闇ツ世界 第二十一話 誇り、もしくは変化の時

♂森戸 戒斗(モリト カイト):17歳。
              政府特務機関「クガタチ」の中でも十指に入るエリートメンバー。
              何事にも柔軟に対応でき、且つ常に熱意をもっている性格。
              電気や磁力を扱う事のできる異能者。武器は刀。銘は『雷斬(らいきり)』

♀菱山 馨(ヒシヤマ カオリ):18歳。
              政府特務機関「クガタチ」のエリートメンバーであり、戒斗のパートナー。
              快活なキャラクターで変人が集まるエリートメンバーの中では常識派。
              水を扱う事のできる異能者。武器は槍。銘は『海割(うみわり)』

♀伊藤 常葉(イトウ トキワ):20代後半。「クガタチ」三班隊長。冷静沈着な性格。
              クガタチの戦闘班の中でも頭脳派。でも戦闘も出来るオールマイティ。武器は大槌。能力は物質振動。

♂相田 蒼哉(アイダ ソウヤ):25歳。
              政府特務機関「クガタチ」のトップ。
              切れ者で若くして政府機関の責任者となっている。
              戒斗を組織に引き入れた張本人。
              現在では事務職に力を注いでいるが、もともとは前線で闘う武闘派。
              何を考えているのか分からないとらえどころのない人物。
              良く言えばひょうひょうとしたキャラクター。悪く言えば不真面目。
              風を扱う異能者。武器は鉄扇。


♂十間 雪緒(トオマ ユキオ):25歳。
               政府機関『クガタチ』の救護班のリーダー。小馬鹿したようなダークジョークがたまに飛び出るが、それ以外は物腰柔らかな好青年。
               蒼哉とは旧知の仲で、二人だけの時は砕けた会話をする程。
               能力は触れたモノの異常を直す『回復』能力。

戒斗:
蒼哉:
雪緒:
馨 :
常葉:
_______________________________________________________________


雪緒:あれ?戒斗君。こんな所でどうしたの?

戒斗:げ、雪緒さん・・・。

雪緒:『げ』ってなんだい。傷つくよ。

戒斗:タイミングわるいなー

雪緒:なんだい?何かから逃げてるの?

戒斗:いや、それは・・・

馨 :あー!ここに居た!戒斗!勝手にどこか行ったらだめじゃない!

雪緒:あ、なるほど。特訓から逃げてきたのか。

戒斗:少し休ませてくれって!

馨 :ダメだって!私だって病み上がりの身体を押して協力してるんだから!

戒斗:とはいえ、やりすぎだろう!あれは!

雪緒:なにしてたの?

馨 :普通の特訓ですよ。戦闘訓練。

戒斗:沙耶(さや)と馨のコンビ対俺一人って無理があるだろ!
   しかも、氷か水の異能しか使っちゃいけないなんて制限付きなんてよ!

雪緒:へー。頑張ってくださいね。戒斗隊長。

戒斗:誰か、助けてくれよ・・・。

馨 :早く習得しなきゃいけないんだから!さあ、やるよ!沙耶隊長も待ってるんだし!

雪緒:ん?馨さん。その腕のアザ、どうしました?

馨 :え?ああ、これですか。多分戦闘中にぶつけたのかと。

雪緒:そうですか。一応、治癒させておきましょう。

馨 :あ、ありがとうございます。

戒斗:あーっと、ちょっと俺もお腹が痛くなってきたかなー

雪緒:戒斗隊長のは仮病ですね。

戒斗:ちっ、ばれたか。

馨 :サボらせないんだからね!

雪緒:・・・ん?馨さん。ちょっと質問いいですか?

馨 :はい?なんでしょう?

雪緒:貴女の異能障害ってなんでしたか?

馨 :私ですか?

戒斗:体内水分の異常減少だったよな。血液凝固が進みやすいんだよな。

馨 :そうね。・・・どうかしましたか?雪緒さん。

雪緒:これは、異能障害によるアザですね。ちょっと医務室まで来て貰えますか?
   戒斗隊長も。

戒斗:お、おう。了解。

馨 :なにか、悪いんですか?

雪緒:そう言う訳じゃないんです。ただ、これは今まで私が見たモノとは違うので。

戒斗:おいおい。マジかよ。

馨 :見たモノと違うってどういう事ですか?

雪緒:大概、異能障害でできるアザは形が決まっています。
   ホクロのようになるタイプや、湿疹のようになるタイプが良い例です。
   しかし、これは打撲症の様になっている。・・・興味深い。

戒斗:おいおい。ウチの班員を実験体みたいに扱うなよ?

