闇ツ世界 第二十話 会合と引き金と

♂ケイ:40代後半から50代。人よさげだが、実は腹黒な狸親父。
    国を代表する製薬会社の社長でもある。
    異能は『刷り込み』幻覚を見せることも可能。
    そして、人を従わせることも可能。しかし、服従させられるのは1人のみ。
    自身の視界から外れると服従させることはできない。

♂奥麻泰介(オクマ タイスケ):20代後半から30代前半。人垂らしな喋り方をする人間。とある理念から行動を行う人物。
               異能は空気などを圧縮して放つ『放出』の能力。

♂奥野 鷹平(オクノ タカヒラ):30代後半。筋骨隆々な体格。これと決めたら曲げない固い信念を持つ人物。
               『高速治癒』の異能と、持ち前の筋肉を駆使し、相手の反撃を受け付けない突貫するワンマンな戦闘スタイル。

♂黒井 尚(クロイ ナオ):25歳
            連続通り魔として世間を騒がせた人物。そして、異能者。 
            トローノ・コンクエストの中でもダントツのサイコパス。
            人を傷つけたいという衝動が彼の行動理念。
            能力は圧縮した空気を相手にぶつける「波動」の能力。

♂ケイ
♂泰介
♂鷹平
♂尚



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ケイ:良く来たな。二人とも。

泰介:ま、リーダーのお呼びとあらば出向かない訳にはいかないでしょ。

鷹平:ついさっきまで女に現を抜かしていたお前が言うか?

泰介:別にこっちをおろそかにするつもりは無いって。仕事はしっかりとこなすのが俺の流儀だからな。

ケイ:支障がでなければ何も言わぬさ。私自身はな。

鷹平:主(あるじ)は良くとも、我はそれで良しとは思わぬ。

泰介:リーダーが良いって言ってんだからいいだろ?

ケイ:くっくっく・・・。本当にそりが合わんな、君らは。そんな人間がどうして思いを同じにするかね?

鷹平:我は何度も告げたとおり。この世に生きとし生けるもの全てへの義を通すために。

泰介:うーん。難しいことは考えないんだけどね。とりあえず、この世界は病気にかかってる。この病気は根本から直さなきゃね?
   しかも、それが終わった後には世界の進化が見られるんでしょ?こんな愉しそうな事は無い。その手伝いならなんでもやるよ。

ケイ:ふむ。すばらしい。私も、君ら二人の思いに同感する。そして、世界の進化は私の心からの願いだ。
   このように付き従って貰えるとは、私も捨てたモノではないな。

鷹平:ジャックなどと名乗っていた人物と、先日話されたようだが、あれはなんなのです?

ケイ:ああ、あれか。アレは一種のツールだ。我々の姿を陰に隠す存在。

泰介:ピエロってとこかい?

ケイ:ピエロ・・・どうだろうな。ピエロよりタチは悪いかもしれんな。

鷹平:厄介な存在ならば邪魔になる前に排除をするが上策。主、早々に私に殺害の指示を。

泰介:おうおう、やる気だねぇ。

ケイ:待て。鷹平。ヤツは、まだ消えてもらっては困る存在なのだよ。もう少し後だ。

鷹平:ふむ。そう仰るのならば。

泰介:随分余裕だね。

ケイ:余裕ではないさ。余裕など、見せていては付け入られる。隙は見せず。しかし、ゆったりと構えるのだ。

泰介:年の功ってヤツですかねぇ?

ケイ:家訓だよ。優雅にされど凛と在れ。なかなかに的を得ているだろう?

鷹平:立派な志でありますな。

泰介:俺は堅っ苦しいのは嫌いだ。自由が一番!

ケイ:そうだろうな。お前は

鷹平:律する心を知らぬ者は死。あるのみ。

泰介:ハハッ。残念だけど俺は例外かもな。あんな地獄から生きて帰ってきたんだし?

鷹平:ふん。驕りは・・・。

泰介:身を滅ぼすんだろ。耳にたこができるっての。そのガチガチの考え方、やめにしたらどうよ。


尚:闇ツ世界 第二十話 会合と引き金と


ケイ:そろそろ、いいか?思想論を語り合う前に本題へ入りたい。

泰介:あいよ。

鷹平:はっ。失礼。

ケイ:まずは話を聞こう。泰介。クガタチの候補生とやり合って見た感想はどうだ?

