『Arc Jihad(アークジハード) -静謐と狂騒の差異-』    作:福山漱流&ほにゃら隊長



<登場人物>
[ゼラフィーネ・フォン・シュヴァイツァー(フィーネ)]♀
表記:Seraphine von Schweizer
年齢:19
詳細:騎士の家に生まれた才色兼備の女騎士。
   冷静かつ騎乗で、殆ど感情を表に出さない。
   担い手は自分以外と契約した者も含めて従者扱いしている。
   仇敵を討ったことで、僅かながら心に余裕ができてきた。

[シグルズ]♂ ※シドニウス
表記:Sigrud
年齢:(外見)20代半ば
詳細:魔剣『ダーインスレイヴ』の担い手で、フィーネの契約者。
   どこか含みのある物言いをするほか、狂信的なまでにフィーネを気に入っている。
   やや短気な面があり、仲間内以外には不機嫌さや憎悪などを露呈しやすい。

[白鳳 伽子(はくほう かこ)]♀
年齢:19歳
詳細:白鳳会というヤクザの一人娘であり現組長。
   感情の起伏が激しい一方、頭のキレる人間。
   父親殺しをした契約者を殺すためムカゼと契約した。
   親殺しの相手に復讐をするという狂気性が潜んでいるため、
   戦闘となると刀の担い手であるムカゼの狂気と同調し、
   内面の狂気性が増幅され、戦闘狂になる。

[ムカゼ]♂
年齢:???
詳細:妖刀『むかぜ丸』の担い手。
   長年放置された妖刀「むかぜ丸」から生まれた付喪神の人格を
   インストールされた異世界人。

[夜光 哲一(やこう のりかず)]♂
年齢:(外見)20代後半
詳細:『ミスティオン』関西支部の使い。
   堅物のポーカーフェイスで人の言葉尻を疑いがち。
   腹のうちに何かを抱えているようだが・・・?


フィーネ♀:
シグルズ♂:
伽子♀:
ムカゼ♂:
夜光♂:







