ソラノキセキ 第二話 『狭空(きょうくう)と雷鳴』


男:女:不問 3:2:1

名前・年齢・設定

ベネット(25)♂:コールサイン【シーカー】トーラス隊の一番機。本作主人公。傭兵として活動していたところ正規軍としてスカウトされる。 

エレン(25)♀:コールサイン【アイリス】トーラス隊の二番機。空戦の天才。

AWACS(エイワックス)(30):ベネット達の作戦をサポートする管制機。
コールサインは【マッドロック】

ジェフリー(24)♂:本作での裏主人公。
ジャーナリストであり、従軍記者。訪れた基地にて主人公と出会う。
それから、主人公の軌跡を追っていく事になる。

ヴァーゲ1(27)♂:キラオ空軍を代表するエース部隊「ヴァーゲ隊」の一番機(=リーダー)

ヴァーゲ2(26)♀:「ヴァーゲ隊」二番機。部隊の中で唯一、ヴァーゲ1と対等に喋れる人物。


|配役表|


ベネット:
エレン:
AWACS(エイワックス):
ジェフリー:
ヴァーゲ1:
ヴァーゲ2:
_________________________________________________

ジェフリー:彼らが飛んだ先。
それはストマリアの東部に位置するコリエスタ平野。
いつも鬱蒼と茂る緑が広がっているはずの平野。
その時限りはそこに多くの金属の塊が並んでいた。
対空砲や、自走SAM(サム)、戦車に至るまで陸の兵器が次の街へと侵攻しようと歩を進めている。
そして、空ではそれらを守ろうとする護衛隊と、それらを破壊しようとするストマリアの攻撃機部隊が小競り合いを行っていた……。


エレン:ソラノキセキ 第二話 『狭空(きょうくう)と雷鳴』


ジェフリー:コリエスタ平野・東部にて 午後4:40


ベネット:おいおい。制空権、ほぼ取られてるじゃないか。
ぼんぼん落ちちゃって。まぁ…。

エレン:そうですね。市街地でないだけマシ、といったところです。

ベネット:これだけ落ちてたら、爆弾落とすよりも効率良いかもな。

AWACS:トーラス隊へ。無駄話は止めろ。もうすぐ作戦行動範囲に入る。敵は食らいついてくるぞ。気をつけろ。

エレン:了解。

ベネット:了解。…よし、パーティに殴り込むぞ!


ジェフリー:コリエスタ平野・中央にて 午後 4:45


AWACS:戦闘空域内の敵性勢力を可能な限り排除しろ。

エレン:指揮は任せます。隊長。

ベネット:散開だ。独自に行動し、敵を討つぞ。

エレン:では、陸は私が破壊します。

ベネット:了解。任せた。っと、さっそく敵さんのお出ましか。

AWACS:こいつらは足元守るのに必死だ。気を散らせ。

ベネット:了解。ヒットアンドアウェイだ。

エレン:隊長。敵機、10時の方向から二機接近中。回避を

ベネット:大丈夫だ。俺のタイフーンについてこれるか?

AWACS:アイリス。SAM(サム)にロックされている。…ミサイル発射を確認。

エレン:了解。外します。……フレア射出。ミサイル回避。

ベネット:さて、そろそろ良いか……後続機をオーバーシュートさせる。

AWACS:シーカー。失速に気をつけろ。

ベネット:大丈夫だ。……よし、かかったな。ケツに付けた!

AWACS:アイリス、SAMを破壊。

エレン:ロックアラート鳴りっぱなし。他のチームは何してるの?

AWACS:ストマリア空軍の残存航空戦力は40%。友好国合同部隊は80%…膠着状態だ。

ベネット:おいおい。友軍しっかりしろよ……ってまたアラート。しつこいなこいつら。

エレン:援護に入ります。隊長、回避行動を。

ベネット:あいよ。上空に逃げる。ケツのヤツは任せた。

AWACS:アイリス。ガンの射程内。狙えるぞ。

エレン:もちろん。……もらったっ!

