闇ツ世界 第25話 ウォークアウト

♀生駒 穂乃華(イコマ ホノカ):15歳。
               物腰柔らかに喋るが、非道な事を平気でやってのける人物。
               他の人とは違い産まれた時より異能の力を保持していた。(母親が妊娠時に『ウィジ』を服用したため)
               そのため忌み者として扱われてきた。能力は火炎。武器を持たぬ代わりに両手に炎を纏い篭手として扱う。

♀井倉 真矢(イクラ マヤ)  :26歳。
                妖艶な雰囲気を持つ女性。ジャックを厚く慕っている。
                所有スキルは触った人物の記憶を掘り起こし、見る(見せる)事ができる能力。

♂近衛 雄馬(コノエ ユウマ)  :24歳。
               人を小馬鹿にした喋り方をする人間。所謂ピエロ。
               能力は自身の過ごす時間を早め、瞬間移動に近い行動を可能とする「時間操作」と
               自身の身体を瞬間的に固くさせる「身体硬化」の二重能力。

穂乃華:
真矢:
雄馬:
__________________________________________

穂乃華  :ジャック・・・。遅いですね。

真矢   :そうね。これは遅すぎるわ。

穂乃華  :なにか悪い事でもあったのでしょうか。

真矢   :ジャックに限って・・・ねぇ。

穂乃華  :でも、決戦から一日経とうとしてます。

真矢   :また、どこかで悪巧みしてるんじゃないの?


雄馬   :闇ツ世界 第25話 ウォークアウト


穂乃華  :そういえば、真矢さん。貴女はなんでウィジを手にしたんですか?

真矢   :どうして?

穂乃華  :いえ、特に深い意味は。御免なさい。

真矢   :あはは。いいのいいの。教えてあげる。誰にも言っちゃダメよ?

穂乃華  :はい。

真矢   :実を言うとね?自殺しようとしたの。

穂乃華  :自殺ですか。

真矢   :うん。そう、自殺。自分達で立ち上げたハッキング・グループでね、いい仲になった相手が居たの。
      だけど、ちょっとしたトラブルで彼が死んじゃってね。私も死んじゃおうと思って。

穂乃華  :トラブル・・・ですか。

真矢   :トラブルって言ったら聞こえは良いんだけどね。正直なことを言うと私が殺したの。
      些細な事で喧嘩して、揉み合いになるほどにまで発展。偶然、彼を突き飛ばした先が窓のサッシで彼は後頭部を強打。
    
穂乃華  :それで・・・。

真矢   :うん。死んじゃった。それで、怖いのと後悔の念から自殺しようと考えて手にしたのがウィジだった。

穂乃華  :丁度良く手元にあるモノですか?ウィジなんて。

真矢   :麻薬とかやっててね。その類(たぐい)の品として置いてあったの。
      ・・・まさか、こんなふざけた力を手にするとはね。

穂乃華  :・・・・。

真矢   :そんな悲しそうな顔しないでよ。穂乃華ちゃん。申し訳なくなるから。

穂乃華  :でも・・・。

真矢   :過ぎた事よ。もう吹っ切れてる。

穂乃華  :ごめんなさい。

真矢   :いいって言ってるのに。・・・ああ、穂乃華ちゃんと居るとどうしてもおしゃべりが過ぎるわね。

穂乃華  :そうなんですか?

真矢   :そうよ。なんか、妹ができた感じがしてね。ついつい喋っちゃう。

穂乃華  :真矢さん・・・。

真矢   :ゴメンね。迷惑でしょ?こんなのがお姉さんだなんて。

穂乃華  :いえ、迷惑とか・・・ないです。

真矢   :そう。ならいいんだけど。
      ・・・ねぇ。穂乃華ちゃん。貴女、異能を手にして幸せ?

穂乃華  :いえ。正直な所を言えば、私は自分の能力が嫌いです。こんなの、持たなければ良かった。

真矢   :そうね。でも、私よりはいいんじゃない?なんたって人を守れる力だもの。
      私の何て、ただ人を操りやすくするための道具でしかないんだから。

穂乃華  :そうでしょうか。私は、真矢さんの能力は好きですよ?

真矢   :どうして?

穂乃華  :どうしてって言われると返答に困りますが。なぜだか優しい感じがするんです。

真矢   :優しい・・・感じ?

穂乃華  :ジャックや私の能力はどこか冷たい、人を突き放す感覚がするんです。
     でも、真矢さんの能力って、その人自身を受け容れようとする感覚がするんです。

真矢   :人を受け容れる?

穂乃華  :・・・自分で、何を言っているのか解らなくなってきました。

真矢   :ふふふ。ありがとう。嬉しいわ。

穂乃華  :え?

真矢   :ううん。特に意味はないの。そう感じただけ。

穂乃華  :そうですか。

真矢   :なんだか、励まされちゃった気分。しっかりしなくちゃ。

穂乃華  :そうです。まだ、これからなんですから。

雄馬   :ハローハロー。お邪魔しますよー?

