班隊長。傲岸不遜な態度。室長以外には上から目線で物を言う。四班は特例で、彼女しかいない。
能力は『氷結』。氷で作り出した武器や騎士で闘う。
♀菱山 馨(ヒシヤマ カオリ) :18歳。
政府特務機関「クガタチ」のエリートメンバーであり、戒斗のパートナー。
快活なキャラクターで変人が集まるエリートメンバーの中では常識派。
水を扱う事のできる異能者。武器は槍。銘は『海割(うみわり)』
♂ジャック:見た目20歳前後。
不気味な雰囲気を持つ人物。本名不詳。見た目は人付き合い良さげな人物だが、その内面は冷徹が服を着たよう。
仲間であろうと切り捨てる時は切り捨てる。能力は遮断。
トローノ・コンクエストを率いていたが、ケイの裏切りにより失脚。現在、クガタチに加勢中。
使用武器は刃のない刀『無銘』
♂ケイ:40代後半から50代。人よさげだが、実は腹黒な狸親父。
国を代表する製薬会社の社長でもある。
異能は『異能を統べる異能』異能の能力を持つ人間を洗脳可能。
かつ、全異能保持者の能力を使用可能。
蒼哉:
ジャック:
ケイ:
常葉:
沙耶:
馨:
__________________________________
ケイ :素晴らしい・・・。これで、第一段階が終了した。
愉しい・・・愉しいぞ!今の私は愉しくてたまらない!
この欲望、この興奮。いつぶりだろうか。
これで、新しい世界への土台が作られた。
後、ツーステップで完成する。
最高の始まりへのカウントダウンが。
しかし、そのステップは長い。
その間の無聊(ぶりょう)はどう慰めてみたものか・・・。
そうだ、彼らを使おう。このゲームを愉しくさせるのは彼らしか居ない。
彼らには過ぎた贈り物だが、構わん。愉悦の為だ。
さぁ、足掻いて見せてくれ。クガタチ!
ジャック:闇ツ世界 第三十三話 It's just begun.(イッツ・ジャスト・ビガン)
蒼哉 :ウィジ被害者が増加?
常葉 :そうです。今週に入って急激に増加しています。
蒼哉 :でも、前にもこういうこと無かったっけ?
沙耶 :麻薬と勘違いしてファミリー全員が飲んで全滅したアレね。
あの時のザマは酷く滑稽だったわ。・・・でも、今回はそれとは違うの。
蒼哉 :違うってどういうこと?
馨 :これを見て下さい。
蒼哉 :これは、なに?
馨 :司法解剖のリストです。警察から取り寄せました。
沙耶 :正式に言えば、警察のデータベースをハッキングして奪ったんだけどね。
常葉 :不審死した人物の内、原因不明の脳死を起こしたのが500名以上。
その内、20代未満の死亡者が・・・。
蒼哉 :90名・・・これはいかに言っても多いね。
沙耶 :それで、諜報部を使って調べさせたんだけど。
どうやらこのリストに載ってる遺体の全部が同じ脳死の仕方なんだって。
蒼哉 :その脳死の仕方とは?
常葉 :脳だけが焼けていたんです。
蒼哉 :他に外傷はなく?
馨 :はい。頭蓋骨の損傷はなく、脳だけが。
蒼哉 :なるほど。それは確かに・・・
ジャック:ウィジの不適合による脳死症候群だね。
常葉 :ジャック・・・。
ジャック:おっと、そんな怖い顔しないでよ。常葉隊長?
常葉 :一体、今までどこに居たんですか?
ジャック:どこだって良いでしょう?迷惑はかけてないんだし。
沙耶 :山登りでもしてきたのかしら?
ジャック:どうしてそう言える?
沙耶 :ブーツ。汚れてるけど?泥で。
ジャック:・・・ホントだね。
沙耶 :そんな物騒な刀をもって山登り。一体何をしてきたのやら。
ジャック:クククッ、それは・・・秘密だよ?ビショップさん。
蒼哉 :はいはい。みんな喧嘩しないの。話を戻すよ?
若年層に異様なほど広まっているウィジ。それが今の議題だよね?
常葉 :はい。マフィアや暴力団といった部類とは違い、こういった若年層は資金面、人脈ともにウィジとは関係が薄いはずです。
馨 :にも関わらず、手にして、死んでいる。この背景には何かが潜んでいるに違いないです。
蒼哉 :そうなると、思い当たる節は1つしかないよねぇ。
ジャック:トローノ・コンクエスト。だね。
沙耶 :でも、その目的が分からない。仲間を増やすなら新しく異能者を作るんじゃなくて、すでにいるフリーの異能者を漁った方が早い。
馨 :足も着かなくて済みます。
ジャック:でも、問題はあるよ。そもそも、異能者の絶対数が少ない。それに、探す手間もかかる。
常葉 :現在、トローノ・コンクエストを率いている人間が持つ能力を使えば、手間は無くなるのでは?
