闇ツ世界 第十六話 トーク・イン・ザ・ナイト

♂ジャック:見た目20歳前後。
      不気味な雰囲気を持つ人物。本名不詳。見た目は人付き合い良さげな人物だが、その内面は冷徹が服を着たよう。
      仲間であろうと切り捨てる時は切り捨てる。能力は遮断。
      失われた自己の過去に対する執着がある。

♀生駒 穂乃華(イコマ ホノカ):15歳。
               物腰柔らかに喋るが、非道な事を平気でやってのける人物。
               他の人とは違い産まれた時より異能の力を保持していた。(母親が妊娠時に『ウィジ』を服用したため)
               そのため忌み者として扱われてきた。能力は火炎。武器を持たぬ代わりに両手に炎を纏い篭手として扱う。


♂ケイ:40代後半から50代。人よさげだが、実は腹黒な狸親父。
    国を代表する製薬会社の社長でもある。
    異能は『刷り込み』幻覚を見せることも可能。
    そして、人を従わせることも可能。しかし、服従させられるのは1人のみ。
    自身の視界から外れると服従させることはできない。


ジャック:
穂乃華:
ケイ:


_____________________

穂乃華(N):前話より、時は少し遡(さかのぼ)る。

(間)

ジャック:おかしい。これはどういう事だ?一手が早すぎる。クガタチの、この一手はまだ先のはず・・・。

穂乃華 :どうしました?ジャック。

ジャック:いいや、一人言だよ穂乃華。お帰り。

穂乃華 :はい。只今戻りました。あれ?ジャック。手紙・・・。

ジャック:ああ。そういえば、今日は一度も見てなかったね。持ってきて貰える?

穂乃華 :はい。・・・大丈夫だったのですか?

ジャック:ああ、一応はね。今日は、玲一(れいいち)君も真矢(まや)も居ないから。
     尚(なお)に至っては、無断でまたどこかふらついているよ。

穂乃華 :勝手ですね。許していていいんですか?

ジャック:良いんだよ。別に。彼は拘束してどうこうするより、自由にさせておいた方が色々と面白いからね。

穂乃華 :しかし、自由にさせている方が、クガタチの脅威(きょうい)にさらされる事に。

ジャック:彼は脅威にはさらされないよ。保証する。

穂乃華 :そう、ですか?

ジャック:うん、大丈夫だから。それにしても、やっかいだね。この異能障害は。

穂乃華 :やっぱり、記憶が・・・。

ジャック:まだ、今日の欠落は良い方かな。昨日の朝までの記憶は残ってる。

穂乃華 :食い止める手段は無いのでしょうか。

ジャック:うん。無いだろうね。

穂乃華 :真矢さんの力で記憶を引き出す事とかは・・・。

ジャック:無理だったよ。彼女の能力でさえ、僕のを引きずり出すことはできなかった。

穂乃華 :それは・・・初耳です。

ジャック:あれ?そうだっけ?

穂乃華 :ですが、書面に書き残すことは、危険が多くありませんか?

ジャック:そうだね。危険だらけだよ。そのために、暗号化はしてるけど。ばれるときはばれちゃうし。

穂乃華 :これがクガタチに知られたら・・・。

ジャック:僕らは一巻の終わり。かな?

穂乃華 :ジャック・・・。

ジャック:大丈夫だよ。不安だろうけど、何とかなるよ。というより、何とかしてみせる。

穂乃華 :はい。

ジャック:それはさておき、本題を聞こう、穂乃華。どうだった?彼の様子は?

穂乃華 :今日一日の行動ですが、朝6時に出社。9時から傘下(さんか)会社の社長達と面談。10時から役員会議に出席。

ジャック:ふーん。案外、普通だね。

穂乃華 :昼食後、自身が経営する孤児院へ行き、子どもたちと交流。その足で、傘下会社の1つであるハローワークに向かい、業績確認と、利用者との対談。

ジャック:そう、か。

穂乃華 :ジャック?

ジャック:うん?いいよ、続けて?

穂乃華 :はい。午後5時に一時帰宅。その間、三本電話を掛けていましたが、どれも会社役員に対する指示等でした。
     その後、7時に会社へもどり、一人で仕事を続けていました。

ジャック:熱心だね。こんな夜遅くまで仕事してるとは。

穂乃華 :ケイについての行動は以上です。

ジャック:そう。ありがとう。手間をかけさせたね。

穂乃華 :いえ。・・・それにしても、ジャック。どうして彼を探れと?