伽子「相変わらず、古めかしい家だな。」

ムカゼ「シグルズいるかなぁー」

伽子「遊びに来てんじゃねぇんだよ。はしゃぐなムカゼ」

ムカゼ「わかってるってぇ、伽子ぉ。」

伽子「だからってくっつくな。・・・奴は、目標を達したんだったな」

ムカゼ「そう聞いてるけど?先越されちゃったね。伽子。」

伽子「別に、レースをしてんじゃねぇからな。」

ムカゼ「そっかー。」

伽子「とりあえず、行くぞ。」

ムカゼ「へーい。」


======================================


シグルズ「あれ?お茶の時間にはまだ早くない?」

フィーネ「客人よ。ミスティオン関西支部から、情報確認を求められた。
   ハイドはノエルの買い出しに同行して、夕方には帰るそうよ。」

シグルズ「あ~、どおりで屋敷が静かなわけだ。・・・・・ん」

フィーネ「何?」

シグルズ「噂をすれば来客ってね。しかも魔剣の」

フィーネ「1人で来ると言っていたけれど?」

シグルズ「オッケー、んじゃ適当に片付けてくるよ。」


夜光「Arc Jihad(アークジハード) 静謐と狂騒の差異」


ムカゼ「やっほー!むっかぜちゃんだよぉ~!シグちゃんおひさしぃ~!」

シグルズ「げっ・・・む、かぜ・・・!?」

伽子「すまないな。シグルズ。邪魔させてもらうぞ。」

シグルズ「あ、あんたら、まさかミスティオンに・・・・・って、んなわけないか。
   悪いが先約入ってる、フィーネに用があるなら別の日に・・・」

伽子「ん?ミスティオンだと?」

ムカゼ「いーじゃん、つまらねぇこと言わずにさぁ。遊ぼうぜぇ~?」

シグルズ「~~~~~あのなぁ!テメェと遊べるほどこちとら暇じゃねぇんだよ!
   フィーネが本調子じゃねぇ以上、担い手の俺が下手に体力使うわけにゃ・・・!」

ムカゼ「けちけちするなってのぉ~久しぶりにぃ。お前とヤリたくなったからさぁ」

伽子「ムカゼ。」

ムカゼ「な、なんだよ伽子。」

伽子「はしゃぐなら、よそでやれ。ヒトの家を荒らすわけにもいかないからな。」

ムカゼ「わかった!じゃー、外でやろう!そうしよう!」

シグルズ「テメェ・・・いっぺんシメねぇとわかんねぇようだなぁ・・・・・!」

夜光「失礼、こちらはシュヴァイツァー女史のお屋敷でしょうか?」

シグルズ「っ?アンタは?」

夜光「ミスティオン関西支部から参りました、夜光哲一と申します。
   本日、ゼラフィーネ・フォン・シュヴァイツァー様との面会を
   申し出ていたのですが」

伽子「おい。てめぇ。インテリメガネ。」

夜光「なんでしょう?」

伽子「てめぇ。どこかで会ったか?」

夜光「面識はないと思いますが。
   ただ、あなたが白鳳組の現組長・白鳳伽子であることは存じております。」

伽子「そうか。じゃあ、私が適合者だってのも知ってるんだよなぁ?」

夜光「・・・そうなりますね。」

伽子「さっきお前、私を見たよな。
   大抵、初対面でそういうことをする奴は、
   腹の中に何か抱えているって相場がついてんだ。
   下手にごまかさない方がいいぞ。」

シグルズ「おいおい、やるならよそで・・・」

フィーネ「いつまで客人に立ち話をさせているの?」

シグルズ「っ、フィーネ!?」

フィーネ「片付けの1つもできないほど無能になったのかしら?シグルズ」

シグルズ「あ~・・・悪かったよ。コイツらがアポなしで来ちゃっててさ。」

伽子「やっとお出ましか。ゼラフィーネ。待ちくたびれたぞ?」

ムカゼ「おっほ~。相変わらず、クールビューティーぃ!」

フィーネ「相変わらず、約束も取り付けずの来訪ね。
   用があるなら承りましょう。
   但し、こちらの客人が先よ。
   それと、お遊びなら向こうの空き地にして頂戴。
   今朝手入れをした花壇を荒らされたくないの。」

伽子「わかったよ。別に急ぐわけじゃねぇ。好きにさせてもらう。ムカゼもそれでいいな?」

ムカゼ「俺は遊べるならそれでいいしー。」

シグルズ「遊ぶこと前提かよ・・・・・」

フィーネ「シグルズ」

シグルズ「わーってるって。お客さん帰るまで、せいぜい毒虫の子守でもしてますよっと。」

ムカゼ「毒虫じゃねぇーよ。疫病神だもん。そこ重要だから!」

シグルズ「もっと悪ぃじゃねぇかバカ!ったく、ほらさっさと行くぞ!」

ムカゼ「わーい。んじゃ、後でなー伽子ぉー」

伽子「悪かったな。メガネ。騒がしくてな。」

夜光「いえ。担い手を除いた方が、私の仕事もやりやすいと考えていましたから。」

フィーネ「立ち話はここまでに。本題は屋敷で。」

夜光「はい、お願いします。」


=====================================


フィーネ「ミスティオン関西支部所属・夜光哲一。
   用件は、現在あなた方が持っている情報の確認と、
   こちら側の現況に関する情報提供の要請。間違いないかしら?」

夜光「はい。関東支部独自での情報収集では時間がかかるため、
   関西支部・支部長より独自判断で、最新情報の収集を命じられました。
   手始めに、魔剣側でありながら友好関係にあるシュヴァイツァー女史を中心とした
   3組の適合者及び担い手に関する情報の確認、そして、
   近況についてお話を伺いに参った次第です。」

伽子「なるほど。情報提供っていう名の敵情視察ってところか。」

夜光「いえ、決してそういうわけでは。あくまで情報提供のお願いですよ。」

伽子「『情報提供』ねぇ?ま、聞く分には丁度いい言い訳だよなぁ?」

夜光「なんとでも。残念ながら、あなたと喧嘩をしに来たわけではありませんので、
   詳しい説明は後でもよろしいでしょうか?」

伽子「ハイハイ。わかったよ、だまってりゃあいいんだろ。
   なぁ?ゼラフィーネ。そんなに睨むんじゃねぇよ。」

フィーネ「視力でも落ちたかしらね。細めていたつもりはないのだけれど。」

夜光「では、早速お伺いさせていただきます。
   我々ミスティオン関西支部では、シグルズ・マーナガルム・ロキの
   3名の担い手を確認しています。
   そして、聖剣とも魔剣とも戦闘した実績がある、と。」