ジャック:『異能を統(す)べる異能』の事?それは無理だよ。
沙耶 :どうしてそう言えるのかしら?
ジャック:詳しいことはよく分からないけど、あの能力の本懐は『現存する異能を自他問わず行使できる』という所にあるみたい。
蒼哉 :というと、どういう事かな?
ジャック:例えば、炎の異能を持った人間Aが居るとする。このAは、もちろん炎の能力しか使えない。
このAに「水の異能を使え」と言ったところで、Aには無理だ。
でも、『異能を統べる異能』はそうじゃない。
常葉 :炎以外も扱えると?
沙耶 :全ての異能が使えるのよ。つまりはそう言うことでしょ?
蒼哉 :『異能を統べる異能』を持つ異能者は、水を操れるし、火をおこせる。
地割れを起こそうと思えば起こせるし、姿を消したいと思えば消せるってことね。
ジャック:そう、いうなれば、何でもありなんだ。
常葉 :それを持っているのが、ケイという人物・・・。
沙耶 :それと、森戸戒斗(もりとかいと)。二班隊長だった・・・ね。
馨 :・・・・。
蒼哉 :でも、異能者のみを洗脳出来るというスキルもあるんだろう?
その、『異能を統べる異能』には。それを使えばあるいは・・・
ケイ :その質問には私が答えよう。
常葉 :通信っ!?どこからっ!?
馨 :通信先の検索を掛けます!
ジャック:わざわざ盗み聞きですか?トローノ・コンクエストのリーダーさん。
ケイ :盗み聞きではない。ただ、どこまで謎解きが進んでいるか見学に来ただけだ。
沙耶 :良い趣味してるじゃない。反吐が出るくらいに。
ケイ :お褒めの言葉と受け取ろう。さて、質問だが。
『異能を統べる異能』には確かに洗脳スキルはある。
しかし、その洗脳は範囲を広げて洗脳するタイプではない。
言うなれば、マーキングをするのだ。
蒼哉 :マーキング、ねぇ。
ケイ :理由は、明朗なそこの二人なら分かるだろう?実に簡単な答えだ。
蒼哉 :・・・なるほど。範囲指定だと、脳に干渉する数が多すぎるのか。
ジャック:そして、自滅するリスクも自然と上がる。
ケイ :ご明察だ。そう、いちいち全ての人間の頭の中を覗き、異能持ちか否かを漁るなど骨が折れて仕方ない。
そうしている間に、逆に私が壊れてしまう。
だから、洗脳スキルは対象をマーキングしてじゃないと行えない。
厄介なことだよ。
常葉 :最近、頻発している若年層の死亡事件は貴方が関与しているのね?
ケイ :そうだ。我々の行った工程だ。それは認めよう。
沙耶 :何故か・・・までは言わないのね。
ケイ :当たり前だ。それでは謎解きをする意味が無くなる。
ジャック:相変わらず、不気味な人間だ。あなたは。
ケイ :そういう君も隅に置けないな。ジャック。死んだものと思っていたよ。
ジャック:死にませんよ。あなたを切り伏せるまでは。
ケイ :そうか、それは実に楽しみだ。待って居よう。
・・・時に、そろそろ分かったかね?お嬢さん。私がこの通信を掛けている場所が。
馨 :・・・そんな、まさか。
ケイ :おお、成功したようだな。ご苦労だ。まぁ、発見させるための無駄話ではあったんだがね。
さて、答えを聞こう。お嬢さん。私は、一体どこからこの通信を掛けている?
馨 :国会・・・議事堂・・・。
蒼哉 :なに?
ケイ :正解だ。お嬢さん。逆探知成功だな。下手な諜報員よりも腕は確かだろうな。
ジャック:乗っ取ったのか。この国を。
ケイ :その通り。乗っ取った。現時刻をもってな。見せてやろう。この素晴らしい光景を。
常葉 :・・・酷い。
沙耶 :下衆のやりそうなことね。
蒼哉 :皆殺し。か。
ケイ :見えているかね?この素晴らしい光景が。
堕落し、落ちぶれ、肥えることにしか興味を失ったクズ共のなれの果てが。
国会議員と名を騙り、人々を、我々を苦しめてきた雑魚共の肉塊が。
この私が消した。私のトローノ・コンクエストが消したのだ!
ジャック:この次は何を起こすつもりです?これで終わりじゃないでしょう?
ケイ :もちろん。おわりじゃない。始まりだ。
しかし、暫くこの事実は世間には伏せておく。そして、次の実験には時間を置く。
なぜだか分かるね?
常葉 :我々クガタチに、追い付いて見せろといいたいのですか?
