Arc Jihad(アークジハード)-過去の罪悪-

♀赤阪 彩瑛(アカサカ サエ):17歳。適合者。ポンヤンペの前契約者であった秋弥の妹。
             理知的で、兄思いの少女。原因不明の病があり、失明状態だった。
             自分を救う為、また、世界を救う為、契約者となった兄の遺志を継ぎ、
             自分自身も契約者となる。

♀ポンヤンペ:聖剣クトネシリカの担い手。ポンヤンペという名前だが、正確にはポンヤンペの人格をインストールされた異世界人。
       男勝りな性格で、姐御肌。何があっても人を守り、魔剣を滅ぼすという信念を持ち、がさつなようで実は思いやりに長けた人間。
       秋弥と契約していた時は、秋弥の幼さに苛つきながらも、相棒としては評価してた。
       担い手が彩瑛となったのちは、秋弥を守れなかったことから自責の念を感じている。 

♂ムカゼ:むかぜ丸の担い手。長年放置された妖刀「むかぜ丸」から生まれた付喪神の人格をインストールされた異世界人。
    
♀白鳳 伽子(ハクホウ カコ):20歳。適合者。白鳳会というヤクザの一人娘であり現組長。感情の起伏が激しい一方、頭のキレる人間。
              父親殺しをした契約者を殺すためムカゼと契約した。親殺しの相手に復讐をするという狂気性が潜んでいるため、
              戦闘となると刀の担い手であるムカゼの狂気と同調し、内面の狂気性が増幅され、戦闘狂になる。

♂赤阪 秋弥(アカサカ アキヤ):故人(享年18歳)。ポンヤンペと契約した適合者。非科学的な力を持つ道具を崇拝する教団ミスティオンの聖剣派。
               精神的に幼く契約理由も、悪を倒すヒーローになりたいという安直な感情であり、言われるままに契約した。
               その言動や振る舞いは馬鹿としか思えないが、その背景には妹を守りたいという意思を表に出さないように隠した演技であった。

♂赤阪 秋弥:
♀赤阪 彩瑛:
♀ポンヤンペ:
♂ムカゼ:
♀白鳳 伽子:
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彩瑛 :う・・・ん・・・

伽子 :起きたか。道端にぶっ倒れてた割に元気そうだな。・・・気分はどうだ?(コーヒーをカップに入れながら

彩瑛 :え・・・ここ・・・は・・・?

伽子 :私の隠れ家だ。ちょっとばかし、目立てない立場でね。(近くの椅子に腰かける

彩瑛 :隠れ家・・・。あっ!ポンヤンペ!(勢いよく起き上がる

伽子 :あ?

彩瑛 :ポンヤンペ!あっ、えっと・・・そっか、契約者じゃないと見えないんだよね。

伽子 :(品定めするように眺めて)・・・拾ってやってるぞ。

彩瑛 :えっ!?

伽子 :ここには居ないがな、お前と一緒に保護してる。(一口飲む

彩瑛 :あなた・・・ポンヤンペが見えたの・・・?

伽子 :これでも一応、契約者なもんでな。
    魔剣の気配と聖剣の気配がするって担い手がうるさくてね。
    行ってみたらあんたが倒れてたんだよ。

彩瑛 :そう・・・だったんですね。

伽子 :ま、しばらく匿ってやるから、体を休ませとけ。

彩瑛 :ありがとうございます。えと・・・

伽子 :白鳳伽子だ。赤阪彩瑛ちゃん。

彩瑛 :えっ?あの・・・?なんで。

伽子 :悪いが身元を調べさせてもらった。拾って帰ったのが敵でしたなんてもんは避けたいからな。

彩瑛 :あ、そ、そうですよね・・・。あれ?(自分にされている首輪に気付く

伽子 :どうした?

彩瑛 :伽子さん。あの、この私の首についてるコレは・・・?

伽子 :・・・ったく。ムカゼの奴め。
    ある程度自由になるように拘束しろとは言ったが、そういう意味じゃねぇんだよ。

彩瑛 :これは一体・・・?

伽子 :すまないな。ウチの担い手の趣味だ。意識がはっきりするまでは拘束しとけって言っててな。後で叱っておくから、まぁ、許してくれ。

彩瑛 :あ・・・。えと、はい。

伽子 :それじゃな。しっかり寝とけ。(部屋から出てゆく

彩瑛 :え、あ、はい・・・。えっと・・・外してほしかったんだけどな・・・。
    あれ?これ、鍵かな?


