世は24世紀、世界は悪魔とか化物とかよく分からないもので溢れていた。
人々は異形の存在に恐れをなし、逃げ惑い捕食され、捕食し返したりペットにしたりしていた。
その状況を由々しく思ったのか思わなかったか分からないが、異形に対して真面目に取り組む人間が現れ始めた。
人は彼らを、物好き、いや、レアナイトと呼ぶ、いややっぱり呼ばない。
まぁ、人類がだれきったこの世界で戦う真面目なおかしい連中のお話です。
良かったら聞いてちょ。

「らっしゃいらっしゃい!世にも珍しいスライム饅頭、良かったら食べてかないかい!? 頬も墜ちる美味さを体験した次の日は下剤にもなる優れもの!」
「こっちはマジモン鬼饅頭さ!鬼の肉を使った饅頭だよ!」
シェルターの中では異形を素材にした食べ物が叩き売られていた。
とりあえず食べれば体壊す事間違いなしの食べ物が売れるこのご時勢。
まぁ、普通の食材が安くなるからいいんだけど、だけど!
「お、ねぇちゃん、スライム饅頭買わないかい?」
商人のおっさんに呼び止められる、その手には今にも動き出しそうなどろどろのスライム饅頭。
「いりません」
私が断ると、おっさんは私の格好をじろじろ見て・・・
「なんだ、あんた物好きか、こんな所でサボってないで世界を救いに行きなよ、しっし」
あっち行けしっしをされてしまった。
そう、私は世に言う物好き、レアナイトなのである。
ちなみに、レアナイトっていうのは初めになった人が剣を使っていて、「物好きなんて呼ばれたくな〜い!」という理由で自称したのが最初だ。
正直微妙なネーミングセンスよね。
あと、私がなった理由もオーソドックスなもんで、両親が異形に殺されたから、と言う物。
まぁ親父はウザかったからいいんだけど、お母さんは好きだったから自慢の運動神経で仇くらいはとってやるぞ、みたいな感じ。
世界を元に戻そうなんて物好き、じゃなくてレアナイツはあんまりいないんじゃないかな。
まぁ話は戻して・・・
「私は外から帰ってきたばっかりで疲れてるの、少しは休ませなさいよね、あと、市場に見に行って御覧なさい、面白い物が見えるわよ」
「本当か!? 物好きがいうなら間違いない、みんな、市場に行くぞ!」
人が津波になって市場に向かっていく。
ちなみに、面白いものっていうのは足の生えた海龍、え、ドラゴンで良くないかって? だってヒレとかエラあるんだもん、エラ周りには水受けまで、肺呼吸できないのかよ!? とか思って水受けから水こぼしてみたら窒息死しちゃった。
うん、まじ異形、環境に対応しきれてない、なんか見てて可哀想だもん。
とりあえず外出てから二日目で見つけたんだけど、持って帰るのに疲れたよ、まぁいいお金にはなったけどね。
「ふふ、久しぶりに良い所で寝れそうだな」
私だって年頃の女の子なんです、おしゃれだって恋愛だってしたいんです、鎧着たまま野宿とかより天蓋付のベッドで「じい、紅茶を」とか言ってみたいんです!
「けど仕事は楽しいし実入りいいんだよぅ」
今需要あるんだもん、異形のハントしかり食料しかり・・・
「うん、今日はいいもん食って、あったかい布団で寝るぞ!」
私は意気揚々とちょっといい宿屋を目指すのだった。
ごめん、貧乏性なんだ、少し残しとかないと不安なんだよぅ・・・

「部屋空いてる?」
いつもよりツーランク上の宿屋に入る。
ちなみにいつもはホント寝るだけの安宿で今日は食事とお風呂付きなの。
「はい、空いてますよ、あの、あなたですよね?」
メイド服の受付嬢が説明の足りない質問をしてくる。
「へ、何が?」
久しぶりに好意の目、でも私、女に興味ないんです。
「市場にあった見たこともない魚を捕ってきたもの・・・こほん、レアナイトの人って。写真で見たんですよー」
あー、なんか市場で「はい、チーズ」ってやった気がするなー。
って、見世物になってるよ私!うっわ、マジ恥ずかしいっスよ!