真矢   :っ!?誰!?

穂乃華  :敵ですか・・・。

雄馬   :さー。誰でShow!正解者には豪華プレゼントだぜ。

穂乃華  :貴方は今どこに足を踏み入れて居るか分かって居るのですか?

雄馬   :おっと、どこだったっけ?パーティ会場?牢獄?それとも墓場かな?

穂乃華  :消えろ。コッレ・フィアンナ。

真矢   :やった?

雄馬   :ヒュー。危ない危ない。炎の能力者は馬鹿力でこわいねーぇ。

穂乃華  :っ!?

真矢   :いつの間に移動したの!?

雄馬   :ポケットを叩くとビスケットが2つ♪ポケットを叩くとビスケットは♪

穂乃華  :フィアンナ・プーニョ!

雄馬   :ブッブー。ハズレー。ホラホラよーく狙おうねー。

穂乃華  :こいつ・・・。

真矢   :穂乃華ちゃん。落ち着いて!挑発に乗らないで!

穂乃華  :殺してやる。

雄馬   :っ!?あっちちちち。熱風まで操るとか怖い怖い。こんがりも蒸し焼きもお好みでって感じね。

真矢   :穂乃華ちゃん・・・スイッチ入っちゃってる。

雄馬   :と、いうことはこの子を止める事はアンタでは無理って事かー。むしろ、お姉さんの方はどちらかと言えば非戦闘タイプかな?

真矢   :貴方に話す理由は無いわね。

雄馬   :そーだね。言っちゃうのは馬鹿のやることだよねー。

真矢   :目的は何?

穂乃華  :はぁっ!

雄馬   :おっとと。あぶなーい。いや、喋っちゃうワケにはねー。

穂乃華  :だとしたら、無理矢理にでも口を割らせてやる!

雄馬   :へへーん。それは無理なお話かもね。実力的な問題で。

穂乃華  :私を、馬鹿にっ!するな!

雄馬   :馬鹿になんてしてないよー?ただ、可哀想だから力を抜いているだけ。

穂乃華  :貴様っ!

雄馬   :だって、本気出すとさぁ?どーん!

穂乃華  :ぐ・・・はっ!?

真矢   :穂乃華ちゃん!

雄馬   :こーなっちゃいまーす。あっという間に地面と仲良しこよし!

真矢   :な・・・なにが。

雄馬   :知りたい?実を言うとね。あれがあーなってこーなったんだよ。

穂乃華  :貴様・・・。何をした。

雄馬   :おっとー?ぼろぼろだねーぇ。ファイヤーガール。もっと寝てても良いんだよ?

穂乃華  :貴方を排除する!ジャックの為にも!

雄馬   :ジャック?ジャックって・・・なんだっけか?トランプ?

真矢   :知らないわけないでしょう?

雄馬   :あー!思い出した。トローノ・コンクエストのリーダーね。

穂乃華  :しゃくに障る・・・。

雄馬   :彼、死んだよ。

真矢   :っ!?

穂乃華  :死んだ・・・。

雄馬   :あれあれ?知らなかった感じかな?

真矢   :彼がそう簡単に死ぬはず無い!

穂乃華  :戯れ言をっ!

雄馬   :残念だけど本当だよん。今頃どうなってるんだろうね?

穂乃華  :そうか、貴様はケイの差し金かっ!

雄馬   :気付くのおそいよー?それとも、頭に使うエネルギーはぜーんぶ炎に持ってかれてるのかな?

穂乃華  :いい加減飽きてきたわ。その戯れ言。焼き切ってやる。・・・真矢さん。退いていて下さい。巻き込みかねません。

真矢   :でもっ!それやったらあなたはっ!

穂乃華  :フィアンナ・・・オンダ!

雄馬   :あー。その攻撃はあれだな、泰介(たいすけ)にやったやつか。

穂乃華  :舞え。焔!

雄馬   :これはすっごいな。でも割と楽に躱せる。よっと!

真矢   :時間は・・・掛けられない。ならっ!

雄馬   :ん?あの女なにかするつもりか?

穂乃華  :なにを余所見してる!

雄馬   :はっはーん。余所見くらいできるってことで。

穂乃華  :じゃあ、余所見をさせないようにしてやる!

雄馬   :おっとと。これはきっついからそろそろ片付けよう。

穂乃華  :やれるもんならやってみ・・・

雄馬   :グランツ!

穂乃華  :っ!?また消えっ!?

雄馬   :さー。俺は一体どこにいるかなー?

穂乃華  :くそっ・・・。

穂乃華(M):この場所には絶対安全圏は無いはず。・・・はっ!安全圏!

穂乃華  :見つけた!アンタの居場所!私の背後だなっ!?

雄馬   :おっとと・・・ばれたかっ!

穂乃華  :つかまえたっ!焔よ!呑み込め!

雄馬   :はっはーん。だが甘いよっ!

