闇ツ世界 第十九話 基礎の修練


♂森戸 戒斗(モリト カイト):17歳。
              政府特務機関「クガタチ」の中でも十指に入るエリートメンバー。
              何事にも柔軟に対応でき、且つ常に熱意をもっている性格。
              電気や磁力を扱う事のできる異能者。武器は刀。銘は『雷斬(らいきり)』

♀菱山 馨(ヒシヤマ カオリ):18歳。
              政府特務機関「クガタチ」のエリートメンバーであり、戒斗のパートナー。
              快活なキャラクターで変人が集まるエリートメンバーの中では常識派。
              水を扱う事のできる異能者。武器は槍。銘は『海割(うみわり)』

♂相田 蒼哉(アイダ ソウヤ):25歳。
              政府特務機関「クガタチ」のトップ。
              切れ者で若くして政府機関の責任者となっている。
              戒斗を組織に引き入れた張本人。
              現在では事務職に力を注いでいるが、もともとは前線で闘う武闘派。
              何を考えているのか分からないとらえどころのない人物。
              良く言えばひょうひょうとしたキャラクター。悪く言えば不真面目。
              風を扱う異能者。武器は鉄扇。


♀壬車 沙耶(ミグルマ サヤ):19歳。四班隊長。傲岸不遜な態度。室長以外には上から目線で物を言う。四班は特例で、彼女しかいない。
               能力は『氷結』。氷で作り出した武器や騎士で闘う。

♂十間 雪緒(トオマ ユキオ):25歳。
               政府機関『クガタチ』の救護班のリーダー。小馬鹿したようなダークジョークがたまに飛び出るが、それ以外は物腰柔らかな好青年。
               蒼哉とは旧知の仲で、二人だけの時は砕けた会話をする程。
               能力は触れたモノの異常を直す『回復』能力。


戒斗:
馨:
蒼哉:
沙耶:
雪緒:

______________________________

戒斗:う・・・ん?あれ?ここは?

雪緒:あ、起きられましたか?ここは医療部ですよ。本部の。

戒斗:俺。任務で戦って・・・それで・・・。

沙耶:こてんぱんにやられて、暴走しかけて、ここに緊急搬送されたの。

戒斗:げ、その声は。沙耶か?

沙耶:げ、じゃないわよ。アンタを助けたのはこの私なんだから。感謝しなさいよね。

馨 :本当だよ。感謝しなさいよね。運ばれて来たとき、ひん死の状態でビックリしたんだから。

蒼哉:僕なんかビックリして欠伸が出ちゃったんだから。

雪緒:いえ。室長。それはビックリしてないでしょう。

蒼哉:あら、そうなっちゃう?

雪緒:とりあえず、何とか意識が戻られたようで何より。

馨 :助かりました。雪緒さん。

雪緒:外科的な損傷だけだったので直すのは簡単でしたよ。むしろ感謝の意を伝えるなら、早々に医療班を回す手続きをした沙耶さんに。

沙耶:ま、自分の弟子が半べそかきながらすがりついてきたんだし、動かない訳にはいかないでしょ?

戒斗:え?弟子?半べそ?

馨 :いや、その・・・ね!?

雪緒:戒斗さんの班員の誰かが馨さんに電話して、頼れる人を探したら、丁度こちらに来ていた沙耶さんに白羽の矢が立った。と言うわけです。

戒斗:なるほど。って、電話しただと!?誰だ!?

馨 :えっと、朝永(ともなが)君が。

戒斗:朝永か・・・後でふるぼっこにしてやる。

沙耶:ねぇ、馨。何でこいつこんなにキレてんの?

馨 :なんでも、盗聴の危険性があるから基本は電話はなしなんです。ウチの班。緊急事態とはいえそれを破ったことかと。

沙耶:良いわね、足を引っ張りあうメンバーが居て。そんなことも面倒見なくちゃいけないわけだから。
   やっぱり私はワンマンプレイがあってるわ。

蒼哉:何言ってるんだい。もともと馨君と戒斗君は君の班員だったでしょうに。その時は、しっかり連携取れてたけどね?

沙耶:そ、それは・・・。私が無理矢理合わせてただけだからッ!

戒斗:何をいってんだ。俺らが無理矢理合わせてた側だっての。

沙耶:なに?氷付けにされたいの?戒斗?

戒斗:逆に感電させてやる。

雪緒:仲が良いですね。お二人。

戒斗:仲良くなんか

沙耶:ない!


雪緒:闇ツ世界 第十九話 基礎の修練


蒼哉:さてと。戒斗が起きたところで、お話をしようか。

戒斗:話?

馨 :朝永君達から聞いたんだけど、戒斗。氷の異能使える様になったらしいね。

戒斗:え?ああ、そういえば。

沙耶:えらく他人事ね。

戒斗:そりゃ、まあね。何せ必死だったしなぁ。

雪緒:デュアル・スキル・・・ですか。複数能力は使用可能である。という実験数値は知っていますが。本当に居たとは。

蒼哉:僕もこの目で見たことは無いから、こういった例は非常に興味があるんだよねぇ。

戒斗:おいおい。俺は実験動物じゃないぞ?

