闇ツ世界 第十三話 反転

♂速水 佐之(ハヤミ サノ)  :20代後半。三班副隊長。武士道にこだわる堅物。
    隊長である常葉に忠誠を誓っている。戦闘スタイルは棒術。能力は波動。

♀壬車 沙耶(ミグルマ サヤ):19歳。四班隊長。傲岸不遜な態度。室長以外には上から目線で物を言う。四班は特例で、彼女しかいない。
               能力は『氷結』。氷で作り出した武器や騎士で闘う。

♀早凪 藍子(ハヤナギ ランコ):20代後半。穏やかな性格。だがその実、人に危害を加えるのが大好きな人物。SとMが頻繁にひっくり返る。
               触れた相手に対しての危害を与える『反射』の能力。

♂御堂 玲一(ミドウ レイイチ):22歳。人の視界と聴覚を盗み見る能力を持つ異能者。
                倒錯した異性への愛情から『ウィジ』に手を出した結果、人の視界を盗み見る(ピーピング)能力を得た。
                常におどおどとしている。しかし、欲望には忠実。故に倒錯し、反道徳的なことにも平然とやってのける。

佐之:
沙耶:
藍子:
玲一:
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藍子:涼やかねぇ・・・。この神社。夏だってのに風があってきもちいい。
   それに、おもむきもあって心地良いわぁ。思わず寝ちゃいそう。
   ・・・それにしても、人いないわね。やっていけるのかしら?
   でも、世の中の人って物は、こんなものよね?
   都合の良いときに頼って、それ以外は知らんぷり。神様も報われないわねぇ。かわいそう。
   ちょっとだけ、拝んであげましょうか。えっと、お財布は・・・。五円・・・はないわね。十円でいいかしら?ほいっと。
   ・・・どうか、私達の目的が成就しますように。
   さて、拝んだし、ちょっと腰掛けさせてもらってもいいわよね?よーいしょっ・・・と。ふー。足パンパン。歳かしら?
   ・・・で。いつになれば来るのかしら?ジャックの使いは。

玲一:えっと・・・どこだっけ?ここが、一丁目で・・・この角をまがって・・・あれ?えっと神社が・・・ない!?あれっ!?


沙耶:闇ツ世界 第十三話 反転


玲一:や、やっと着いた・・・。迷った・・・そして、分かりづらいな。ここ。

藍子:あら。かわいい子が来たわね?あなたが『使いの者』かしら?

玲一:えっと、あ・・・。レーヌ・・・さん、ですか?

藍子:ええそうよ。そして、その『レーヌ』ってのやめて。キライなの。私には、早凪 藍子っていう名前があるんだから。藍子って呼んで。

玲一:は・・・はぁ?そうですか・・・。では、藍子さん。ここにお呼び立てした理由はおわかりでしょうか?

藍子:堅苦しいわねぇ・・・。まぁ、いいわ。それで・・・なんだっけ?理由?もちろん知っているわよ。次の行動でしょう?
   ほんと、ジャック君ってばいろいろ考えるのが大好きねぇ。いつか頭が爆発しちゃわないか心配よ。

玲一:はい。この封筒に次の作戦が書き込まれています。そして、それを解く鍵は『2』『5』『23』です。

藍子:あら。それだけ?短いのね?もっと、数字、言われるのかと思ったわ。

玲一:はい。しかし、内容は凝ったとの事ですので、ややこしいですよ?

藍子:あらそう。まぁ、考えてみるわ。気長に待っててってジャックに伝えてくれるかしら?
   後は、そうね。暗号を凝るより、伝達場所はもう少し凝った方が良い。って言うことも、お願い。邪魔者を排除するの骨折れたんだから。

玲一:邪魔・・・者?

藍子:あら?気付かなかったの?にっぶいのねぇ。あはははは。

玲一:そんな!笑わなくたって!

藍子:あら、ごめんなさい。でも、これは笑う事よ?なんたって、彼方には、戦士として必要なスキルが、ごっそり抜けているのだから。
   自分が来る前に、何がこの場で起こったのか。それとも、何も起こらなかったのか。
   それを知ることだけでも、相手の力量は測れるのよ?
 
玲一:そんなものでしょうか。

藍子:そうよ。それじゃ、私が特別に訓練を付けてあげる。どんな方法でもいいから、この場で何があったか、予測してみなさいな。

玲一:そう言われても・・・僕は、過去視の能力なんて・・・。

藍子:過去視なんてしなくても分かるのよ。ほら、まわりを能く見渡して?地面、木々の合間、空気まで感じなさい。
   見るだけじゃ足りないわね。耳。鼻。目。触覚。人間が持てる全ての感覚で、察しなさい。

玲一:全ての・・・感覚・・・。

玲一(M):そう、言われたって。何を見れば良いんだろう。地面?砂利は整ってるし、争った形跡はなさそうだ。
     血の匂いもしない・・・。なにが。なにを見つければ・・・。あれ?

