香散見草(かざみぐさ) 〜香ル樹ノ下、咲ク命〜

主人公
香月 信也(こうづき しんや)男 24歳
退魔屋を営む青年、依頼を受けながら幼馴染の敵である朧を探している。
人当たりが良く真面目だが、親しくなればなる程、扱いがぞんざいになる。
代々伝わる刀を使い魔を退ける、この界隈ではちょっとした有名人。


友人
九条 樹(くじょう いつき)男 24歳
信也の退魔屋業を手伝うエセ関西弁の青年、自身も退魔の力を持つ。
信也とは幼馴染で、朧を共に追っている。
ノリは軽く女好き、厄介ごとに首を突っ込みたがるトラブルメイカー。
印を施した拳銃を扱い魔を打ち抜く、信也程の力は無いため、護身程度にしか思っていない。


敵役
朧(おぼろ)男 年齢不明
信也と樹の幼馴染を取り殺した仇敵。
元々恐ろしい力を持ちながら更なる力を求める妖怪。
狡猾かつ残忍、日本各地を飛び回り人・妖問わず喰らっている。


ヒロイン
白来 命(はくらい みこと)女 18歳
鬼の血をひく少女、出生が故に定住を許されず転々としている。
人間恐怖症だが寂しがりや、本来は快活な性格なのだが、周りが信用できず壁を作っている。


女サブキャラ
宮坂 智香(みやさか ともか)女 22歳
至極普通の大学生、だがとある事から今回の事件に巻き込まれる。
優しい性格で困っている人を見るとほっとけない。
今は実家を出て一人暮らし。

信也♂:
樹♂:
朧♂:
命♀:
智香♀:

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信也「いらっしゃい、今日はどのようなご用件で・・・って、なんだ樹か」

