そうして僕らは、虹になる。   作 RYO.

赤口蜜柑(せきぐち みかん) 委員長。
黄金篤緑(こがね あつのり) 軽音部。
藍澤葵(あいざわ あおい) 文芸部。
桜田康紫(さくらだ やすし) 生物部。
男生徒(※桜田康紫役が兼ねる)
女生徒(※藍澤 葵役が兼ねる)



赤口♀:
黄金♂:
藍澤♀&女生徒♀:
桜田&男生徒♂:



虹玉学園三年六組の教室。学校のチャイム。
生徒達の喧騒。皆、教室から出て行く。

赤口「えー、これで授業は終わりますが、クラス内イベントはまだ決まっておりませんので、
意見要望等のある方は放課後を使って話し合いをしたいと思っております。
皆さんの前では発表できなかった意見や実はこんなイベントをやってみたかったなどのアイデアがございましたら、随時、受付いたします。
よりよい文化祭の開催のためには皆さんのご協力が、ご協力が必要なのです。
学園生活最後の文化祭。悔いが残らないように皆さんで総力を結集させ、全力を尽くしましょう。よろしくお願いします」

赤口「あの、お時間があれば少しでも話し合いしませんか」

女生徒「ごめんなさい。これから陸上部あるから。ホント、ホントごめんね」

赤口「でも、外雨降ってますよ」

女生徒「廊下で走りこむの。ごめんね、もう行かないと。赤口さんが勝手に決めちゃっていいから、それじゃあ」

赤口「あの」

男生徒「俺?」

赤口「は・な・し・あ・い、しませんか?」

男生徒「いやいや、無理だよ。バイトあるしさ」

赤口「休みの日はいつですか?」

男生徒「え?」

赤口「バイトの休みの日はいつですか?明日でも明後日でもいいので、話し合いしましょうよ。このままじゃ後悔しますよ」

男生徒「ごめん、赤口。あんまり興味ないや」

赤口「え?」

男生徒「そういうことだからじゃあね。ごめんね。イベントは何でもいいから」

赤口「明日も待ってますからきてくださいね。お願いします。
・・・・・・えーと、残りは黄金さんと藍澤さんと私の三人ですか」

雨。

黄金「別にいいんじゃないか、三人でも。赤口は悪くないって」

赤口「そう言って頂けるとありがたいです」

黄金「それにさ、やる気がない奴なんていてもいなくても同じなんだから」

赤口「そういうもんですかね」

黄金「そういうもんなの。参加してくれなくても、誰も困らない」

藍澤「それにしてもひどい時間だったと思わない?」

赤口「えぇ、ほとんどの人が寝ていたり、喋っていたりしていましたもんね。
あんまり褒められたものではありませんけど。それに、第一候補が・・・・・・」

藍澤「『休憩室』ってねぇ」

黄金「要するに何もしないってことだろ」

藍澤「それもこれも先生が仕事を全うしていないからよ」

黄金「あいつ、基本的にやる気ないからな」

赤口「先生も先生で他の事に手一杯なんですよ」

黄金「忙しいって言ったって『休憩室』で決まりそうなんだぞ?」

藍澤「文化祭の何たるかを知っていないのよ」

赤口「まぁまぁまぁまぁ、先生への文句はそれくらいして、もうそろそろ話し合い始めましょうか」

桜田が教室に入ってくる。

桜田「あ」

黄金「あ。桜田?どうしたんだよ」

自分の机の中から本をとり出し。

黄金「桜田。おい、桜田。なんで無視するんだよ」

小走りで教室を出ようとする。
それを止める黄金。

黄金「おい、ちょっと待てよ」

桜田「嫌だ。絶対に嫌だ」

黄金「まだ、なんにも言ってないだろ」

桜田「どうせ、話し合いに参加しろっていうんだろ」

黄金「それは、どうだろうな」

桜田「どうだろうな。じゃないよ。誤魔化せてないからね」

黄金「じゃあ、なんで戻ってきたんだよ」

桜田「忘れ物をとりに来ただけだよ。これ、昆虫図鑑。
別に話し合いに参加しようとかそんなんじゃなくて」

黄金「それも何かの縁だ。とりあえず座れ」

桜田「座らない」

黄金「座れ」

桜田「座らない」

黄金「座れ」

桜田「座らない」

黄金「座らない」