蒼哉:モルモットにするつもりは無いよ。そんなことするならもっとやりやすいように手配するよ。

沙耶:たしかに。どうせ外道な手配なんだろうけど。

馨 :沙耶さん。言い過ぎですよ。

蒼哉:とにかく。僕は君の隠れた能力に興味がある。それにデュアル・スキルって言うモノにも興味がある。
   そして、新しい力を有効活用したいっていう思いもある。というわけで、これから戒斗には訓練をしてもらう。

戒斗:おいおい。俺はまだ動ける状態じゃないんじゃ・・・

雪緒:そこは大丈夫。全部くっつけましたから。一晩で。

馨 :さすが医療班のリーダーですね。

雪緒:まぁ、室長にごねられたら。やるしかないでしょ?

蒼哉:良くやってくれたよ雪緒君。お礼に1日だけ、馨君とデートすることを許す。

馨 :なっ!?

雪緒:室長。勝手な職権濫用はだめですよ。それに、貰えるのであれば有給休暇がいいです。

馨 :何だろう・・・すごく負けた感じがするのは・・・。

沙耶:さすが、デリカシーの欠片も無い事で有名な医療班のリーダーだこと。

雪緒:正直に自分の心の内を話しただけですよ。

蒼哉:とりあえず、医療班からのお許しは出ている訳だから、後は戒斗がやる気になれば準備は万端なんだがね?

戒斗:どうあがいてもやらせるんでしょう?やりますよ。訓練。

蒼哉:よろしい。それじゃ、沙耶君。それに馨君。戒斗を訓練場に連れてって。場所は13番道場だから。

沙耶:仕方ないわね。ついてきなさい。

戒斗:あいよ。

雪緒:一応、私もついていきますよ。負傷する事前提でしょうから。

戒斗:どんなことやるつもりなんだよ。

馨 :良いからついてきて。後で教えるから。



戒斗:13番ってこんなとこだっけか?

馨 :そうだけど?まぁ、戒斗には縁遠い場所だよね。

沙耶:そもそも、水や氷を扱う異能者の為に作られた道場だからね。

戒斗:床に水が張ってあるのか。

雪緒:私はここから見学させていただきますよ。戦闘に巻き込まれるのはゴメンですから。

沙耶:勝手にすれば?

馨 :それじゃ、さっそく始めようか。戒斗。質問なんだけど、電気の異能を使うとき、どんなイメージを持って力を使ってる?

戒斗:イメージ?ねぇよ?そんなもん。

馨 :いや、あるはずだよ。そうじゃないとそもそも異能なんて使えないんだから。

戒斗:そう言ってもなぁ。

沙耶:小学校からやり直してきたら?戒斗。こんな事も知らないなんてミジンコ以下ね。

戒斗:ミジンコ以下とか言うなよな。

沙耶:一応、教えておくと、電気系の異能者が能力発動時にイメージするのは、『這わせる感覚』と言われている。
   自分の能力をどうやって相手まで伝えるかを考えるって所ね。

馨 :一方、私や、沙耶隊長が使う水や氷の能力は、水と同調するイメージなの。

戒斗:ふーん。じゃあ、今まで俺がやってきたことと、違った見方をしなきゃいけない訳か。

沙耶:そうなるわ。けど、そう簡単にイメージ通りに行くわけ無いんだから注意しておく事ね。それじゃ、最初の訓練。馨。アレ、だして。

馨 :はいはいー。

戒斗:これは・・・ペットボトル?

馨 :この中に水が入ってるんだけど、この水を飲んでみて。

戒斗:あ?そんなモンで良いのか?簡単じゃねぇか。

沙耶:ただし、条件を出すわ。戒斗。手を使わずにこの水を飲んでね。もちろん、足を使ってとかのへりくつは認めないから。

戒斗:あ?そんなモンできる訳ねぇだろうが。

雪緒:できるはずですよ?何せ氷の異能を使えるようになったんですから。水を制御できて当然です。

戒斗:とは言ってもなぁ・・・。

馨 :とりあえずはイメージ作りから。はい。スタートッ!

戒斗:水と同化・・・水と同化・・・。

沙耶:馨。賭けしない?1時間で飲めるか飲めないか。

馨 :じゃあ、私は飲めない方に。

沙耶:奇遇だな。私もだ。

雪緒:おや、実を言うと私も。

戒斗:てめーらっ!少しは応援しろよ!

馨 :いや、だって事実を客観視したら。

沙耶:もちろん。

雪緒:以下同文。

戒斗:てめぇら全員鬼だぁぁぁ!

蒼哉(N):そして、1時間後。

戒斗:後、もう少しで・・・

沙耶:案外飲み込み早い?