樹「なんや、なんだとはご挨拶やなぁ信也、折角今日はえぇ話持って来たったちゅうのに」

信也「お前のえぇ話がえぇ話だった試しがあるかっての」

樹「まぁまぁ話だけでも聞いたってぇや、今回はホンマもんなんやから」

信也「何回ホンマもんが偽者だった事か、まぁ今回も聞いてやろう、特別に」

樹「そんなに聞きたいんか?よっしゃ話たる、とある町にな、大きな妖気が来たらしいんや、
  更に、呼応するように妖の活動も活発になっとるようや、なんか臭わんか?」

信也「ふーん、確かにな、それで、ソースは?」

樹「俺の足や」

信也「うっわ、信用できねー」

樹「なんでや!直接出向いて調べて来たんやで!」

信也「だから何回外れだったと思ってんだ!ほぼ毎回だぞ!
   むしろお前直の情報で朧に当たった回数ゼロじゃねぇか!」

樹「やけど、俺の持ってくるヤマはいっつも大きいやろー?
  それでどんだけ生活助かっとると思うとるん?」

信也「ぐっ・・・・」

樹「どないするんや?」

信也「・・・・行く、どうせ暇だし」

樹「さっすが信也、そうやないとな!」

信也「調子の良い・・・、まぁいいか、それじゃ案内よろしく」

樹「お任せあれ、ほんじゃ、お互い旅支度もあるやろうし、
  出発は明日や、忘れ物は厳禁やで」

信也「あいよ、それじゃあな」


命「香散見草(かざみぐさ) 〜香ル樹ノ下、咲ク命〜」


智香「初めまして、宮坂智香です、よろしくね」

信也「初めまして、香月信也だ、よろしく」

樹「智香ちゃんあれからどうやった?平気やった?」

智香「うん、樹君に貰ったお札のおかげでなんともなかったよ」

樹「ホンマ?そりゃよかった、いっぺん見せてくれへんか?」

智香「うん、はい、どうぞ」

樹「どうも、ちょっと待っとってぇな、のぅ信也、ちょいとあっちで話そうや」

信也「ん、あいよ」

樹「さて、信也の目から見て智香ちゃん、どう映っとる?」

信也「どうって、何も・・・」

樹「なんもやって!?信也、目曇っとんのやないか?」

信也「はぁ?なんだってんだよ」

樹「智香ちゃん、可愛いと思わんか?」

信也「・・・・・・帰っていいか?」

樹「待て待て、冗談や、俺が渡しとったお札、よく見てみぃ」

信也「ん、これ、かなり強力な魔除けじゃねぇか」

樹「そっ、あの子、妖を寄せやすい体質なんや」

信也「なるほどな、それで、今回となんの関係が?」

樹「それはこれからゆっくり話そうや」

智香「あの、私、席外しましょうか?」

樹「あぁ〜、構へん構へん、な、信也」

信也「あぁ、この札貰ってからなんともなかったって事は、それより前はなんかあったんだな?」

智香「はい、その、私昔から霊感が他の人より強いみたいで、感じるんです、
   普段から沢山いるのは分かるんですけど、最近、異常に多いんです」

信也「異常に多い、見える訳じゃないんだよな?」

智香「見える、ときもあります、けど、今集まってきてるのは直接害を与えてくるのはいないみたいで」

信也「へぇ、じゃあ昔は手を出してくる奴もいたんだ」

智香「そうですね、って言ってもちょっと体調が崩れるだけなんですけどね」

樹「どうや、可哀想やろ、力になってあげたくならんか?」

信也「体質的な物は俺でもどうにもならん、けどこの町は確かに異様な気配がする、
   そうだな、この札はもう効力が薄くなってる、俺が新しいのをあげるよ」

樹「ん、なんやて、俺のお札がそんなに早く・・・」

信也「はい、これが新しいお札、今日はこれを持ってて」

智香「ありがとうございます」

信也「それじゃ、俺達はまだ調べる事があるから、今日はここでお暇するよ」

智香「あ、そうですか、それじゃ、またですね」

信也「また、それじゃあ」

樹「あっ、ちょっと待ってぇや!」

信也「待たん、行くぞ」

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樹「おい、どーいう事や、信也」

信也「あんなもんがあったら捜査もへったくれもない、
   妖が寄り付かないんじゃ調べるものが無いだろ」

樹「そやけど、智香ちゃんになんかあったら、お前責任取れるんか?」

信也「無いようにするのが俺達の仕事だろうが、今日は寝れねぇぞ」

樹「・・・・・さっすが信也、俺の予想斜め上を行ってくれるわ、よっしゃ、やったるで!」

信也「さって、時間まで仮眠取るかね」

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樹「あーあー、こちら樹、信也、応答せよ、取れるか?」

信也「こちら信也、無線状態良好、問題ない」

樹「どうや、なんかいてそうか?」

信也「あぁ、妖気が複数、中には結構でかいのもいる」

樹「あいつは?」

信也「分からんし、勘とか記憶は当てにしない、あいつの妖気は変わっててもおかしく無いからな」

樹「確かにそうやな、ほんじゃ、ミッションスタート、気張っていこうや」

信也「おうよ」

信也M「しかし、夜になると余計にヤバイな、この町に着いた時にあった違和感なんて比じゃない、
    けど、これなら妖気の出所も簡単に分かる、この路地だ、この曲がり角を曲がれば・・・!」

信也「っ、いない・・・?いや、違う、これは、妖の残骸・・・・?」

信也「食い散らかした後、か・・・?」

樹「信也!応答せぇ信也!」

信也「っ、うっせぇな樹!なんだ!?耳がいてぇ!」

樹「うっさいとはなんや、呼んでも反応なかったさかい心配したんやで!」

信也「それは悪かった、すまん、予想外の物があってぼーっとしてた、
   こっちは気配も消えちまった、そっちは?」

樹「こっちもや、あんだけあった妖気が逃げてしもうた」

信也「ちっ、了解、いったん戻ろう」

樹「あいよ、了解や」

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朧「ほぅ、あの退魔師のガキ共、久しいな、まさかこんな所で遭遇するとはな、
  この町には面白いものが多い、しばらくは暇を持て余す事はなさそうだ、
  手始めは、あの小娘から戴くとしようか」

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命「っ、はぁ・・・はぁ・・・、なんで、こんな時間のこんな所に人が・・・・、
  あんな所見られたら、来たばっかりなのに、この町にいられなく・・・」