ベネット:ナイスキルだ。アイリス。撃墜確認。

エレン:しかし……ここまでになると、空が狭いですね。

ベネット:気を張ってないと撃墜された機体の破片に当たっちまう。
『煽りを食らって墜ちる』ってことだけは避けたいな。


AWACS:ん?まて、敵航空部隊の様子がおかしい。撤退しているぞ。

エレン:数ではまだ、こちらが不利なのに……。

ベネット:警戒態勢。集中切らすなよ。

AWACS:本部より入電…クソッ!そういうことか!ここはアレの射程範囲だ

ベネット:アレってまさか……。

AWACS:全部隊に通達!キラオ軍、『イクリプス』発射確認!着弾まで20秒!

エレン:着弾位置は!?

AWACS:わからん。とりあえず、全機!高々度まで昇るんだ!

ベネット:クソッ!上がれっ!

AWACS:着弾まで10秒……。

ベネット:逃げ遅れが多い。早く上がるんだ!

AWACS:5……4……3……2……1……着弾!

エレン:弾頭が……爆ぜた!?

ベネット:なんだこりゃあ!?…磁場攻撃!?計器が狂いだしたぞ!

AWACS:磁場の収束を確認。残存機は態勢を立て直せ!

ベネット:大半が落ちたぞ!おい、アイリス大丈夫か!

エレン:何とか…

AWACS:次弾くるかもしれん。注意しろ。
…クソッ、こんな時に敵増援だ。
方位252(ツーファイブツー)より敵機。機数5。速いぞ。

ベネット:おいおい…。マジかよ。あの黒い機体に、黄色いラインカラーは…。

エレン:どうしました?

ベネット:まさか、増援って…。


ヴァーゲ1:ヴァーゲ1より各機。残党狩りだ。全て狩り出せ。

ヴァーゲ2:ああ、了解した。後始末ってのが不満だけど。

エレン:ヴァーゲ隊…キラオのエース集団!

ベネット:とんでもないヤツを送り込んで来やがった!

AWACS:作戦本部より入電、読み上げる。
『作戦ハ中止。損害過多ニヨリ。一時撤退セヨ』
各自、急ぎ南東に向かえ!


ベネット:早く言えってんだ!アイリス!逃げるぞ!

エレン:了解っ!

ヴァーゲ1:逃がさんよ。

ベネット:ちっ!後ろにつかれた!旋回して外す!

ヴァーゲ1:ほう、俺を引き離すか。
各機へ、イキの良いのがいる。
2は俺の援護、3から5は散開状態のまま狩りを続けろ。

ヴァーゲ2:了解。1の直衛につく。後ろはまかせて。

エレン:この二機、素早いっ!

ベネット:くそ、ファルクラムのクセに速い!中身は別物かっ!

ヴァーゲ1:各機へ、少しでも多くの敵機を落とせ。特に、今後の邪魔になるヤツはな。

ヴァーゲ2:ああ。分かってる。フォックス2発射。

エレン:隊長!ブレイクッ!ミサイルがっ!

ベネット:ぐッ!…回避成功。気が抜けない!

ヴァーゲ1:やるじゃないか。ヴァーゲ2挟み込め。隊長機をやる。

ヴァーゲ2:わかった。後方から追い立てる。

エレン:鋭角な切り込み……引き離せないっ!

ヴァーゲ2:私に食らいついてくるの?忠義な二番機ね。
でも、甘いわ。……ふふっ、すぐ外せた。

エレン:くっ。狙えない…。

AWACS:トーラス両機。こいつらに構うな。戦闘空域から離脱しろ!

ベネット:それができたら苦労しないっ!

ヴァーゲ1:ガンを避けて、低空へ逃げるか良い選択だ。だが…。

ベネット:ついてくるだと!?

ヴァーゲ1:低空でも恐れない機動。良いじゃないか。だが、これで終わりだ。

ベネット:くそっ!被弾した!

エレン:隊長!

ベネット:大丈夫だ!まだ飛べる

ヴァーゲ1:機体を振って急所を外したか。粘るな…久しぶりだ。ここまでのヤツは。
……楽しませてくれる。

ヴァーゲ2:全くね。二番機の機動も悪くない。私もなかなか撃てないわ。

AWACS:離脱まで後200マイル。持ちこたえろ!