馨 :そうですね。地味に同調できてます。

雪緒:でも、ほんと地味ですね。

戒斗:地味地味言うなって!

蒼哉:やってるー?お。そこそこ良い線きてるんだ。

沙耶:暇すぎて泣けてくるわ。

戒斗:集中キレるから黙ってろ!

雪緒:ですって。

蒼哉:逆に騒いでやろっか。雪緒君。これで。

雪緒:準備良いですね。タンバリンですか。

蒼哉:マラカスもあるよー?

馨 :カラオケボックスじゃないんですから・・・。

沙耶:ま、コレもいい訓練かもね。ほら、馨。アンタはコレ

馨 :コレなんです?

蒼哉:あ、それはブブゼラ。すっごくうるさいんだー

戒斗:おい!いい加減に・・・

雪緒:それじゃあ皆さんせーのっ!

戒斗:うるせぇぇぇぇぇ!

蒼哉:え?なんだって?

戒斗:止めろ!うるせぇっ!

沙耶:いつも集中できるとは限らないじゃない。そのための訓練よ。

戒斗:だとしてもやりすぎだぁぁぁぁ!



蒼哉(N):それから更に2時間後。


戒斗:あと、もう少し・・・。

蒼哉:あ、まだやってたの?

馨 :おはようございます。室長。

蒼哉:僕いつ頃から寝てた?

沙耶:三〇分ほど。というか、寝るなら部屋に戻ればいいのに。

蒼哉:いやー。気付いたら意識が飛んでてさ。それにしても、頑張るねぇ。戒斗。三時間くらいぶっ通し?

雪緒:かなり時間がかかってますね。

戒斗:あんた等が要らないことするからだっ!

沙耶:じゃあ、ついでにもう少し要らないことしてあげるわ。氷針(ひょうしん)!

戒斗:うおっ!?攻撃してくるなよっ!

馨 :攻撃を避けながらやってみてね。ちなみに、コレ私もやったから。

戒斗:まじでかよ!?スパルタ過ぎるって!おうっ!?

沙耶:ごちゃごちゃ言わないで避ける避けるー。

戒斗:ひぃぃぃぃぃぃ!

雪緒:愉しそうで何より。

蒼哉:良い気晴らしになるんじゃないかな?
   特に戒斗にとっては。

雪緒:敗戦が続いてますからね。彼。

蒼哉:仕方が無いっちゃあ無いんだけどね。如何に言っても、今回の相手は一筋縄じゃ行かないから。

雪緒:蒼哉。1つだけいいか?コレは友人として言いたい。

蒼哉:うん?なんだい?

雪緒:これからはもう少し、彼らを信用してはどうだ?
   彼らのストレスはただ負け続けが関係してるとは思えない。

蒼哉:そうかい?

雪緒:定期検診にストレス判定も混ぜといて正解だった。この数値を見てよ。

蒼哉:この三人の分?そこそこ高いね。

雪緒:そこそこどころじゃない。高いんだ。これを計ったのは睡眠中と任務中と本部内での休暇中。
   その3パターンでどれもが高ストレスを抱えてる。

蒼哉:その原因が全て僕にあると?

雪緒:全てとは言わないさ。とはいえ、自分達が疑われていると考えてしまう要素を与えすぎなんだ。君は。
   もうちょっと戦略を考える前に、青年達の心のケアも考えてあげてよ。

蒼哉:うーん。考えてるつもりなんだけどなぁ。分かった。ちょっと考え直してみるよ。

雪緒:お願いするよ。そうじゃないと勝てる闘いも勝てないからね。

戒斗:うおっしゃー!飲めたっ!

沙耶:ちっ!あそこで針を撃っておけば・・・。

戒斗:ちょっと待て!それじゃ俺が回避できなかっただろうが!

馨 :大丈夫だって。雪緒さん居たんだし。

戒斗:もう、ベッドと仲良くするのはゴメンなんだよ!

雪緒:僕としても患者を増やされるのはゴメンだけどね。

蒼哉:酷いことは君も言ってるんじゃない?

雪緒:ブラックジョークだよ。さて、彼らも盛り上がってるし、僕の役目もなさそうだ。仕事をしに戻るよ。

蒼哉:そうだね。

雪緒:また今度。ゆっくり話をしよう。

蒼哉:嫌味はやめといてね?デリケートなんだから。

雪緒:はいはい。分かってる分かってる。


戒斗(M):俺が特訓をしている間、室長と雪緒さんはずっと何か真剣に喋っていた。
    なにがあるのだろう。自分に備わった新たな力のことか、それともまた別のことか。
    考えれば考えるだけ、今はムダに思考がマイナスに偏っていく。
    このままじゃダメだ。しっかりしないと。俺は隊員を率いる隊長なのだから。


蒼哉:次回の闇ツ世界は。

沙耶:意識には気を付けよ。

馨 :慢心は人を惑わす引き金となる。

雪緒:闇ツ世界 第二十話 会合と引き金と

戒斗:その心は、影へと消える。





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