朧「小娘、そんなに急いでどうしたというのだ?」

命「っ!?」

朧「フッ、そんなに驚くな、安心しろ、俺も貴様と同じで人間では無い」

命「な、何の事、私はれっきとした人間で・・・・」

朧「ほぅ、ではその頭の上のものはなんだ」

命「えっ、さっきちゃんと隠したのに!?
  ・・・・無い、騙したのね」

朧「騙したとは人聞きの悪い、むしろ人を騙しているのは貴様の方であろう、
  なぁ、鬼の子よ」

命「もしかして、さっきの見てたの?」

朧「あぁ、見ていたとも、素晴らしい力だな、鬼の力というものは」

命「素晴らしい事なんてあるものか、これのせいで私がどれだけ苦労して来たか・・・!」

朧「人であろうとするから悩むのだ!その力があれば人の世なんぞ思うがままだろうに・・・」

命「私は力なんていらなかった!人でいたかった!」

朧「ならばその力、この朧が活かしてやろう、貰い受けてやろう!」

命「っ、いやだ、なんか嫌な感じがする、渡さない!」

朧「妖が生に執着するか、見苦しい、実に見苦しい!」

命「私は妖じゃない、人間だ!はぁぁぁぁあああああ!」

朧「おぉ・・・、これが鬼の力、なんと禍々しい、俺が幾年月かけ練り上げた妖力が陳腐に見えるわ、
  欲しい、なんとしても欲しい、その力があれば、俺は超越出来る!」

命「訳のわからない事を、はぁ!」

朧「ふん、正直すぎる攻撃だ、読めるぞ、小娘」

命「なっ、受け止められた・・・・!?」

朧「己の力を御し切れぬ餓鬼が、この朧に歯向かおうなど、那由他(なゆた)程早いわ!」

命「っ、きゃぁぁああああああああ!」

朧「ほぅ、耐えるか、素晴らしい、やはり今すぐ奪うは惜しいか、
  もうしばし預けよう、次出会う時までによく練り上げよ、この俺を滅ぼせるほどに成って見せよ!」

命「く、ぅ・・・・・」

朧「気を失ったか、まだ所詮は餓鬼か、・・・む、あの女は・・・・、ふっ、面白いことになりそうだ」

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信也「っ、この気・・・・!」

樹「あぁ、間違いない、あいつや」

信也「行くぞ樹!」

樹「言われんでもわかっとる!」

信也「っ・・・、はぁ、はぁ、いた、待ちやがれ、朧ぉ!」

朧「その声は、いつぞやの退魔師か」

信也「はぁ!」

朧「っと、二の言(こと)もなく斬りかかるか、これも時代の流れか、嘆かわしい、
  昔は相手が妖であろうと名乗りを上げてから・・・」

樹「アホか信也!術無しで勝てる相手やないやろ!刻印銃、破魔ノ白矢装填、これでも喰らい!」

朧「ほぅ、退魔師が火器を使うか、世も変わったものだ、が揃って礼儀がなっておらんな」

信也「テメェみたいな化物に礼儀なんかいるかよ、悪即斬すら生ぬるい」

樹「ずっと探してたんや、忘れたとは言わさへんで」

朧「フッ、俺が何人の退魔師を喰ってきたと思っている」

樹「っ、なんやと!」

朧「そう急ぐな、あれ程の霊力はそう味わえぬ、忘れる訳がなかろう、
  薫るぞ、貴様らからも、芳(かぐわ)しい霊力を、良くぞそこまで実ったわ」

信也「樹、あいつは人の形をしているだけの化物だ、語るな、滅するのみだ」

樹「せやったな、やるで、信也」

信也「あぁ、即行で行くぞ、破魔の型、我が身吹き抜ける疾風の如し、
   撫ぜればするりとかたづき申す、香月流・臥せ柳(ふせやなぎ)!」

朧「ほぅ、中々魅せる、がまだ正直すぎる!」

信也「くっ、読まれるかよ、けど、凪流(なぎながれ)!」

朧「っ、なんと!?」

樹「ナイスや、仏の楔(ほとけのちぎり)装填、千手撃!」

朧「くっ、ぐぉぉおおおおおおお!」

樹「やった!?」

朧「ぐぅ、ぬるいわ、月下妖煉(げっかようれん)!」

信也「なっ、うぁああああああああああ!?」

樹「っ、信也!」

信也「げほっげほっ、生きてるよ、泣きそうな叫び声で人の名前呼ぶんじゃねぇよ・・・・」

樹「信也!良かった、今度こそ一人になるか思うたや無いか・・・・」

信也「今ので左腕捻った、このまま0人にならなきゃいいけどな」

樹「げっ、え、縁起でも無い事いうなや」

朧「安心しろ、まだ喰わぬ、ここには良い素材が集まっておる、
  まとめて喰わねば勿体無いわ、それまではその命預けよう、余計な場所で落とさぬ事だ!」

樹「逃げる気か、待ちや!」

信也「樹待て、今は準備が足らなさ過ぎる」

樹「せやかて!ここで逃したら次いつ追いつけるか分からんのやで!」

信也「奴の口ぶりだと、しばらくはこの町から動く気はなさそうだ、
   まだチャンスは、来る・・・」

樹「な、信也、信也!?」

信也「うるさい、寝させてくれ、死にはしないから、寝床まで運んでくれ・・・」

樹「なぁ!?ちょ、俺も疲れてるんやで!」

信也「すぅ・・・・すぅ・・・・」

樹「もう熟睡かぁぁあああああい!」

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命「ん・・・・、ここは・・・・、っ、私気を失って・・・・!」

智香「あ、目が覚めたのね、良かった」

命「っ・・・・!」

智香「そっか、あんな大怪我してたんだもんね、怖くても仕方ないよね・・・」

命「そ、そうじゃ、なくて・・・」

智香「ん、どうしたの?」

命「病院に、連絡とか、は・・・?」

智香「ごめんね、保険証とか見つからなかったから連絡して無いの、
   けど、その様子だと連絡しない方がよかったみたいだね、傷も大丈夫そうだし」

命「う、うん、ありがと・・・、あの・・・・」

智香「私、智香っていうの、よろしくね、貴方は?」

命「命、だよ」

智香「命ちゃん、いい名前だね」

命「ありが、と・・・、あの、智香さんは、私の事、怖くないの・・・?」

智香「なんでそんな事聞くの?」

命「だって、あんな大怪我で倒れてたのに、次の日こんなにけろっとしてるんだよ?」

智香「その事か、うん、大丈夫だよ」

命「な、なんで・・・?」

智香「命ちゃんからは悪いものを感じないもの、だから大丈夫」

命「・・・・って事は」

智香「うん、分かってて助けたんだよ、だから気にしないで」

命「ごめんなさい」

智香「謝らなくていいんだよ」

命「ぐすっ、あ、ありがとう」

智香「我慢しなくていいよ、ほら、おいで」

命「っ、ひっく、ありがとう、ありがとうぅ・・・」

智香「よしよし・・・、今まで辛かったんだね・・・」

命「怖かった、寂しかったよ・・・」

智香「ずっと一人だったんだね?」

命「うん・・・・」

智香「今は私が一緒にいるよ、一人じゃないよ」

命「うん、うん・・・」

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智香「落ち着いたみたいだね」

命「うん、ありがとう、・・・・ねぇ、智香さんって見えるの?」

智香「見える時もあるし、感じるだけの時もあるよ、けど命ちゃんははっきり分かるよ」

命「えっ、そんなにはっきり分かっちゃうの?」

智香「そうじゃなきゃこうやって触れないよ?」

命「むしろ触れなきゃおかしいよ、だって私、半分人間だもん」

智香「え・・・・、そう、なの?」

命「うん」

智香「あ、あはは、かなり勘違いしてたかも」

命「どんなふうに?」

智香「自縛霊とかそんな感じ、かな」

命「ぷっ、あっはははは!」

智香「な、何で笑うのー!?」

命「だ、だって、さっきの、会話かみ合ってたのに意味がかみ合ってなかったんだなぁって」

智香「あ、そっか、そうだよね、偶然って凄いね!」

命「偶然じゃないよ、智香さんが優しかったからだよ」

智香「ありがとう、あと、さんはやめよ、なんかくすぐったいよ」

命「え、じゃあ・・・智香って呼んでもいい?」

智香「うん、いいよ、っと、携帯なってる、ちょっと待っててね、
   もしもし宮坂です、・・・うん、この後?友達来てるけど、それでもよければ・・・・、
   うん、分かった、また後でね、うん、ばいばいー」

