悪夢、または地獄のような

♂室井 朝永(ムロイ トモナガ):16歳。
 二番隊隊員。
 熱血漢で猪突猛進。プライドばかり高い残念な子。
               頭で考えるより、身体が動くタイプ。
               異能は磁力。戒斗とは違い電気は使えない(異能のレベルが低いため)。
               戦闘スタイルは、メリケンサックを用いた超接近戦。
 
♀卜部 千里(ウラベ チサト):17歳。戒斗と馨によって暴走しているところを『保護』された異能者。
              重量移動の能力を持つ。ほがらかであるが、すこし抜けている。
              いわゆる天然。頑張りが空廻ってドジするタイプ。

♀伊藤 常葉(イトウ トキワ):20代後半。「クガタチ」三班隊長。冷静沈着な性格。クガタチの戦闘班の中でも頭脳派。
              でも戦闘も出来るオールマイティ。武器は大槌。能力は物質振動。

♂ジャック:見た目20歳前後。
      不気味な雰囲気を持つ人物。本名不詳。見た目は人付き合い良さげな人物だが、その内面は冷徹が服を着たよう。
      仲間であろうと切り捨てる時は切り捨てる。能力は遮断。
      失われた自己の過去に対する執着がある。

♂ケイ:40代後半から50代。人よさげだが、実は腹黒な狸親父。
    国を代表する製薬会社の社長でもある。
    異能は『刷り込み』幻覚を見せることも可能。
    そして、人を従わせることも可能。しかし、服従させられるのは1人のみ。
    自身の視界から外れると服従させることはできない・・・はずだった。

朝永:
千里:
常葉:
ジャック:
ケイ:
____________________________________________________

千里(M):それは突然に起こった。揺れる建物、混乱のるつぼと化す室内。

朝永(M):それは突然すぎた。そして、破滅は開始された。



常葉  :闇ツ世界 第二十三話 悪夢、または地獄のような



朝永  :動けるヤツは、負傷者の搬送!建物の損傷確認!

千里  :朝永さん!大丈夫ですか!?

朝永  :おう、大丈夫だ。千里。お前どこにいたんだ?

千里  :第三ブロックで統制を。

朝永  :こっちに来たッてことは何とかなったんだな?というか、肝心な時に隊長達はどこいった!?・・・あっ!おいそこ!崩れるぞ!すぐに離れろ!

千里  :分かりません!この混乱でどこに誰が居るのか全く。

朝永  :くっそ。大変なときに。つか、この程度で混乱するとかコレだからヒラ隊員は使えねぇんだ・・・。
     おい、そこのお前!ピーピー泣く余裕があったら少しでも仲間を助けにいきやがれ!

千里  :何が起こっているんでしょう?

朝永  :わからねぇ。分かってることはここが攻撃されてるって事だ。

千里  :では、敵性勢力の鎮圧の為に出撃可能人員を集めます!

朝永  :いや、その前にこの混乱を纏める!今出て行っても行動がばらばらで被害が増えるだけだ。

千里  :・・・そうですね。分かりました!

朝永  :クソ野郎。なんだよ、このカオスは!

千里  :まるで悪夢です・・・。

朝永  :そんなん甘ッちょろいっての。それ以上だ。

常葉  :あなた達は・・・確か二班の。

千里  :常葉隊長!

常葉  :よかった、ここはまだ大丈夫なんですね。・・・今、この場を指揮しているのは?

朝永  :俺です!・・・そこのひょろいの!確かお前は千里眼使えたよな!?第二ブロックの損害状況を見てこい!

常葉  :ここに居る中に戦闘可能な人員は居るの?

朝永  :無理です。ほとんどが瓦礫で負傷して、後は救護のバックアップに向かってます。

千里  :第三ブロックは倒壊。現在、封鎖して居ます。死亡者はゼロ。負傷者は多数出ていて、まだ、被害が軽微な第五ブロックに移送しました。

常葉  :わかりました。では、ここをあなた達二人に任せます。・・・負傷者の介抱は?

千里  :雪緒(ゆきお)さんが医療班を率いて第五ブロックで医療活動中です。

常葉  :わかりました。行動可能な人員も第五ブロックへ。そこで戦線を復帰させます。

朝永  :隊長も第五ブロックへ?

常葉  :ええ、全指揮権は、現在私にありますから。

千里  :全指揮権って・・・室長は?

常葉  :室長は現在。この建物内に居ません。

朝永  :はぁ!?どういう事だよ!

常葉  :彼は現在。戒斗(かいと)隊長、馨(かおり)副隊長。沙耶(さや)隊長を連れ、出撃しています。

千里  :隊長達だけですか!?

