闇ツ世界 第十七話 観察者

♀生駒 穂乃華(イコマ ホノカ):15歳。
               物腰柔らかに喋るが、非道な事を平気でやってのける人物。
               他の人とは違い産まれた時より異能の力を保持していた。(母親が妊娠時に『ウィジ』を服用したため)
               そのため忌み者として扱われてきた。能力は火炎。武器を持たぬ代わりに両手に炎を纏い篭手として扱う。


♂御堂 玲一(ミドウ レイイチ):22歳。人の視界と聴覚を盗み見る能力を持つ異能者。
                倒錯した異性への愛情から『ウィジ』に手を出した結果、人の視界を盗み見る(ピーピング)能力を得た。
                常におどおどとしている。しかし、欲望には忠実。故に倒錯し、反道徳的なことにも平然とやってのける。


♂黒井 尚(クロイ ナオ):25歳。
            連続通り魔として世間を騒がせた人物。そして、異能者。トローノ・コンクエストの中でもダントツのサイコパス。
            人を傷つけたいという衝動が彼の行動理念。能力は圧縮した空気を相手にぶつける「波動」の能力。

♀井倉 真矢(イクラ マヤ):26歳。
             妖艶な雰囲気を持つ女性。ジャックを厚く慕っている。
             触った人物の記憶を掘り起こし、見る(見せる)事ができる能力。

穂乃華:
玲一:
尚:
真矢:
________________________________

玲一  :穂乃華さん・・・遅いですね。

真矢  :そうかしら?ま、大丈夫でしょ。あの子なら。
     なんのお遣いに出てるのか知らないけど。

尚   :あ?また出てんのか?穂乃華の嬢ちゃんは。

真矢  :なんか、下見に行くって言ってたわね。

玲一  :下見ですか?

穂乃華 :ただいま、もどりました。うっ・・・。

玲一  :穂乃華さん!?

尚   :おいおい!どうしたんだよ!?

真矢  :っ!?凄い熱じゃない!どうしたの!?
     玲一君!氷枕持ってきて!黒井!アンタは濡れタオル!

玲一  :は、はい!

尚   :あいよ。待ってな。

真矢  :しっかりして。立てる?

穂乃華 :はい。すみません。真矢さん。

真矢  :こういう時だもの、いいのよ。さ、こっちへ。


玲一  :闇ツ世界 第十七話 観察者


真矢  :これでよし。大人しくしておいてね。穂乃華ちゃん。

穂乃華 :はい。

真矢  :そんな顔しないの。いいのよ。仕方ないことだもの。じゃ、何かあったら言ってね?

穂乃華 :はい・・・。

尚   :どうだい?嬢ちゃんの様子は?

真矢  :とりあえず、今、横になってるわ。それにしても、ビックリしたわよ。熱計ってみたら41度近いんですもの。

玲一  :あれ。穂乃華さんの異能障害ですかね。

尚   :そうみたいだな。炎系統の異能障害は、異常体温。
     下手に激しい運動を繰り返せば、体温が上がり身体の組織が死んじまう。

玲一  :なんでそんな事知ってるんです?

尚   :あ?俺だって異能者だ。これくらい知ってなきゃな。

玲一  :自分の能力でもないのに?

尚   :こうやってフォローが必要になるときだってあるだろうが。そのときのためだっての。・・・悪いか!俺が勉強してちゃあよ!

玲一  :そうとは言いませんが・・・。

真矢  :でも、これで分かったわ。この異能障害があるから、ジャックは、穂乃華ちゃんには戦闘をしなくて済むような仕事を与えていたのね?
 
玲一  :そういうことになりそうですね。

尚   :まぁ、能力だけなら、ジャックの次に強いのは、穂乃華の嬢ちゃんだろうな。

玲一  :でも、異能障害が邪魔をして、満足にスキルを発揮できないと。

真矢  :諸刃(もろは)の剣なのね。彼女の能力って。

玲一  :でも、穂乃華さんって闘うときそんなに動き回るスタイルじゃないですよね?

尚   :嬢ちゃんはそもそも、範囲系の異能者だからな。自分のフィールドを創って闘うタイプだ。

真矢  :あら?そうだったの?ずっと近接系かと思ってた。

尚   :範囲系と悟らせない為にインファイトもしてるんだよ。近接戦闘の戦い方も回避からのカウンターがメインだ。

玲一  :なるほど・・・。賢いですね。

尚   :全部、大将の入れ知恵だ。さすがというか何というか。

玲一  :それじゃ、今回こんな事になったって事は。

真矢  :考えられるのは二つ。一つは接敵(せってき)した相手が強く、本気を出さざるを得なかった、二つ目は何かがきっかけで暴走したか。

尚   :お嬢ちゃんが暴走ねぇ・・・。考えられないな。

玲一  :でも、クガタチに圧倒されるとも思いません。

真矢  :そうねぇ・・・。こればっかりは穂乃華ちゃんが元気にならないことには。

穂乃華 :本気を出しすぎたんですよ。

玲一  :穂乃華さん!?