命「誰か来るの?」

智香「うん、最近、感じる事が凄く多くて、それの相談をしてるんだ」

命「相談してるって・・・、もしかして、霊能力者、みたいな?」

智香「うん、そんな感じの人だよ」

命「私、大丈夫かな・・・」

智香「大丈夫だよ、なんかあっても私がちゃんと説明するから」

命「うん、ありがとう」

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樹「智香ちゃん、邪魔するでー」

智香「うん、いらっしゃい、樹君」

樹「お、友達って女の子やったんやな、俺は樹、よろしくな」

命「み、命だよ、よろしくね」

信也「信也だ、よろしく」

智香「わっ、びっくりした、い、いたんですね」

信也「あ、ごめん、気配消してた、まだ眠いんだ、気にしないで」

樹「こいつ、低血圧やから寝起きメッチャ悪くてな、
  面倒ごとに巻き込まれんように気配消しとるらしいんや」

信也「今日はいつにも増してキツイわ、無茶はするもんじゃないな」

智香「凄いクマですもんね、大丈夫ですか?」

信也「ん、大丈夫、ありがと、あと、樹にはタメ口で何で俺には敬語?」

樹「それは信也が怖いからや」

智香「そ、そんな事無いですよ、ほ、ほら、樹君との方が話してる回数も多いし、ね」

信也「なるほどね、年も近いだろうし、崩してくれよ、俺の方が肩が凝っちまう」

智香「うん、それじゃそうさせてもらうね」

樹「うんうん、やっぱこうやないとな、っと命ちゃん、大丈夫か?」

命「っ、な、何が?」

樹「表情硬いで、もっとリラックスし」

命「そ、そう?気遣ってくれてありがとうね」

信也「んー、よし、今日は晩御飯一緒に食べよう」

命「・・・・・へ?」

智香「私はいいけど、突然どうして?」

信也「まぁまぁ、友好を深める意味でね」

樹「おぉ、それはナイスアイデアや、信也にしてはえぇ事言うなぁ」

信也「俺にしてはってどういう意味だよ、おいこら」

樹「そのまんまの意味やー」

信也「なんか納得いかねぇ」

智香「ふふっ、二人って本当に仲いいよね」

樹「ほやろ?」
信也「そうか?」

智香「っ、あっはははは!本当に息ぴったり!」

樹「ま、俺達は親友やからな」

信也「そういう事にしといてやる」

樹「このー、照れおってからにぃ」

命「羨ましいな・・・・」

智香「命ちゃん?」

命「え、ううん、なんでもないよ、なんでも・・・」

信也「ふぅん・・・・、よし、樹と智香は買出しお願いできるか?」

樹「お、外食じゃのうて手作りか、えぇなぁ、ますますえぇなぁ!」

智香「それじゃお互いに買い物は別々にしよ?
   それで作り始めるまで献立は内緒、って」

樹「おぉー!えぇで!よしゃ、気合入れてかんとな、それじゃ、行ってくるな」

信也「あぁ、行ってこい、料理担当」

樹「おま、サボる気満々やな?」

信也「俺は他にやる事があるんだよ、さっさと行ってこい」

樹「むむ、なんやよぅ分からんけど分かったことにしたる、それじゃ、智香ちゃん行こうや」

命「あ、智香が行くなら私も・・・」

信也「命とは話したいことがある、残ってくれ」

命「え、あ、なんで・・・?」

信也「何でも何も、話したいことがあるからだ」

智香「大丈夫、信也君、悪い人じゃないから、ね?」

命「う、うん」

智香「それじゃ、行ってくるね、信也君、命ちゃんの事いじめちゃダメだよ」

樹「そうや、いじめちゃあかんで」

信也「寄ってたかって俺を悪者にしようとすんじゃねぇ!さっさと行ってこい!」

智香「ふふっ、はぁい」

樹「ほんじゃごゆっくりー」

命「あ・・・・」

信也「はぁ・・・・、寝起きにやるテンションじゃねぇな、疲れた・・・・」

命「ね、ねぇ、話って、何?」

信也「あ、ごめんごめん、それじゃ、率直に聞くけど、昨日路地裏にいたの、お前だろ、命」

命「っ、やっぱり、あんた、だったんだ・・・」

信也「あぁ、そうだ、あの時、お前は俺に気付いて逃げた、間違いないな」

命「な、何が言いたいの・・・・?」

信也「OK、ここから、俺はお前の質問にきちんと答える、
   だからお前も俺の質問にきちんと答えてくれ」

命「う、うん」

信也「まず、残り半分、何で出来てる?」

命「っ、分かる、の?」

信也「あぁ、退魔師だからな、これでも」

命「聞いて、どうするつもり?」

信也「聞いてみないと分からない、人の世に害を及ぼすようなら滅ぼさないといけない、
   ただ、場合によっては守らなきゃいけなくなる、さぁ、そろそろ答えてくれ、俺は二つ答えた」