「えっと、興味持ってもらえるのは嬉しいんだけど、大事は勘弁だからいろいろとお願いだよ?」
「はい、仕事柄分かりますよ、そういうのは、でも凄いですよね、あんな大きいのを傷つけずに倒せるんですもんね」
うっわ、好奇の目だよ、ごめんなさい、凄くないんです、アレでかいだけだったんです、寝てる間に水こぼしただけなんですって。
「えっと、マジで仕事してください、はやく部屋行きたいっス、私のキャラじゃないの、そういうの」
「あ、すみません、じゃあ記入欄に必要事項を」
書類とペンを渡される。
さてさて、食事は・・・普通食と化物食? 普通に決まってます、あんなもん喰えません、腹どころか尊厳とか女の意地壊れちゃいます。
えっと、時間か・・・、明日の朝飯食ってシャワー浴びてから九時までかな。
ちなみに今は夕方くらい、遅ばせながら参考程度に・・・
最後に名前と年齢を書いてっと。
「はい、書けたよ」
「えー、白宮花音(しらみやかのん)様、18歳ですね、覚えましたよー、お客様は神様です、話のネタをくれる人はもっと偉い神様です、ぜひ次も当宿屋をご利用くださいね」
そう言って鍵を渡してくれる、人当たりのいい人だな、うん、私もこの宿覚えたぞ、また金入ったらここ来ようかな。
「うん、じゃあ、ゆっくりさせてもらうね」
私は代金を置いて階段を上り、二階の部屋に向かった。

部屋に上がると鎧を脱ぎ、サポーターを外し、インナーとショーツの姿になる、ごめんなさい、おしゃれに興味あっても普段窮屈な格好してるから一人だとこんなんです、ブラすらしてません。
ちなみにサポーターは付けないと鎧着たとき痛いのよ。
「さてと、シャワー浴びる前に武器の手入れでもしますか」
いや、ホントに女っ気ないな、私。
まずは剣の手入れ、まぁ、私は片手剣を使ってるんだけどね。
「そういえば今回は何にも切ってないなぁ」
けど柔らかい布で綺麗に拭いて砥石で砥いて、濡れ布巾で汚れを取って、最後にもう一度柔らかい布で拭く。
すると自分の顔が映るくらい綺麗になった。
そこには適当に短くした髪の毛、すっぴんで満面の笑みの私。
「私が男だったら彼女にしたくはないな」
いいさ、慣れたよ、どうせ物好きさ、きっと化物に食われて死ぬのさ。
剣を鞘にしまい、今度は銃を取り出す。
私が使うのはソードオフしたショットガン、最初は軽くなるようにやったつもりだったんだけど、専門知識得てから知ったんだ、これ威力上がるらしいね、中距離に対応できるようにするつもりが近距離に特化してどうする私よ。
あとはスナイパーライフルとかも使えるよ、最高射程距離までしっかり狙い撃ちできるのさ、男のハートはビックリするぐらい掠りもしないけど、仕事が恋人だから悔しくもないけどね!