藍子:気付いたかしら?おかしな所。

玲一:はい。あの木。妙な立ち方してませんか?

藍子:当たり。よく気付いたわね。でも、少しハズレでもあるわね。あの木が妙なんじゃないの。
   まわりの木が変になってるの。さ、よく見てみなさい。あのまわりの木。

玲一:あのまわり・・・。

藍子:ぶら下がってるものがあるでしょう?

玲一:はい、ありますね。あれは・・・人?

藍子:大当たり、おめでとう。坊や。それじゃ、もう見えるわよね。全てが。

玲一:・・・なん、だよ。あれ。10人・・・いや。もっと?

藍子:えっと・・・全部で16人だったかしら。もー凄く骨折りだったわ。全部ぶら下げるの。

玲一:ぶら下げる事が・・・ですか。

藍子:そうよ?だって、重いんだもの。全員、男だし?私は、女だし。

玲一:普通は倒す事が骨折りなんじゃないですか?

藍子:倒すのは簡単よ。すっごい楽。小指一本で倒せるから。

玲一:なんだろう・・・すごく、おかしいことなんだけどつっこめない。
   ・・・ん?

藍子:ま、そう言うことだから。しっかり訓練しなさい。坊や。それじゃあ・・・。

玲一:待って下さい!藍子さん!

藍子:なに?まだお話があるの?それとも、バカにされたのがイヤだった?

玲一:違います!・・・この参道を、誰か登ってきます。棒を・・・持ってますね。この姿、一度、見たことがある。

藍子:敵?

玲一:はい。クガタチです。確か、副隊長だったかと。

藍子:へぇ。副隊長・・・。あの人たちの上司かしら?連絡が途切れたから、見に来たって所かしら?

玲一:かも、しれませんね。

藍子:わかったわ。私がちょちょいと吊してあげる。

玲一:僕も援護します。

藍子:できるの?

玲一:任せて下さい。

佐之:ほう、2人か。貴様らが、彼らをやったのか。

藍子:そうだといったら、どうなるのかしら?

佐之:殺す。それだけだ。

藍子:できるのならば、どうぞ?

佐之:いざ・・・参る!はぁぁぁぁっ!

玲一:レーヌさん!下がって!

藍子:断るわ。坊や。・・・リフレクション。

佐之:せぇぇぇいっ!・・・この手応え。もらった。

藍子:・・・なにをかしら?

佐之:なに!?

藍子:クガタチの隊長格には初めて会ったけど。この程度なの?

佐之:ちっ。・・・そうか。ならばっ!

藍子:坊や。そっち行ったわよ?にげなさーい。

佐之:貴様から潰すっ!

玲一:させませんよ・・・シュトゥールング。

佐之:せいっ!

玲一:どこを狙っているんですか?

佐之:なにっ!?確かに当てたはずっ!?

玲一:隙だらけです!

佐之:くっ!?匕首(あいくち)か・・・。間合いに入られればやっかいだ、ならばっ!たぁっ!

玲一:そんな突き、当たりませんね。はっ!

佐之:なっ!?この距離で外すはずがっ!くっ!

玲一:よくぎりぎりで逃げますね。やはり、隊長格ともなれば、逃げることが上手くなるのでしょうか?

佐之:貴様・・・そうか。ならば、早急に排除する。

藍子:やるわねぇ・・・あの子。なんの能力かしら?

佐之:そこの女。貴様もだ。これよりは、本気でやらせてもらう。

藍子:あら。怖いわー。

玲一:できますか?そんな事が!はぁぁっ!

佐之:できるのだ。震波(しんぱ)!

玲一:くっ!?あ、足元がっ!

佐之:せいやっ!

玲一:ぐっ・・・。

藍子:あらら。やられちゃった?

佐之:やはりな。貴様。俺の視界を攪乱させたか?

玲一:ちっ・・・見切られた・・・。

藍子:なるほどねぇ。そういうこと。

佐之:しかし、その能力も俺の目を捉え切れねば意味はないな。たたみかける!震波・二式(しんぱ・にしき)『静止』

玲一:ちっ!身体がっ・・・うごかない!

佐之:もらったっ!

藍子:返りなさい。リフレクション!

佐之:なっ!?・・・身体が・・・。

玲一:レーヌ・・・さん?

