オモイノユクエ
麻紀:高校の新任教師。真面目過ぎなところが玉にキズ。最近、再びのストーカー被害に悩まされている。
渚 :教育大学時代からの麻紀の友人。さっぱりとした性格。親友と言うより悪友。
透 :麻紀のことを大事に思っている人物。その言動は一部度が過ぎている。
♀麻紀(まき):
♀渚(なぎさ):
♂透(とおる):
_____________________________________________________________
透 :外は雨が降っている。雨は窓を叩き、砂嵐に似た音を立てている。
僕はひとりぼっち。ずっと、ひとりぼっち。
ここには誰もいない。誰も。ダレモ・・・。
麻紀:ただいまー。
透 :おかえりー。びしょびしょじゃないか。
麻紀:急に雨が降ってくるなんて、ついてないな。それにしても、今日も一日疲れたぁ。
透 :そうみたいだね。クマできてるぜ?
麻紀:うわ、凄いやつれてる。あーあ。・・・どうして言う事聞いてくれないんだろう。あの子達って。
透 :どうしてっていわれてもな・・・。
麻紀:私はさ!必死になってさ!夜遅くまで課題のマル付けしたり、授業の案を組んだりしてるのよ!?
透 :確かにそうだな。夜遅くまで電気付けてやってるな。おかげでこっちは寝られやしないよ。
麻紀:・・・もう、やめちゃおっかな。今の仕事。
透 :やめるの?あんなに頑張っているのに。
麻紀:正直。私って教師向いてないんじゃないかって思うのよね。だって、どんだけ頑張っても誰も評価してくれないしさ。
透 :そんな事はないよ。少なくとも、僕は評価してるって。
麻紀:・・・つらいなぁ。
透 :そうだな。ん?電話鳴ってるよ?
麻紀:はい。あ、伊藤先生。はい。・・・はい。荒木君ですか?そうですね。今日はずっと授業にでて・・・。
透 :荒木。か・・・。
麻紀:イジメ・・・。荒木君が、ですか?それは被害者側ですか?
透 :あんなんが被害者な訳ないって。
麻紀:あ、やっぱり加害者側ですか。・・・平野(ひらの)君が・・・はい、注意はしてるんですけど・・・。
はい。もう一度・・・。え?三者面談ですか?はい・・・はい。わかりました。
では、お家の方に連絡を入れます。はい。わかりました。失礼します。
透 :教員ってやっぱり大変なんだな。
麻紀:あーっ!もうヤダ!なんであんなクラスの担任を任されたんだろう!
透 :それは期待されてるんだって、麻紀。
麻紀:とりあえず、明日電話しなきゃ・・・。時間詰まってるんだけどなぁ・・・。
透 :でも、やりきるんでしょ?
麻紀:やりきる、しかないよね。
透 :やっぱり麻紀は向いてるよ。教員に。だから好きなんだけどね。
麻紀:そうと決まれば、寝よっかな。今日は。
透 :あれ?珍しいね。もう寝ちゃうんだ。
麻紀:今日は学校で仕事は終わらせてきたし、休めるときに休むのが第一だね!寝る!
透 :そうだね。お休み。麻紀。
渚 :やっほー。麻紀。こっちこっち。
麻紀:遅れてごめーん!道が混んじゃってて。
渚 :雨だもん。しかたないよ。それに、ちょっと遠いモンね。麻紀の家からこの喫茶店って。
麻紀:うん。ゴメンね?
渚 :大丈夫だって。そんなに待ってないし。それで、話はなに?
麻紀:最近さ。ちょっと家帰りたくないんだよね。
渚 :え?どうしてよ?
麻紀:それがさ・・・。誰かに見られてるって感じがするのよ。
透 :気のせいだよ。麻紀の。
渚 :あんまり気にしすぎると鬱病になっちゃうよ?職業も、職業なんだし?
透 :そうだそうだ。気にしたらダメだって。
麻紀:そうなんだけどさ。やっぱり気になり出すと怖いじゃない?
渚 :もう。心配しすぎだって。・・・って言っても、麻紀には前科があるからなぁ。
麻紀:それじゃ、私が悪いみたいじゃない!