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ムカゼ  :伽子ぉ~。暇ぁ~。見張るだけっての暇ぁー

伽子   :ムカゼ。あれは何だ?

ムカゼ  :んあ?あれって?

伽子   :赤阪妹の拘束のことだ!

ムカゼ  :おー、あれか。燃えるだろ!

伽子   :それはテメェだけだ!

ムカゼ  :あれ?

伽子   :私は、逃げられたり、ポンヤンペの場所に行かないコトよりも、暴走することを恐れてだな!?

ムカゼ  :だいじょーぶだってー。なんもなかったっしょ?

伽子   :結果論としてはな!だが、もし暴走してたら・・・

ムカゼ  :しないんだって。これ仕込んだから。

伽子   :これは?

ムカゼ  :俺ら担い手って、まぁ、魔力的なモンが流れてるのは知ってるよな?

伽子   :当たり前だ。何年お前とコンビ組んでると思ってる?

ムカゼ  :でしょーね。んでさ、この特製ムカデちゃんはね?
      その担い手から契約者へ、契約者から担い手へって流れる魔力を吸い取るのさぁ。

伽子   :つまり、そいつがいれば暴走のリスクが減らされているってわけか。
      ちなみに、どこに仕込んだ?

ムカゼ  :んー?聞きたい?それはねぇ、女の子のデリケートなト・コ。
 
伽子   :聞いた私がばかだった。

ムカゼ  :へっへーん。冗談かどうかはお任せしまーす。

伽子   :とりあえず、すぐに暴走しないならいいか。

ムカゼ  :それに、暴走の根っこはこっちが押さえてるしなー。

伽子   :コイツはどうだ?

ムカゼ  :おとなしいもんだよ。ま、この特製ムカデちゃんにこれだけ纏わり付かれてちゃおとなしくもなるでしょ?

伽子   :こうはなりたくないものだな。

ムカゼ  :え?なになに?体験してみる?いいよ!伽子が悶える姿みてみた・・あがっ!

伽子   :誰がするかバカたれ。殺すぞ。

ムカゼ  :ひぃ~ん痛いって伽子ぉ~。

伽子   :・・・吸い取った魔力はどうしてる?

ムカゼ  :溜め込んでる。何かあった時に使わせてもらおうってね。

伽子   :可能な限り溜め込め。どうやら、こいつらが戦っていた奴らはなかなかに厄介そうだからな。

ムカゼ  :大丈夫ー。伽子とオレなら倒せるって~(伽子に後ろから抱き着く

伽子   :ふん。そうだな。(タバコを取り出す

ムカゼ  :あー。タバコー。悪い子だー

伽子   :二十歳(はたち)になったからな。別にいいだろ。(火をつけて吸う

ムカゼ  :そうだったねぇ。・・・誕生日おめでと。

伽子   :遅ぇよ。二日前だバカ。

ムカゼ  :へへー。

彩瑛   :なに・・・これ・・・?

伽子   :あ?

ムカゼ  :あれあれ?

彩瑛   :伽子さん・・・。これは一体・・・?ポンヤンペ・・・えっ・・・?

ムカゼ  :あーあ。見られちゃった。

伽子   :おい、ムカゼ。どういうことだ。鍵はお前が持ってるんじゃなかったのか?

ムカゼ  :あれ?えっと・・・テヘ

伽子   :てへじゃねぇよ。ったく、仕方ねぇ。

彩瑛   :どういうことですか!伽子さん!

伽子   :暴走してたんだよ。お前の担い手は。

ムカゼ  :だから、こうやって押さえつけてるってわけ。
      苦労したんだからねぇ?

彩瑛   :離してください。ポンヤンペを。

伽子   :できないな。ここで解放したらまた暴れる。
  
彩瑛   :離してっ!!

伽子   :ったく。物わかりの悪い奴だな。出来ねぇって言ってるだろうが。
      そういうところも、兄貴と一緒だな。

彩瑛   :えっ・・・?兄さんを知って・・・?

ムカゼ  :知ってるも何もねぇ?

伽子   :お前の兄・・・赤阪秋弥を殺したのは私だよ。

彩瑛   :兄さんを・・・殺した・・・?

伽子   :そうだよ。私が殺した。

彩瑛   :なんで・・・

伽子   :私の行く手を阻んだからな。当たり前だ。

彩瑛   :き・・・

伽子   :ん?

彩瑛   :貴様ぁぁぁぁっ!

ムカゼ  :伽子っ!