藍子:おつかれさま。坊や。彼方はさっさとジャックにお話を伝えて下さる?彼方がやられたら私、すっごく怒られるのよね。

玲一:いえ。まだやれます!

藍子:頑固ねぇ・・・。まぁ、良いわ。傍観もつまんなくなって来ちゃった。・・・彼方の闘いにそろそろ参加するわ。

佐之:貴様・・・俺の技を真似たな。

藍子:あら彼方、見切りはすばらしいのね。良い線来てるわ。でも、その目に身体がついて行ってないのは・・・残念な所ね。

佐之:2人してかかろうとも。俺は貴様らを排除する!

沙耶:うるさい・・・。何?こんな所で吠えてるのは。

玲一:しまったっ!増援!?

藍子:慌てないの。坊や。

沙耶:ここは、神聖な神社。真っ昼間にぎゃあぎゃあ騒ぐ場所じゃないの。わかったらとっとと・・・

佐之:壬車・・・隊長。

沙耶:ん?ああ。そこにいるのは三班の。今日も相変わらず殺気立ってるのね。野獣みたい。

佐之:・・・・。

沙耶:なに?怯えているの?獣風情が怯えるなんて、見てられないわね。見苦しくて。
   
玲一:クガタチか。この女も・・・。

沙耶:という口ぶりをするそこのゲスは、他のバカ共が血眼になって探してるテロリスト集団みたいね。そろいもそろって汚らわしいことをしてるのね。

藍子:そう言う貴女は、どうするのかしら?

沙耶:私?もちろん決まっているわ。私の聖域を侵す、下賤(げせん)な狼藉者(ろうぜきもの)を排除するに決まっているじゃないっ!

玲一:はぁっ!

佐之:壬車隊長の元へは行かせん!せいっ!

沙耶:汚い。見苦しい。耳障り・・・。イライラするわね・・・。すぐに終わらせるわ。氷庭(ひょうてい)!

藍子:氷の異能者・・・ね。リフレクション!

佐之:壬車隊長・・・。やはり、俺も巻き込むか・・・。

玲一:はっ!逃げなくていいのかっ!

佐之:それは、こちらの台詞だ。震波!

玲一:何度も同じ手が・・・っ!?

佐之:振動を起こせるのは地面だけではないのだよ。

玲一:クソ、空気・・・か。壁が・・・あるみたいにっ!

佐之:隊長の氷に滅されよ。悪党。

玲一:ちぃっ!

藍子:世話が焼けるわね。まってなさい。そこに行くから。
   ・・・ほら、私の手をとりなさい。

玲一:くっ・・・。た、助かりました。

藍子:いいわ。貸しにしておくから。

沙耶:氷が押し返される・・・ね。そこのあんたの能力は、反射ね。・・・全く、美しくないわ。

藍子:あら。大正解。それにしても、美しいなんてあるの?能力に。

沙耶:もちろん。なににも、野蛮なものと、美しいものはあるわ。そして、この世で、一番美しいのは私の能力。

藍子:あら、凄い自信ね?

沙耶:その余裕がいらつくわ。下賤な身分の癖に・・・。あなた。ここで死になさい!氷庭麗華(ひょうていれいか)!

玲一:氷の・・・薔薇。

佐之:壬車隊長。援護は・・・。

沙耶:要らないわ。三班の。むしろ目障りだから引っ込んでて。バカみたいにぶら下がってるそこのバカ共を回収しなさい。

佐之:・・・了解。

藍子:いいのかしら?そんな余裕で?こんな茨を出したところで・・・。

沙耶:食らいつくしなさい。茨。

玲一:なっ!?動くのか!この氷!

藍子:今は逃げなさい。ここからは彼方には手に余るわ。

玲一:でも!

藍子:役目を果たしなさいな。坊や?それに興が乗ってきたわ。私だけでやらせて?

玲一:はい。では、まかせます!

藍子:あ、あと1つ。アドバイス。敵の隙を狙うのは逃げる人間もするべきなのよ?

玲一:・・・。はい!わかりました!

沙耶:・・・尻尾を巻くなんて、見苦しいわね。

藍子:そのかわり、私が相手しますわ?・・・リフレクション!主へと返りなさい!茨!

沙耶:甘いわ。一本だけじゃないのよ?この茨は。私を護りなさい!

藍子:・・・やれやれだわ。相手しにくいわね。いくらでも呼べるなんて。

沙耶:なにをふざけたことを言っているのかしら?この領域は私の庭よ?私の思い通りにならない事なんて無いわ。

藍子:では、その庭も。返しましょう。リフレクション!

沙耶:氷兵・銃砲陣(ひょうへい・じゅうほうじん)!(かぶり気味に)

藍子:くっ!騎士なんて物もつくれるのねっ!