桜田「座れ」

黄金「はい!・・・・・って俺が座っちゃダメなんだよ。いいからとりあえず座れって」

赤口「さっきまで三人でもいいって言ってた人とは思えませんね」

藍澤「やる気がない奴はいらないとも言ってたのに」

桜田「うーん。まぁ、そこまで言うならわかったよ。でも、いい案とか意見とかあるわけじゃないからね。
あんまり期待しないで欲しいなって」

赤口「大丈夫ですよ。参加していただけるだけでありがたいです。
えーと、それでは、ゴホン。長らくお待たせいたしました」

藍澤「別に待ってないけどね」

赤口「これはお約束みたいなものです」

藍澤「つづけて」

赤口「皆様、本日はお忙しい中、私のためにお集まり頂き、心より感謝申し上げます」

桜田「そんな堅苦しい感じでやるの」

黄金「そんな、前置きすっとばして、」

赤口「すいません。性分なもので。えーと、それでは本題に入らせていただきます。
本日は・・・・・・お日柄もよく、春の日もうららかに晴れて、今回の会議を我らとともに天地も寿(ことほ)いでおります。
絶好の会議日和でございます」

黄金「晴れてないから、土砂降りだから」

桜田「しかも、会議に日和なんてないよ」

藍澤「前略」

赤口「えーと、・・・・・・ご紹介にあずかりました」

藍澤「誰も預けてない」

赤口「えー、議長といたしまして、僭越ながら一言ご挨拶申し上げます・・・・・・違いますかね」

藍澤「違うよ」

桜田「これはもはや病気なんじゃないか」

黄金「前略!」

赤口「皆様におかれましては益々ご健勝のこととお慶び申し上げます。
日増しに秋の深まりを感じる季節となりましたが、いかがお過ごしでしょうか。
こんにちの虹玉学園は、文化祭開催にあたって学生の活気に包まれております。
さて、今回私達は虹玉文化祭のクラス内イベントとして、『休憩室』が第一候補にあがっておりますが、
よりよい文化祭の開催のために、身勝手なお願いとは承知しておりますが、ご再考のほどよろしくお願いいたします。
秋が深まりゆく季節、お体にお気をつけてお過ごしください」

黄金「手紙か」

赤口「すいません。性分でして」

藍澤「早く本題に入りましょう」

赤口「では、どのように話し合いを行いましょうか?」

黄金「別に左回りに順番に案を出していくでいいんじゃないか」

赤口「それでは、そういたしましょう」

藍澤「じゃあ、赤口さんからお願いね」

赤口「えーと、私からですか」

黄金「まぁ、いいだしっぺみたいなとこあるからね」

赤口「で、でも、私は別に・・・・・・」

黄金「なんでだよ、一番話し合いをしたがってたじゃないか」

赤口「と言いましても、私のようなものが一番手というのは恐れ多いと言いますか、もったいないと言いますか。
エーと今回はパスです。さぁさぁ、次の方お願いいたします」

藍澤「そう?じゃあ。左回りだから、次は桜田」

桜田「ない」

黄金「え?」

桜田「別に案なんてないよ。僕もパスで、次の方。はい、藍澤さん」

黄金「待て待て待て。ないって言ったってちょっとくらいあんだろ。案の一つや二つ」

桜田「といってもなぁ。えーと、強いて言うなら昆虫の標本を展示するってどう?」

黄金「だめ」

桜田「そんな真っ向から否定しなくても」

藍澤「私もそれはどうかと思うわ。標本って」

桜田「そうか。ここでもダメか」

赤口「ここでもというのは?」

桜田「生物部でも全く同じ案を出したんだけど、皆にだめって言われちゃって」

藍澤「当たり前でしょう」

桜田「そうかなぁ。勘違いされやすいんだけど、虫って以外に可愛いんだよ。あーこの図鑑みてください。
世界中の美しい昆虫達が登場するんだけど。青く輝くヘレナモルフォチョウ、世界一美しいチョウといっても過言じゃないね、
そして、全身金属光沢リンネセイボウ、まさに空飛ぶ宝石、メタリックカラーが魅力的なこの虫はケンランカマキリ。
とっておきはこれ、ヤマトタマムシ。きれいでしょう?」