真矢  :ちょっと!起きて大丈夫なの!?

穂乃華 :ちょっと身体が重いですが、大丈夫だと思います。

尚   :熱引いてないんだろ。おい、玲一。席譲れよ。

玲一  :え?

尚   :熱抱えてるヤツをずっと立たせとくのかよお前は!

玲一  :あ、はい!ごめんなさいっ!

尚   :わかればよろしい。

真矢  :アンタがどけばいいでしょうに。

尚   :あ?最近、歳の所為か立ち上がるのがつらくってなぁ。

真矢  :はぁ、なんかバカみたい。穂乃華ちゃん。座って。

穂乃華 :はい。ありがとうございます。

尚   :で、本気を出しすぎたってことは、ヤったのか。クガタチと。

穂乃華 :はい。確か、二班の二人組だったはず。

玲一  :それって・・・。

尚   :ああ、覚えてるぜ。あの熱血な少年だ。ちったぁ腕はあがってんのかよ?

穂乃華 :特に。それに、私がてこずったのはクガタチじゃありません。

真矢  :それ、どういう事?

穂乃華 :わかりません。私がジャックの指示通り動いていたら、一人、介入してきたんです。

玲一  :異能者だったんですよね?フリーランスの異能者とか・・・。

尚   :フリーランスで、嬢ちゃんを追い詰めるなんてできる輩が居るとは思えねぇよ。
     下手に手を出して真っ黒焦げになるのが関の山だ。

玲一  :でも、クガタチじゃないんでしょう?

穂乃華 :はい。

真矢  :となると、第三勢力?

尚   :かもしれねぇな。嬢ちゃん。なんかいってたか?その邪魔したヤツは。

穂乃華 :いえ、ただ、『自分は敵だ』としか。

真矢  :はっきりしないわね。これじゃ、下手に動くわけにも行かないじゃない。

玲一  :ジャックさんに指示を仰いだ方が。

尚   :そうだな。ジャックのことだ。これくらい見通してそうだけどな。

穂乃華 :ジャックは・・・。

真矢  :なにか言ってたの?

穂乃華 :ジャックは、私にケイの、今日一日の動向を探るように言いました。
     もしかすると、それと関係が在るかもしれません。

尚   :ケイ・・・。あのオッサンか。

真矢  :あの製薬会社の社長でしょ?

玲一  :お二人とも知ってるんですか?

真矢  :玲一君は彼と会ったことは無いのよね?
     ケイはジャックと共にこのトローノ・コンクエストを創り上げた張本人よ。

玲一  :そうなんですか・・・。
     
尚   :人が良い様に見えたが、アレは結構なワルだと見た。

真矢  :言えてるわね。そもそも、そうじゃないとこんな集団作らないでしょ。

尚   :違いない。

玲一  :ふと疑問なんですが、その人、社長なんですよね?名前が世に出てるのにこんな事して大丈夫なんでしょうか?

穂乃華 :あの人の使ってる名前はいくつもあります。
     社長の肩書きに使ってる名前が本名とは言い切れないかもしれない。

尚   :まさしく狸親父だな。

真矢  :でも、そんな人間がこの一件に絡んでるとなると、凄く厄介ね。

穂乃華 :なにか確証があってジャックは今会いに行ってるようですが・・・。

尚   :はぐらかされるのがオチだ。賭けてもいい。
     ああ、そういえば嬢ちゃん。聞きたいんだが・・・。

穂乃華 :何でしょう?

尚   :この前よぉ、ジャックについて行ったとき聞いたんだ。記憶が欠落してるなんだのって。
     あれは、ジャックの異能障害か?

穂乃華 :はい。そうです。ジャックは一日前の、酷ければ数日にわたっての記憶が欠落する異能障害を持ってます。

尚   :欠落した記憶の補完はどうしてるんだ?

穂乃華 :えっと。それは・・・。

玲一  :もしかして、いつも穂乃華さんが届けてる手紙ですか?

穂乃華 :・・・はい。

尚   :なるほど。忘れないようにメモっておくわけな。

真矢  :それに、一度投函されたら郵便局に保管されるから誰も手出しできない。

玲一  :クガタチならそれを見ることは可能なんじゃ・・・。

尚   :いや。無理だ。独自行動の権限はあっても、ああいう資料なんかは警察と連携を取った上じゃないと閲覧できない。

真矢  :あら、よく知ってるわね?

尚   :敵の事、知っとかねぇと揚げ足取れねぇだろ?

穂乃華 :いつから知的派に移行したんですか?

尚   :あ?前からだっての。じゃねぇと生き延びられねぇよ。

真矢  :筋肉バカだと思ってた。

穂乃華 :たしかに。

尚   :お前ら・・・俺をバカにしてんのか?

玲一  :まぁまぁ・・・。ともかく、第三勢力がどういう目的でアプローチを掛けてきたのかが気になります。

真矢  :三つどもえの混戦は避けたいわね。

穂乃華 :ここで私達だけで考えても・・・。

尚   :つか、嬢ちゃんよ。なんでいつもジャックの作戦待ちなんだ?