命「・・・・鬼、だよ」

信也「っ、マジかよ・・・・、分かった、ひとまずは命、お前も守る対象だ」

命「守る?鬼、なのに?」

信也「鬼だからだ、この町に、今朧って奴がいる」

命「朧・・・・、っ、もしかして、昨日の」

信也「なっ、お前、もう朧に会ったのか!?」

命「わ、わかんないよ?ちゃんと名前を聞いた訳じゃないし、
  ただ、私の力が欲しいとか、なんとか言ってたから・・・」

信也「それで、そいつとはなんかあったのか?」

命「少しだけ、争った、負けたんだけど、気付いたらここにいたんだ」

信也「あいつが見逃した・・・?何考えてやがる・・・・」

命「これで、聞きたい事は全部?」

信也「あぁ、聞きたい事はな」

命「はって事は、まだ何かあるんだ」

信也「そういう事、命も鬼の血が流れてるなら分かると思うんだけど、
   智香は妖を引き寄せる、朧が寄って来てたとしてもおかしくない」

命「引き寄せるって、どういう事、あいつ、力が欲しいって言ってた、
  智香は普通の人間でしょ?寄ってきても何もされないんじゃ・・・」

信也「何も無い人間に妖が寄って来る訳無いだろ、使い方を知らないだけで、
   あの子は凄い力を持ってるんだ、それも朧が嬉々として手を伸ばすほどのな」

命「そう、なんだ・・・」

信也「言っておくけど、お前もそうだぞ、あいつからしたら良い鴨なのは一緒だ」

命「っ・・・・」

信也「ったく、あいつを倒したいだけだって言うのに、とんでもない貧乏くじ引いたぜ・・・」

命「足手纏いにはならないよ!私だって戦う、私だって智香を守るんだから!」

信也「・・・・・・・」

命「な、何よ、そんなぽかーんとしちゃって」

信也「くすっ、あぁ、いや、なんでもない、
   それじゃあ、その時が来たら手伝ってもらうから、よろしくな」

命「当たり前だよ、あいつには私だって借りがあるんだから・・・」

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朧「そこ行くお嬢さん、少しよろしいかな」

智香「え、私、ですか?」

朧「そう、お主だ」

智香「なん、でしょう?」

朧「お主からは不思議な力を感じる」

智香「凄い、分かっちゃうんですか?」

朧「うむ、俺も少々特殊な物を持っている故な」

智香「そうですね、貴方からも不思議な物を感じます」

朧「ほぅ、お主も分かるか」

智香「はい、私、昔から見えると言うか、感じるんですよね」

朧「なるほど、では俺はなんだと思う」

智香「なんだと・・・・?うーん・・・、命ちゃんとよく似てるけど、何か違う」

朧「命、とな?」

智香「昨日知り合った女の子なんです、凄く不思議な子、
   けど、なんだろう、貴方はもっと獣臭い・・・?」

朧「クッ、素晴らしい」

智香「え?」

朧「睡(すい)」

智香「っ、急に、ねむ、けが・・・・」

朧「絆は予期せず罠となりうる、退魔師、惹き寄せし者、鬼の娘、
  供物は揃った、今宵は宴、楽しめそうだ」

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樹「たっだいまー!ってあれ、智香ちゃんまだ帰ってきてへんのか」