赤口「わぁ・・・・・・た、玉虫ですか?」

桜田「えぇ、なんとも言えない色をしているでしょう」

藍澤「汚い」

黄金「濁ってる」

藍澤「見てるとなんかむしゃくしゃしてくる」

黄金「もっとはっきりとした色にならないのか」

桜田「二人は玉虫になにか恨みでもあるの?そこまで言わなくてもいいじゃないか。赤口さん。赤口さんはどう思う?」

赤口「すいません。あんまり私にその図鑑を見せないでください。虫が大の苦手なんです」

桜田「赤口さんも?もっとちゃんと見てよ。虹みたいなもんでしょ」

黄金「言っておくけど、全然違うからな。同じ七色でも虹と玉虫じゃはっきりしている度合いが違う」

藍澤「虹はコントラストが綺麗な感じがあるものね」

黄金「そう、その、コン#$☆トみたいな奴だ」

藍澤「言えてないじゃない。コントラスト」

赤口「桜田君には悪いですが、私も同感です。虹と玉虫は違うと思います。子供頃に虹って描いたことありませんか?
クレヨンとか色鉛筆とかでいろいろ塗りつぶすと汚くなるんですよ。
だから、赤、橙、黄、緑、青、藍、紫。それぞれ七本の曲線を重ならないように綺麗なコントラストで描くんです」

桜田「それもこれも感じ方はひとそれぞれ、玉虫色ってことで。・・・・・・えーと、この案は聞かなかったことにして、パスで」

黄金「なんだよ、二人して。こういうのはやる気の問題だろ」

赤口「まぁまぁ、次回ってことで、順番がきたらちゃんと話しますから」

黄金「はぁ」

桜田「じゃあ。次の方」

藍澤「じゃあ、やっと私の番ね。私が提案するのは朗読会よ」

赤口「朗読会ですか。いいですね。子供の頃よく近くの図書館で見ていましたよ」

藍澤「そう。朗読会は老若男女関係なく、お客さんに本のすばらしさと知性を分け与えることができるのよ。
現に、本を好きな人に嫌な奴はいないからね」

赤口「でも、朗読会なんてどうやるんですか」

黄金「そんなもん気合だよ」

藍澤「気合は置いておいて。去年の文化祭で、文芸部でやったのよ、朗読会。
その時の道具だとか暗幕だとかが残ってると思うわ」

赤口「経験者がいるのは、頼もしいですね」

藍澤「後は、教室を暗幕やダンボールで真っ暗にしたり、雰囲気を作るために、天井と壁に布を貼り付けたりね。
ステージにスポットライトを当てれば、中々さまになるわよ」

赤口「ちなみに、去年は何をやられたんですか」

藍澤「イマヌエル・カント作『純粋理性批判』よ」

赤口「えっと。すいません。もう一度お願いいたします」

藍澤「だから、イマヌエル・カント作『純粋理性批判』」

赤口「すいません。存じ上げませんね。知ってます?」

桜田「いやぁ・・・・・・」

藍澤「なんで知らないのよ?名作でしょう?哲学界を震撼させた、認識論に関する一作よ」

桜田「もっとわかりやすくお願いできないかな」

藍澤「つまり、人間の認識は、感性、悟性、理性によって構成されていて、
同等の感性と悟性を保有する者は常に同等の理性を得ることができると強く書き表している作品なの」

赤口「全然分からないですね」

黄金「さっぱりだ」

藍澤「貴方達もなのね」

桜田「え?何が?」

藍澤「貴方達も名作と呼ばれた作品達を読んでいないのね。ホントがっかりだわ」

桜田「でも、僕も結構、本を読むよ」

藍澤「どうせ、ライトノベルだとか、漫画だとか、大衆小説だとかでしょう。そういうのは私からしたら、読書とは呼ばないの」

黄金「偏りすぎた意見だろ。漫画だって結構おもしろいぞ」

藍澤「面白いとかそういうことじゃないの。貴方達もどうせ、本の読み方も知らないんでしょう?
そのシナリオがどういうテーマで、どういう題材で、どういうモチーフを表現しているかも考えずに、
ただひたすらに面白さだけに身を任せているのよ。ホントむかつくわ」

