【 かりそめの輪 】

[ 所要時間:約8分 ]


《 キャラクター 》

佐伯良祐(さえき りょうすけ):♂

河口恵利(かわぐち えり):♀



良祐♂:
恵利♀:






恵利:はぁ・・・遅い。

良祐:よぅ。待たせた。

恵利:約束の時間、とっくに過ぎてるんですけど?

良祐:つっても3分くらいだろ?

恵利:いいえ。5分です。5分36秒の遅刻。

良祐:細かい事はいいだろ。んなもん。

恵利:良くないです。私達の立場分かってますか?

良祐:分かってるよ。

恵利:だったら、時間はしっかりと・・・

良祐:はいはい。悪かったですね。・・・とりあえず、行くか。

恵利:・・・そうしましょう。

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良祐:そっちはどうなんだ?最近。

恵利:なにがです?

良祐:なにがもなにも。転勤したんだろ?

恵利:良い職場ですよ~?勤務時間めいっぱいにこき使われたあげく、上司はセクハラしてきますから。

良祐:ココロの中が口に出てるぞ?

恵利:もちろんです。出してますから。

良祐:どこも大変だな。

恵利:そっちはどうなんですか。

良祐:あー。どうもないかな。
   これまでと変わらない。上司のご機嫌伺いに、愛想笑いのセールス三昧。

恵利:相変わらずあのハゲは上司風(じょうしかぜ)吹かして鼻高々と。

良祐:そうそう。やってられないよ。

恵利:どこも変わらないんですね。

良祐:そりゃそうだろ。俺らは所詮歯車だ。使われて、使われて、古くなったり使えなくなったりしたらポイだ。
   そう考えると、なぁんかやるせないよねぇ。

恵利:そうですね。・・・時に、聞くの忘れてたことが1つあるんで、いいですか?

良祐:ん?なにさ?

恵利:なんで、よりにもよってこの店なんです?

良祐:あ?なんでって。俺、この店好きだから。

恵利:好きだからって!ここ、彼方の会社の人が会議でよく使うホテルでしょう!?
   そんなとこで食事なんてしてたら・・・

良祐:あー。もしかして、俺のこと気遣ってくれてる?

恵利:なっ・・・

良祐:恵利ちゃんやさしいねぇ。ご褒美に褒めてあげる。

恵利:ふざけないで下さいよ。

良祐:ふざけてなんか無いよ。ちゃんと目的があって此所を選んだ訳だし。

恵利:じゃあ、その目的とは?

良祐:恵利ちゃんを押し倒せる。

恵利:ぶん殴って良いですか?

良祐:ごめんごめん。ほら、言うじゃない「灯台もと暗し」って。そう言う意味で選んだの。
   後は、そっちに気兼ねがないでしょ?

恵利:それは・・・そうですけど。

良祐:俺の方は言いくるめようとしたらどうとでもなるし、お宅の方を心配した訳さ。
   感謝してくれたって良いんだよ?

恵利:・・・あ、ありがとう・・・ございます。

良祐:ふふ、やっぱりかわいーね。恵利ちゃんは。

恵利:バカにされてるとしか思えないんで、とりあえず後で1発殴らせて下さい。

良祐:暴力はんたーい。


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恵利(M):こうして、私達はお互いに解りきった茶番劇を繰り返す。
     お遊びの様な会話、行為を交わし。現実から逃げ出すのだ。
     その先には何も無いのに。

良祐(M):それは、鬱蒼と茂った藪の中のよう。
     人も、ケモノも入ってない処女地としての藪。
     そこへと踏みいり、ふたりして隠れ潜む。
     現実で失われた楽園をいだいて。
     
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良祐:だから、そーいうとこが「かわいー」んだよ。

恵利:・・・・・。

良祐:ホントに恵利ちゃんって普段つんけんしてるのに「あんな時」だけは素直なんだから。

恵利:とりあえず、黙って貰えませんか。死にたくなる前に殺したくなるんで。

良祐:いーじゃない。ピロートークってヤツで。

恵利:ピロートークで言葉責めする人間がどこに居るっ!