ジャック:うん。ちょっとした違和感がね。

穂乃華 :違和感・・・ですか?

ジャック:クガタチの一手が早いんだ。事もあろうに室長が、早々から僕に対面を持ちかけてきた事。雑兵(ぞうひょう)とは言え、僕の外出を見越して遭遇してきた事。
     後、レーヌさんと玲一君の密談に介入してきたこと。全てに於いて僕の予想より一手先に動いてきてる。
     これは、予想外すぎてね。

穂乃華 :彼が、裏切りを行っていると?

ジャック:いや、多分、裏切りじゃない。それよりも、もっとタチが悪いかも。

穂乃華 :・・・・・。

ジャック:これは早々に動きを見定めるべきかな・・・。うん、そうしよう。彼に会おう。
     あ、そうだ、穂乃華。つかれてるだろうけど、お遣い頼んで良いかな?

穂乃華 :はい。なんでしょう?

ジャック:隣町に新しくショッピングモールができたよね?あそこでちょっとしたイベントを起こしたくてね。
     それの下見に行って欲しいんだ。

穂乃華 :いいですが・・・。ここを空けるんですか?

ジャック:もう少ししたら、玲一君も真矢も帰ってくるから。安心していってきて?

穂乃華 :わかりました。では、失礼します。

ジャック:行ってらっしゃい。・・・さてと。彼の本意はどこにあるのか。探らなくては。

 

ケイ  :闇ツ世界 第十六話 トーク・イン・ザ・ナイト


ジャック:案外、簡単に通して貰えたのには、驚いたね。それに貴賓室(きひんしつ)とは。
     よほど、何かしら、やましいものでもあるのかな?彼のお部屋には。

ケイ  :やあ、待たせた。珍しいな。君がここに来るなんて。

ジャック:ええ、そうですね。お呼び立てする事が多いですから。

ケイ  :それもそうだ。まぁ、座りなさい。何か飲むか?

ジャック:特に。ありがとうございます。

ケイ  :そうか。何か飲みたくなればそこから取ってくれ。それで、なんだね?用事は?

ジャック:先日の失態のことで。

ケイ  :ああ、暴走した件か。かまわないさ。あの程度。・・・うむ。やはりウィスキーはいいな。1日が終わった気がする。

ジャック:よく、そんなものが飲めますね。

ケイ  :そうか、君は下戸(げこ)だったな。可哀想に。アルコールは私の活力だ。管理職は何かとストレスが溜まるのでな。

ジャック:ストレス発散なら、クガタチを排除することで発散すれば良いじゃないですか。

ケイ  :人殺しは好かん。そもそも、私の能力は実践には向かんしな。

ジャック:とはいえ、奥の手はあるんでしょう?

ケイ  :ふふ。それはどうかな?期待はせんことだ。

ジャック:じゃあ、勝手に考えておきます。

ケイ  :ああ、そうしてくれ。それで?ジャック。謝罪の為だけに来たのか?

ジャック:本題があります。・・・ケイ。唐突ですが、あなたは僕になにか隠し事してませんか?

ケイ  :本当に唐突だな。どうしてそう思う?私が君の過去についてなかなか口を割らないからか?

ジャック:そういうわけじゃ無いんですがね。

ケイ  :そうか、では何でだろうか?君は直感なんてもので、そういう問いかけはしないからな。

ジャック:残念ですが、直感ですよ。ケイ。なにかあなたの行動は釈然としないところが多くて。

ケイ  :おや、そうかね。そのつもりは無いのだが?

ジャック:最近、僕の知らない人間と多く接触しているようですが?

ケイ  :それはそうだろう。私はテロリストだが、社長でもあるのだぞ?様々な人間と会うことは、会社を持つ人間の責務だよ。

ジャック:フリーターや孤児に会うことがですか?大手製薬会社の社長が?