エレン:くっ!……後、少しっ!

ヴァーゲ2:隊長。本部から入電。イクリプス発射との連絡。退くの?

ヴァーゲ1:次弾が来るか…。後退はせずともいいだろう。
この二機は今回、捨て置く。
ヴァーゲ隊各機へ。
イクリプスの回避可能高度をとりつつ、他の逃げ遅れ撃墜に回れ。

ヴァーゲ2:わかった。

ベネット:離れて…いく?

エレン:どうやら、見逃されたようです。


AWACS:イクリプス 第二波接近中!作戦範囲の機体は高度を取れ!

ベネット:次から次へと忙しいっ!

エレン:隊長!上がれますか!?

ベネット:無理だ。油圧系に少し支障がでてる……このまま、作戦行動範囲から抜ける

AWACS:着弾まで、後10秒。9…8…7…

エレン:もう少し……。抜けたっ!隊長!早くっ!

ベネット:くそっ!このバカ機体ッ!言うことを聞けッ!

AWACS:4…3…

ベネット:抜けたっ!アイリス、帰投進路をとるぞ

AWACS:2…1…着弾!…くそっ!何機落ちていくんだ!

エレン:空が…燃えて…

ベネット:くっそ…バランサーが、基地まで保ってくれ…。



ジェフリー:その後。彼らは、近場の友軍基地へと退却。
ベネットさんの機体は、損害は軽度であったものの飛ぶにはままならない状態だった。
ベネットさんは急遽、手配した代替機に乗り、帰投した。
この作戦で失った損害は、三国の出した部隊全体の約70%にまで及んだ。
効果範囲内の、航空機の計器を完全に破壊し墜落へと追いやる【イクリプス】
そして、敵エース、ヴァーゲ隊の介入は「完全な負けの記憶」というものを二人に突きつけたのであった。

ジェフリー:基地控え室にて 午後7:40


ベネット:クソッ!クソッ!あー腹立つ。

ジェフリー:あ、お帰りなさい。ベネットさん。エレンさん。

ベネット:おう、地獄から帰ってきたぜ。
それにしても、恐ろしいヤツらだ。ヴァーゲ隊ってヤツは。

ジェフリー:交戦したんですか!?

エレン:ええ、その時、隊長が被弾したので、代替機で帰ってきました。

ベネット:おい、そんなこと言うなよ。恥ずかしいじゃないか。

ジェフリー:ベネットさん、被弾したんですか!?怪我は…

ベネット:まぁ、大丈夫だ。このとおり、ぴんぴんしてるからな。

エレン:降りるとき、かなりふらふらしてましたけどね。

ベネット:そうそう、こいつ、俺が被弾したとき、涙声になってたんだぜ?
ジェフリーにも聞かせてやりたかったぜ。

エレン:勝手に話を作らないで下さい。

ベネット:ま、とりあえず、ヤツらとやり合って思った事は…とてつもなく強いって事だ。
引き離した、と思ったらすぐ後ろに付かれる。
機体の性能差なんてもの、関係無いって感じだったよ。

エレン:まぁ、今回は完全な負けでしたね。

ベネット:次は勝つさ。ヤツらの鼻をあかしてやる。


ジェフリー:そう語っていたベネットさんの表情は非常に明るかった。
だが、心境はその逆をいくのは分かっていた。
この基地に居た隊員3名は、イクリプスとヴァーゲ隊により撃墜され、死亡。
1名は負傷した機体の制御ができず、不時着時に死亡。
計4名が戦死。
後日、遺体の無い隊葬が行われた。
この日から私は空いた部屋に移されたのだが、居心地は悪かった。
死者と共に寝ている気がして、落ち着けないのだ。
そんな時は、控え室へとおもむきソファーに横になった。
今日この日まで、自分が戦争のまっただ中に居るという実感がなかった私に、
初めて死の恐怖を与えた瞬間だった。



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