【 正義の果てに 】
[ 所要時間:約15分 ]
《 キャラクター 》
ユーリ : 魔王の側近
イヴィシア : 魔王
ヴィラルディア : 勇者
ユーリ?:
イヴィ?:
ヴィラ?:
ユーリ:魔王様。
イヴィ:ユーリか。
ユーリ:もうじき、勇者がやってきます。
イヴィ:そうか。存外、遅かったな。
ユーリ:お支度を。
イヴィ:ああ。わかった。奴を迎えよう。お前は後から来い。
ユーリ:はい。では、のちほど。
ヴィラ:やっと、ここまで・・・。この先に、魔王が・・・
イヴィ:よく来たな。勇者。さあ、入ってくるがいい。
ヴィラ:言われなくてもっ!
(ヴィラ、大広間に突入)
ヴィラ:魔王!今日こそ、倒す!
イヴィ:いい意気込みだな。ヴィラルディア。昔と変わらない。
ヴィラ:なぜ、私の名を!?
イヴィ:知っているさ。ヴィラルディア。いや、こう言おうか。『相棒』
ヴィラ:まさか、あなたは・・・
イヴィ:そのまさかだ。ヴィラルディア。
(フードを取り去る)
私が、お前の倒すべき魔王だ。
ヴィラ:イヴィシア・・・隊長・・・
イヴィ:もはや隊長ではない。私はただの魔王だ。そして、世界の敵。
ヴィラ:なぜ・・・なぜです!なぜあなたがこんな!
イヴィ:理由を問い合う必要があるか?(剣を抜く)
ヴィラ:っ!その剣は・・・
イヴィ:『バルディン』・・・名前くらいは聞いたことがあるだろう?
ヴィラ:代々魔王が受け継ぐ魔剣・・・。本当にあなたは・・・
イヴィ:信じたくないか?だが、これが事実であり、同時に現実だ。
ヴィラ:嘘と・・・言ってくれないのですか・・・?
イヴィ:ないな。ときに、お前は剣を抜かなくていいのか?
ヴィラ:えっ・・・?
イヴィ:そういうところも変わらない。お前は強く、優しく、そして・・・甘い!(切りかかる)
ヴィラ:くっ!?
(とっさに剣を抜き、防ぐ。つばぜり合いになる両者)
ヴィラ:や、やめてください!私はあなたとは・・・っ!
イヴィ:戦いたくないと?そんな戯言を言うようには育てた覚えはないが!?
(徐々に押し負けてゆくヴィラ)
ヴィラ:ぐっ・・・!?すごい力・・・だ。これが、魔剣「バルディン」の力・・・
イヴィ:魔剣?いや、私自身の力だ!
(押しのけ、回し蹴りを放つイヴィ。正面から食らい、吹き飛ばされ、壁に衝突するヴィラ)
ヴィラ:ぐっ!?
イヴィ:勇者とはこの程度か。もてはやされ、傲岸(ごうがん)におぼれたか?ヴィラルディア。
ヴィラ:げほっ!ごほっ!私は、傲岸になど・・・
(よろけながら立ち上がるヴィラ。そこへ、ゆっくりと歩いてくるイヴィ)
イヴィ:さぞ、居心地のいい世界だろうな。
方々(ほうぼう)から誉めそやされ、期待され、誰もがお前に頭(こうべ)を垂れる。
ヴィラ:あなただって、その世界にいたはず・・・
イヴィ:確かにいた。だが、捨てた。
ヴィラ:なぜ!あなたはこの世界の誰もの希望であり、救いだったはず!
イヴィ:そうかもしれぬ。だが、私は気づいた。・・・それが、偽物であると。
ヴィラ:偽物・・・?
イヴィ:そうだ。
・・・お前は、この世界をどう思う?
ヴィラ:どうって・・・。
イヴィ:救う価値が本当にあるのかっ!?
(駆け寄り、切りかかるイヴィ)
ヴィラ:ぐぅっ!・・・ある。あるはずです!
イヴィ:はず・・・か。言い切れないのだな。
(数撃切り結ぶ両者、イヴィの大振りの一撃をかわし、距離をとるヴィラ)
イヴィ:この世界はどこまでも歪んでいる。それにお前も気づいているんじゃないのか?
ヴィラ:あなたはいったい何が言いたいのです!
イヴィ:たとえば政治。民を救う文民(ぶんみん)の代表者が集い、話あう場所。
それは果たして機能しているのか?
医療。傷ついたものを救い、癒しを与えるもの。
それは等しく、与えられているのか?
食。人々を育み、めぐみを与えるもの。
それは、果たしてこの世に足りているのか?
ヴィラ:それは・・・
イヴィ:(遮って)答えは否だ。どこを見ても、飢え、苦しみ、嘆き、負の感情が渦巻いている。
その一方で、さらに求め、さらに奪い、さらに肥えようとする害虫もいる。
私のような巨悪が生まれない限り、世界は一つになろうとはしない。
ヴィラ:それを。その不正を正すために私はっ!
イヴィ:正せるのか?害虫どものねぐらで。
ヴィラ:違う!志(こころざし)を同じくする者はいる!
イヴィ:どうだかな。所詮、人は欲の塊だ。どんな聖者でもそそのかされれば悪に染まる。
ヴィラ:・・・もう、分かり合えないのですか。
イヴィ:そうだな。おまえがこちら側に来ない限り。
ヴィラ:絶対にありえません!
(吶喊し、切りかかるヴィラ、正面から受けるイヴィ)
イヴィ:(嘲笑って)ふっ・・・迷いが見えるぞ?
ヴィラ:今更、迷いなど・・・っ!