穂乃華  :ぐあぁぁっっ!

雄馬   :おーう。痛そうだ。泣いちゃうかなー?

穂乃華  :ぐっ・・・あ・・・。

真矢   :穂乃華ちゃん!貴様っ!

雄馬   :拳銃ねーぇ。そんなもん・・・ほれっと!

穂乃華  :なっ!?

雄馬   :無効化なんて〜すぐ出来る〜♪
      銃の弱点押さえてばらばらに分解しちゃえば怖くないもんね。
      さて、そろそろおしまいにしようかなー。

真矢   :油断してると、足元をすくわれるのよ?グレイ・ディスクライン。

雄馬   :づっ!?・・・なんだよ・・・。これっ!

真矢   :どう?記憶を蝕まれる感覚は。私に触れたらもっともっと記憶がなくなっていくわ。

雄馬   :くそっ!

真矢   :ふふ、焦ってるわね?

雄馬   :・・・ハハッ!記憶を少々削って何になるのさ!
      何をし始めたかと思ったらばかばかしいね。

真矢   :本当にそう?なら試しに1発。技でも何かやって見せなさいな。

雄馬   :いうねぇ。それじゃあ、一気にケリつけちゃってっ!?・・・・あれ?

真矢   :どうしたの?ぼけっとして。

雄馬   :異能が使えない?

真矢   :経験も記憶の1つ。どうやって異能を行使していたかを忘れたら、使えるモノも使えないでしょう?

雄馬   :はっ・・・はははは。ふざけてるねぇ。

真矢   :なんにせよこれで形勢逆転ね。

雄馬   :ふざけてるのは俺だけで十分!

真矢   :何をする気なのかしら?異能も使えないのに。

雄馬   :誰が、能力は1つだけって言ったかな〜?リュッケンシュルト!

真矢   :それがなに?何も変わってないじゃない。

雄馬   :さあ、撃ってみなよ。殺せるモノならね。

真矢   :じゃあ、そうさせてもらうわ。サヨナラ。ピエロさん。

雄馬   :それはどうかな?

穂乃華(N):真矢が銃弾を放つ。その銃弾は雄馬の額を穿つはずだった。
      雄馬の皮膚に触れた瞬間、まるで金属に当たったかのように銃弾は跳ね返った。

真矢   :なっ!?

雄馬   :硬化の能力はこういうことが出来て便利だよね。後さ、ふんっ!

真矢   :ぐ・・・はっ!?

雄馬   :固くなった手で殴れば人くらい簡単に壊せるしね?

穂乃華  :真矢さんっ!

真矢   :肩が・・・外れたっ

雄馬   :おーやおや、痛そう。もうちょっと手加減するべきだよねぇ。
      ・・・さて、茶番も飽きたかな?終わろう。
      行こうか。穂乃華ちゃん。

真矢   :何をするつもりっ!?

雄馬   :俺の仕事のことかな?言っちゃうとさ。この子を連れて帰ること。
      重要な鍵なんだってさー。

真矢   :穂乃華ちゃんを?

雄馬   :そう、だから正直さ。アンタには興味無いんだよねー。というわけでさっさと連れて帰ろっと。・・・うん?

真矢   :それは・・・させない!

雄馬   :人に触れなきゃなんにも出来ないアンタに何が出来る?

真矢   :確かに。私は何も出来ない。・・・だけど!この身体張って守ることくらい。足掻くことくらいできる!

雄馬   :あー。そういうタイプなのか。アンタ。

穂乃華  :真矢・・・さん。

真矢   :私を殺すなり、犯すなりなんだってしなさい!でも、穂乃華ちゃんは絶対に渡さない!

雄馬   :なんでそこまで熱くなるかなー。見逃してあげようかと思ってたのにさ。

真矢   :情けなんて・・・いらないっ!

雄馬   :その目!大ッ嫌いなんだよ。あー、やってらんね。死んどけ。グランツ・アングリフ!

穂乃華  :真矢・・・さん・・・。真矢さん!

雄馬   :あーっははははは!綺麗に咲いた綺麗に咲いた!でも、やり過ぎたかな?頭吹っ飛んじゃった。

穂乃華  :貴様っ・・・よくもっ!

雄馬   :はいはい。粋がるのはそこまで。さーて、それじゃ行こうか。穂乃華ちゃん。とりあえず、気絶しといて、ねっ!

穂乃華  :ぐっ・・・あ・・・。

穂乃華(M):遠のく意識の中。自分の身体が持ち上げられる感覚に包まれる。
      真矢さんの死。目の前で起こった惨劇を否定するあまり、私は安易に黒の世界に落ちていった。


雄馬   :次回の闇ツ世界は

穂乃華  :失意の元からの復帰

雄馬   :彼は何を手にするか。

真矢   :闇ツ世界 第二十六話 ニューゲーム
      守れなかった・・・。穂乃華ちゃん・・・ごめんね?



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