信也「おかえり、まだ帰ってきてないよ」

命「ちょっと、遅いよね」

樹「そやな、俺より遅いとなると、心配やな」

信也「まさかとは思うけど・・・・」

朧「まさか、とはなんだ?」

信也「っ、朧!」

樹「どこや!?」

朧「辺りを見渡そうとそこにはおらんよ」

命「智香を、智香をどうしたの!」

朧「どうもしておらぬよ、まだな」

命「まだって何よ!」

朧「フッ、それはその時のお楽しみだ、
  今宵、小高い丘の神社にて宴を行う、丑の刻(うしのこく)の間に来られよ、待っているぞ」

命「待ちなさいよ!この付近に神社がいくつあると思ってるのよ!」

信也「よせ、もう届かない」

命「けど!あれだけの情報じゃ・・・!」

信也「樹、見当は?」

樹「当然や、この辺りで小高い丘の神社と呼べる様な場所は四つ、
  その中で神格が失われて妖が踏み入れそうなのは一つだけや」

信也「流石」

樹「任せとき」

命「凄い・・・、この辺りの神社全部把握してるの?」

樹「まぁの、俺に不可能はないからな」

信也「場所はよしとして、今の用意じゃきついな」

樹「それは手打ってあるで、買い物の間にな、
  ちょっと急かしてくるわ、スタートには間に合わんと思うけど、
  絶対間に合わせたるからな」

信也「了解、頼む、命」

命「な、なに?」

信也「お前の力、あてにしてるから、頼む」

命「っ、う、うん!」

樹「命がいれば大丈夫やな、それじゃ、頑張って生き延びるんやで!」

信也「変なフラグ立てるんじゃねぇよ、お前が来る前に倒してやるよ」

命「そうだよ、私たちは勝ちに行くんだから」

樹「そやな、それじゃ、また後でや!」

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信也「小高い?小ってレベルじゃないだろこれ・・・・」

命「何よ、これ位の階段、男でしょ」

信也「もうちょっと整備されてりゃこれ位で片付けても良いんだけどな、
   この寂れ具合、勘弁してくれよな・・・」

命「ほら、上見えてきたんだから、頑張って!」

信也「クソ、なんでこんな悪路をそんなひょいひょい上れるかなぁ」

命「慣れてるからね、よし、頂上だ」

信也「はぁ・・・はぁ・・・、予想通りこっちも寂れてるな」

命「あ、見て、あれ」

信也「ん、どれだ?」

命「ほら、智香が広場の真ん中に!」

信也「あんな目立つ所に?」

命「行こう、周りにはあいつも見えないし、助けるチャンスだよ」

信也「いや、どっからどう見ても罠にしか、って待てよ!」

命「智香!大丈夫だった?」

智香「えぇ、大丈夫だったわ、来てくれてありがとう」

命「っ、違う、貴女、誰!?」

智香「何を言っているの?私は智香よ?」

信也「あぁ、お前は智香だろうな」

智香「あら、なんで刀を私に向けるのかしら」

信也「その子の体を開放しろ、朧!」

命「えっ」

智香「クッ、あっはははは!流石は退魔師と言った所だ、良くぞ見破った!」

信也「盾にしているつもりならやめておけ」

智香「ほぅ、貴様はこの体ごと俺を切れると言うか」

命「っ、ふざけないでよ!」

信也「人として死にたいのであれば止めない、これが最後の警告だ、
   その体から出て行け!」

智香「斬れるものならば斬って見せよ、退魔師!」

信也「言ったな、あの世で後悔しろ、はぁぁぁあああああああ!」

命「信也!」

智香「いい思い切りだ、だが直情的過ぎる!フッ!」

命「っ、智香からあいつが抜け出た・・・!?、斬っちゃダメ、信也!」

信也「分かってる!お前がやりそうな事なんて分かってんだよ朧!蝶舞蜂刺(ちょうぶほうし)!」

朧「ふっ、やはりいつぞやとは違うと見える、だが甘く見ているのは貴様も同じだ、
  その程度の動き、先日見ている、月下妖煉(げっかようれん)!」

信也「その術は俺も見てるんだ、式の型、払わば来る、行くは枯れ木の葉、
   巻き上がれ、荒凩(あらこがらし)!」

命「風で火が・・・、っ、智香!」

朧「刀だけではなく術もこなすか、魅せてくれる、だがまだ甘い、岩檄波(がんげきは)!」

信也「くっ、まっず・・・!」

命「ご大層な名前付けてたって、しょせん飛び出る岩でしょ!せぇい!」

朧「ぬっ、素手で止めるだと!?」

命「もぅ、こういう事なら先に言ってよね!」

信也「ブラフってばれたら開放してくれないだろうが、それくらい分かれ!」

朧「ふむ、人質に関してはそちらが一枚上手だったな、
  俺の選択は、斬られるか開放するか、この二択しかなかった訳だ」

信也「そういう事だ」

命「観念しなさい、智香さえ取り戻せばこっちのもんなんだから」

朧「ふっ、甘く見られたものだ、貴様ら、先日、あっけなく蹴散らされたのを忘れたか」

命「忘れて無いわよ!けど、今度は一人じゃない!」

朧「ほぅ、だが、その男も俺に二度負けているのを知っているか?」

命「えっ、そうなの?」

信也「一度目は六年も前の事だろ、今する話かよ」

朧「二度目は昨日の事であろうが、今する話に相違あるまい、
  それに、六年も前の復讐で俺を追い続けているのはどこの誰だったか」

信也「っ、テメェ・・・」

命「復讐・・・?」

朧「フッ、聞かされていなかったか、鬼の娘よ、そやつは・・・」

信也「やめろ!こいつには関係ないだろ!」

朧「仲間を殺され、その復讐のためにずっと俺を追っていたのだ!
  貴様も、そこの娘も、利用されていただけにすぎない!」

命「・・・・そうなの?」

信也「順番が違う、確かにこの町には朧を探しには来てた、
   結果的には探す為に利用したみたいにはなってるけど、
   今までと何も変わらない、解決する為に依頼主に協力してもらっただけだ」

朧「だそうだ、否定も、悪びれもしないらしい」

命「正直でいいじゃん、そういうの嫌いじゃないよ、
  それに、私だってあんたを倒したいもん、目的は一緒だもん」

信也「命・・・、あぁ、ありがとう」

命「当然でしょ、さぁ、やろうよ、信也!」

信也「あぁ!」

朧「今日は思惑のよく外れる日だ、まぁ良い、それも一興、
  宴はまだ終っておらぬ、閉めの感想を語るにはまだ早い」

信也「テメェの悪趣味な宴なんてすぐに終らせてやるよ、
   命、お前の力借りるぞ」

命「借りるって、どういう事?」

信也「纏気(てんき)の型、漂いし他なる者の妖気よ、我が剣に纏いたまえ」

朧「ほぅ、鬼の妖気を刀に、凄まじい力だ、が、悲鳴をあげておるぞ、
  その様なナマクラで扱えるような力ではあるまい」

信也「確かにな、元よりテメェの気を使ってやろうと思っていた、
   敵の力を無理やり使ってりゃこの刀じゃ耐え切れなかっただろうさ、
   だけど、想いを共にする仲間の力だ、何倍もこっちの方が強くなれる」

命「・・・・初めて自分の力に感謝するよ、信也、有り余ってるから好きなだけ使って!」

信也「剣のキャパがもっと大きければ喜んでなんだけどな、こいつじゃこれが限界だ、
   ったく、樹の奴、まだこねぇのかよ・・・・」

命「準備ってそういう事か、よし、来る前に片付けるくらいの気迫で頑張ろう」

信也「へっ、楽に言ってくれるよな、けど、ありがたい、
   お前のおかげでこの型でもすっげぇ楽だ」

朧「自らとは相反する妖の力、それを利用する術、負担が大きくない訳が無い、
  だが向かう先が違わぬ故、か、面白い、俺が練り上げたこの力と、
  貴様らどちらが上か、試してみようでは無いか」