「くすん・・・」
へこみながら銃を解体し、パーツを一つずつ手入れして組みなおす。
「よし、綺麗になったぞ、へへー、完璧ー」
数少ないおしゃれの一つ、のつもり。
そんな時、部屋にノックの音が響く。
「お食事をお持ちしました」
ボーイさんの声がする、へぇ〜、あの子が持ってきてくれるんじゃないのか、って当たり前か、受付嬢だもんな。
「どうぞー」
「失礼します」
声がしてからドアが開き、ボーイさんが一礼、頭を上げそこで停止。
目線の先には私、スナイパーライフルを持ってインナーでショーツの私。
「あ、ごめんなさいね、こんな見苦しい格好で、よいしょっと」
銃を壁に立てかけ、料理を受け取りに行く。
「み、見苦しいなんてとんでもないです!」
「そっか、今回は三日目で帰ってきたからそんなに汚れてないもんね」
自分を見てそんなことを呟く、でも汗かいてインナーが肌にくっついて少し透けている。
「え、えっと、お料理はどこにお置きすればよ、よろしいでしょうか?」
「あ、そこのテーブルにお願い」
「か、かしこまりました」
ボーイさんはなんかぎこちない動きで料理を並べていく。
「おー、値段の割りに豪勢だー、ありがとー、久しぶりのご馳走だよ」
「い、いえ、こちらこそありがとうございました」
頭を下げ、ボーイさんが部屋を出て行った、なんか終始硬かったな。
そんなことを考えていると外から男の人の話声が聞こえてきた。
「ちょ、スゲェよあの部屋のお客さん、シャツ一枚にパンツいっちょなの、しかも胸まぁまぁ大きかったし、全然隠さねぇの、さらにシャツ透けてんだって!」
「マジ!? ブラ透けしてたか!?」
「ブラどころか乳首見えてたって!」
「うおぉ〜!俺も見てぇ〜!」
なるほど、理由はそれか、うーん、仕事先で一緒に水浴びとかして裸見られることもあるから神経マヒしてるな。
「こらぁー!花音さんの部屋の前でダベってないで働きなさ〜い!」
「へぇ〜、あの人カノンって名前なんだ、今晩の嫁にしよっと」
おい、受付嬢、そしてボーイよ、ツッコミどころ満載すぎるぞ。
「ま、いっか、減るもんじゃないし、ご飯冷める前に食べちゃおっと」

「ごちそうさまー、いや、マジで美味かったすよ」
うん、宿選びは正解でしたね、さてと、食器持ってってもらおうかな。
ベルを鳴らし、部屋で待っているとノックの音が聞こえる。
「失礼しまーす」
「どうぞー」
今度は違うボーイさんだった。
「うぉ、マジでそのカッコですか!?」
「いや、そこまで下心丸出しだといっそ清々しいな」
「あぁ、す、すんません、じゃ、食器かたしますね」
さっきの人と違って体裁も何もあったもんじゃないよこの人。
「でも、誘ってますよね?」
食器を片付けながらガン味でそんなことを仰るボーイさん。
「まさか、こんな女に欲情する物好きいないっしょ」
「いやいや、ものず、じゃなくてレアナイトの花音さんが何を仰いますか、それにそんなカッコで興奮するなって方が無理ですって!」
突然飛び掛ってくるボーイさん、それをベッドの上に投げ関節をキメる。
「伊達にレアナイトやってないって、そこら辺の男には負けないよ」
「スッゲ、胸柔らかいんすけど、マジ気持ちいいッス」
うっわ、懲りてないよこいつ、仕方ないなぁ。
ひょいと返してかなりキツイ関節技をかける。
「これなら、どうだ!」
「うぉ、腕が股通ってるよ!胸当たってるよ!イッテテテ!けどサイコー!あ、痛い痛い!」
こ、こいつ、なんか勝負に勝ってる私が恥ずかしいんですけど、もういいか、手加減しなくて。
「えい」
「はぅう!?」
トドメとばかりに完璧にキメテみる、するとボーイさんは痙攣しながら気絶してしまった。
「あ、しまった、素人相手にやらかしてしまった」
しかもなんか温かいしって!?
「あぁーー!こ、こいつまた濡れてるし!」
漏らした? この人漏らした!?
「でも量少ないよね?」
もしかして・・・
「イッタ?」
腕に付いた液体の臭いを嗅いでみる。
うん、とある海鮮の臭いだよ、あはははは〜・・・
「いやぁあああああああ!」
思いっきり悲鳴を上げて腰を抜かしてしまう。
「だ、大丈夫ですか!?」
受付の子とボーイさんが駆け込んでくる。
「え、この状況は、まさか?」
さっきのボーイさんが変な目でこっちを見てくる。
「ち、違うよぉ!襲い掛かってきたから撃退しようと関節技かけたら」
「あ、こいつドMだからそういうことしちゃダメですって」
そんな事を受付の子が説明してくれた。
なんか前に着替えを覗かれたらしくて、股間を蹴ったらイッちゃったらしい。
「本当にすみませんでした、必ずお詫びしますので、何かあれば呼んでください」
そう言って皆様は退室していった。
「ふえ〜ん、怪物の体液より気持ち悪いよ〜」
着てる物を脱ぎ、風呂場へ駆け込み、穢れた場所に石鹸を付け擦る。
「女としてショックだったのなんて久しぶりだよぅ・・・」
こうなったら徹底的に洗ってやるぞー、この宿なんか石鹸とか置いてあるし、ケチらず綺麗に洗ってやる!