赤口「急にどうしたんですか?落ち着いてください」

藍澤「別に怒っているわけじゃないんだけどね」

桜田「・・・・・・えーと。興味ありますよ。そのイマヌ・・・・・・」

藍澤「イマヌエル・カント!本当に?」

桜田「う、うん。えーと、感性と、悟性と、・・・・・・理性の話ですよね」

藍澤「えぇ、感性っていうのは、人が感覚をどう感じるかってことね」

桜田「はぁー」

藍澤「で、悟性ってのは、その感じたことをどう捕らえるかってこと」

桜田「へぇー」

藍澤「最後に、理性。その捕らえ方によってどう判断するかってことね」

桜田「なるほどぉ・・・・・・」

藍澤「ね、興味深いでしょう?いやぁ、あなた文芸部の見込みあるわよ。少なくともイマの部員よりはね」

赤口「桜田さんの優しさに感謝ですね」

黄金「文芸部って今年はなにやるんだよ?」

藍澤「え?・・・・・・と。コスプレ(小さい声で)」

黄金「え?なんて?」

藍澤「・・・・・・コスプレ(小さい声で)」

黄金「オスプレイ?」

藍澤「コスプレよ!コスプレ。コスプレ撮影会をやることになったの」

黄金「コスプレって。テーマがどうだとか、シナリオがどうだとか言ってたのに。ねぇ」

赤口「かわいそうですよ。黄金さん」

藍澤「別にいいでしょう。部活の話は。はい、次」

黄金「よし。ようやく俺の出番だ。みんなのやる気ない意見とは違うからな」

藍澤「ひどい言いようね」

黄金「いいか、みんなでライブをするんだ。教室使ってライブハウス風のイベントをやってみたかったんだよ」

赤口「ら、ライブハウスですか?軽率な行動をする若者だけが集まり、過激な爆音の中、
全員がリズムに合わせて首を上下運動させるだけの体裁が良いとは言い難い催し物の。
あの、ライブハウスですか。言語道断ですよ。アンプやドラムの振動は相当響きますし、
保護者の方や先生方からの印象もあまりいいものとは思えません」

黄金「それは偏見だ。というか、ライブハウスなんて普通に行くだろ」

赤口「私は行きません」

黄金「逆に偏りすぎてるんだよ。それに、そういう迷惑や世間体だってやる気があれば何とかなるんだから。最終的にはやる気の問題なの」

赤口「よくわかりませんね」

藍澤「でもさ、クラスでライブってどうやってやるの?楽器弾ける奴なんて、黄金くらいしかいないんじゃないの」

赤口「そうですね。ほかに聞いたことありません」

黄金「最悪俺一人でもやるよ」

桜田「他の人はなにしてればいいの」

黄金「ライブハウスなんだから、ドリンク売ったり、食べ物売ったり、オプションで追加したっていいんだぜ」

桜田「僕は賛成だな」

藍澤「まぁ、その案もいいけど、最終的に私の案のほうが優先されるべきね」

黄金「あ?なんでだよ」

藍澤「あのね?あんた軽音部でしょう?別にクラスでやらなくてもいいじゃない。部活があるんだから」

黄金「何がいいたいんだよ」

藍澤「部活のイベントとしてステージや視聴覚室で披露すれば良いじゃない。わざわざクラス内イベントでやらなくても、」

黄金「(食い気味に)ダメだ」

藍澤「なんでよ」

黄金「それは別に・・・・・・どうでもいいだろ。なにをやりたいっと思っても俺の勝手だ」

桜田「でも、藍澤さんの言うことにも一理あると思うな」

黄金「だから、えーと、その、あのな・・・・・・」

赤口「急に歯切れが悪くなりましたね」

黄金「えーと・・・」

桜田「なにか部活であったんでしょう?」

黄金「なんにもねぇよ」

桜田「本当はあったんでしょう」

黄金「ない」

桜田「ある」

黄金「ない」

桜田「ある」

黄金「ない」

桜田「ない」

黄金「ある」

桜田「ある」

黄金「ある。そうなんだよなぁ。あるんだよなぁ」

桜田「それで?」

黄金「そんな重い話でもないんだけどさ、最近部室に誰も来ないんだよ。うまくいってなかったわけじゃないんだよ。
ちょっと前までは毎日夜遅くまで練習してたし、近くのライブハウスには週一で通って演奏してたしな。
まぁ、でも、高3にもなったらいろいろあるだろ。進路とか、バイトとか、恋愛だとか」

