審判の天秤

朝倉純也♂ 21歳 大学生、いたって普通の取り立てて書くことの無い普通の男。
閻魔♂   ?歳 閻魔様、死者を裁く人
黄泉♀   ?歳 閻魔様の助手、裁くのを手伝う人


純也♂:
閻魔♂:
黄泉♀:



純也「いっててて・・・・、いや、死ぬかと思ったよマジで、ヒロシ、お前は無事・・・・、
   ってあれ、ここ、どこ?俺ヒロシの助手席にいたはず・・・・、あれ?」

黄泉「あの世の狭間へようこそ」

純也「うわぁ!」

黄泉「あら、驚かせてしまったみたいですね、申し訳ございません」

純也「え、いやいや、こ、こちらこそすみません、あの、ちょっと大切な所聞き逃した
   みたいなんで、もう一回最初の言葉貰って良いですか?」

黄泉「はい、あの世の狭間へようこそ、でよろしいでしょうか?」

純也「そう、それ!あの世の狭間って何!?」

黄泉「天国と地獄の入り口でございます」

純也「・・・・・マジで?」

黄泉「はい、真でございます」

純也「死ぬかと思ったじゃなくて、俺死んでたのか、マジで」

黄泉「今から純也様には閻魔様の裁きを受けていただきます」

純也「え、閻魔様!?待って、俺なんも悪い事してないよ!?」

黄泉「それを決めるのは閻魔様でございます」

純也「マジかよ・・・・、え、もしかして俺、地獄行きなの?」

黄泉「それを決めるのも閻魔様でございます」

純也「そんな殺生な・・・・」

黄泉「では、参りましょうか」

純也「え、もうちょっと待ってよ、名前、そう名前まだ聞いてないよ、
   俺、純也って言うんだ、お姉さんは?」

黄泉「申し遅れました、私、黄泉ともうします、改めてよろしくお願いいたします」

純也「黄泉さん、よろしくっす」

黄泉「では、閻魔様の所に参りましょうか」

純也「ですよねー、雑談挟む余地なんてないですよねー」

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黄泉「こちらでございます、どうぞお入りくださいませ」

純也「ど、どうも・・・・、し、失礼しまーす・・・・」

閻魔「待ちくたびれたぞ、朝倉純也」

純也「ひぃ!す、すみませんすみません!」

閻魔「すみませんは一回で充分だ」

純也「す、すみません・・・・」

閻魔「では朝倉純也、これから貴様の審判を行う」

純也「審判?」

黄泉「純也様が天国に行かれるか、地獄に行かれるか、
   それを左右する審判でございます」

純也「じゃ、じゃあまだどっちに行くか決まってないんだ?」

黄泉「その通りでございます」

純也「良かった、まだ救いが残されてて・・・」

閻魔「これから、貴様にいくつか質問をする、
   その問答の中で処遇を決定する、心してかかれ」

純也「は、はい」

黄泉「閻魔様、審判の天秤をお持ちしました」

閻魔「うむ、ご苦労」

純也「えっと、何ですか、それ」

黄泉「これは貴方の善と悪を量る天秤でございます、
   正面から見て右が善、左が悪です」

閻魔「善に傾けば天国、悪に傾けば地獄行きだ、いいな」

純也「は、はい・・・・」

黄泉「では、最初の問いです、貴方の両親は生きていらっしゃいますか?」

純也「え、こんな質問で良いの?はい、生きてます、けど・・・、
   って待って待って!何で悪に傾いてんの!?」

閻魔「当然だ、親より先に死す事は大罪である、
   地獄に落ちてもおかしくない様な」

純也「待ってくれよ!俺のは不可抗力だろ!?いきなり地獄行きはないだろう!」

閻魔「まだ器は落ちておらぬ、挽回して見せろ」

黄泉「次の問いです、貴方は人を傷つけた事がありますか?」

純也「あ、あるよ、・・・・・あ、善に傾いた?」

閻魔「悪しき事をこの状況で正直に話す、傷つける事は悪い事だが、
   今正直に答えた事は紛れも無い善だ」

純也「最初は正直に答えて傾いたくせに・・・・」

黄泉「そんなに単純な問いではないのです、人を裁くのですから」

純也「そんな簡単に地獄行きされたらたまんないけどな・・・・」

閻魔「安心しろ、死後の世界は平等だ、どんな人間だろうと基準は同じだ」

黄泉「生前の評価ではないのです、いかに心が曇っていないかなのです」

純也「心の、曇り?」

黄泉「貴方は生前、成績が良かったそうですね」

純也「せ、成績?ま、まぁそれなりに・・・」

閻魔「では、次の問いだ、授業態度はどうだったか?」

純也「授業態度・・・?ほ、他の奴に比べたら真面目だったと、ってあぁ!悪の方に!」

黄泉「今のは何故悪なのか分かりますか?」

純也「分かるわけ無いだろ、今のは正直に答えたぞ」

閻魔「他の奴に比べれば、その言葉に他者を見下す気持ちが含まれていた、
   貴様の真面目は、体裁を取り繕うだけの真面目だったはずだ」

純也「う・・・・、確かに、そうだった、かも・・・」

黄泉「人と比べて、ではなく自分で自分を見てどうだったか、ですよ」

閻魔「では、次の問いだ、貴様は、何故死んだ?」

純也「死んだ、理由・・・・?事故死に理由なんてある訳・・・!」

閻魔「ならば、原因はどうだ?」