朝永  :無理があるんじゃねぇか!?この被害、戦争してるレベルだぞ!?

常葉  :私達は普通の戦争で、たった一人でも生き残れるレベルの人間です。そこいらの人間と戦って負けることはありません。

朝永  :とはいうけどよ。この被害と混乱だ!異能者がぜってぇ混ざってる!それをたった四人で片付けるって!

常葉  :四人で十分なんです。むしろ、これ以上増えたら現在の戦況では危険が増すだけです。

朝永  :わかんねぇよ!オレらも救援に向かった方が良いに決まってる!

千里  :・・・分かりました!次の行動の指揮を!

朝永  :千里!?

常葉  :では、卜部(うらべ)さんには第一ブロックの損害状況の把握と人員統制をお願いします。全て第五ブロックに集めて下さい。

朝永  :おいおい。マジかよ。

常葉  :ざっとですが、現在の状況を伝えます。この建物は遠距離からの異能砲撃、それと、異能者と一般兵卒による攻撃に遭っています。
     どうやら、防衛システムは事前にハッキングされていたようで、機能せず、今の混乱を引き起こす結果になりました。

千里  :それを取り返す為に隊長達は出ているんですね?

常葉  :そうなります。今、我々が出来るのは、いち早い混乱の収拾です。

千里  :朝永さん。ここは私達で復旧させるしかないですよ!

朝永  :くっそ。・・・常葉隊長!本当に大丈夫なんだよな!?

常葉  :もちろんです。蒼哉(そうや)室長達を信じましょう。

朝永  :了解だ。ここは俺に任せてださい。何とか統制してみる!

千里  :気を付けて下さいね!

朝永  :お前もな!第一ブロックは、良い感じに損害がでかい。

常葉  :では、後ほど合流しましょう。二人とも、無事で。連絡は無線の方に。

千里  :はい!

朝永  :もちろんっす!隊長もお気を付けて!

常葉  :ええ。分かって居ます。



ケイ  :戦況はどうだね?ジャック。

ジャック:良い塩梅(あんばい)に釣れてくれました。彼ら。

ケイ  :ここから見えるかね?

ジャック:ええ、あの一角を押し下げているのが室長と第二班の隊長。そして、こっちが第四班の隊長と二班の副隊長。

ケイ  :他の班員は見あたらないな。

ジャック:建物内で混乱を統制しているんだと思いますよ?

ケイ  :ほう。なかなかに賢い。この状況で戦力を固め過ぎるのは失策だ。

ジャック:貴方の方はどうなんで?

ケイ  :ああ、もう行動開始している。録画も全部出来ている。

ジャック:明日の朝は騒然とするでしょうね?

ケイ  :ああ、もちろんだ。ここから革命の本核(ほんかく)は稼働する。

ジャック:革命はそうですがね。それで?進化というのは?

ケイ  :なんのことだね?

ジャック:貴方が何か企んでいるのは知っています。

ケイ  :また、カマをかけているのか?

ジャック:いいえ。今回は確信です。それで、進化とは?

ケイ  :簡単に言えばウィジによる人間の進化だ。

ジャック:僕たちを駒として扱うわけですね。

ケイ  :駒とは失礼な。そんなことを思っているはずが無かろう?

ジャック:では、さっきから僕に銃口を向けている人間が居るのは勘違いなのですかね?

ケイ  :・・・・。あなどれんな。ジャック。

ジャック:それは、こちらの台詞ですよ。ケイ。

ケイ  :では・・・ここらでケリを付けるとするかねっ!?

ジャック:ディスペーア!

ケイ  :ぐ・・・あ・・・。

ジャック:貴方が引き金を引くよりも、僕の異能が早いことくらい分かりませんか?

ケイ  :何事にも、チャレンジしなくては納得しないタチでな。

ジャック:それが、あだになりましたね。愚かな事だ。

ケイ  :いいのか?余裕を見せて。私の洗脳は、私が意識をとどめる限り続くのだぞ?

ジャック:ええ。ここで、洗脳を解いてもらうわけにはいきませんから。まだまだ、動いてもらいますよ?

ケイ  :余裕だな。私を知りもしない癖に。

ジャック:もちろんしりません。ですが、何事も、知らずとも察することは出来ます。だから、その計算上で私は動きます。

ケイ  :では、その計算の中に、私が偽物であるという可能性は入れていたかね?

ジャック:もちろんです。だから・・・ディスペーア!

ケイ  :ちっ。・・・なるほどなるほど。死角にも異能のトラップを仕掛けておくとは。良い頭だな。ジャック。

ジャック:貴方とは経験が違います。色々な意味でね?