桜田「まぁ、部活が全てじゃないしね」

黄金「少なくとも俺にとっては部活が全てだった。それに、部活に全精力かけてる奴もいるんだってことを俺は知って欲しいね」

赤口「それで、その後はどうなったんですか?」

黄金「文句言ったら、大喧嘩して自然消滅。流石に、三年のこの時期になってまで、毎日練習やろうって奴はいないんだよ。
言っておくけど、全てやる気の問題なんだ」

桜田「他の部員の要望は聞いてあげなかったの?」

黄金「聞いたには聞いたさ。でも、全然ダメ。根性が足りない。バイトで忙しいから、出れる日だけでるだとか。
彼女とデートがあるから、土日だけはやめて欲しいだとか」

藍澤「土日もやってたんだ」

黄金「あたりまえだろ『クレイジーレインボー』舐めんなよ」

藍澤「なめてはないよ。変な名前だけど」

黄金「だから赤口、マジで頼むよ。部活で演奏できない分、このクラスで演奏したいんだ。マジで、マジで、絶対に盛り上げるから」

赤口「で、でも体裁もありますし」

黄金「音量もそんなに出さないし、先生方にも頭下げるからさ。マジで、このとおりだ」

赤口「・・・・・・頭上げてください」

桜田「そこまで言ってるならやらせてあげてもいいんじゃないの?別に誰かに迷惑かかるわけじゃないし」

赤口「で、でも。えーと」

黄金「ほんと、この通りだ。平日の練習も夜九時までにするし、土日の活動は8時からでいいからさ」

藍澤・赤口・桜田「え?」

藍澤「ちょ、ちょっとまって。どうゆうこと?」

黄金「いや、だから、俺一人じゃ演奏できないんだろ。楽器弾けそうな奴を集めて練習させないと。文化際まであと一ヶ月、全力で打ち込まないとな」

藍澤「それって私たちも参加するの」

黄金「もちろん。クラス内イベントなんだから、ステージに立つ以外の奴もしっかり集まってライブを盛り上げないと。それに、会場設営もあるだろ」

赤口「会場設営だったら、平日だけで間に合いませんか?」

黄金「え?鉄筋組んだり、花火の準備したり、バックモニターで流す映像作ったり、平日だけじゃ間に合わないだろ」

赤口「どれだけの規模を想像しているんですか?室内ですよ」

藍澤「却下ね」

黄金「なんでだよ!休憩室よりマシだろ」

桜田「それなら、休憩室のほうがいいかなって」

黄金「でた。やる気のなさが伺えるね」

赤口「なんだか、煮え切らない議論になってしまいましたね」

黄金「そこまでいうんだったら、赤口、お前も案出してみろよ。俺の意見に反対するほどのさぞかし面白い案なんだろうな」

赤口「えーとですね」

黄金「ほら、ないんだろ。それじゃあ、休憩室となんら変わりないだろ」

赤口「いえ、あるにはあるんですけど、ちょっとお恥ずかしいといいますか」

桜田「なんかうれしそう」

赤口「え?いやぁ、そんなことないですけど」

桜田「それで、どんな案なの?」

赤口「やっぱ、気になりますか?」

桜田「これ、聞かないとだめかな」

藍澤「はやく」

桜田「えーと、この話し合いをしようとしてくれたのも赤口さんだし、何か良い案あるのかなぁって」

赤口「いい案ですねぇ。そうですねぇ。我ながら案にはちょっとばかり自信があるんですよ」

黄金「いいから早く言えよ」

赤口「まぁまぁ、そんなに焦らないでください。絶対に驚かないでくださいね。
私の案とは・・・この学校のいいところを皆で調査して研究発表するんです」

黄金「聞いて損したぁ」

藍澤「あなたも中々残念ね」

赤口「え?え?な、なんでですか?いいじゃないですか研究発表」

藍澤「いいとか、悪いとかそういう問題じゃないんだよね」

赤口「せっかく先週から考えていたんですよ。私の努力はどうなるんですか」

藍澤「先週の貴方を問い詰めたい気分だわ」

赤口「創立六十周年の学校の歴史を1日ごとにまとめた、虹玉学園史。
部活動の活躍を存分に伝えるべく、4時間にも及ぶプロモーションビデオの放送。
本学校を卒業していったОB・ОGの方々全員からの学校への感謝の手紙、総数約1万8千人分。
そして最後に、拡大した歴代校長の全身写真を教室に展示。ドンドンドンと、圧巻ですよ」