純也「そんなのヒロシの運転ミスに決まって・・・!」

黄泉「悪に傾きましたね」

純也「あ・・・・!」

閻魔「真実が分からぬまま友のせいにする、それは・・・・」

純也「なんだよ!さっきから俺に不利な質問ばっかじゃねぇか!」

黄泉「そんな事はないですよ」

純也「そうじゃねぇか!地獄行きならこんな回りくどい事せずに
   きっぱり言ってくれりゃいいだろ!」

閻魔「ならば聞こう、貴様はここで地獄行きと宣言されても良いのか?」

純也「良い訳ねぇだろ!けど、結果は目に見えてんじゃねぇか!」

閻魔「一つ教えてやろう、今この段階ではまだ結論は出ていない」

純也「う、嘘だ!」

閻魔「信じるか信じないかは貴様の自由だ」

黄泉「続けるのも、諦めるのも貴方次第ですよ、純也様」

純也「く・・・・、まだ望みがあるなら、続けるさ、当たり前だろう」

閻魔「良かろう、では続けよう、黄泉」

黄泉「かしこまりました、では次の問いです、
   貴方に、大切な人はいましたか?」

純也「大切な人、いたよ、父さん、母さん、他にも沢山いた」

黄泉「沢山とは、例えば?」

純也「学校の友達、バイト先の同僚、とかかな、
   ずっと世話になりっぱなしだったけどな」

閻魔「では、今何か出来るとしたら何をしたい?」

純也「何かって、何でも良いのか?」

閻魔「出来るとしたらだ、実際に出来るわけではないぞ」

純也「分かってんよ、死んだ人間に何が出来るってんだ」

黄泉「でも、思うのは自由ですよ」

純也「まぁね、んー、なんかあるとしたら挨拶してきたいかなぁ、
   逝って来ます、またあの世で、なーんてな」

閻魔「ほぅ・・・」

黄泉「どうやら、本心のようですね」

純也「な、なんだよ、その珍生物見るような目」

閻魔「いや、類稀なる考えだと思ったまでだ」

純也「やっぱり珍生物扱いだよ、ひでー」

黄泉「ふふっ、では、閻魔様、そろそろ」

閻魔「うむ、そうだな、最後の質問だ」

純也「えっ!?マジで!?」

閻魔「うむ、嘘はつかぬ、次が最後の問いだ」

純也「うわぁ・・・・もうちょっと待ってもらえたり・・・・・」

黄泉「次の問いです」

純也「しないよね・・・・」

黄泉「貴方が行くのは天国と地獄、どちらだと思いますか?
   理由も述べてください」

純也「・・・・・・どちらかは、もう決定してる?」

閻魔「それはお前次第だ」

純也「そっか・・・・・、俺は、地獄だと思う」

閻魔「ほぅ・・・」

黄泉「どうしてそう思うのですか?」

純也「天国に行けるハードルがどんな高さか全然分かんないけどさ、
   我ながらそんなに褒められた人生じゃなかったかなって思うんだよ」

閻魔「どうして今そう思う?」

純也「二人に色々聞かれたじゃん、友達に対する考え、周りに対する考え、
   自分への甘え、とかね、それ以上の何かを出来たかって言われりゃNOだし」

黄泉「天国に行きたいとは思わないのですか?」

純也「行きたいに決まってるじゃん?地獄か天国か、だったらね、
   けど、俺そんなに立派な人間じゃないもん」

閻魔「なるほど、自分を顧(かえり)みて出した結論か」

純也「そうだな、まぁ、そんな訳で、これが最後なんでしょ?
   パパッと結論出しちゃってよ」

黄泉「かしこまりました、では、閻魔様、判決をお願いいたします」

閻魔「判決、朝倉純也、貴様の逝き先は・・・・・・・・・、天国だ」

純也「あー、やっぱりかぁ・・・・ってえ!?」

黄泉「良かったですね、純也様、貴方の逝き先は天国に決まりました」

純也「え、え?ななな、なんで?」

閻魔「最後のあの問いに清々しく地獄と答えられるものは中々おらぬ、
   久しく見なかった真っ直ぐな人間だ、良かったぞ」

純也「え、でも俺、そんな大したことしてないぜ?」

黄泉「だとしても、純也様の心は曇っていませんでした、
   充分天国に行く資格をお持ちだったのです」

純也「・・・・・・最初から決まっては・・・?」

閻魔「何度も言うが、ない」

純也「そっか、そっか!良かった!マジで良かった!」

黄泉「では、天国はあちらです、到着までお気をつけて」

純也「おう!ありがとうな!機会があったらまた会おうな!じゃ!」

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閻魔「あそこから逆転した人間なんぞ久しぶりだな」

黄泉「そうですね、やはり類稀なる者だったようですね」

閻魔「更には我々にまた会おうなどとは、あいつは来世でもまた裁かれるつもりか」

黄泉「ふふっ、来世でも天国にいけると良いですね」

閻魔「全く、裁かれずに行くのが一番であろう、我々の仕事は暇でしかるべきだ」

黄泉「えぇ、と言ってる間に新しい方が」

閻魔「はぁ・・・・、では黄泉よ、連れて参れ」

黄泉「かしこまりました、では、次の審判へ・・・・」



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シナリオの感想とか演じてみて台本としての感想とかいただけると作者がよろこぶかも・・・w