伽子   :(受け止めて)危ねぇな。容赦なく急所を狙いやがって。
      しかも、腎臓を狙うなんてな。

彩瑛   :くっ・・・

ムカゼ  :こんな包丁なんて危ないものどこから持ってきたのかなぁ。(包丁を奪い取る

彩瑛   :あっ!返して!

ムカゼ  :返せるかっての!

ポンヤンペ:ガァァァァァッ!!

ムカゼ  :おおぅ!?びっくりした

伽子   :・・・ったく、私も甘かったな。もう少し警戒しておくべきだったよ。

彩瑛   :許さない・・・。許さないっ!

ポンヤンペ:サ・・・サェエェェェェ!

伽子   :なるほど?ポンヤンペの狂気はお前の所為か。

彩瑛   :狂気・・・?

ムカゼ  :今、こいつは狂って暴走してんだよ。目の前にある存在をすべて壊す存在になってる。
      聖剣として使い物にならないくらいにな。

伽子   :なにがあったかは知らないが、今ので分かった。聖剣を狂わせるのは魔剣じゃねぇ。
      契約者の心の闇だ。

彩瑛   :私は闇なんか・・・・
 
伽子   :ないってか?冗談にしては笑えないな。

ムカゼ  :兄貴のことになって血走ったのはどこの誰かなぁ?

彩瑛   :それは誰でもっ!

伽子   :そうだな。だれでも煽られたらそうなるか。だが、私にはわかるぞ?赤阪彩瑛。

彩瑛   :っ!?

伽子   :お前今、安心したな?ポンヤンペが使い物にならないって聞いて。

彩瑛   :そんなことっ!

伽子   :あるさ。・・・そんなに戦いから逃げたかったわけか。
  
彩瑛   :私は逃げてなんかないっ!

伽子   :本当に?なら、なぜ秋弥を契約者にした?赤阪家の第二子であるお前が。

彩瑛   :なぜ・・・それを・・・

伽子   :言ったろ?身元を調べたってな。赤阪財閥の二子、赤阪彩瑛。
      ミスティオンに出資してる赤阪の家が家督を継ぐ第一子を戦争になんて出すわけがない。

彩瑛   :それは・・・

伽子   :お前が狩り出したんだろ?目のことを言い訳に

彩瑛   :それ・・・はっ!

ムカゼ  :ずるい奴だよなぁ?彩瑛ちゃん?病気を盾に自分の運命から逃げだすなんてなぁ?

彩瑛   :ちがう・・・違うっ!私は・・・そんな・・・

伽子   :なにが違う?お前の兄は死んだ。お前が殺したんだよ。私を使ってな?

彩瑛   :違うっ!違う・・・私は・・・

ムカゼ  :あーあ、泣ーかせた。伽子ひどいこー

伽子   :ハッ、くだらねぇ。この程度で心が折れるなんてな。

ムカゼ  :どうする?伽子。こいつ、ここで殺しとく?

伽子   :・・・いや。ムカゼ。すこし実験したいことがある。

ムカゼ  :実験?

伽子   :こいつの中にもあのムカデが入ってるんだよな?
      それなら同じ場所に放りこんだらどうなるか、見てみたくもある。

ムカゼ  :どうなるか・・・ふぅん。なかなか伽子もえぐいことをするねぇ。

伽子   :そうか?ま、他に理由はあるんだが・・・。面白い結果になりそうだからな。

ムカゼ  :そっか。んじゃ、檻に入れとこうかぁ。そぉれっと。

彩瑛   :いや・・・いやぁ・・・

伽子   :せいぜいそこで自分の業を反省しなよ

ムカゼ  :じゃあねぇー

彩瑛(М)  :扉が閉まると同時に、暗闇に包まれる。
       聞こえてくるのはポンヤンペの息遣いと、周囲を・・・私たちの周囲を這いずるムカデの足音だった。

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秋弥   :・・・彩瑛。起きな。・・・彩瑛。

彩瑛   :お兄ちゃん・・・?

秋弥   :まったく、いつまで寝てるんだよ。

彩瑛   :うん・・・ごめんね。

秋弥   :今日は行きたいところがあるんだ。

彩瑛   :行きたいところ?

秋弥   :そう、行きたいところ。

彩瑛   :それ、どこ?

秋弥   :うん。行けばわかるよ。

彩瑛   :そっか。行こう。お兄ちゃん。

秋弥   :・・・・・。

彩瑛   :・・・・・。

秋弥   :なぁ、彩瑛。

彩瑛   :ん?なに?

