闇ツ世界 第29話 王族


♂ケイ:40代後半から50代。人よさげだが、実は腹黒な狸親父。
    国を代表する製薬会社の社長でもある。
    異能は『異能を統べる異能』異能の能力を持つ人間を洗脳可能。
    かつ、全異能保持者の能力を使用可能。

♀早凪 藍子(ハヤナギ ランコ):20代後半。穏やかな性格。だがその実、人に危害を加えるのが大好きな人物。SとMが頻繁にひっくり返る。
               触れた相手に対しての危害を与える『反射』の能力。

♂森戸 戒斗(モリト カイト):17歳。
政府特務機関「クガタチ」の中でも十指に入るエリートメンバーだった。
               現在はケイの洗脳によりトローノ・コンクエスト側に居る。
何事にも柔軟に対応できる冷静さを持つが、同時に淡泊でもある。
電気や磁力を扱う事のできる異能者。武器は刀。銘は『雷斬(らいきり)』

♀生駒 穂乃華(イコマ ホノカ):15歳。
               テロ集団。トローノ・コンクエストのメンバー。
               現在、ケイによって洗脳状態に。過去の記憶が消えており、精神も幼児化している。
               

ケイ:
藍子:
戒斗:
穂乃華:
_______________________


藍子:お久しぶりね。老いぼれさん。

ケイ:ああ、来たか。レーヌ。

藍子:本名で呼んでよ。嫌いなの。それ。

ケイ:自分がスペアだと思い知らされるからか?

藍子:別に。私はただ、自分の人生を謳歌したいだけよ。

ケイ:なるほど。私に作られた人形でも、ここまで自立するとは。親心をくすぐられるな。

藍子:思ってもない癖に。

ケイ:どうだろうな。それで、呼んだ理由は分かっているな?

藍子:ええ、分かって居るわ。次の実験をするんでしょ?

ケイ:そう、『プラン・クィーン』の最終段階だ。

藍子:・・・この子が私の母体?

ケイ:そうだ。生駒 穂乃華(いこま ほのか)。この娘からお前は生まれた。

藍子:エラくちびっ子なお母様から生まれたのね。私。

ケイ:ショックだったか?うん?

藍子:別に?むしろ、いろいろ生育状態で勝ってるから清々しいけど。

ケイ:ハハ。それなら良かった。

藍子:それで、何をするの?私とこの子を使って。

ケイ:お前の脳内の情報を穂乃華へ移植する。

藍子:どうやって?

ケイ:このヘッドギアを装着しろ。これで、お前の中から情報を引き抜く。

藍子:はいはい。仰せのままに。・・・これでいい?

ケイ:ああ、それでいい。後は、そこの椅子に腰掛けて待って居ろ。調整を済ませる。

藍子:・・・ねぇ、私はどうなるの?

ケイ:どうなるとは?

藍子:情報を抜き出すって事は脳内に刺激を与えるんでしょ?死んだりするの?

ケイ:それは、やってみなければ解らん。

藍子:えらくいい加減ね。

ケイ:怖いか?流石のお前でも。

藍子:ええ、それなりに。

ケイ:神頼みでもすれば、生き残れるかもしれんぞ?

藍子:ハッ。私が神を信じてるとでも思う?

ケイ:それもそうだな。

藍子:・・・・。

ケイ:・・・・。

藍子:私の情報を移して、この子はどうなるの?

ケイ :予測では、異能の力が増大する。人工的にデュアル・スキルを作り出せる。

藍子 :『異能を統(す)べる異能』にはなりきらないってこと?

ケイ :それは、体内のウィジとの適合率による。私と、私の遺伝子を正統に継いだ戒斗はその資格はあるが、コレはな。

藍子 :私は、この子もあなたの遺伝子から作られたって聞いたけど?

ケイ :一応はな。だが、制作途中でなんらかの変異が起こり、私の持つ遺伝子情報は半分も無い。

藍子 :じゃあ、残りの遺伝子はなによ?