雪緒:しませんよ。ちょっと血液検査をする程度です。後は少し質問を。

馨 :わ、わかりました。

戒斗:まぁ、俺がついといてやっから。

馨 :なんだろう・・・。凄く・・・。安心できない。

雪緒:たしかに。

戒斗:なんか毎回、俺、けなされてる気がする・・・。

雪緒:そういう星の下に生まれたんでしょう。

戒斗:はぁ・・・毒舌すぎだろ・・・。

雪緒:これは私の性格ですから。さぁ、こちらに。

(間)

戒斗:で、検査結果はどうなんだよ。

雪緒:特に異常なし。今回の異能障害も浅いものだから、水分補給を欠かさなければ大丈夫。

戒斗:30分も検査して結局異常ナシか。

雪緒:異常が見つかるよりは良いでしょう?

戒斗:そりゃ、そうだけどよ。

馨 :アザの形状がどうのっていうのは・・・。

雪緒:うーん。異能や、そもそも異能の発端となるウィジっていうものがどういうものか、そもそも未発見な部分が多い存在だからね。
   これがどういう結果になるのかは分からない。今後、ちょくちょく医務室に来てくれない?馨さん。

馨 :わかりました。

戒斗:ふぅ・・・。まぁ、何事もなかったら良いや。

雪緒:ごめんね。ビックリさせて。そうそう、戒斗隊長。これ、渡しておくね。

戒斗:これは?

雪緒:異能障害の抑制剤ですよ。いつものモノに氷の異能障害を抑える成分を追加しました。

戒斗:了解。ありがたく頂いとく。

雪緒:プロトタイプだから、ちょっと副作用がきついかもしれないけど。

戒斗:それくらいは大丈夫。いろいろ慣れた。

雪緒:なら良かった。異能の順応性はどう?

馨 :水の扱いには慣れてきてます。問題は・・・

雪緒:結合か。氷の異能に慣れるのは労力使うみたいだからね。

戒斗:頑張って見るさ。

雪緒:そうそう、その意気。それじゃあ、訓練頑張って来てね。

戒斗:あ、訓練の存在忘れてた。

馨 :かーいーとぉー?逃がさないから。絶対に!

戒斗:おうっ!?ちょっと!?馨さん!?肩を掴む力が酷く強いんですが!?

雪緒:けが人増やさないでねー。

馨 :わかってますよー。さー、いこうかー!

戒斗:やーめーてー!


馨 :闇ツ世界 第二十一話 誇り、もしくは変化の時


常葉:室長。常葉です。よろしいでしょうか。

蒼哉:どうぞー。

常葉:失礼します。室長。お願いがあるのですが。

蒼哉:どうしたの?改まって。

常葉:私を、戦列から外していただけませんか?

蒼哉:ふーん。どうして?

常葉:異能障害が、もう、抑えきれなくなってきています。
   回数も頻発し、ろくに戦闘に加わる事もままなりません。
   ですから・・・。

蒼哉:だめ。

常葉:っ!?室長!

蒼哉:駄目なモノはだめー。

常葉:私に、惨めな姿をさらせと言うのですか?

蒼哉:そうじゃないよ。常葉君。本当にみんなのこと考えての判断なの?それ。

常葉:もちろんです。ろくに闘えぬ弱者が戦場に立つことは許されません。
   今の私は、その弱者です。皆の足を引っ張るわけには。

蒼哉:あー。そう言う考えね。なるほどなるほど。
   ・・・甘いね。常葉。

常葉:な・・・っ!?何するんですか!

蒼哉:なにって?キスじゃない。

常葉:真面目な話をしているんですよ!?

蒼哉:・・・ただ、闘うだけが隊長の役目じゃない。

常葉:はい!?

蒼哉:部下の士気を高めて、作戦を考えて、指示して、勝つ。
   これが、隊長の役割。

常葉:だから、それができないと・・・。

蒼哉:君が今やめたら、全体の士気が下がるって事知ってる?

常葉:それは・・・。

蒼哉:隊長の退官認定には、室長の判断と、2名以上の他班隊長の承認が居る。
   つまり、このお話は僕と君だけの内緒話にはできないんだよ?
   そうなると何が起こるか。人の口に戸は立てられない。
   あっという間にこのお話はクガタチ全てにまわり、班入りしてない戦闘隊にも伝わる。
   そのまま、テロリスト達との戦闘に入ってみなよ。何が起こると思う?
   意欲差による戦意喪失、死亡隊員の増加。・・・我々の敗北。

常葉:私を・・・脅しているんですか?