良祐:はーい。(手を挙げる

恵利:(頭抱えて)・・・えーっと。灰皿は何処にあったかな。

良祐:恵利チャーン。それ、ホントに死んじゃうからやめとこうか。

恵利:ったく。色気もなにも無いですね。・・・いつもの事ですけど。

良祐:そう、いつもの事。茶番だよ。それとも、もっと色っぽい秘め事にする?
   ・・・「悪い事」になるように。

恵利:それは・・・しんどいんでパスで。

良祐:だよね。俺もしんどいからパス。

恵利:・・・・・。

良祐:ん?携帯。

恵利:あ、私です。・・・あ、メールか。(打ち始める)

良祐:・・・ねぇ、恵利ちゃーん。

恵利:なんですか?

良祐:人間って進化すると思う?

恵利:は?

良祐:例えばさ、キリンっているじゃない。
   あれの首が長いのは進化した結果でしょ?
   グッピーのあのキレーなヒレも、進化の結果だし。
   じゃあ、人間はどうなんだろうね?
   これ以上進化したりするのかな?

恵利:どうでしょうね。(メール打ちながら)


良祐:あれ?あんまり興味無い?

恵利:進化なんてそうそうしないでしょ。
   子どもを産んだからってすぐ何か変化がある訳じゃないですし。

良祐:なに?子作りしてみる?

恵利:遠慮します。

良祐:だろうねーぇ。

恵利:どうしたんです?佐伯さんはそんなに進化したいんですか?

良祐:進化したいって訳じゃないけどね。
   ・・・そうだなぁ、言うなら、別の自分になりたいって感じかな。

恵利:別の自分・・・ねぇ。(携帯放り投げて))

良祐:なってみたいって思わない?

恵利:私は特にないです。

良祐:なんで?

恵利:なんでって・・・。別に私は現状で満足ですから。

良祐:そっかぁ。なんかさみしーな。

恵利:アホっぽい。

良祐:ひっどいなぁ。

恵利:・・・じゃあ、こうしてみましょうか。

良祐:ん?なーに?・・・いてっ

恵利:これで我慢して。

良祐:・・・なにしたの?

恵利:キスマーク。進化とかじゃないですけどね。

良祐:わ、ばっちりついてる。

恵利:そりゃそうです。つくようにしましたもの。

良祐:せめて、目立つところは止めとこうよ。

恵利:変わりたいんでしょう?これも一種の変化ですよ。

良祐:まったくもう・・・。

恵利:ね、進化するのも困りものですよ。

良祐:・・・そうかもな。

恵利:さて、じゃあ私は寝ます。明日、朝早いんで。

良祐:あれ?今何時?

恵利:深夜3時23分。

良祐:うわ、もうそんな時間か。

恵利:・・・良かったんですか?帰らなくて。

良祐:親にはメール入れておいたからな。別に問題無い。

恵利:そうですか。

良祐:・・・俺も寝る。いろいろ疲れた。おやすみ。

恵利:おやすみなさい。

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恵利(M):ふと垂れ流しになっているテレビへと目を向ける。
     そこでは、液晶の中で色とりどりの魚が泳いでいた。
     作られた水槽。作られた魚たち。
     実物の魚と違い、彼らは私の握るたった1つのリモコンでその命を一瞬で終えた。
     そして、ふと思った。私も、そしてすぐ横に居る男も、彼らと同じ「まがい物」なのだと。

良祐(M):作り物の恋。それは何処までも曖昧で、嘘で、いい加減。
     そんな喜劇にも悲劇にもならないことを繰り返す。
     嫌いな現実を見ない様に。作られた楽園が何処までも続くように。
     出来ないと知りながら。愚かにも繰り返すのだ。

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Written by 福山 漱流




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