闇ツ世界 第26話 ニューゲーム

♂相田 蒼哉(アイダ ソウヤ):25歳。
              政府特務機関「クガタチ」のトップ。
              切れ者で若くして政府機関の責任者となっている。
              戒斗を組織に引き入れた張本人。
              現在では事務職に力を注いでいるが、もともとは前線で闘う武闘派。
              何を考えているのか分からないとらえどころのない人物。
              良く言えばひょうひょうとしたキャラクター。悪く言えば不真面目。
              風を扱う異能者。武器は鉄扇。


♂十間 雪緒(トオマ ユキオ):25歳。
               政府機関『クガタチ』の救護班のリーダー。小馬鹿したようなダークジョークがたまに飛び出るが、それ以外は物腰柔らかな好青年。
               蒼哉とは旧知の仲で、二人だけの時は砕けた会話をする程。
               能力は触れたモノの異常を直す『回復』能力。

♂ジャック:見た目20歳前後。
      不気味な雰囲気を持つ人物。本名不詳。見た目は人付き合い良さげな人物だが、その内面は冷徹が服を着たよう。
      仲間であろうと切り捨てる時は切り捨てる。能力は遮断。
      失われた自己の過去に対する執着がある。

蒼哉:
雪緒:
ジャック:

______________________________________________

蒼哉:やあ、雪緒君。どうだい?彼の様子は。

雪緒:うん?・・・ああ、蒼哉・・・室長。書類整理はいいんですか?

蒼哉:ざっと終わらせてきたよ。それで、どんな状態?

雪緒:平行線。キズは全部治ってるはずなんだけれどね。


ジャック:闇ツ世界 第26話 ニューゲーム


蒼哉:ふーん。平行線ね。

雪緒:そう。彼自身が死にたがってるみたいに良くならない。

蒼哉:夢破れてって感じかな?

雪緒:さぁ?どうだろうね。それより、そちらのほうは?

蒼哉:うん。こっちは順調。いろんな人から約束取り付けたから。

雪緒:警察庁長官と警視総監にも?

蒼哉:うん。話は通したよ。二つ返事で了承してくれた。

雪緒:さすがは、前総理大臣の息子。顔が広い。

蒼哉:こうでもしなくちゃ、厄介でしょ?
   なんせ、これからはもっともっと派手に動かなくちゃいけなくなる。
   トローノ・コンクエストの実体が段々と浮き彫りになりそうな所で、警察の厄介になるなんてことは避けたいし。

雪緒:確かに、そうですね。

蒼哉:なぁ、ユキー。

雪緒:・・・その呼び方しないで下さい。

蒼哉:いーじゃん。昔からの幼なじみなんだし。ここには今、僕と君の二人っきりだし?

雪緒:それは是非とも私じゃなく、常葉女史(ときわじょし)にした方がいいのでは?

蒼哉:ユキがつれないー。というか、僕が嫌いなの知っててやってるでしょ?その敬語。

雪緒:もちろん。

蒼哉:まだ、怒ってる?

雪緒:当たり前です。

蒼哉:ですよねぇー。

雪緒:・・・なぁ、蒼哉。あのプログラムはやめた方が良い。

蒼哉:それって、『マリオネット』?

雪緒:そう。『マリオネット・プログラム』。近頃、君はまたあの施設を稼働させたな?

蒼哉:あら。ばれてたか。

雪緒:何年一緒にやってきたと思ってるんだよ。
   ・・・君にとって危険なんだ。あの実験は。即刻やめるんだ。
   これは医師として、そして君の友人としての忠告だ。

蒼哉:嫌って言っていい?

雪緒:ダメ。

蒼哉:嫌だ。

雪緒:・・・どうしてこんな事にこだわるんだよ。蒼哉。

蒼哉:こんな事だからだよ。雪緒。

雪緒:馬鹿げてるんだよ。このプランは。ただ無謀に人を壊していくだけだよ。

蒼哉:ウィジに犯され続けて廃人になった彼らを、共感能力を持つ異能者で制御するプログラム。
   確かに聞いてる分には馬鹿げてるけど、さ。後もうちょっとで完成するじゃない。これで全五班がそろい踏みになる。

雪緒:その結果・・・。君が壊れるとしても?

蒼哉:そうだよ。共感のデュアルスキルを持ち始めた僕ならできる。

雪緒:ふざけるのも大概にしろ!君が居ないとこのクガタチは機能が全停止する!
   君がこの組織に所属する全員の頭脳じゃないか!脳死した人間は元には戻らないのと同じように、この組織も死んでしまう!

蒼哉:そう・・・だね。だから、彼を僕は拾ってきた。

雪緒:は?

蒼哉:ジャック。彼の頭があれば、この組織は動く。

雪緒:なっ・・・なにを言い出すとおもったら。蒼哉、君は馬鹿なのか!?

蒼哉:馬鹿と天才は紙一重なんだよ?

雪緒:いいや、馬鹿だ!大馬鹿だ!敵だったヤツを引き込むだって!?できる訳無いじゃないか!