フィーネ「えぇ、その通りよ。」

夜光「そのうち、ミスティオンに所属する聖剣とも戦闘した。」

フィーネ「ドイツでは聖ロンギヌス・ガラハッド・ディートリッヒ、
   日本ではジークフリート・シヴァ・アマテラス・ポンヤンペ。
   私が直接対峙したのは、聖ロンギヌスとガラハッドだけよ。」

夜光「となると、その体は魔剣との戦闘によるものですか?」

フィーネ「・・・・・。」

伽子「おいおい。不仕付けだなぁ?女の体のことを聞くなんざデリカシーがねぇな。」

夜光「必要な情報です。適合者の戦闘力の有無は、戦いにも大きく影響します。
   担い手の方は問題ないように見えましたが、あなたは・・・・・」

伽子「別に、不治の病じゃねぇんだ。コイツに関しては問題ねぇだろ。
   つか、こっちの戦力のことも視野に入れて話を進めてる臭いがするんだが
   気のせいか?」

夜光「病でないと、なぜ断言できるのです?」

伽子「フン。私としては『車椅子だから病気』って判断は
   早とちりにも程があると思うんだがなぁ?
   普通は怪我か何かだろう?
   テメェにはそれを病気に仕立てあげたい『腹』があるんじゃねぇのか?」

夜光「ケガか病気か、偏見を持たずに確かめるのが私の仕事です。
   真実はどちらですか?」

フィーネ「・・・魔弾の射手アガーテ・クラインハインツとの戦闘によるものよ。
   より深いマージ・ウェイクと、担い手の力を存分に使用した代償。
   肉体への過負荷、簡単に言えば全身筋肉痛とでもいうべきかしら。
   戦闘から丸2日は身動きも取れなかったけれど、今はやっと腕の自由が戻った。
   本調子でなくとも、数日もすれば立ち歩くのに差障りはなくなるでしょう。」

夜光「アガーテ・クラインハインツ?っ、確か最近、死体が回収された・・・!」

フィーネ「私の祖父を殺した快楽殺人犯。
   ミスティオンで回収されたのは、私が殺したアガーテの肉塊。
   この身体は、仇討ちを果たした結果よ。」


======================================


ムカゼ「ハッハァッ!ホレホレどうしたよォ。シグルズーっ!」

シグルズ「フッ!くそ、あんま調子、乗んな、っての!」

ムカゼ「おっせぇんだよぉっ!・・・ほれ、王手だよん?」

シグルズ「っ・・・・・はぁ。負けだ負けだ、もうお遊び終わり。だー疲れた。」

ムカゼ「なぁ・・・シグルズ。お前、本調子じゃねぇな。」

シグルズ「あ?まー、フィーネの大一番の後だしな。俺も疲れが残ってんのかね~」

ムカゼ「違うだろ、お前はそーいう奴じゃない。」

シグルズ「どういう意味だよ?」

ムカゼ「そーいう意味だよ」

シグルズ「話進まねぇ・・・・・」

ムカゼ「お前さぁ。何考えてんだよ。あの女帝の爺さんの仇討ったんだろ?
   なんで、そんなに剣が鈍るんだ?」

シグルズ「・・・バカのお前に気付かれるとは思ってなかった」

ムカゼ「毒殺しちゃうぞ?」

シグルズ「可愛くねぇし冗談にもほどがあるっての」

ムカゼ「そーですか。・・・ま、そこはどうでもいいや。
   で?お悩みはなんだよ。迷える子犬ちゃん。」

シグルズ「・・・・・フィーネは仇を討った、完全に。
   けどそれは、俺と契約した目的が果たされたってことだ。
   つまりフィーネにはもう、魔剣を振るう理由がなくなった。
   俺がフィーネの武器でいられる絶対の証が、消えちまったんだよ。」