信也「言われなくてもやってやる、香月流、新月!」

命「それカッコイイ、よし、命流、牙楼空襲撃(がろうくうしゅうげき)!」

朧「その牙、叩き折れた時の貴様らの顔が目に浮かぶ、
  行くぞ、心折曝殺陣(しんせつばくさつじん)!」

命「これ、力負けして、きゃぁああああああ!?」

信也「命!っ、まずっ、うぉ!?」

朧「ほぅ、致命傷は外したか、流石だ、が、牙は、折れた」

信也「何言って・・・、っ、マジかよ・・・」

命「つぅ・・・、あ、刀が・・・・」

朧「クッ、あっははははは!心は折れてはいまいが、牙は折れたぞ、
  さぁ、どうする退魔師!」

信也「くっ、刀が無くたって、やってやるよ」

命「けど信也、素手でも戦えるの?」

信也「戦えなくない」

命「ダメじゃん!下がっててよ、私が時間稼ぐから」

信也「お前一人に任せられるかよ!」

朧「ふっ、牙折れた狼は死すのみ、無様な足掻きはすぐ終ろう、
  次で決着だ」

樹「そうは問屋が卸さへんで!阿修羅撃!」

朧「ぬっ、妖蓮壁(ようれんへき)!っ、止まらぬ!?うぉおお!」

樹「クリーンヒット!主役は遅れて現れるって奴や!
  待たせたのぉ、信也、命ちゃん!」

信也「遅い!何やってやがった!」

命「刀一本ダメになっちゃったじゃない!」

樹「えぇー!?せっかく間に合ったのに俺責められるんかいな!」

信也「間に合ったのはお前の功績じゃない、俺達の功績だ」

樹「なんやと!俺が昼間手回ししとらんかったらこの時間に到着しとらんかったんやで!」

信也「知るか!お前が最初から持ってきとけば良かった話だろうが!
   それより、ちゃんとあれを持ってきたんだろうな?」

樹「任せとき、チョイスは間違いあらへんで、ほれ」

命「え、何その刃こぼれしたボロボロな刀・・・」

信也「これが一番容量大きいんだよ、これなら、お前の力を活かしきれる」

樹「そや、纏気の型に特化した刀なんよ」

命「そうなんだ、それじゃ今度こそ!」

信也「あぁ、あいつを滅ぼしきってやる」

朧「クッ、クッククク・・・・、この俺に泥をつけるとは、面白い、
  久しく味わっていなかった土の味だ、力を手にしてからは初めてか、ククク・・・」

樹「なんや、あいつ、様子がおかしいで」

朧「冥土の土産にいい物を見せてやろう、翳る(かげる)月に揺らぐ境界、
  丑の刻にいずるは喰らいし供物なり、表装、無月大蛇(むげつおろち)」

信也「っ、なんだ、あの禍々しい姿・・・・」

命「鬼なんて目じゃないじゃん、あれ、化物だ・・・」

朧「素晴らしいであろう、これが、俺の重ねた年月だ、喰らって来た者達の全てだ!
  人の身では至れぬ境地よ!貴様らもこれの一部となるのだ、光栄であろう!」

樹「光栄な訳あるかいな!そんなえげつないもんに混ざりたないわ!」

朧「だが、この姿を見て、まだ勝てると思うのか、貴様は」

樹「うっ・・・・」

信也「くそ、まさか、ここまでだとは・・・・」

智香「はぁ、なりは大きくなっても、情け無いまま?信也、樹」

命「智香!目が覚めたんだね!ってなんか様子が・・・?」

智香「ごめんね、あんまりいい器だからちょっと借りちゃった」

命「借りちゃった・・・・?」

朧「足らぬと思ったら、そこにいたか、退魔師の女」

樹「まさか・・・」

信也「薫?」

智香「そ、久しぶり、信也、樹」

信也「お前、なんでそんな所に!?」

智香「あいつがこの子の体から抜け出た時、無理やりここに残留してやったの、
   この子がとんでもなく大きい器で助かったわ」

朧「中々消化されぬとは思っていたが、ここに来て逃すとは思ってもいなかったわ、
  まさかまだ自由が効くとはな」

智香「私だけじゃないわ、ねぇ、皆?」

朧「皆?どういう・・・、ぐぅ!?」

命「気が、乱れた?」

樹「薫、中で何してたん?」

智香「大変だったんだから、諦めきった人とか、人じゃないのとか、意思の疎通が出来ない奴とか、
   みんな説得するのに六年全部費やしたわ」

朧「おのれ・・・、まさか取り込んだはずの力にしてやられるとはな・・・」

信也「はは・・・、やっぱりお前には敵わないな、流石だよ」

智香「そんな事無いよ、中から見てた、信也凄く強くなってた」

信也「っ・・・・、やめろよ、年甲斐もなく泣きそうじゃねぇかよ」

樹「泣くのは、あいつ倒してからのうれし泣きで、や」

命「そうだよ、チャンスは今しか無いよ!」

信也「あぁ、みんなの力、貸してくれるか?」

命「当然、言ったでしょ、有り余ってるって」

樹「何を今更、この時のためやろ、俺らが強なったのは」

智香「六年前に死んだ身よ、残った私の全て使いなさい」

信也「・・・・分かった、なぁ朧、見せてやるよ」

朧「ほぅ、これ以上何を見せてくれる、茶番なら見飽きたぞ」

信也「力を一つに集めて使うって事のお手本をだよ!
   纏気の型、この刀に集え、みんなの力・・・!」

朧「なっ・・・、それが、それがたった四人の力だというのか!?」

智香「そうよ、人はね、みんなで集まれば一人じゃ出来ない事だって出来るようになるの」

樹「お前がやっとるんは喰って栄養にして消化しとるんと同じや、
  そんなんじゃでかくなっても強くはなれへん」

命「妖だって一緒だよ、一人じゃ何も出来ない、何も出来なかった!」

信也「お前が今まで壊し続けてきた、繋がりの力、思い知れ!」

四人「はぁああああああああ!」

朧「お、おぉぉぉおおおおおおおおお!?」

信也「・・・・・やった?」

智香「・・・・・みんな、解放されたみたいよ、気が昇華してく」

命「薫さんの気も・・・・」

智香「当然って言ったら当然ね、私の魂をこの世に繋ぎとめていた朧は、
   後はもう滅ぶだけ、名残惜しいけど、さよなら、ね」