沙耶:回避しつづけられるかしら?私の砲兵たちの銃撃に。

藍子:回避し続けないわよ。リフレクション・ワイド!範囲内の兵よ。裏切れ!

沙耶:反逆者を殺しなさい。氷兵・槍(ひょうへい・やり)

藍子:相打ちか・・・。容赦ないのね。美しいという、自分の作品を、容赦なく壊すなんて。

沙耶:もちろんよ。この庭で私に手向かうのは、ゆるされないのだから。

藍子:じゃあ、私もすこし、本気を出すかしら・・・ねっ!

沙耶:向かってくるの?阻みなさい。氷兵・銃砲陣!

藍子:リフレクション・ワイド!反逆しなさい!

沙耶:氷庭麗華!茨よ!銃撃を阻む壁になりなさい。

藍子:フフフっ!それを待ってた!リフレクション・ワイド!襲いなさい!茨!

沙耶:なっ!?どれだけ操るつもりっ!?

藍子:はははっ!貴女が出すものすべてよっ!

沙耶:くっ!近づかれては・・・なっ視界が・・・ぶれる!?

藍子:捕まえた・・・リフレクション。

沙耶:ぎゃあああああっ!?

藍子:あははは、痛い?苦しい?骨を90度に返された気分は?左腕。使い物にならないわね?これじゃあ。

沙耶:貴様・・・。売女(ばいた)め・・・。殺してやるっ!氷ろ・・・。

藍子:リフレクション。今度は足ね?

沙耶:ああああああっ!?

藍子:くははははははっ!粋がっていた威勢はどうしたのかしら?お嬢ちゃん?痛くて痛くて泣きそうなの?
   もーっと良い声で泣いてちょうだい?私はそれにぞくぞくするから・・・ねっ!

沙耶:ぐぅぅぅぅっ!・・・なんなんだ。視界が・・・。

藍子:ナイスアシストよ、坊や。良い能力ね。彼方のそれは。

玲一:ありがとうございます。あと、やりにくいんですよ。あんな打ち合わせ方!

藍子:そう?でもちゃんとやってくれたじゃない。

沙耶:貴様ら・・・許さないっ!氷華!

藍子:あら・・・雪?こんなのが攻撃かしら?

玲一:ダメです!それに触れたらっ!

沙耶:触ったな。売女!

藍子:っ!?なにっ!?これ!?

沙耶:油断しすぎだ・・・クズめ!この雪に、触れる物は全て凍る!私以外はな!

藍子:それだって!こうすれば!・・・リフレクション!

沙耶:ムダ。凍って・・・いるのは、周辺の水分。能力で凍っている訳では・・・無いから、お得意の反射は使えない!

藍子:・・・ふふっ。やるじゃない、足掻く(あがく)その姿もそそらせるわね。

玲一:レーヌさん!騒ぎを聞きつけた一般人が集まり出しました!逃げましょう!

藍子:・・・・。そうね。まだ、表立つ訳にもいかないからね。
   また、遊んであげるわ。お嬢ちゃん。次は、もっとちゃんと泣いてね?アハハハハハ!

沙耶:ぐ・・・畜生がぁぁぁぁ!・・・・。
   ・・・佐之。ヤツら消えたな?

佐之:はい。壬車隊長。

沙耶:やれやれ。演技も大変だな。久しぶりに叫んだぞ。

佐之:ここまでする必要があったんですか?

沙耶:しかたないだろう。あの室長が私に言ってきたんだ。あの方が言うなら私はやる。
   そんなことより、ちゃんとデータは取ったんでしょうね?

佐之:もちろんです。戦闘データは両名とも取れました。

沙耶:よし。では、また寝るとするわ。

佐之:それにしても、本物と見間違う程ですね。この氷の偽物。

沙耶:もちろん。私の作り出す物は一番美しく精巧だからね。
   しかし、やはり下賤の者ね。ヤツらも。途中ですり替わって、お堂から叫んでたことも気付かなかったとは。

佐之:・・・これより、データを本部に持ち帰ります。壬車隊長は・・・。

沙耶:分かってる。ここを片付けたら、一度は顔を覗かせる。私に指図しないで。

佐之:では、失礼します。

(間)

沙耶:・・・ふぅ。厄介なやつらに喧嘩を売られたものね。
   ・・・確かあの女。次にあったら絶対に凍りづけにしてやる。

藍子:次回予告

佐之:闇は集う。

沙耶:そこで生まれるは、狂気か。憎悪か。

玲一:闇ツ世界 第十四話 疑惑の芽

藍子:さぁ、もーっと苦痛に、泣いてみない?






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