ムカゼ「絶対の証・・・ねぇ?」

シグルズ「俺はフィーネを愛してる。ただ、フィーネは俺を武器としてしか見ていない。
   武器が必要じゃなくなったフィーネにゃ、もう俺は用済みのはず。
   じゃあ俺はなんだ?何になりゃいい?何になるべきだ?
   あの日、魔弾の射手を討った日からずっと、そんなことばっか考えてる。」

ムカゼ「・・・プッ。ニャハハハハハハッ!」

シグルズ「んだよ、人が大真面目に吐き出してんのに、笑うやつがいるかボケ!」

ムカゼ「だって・・・なぁ?アハハハっ!お前の口から、用済みとか・・・クククッ」

シグルズ「テメェその腹掻っ捌いてやろうか!?笑うたびに悶えられるだろうよ!」

ムカゼ「おいおい。いいのかぁ?掻っ捌く前に俺の毒が回るけどぉ?」

シグルズ「上等だ、んな毒掻き消してやんよ!」

ムカゼ「ま、冗談は置いといて。真面目に言えばだ。心配しすぎだっての。」

シグルズ「あぁ?」

ムカゼ「わっかんねぇかなぁ?お前、ハナっからフィーネについてたんだろ?
   近くにいて、闘うことだけがあの女帝との間で有ったことかよ。
   一緒に飯は?お茶は?グダグダと訳もねぇ喋りなんてしてこなかったってか?」

シグルズ「!それは・・・・・」

ムカゼ「思い当たるか?だったら、女帝の剣ってだけの存在じゃねぇってことだよ。
   だって魔剣自体は物だし~?お喋りできねぇじゃん?
   んでもって、ヒトなんてもんは独りぼっちじゃ生きてけねぇし」

シグルズ「フィーネは独りじゃねぇよ。執事もパティシエも、それから従姉妹もいる。
   孤高って表現が近ぇと思うけどな」

ムカゼ「ひゅーぅ。熱いねぇ。パートナーをよく見てるぅ」

シグルズ「当たり前だろ。イイ女には目が行く。特に自分のパートナーならなおさら。」

ムカゼ「あ、それわかる。ウチの伽子もいい女だしなぁ~」

シグルズ「まぁ、俺の場合は、完全に片思いだけどな。」

ムカゼ「はぁ~若いねぇ。おじさん、うらやましくなっちゃうわーぁ」

シグルズ「お前、俺と歳変わらねぇだろ」

ムカゼ「あれ?そーだっけ?ま、それは置いといて。・・・自信持てよ。シグルズ。」

シグルズ「自信、ねぇ。」

ムカゼ「あの女帝はなかなか難しい女だろうけど、根っこは女の子だ。
   保護者がいるんだよ。兄貴が必要なんだよ。いつまでも近くで守ってやるやつがな。
   一番に考えて、一番に動く。そんな奴。」

シグルズ「一番に動く、か。あー、あのヘタレ執事と張り合うことになるなぁ。
   あれ保護者っぽいし。ま、負ける気はしねぇけど。」

ムカゼ「へぇ、ヘタレなんだぁ、あの執事。
   じゃあ、まだ押し倒してはないかぁ。チャンスだな。」

シグルズ「アイツがヘタレてるうちに、チャチャッといいとこ取らねぇとな」

ムカゼ「イイネイイねぇ!調子出てきたな、シグルズ。
   やっぱ、お前はこうじゃなくっちゃ」

シグルズ「さぁ~て、それじゃ・・・・・・隙ありぃっ!」

ムカゼ「だぁっ!?てめっ!ずりぃぞ!?反則だろーがっ!」

シグルズ「油断なんてお前らしくねぇんじゃねぇか~?毒虫ちゃん」

ムカゼ「ぶっ飛ばす!おめぇは毒じゃなくて物理でぶっ飛ばす!
   厄神様の怒りを食らうがいいわァッ!」

シグルズ「上等だゴルァ!」

ムカゼ「百足(ひゃくそく)地獄ゥッ!」

シグルズ「ハッ!『圧(の)し掛かるは追撃の鉄槌 シュヴァルツ・ヴルフ』!」


===================================


夜光「では、戦線に復帰することは十分可能であると考えてよろしいのですね?」

フィーネ「えぇ。まだ時間は必要だけれど、戦線離脱は考えていない。
   私の魔剣は折れていないもの、当然のことよ。」

伽子「だってよ。厄介者を除外できなくて残念だったな。」

夜光「・・・シュヴァイツァー女史の魔剣たちは、いわばジョーカーですからね。
   我々にとっては、最強の味方にも最悪の敵にもなりうる危険なカードです。
   欠片でも敵意を見せられたなら、戦闘不能状態である内に消すつもりでした。」