樹「へへっ、最後に少しだけ話せてよかったで」

智香「私も、二人に、ずっと会いたかったよ、私でいられるうちに、会えてよかった」

信也「薫、本当に行っちゃうのかよ?」

智香「・・・引き止めないでよ信也、私だって、みんなとずっと一緒にいたいよ・・・・」

信也「・・・・・ごめん、それじゃ、最後くらい、笑顔で見送りしてやるからさ、
   ははっ、また、またな」

樹「それのどこが、笑顔や、そんな、ぐしゃぐしゃの笑顔があるかいな」

命「ふふっ、樹も人の事言えない位ぐしゃぐしゃだよ」

樹「こ、これは嬉し泣きや!別れの涙はもう昔流したから、
  これはちゃんと成仏できてよかったなぁの涙や!」

智香「こんな泣き虫三人残して成仏なんて出来ないわよ!
   もぅ・・・・、・・・・ぁ、もう、時間みたい」

信也「帰ったらちゃんと経読んでやるから、しっかり成仏しろよ!」

智香「楽しみにしとく、それじゃあ、ばいばいっ・・・・」

命「っ、危ない!・・・ふぅ、そうよね、智香は覚醒して無いもんね、倒れるよね」

樹「でも、これで全部、終ったんやな・・・・」

朧「ぐ、ぅ・・・・」

信也「なっ、朧、まだ生きて・・・・!」

朧「クッ、ははは・・・、安心、しろ、もう、直に滅ぶ、貴様らの、勝利だ・・・」

樹「なんや、言い残したことでもあるんか?」

朧「鬼の娘・・・・、命、とか言ったな・・・・」

命「な、何?」

朧「お前は、人として生きる道を、選ぶのだな?」

命「そうだよ、それが、どうしたの?」

朧「それは、並大抵の道ではないぞ、俺の様に、人から人外になるよりも、
  人外から人になるのは、過酷な道だ」

信也「人から、人外に・・・、まさかお前・・・」

朧「ふん、同情は、いらぬぞ、確かに始まりはとうに覚えておらぬ・・・・、
  が、自ら選んだ道ぞ、例え末路がどうであれ、後悔なんぞ、ない」

命「そう、例えどんなに大変でも、私は人として生きていく、
  人がどんなに素敵かって教えてくれた人が、私にはいる、後悔なんて、しない」

朧「それで、よい、人は、過ぎた願いを持ったとき、もしくは、諦めた時、
  人を止める、退魔師よ、それは貴様らも同じだ」

樹「本当は、後悔しとるんやないか、そないな事言うて」

朧「後悔は、せぬ、動機なぞ消え失せたが、約束、そう、約束は消えぬ、
  俺は、生き延びた、そして、打ち勝った、止まらぬと、誓った・・・、
  くはは・・・、もう顔も名前も声も思い出せぬが、そうだ、あれは、無二の親友だった」

命「親友・・・・、その人はどうなったの?」

朧「覚えておらぬわ、いつの事だと思っている、ただ、死んだのは間違いない、
  あやつは、人だからな、あぁ、あの時も、空が、綺麗だった、
  今逝くぞ、そこにお前はおらぬだろうが、俺も、直ぐに・・・」

信也「消えた・・・・な」

樹「なんや、よぉ分からんかったな」

命「そう?私はなんとなく分かったよ」

信也「・・・・俺も、なんとなく、なんとなくだけど分かった、気がする」

樹「俺にも分かるように説明してくれへんか?」

命「もぅ、なんて無粋、あの人は帰ったんだよ、遠いあの日に」

信也「人だった、あの時に・・・、朧は、約束を果たし続けるために生きた亡霊だったんだな」

樹「覚えても無い約束の為に、か・・・・」

命「後悔、しないように生きなきゃ、薫さんの分も、あいつの分も・・・・」

信也「そうだな・・・」

智香「ん・・・・ぅ・・・」

樹「お、智香ちゃん!目ぇ覚めたか!」

智香「なんだか、とても、暖かくて、とても切ない夢を見てた気がするの・・・」

命「それ、薫さんの・・・」

信也「幸せな、夢だった?」

智香「うん、凄く、幸せな夢・・・・」

信也「そうか、疲れてるだろ、もう少し寝てな」

智香「うん、あり、が、と・・・・」

樹「・・・・よっし、帰ろか!」

命「うん、帰ろう!」


信也M「それから、俺達は命と智香を家に送り届け、ホームへ戻った、
    町は、何事もなかったかのように眠りに付く、また明日は、いつもと同じ朝が来る、
    そう、それは俺たちにも同じように、
    六年間追い続けた朧は滅んだ、だがしかし、俺たち退魔師の仕事がなくなる訳じゃない、
    これ以上、他の人に同じ思いをさせないように、朧のような哀しい妖を生み出さないために、
    俺達は、人の心に住む、鬼を払い続けるんだ」



信也「いらっしゃい、今日はどのようなご用件で・・・って、なんだ命か・・・、ってはぁ!?」

命「なんだとは何よ、折角来てあげたって言うのに」

信也「な、ななななんでお前がここに!?」

命「しばらくお世話になるつもりで来たの」

信也「お世話って、どういう事だよ」

命「住み込みで退魔師の仕事、手伝いたいの、私、定期的に妖を食べないと鬼の血が落ち着かなくて・・・、
  それに、信也の力になりたくて、薫さんみたいに凄い力はないけど、役には立つようになるから!」

信也「だからって、なんで住み込みに・・・」

樹「まぁまぁ、そう堅い事言わんでもえぇやないか」

信也「っ、樹、まさかまたお前の入れ知恵・・・」

智香「そうだよ、遠路はるばる来たんだから、もっと優しくしてあげてよ」

信也「と、智香までなんで!?」

樹「この子に力がある言うたの、信也やろ?」

智香「話はみんな聞いたよ、私も、力になりたい」

信也「・・・・・はぁ、どいつもこいつも・・・・」

樹「信也、お前の負けや、大人し受け入れぇや」

信也「分かったよ、これから、よろしくな」

命「うん!」

Fin




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シナリオの感想とか演じてみて台本としての感想とかいただけると作者がよろこぶかも・・・w