秋弥   :後悔してるか?

彩瑛   :えっ・・・なにに?

秋弥   :俺がこの戦いに参加したこと。

彩瑛   :それは・・・

秋弥   :俺はさ。この世界・・・いや、俺たちの周りの世界をなんとかしたかった。

彩瑛   :世界?

秋弥   :赤阪の家や、赤阪が出しているお金・・・そして、なによりも、彩瑛を守りたかった。
  
彩瑛   :お兄ちゃん・・・。

秋弥   :だけど、できなかった。・・・ごめんな。

彩瑛   :いいの。むしろ、私が悪いんだよ。だって私・・・お兄ちゃんを見殺しに・・・

秋弥   :彩瑛・・・。着いたよ。

彩瑛   :えっ・・・?これって・・・?

秋弥   :なにかわかる?

彩瑛   :これ・・・お兄ちゃんの、お墓・・・。

秋弥   :なぁ・・・彩瑛・・・。(彩瑛を振り返る。血みどろの姿に変わる秋弥

彩瑛   :ひっ・・・!

秋弥   :苦しいんだ彩瑛。いくら血を吐いても、胸を掻き毟ってもっ!苦しさが止まらないぃっ!

彩瑛   :いや・・・やめて。お兄ちゃん・・・やめてぇぇっ!

秋弥   :さっき、自分が悪いって言ったよな・・・彩瑛。だったら・・・お前が代わりに死んでくれぇっ!(首を絞める

彩瑛   :あぐっ・・・かはっ・・・!

秋弥   :俺は、死にたくなかった・・・。お前を守るために命を懸けた・・・。お前が俺のことを思うなら・・・死んでくれぇぇっ!

彩瑛   :くるし・・・やめ・・・て・・・

秋弥   :俺はもっと苦しかった!そのつらさを知らない!許せない!ゆるせないぃぃっ!

彩瑛   :ごめん・・・なさい・・・謝る、から・・・ゆるし、て・・・

秋弥   :彩瑛・・・彩瑛ぇぇぇっ!(怨嗟の声で

ポンヤンペ:サエを・・・離せぇぇぇっ!

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ポンヤンペ:俺は・・・どこにいるんだ・・・。ここは一体どこなんだ・・・。
      なにもない空間・・・真っ白だ・・・。何が一体・・・。

彩瑛   :やめてぇぇぇっ!

ポンヤンペ:サエっ!?どこだ!どこにいる!?

秋弥   :お前が代わりに死んでくれぇぇっ!

ポンヤンペ:アキヤ!?そんな!くそっ!どこだ!どこにいる!サエ!・・・あっ!?

秋弥   :許せない!ゆるせないぃぃっ!

ポンヤンペ:やめろ・・・アキヤ。お前、なにしてるんだ!

秋弥   :彩瑛・・・彩瑛ぇぇぇっ!

ポンヤンペ:サエを・・・離せぇぇぇっ!(秋弥を斬り伏せる

秋弥   :ぐああぁぁぁっ!?

彩瑛   :げほっ!ごほっ!かはっ!

ポンヤンペ:大丈夫か!サエ!

彩瑛   :ポンヤンペ・・・大丈夫・・・

秋弥   :彩瑛・・・苦しいよ・・・彩瑛・・・

ポンヤンペ:なんなんだ、いったい・・・。

彩瑛   :わかんない・・・。お兄ちゃんやめてよ・・・。

秋弥   :ポンヤンペ・・・俺は、死にたくなかった。どうして、助けてくれなかった・・・

ポンヤンペ:っ!・・・助けたかったさ。でも・・・

秋弥   :俺は、お前を助けたのにっ!どうして助けてくれないんだぁぁぁっ!

ポンヤンペ:やめろ!アキヤっ!オレはっ・・・!

秋弥   :この苦しみはお前の所為だ!お前たちの所為だ!
      救われるために、お前たちを殺すぅぅっ!

彩瑛   :やめてっ!お兄ちゃん!

ポンヤンペ:サエ!来るな!

彩瑛   :っ!

ポンヤンペ:テメェ、いったい何者だ。なんで、アキヤのふりをする

秋弥   :俺は、赤阪秋弥だ・・・。お前たちが見殺しにした・・・。

ポンヤンペ:違う!俺たちは見殺しになんて!

秋弥   :しただろうが!助けてほしいのに、見捨てた!

ポンヤンペ:オレもサエも!見捨てたわけじゃない!助けたかった!