透 :まぁ、それはそう聞こえても仕方ないけどさ。
渚 :ごめんって。でも、またストーカーとか・・・。つきまとわれてたりするのって怖いよね。
麻紀:どうしてこうなっちゃうんだろう。
透 :そればっかりはなぁ。
渚 :つきまとわれる要素はあるでしょ。麻紀って可愛いし、気遣いもできる、家事も完璧。そんな人間がなんで結婚してないかなぁ。
麻紀:だって、忙しいしさ。
透 :それに、僕らはこの関係が一番良いんだよ。
渚 :私が男だったら、ぜったい麻紀をお嫁さんにしてるのになぁ。
麻紀:アハハ。ありがとう。
透 :おい。僕の立場はどうなるんだよ。全く。
麻紀:あ、そういえばさ。渚の塾にさ、ウチのクラスの荒木君。通い始めたよね?
透 :そうなのか?
渚 :荒木君?うーん・・・。あ、そうだった。通ってるよ?
麻紀:やっぱり問題児?あの子。
渚 :ううん。まったく。真面目に授業受けてるし、同じクラスの子達と仲良くしてるよ?むしろ問題児は平野君の方かな。ずっとぼーっとしてるし。
麻紀:ああ、平野君。あの子、最近見てないなー。はぁ・・・。やっぱり、私ってなめられてるのかな?
渚 :なめられてるって事は無いんじゃないかな?そんな子には見えないし。
透 :人は見かけによらないって言う名言があってだな・・・。
麻紀:もうちょっと、彼のことを調べないと。・・・何であんな事、するのかな。
渚 :家庭環境とか?
麻紀:家庭環境はいいはず。だって、良いとこのお坊ちゃまだもん。
渚 :そういえば、お父さんやお母さんとも仲よさげだった。
透 :じゃあ、単なる嫌味なガキだって事だ。
麻紀:うーん。もう、どうすれば良いのか分かんないよ。
渚 :私の方でも探りを入れてみようか?
麻紀:いいよ、渚。そもそも、渚は塾の講師だしさ。範疇外じゃない。こういう事は教師のやることだし、義務だもん。一人でやるよ。
透 :あまり溜め込み過ぎるなよ?
渚 :抱えすぎると麻紀が壊れちゃうよ。
麻紀:そのためにこうやって聞いて貰ってるんじゃないの。
透:何時でも聞いてやる、っていうか聞いてんじゃんよ。僕は。
麻紀:あ、そうだ。渚。ちょっと買い物に付き合ってくれない?
渚 :いいよ?今日一日暇だし。何買うの?
麻紀:今一番要るのは、お皿かな。こないだ割っちゃったからなー。お気に入りのやつ。
透 :アレはホントに勿体なかった。
渚 :じゃあ、お皿と・・・他には?
麻紀:そうだねぇ。カーテンがちょっと黄ばんできたから新しくしようかな。
渚 :あれ?麻紀ってタバコ吸ってた?
透 :麻紀はすわねぇよ。
麻紀:タバコじゃなくってお香ね?同じ煙だし、黄ばんでくるの。
渚 :なるほど・・・。
麻紀:後は下着かなぁ。
渚 :もしかして、また大っきくなったの〜?
麻紀:そう・・・。特にお腹周りが。
渚 :あ。そっちなんだ・・・。
麻紀:あ、ごめん。今の・・・冗談。
透 :いや、今のはわかりにくいって。そのボケ。
渚 :信じちゃうからやめてよねー。そういうの。
麻紀:ごめんって。それじゃ、行こうか!
透 :じゃ。僕は先に帰ってるよ。後でな。
渚 :さってと。これで全部だっけ?
麻紀:ありがとう。助かったー。
渚 :いいって。案外買っちゃったしね。いろんなもの。
麻紀:ガソリン代とか、今バカにならないじゃん。ホント、ゴメンね?
渚 :旅行した訳じゃないから。大丈夫だって。
麻紀:うん。ありがとう。はぁ・・・。
渚 :大丈夫?麻紀。
麻紀:うん。・・・大丈夫。
渚 :不安なんだったら泊まってくよ?明日は夕方からだし。
麻紀:大丈夫。大丈夫。
渚 :うーん。うん!決めた!泊まってく!
麻紀:ちょっと。渚!
渚 :大丈夫大丈夫って言ってる麻紀は、大概大丈夫じゃないの知ってるんだから。
麻紀:・・・ごめん。
渚 :いいのいいの。なんせ私達って悪友だもん!
麻紀:親友がよかったなぁ・・・。
透 :お帰り!ってあれ?今日は、渚さん居るのか。じゃあ、僕は邪魔ものか。
渚 :久しぶりにさ。お酒でも飲もうよ!一緒に!
透 :僕はお酒は飲めないんだけどなぁ。それに麻紀は明日早いはずだし。
麻紀:じゃあ・・・飲んじゃおっか!