ケイ :わからん。変異で生まれた特殊遺伝子。・・・まったく、実験はこういった予測不可能が起こるから楽しい。

藍子 :全く。あんたって本当に・・・。マッドサイエンティストにも程があるわ。

ケイ :これで、人の形をしていなければ廃棄だったが、運良く人になったのでな。更に遊ばせてもらった。

藍子 :その結果がコレね。良い趣味だ事。

ケイ :さて、設定は終わった。それでは、始めよう。

藍子 :ええ、そうね。始めて。



戒斗 :闇ツ世界 第29話 王族



藍子 :う・・・ん?わた・・・し。

ケイ :ほう、生きたか。レーヌ。

藍子 :だから、名前で呼んでよ・・・。頭痛が酷いわ。

ケイ :かなりの刺激を与えたからな。仕方あるまい。

藍子 :人の身体を散々もてあそんで「仕方ない」で済ませるなんてね。

ケイ :しかし、何にせよ。実験は成功だ。喜べ。

藍子 :成功か失敗かより、自分が生きてることに喜ばせて欲しいけれどね。

穂乃華:ここは・・・。

ケイ :よく目覚めた。穂乃華。私が解るか?

穂乃華:・・・おとう・・さま?

藍子 :何を言ってるの?この子。

ケイ :情報を移した後、記憶面をいろいろといじらせてもらったのだ。ジャックとの関係性が残っていると面倒だからな。

藍子 :それで、御父様か。・・・ロリコンなの?あなた。

ケイ :小娘に欲情するほど飢えてはおらん。家族ごっこさ。曖昧な『味方』という概念をすり込むよりも、『家族』という情報をすり込んだ方が裏切りの確率は下がる。

藍子 :一応、考えてはあるのね。

穂乃華:私・・・どうしてここに?

ケイ :ああ、疲労で倒れたのだ。だが、その様子だともう大丈夫だな。

穂乃華:そう・・・ごめんなさい。御父様。

ケイ :いや、構わないさ。穂乃華。さ、少し向こうの部屋で横になってなさい。

穂乃華:はい。御父様。

藍子 :・・・家族ごっこ。楽しい?

ケイ :疲れる。だが、これも必要な事だ。

藍子 :それで、家族ごっこに精を出すのは良いんだけどさ。私はこれからどうすれば良い?

ケイ :どうすればとは?

藍子 :元々、今日、死ぬ予定で作られたんでしょ?私って。でも、生き残った。行くとこ無いのよねぇ。

ケイ :そうだな・・・。藍子。

藍子 :初めて名前で呼んだわね。

ケイ :もはや、役目は終わったからな。・・・藍子。まだ異能は使えるか?

藍子 :そうねぇ。やってみましょうか。なにか、死なない程度に異能をぶつけてみて貰える?

ケイ :良かろう。エアロショット!

藍子 :リフレクション!

ケイ :ほう、しっかりと弾くな。異能の力は生きているようだ。

藍子 :そうね。全部持って行かれなくて良かったって所かしら?

ケイ :ここで、1つの戦力が生き残った訳だ。活用しない訳にはいかないな。

藍子 :じゃ、私はまだあなたに生かされる訳か。

ケイ :そうだな。存分に働いてもらおう。



穂乃華:広い部屋・・・。ん?ピアノの音?誰が弾いてるんだろう?

戒斗 :・・・・・。

穂乃華:あの人は・・?

戒斗 :・・誰だ?

穂乃華:あ、御免なさい。

戒斗 :誰だ?お前。

穂乃華:私は・・・私の名前は・・・えっと・・・。

戒斗 :どうした?

穂乃華:穂乃華っていうみたいです。

戒斗 :みたい?

穂乃華:さっき、御父様からそう呼ばれて。

戒斗 :御父様?

穂乃華:ケイって呼ばれてました。

戒斗 :ああ、父さんか。

穂乃華:父さん?御父様があなたのお父さん・・・。

戒斗 :そうか、混乱してるのか。君。

じゃあ、君がクィーンか。

穂乃華:クィーン?女王?