フィーネ「そう吐き出したということは、少なくとも今は手を出さない。」

夜光「正確には『出せない』です。
   迂闊な判断で、あなたが抱える他の担い手を敵に回したくはありませんから。」

フィーネ「賢明な判断。味方に背中を撃たれなくてよかったわね。」

伽子「ま、悪くねぇ判断だな。あんた。タダもんじゃねぇだろ。」

夜光「ミスティオン関西支部支部長直々の、ただの使いですよ。」

伽子「ハッ、隻腕のあいつか。どおりで。」

夜光「っ、支部長をご存じなのですか?」

伽子「知ってるよ。
   そりゃ、裏の世界とこのヘンテコな魔剣聖剣ドンパチ合戦の世界に生きてりゃあ、
   知っておかなきゃ損だろう?
   ・・・あと付け加えるなら、『見てる』のはお宅だけじゃねぇってことだ。」

夜光「そう、ですか。」

伽子「ま、よろしく伝えてくれよ。『私は私のやりたいようにやる』ってな」

夜光「え、えぇ、お伝えしておきましょう。
   私の目的は達成しました。
   早急に関西支部へ報告しますので、私はこれで失礼します。」

伽子「もう、お帰りか?」

夜光「関東支部からの情報が途絶えている以上、寄り道はしていられません。
   名残惜しくはありますが、本日はお暇(いとま)させていただきます。」

伽子「仕事熱心だこと。ま、頑張んな」

夜光「それでは。あぁ、お見送りは結構です。真っすぐ帰りますので。」

フィーネ「そう。」

伽子「じゃあな。足元には気を付けとけよ」

フィーネ「・・・・・さぁ、あなたの話ができる環境になったわ、伽子。」

伽子「じゃあ、本題に入るか。・・・ゼラフィーネ。お前、仇を討ったんだってな。」

フィーネ「えぇ。1年越しの悲願を成し遂げた。この程度の代償、安いものよ。」

伽子「その負傷か。
   あのメガネの前ではらしく言ったが、本当に復帰の見込みはあるのか?」

フィーネ「見た目からはそう思えないでしょうけれど、今はもう立ち上がることもできる。
   慌てなければまた戦える、また魔剣を振るうことができる。
   魔剣がある以上、戦いそのものはまだ終わってない。」

伽子「なるほど。さすがは剣(つるぎ)の女って処か。」

フィーネ「私自身が剣になった覚えはないわ」

伽子「あり方の話だ。一刀の元に、敵を薙ぎ払い突き進む。ヒロイックじゃねぇか。」

フィーネ「余計なものを斬りたくないだけ。
   あなたのような危なっかしさは持ち合わせていない。」

伽子「そうかい。そりゃあ、悪かったね。」

フィーネ「・・・世間話をしに来たわけではないでしょう?」

伽子「ま、そう来るだろうな。・・・何か情報はあるか?私の、仇について。」

フィーネ「前提情報が少なすぎる。あなたの場合、現場を直接目撃したわけではないもの。
   『白鳳亮司(はくほう りょうじ)は魔剣に殺された』。
   生き残った組員の話を聞く限りでは、そう捉えるのが妥当でしょう。
   けれど、それだけで特定するのは困難を極める。」