泰介:ああ、それは一言で済むぜ?中の下。コレが感想。

ケイ:中の下。お前にしては高く見積もったな。

泰介:そうか?そのつもりはないんだがなぁ。

鷹平:とはいえ、自分よりは下なのだな。

泰介:そうだなぁ。一応見た感じをそのまま言っただけなんだがな?
   太刀筋や順応性はいいんだが、今一歩、反応が遅い。
   というか、殺してやるって気合いがない。
   あ、そうそう。リーダーよぉ。ちょっと面白い逸材を見つけたんだが。興味はあるかい?

ケイ:ほう?面白い逸材とな。聞こう。

鷹平:ふん。貴様が見つけてくる者は、ろくな者がいないだろう。

泰介:そんなことはねぇよ。失礼な。

ケイ:そうだな。泰介の目は少なくとも私は評価する。聞こう。

泰介:少なくともかよ・・・。まぁいいや。
   んじゃ、言うけどよ。リーダーはトローノ・コンクエストと繋がり在るんだろ?

ケイ:一応な。

泰介:それに女の子って参加してるか?15歳くらいの子。

ケイ:ああ、いるな。ジャックの懐刀(ふところがたな)か。

泰介:あれは、もしかすると候補生かもしれないぜ?

ケイ:ほう?そうなのか?何故分かった?

泰介:炎の能力持ちはただ放出するだけだが、あの子はその場に広がる炎を制御していた。
   そうそうできる芸当じゃない。

鷹平:候補生、か。以前の我々と同類ということだな。

泰介:成長するかどうかは分からないけどな。要素はあるぞ?

鷹平:クガタチの方は我との戦闘で目覚め始めたが。

ケイ:うむ。そのようだな。喜ばしいことだ。
   良くやった。鷹平。

鷹平:ありがたきお言葉。

泰介:で、リーダー。あのお嬢ちゃんの方はどうすんだ?

ケイ:候補生は多い方がいいからな。それも、現在の候補生と対になる女ともなれば、なおさらな。

鷹平:我は、異存なし。

泰介:じゃあ、決まりだな。さっそくかっぱらうか。

ケイ:勢いが良いのは良いが、事によっては、少し仕事を頼まれてくれんか?泰介。

泰介:なんだい?なにをすればいい?

ケイ:・・・ネズミ退治さ。そこのくせ者、出てきたまえ。

尚 :はは・・・。ばれてたか。やっぱり苦手だぜ。隠密行動なんてよ。

ケイ:ふむ。先日見た顔だの。ジャックの配下か。

鷹平:諜報していたのか。

泰介:油断大敵じゃんねぇ。優雅に、されど凛と在れ。じゃなかったのかよ?

ケイ:大丈夫だ。コレまでは別に聞かれたとしても構わん。

尚 :それって、ここで俺を潰すって宣言かい?

鷹平:言わずもがなだ!

ケイ:まて。鷹平。

泰介:いきりすぎだぜー?

鷹平:しかし。

ケイ:二言はない。

泰介:ハハッ、怒られてやんのー。

鷹平:黙れ。

尚 :で?あんた等、俺たちトローノ・コンクエストに対して何か企ててる訳?

泰介:さーどうでしょう?

ケイ:そうなるかな。

鷹平:っ!?主!

尚 :へー。正直な頭(かしら)だこと。

ケイ:確かに、企てている。しかし、それが何だ。君とておなじだろう?

尚 :どうしてそう思う?

ケイ:知っているからだ。いや・・・分かるからと言おうか。君の秘密を。

泰介:へー。アンタも同類ってことか。

尚 :秘密・・・ね。どっからそれを知ったのかは知らないけど。それが当たりって証拠は?

ケイ:見れば分かる。君の姿を『見れば』・・・な。

泰介:なぁ、鷹平。リーダーって、なんのこと言ってんだ?

鷹平:さあな。我は知らん。

泰介:聞いた俺が馬鹿だったよ。

尚 :あー。うん。そっか、了解。それ、ウチの大将に喋ったりする?

ケイ:君の動き方次第だな。

尚 :例えば?

ケイ:もし、何も言わず、ここであったことを誰にも喋らないのであれば、こちらも黙っていよう。

尚 :嫌って言ったら?

ケイ:話の流れが分からぬ訳では無かろう?

尚 :・・・わかったよ。黙っとく。その代わり、条件出していいか?

ケイ:今までの条件に加味する要素があるのか?