戒斗 :そう。どうやら、父さんはこの世界を自分の手で創り上げるつもりなんだ。

穂乃華:世界を創る?

戒斗 :そう。俺たちが持つ異能の力で創るんだって。それで、必要なのがジャックとクィーン。

穂乃華:どういうことですか?

戒斗 :王の後を継ぐ者『ジャック』。そして、どこまでも王に従い、保護して守る者『クィーン』。
    この2つが揃わないと異能の本質は掴めないんだってさ。

穂乃華:異能の本質・・・。

戒斗 :ウィジって薬は、死の間際に生きたいと強く願った者に、命と異能を与える。
    その時に与えられる異能は何のためにあると思う?

穂乃華:・・・わかりません。

戒斗 :正直な所、俺もまだ解ってない。父さんは、この世界を纏める王を育てるために有るって言ってたけど、俺はもっと他にあるとも思うんだよね。

穂乃華:それはなんですか?

戒斗 :それを見つけるために居るって所。まぁ、ここに来たのついこの間だけど。

穂乃華:そうですか。

戒斗 :気長に探してみること、かな。当面は。

穂乃華:なんだか、哲学的ですね。

戒斗 :ずっと考えると死にたくなってくるよ。

穂乃華:ホントですね。ところで、質問良いですか?

戒斗 :なにかな?

穂乃華:さっき、弾いていた曲は?

戒斗 :『怒りの日』さ。ヴェルディ作曲の。

穂乃華:よく弾けますね。

戒斗 :この曲だけ何故か弾けるんだよ。他はさっぱり。

穂乃華:才能ですか?

戒斗 :違うかな。一度も練習してないのに弾ける。こんなのなんて才能の類じゃないよ。

穂乃華:では、異能とでも呼びますか?

戒斗 :これが、ホントに異能だったら下らない異能だ。

穂乃華:でも、もしかすると人を幸せにするかもしれません。

戒斗 :幸せ・・・ねぇ。ハハハッ。

穂乃華:何かおかしな事を言いましたか?

戒斗 :いや、うん。そうだね。幸せに出来るかもしれない。
    
穂乃華:わ、笑わないで下さい。

戒斗 :ごめんごめん。でも・・・それは無理かな。特に俺は。

穂乃華:そうなんですか?

戒斗 :『ジャック』の定めさ。これから俺はこの手を血で染める。

穂乃華:それは回避できるモノですか?

戒斗 :さぁね。父さんが決めることだ。俺はそれに従うだけ。
    でも、このままじゃ避けられないかな。

穂乃華:なら、私はその手を濯(すす)いであげます。

戒斗 :・・・・。

穂乃華:もしかして・・・また、変なこと言いました?

戒斗 :その台詞はもっと良い人に使うべき言葉だよ。

穂乃華:は、はぁ・・・?

戒斗 :うん、面白い子が来たんだね。楽しくなりそうだ。ね、父さん。

ケイ :気に入ったか?

戒斗 :まぁ、ね。

ケイ :そうか。なら、好きに使え。

戒斗 :それは、どっちで?

ケイ :どっちとは?

戒斗 :いや、なんでもない。で、用事は何?父さん。

ケイ :用事ほどではないのだがな、少し付き合え、戒斗。

戒斗 :わかった。

穂乃華:あの・・・。御父様?

ケイ :穂乃華はここで待って居てくれないか。大丈夫だ。すぐ戻る。

穂乃華:はい・・・。解りました。

ケイ :不安か?穂乃華。大丈夫だ。私はどこにも行かないよ。

戒斗 :だってさ。穂乃華ちゃん。

穂乃華:はい。待ってます。

戒斗 :・・・どんな記憶を植え付けたのさ?

ケイ :ああ、両親を不慮の事故で失った事にしてある。
    トラウマは人を縛りやすいからな。

戒斗 :そうだね。

ケイ :そんなことはさておき、そろそろ行こう。戒斗。


藍子 :次回の闇ツ世界は

穂乃華:強者には良き従者を

ケイ :闇ツ世界 第30話 矛と盾

戒斗 :下らない茶番にも付き合うか。




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