そんなこんなで・・・
「リンスまでしてしまった・・・」
なんか髪の毛がしっとりしてるよ、私の髪じゃないみたい・・・
とりあえず換えのインナーとショーツを着て落ち着く。
「はぁ、なんか疲れたよ」
シーツを変えてくれたらしく、ベッドからは洗剤のいい匂いがする。
「あー、あれ洗濯しなきゃな・・・」
実は着替えは2セットしかないの、だから洗濯しなくちゃなんだけど・・・
「うあー、こんな日くらいは働きたくないー」
あ、閃いた、さっきのお詫びを早速使っちゃおう。
ベルを鳴らししばらく待つとノックの音。
「失礼します」
「は〜い」
入ってきたのは女の人、さすがにもう男の人は近づけないよね。
いや、怖くはないよ、向こうの心境を読んでですよ。
「ご用件はなんでしょうか?」
「あの、洗濯を頼みたいんだけど大丈夫かな?」
「はい、もちろんでございます、あいつに襲われたお客様ですよね?」
質問というよりは確認に近いイントネーションで尋ねられる。
「うん、そう、だよ?」
思わず問い返してしまう、すると女の人はくすっと笑った。
「あ、すみません、あいつっていつもああなんです、女の人を襲っては撃退されて、それが楽しいみたいで、だから気をつけてくださいね、多分まだ来ますよ、油断しないほうが良いですよ」
他にも被害はいっぱい出てそうだな、けど嫌われてはないみたい、実害がないからかな? そういう問題でもない気がするけど・・・
「じゃあ忠告は聞き入れる方向で、とりあえずそこのインナーとショーツ、サポーターも洗っといてくれる?」
「はい、承りました、ではごゆっくりどうぞ」
そう言って洗濯物を持って女の人は部屋を出て行った。
「ここって、接客態度いい人が多いな・・・」
素直にびっくり、他だと結構レアナイトって差別されるんだけどな。
「まぁ、たまにはこういうのも良いよね」
なんかはねっかえりが来そうで怖いけど、今日はゆっくりさせてもらいましょ、バチは当たらないよね?
と言う訳で、今日はいつもより早いけどもう寝ることにした。
「おやすみなさい・・・」

次の日の朝・・・
「ふぁ〜、よく寝たぁ」
いつもとは比べ物にならないくらい気持ちよく眠れた。
なんていったって疲れがしっかり取れてる。
「ん〜〜、なんか超シアワセって感じ」
一伸びして思う、私って物凄く安上がりだね。
そんな時ノックの音が聞こえてきた。
「朝食をお持ちしました、開けてもよろしいですか?」
「あーい、どうぞー」
扉を開けて入ってきたのは受付の子だ。
「よく寝れましたか?」
「うん、すっごく、ところで受付はいいの?」
「はい、朝から来る人はそうそういませんし、この時間帯は内仕事のほうが忙しいんです、だから私もこっちに、あ、料理冷めちゃいます、ここに置いておきますね、ではごゆっくり」
料理を並べると急ぎ目で部屋を出て行く受付さん。
「では、朝ごはんを頂きましょう」
またしばらくはこんなご馳走にはありつけないだろうからゆっくり味わって食べる事にしましょ。

「う〜ん、美味しかったぁ、満足だよ」
いやー、今回は楽に稼げてこの待遇、なんか怖いくらいだね。
さて、ベルを鳴らして呼ぼうかなって所でノックの音。
「お入りしてもよろしいでしょうか?」
受付さんの声だ。
「どうぞー」
っていうかナイスタイミングですよ。
「では失礼します」
扉が開き、受付の子が部屋に入ってくる。
「どったの?」
「お食事がお済の頃かと思いまして」
「うわ、プロって凄いね、その通りだよ」
「では食器をお下げしますね」
食器を片付けるときの音に混じって遠くから人の悲鳴とか大きな物音が聞こえてくる。
「なんだろう?」
スナイパーライフルを取り、窓から外を見渡す。
「いかがいたしましたか?」
私の様子からただならぬ物を感じたらしく、受付さんの顔が険しくなる。
「分からないけど・・・」
スキル公開、私は仕事の経験から音を聞き分けたり危険を感じたり出来るんだ、まぁ勘に近いんだけど、その勘が危険を告げている。
その元を探してみると500mくらい離れたところにあるシェルターの入り口付近で騒動を見つける。
「何あれ・・・」
そこにいたのは異形、フォルムはいつぞやに本で見た恐竜、ティラノサウルスだ、けど皮膚が人肌で、すごいしっとりツヤツヤだったのだ。
「負けた・・・、じゃなくて!」
サポーターのストックを荷物から取り出し、それを着け上から鎧を着る。
腰の後ろに短剣を装着、左についたホルダーにショットガン、背中にライフルを背負って装備完了。
「もしかして異形ですか?」
受付さんは真剣な顔で問いかけてきた。
「うん、ちょっと行ってくるね」
窓から飛び出し、着地と同時に駆け出す。
「待ってください、私も行きます!」
後ろから受付さんの声、って後ろ?