蒼哉:ねぇ、なんで彼はあそこで倒れてたと思う?

雪緒:知らないよ!そんなことより・・・

蒼哉:僕が戒斗(かいと)達を率いて鎮圧に出た時、彼の姿は無かった。
   じゃあ、何で彼は倒れていたのか。飛び降り自殺なんてしたのか。
   答えは案外簡単に出るよ。仲間割れさ。思うようにいかなくなった。

雪緒:だからって彼が共感して戦ってくれると思えない!

蒼哉:別に、共感して戦ってくれなくたって良いんだ。
   ただ、一時的にでも仲間になってくれれば・・・。

雪緒:君が成し遂げ、変えなくちゃ意味がないだろう!
   この社会を、国を、世界を変えるんだろ!

蒼哉:うん。でも、これ以外策はないでしょ。

雪緒:このプログラムを破棄すれば、他にいくらでも手はあるはずだ!
   こだわる理由は無い!

蒼哉:彼らを見捨てるの?この国と同じように。

雪緒:そうじゃないさ。・・・そうじゃない。
   ただ、彼らを無理に戦わせる意味なんてないだろう。
   彼らはある意味、安寧を得たんだ・・・。そっとしておいてやってくれ。

蒼哉:安寧・・・?アレが安寧?
   常に鎮静剤を打ち続けなければろくに会話すら出来ない彼らのどこに安寧があるって言うんだ!

雪緒:だからって、戦わせる事だって間違ってるんだよ。

蒼哉:じゃあ、何が正解なんだよ!

雪緒:あ、おい待て蒼哉!
   全く・・・出て行くって子供染みてるじゃないか。

ジャック:全く、うるさいなぁ・・・病室じゃないの?ここ。

雪緒  :起きたんですか。

ジャック:うん、口論くらいからね。面倒だったから無視してただけ。

雪緒  :申し訳ないね。見苦しい所を見せた。

ジャック:別にいい。それより、今日が何日か、教えて貰える?

雪緒  :今日?・・・二十日だけど。

ジャック:じゃあ、約二日寝てたわけか。

雪緒  :そうなるね。

ジャック:君たちが生きてるってことは、失敗したのかな?ケイの策は。

雪緒  :残念だけど。成功してるよ。
     私達クガタチは政府に見放され、今となってはただのはぐれ者の集まりになってる。

ジャック:そう。それじゃあ、あの老いぼれはますます鼻高々にやってるのか。

雪緒  :ケイとは、どんな人物なのですか?

ジャック:言うと思う?

雪緒  :思ったから口にしましたよ?

ジャック:・・・だろうね。ケイは、まさしく狸オヤジだよ。
     正直、彼に何もかもを話そうとは思えない。

雪緒  :その他には?

ジャック:他にも知ってることはあるけど、コレは君に話すことじゃないかな。
     それより、面白そうな事を話してたね。詳しいこと聞かせてよ。

雪緒  :話すと思いますか?

ジャック:部外者には話さないか。

雪緒  :敵には話さない。

ジャック:彼。室長は敵として見てなかったけどね?

雪緒  :到底信じられるワケがない。彼は馬鹿なんだ。

ジャック:じゃあ、さ。どうやったら仲間にしてくれる?

雪緒  :なっ!?

ジャック:驚かないでよ。思うことがあるんだ。僕にもね。

蒼哉  :だ、そうだよ。雪緒。

雪緒  :蒼哉・・・。いつの間に。

蒼哉  :実は帰ってませんでした。彼が起きてたの知ってたから。

雪緒  :まさか・・・。まさかそれで、あんな子どもみたいな事を言ったのか。

蒼哉  :そう。あんな事言いました。
     ところで、ジャック。

ジャック:何かな?

蒼哉  :全部ひっくるめて話してくれないかな?
     トローノ・コンクエストのこと、ケイのこと。後、君が僕らに加わりたい理由。

ジャック:それくらい、いくらでも喋ろう。その代わり、条件がある。

蒼哉  :何だろう?

ジャック:ケイの放っているスパイ。それが居ない場所を要望する。

雪緒  :まて、それじゃあまるで私がスパイのようなっ!

蒼哉  :ユキ。頭が回りすぎだよ。別に彼はそういうつもりで言ってはないよ。ね?

ジャック:もちろん。

雪緒  :じゃあ、そのスパイとは・・・。

ジャック:森戸戒斗(もりとかいと)。

雪緒  :そんな!戒斗君がそんなはず!

ジャック:あと、相田蒼哉。貴方だ。

雪緒  :なっ!?

蒼哉  :・・・だろうねぇ。

ジャック:自覚あったんだ。

蒼哉  :もちろん。だって、記憶がちょいちょい無くなってる時間が有ってさ。

雪緒  :ちょっと待ってくれ。記憶の喪失ってどういう事だ蒼哉。そんな事聞いてない。

蒼哉  :そりゃそうだよ。言ってないから。

雪緒  :蒼哉!