透 :おいおい・・・。
渚 :そうと決まれば!さっそく準備準備〜!
透 :全く・・・お酒飲む人は嫌いなんだけどなぁ。仕方ないか。じゃあ、僕はおいとまするかな。お休み。麻紀。
透 :麻紀!・・・麻紀!
麻紀:う・・・ん。今・・・何時?
透 :もう5時過ぎだよ!早く行かないと遅刻・・・
麻紀:もうこんな時間!?準備しなきゃ!
透 :そそっかしいなぁ・・・麻紀は。それにしても渚さんは・・・。
渚 :(寝息を立てている)
透 :ま、さんざん飲んでたみたいだし。当然か。それにしても、この人邪魔だなぁ・・・。
麻紀:えっと、書き置きをしておかないと・・・いいや、後でメールしとこ!今は学校に行くのが先決!いってきまーす!
透 :いってらっしゃーい。・・・行ったかな?さてと。今のウチにっと。
麻紀:ふぅぅぅ・・・ただいまぁ。相変わらず雨酷いー。
渚 :おかえりー。
麻紀:あ、渚。居たんだ。・・・ってあれ?今日塾は!?
渚 :休んじゃった。てへ
麻紀:てへっじゃないって!
渚 :二日酔いがひどくって・・・。有給余ってたし、いいのいいのー。
麻紀:渚・・・あんたねぇ。
渚 :あ、そういえば麻紀。ありがとね。置き手紙。
麻紀:・・・え?
渚 :だから、先に出るっていう置き手紙。置いてくれてたじゃん。
麻紀:嘘。私・・・書いてないよ?
渚 :また冗談言ってー。
麻紀:冗談じゃないって!
渚 :え?・・・うそ。じゃあ、この手紙・・・なによ?
麻紀:あ・・・あ・・・。やっぱり気のせいじゃ無かったんだ・・・。
渚 :それって、ストーカー・・・。
透 :ストーカーじゃないよ。
麻紀:きゃあっ!?
渚 :誰!?・・・あ、貴方・・・。
透 :うん。お久しぶり。先生。あ、麻紀も先生か。
麻紀:貴方・・・。平野・・・くん?
透 :そうだよ。僕だよ。麻紀。
渚 :なんで、平野君がこんなとこに居るの!?
透 :なんで?だって。笑っちゃうよ。だって麻紀は僕のなんだもん。
麻紀:平野君・・・貴方。何言ってるの?
透 :もう。なんでそんなよそよそしいんだよ。麻紀。僕の事は透って呼んでよ。
麻紀:なにを言ってるの?訳が分からない。
透 :なんでだよ。僕と麻紀は結ばれるんだよ。
渚 :いい加減にしなさい!平野君!冗談にも程が・・・っ!?
透 :だまっててよ。渚先生。これから僕は一緒になるんだ。麻紀と。
渚 :麻紀・・・逃げ・・・て。
麻紀:なぎ・・・さ?渚!?
透 :邪魔をするからいけないんだよ。渚先生。思わず刺しちゃったじゃん。
麻紀:なんて、なんてことを!すぐにそのナイフをしまいなさい!平野君!
透 :や・だ・よ。先生。だって、コレないと言う事聞いてくれないじゃない。先生。
麻紀:っ!・・・いや。来ないで・・・。
透 :大丈夫。優しくするからさ。
麻紀:嫌・・・いやぁぁぁぁっ!
透 :っ!?・・・な・・・ん・・・。
渚 :麻紀・・・逃げ・・・。
透 :渚先生・・・やって・・・くれたね。んっ!
渚 :く・・・あ・・・。
麻紀:渚ぁぁぁぁ!
透 :もう、終わりか・・・。
麻紀:ちょっと・・・何を・・・っ!?
透 :これで一緒になれるよ・・・先生。
麻紀:透・・・君・・・。
透 :はは・・・ははははは!麻紀!やっと僕の事を見てくれる気になったんだね!ねぇ!麻紀!ねぇ!
・・・麻紀?麻紀ってば。・・・あ。そうか。さっき、僕が刺して・・・あれ?なんで、刺したんだっけ。
麻紀が抵抗してそれで・・・それで・・・。
また、ひとりぼっちなの?嫌だよ。そんな・・・。あ、れ?目がくらんで・・・。
そっか、僕・・・渚先生に刺されてたんだっけ・・・。
雨・・・うるさいなぁ・・・。
もどる