首だけ後ろを向くとすぐ後ろを走っている受付さん。
「ちょ、何でこんなところに!?」
「私もレアナイトなんです、加勢させてください」
えぇ〜、すっごい所に物好きがいたよ。
けど、あれ相手に一人はつらいって思ってたから助かるかも・・・
「それじゃ、お願いするね」
「はい!」
私たちはスピードを上げ、異形に向かっていった。

少しすると異形のところに着く、異形のスピードが低いおかげで人身被害は今のところゼロ。
「にしても・・・」
近くで見ると肌ホントに綺麗だなぁ。
「がおー」
「うわ、鳴き声可愛いなぁ」
子供向けの番組の鳴き声だよ、これって。
「花音さん、惚けてる場合じゃないですよ」
「う、分かってるよ」
どんなに可愛くても所詮は異形、よく見れば超アンバランス。
情けはかけない!
ショットガンを抜き、まっすぐ突っ込む。
「ぐぁう!」
可愛い声で鳴きながら腕を振り下ろす乙女ザウルス(今命名した)。
「はぁ!」
それを上に跳んで避ける。
標的を失った腕は地を抉る、見た目どおりの威力、直撃は死を意味する。
その腕に着地し、駆け上がり、ショットガンを鼻先めがけぶっ放す。
「きゃう!」
恐竜の悲鳴女の子だし、ありえないし。
けど怯ませておけば頭に攻撃するチャンス!
「せいや!」
二の腕あたりから跳び、それと同時に剣を抜き、体を捻る、その勢いのまま右目を切り裂く。
「ぎゃうぅ!」
虫を払うかのように左手が振られる。
「あ、やっば・・・」
このままだと直撃、絶対骨逝くな。
そう思ったときだった、後ろから大木が飛んできて乙女ザウルスの頭に直撃、そのまま巨体を吹き飛ばした。
「っ、何あれ!?」
異形より木に驚いた私は後ろを見る。
そこには何かを投げ飛ばしたモーション後の受付さん。
「危なかったですね」
ウソ!? マジっすか!? 怪力さんですか!?
「私なんかより異形を!」
「そ、そうだった」
倒れた今がチャンスなんだ、ここを逃すな私!
武器をしまい、ライフルを異形に向ける。
ゆっくり起き上がる異形、狙うは切り裂いた傷口、その奥の脳!
「うぅ・・・」
完全に起き上がり、頭を振る異形、その動きが止まり、奴が私を真正面に捉える、ここだ!
トリガーを引く、狙いは完璧だった。
弾丸はまっすぐ傷口を突き抜け、脳を破壊し後頭部から突き抜けた。
「やった・・・?」
異形は動きを止め、そのまま倒れる、はずだったのに。
奴は一歩を踏み出し、前屈姿勢をとる。
「げ、アレって走る気満々?」
しまった、狙撃に集中しすぎて動き出す準備が出来てない。
このままだと、死ぬ!
「それだけの隙があれば十分です」
何かが私を飛び越え、異形の頭上に届く。
「ウソ?」
今日一番のサプライズ、その何かは倒壊した家の大黒柱を担いだ受付さんだったのだ!