ケイ  :名を広めるためさ。会社を育てるには、小さいところから広めていくのが大事だぞ。

ジャック:既に大きいでしょうに。あなたの会社は。

ケイ  :慢心は人を滅ぼすのだ。それに上に立つと下の声を耳に入れにくくてな。自分から下りていかなければ。

ジャック:そうですか。もっともらしいことです。

ケイ  :ふむ・・・。今日はやけに噛みついてくるな。ジャック。何かあったかね?

ジャック:言ったでしょう?近頃、あなたの行動が怪しいのですよ。さっきも言ったように、僕の知らない人間との接触。
     それに、先日言ったクガタチの行動が、我々に追い付いてきている事も。あなたの行動の怪しさを助長させているんですよ。

ケイ  :そうか・・・。なら、どうしたら信じて貰えるかね?

ジャック:ただ、行動を控えて下さい。それだけです。

ケイ  :控えるもなにも、私は君が「動け」と言ったときにしか動いてはおらんよ。

ジャック:そうは思えません。

ケイ  :なぁ、ジャック。最近の君は少しおかしい。何を焦っている。
     クガタチの一手が早いこと、自分に自信が持てないこと。それくらいで集団のトップが焦るんじゃない。

ジャック:貴方にとってはその程度でしょうが・・・。

ケイ  :まぁ、聞け。そもそも、私と君は、この集団を創り上げた友じゃないか。
     この国に対し、憂い。哀しみ。そして、変えようと決意した。
     歳は親と息子ほど離れているが、だからといってそれがなんだ。私は、君を志を共にする同志として、友人として信頼している。
     この集団の長を任せているのも、その信頼の証だ。そもそも、君の方が戦術やらカリスマは、私より優れているからな。

ジャック:信頼・・・ね。

ケイ  :なにが不服なのだ?もう、この際だ、腹を割って話そう。

ジャック:そうですか。じゃあ、その信頼を信じて聞きます。
     貴方は本当にこの国を変革させるつもりですか?

ケイ  :もちろん。でなければ、こんな危ない橋は渡らん。

ジャック:僕に真実を喋っていますか?

ケイ  :もちろん。当たり前だ。

ジャック:では、トローノ・コンクエストの創立に関わったように、クガタチの創立にも関わっているのはどうしてですか?

ケイ  :・・・何?

ジャック:聞こえませんでしたか?なぜ貴方が、クガタチの創立に関わっているんですかと聞いているんですが?
     ・・・知っていますよ?クガタチについては調べ尽くしました。
     貴方、僕らが殺した東野栄介(とうのえいすけ)氏と共に、視察に赴いているじゃないですか。
     それに、東野氏が着任する前も、前任者と共にクガタチの創立支援を政界に働きかけている。

ケイ  :(溜め息)それはだな・・・。

ジャック:それは?

ケイ  :すがられたからだよ。ジャック。東野にも、その前にも。
     そもそも、私はクガタチなど興味無い。要らぬとさえ思っている。
     しかし、それをはねつければどうなる。この国を率いるとも言われる会社の社長が、国の意向に反したら。
     他国からの、この国の信頼は薄れる。会社としても政界にパトロンは欲しい。
     これからの時代だ。経済はより一層混迷を極める。それは、会社を持つものとしては恐れる事態ではあるし、できるなら安全策は欲しい。
     そのための、支援であった。クガタチそのものに縁もゆかりもない。

ジャック:そうですか。それならば良いんですがね。

ケイ  :疑心は身を滅ぼすぞ。ジャック。信じてくれ。私を。

ジャック:では、そうしましょう。どうのこうの言っていても仕方ないでしょうしね。

ケイ  :ああ、助かるよ。ジャック。

ジャック:それでは、ケイ。最後に約束を。

ケイ  :わかってる。わかってるさ、ジャック。
     お前の過去だな?私が責任持って戻してやる。

ジャック:では、おねがいしますよ。ケイ。それではこれ以上疑われることのないように。
     失礼しました。

ケイ  :ああ。すまなかった。気を付けて帰るんだぞ。
     ・・・ふむ。少々厄介だな。案外鼻の良い事だ。ジャック。
     やはり、手を早めなければ。ヤツの進化を進めよう。

ジャック:次回の闇ツ世界は

ケイ  :両者の帰還。

穂乃華 :混乱は混乱を生み、加速する。

ジャック:闇ツ世界 第十七話 観察者

穂乃華 :彼らは何者なのか?





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