ケイ :その通りだ。私の行うことを看破しろ。そして、阻んでみろ。
そのための宣戦布告だ。
頭を使い、身体を酷使し、息を切らせて私の足元まで迫れ。
そして、その手で私を王座(おうざ)から引きずりおろして見せろ。
蒼哉 :余裕なんだねぇ。あなたは。
ケイ :もちろんだ。こちらに全ての駒は揃ったのだ。
あとは対局を待つだけだ。
ジャック:では、こちらも駒をそろえることにしよう。
ケイ :急げよ?落日の日は近いんだからな。
蒼哉 :受けて立とうじゃないか。伊達に『神の審判』を名前に掲げている訳じゃないと見せてやろう。
ケイ :クガタチという名の由来か。その審判の神が、死ななければいいな?
蒼哉 :死なないさ。最後の一人になるまで。裁きの神は居続ける。
ケイ :その意気や良し。それでは、その日を楽しみに待って居ることにしよう。
馨 :通信・・・終了しました。
ジャック:ね。不気味でしょう?
蒼哉 :全く・・・脂汗とか久しぶりにかいたよ。
沙耶 :趣味の悪い下郎ね。自分が神にでもなったつもりらしい。
常葉 :神になったんでしょう。ヒトを越えた力を手にし、今や権力も持った。
馨 :奪い取ったんですね。・・・血をもって。
蒼哉 :『王位奪取』を組織名にする程だ。願ってたんだろうね。この日を。
沙耶 :そして、見せびらかしたくなったって?ガキじゃない。
ジャック:でも、そのガキにしてはイキすぎた権力だからね。押さえつけなきゃ。
蒼哉 :とりあえず、分かったことが1つある。さっき議題に上がった若年層の死亡事件。
あれは、実験なんだね。
ジャック:そうだろうね。
馨 :どうしてそんな事が言えるんですか?
常葉 :ケイという人物が言ってました。我々の行った工程だ。と。
沙耶 :我々が起こした事件という言葉を使わず、行った工程って使ったのがミソかしら?
蒼哉 :工程とは、作業の手順を主に指す言葉だ。ということは、若年層をつかった実験工程が、死亡事件と繋がるということ。
馨 :ケイという人物は『次の実験』とも言ってましたよね。
ジャック:おそらく、今行っている何かが完成段階まで行っていないということなんだろう。
それまでは、クガタチをおもちゃにして遊ぶつもりなんだろうね。
蒼哉 :調子に乗らせる訳にはいかないな。早急に対策を練らなくては。
沙耶 :国会の方はどうするの?
常葉 :放置は出来ません。今すぐにでも部隊を・・・
ジャック:送ったところで何にもならないさ。
むしろ、罠に引っかかって自滅するのがオチ。
常葉 :どうしてそんな事が言える!
ジャック:以前、してやられたの覚えてる?
クガタチ本部の襲撃の時、暴徒の対処に出た光景が録画され、世間に誤った報道をされ、失脚したことを。
沙耶 :乗り込んだ瞬間、私達に罪をなすりつけるのね。
馨 :そうなれば、今以上に動けなくなります。
常葉 :くっ・・・腹立たしいわ。
蒼哉 :先走らないでね?常葉。今、先決なのはトローノ・コンクエストが何をし、何を目標としているのかを突き止めることだね。
今まで以上に情報を捜査しよう。ちっぽけな異能事件がトローノ・コンクエストに繋がっているかもしれない。
沙耶 :しんどい事は嫌いなんだけど、あのクソ爺をのさばらせておく訳にはいかないしね。やってみるわ。
常葉 :お任せ下さい。室長。
蒼哉 :たのんだよ。・・・馨君。
馨 :はい。
蒼哉 :君の班。二班の事なんだけど、一時的に僕に預からせてくれないかな?
馨 :というと・・・?
蒼哉 :一時的に、一班隊員として動いて欲しいということ。僕の手足になってね。
馨 :・・・はい。
蒼哉 :戒斗の事は、地道に調べていこう。足取りも含めて。
ジャック:トローノ・コンクエストに繋がっているはずだしね。
馨 :わかりました。
蒼哉 :ありがとう。・・・それでは、各員。今まで以上にハードワークになるだろうけれど、気を引き締めて事に当たろう。
世界の改善のために。
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ケイ :フフフ・・・あはははははは!これでどこまで追い付く?クガタチ。
私は霞のように姿を隠し、身を潜めよう。
そして、私の描く世界を実現するために、成すべき事をしよう。
どこまでも、壊し、創り。そして、進化させるのだ。
それが、どれだけ悪だと罵られようとも。
さぁ、実験結果を集めよう。そして、次の発展を起こそう。
私の・・・勝利の為に。
ジャック:次回の闇ツ世界は
常葉 :始まりだした実験
沙耶 :すれ違う二者。
蒼哉 :闇ツ世界 第三十四話 衷心(ちゅうしん)と別離と
馨 :心は、届かないままに。