彼女は巨大な柱を振り上げ・・・
「チェスト       !」
異形の頭に振り下ろした。
結果は当然、柱の勝ち、異形? 頭がグシャリですよ。
「ふぅ、なんとか勝てましたね」
さわやかに額の汗をぬぐい、こっちを見る受付さん。
あなたが異形なのではないでしょうか?
「あ、うん、まぁ私からしたらなんとかだね、というか、強いね、何で受付やってるのよ、そして何故メイド服?」
立ち上がりライフルを背負いなおす。
「え、もしかしてご存知ないですか?」
ちょっとショックを受けた様子の受付さん、柱を異形の頭に立てかけたままにして置きこっちに歩いてくる、ちょっと怖い。
「えっと、何を?」
「『冥土の従者』洸城水良(こうじょうみら)って聞いた事ありません?」
あ、すっごく聞いた事ある、確か・・・
「そうそう、かなり有名なレアナイトだよね、メイド服を着て徒手空拳、それかそこにあるものを活用して異形を駆る萌え系凄腕ナイトって」
「そうですよ、ってまた歪曲された方のウワサですか」
ため息ひとつ、どうやら誇張解釈されたウワサの方を知っていたらしい。
「じゃあ正しいっていうか一番大本の解釈は?」
「ダジャレに近いんですけど、一緒にいる人に襲い掛かる異形をあの世に送るメイド、でメイドさん=あの世の冥土、それで付いた異名が冥土の従者、なんですよ」
おいおい、レアナイツといい、ネーミングセンスおかしいでしょ、物好き連中、いや、私の名前もあれだけどね。
「そっか、けどあの有名人が私とそう年齢の変わらないだなんてビックリしたよ、正直もっと年上だと思ってた」
「いえいえ、それでしたら『ミラクルレンジカノン』が私より一つ上の、しかも女の子だったことの方が驚きですよ」
「ん、何その、新型電子レンジみたいな単語」
受付さん、あ、水良さんがさっきより驚いた顔してる。
「花音さん、自分の異名知らないんですか?」
「へ、私そんな強くないよ? まだ初めて3年だし」
「それを言ったら私もまだ4年です、この業界、1年続いて良い方、3年続けてたらベテラン、それくらい厳しいらしいですよ」
確かに、大体死と隣り合わせだし世間様の目は厳しいからね。
ん、待てよ・・・、今の話の流れから良くと・・・
「え、水良さんって13の時からレアナイツやってるの!?」
「はい、今年で17歳になりました」
笑顔でにっこり答えられた、いやいや、波乱に満ちた人生歩んでそうね、私ですら15からだもんね、それで3年。
「そっか、世の中広いね」
「そうですね、あ、アレを市場に持ってったら私の宿に戻りましょう、花音さんには迷惑かけちゃいましたし、チェックアウトの時間、融通利かせますよ」
「うん、そうだね、今日はドジ踏んだせいでイヤな汗かいちゃった」
私が携帯を取り出すと水良さんは乙女ザウルスに歩み寄る。
「水良さん?」
「よいしょっと」
げ、マジっすか?