蒼哉:まさか。そんなつもりはないよ。僕はただ、現実を見せているだけ。君にね。

常葉:室長。ですが・・・。

蒼哉:やめよう。常葉。二人きりの場だ。くだらない敬(うやま)いなど忘れてしまおう。

常葉:ですから、私は真面目に・・・きゃっ!?(ト:蒼哉、常葉を押し倒す)

蒼哉:怖いのは分かる。常葉。だけど、戦わないと生き残れない。
   存在が許されないんだ。僕たちは。

常葉:そんなになってまで。国の犬になってまでする事なの?

蒼哉:ああ、そうだ。でも、今だけだ。
   いずれ、僕がこの国を変えてみせる。内側から。

常葉:・・・使い捨てられるのがオチよ。蒼哉。

蒼哉:できないさ。使い捨てになんか。今、この国のお偉いさんは僕の頭を頼ってる。
   今回の事だってそうだ。テロ収束に対する全てを僕に丸投げして、解決に当たらせてる。
   自分達の無能さに気付いているんだ!
   僕は、そんなヤツらにただ良い様に使われるつもりはない。絶対にのし上がる。
   そして僕ら、存在しないとされた、この世から存在を抹消されてしまった異能者達の市民権を取り戻す!

常葉:蒼哉・・・。貴方・・・。

蒼哉:そのためにも。常葉。君の力は必要なんだ。
   戦わなくて良い。重い槌(つち)なんか振るわなくて良い。
   ただ、僕の為に居てくれないか。

常葉:・・・弱いですね。

蒼哉:そう、弱い人間だよ・・・僕は。

常葉:蒼哉。いつからでしたっけ?その話を私にしてくれるようになったのは。

蒼哉:え?

常葉:自分の野望の話ですよ。確か、蒼哉が室長についた時だから・・・。

蒼哉:3年前くらいだ。

常葉:そう。3年前。

蒼哉:嫌な思い出しかない。僕にとっては。

常葉:そうですね。そもそも、ここに居る人間。誰しも良い思い出を持っている者は居ませんよ。
   だからこそ、貴方は頑張ってるんでしょう?みんなが笑えるように。

蒼哉:そう。そうだ。・・・だけど。

常葉:怖いですか?

蒼哉:何も言えないよ。

常葉:仕方ないですね。・・・貴方には負けます。

蒼哉:常葉・・・。

常葉:できる事だけ、やりますよ。蒼哉。

蒼哉:ゴメン。常葉。

常葉:良いんです。・・・時に、蒼哉。

蒼哉:なに?

常葉:そろそろ、どいてくれますか?痛いの。

蒼哉:ああ、ごめん。

常葉:蒼哉。今日はまだ寝ないの?

蒼哉:寝られなくてね。一緒に寝てくれる?

常葉:いつもだったら断るとこだけど。良いですよ。今日だけは。

蒼哉:ああ、ちょっと待って。このメールだけ送るから。先に行ってて。

常葉:わかった。

蒼哉:はぁ・・・。久しぶりかも。こうやって横になるの。

常葉:え?じゃあ、いつもどこで寝てるの?

蒼哉:気付いたら机に突っ伏してる。

常葉:腰。悪くしますよ?

蒼哉:分かってるよ。(ト、蒼哉。常葉に口づける)

常葉:ん・・・。ねぇ、蒼哉。

蒼哉:なに?

常葉:こういう事・・・んっ・・・嫌いじゃなかった?

蒼哉:そうだっけ?忘れたよ。

常葉:都合のいい頭・・・あっ。

蒼哉:クスッ。可愛いね。常葉。

常葉:なに・・をっ。

蒼哉:君は、僕のモノだ。

常葉:・・・んっ。ダメ、蒼哉。

蒼哉:何がダメ?

常葉:ちょっと・・・あっ・・・

蒼哉:フッ、相変わらず、首もと弱いんだね。

常葉:誰の・・所為ですか・・・ッ。

蒼哉:嫌?

常葉:そうじゃなくて・・・

蒼哉:じゃあなに?言わないと解らないよ。

常葉:明日。会議でしょう?

蒼哉:そうだっけ?

常葉:そうですよ。

蒼哉:いいよ。サボれば。

常葉:そう言うわけにはいかない。

蒼哉:いてっ・・・。

常葉:寝ましょう。ホントに。

蒼哉:つまんないな。

常葉:当たり前です。仕事が優先。

蒼哉:埋め合わせしてくれる?

常葉:しないといけないんでしょ?

蒼哉:うん。

常葉:わかった。それじゃ、お休み蒼哉。

蒼哉:お休み。






雪緒:次回の闇ツ世界は

常葉:一手を打つには二手を読め

馨 :では、その手がかき乱されたなら?

戒斗:闇ツ世界 第二十二話 裏切り。それから・・・。

蒼哉:人は人を裏切る。その結果は?



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