尚 :ああ。今ここでするつもりだったお話。全部聞かせてくれよ。

泰介:おー。でかく出たな。

鷹平:控えろ。どこの馬の骨とも分からん者に・・・。

尚 :控えるのはアンタの方だぜ。デカブツ。

ケイ:そうだな。鷹平。義に厚いはいいが、私を差し置いて判断するでない。

鷹平:・・・。

ケイ:いいだろう、聞かせてやる。

泰介:へー。聞かせちゃうんだ。

ケイ:控えろよ?鷹平。

鷹平:主の判断とあれば。

尚 :じゃ、交渉成立ってことで。お話どうぞ。

泰介:だってさ。リーダー。

ケイ:うむ。では、時間もない。手早く語ろう。
   次に起こすはクガタチの無能力化だ。

鷹平:ふむ。してその策は?

泰介:もしかして、面と向かっての正攻法か?

ケイ:それはもちろん、正攻法だ。

尚 :それは、あんた等だけでか?

ケイ:いや。君たちにも協力してもらう。

尚 :へぇ。そう。

泰介:暴れられんの?

尚 :使い捨てはカンベンだぜ?

ケイ:もちろんだ。むしろ、君たちにとって有益だ。何せ、クガタチをこの一手で行動不能にできるのだから。

尚 :一手でねぇ。それなりに何か別策はあるようだな。オッサン。

ケイ:もちろん。正攻法は正攻法で行う。だが、それだけでは足りん。

尚 :その内容は?

ケイ:まだ、どれを扱うかはその場にならねば分からんよ。

尚 :一部を喋ることは?

ケイ:それは無理だな。易々と喋っては危険の種だ。

尚 :やれやれ、ケチなオッサンだ。

鷹平:貴様。先から聞いていたら、調子に乗ってっ!

泰介:ま、確かに口出し過ぎだよね。アンタ。・・・蜂の巣にされてぇ?

ケイ:落ち着け。二人とも。確か黒井と言ったな?

尚 :ああ、そうだ。

ケイ:申し訳ないが、そろそろ慎んでくれるか?
   こちらがこちらで勝手に動いていたことは詫びる。
   自分達が不利になったり、利用され使い捨てられたりするのではと不安になるのも分かる。
   だが、一切その様なことはない。安心してくれ。

尚 :生憎、俺は他人は簡単に信じるなって教え込まれたんで。この社会に。

ケイ:確かにな。それは言えている。
   だが、その社会を立て直す為の我々だろう?
   ここでつまらない言い争いをしている場合ではない。
   
尚 :・・・・。

ケイ:今回は引いてくれないか?

尚 :ちっ!分かったよ。黙る黙る。

ケイ:ほら、お前達も、剣をおろせ。

泰介:俺らが持ってる得物は剣じゃねーけど。まぁ、いいや。

鷹平:ふん。次は無いぞ。

尚 :おお、こわいこわい。

ケイ:ふむ・・・。いかんな。これでは、役員会議に遅れてしまう。
   一度ここでの会はお開きにして、後日話そう。

尚 :次は誘って貰えなさそうだな。

鷹平:部外者が大きな口を叩く場ではない。

泰介:おー、鷹平。怒り心頭だねぇ。見てて面白いよ。

鷹平:貴様もこの怒りの原因の一部だ。

泰介:へーへー。すまんすまん。

ケイ:くれぐれも、密約は守ってくれよ?
   そして、ジャックにはよろしく言っておいてくれ。

尚 :あいよ。期待せずに居てくれ。じゃーな。

泰介:何なんだ。あいつ。

ケイ:泰介。あやつはなかなかに狸だ。気を付けねば。

泰介:出し抜けんのかよ?

ケイ:分からん。

鷹平:ですが、やるんでしょう?

ケイ:もちろんだ。

鷹平:では、こちらも動きましょう。

ケイ:ああ。ようやくだ。世界は変わり始めるぞ。

(間)

尚 :へぇ〜。いろいろ画策してるって訳ね。
   これはジャックに知らせなくちゃならねぇな・・・。
   おい、なぁ、聞いてたんだろ?玲一。
   あ?・・・大丈夫だっての。尾行されてねぇよ。
   意識介入?んなことあるかっての。俺をなんだと・・・。
   はいはい。わーったよ。とりあえず、そっち帰るわ。意識から抜けてくれね?
   あん?うっせーな。トイレいきてーんだよ。それとも俺のモノ見てぇってか?
   分かったらさっさと・・・。分かればよろしい。じゃーなー。
   ・・・ふう。よし、これで自由か。とはいえ、油断はできない。
   安全確認後。あの人に連絡を入れよう。
   

ケイ:次回の闇ツ世界は

鷹平:円卓に全てが集う。

泰介:闇ツ世界 第二十一話 誇り、もしくは変化の時

尚 :さて、俺の仕事はまだまだ終わんねーみたいだな。


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