秋弥   :なら、今、助けてくれよ。苦しいんだすごく、ひどく、とても!
      
ポンヤンペ:どうすれば、お前を救える?

彩瑛   :ポンヤンペ、何を!?

秋弥   :死ね・・・死んでくれ。俺の代わりに、しねぇぇっ!(殴る

ポンヤンペ:ぐぅっ!

彩瑛   :やめてっ!

ポンヤンペ:大丈夫だサエ。アキヤ・・・、オレを殺せ。思う存分、オレを苦しめろ!

秋弥   :がぁぁぁぁっ!(殴り飛ばす

彩瑛   :やめて!もう嫌だ!いやだよ!大事な人がいなくなるのは嫌なのにっ!

ポンヤンペ:サエ・・・オレは・・・誓ったんだ・・・オレは・・・アキヤを、守れなかった。
      だから・・・今度こそは・・・妹を・・・サエを、守るって!

彩瑛   :ポンヤンペ・・・

ポンヤンペ:さぁ殺せ!思うままにオレを殺せ!だが、サエには手を出すな!絶対に!

秋弥   :がぁぁぁぁっ・・・・。くっ・・・くくくっ・・・はははは・・・あははははっ!

彩瑛   :えっ・・・?

秋弥   :自己犠牲!滑稽だ、実に愉快。甘く、清らな想いよな?自己犠牲とは!反吐が出るほどに。

ポンヤンペ:その言い回し・・・。バートリ・エルジェーベトだなっ!

秋弥   :さよう。ぬしらの心に入り込ませてもらったのよ。いやはや、いいものを見せてもらった。
      罪悪感の塊。純粋なる罪の意識・・・絶頂を感じるほどだった。

ポンヤンペ:貴様・・・人の心を土足で踏み荒らしたのかっ!

秋弥   :私はな?お前たちが気に入った。だからこそ、お前たちをとことんまで追い詰めたくなった。
      だから、こんな回りくどいことをしたのだ。ああ・・・とても愉快だった。

ポンヤンペ:外道めが・・・

秋弥   :ほめ言葉だよ。自然をつかさどる東方の剣士。ぬしが怒れば自然も怒るというが、それを見せてみよ。
      おっと、それはできぬか。ここは主らの精神世界だものなぁ?

ポンヤンペ:くっ・・・

彩瑛   :・・・出て行って。

秋弥   :ん?

彩瑛   :出て行って!私たちの中からっ!

秋弥   :ほう?どうした?震えておるぞ?小娘。そんなに恐ろしいか?自分の心が晒されるのは

彩瑛   :違う!これはっ・・・怒り・・・、そう、怒りだっ!

秋弥   :ぬ?

彩瑛   :人を弄んで、記憶を弄んで、心をかき乱して・・・大事な思い出を汚してっ!
      許せないっ!今すぐ出ていけっ!私たちの中からっ!

秋弥   :ほほぅ・・・よいぞ?良い悪意だ・・・。心地いい音色だぁ。
      だが、断るっ!貴様らにはもっともっと苦しんでもらいたいからなぁ!?

ムカゼ  :みぃつけたぁ

秋弥   :何奴っ!?ぐうっ!?(ムカゼの手刀が腹部に突き刺さる

ムカゼ  :なぁんか変なのが混じってるからさぁ?ずっと尻尾を出すのを待ってたよ?
      面白そうなことしてんじゃあん?

秋弥   :貴様・・・どうやって・・・っ!この精神世界は・・・私しか干渉できぬはず・・・っ!

ムカゼ  :簡単なことだぜ?ポンヤンペも、そこの彩瑛ちゃんも魔力の線でつながってる。
      魔力の線ってのは元を正せば、感情とか精神っつーおぼろげなものだろ?
      そこに、俺の魔力で作った分身をまぎれ込ませておいた訳。

秋弥   :私の存在に気付き、干渉してくるかっ!

ムカゼ  :気づいたのは伽子だけどなー。あ、伽子ってのは俺の契約者ね?いい女なのよぉ~
      ま、とにかく。こいつらには死んでもらうわけにはいかないからさぁ?
      さっさと出てけよ。くそ売女。

秋弥   :くそ・・・くそがぁっ!私がっ!ここでしくじるとはっ!
      覚えていろ!名の知らぬ魔剣!この借りは・・・必ず、お前にも契約者にも!倍の形でかえすからなぁっ!