ケイ  :ふふふ・・・はははははは!
     実にッ!実に興味深い!ジャック。やはり貴様は良いモノだ!ここまで見ていた甲斐があった!

ジャック:何を言っているんです?恐怖で錯乱しましたか?

ケイ  :至って平然としているさ。ジャック。むしろ冴え渡りすぎて困っているよ。

ジャック:では、いい加減覚悟をきめたらどうですか?

ケイ  :覚悟?それは、この国を率いるという覚悟かね?

ジャック:死ぬ覚悟に決まっている!ディスペーア!

ケイ  :『止まれ』ジャック。

ジャック:身体がっ!?・・・洗脳か・・・。

ケイ  :何を言っている。自分の意志はしっかりとしているじゃないか。これのどこが洗脳というのかね?

ジャック:しかし、どんな異能を使おうと、僕の異能の前ではっ!

ケイ  :足掻くな足掻くな。どう足掻こうが、犬は主人の言う事を聞くモノだ。ジャック。『伏せ』

ジャック:ぐっ!?

ケイ  :どうだね?自分の意志に反して身体は私に忠実に従う。殺す相手に頭を下げている気持ちはどうだね?

ジャック:僕に・・・なにをしたっ!?

ケイ  :なにもしてはおらんよ?ジャック。私は何もしていない。・・・私はただ、命令しただけだ。

ジャック:命令?

ケイ  :君の頭でも、理解出来ないことはあるようだな。教えてやろう。ジャック。私の持つ『真実』を。

ジャック:真実・・・?

ケイ  :貴様は作られた人間だ。もっといえば私の遺伝子から作られた、ただのスペアだ。『プラン・ジャック』の完成品。

ジャック:作られた・・・人間。

ケイ  :そうだ。記憶の欠落がどうのといっていたな?ジャック。それはもちろんのことだ。
     なんせ、私が貴様に植え付けた記憶は7歳まで。培養装置から貴様が生まれ落ちたのは18歳の年齢。
     欠落していて当たり前だ。

ジャック:貴様・・・。もてあそんだのか。僕を!

ケイ  :もちろん。道具だからな。良い様に使わずしてどうする?
     そして、良い事を教えてやろう。ジャック。貴様が愛情を持って手元に置いていた娘子(むすめご)は、言うなれば貴様の妹だ。

ジャック:穂乃華(ほのか)・・・が?

ケイ  :そう。同じだ、私の遺伝子から作られた人間。
     実験名としては『ウィジの服用行為が無い場合における人体影響実験』といったところか?
     略称して『プラン・クィーン』と呼んでいたがな。それのプロトタイプであり、成功例だ。

ジャック:貴様、どこまで外道なんだっ!

ケイ  :研究者として当然のことをしたまでだよ。

ジャック:絶対に殺す!

ケイ  :出来るモノならやってみるかね?どうあがこうが王には刃向かえないんだよ。ジャック。

ジャック:成り上がったつもりか!

ケイ  :成り上がりだと?笑わせる。私は元来からの王だぞ?ウィジに選ばれた、ウィジを統べる王だ!

ジャック:何を・・・言っている。

ケイ  :まだ、わからんか?ジャック。では、聞こう。ウィジはどうして生まれた?

ジャック:とある製薬会社の新薬開発事故・・・。

ケイ  :では、その事故の後、開発中止になった薬がなぜこのように社会に蔓延している?

ジャック:・・・まさか。

ケイ  :そのまさかだ。ウィジは私が作った。第一被験者も私だ。
     私は、『異能を統治する異能』を手にし、国を代表する製薬会社を手にした。
     そこで作り出したウィジを蔓延させる。
     そして、これからは。この私がこの国を、世界を変える!

ジャック:ふざけるな。戯れ言を並べるのもいい加減に。

ケイ  :ふざけてなど居ない。新たに進化する人間をその目で見ることができなくて残念だったな。ジャック。
     君は廃品だ。私の台本に、君の名が並ぶことはもう無いよ。さあ、ジャック『立ち上がれ』そして、そこの崖まで『歩け』。

ジャック:く・・・そ・・・ッ。僕は、こんな所で・・・ッ!

ケイ  :さて、尊い犠牲を元に、この世界を変えることを約束しよう。ジャック。さぁ・・・『身を投げろ』。

ジャック:あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!

ケイ  :ははははははっ!これで、障害は無くなる!進化が始まる!
     待って居ろ。神を越え、全てを手にする。この『病みつ世界』に終止符を打つのだ!


常葉  :次回の闇ツ世界は。

朝永  :大いなる失策。

千里  :危機は続く。

ジャック:闇ツ世界 第二十四話 退場

ケイ  :さらばだ。ジャック。いい駒だったよ。



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