黄金「圧巻ですよ。じゃないよ。え?なにそれ、そんなの先週から考えてたの?本気(まじ)で?」

赤口「えぇ、おお本気(まじ)です。ですから私はこの話し合いを開催したわけです。
休憩室では、あまりにも体裁が悪過ぎます」

藍澤「赤口さん。貴方には悪いけど、その案はあまりにも酷よ」

赤口「何がですか?みんな大好き虹玉学園ですよ」

藍澤「その虹玉学園に対して、貴方ほどの熱意をもっている人はいないの」

赤口「そんなことないですよ」

藍澤「そんなことあるんだって」

赤口「ありません」

藍澤「あるんだって。それに、あんまり言いたくないけど、赤口さんがさ、虹玉学園好きなのって。・・・・・・教頭の影響でしょう」

赤口「私の親は関係ありません」

黄金「そう言ったって周りから見たらそう見えちゃうよな」

赤口「私は。私は皆さんのことを思って頑張ってるんです」

黄金「どうだかねぇ」

赤口「桜田君は?」

桜田「え?」

赤口「桜田君はどう思う?研究発表!絶対に良い案だと思うの」

桜田「えーと、違うって思うな。その、赤口さんのいう皆さんって僕にはよくわかんないんだよね。
多分、クラスの皆は休憩室で十分だと思ってるんじゃないかな」

赤口「それは、それは・・・・・・」

黄金「まぁ、そういうことだ。だから、ライブハウスの準備しようぜ」

藍澤「まだ、ライブハウスに決まったわけじゃないからね」

黄金「でも、朗読会よりはマシ、」

赤口「(割り込むように)別にいいじゃないですか」

桜田「え?」

赤口「別にいいじゃないですか。別にクラスの人たちが何をしたいか知らなくてもいいじゃないですか?
別に何を考えているか知らなくてもいいじゃないですか。別に私の正義を押し付けてしまってもいいじゃないですか」

藍澤「急にどうしたの?」

赤口「あまり、興味ないんですよ。クラスの人達の事情なんて」

桜田「赤口さん?」

赤口「どうせ、皆さんだって学校のこともクラスイベントのこともどうでもいいと思ってるんです。
だったら、私がそんなやつらのこと理解してあげれなくても、いいじゃなですか。私だって人間なんです。
周りに迷惑をかけてしまってもいいじゃないですか。何が悪いんですか」

桜田「赤口さん落ち着いて、」

赤口「落ち着いてなんていられませんよ。黄金さん、そうですよ。私は親の影響を存分に受けたんです。
世間体を気にしろって、体裁を気にしろってそうやって育ってきたんです。
いまさらどうしろっていうんですか?私だって好きで体裁を気にしているわけじゃないんです。生まれ持って身に沁みたものなんです」

黄金「それは、お前の我侭だろ」

桜田「黄金君」

赤口「いいんです。桜田さん。そうなんです。私の我侭なんですよ。私が持つエゴイズムなんですよ。
でも、でもですよ。それを言ったら皆さんも我侭でしょう。
体裁ばかり気にする私も、やる気を他人に強要する黄金さんも、妥協を許さない藍澤さんも、
文化祭に興味のないクラスの方々も、揃いに揃って皆さん我侭なんですよ。
自分勝手な集団なんですよ。それでも私達はそうやって生きてきたんです。自分を信じて生きているんです。・・・・・・仕方ないでしょう。」

沈黙。

赤口「すいません」

藍澤「虹」

赤口「え?」

藍澤「その、虹みたいだなって。さっき言ってたでしょう。それぞれの色が重ならないように綺麗なコントラストで描くって。
塗りつぶしたり、混ざったりすると汚く濁る。
まさに私たちみたい。一人一人、自分の持っている意見を正しいと思って生きている。
決して交わることができない。まさに私達は虹なんだよ」