イヴィ:この剣「バルディン」はな。持ち手に人の心を映し出すんだ。
今も、伝えてきているぞ。お前の迷いと、恐れを。
ヴィラ:そんなはずはないっ!
(鍔迫り合いから突き離し、切りかかるヴィラ。かわし、一太刀を浴びせるイヴィ)
ヴィラ:ぐうっ!
イヴィ:重心をずらしてとっさにかわしたか。肩口から切り落としたと思ったが。
ヴィラ:昔の私とは・・・違うんです
イヴィ:そうでなくてはな。
ユーリ:魔王様。
イヴィ:ユーリか。
ヴィラ:増援がいた!?
ユーリ:勇者の仲間が徐々に突破してきております。お急ぎを。
イヴィ:そうか。わかった。・・・よい仲間を得たようだな。
ヴィラ:思いを一緒にする同志たちです!負けるはずがないでしょう!
イヴィ:思いを一緒に・・・か。懐かしい響きだ。
ヴィラ:あなたが捨ててきたものです。
イヴィ:ああ、そしてこれからも不要だ!
(切りかかるイヴィ、その一撃を受け流し、カウンターを入れるヴィラ)
ヴィラ:っ!浅いっ!
イヴィ:ぐっ!やるな。
(返す剣で攻め立てるイヴィ、それをかわすヴィラ)
ヴィラ:どうしました!さっきより勢いが落ちてますよ!
イヴィ:どうだかなっ!
ユーリ:魔王様
イヴィ:わかっているっ!
(ヴィラを突き放すイヴィ。向かい合い、剣を向け合う両者)
ヴィラ:・・・いったい、何をあせっているのですか
イヴィ:お前に言う必要はない。・・・ユーリ。
ユーリ:はい。魔王様。(そっと近くまで寄る)
イヴィ:この剣(つるぎ)を返そう。代わりにあの剣を。
ユーリ:わかりました。では、こちらを。
ヴィラ:それは「ゼリストラム」
イヴィ:懐かしい剣だ。久しく抜かなかったが。
ユーリ:よろしいですか?
イヴィ:ああ、あとは好きにしろ。
ユーリ:では、最後まで見させてもらいます。
ヴィラ:援軍を頼まなくていいのですか?
イヴィ:ああ、これはおまえと私の戦いだからな。
ヴィラ:・・・いざっ!
(剣を打ち合う両者、剣檄の音が響く。打ち合う間、一撃ずつ傷を負う両者)
ヴィラ:ぐうっ
イヴィ:づぅっ!
ユーリ:(独り言)そろそろ・・・ですね。
イヴィ:決着を・・・つけよう。ヴィラルディア。
ヴィラ:イヴィシア隊長。あなたを止めます。
二人同時:はぁぁぁっ!
(イヴィの剣が床に落ちる。崩れ落ちる体を抱き留めるヴィラ)
イヴィ:見事・・・。
ヴィラ:なぜ・・・。なぜ、最後剣を引いたのです
イヴィ:ふっ、お前に言う必要はない(吐血)
ヴィラ:しっかり!しっかりしてください!
イヴィ:一つ、予言してやろう。ヴィラルディア。
ヴィラ:しゃべらないで
イヴィ:これからお前は・・・英雄となり、政治の・・・道具になる。
その先で、お前は・・・今と同じ正義を信じられるか?
ヴィラ:信じて・・・信じてみせます
イヴィ:いや、信じられんさ。ぐっ・・・私と同じ道をたどるだろう。
ヴィラ:同じ道・・・
イヴィ:今まで見てこなかったものを、もう一度見てみるといい。
その先で、お前がみる・・・ものは・・・
ヴィラ:イヴィシア隊長!しっかり!しっかりしてください!
ユーリ:よい、最期です。
ヴィラ:っ!貴様っ!
ユーリ:これにて閉幕。勇者。あなたの勝ちです。
ヴィラ:貴様が、貴様が隊長を・・・!
ユーリ:何をしているのです?勇者。魔王は滅びました。この戦はあなた方の勝利です。
ヴィラ:お前を倒さないと・・・終わらない!
ユーリ:そうですか。ですが・・・その体で私を倒せるとでも?(威圧)
ヴィラ:っ!
ユーリ:勇者、それは蛮勇(ばんゆう)。そして、愚行。今、あなたが為すべきは、勝利の宴です。
そして、世界の真実を見なさい。
ヴィラ:な・・・にを
ユーリ:いつでも、私はここにいます。この剣とともに。
真実を見、そして悟ったならここへ再び来るといい。
あなたの答えに私は力を貸そう・・・。
(ユーリ消え去る。残されるヴィラ)
ヴィラ:体が竦(すく)んで動けなかった・・・。
何者なんだ、あれは・・・。
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ヴィラ(N):魔王を倒し、私は名実(めいじつ)ともに勇者となった。
その後、イヴィシア隊長の言う通り、私は色々なものを見た。
今まで見られなかった政治の面、人の欲、欺瞞(ぎまん)。
それらの道具として私は勇者であることを強いられた。
そんな時、私はあの言葉を思い出した。
イヴィ :私のような巨悪が生まれない限り、世界は一つにはならない。
ユーリ :真実を見、そして悟ったならここへ再び来るといい・・・。
ヴィラ(N) :そして私は、いつしかのあの場所へ歩んでいた。
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ユーリ:よく来ましたね。勇者。
それで、あなたの考えはきまりましたか?
・・・そうですか。ならば、この剣を取りなさい。
そうすれば、あなたの願いは叶います。
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ユーリ:魔王様
ヴィラ:ユーリか。
ユーリ:お時間です。行きましょう。
ヴィラ:ああ、わかった。いこう。世界を一つにする時間だ。
Written by 福山 漱流