穂乃華 :え?

尚   :ジャックは確かに賢いし、俺らじゃ考えつかない手を発想する。だけどよ。ジャックを頼りにしすぎじゃねぇか?

真矢  :確かにそうね。

尚   :いっそのことよぉ。自分が良いと思ったことをやってみるってのはどうだ?

玲一  :でも、それは逆にジャックさんの迷惑に・・・。

尚   :そうだろうけど、ヘマさえしなけりゃ何もいわねぇよ。あいつなら。

穂乃華 :えらく饒舌(じょうぜつ)ですね。尚。

尚   :あ?おいおい。そんな怖い目するんじゃねぇよ。ただ、疑問に思っただけだっての。
     俺は別に、ジャックに不満があってこんな事を言ってるんじゃねぇ。

穂乃華 :私達は駒で良いんです。

尚   :あぁ?じゃあ、嬢ちゃんは切り捨てられてもいいのか?

穂乃華 :ジャックの目的成就(もくてきじょうじゅ)のためなら。

玲一  :駒って・・・それは言い過ぎじゃ・・・。

真矢  :でも、一番楽で、なおかつ安全な方法ね。駒になるって。
     ジャックに反論しなければ命の保証はあるんだから。

玲一  :でも、駒で良いって・・・。僕らはちゃんとした人間だ。
     自分で考えて行動を起こせないって・・・。上手く言葉にできないけれど、違うと思う。

真矢  :御堂。そんなこと言えるのはアンタがジャックの怖い面を知らないだけ。今までジャックは色々切り捨ててきたのよ?
     ジャックの命令を無視したヤツ、私達に近づいてガセ情報を売ろうとしたヤツ。いろいろ。
     自身の一手の邪魔をするなら誰だって彼は殺すわ。

尚   :ま、さっきは「独自で動くか?」なんて言ったが、俺は勝手できようとできまいと、駒だろうとそうじゃなかろうと知ったこっちゃないがな。
     暴れて、ワルして。たのしけりゃそれで良い。

穂乃華 :御堂さん。あなたがどうしても賛同できないなら。次の行動には参加できません。これがどういう意味か分かりますよね?

玲一  :それは・・・。はい。

穂乃華 :さっきの言葉。撤回したら、あなたが言ったことは全部忘れましょう。

尚   :飲んだ方がいいぜ?今まで通りでありたいならな。

玲一  :・・・はい。

真矢  :なんか、凄く壮絶な話になっちゃったけど。
     結局、危険勢力が現れたことが穂乃華ちゃんの障害発動の理由。
     そしてこれからの私達の行動は、ジャックの一手にかかってるって事ね。

尚   :そうだな。つまりはそういうこった。

穂乃華 :あまり、不用意に動かない事ですよ。生き延びたいなら。

玲一  :はい。

尚   :(あくび)んじゃ、そろそろ寝るかな。俺は。

真矢  :あら?今日は泊まるの?

尚   :ああ。なんか帰るの怠くなっちまった。後、ジャックに直接伝えたいこともあるしな。

真矢  :あらそう。なら、私も居残ろうかしら。

尚   :記憶を覗くとかすんなよ?

真矢  :あら。それは逆にしてほしいって言う意味なのかしら?

尚   :んなワケねぇだろうが!

穂乃華 :私はちょっと休みます。

玲一  :そ、そうですよ。熱あるみたいですし。

穂乃華 :御堂さんは、まだ起きてますか?

玲一  :え。まぁ、はい。

穂乃華 :なら、ジャックが帰ってきたら教えて下さい。部屋にいますから。

玲一  :はい。お休みなさい。

尚   :俺はソファーでいいや。んじゃ。

玲一  :あっ!だめですよ!風邪引いちゃいますから!

尚   :うっせぇなぁ。大丈夫だっての!寝かせろ!

真矢  :バカは風邪引かないものね。

尚   :真矢。後で覚えてろ?

真矢  :あら怖い怖い。


玲一(M) :結局、その後、真矢さんは帰り、黒井さんはいびきをかいて爆睡。
     ジャックが帰ってきたのは日が変わり、鳥が鳴き出す位になってからだった。
     一人で居る間、凄く悶々とした。
     駒。ただ目的の為、勝利の為だけに使われる道具。
     僕はその程度なのか。そもそも、そんな道具みたいに人を見て良いのか。
     胸の中にそれが1つ延々とくすぶり続けていた。
     穂乃華さんが僕に撤回を求めた時の、三人の目・・・。
     それがずっと変にまぶたにこびりついていた。

真矢  :次回の闇ツ世界は

尚   :力の覚醒。

玲一  :その力は自身を壊す。

穂乃華 :汝、それに触れる事なかれ。

真矢  :闇ツ世界 第十八話 狂乱

玲一  :滅ぼすは、敵か、自身か。



もどる