伽子「だが、テメェは今までいろんな奴らを相手にしてきた。
   どこかに、それに近づく手がかりはなかったか?」

フィーネ「あなたが欲しいのは、端的な答えだったかしら?・・・なかったわ。」

伽子「そう・・・かよ」

フィーネ「焦ったところで獲物が姿を現すことはない。
   あなたはずっと西を探していた、それなら捜索範囲を・・・・・」

伽子「広げろってか?だから、わざわざ私がここまで来たんだろうが」

フィーネ「単独での捜索は限界がある。要領も曖昧なら初期情報も微少。
   安易な範囲拡大では集まる情報も集まらない。」

伽子「テメェ・・・喧嘩売ってんのか?」

フィーネ「だとしたら?」

伽子「ここで、殺してやる」

フィーネ「私は白鳳亮司を殺していない」

伽子「だから何だってんだ!自分だけが楽になって清々して偉そうに説教か!?」

フィーネ「・・・・・焦っても、仇討ちは果たせない」

伽子「んなこたぁ、わかってんだよ!テメェに、言われなくてもな」

フィーネ「大切な家族を奪われた。仇を討つために魔剣を握った。
   私とあなたが同じだったのはそれだけ。
   あなたは父親の死に目を見ていなければ、仇の姿も捉えていない。
   私よりもずっと、あなたの願いが遠くにあることはわかってる。」

伽子「・・・安寧が、そんなに心地いいかよ。ゼラフィーネ。」

フィーネ「悪くはない。体が動かないのはもどかしいけれど。
   でも、だからこそ、仇敵を追う今のあなたがよくわかる。
   焦れば焦るだけ、敵を追う事だけを考えすぎて、
   誰かに気付いてもらえなければ、敵を討つ前に倒れるくらい酷く疲れていた。
   ・・・そろそろ座ったら?お茶はまだたくさんあるわ」

伽子「フフッ、アハハハハッ。・・・悪い。」

フィーネ「他人の話にだって耳を傾けたくないくらい余裕がないのもわかってる。
   情報が欲しいはずなのに耳を塞ぎたいことも。
   甘いものでも食べて、鋭気を養ったらどうかしら?
   パティシエの作った茶菓子よ、日本人の口に合うといいけれど。」

伽子「私は・・・疲れているのか・・・?
   もう、訳が分からなくなってきたよ。情けない話だがな。」

フィーネ「弱さを吐露することは何も情けない話じゃない。
   疲れているなら休めばいい、訳が分からないなら考えるのを一度止めればいい。
   たまには誰かの肩でも借りたらどうかしら?」

伽子「ハッ・・・それは日向の人間の戯言だよ。
   ゼラフィーネ。もう、私は・・・その場所には戻らない。」

フィーネ「そう。それは残念。あなたはやはり、誰の手も・・・・・」

伽子「いや、そうじゃねぇ。・・・そうじゃねぇんだ。ただ・・・。怖いだけ、なんだよ。」

フィーネ「日向を歩くことが?」

伽子「生まれてこの方、闇しか歩いてこなかったからな。この手は、足は。
   日向を歩くにゃ、汚れすぎてる。わかるだろ?騎士として数多斬ってきたお前なら。」

フィーネ「闇は確かに居心地のいい場所だった。
   日向に照らされるのは怖くて、どこか気恥ずかしくて。
   でも、自分の手も足もよく見えるでしょう?
   私の目には、あなたの手が汚れてるようには見えない。」

伽子「そうかよ。・・・ハッ、だめだだめだ。
   テメェと話してたら、ぬるま湯に浸かっちまう。」

フィーネ「目に見える汚れは洗えば落ちる。
   目に見えない汚れを気にするくらいなら、ぬるま湯に浸かってる方がマシよ。
   もっとも、あなたがそれを望まない以上、無理強いはしないけれど。」