水良さんは柱をひょいっと退けると乙女ザウルスを担ぎ上げた。
「いや、ありえないって」
人って頑張ればなんでも出来るもんなんだなぁ、と思いながら市場に向かった、でも、物理学とか的にはどうなのさ、難しい事わかんないけど。

市場でそれなりのお給金をもらい、二人で山分け、その後に宿屋に戻った、それからお風呂にゆっくり浸かってからのお話。
「え、私とチーム組みたい?」
「はい、花音さんがよろしければ」
なんか水良さんからチームを組みたいと言われてしまった。
レアナイトは大体短期契約を交わして協力しあうんだけど、チームって言うのは契約とか営利とか関係なく友達とか仲間と常に協力し合いましょう、っていう信頼関係の上に成り立つ協力関係。
まぁ、会って二日の人同士、しかも格上の人が格下の人に持ちかける話じゃない、物だと思う。
「えっと、私なんかでいいの? それにレアナイトなのにここで働いてるってことは何か理由とかあるんじゃ・・・」
「私と組むのはイヤですか?」
まっすぐ見つめられ言葉に詰まる、もちろんイヤな訳がない、契約で騙された事なんていくらでもあるし、正直水良さんと一緒にいれば楽しいし安心も出来る。
「イヤじゃないよ、けど、本当に私なんかでいいの?」
「私が花音さんと組みたくて頼んでるんです、よくないわけありません」
確かにそれは正論だ、むしろ私の質問が愚問です。
「それじゃお願いしたいんだけど、お仕事はいいの?」
「はい、それなら平気です、みんななら主がいなくてもやっていけます」
「え、主? 水良さんが?」
「はい、ここ、私が数ヶ月前に設立した宿屋なんです」
なんでも水良さんは契約専門のレアナイトをやっていたらしく、契約が切れて次の契約を結ぶまでの間、自分の特技を生かして宿をやろうってことになったらしい。
「けど何で私とはチームなの?」
少し沈黙が続き、水良さんは静かに口を開いた。
「実は私、昔大切な人がいたんです、その人がレアナイトで、私も一緒にいたくて頑張ってたんですけど、私のミスで・・・」
そこで言葉につまり、目から涙がこぼれる。
「ご、ごめんなさい、その、言い辛いなら別に断ってくれったって・・・」
「いえ、これから信頼関係を築いていかなくちゃいけないのにいきなりだんまりではダメですから、それに、これから先チームを組む人がいたら必ず話そうって決めてたんです」
「そ、そっか、じゃあ続き、聞かせてくれる?」
水良さんは涙をぬぐい、頷いた。
「それで、彼が最後に、私は普通の生活に戻っていもいいって言ってくれたんです、けどそれは出来ないって言ったら、じゃあ続けるなら守るために続けてくれたらうれしいって、だから私は一人じゃ絶対に戦わないんです、それから契約を専門に続けてきて・・・、けど、守ってあげたいと思う人が出来たんです、だからチームになりたいと思ったんです」
「そっか・・・」
ん、結構重い話だよね、キャラじゃないっていうか苦手なんだけどな。
「それじゃ、私からも身の上話、なった理由と続けてる理由ね、家ってさすごい貧乏だったわけ、そんでなんもしなくて遊んでたのが親父、頑張って働いて、世話してくれてたのがお母さんだったの、そんなある日、異形が一匹住んでたシェルターに入ってきてね、入り口に近かった我が家はぺしゃり、酔ってた親父はそのままぺっちゃんこ、お母さんは私を守るために犠牲に・・・」
「それじゃあ家族の敵をとるために?」
すごく神妙な面持ちで聞いてくる水良さん、いや、シリアスは苦手なんで空気壊します、ごめんなさい。
「いや、その異形はレアナイトに即行狩られちゃって、でもお母さんには感謝してたし尊敬もしてた、まぁあんまり家にいなかったから思い出はないんだけど、だから少しは恩返し的なものをしてあげたくて、自慢の運動神経で少しでも多くの異形を倒してやるぞっていうのが動機、ちなみに親父は嫌いだったから清々したって感じ」
「話してる雰囲気で分かりました、なんか扱いが違いますもんね」
少し苦笑い、よし、あと少しだ、レッツ空気ブレイカー。
「んで、レアナイト続けてたら実入りはいいし仕事は楽しい、生活苦は相変わらずだけど昔より楽しく暮らしてる、お母さんには悪いけど動機は続けてる理由ランキング、3位にランクダウンです、って感じかな」
「前向きなんですね、やっぱり花音さんに決めてよかったです」
すっごく頷かれた、あれ、大体つっこまれるんだけどなぁ。
「私、花音さんのこと、ご主人様と呼んで良いですか?」
「無理、キャラじゃないです、ってか何で?」
やべぇ、この人本気でレイヤーさんなのかな?