蒼哉  :それはともかくだ。この記憶喪失がスパイと関係が在るとするなら・・・。

ジャック:察しの通り、異能による洗脳工作だよ。ケイのお得意技だ。

蒼哉  :得意技ねぇ。実に不愉快なことだが、なってしまった事は仕方ないね。

雪緒  :今から洗脳に対する策を練るのが先決だ。

蒼哉  :どうやって対策をとろうかねぇ?

ジャック:ケイの洗脳に関しては対策は練られないよ?
     なんせ、彼の異能は異能じゃないからね?

雪緒  :どういうことだ?

ジャック:ケイの持つ異能を一言で言えば『異能を統べる異能』。
     すべての異能の原始であり、頂点だから。

蒼哉  :プロトタイプってことだね?ケイという人物自身が。

ジャック:そういうこと。そして、『異能を統べる異能』の持つ力は2つ。
     1つは異能を持つ人間を統治する能力。もう1つは全ての異能スキルを行使できる。

雪緒  :それに対しての対策って・・・。

蒼哉  :近づかないことだね。

雪緒  :倒すべき相手に近づかないなんて出来ないだろう?

ジャック:そうだね。でも、一人だけならケイとやり合うことが可能な人物が居る。

蒼哉  :その人物とは?

ジャック:森戸戒斗。彼が唯一、闘える人物。

雪緒  :その理由は。

ジャック:彼は、ケイと同じく『異能を統べる異能』を持っている。
     
蒼哉  :だから突然、二つの異能を使えるようになったのか。

ジャック:そう、そして今、彼は着実に成長している。
     いずれ『異能を統べる異能』を手にするはずだろう。
     
雪緒  :そうなれば、まだ、私達は負けていない事になる。

ジャック:って思うでしょ?でも、森戸戒斗の覚醒は、ケイの宿願でもある。

蒼哉  :宿願?殺したいんじゃないの?

ジャック:自分に取って代われる人間は恐怖でしかない。普通なら殺したいと思うはず。
     でも、ケイが欲しているのは事実。
     だから、今、1番ケイから遠ざけておくべきなのは森戸戒斗の身柄。
     ケイがどんな行動をするか分からない以上、コレが今できる最大の対策。

雪緒  :まずい・・・。

蒼哉  :なにかあるの?

雪緒  :今日、戒斗君が言っていたんだ。「ウチの班員が、以前取り逃がしたケイってヤツを捕捉した」って。

蒼哉  :今、戒斗はその行動に出ているのか。

雪緒  :おそらくは。

ジャック:彼を手放したくないなら、今すぐ追いかけるべきだよ。
     動ける人員は居るの?

蒼哉  :一応、すぐには出せる。ユキ、三班と四班に連絡を入れてくれる?

雪緒  :わかった。でも人員を送っても、二班の居場所がどこなのかという問題はどうするの?

ジャック:それは、僕が推察しよう。地図を持って来てくれるかな?

雪緒  :分かった。連絡をした後、すぐ持って来る。

(間)

蒼哉  :・・・溶け込むの早いね。

ジャック:コレでも、人付き合いと駆け引きは得意でね。

蒼哉  :是非とも裏切らないで欲しいよ。

ジャック:さぁ?それはどうだろう。

蒼哉  :今のところは、信用しておくよ。

ジャック:うん。そうしておいて。
     それじゃ、ちょっとだけ、良い事を教えてあげる。

蒼哉  :言わないんじゃなかったの?

ジャック:気が変わったんだよ。

蒼哉  :それで?お話の内容は?

ジャック:ケイの目的。これは、あくまで僕の推察だからあんまり信じ込まない方が良いと思う。指針くらいにして。

蒼哉  :分かった。続けて。

ジャック:彼の目的は『世界の変革』

蒼哉  :『変革』だって?

ジャック:『人類の進化』と言ってもいい。世界中にウィジをばらまいて、人間の進化を促す。

蒼哉  :スクラップ・アンド・ビルドってことか。そんな事して何の得が?

ジャック:ウィジを摂取した人間は高い確率で死ぬけど、残り数パーセントは残る。それらをケイは自身の能力でとりまとめるつもりさ。

蒼哉  :全世界の王になるつもりか。若いねぇ。

ジャック:でも、その夢物語を実現できるレベルまで推し進めてる。これを放って置く訳にはいかないよね?

蒼哉  :まぁ、ね。・・・とりあえず、情報ありがとう。

ジャック:いえいえ。とりあえず、森戸戒斗のごたごたが済んだら、改めて教えてあげる。

蒼哉  :すまない。教えてくれてありがとう。ところで、今は休んでいてくれる?ここで。

ジャック:手伝えることがあるなら手伝うけれど?

蒼哉  :君の存在はまだ秘密にしておきたいんだ。ごめんね。

ジャック:なるほど、深いことは聞かないけど、そういうことなら仕方ない。従おう。それじゃね。



雪緒  :次回の闇ツ世界は

ジャック:ルークの攻撃はキングへと迫る

蒼哉  :闇ツ世界 第27話 全ての王

ジャック:フフフ、どうやらこの一手は悪手(あくしゅ)かな?



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