黄金「はぁー、結局分かり合えないってこったな」

藍澤「仕方ないんじゃない」

赤口「えーと、どうします?これからまだ話し合いますか?」

藍澤「・・・・・・うーん。もうこれ以上話し合っても意味がないわよね」

黄金「よぉし、解散、解散。もう、休憩室でいいよ。ライブハウスはまた、個人的にやるから。学校でやってもみんな興味ないだろうしな」

桜田「まって」

黄金「なんだよ。まだ言いたいことでもあるのか」

桜田「本当にこれでいいの?」

黄金「仕方ないだろ。みんなの意見も方針も方向性もバラバラなんだから」

赤口「桜田さん。私もう諦めましたから、休憩室でいいですから」

桜田「なんか、違うんじゃないかな」

藍澤「なにも違わないの」

桜田「まだ話し合い続けてもいいんじゃないかな」

藍澤「人の意見も考え方も人それぞれ。後は個人次第なの」

桜田「違う。違うよ」

赤口「桜田さんありがとう、でも、もう大丈夫なんです」

桜田「違うよ」

赤口「ちがくないんです」

桜田「違うよ。赤口さんの体裁ってそういうことなの?」

赤口「え?」

桜田「体裁がいいってさ。聞こえが悪いし、自分をよく見せたいだけかもしれないけど、僕は嫌いじゃないよ。
でも体裁がいいならこういうとき皆の意見を認めたり、交わりあおうとするもんじゃないの。黄金君もだよ。やる気ってそういうことなの?
やる気ってさ。人のやることや言うことに活力を分け与えるもんなんじゃないの?強要するだけじゃあ誰もついてこないよ。
藍澤さんも頭がいいのは分かるけど、言ってることが難しいんだよ。君の大好きなカントだって言ってるんでしょう。
人の理性は間違うことはないって。感性や悟性が違うだけだって。物事の感じ方や物事の捕らえ方で理性が違っているように見えるだけだって。
これってさ皆で感じ方や捕らえ方を共有できれば、バラバラにはならないってことなんじゃないかな。綺麗に混じれるってことなんじゃないかな。
僕達は虹なんかじゃなくて、玉虫にならないといけないんだよ。汚くなんてないって、濁ってなんてないって。この色こそ、生きているって色なんだよ」

雨止む。

桜田「ご、ごめん。大声出しちゃって・・・・・・」

赤口「まぁ、大丈夫ですよ。ちょっとびっくりしましたけど。ね、黄金さん」

黄金「お、おう、そうだな。桜田もなかなかやる気あるなっておもったよ」

桜田「ごめん」

黄金「なんで謝るんだよ。お前は悪くないよ」

桜田「ごめん」

黄金「よし、仕方ねぇな。明日もちょっと話し合うか」

桜田「え?」

黄金「赤口も、藍澤もやるだろ」

赤口「えぇ、もちろんですよ」

藍澤「私は、言われなくても行こうとおもってたけどね」

赤口「えぇ。そうですね。今日は、いろいろ意見も出ましたし、また、明日に持ち越し、という事で」

桜田「皆、ありがと」

赤口「いいんですよ。それでは、ゴホン。えー本日は、お集まりいただき、ありがとうございました。
皆さんからのご意見・要望はよりよいものばかりで今回の会議にて議題は決定に至らなかったため、
明日、再度話し合いを開催させていただきます。・・・・・・長いですかね」

黄金「ちょっとな」

赤口「ご了承ください」

藍澤「よし、じゃあ本当に今日は解散ね」

黄金「そうだなぁ。よし、俺一足先に帰るわ。練習あるし」

赤口「あの、黄金さん」

黄金「なに?」

赤口「今度、ライブハウス誘ってください」

黄金・藍澤「え?」

赤口「ちょっと興味ありまして、それに、黄金さんの曲も一度聞いてみたいです」

藍澤「あ、それなら私も行きたい」

黄金「マジか?お前ら。今度いい席取っとくよ。じゃあ、これ。クレイジーレインボー最新曲『イリデシェント・クラウド』我ながら名曲だ」

赤口「えっと、はい。ありがとうございます。ちなみに、どういう意味ですか?」

黄金「それは・・・・・・しらない。メンバーの奴が適当につけたんだけど、意味は聞きそびれたまま」

赤口「そうですか」

黄金「あ、あのさ」

藍澤「私?」

黄金「あぁ、俺にも貸してくれないかな、その、カントってやつ」

赤口「えぇぇぇぇ」

黄金「なんでそんな驚くんだよ」

赤口「いえいえ、すいません」

藍澤「あんた本読めるの」

桜田「藍澤さん」

藍澤「あーもう。分かってるわよ。じゃあ、はい。『サルでもわかるカント哲学』」

黄金「サルでも分かるって・・・・・・釈然としないけど、まぁありがと。頑張って読んでみるよ」

藍澤「そう、後で感想聞かせてね」


全員帰宅の準備を終えるころ。


桜田「あ、虹」

藍澤「いつのまに」

赤口「ど、どこですか」

藍澤「ほら、あそこ」

赤口「おー」

黄金「こんなに近くにあるの始めてみたよ」

赤口「・・・・・・今思えば、虹にコントラストなんてないじゃないですか」

黄金「あぁ、そうだな」

赤口「綺麗ですね。グラデーション」



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