伽子「ああ、それでいい。『私は私の好きにやる』だからな。」

フィーネ「えぇ、それがあなたのあり方。」

伽子「・・・だが、ゼラフィーネ。1ついいか?」

フィーネ「?」

伽子「お前は、また鉄火場に立つんだろう?そのとき、剣が錆びてないといいな。」

フィーネ「騎士の剣は、切ったモノによって切れ味が変わる。
   騎士の腕は、信念を以て鋭さを増す。
   どれも欠けさせはしないし、鈍らせることもしない。」

伽子「そうかい。だが、日向の毒はこの世のどんな甘露よりも甘く、
   そして劇物であることを知っておくのも大事だぞ?」

フィーネ「心得ているわ。甘受している身だからこそ、今はまだ呑まれる時じゃない。」

伽子「なら、安心かもな。邪魔したな。ゼラフィーネ。次は鉄火場で会うかもな。」

フィーネ「敵でないことを祈りましょう。互いのためにも。」

伽子「ああ、それじゃあな。」

フィーネ「担い手はいいの?」

伽子「ああ、適当に帰ってくるだろ。」

フィーネ「そう。では、また逢いましょう。」


=================================


ムカゼ「あー、楽しかった」

シグルズ「いいリハビリになったわ~。」

ムカゼ「で。いつ押し倒すんだよ。あの女帝。」

シグルズ「今はまだ。弱ってる状態じゃ面白くねぇって。」

ムカゼ「その時は連絡しろよな」

シグルズ「フッ、お前が生きてりゃな」

ムカゼ「生きてるってのバァカ!・・・で?のぞき見って趣味わりぃんだけど。」

夜光「おや、お気づきでしたか。」

シグルズ「ストーカーとか悪趣味なことしてんなぁ?」

ムカゼ「大方、俺らの実力調査ってトコだったり?」

夜光「そうですねぇ。大方、当たりとでも言っておきましょう。」

ムカゼ「・・・割と正直じゃん」

夜光「ええ、とてもね。それはそうと。お二人に、ご忠告を。
   『敵は外ではなく己の中に』です。」

シグルズ「っ!」

ムカゼ「はぁ?なぞかけごっこするつもりはないんですけどぉ~。考えるのめんどくさいし」

シグルズ「テメェ!バカなのか!?」

ムカゼ「ばかじゃねぇもーん。はぁーあ、頭使うの嫌いなんだけど。」

夜光「それは失礼を。しかし、貴方の主に関係することですから。」

ムカゼ「伽子に?」

夜光「そこは、伏せておきます。ご注意を。」

シグルズ「・・・・・とっとと失せろ。」

夜光「ええ、そうさせていただきます。それでは。」

ムカゼ「なんなんだ?あいつ。」

シグルズ「やめとけ。下手に関わらねぇほうがいい。
   それと、お前は自分の契約者に集中してろ。いいな?」

ムカゼ「へいへい。わーったよ。・・・最近、ナーバスっぽいしな。」

シグルズ「慰めてやれよ。得意だろ?」

ムカゼ「俺はピエロがいー」

シグルズ「たまにはダンスの相手もしてやれ。ま、うちのフィーネはダンス嫌いだけど」

ムカゼ「ウチのもダンスはダンスでもバレットダンスだからなー。」

シグルズ「強制的に女の子扱いしてやれっつってんだよ。」

ムカゼ「ま、努力はするかなぁ・・・。って、あれ?伽子居なくね?」

シグルズ「ん?・・・庭のテーブルが片付いてるってことは、帰ったか?」

ムカゼ「はぁぁぁぁっ!?うそぉぉぉっ!?」

シグルズ「ホントホント。こりゃ置いてかれたな。うん、どんまい☆」

ムカゼ「ま、予感はしてたんだけどな・・・。ひどいぜ、伽子ぉ・・・」

シグルズ「歎いてねぇで、さっさと追いかけてこい。
   もしかしたらさっきのストーカーに襲われてっかもしれねーぞー?」

ムカゼ「な・・・にっ・・・!うおぉぉぉ伽子ぉぉぉぉ!今行くぞぉぉぉあべらっ!?」

シグルズ「あ、コケた」

ムカゼ「クッ・・・これが、神の選択なのか・・・第一部、完。」

シグルズ「勝手に終わってねぇでさっさと行け!このバカ!」

ムカゼ「痛いっ!?なんで蹴る!?」

シグルズ「ちょうど蹴りやすい位置にお前がいるから」

ムカゼ「ひどい・・・お嫁にいけない・・・。
   ・・・てか、いつまでこのコントしてればいい?」

シグルズ「いい加減にしとけ・・・・・」

ムカゼ「あっ、はぁい。んじゃ、また来るぜー。」

シグルズ「おー」

ムカゼ「よぉし、待ってろ伽子ぉ!今行くぞぉぉぉ!」





to be continued...




もどる

シナリオの感想とか演じてみて台本としての感想とかいただけると作者がよろこぶかも・・・w


こちらの台本はコンピレーション企画「Arc Jihad(アークジハード)」にて
書かせて頂いたものです。
他の参加者様の台本はこちら