「いえ、昔屋敷で勤めていまして、雇い主である彼を好きになってしまいまして、お互いが大切な人になってからもご主人様とお呼びしてまして、守ってあげたい人をそうやって呼ぶと力が湧いてくるんです」
しまった、コスプレじゃなくて本業だ、あの服は伊達や酔狂で着ているわけじゃないらしい。
「妥協案ぷりーず、そしてもっと親しくしてぷりーず」
「じゃあおじょ・・・」
「だから無理だって」
いやいや、そこで考え込まないでぷりーず。
「なら私、水良って呼び捨てにするよ、それで花音さんでどう?」
そうとう譲ったよ、私。
「うーん、花音さんがそこまで言うのなら、じゃあそうしましょう」
よかった、これが限界です、本当は敬語もやめて欲しいんだけどね。
「じゃあよろしくね、水良さ・・・、ごほん、水良」
「お願いしますね、花音さん」
私たちは固く握手を交わし、これからを約束したのだった。

二人の準備が終わり、宿屋から出発した後のこと・・・
「さて、早速お仕事の事だけど、これからどうする?」
「そうですね、まずは花音さんの鎧を買いに行きましょう」
「鎧? このままじゃダメ?」
貧乏の感性がまだ使えると告げるこの鎧、正直もったいない気がする。
「ダメです、私たちは体が資本ですから、防具は良い物を着けていることは義務です、それに折角ですからそんな野暮ったい鎧じゃなくてもっとオシャレをしましょう」
「鎧でオシャレ? なんか性能悪そう、それにメイド服じゃ防具にならないじゃん、鎧だったら水良のほうが先でしょ」
「実はこのメイド服、防刃防弾なんですよ、見た目より丈夫なんです」
くるっと回って見せる水良、いや、本当に丈夫には見えないね。
「それじゃ防具を買いに行くのね」
「はい、砂漠を越えた先にあるシェルターでいい防具屋があるんです、さぁ、早速向かいましょう」
「ちょ、いきなり砂漠越え!?」
「まずは飲み物と食料の調達に向かいましょう!」
先に歩き始める水良、困ったなぁ、主従関係おかしいよね、この構図。
とまぁ、こうしてメイド服の物好き、もといレアナイトの洸城水良をチームに加えて、私の世界旅行、もとい異形討伐の旅は続くのだった。







あとがき
作者です、本当にごめんなさい、構想時間0秒の小説でした。
先の展開は少しだけ考えてあります、多分変わります。
事の始まりは暇な時間に「なんか小説のネタないかな」とか思ってワードを開いた事から、見切り発車で主人公の性格どころか性別、さらに世界設定も書きながら考えたこのお話。
やっぱり楽しいです、バカな話、何にも考えてないから性格が出るというか、おかげで頭いいキャラがいませんね、さすがに延々バカばっかじゃお話が締まらないので頭使うキャラ欲しいですね、でもどっか足んない設定で。
まぁ、主人公の花音さん、銃と剣を同時に使わせたいとか思ってあんな戦い方なんですけど、これはかなりあるものに影響されてますね。
ショットガンはデビルメ○クライのダ○テが使ってるの見て「カッコいいなぁ!」とか思ったのがきっかけで、ソードオフもとある作品の先生が使ってた影響ですし、ライフルは主人公をさらに強くするためにノリで付加した設定ですからね。
口調と性格が一定してないのは何にも考えずに書いてるからもあるんですが、状況に合わせて生きるキャラの方が動かしやすいんですよ。
もちろん言い訳です。
続いて水良さん、最初は無名の受付でした、ノリと思いつきで「この子仲間にしたらおもしろいんじゃね?」とか思って仲間にしました。
ちなみに書いてておもしろいんじゃね? って意味ですよ?
戦い方にしても超思い付きです、書きやすいようそこにある物を使って戦わせようって思ったら怪力になりました。
それにしても、ここまで思い入れのないキャラと作品は初めてですよ。
僕の場合、「こんな話が書きたい」とか「こんなキャラを書きたい」って動機で書き始めるのがほとんどなのでどこかに物凄く強い思い入れがあるんですが、今回はノリとテンションで書いてるからそういうのが皆無だったり・・・
けど、最近で一番おもしろいです、書いてて、楽ですしね。
とりあえず一番得意なのは何にも考えないエロネタですけど、アレだったらノリノリで三十頁くらい書けますよ(笑
でもまぁ、なんにしても完結する事がほぼない僕の作品です、出来れば先を期待しないでください、数ある趣味の一つでしかないので(ぉい
では、まずないとは思いますが第二話のあとがきで会いましょう。
もしかしたら違う作品の第一話かも・・・




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