ムカゼ  :ハッ・・・できるもんなら、やってみろ。逆にぶっつぶしてやる。

秋弥   :くそがぁぁぁぁっ!(消える

ムカゼ  :よーし、これでばい菌は排除かんりょーっと。

ポンヤンペ:ムカゼ・・・お前・・・

ムカゼ  :よぉ。元気そうだな。テメェを抑えるのに手間取ったぞー?ほんと馬鹿力だな。

ポンヤンペ:なっ!異性に向かって馬鹿力とは失礼なっ!?

ムカゼ  :だって、本当のことだしなぁ?暴走状態のお前、さながらゴリラだったもん。

ポンヤンペ:貴様・・・そこに直れっ!今すぐ殺してやる!

ムカゼ  :へへーん!できるもんならやってみろー!

ポンヤンペ:ぐぬぬぬ・・・。はぁ・・・。ムカゼ。

ムカゼ  :あ?

ポンヤンペ:すまなかった。ありがとう。

ムカゼ  :おいおい。どうしたんだ?気持ちわりぃな

ポンヤンペ:お前に助けられたからな。礼を言う。

ムカゼ  :お、おう。どういたしまして?

ポンヤンペ:サエを助けてくれてありがとう。

ムカゼ  :だぁーっ!気持ち悪い!やめろ!感謝されるいわれはねぇっ!

彩瑛   :ムカゼさん!

ムカゼ  :あん!?

彩瑛   :私からも、ありがとうございました。

ムカゼ  :えっ・・・?あの・・・?

彩瑛   :私たちや、ポンヤンペを助けるために、わざとひどいことを言って・・・。
      すこし、つらかったけど・・・でも、助けてくれてありがとうございました!

ムカゼ  :お、おん・・・。あれ?これ、お礼言われてるの?けなされてるの?

彩瑛   :お礼です!(微笑んで

ムカゼ  :な、なんかもうわけわかんねぇ・・・。まあ、いいや。作ってた元凶が消えて、そろそろこの世界も壊れるだろ。
      元の世界で話をしよう。んじゃ、また後でな。

ポンヤンペ:あぁ、また後でな。・・・ムカゼ覚悟しておけ。

ムカゼ  :わぁっ!?最後に物騒な発言が聞こえたぁぁっ!?

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彩瑛   :う・・・ううん・・・

ポンヤンペ:こ、こは・・・

伽子   :目が覚めたな。おかえり。バカども。

ポンヤンペ:白鳳伽子・・・。そうか、ここは。

伽子   :私の隠れ家だ。ったく、手間を取らせやがって。

ポンヤンペ:すまなかった。

伽子   :ふん。礼ならもっと別の方法でよこせ。金とかな。

ムカゼ  :でも、貧乏そーだよね。

ポンヤンペ:切り倒すぞムカデ野郎。

ムカゼ  :おおこわー

彩瑛   :あの・・・伽子さん・・・

伽子   :ん?なんだ。

彩瑛   :ごめんなさい!私、伽子さんを・・・

伽子   :殺そうとしたことか?フン、別にかまわん。なんせ、私はお前の兄の仇だからな。

ポンヤンペ:サエが、伽子を殺そうと・・・?

伽子   :ああ。ムカゼがお前を拘束してるのを見て、ブチ切れてな。
      持ってた包丁で私の腎臓めがけて刺そうとしてきた。この柳葉包丁でな。

ムカゼ  :あの正確性はすごかったなー少し焦った。

伽子   :だから、お前はすこし緊張感を持て。バカたれ。

ムカゼ  :てへぺろこつん

伽子   :かわいくないし、むしろ気持ち悪い。
      ・・・そんなことより、お前ら、なにがあった。

ポンヤンペ:なにがあったって・・・

伽子   :ポンヤンペ。お前とは、一度手合せをした相手だ。お前が簡単にやられるタマじゃねぇのは知ってる。
      それに、あの甘ちゃんの妹もいて、あれってのが気になってな。

ポンヤンペ:バートリ・エルジェーベトという奴にやられた。

伽子   :バートリ・エルジェーベト・・・・。エリザベート・バートリのことか?

ムカゼ  :知ってるのか?

伽子   :ある程度西洋史を知ってたらわかる。自分の美と栄華のために若く美しい女を殺して回り、その生血をすすった女だ。

彩瑛   :虐待を受けてた子を契約者にして、人殺しをさせてて・・・。

伽子   :なるほど、それにばったり出くわしたってわけか。災難だったな。

彩瑛   :でも、あの子、もしかしたら操られてるんじゃ・・・

ポンヤンペ:操る?さっきの精神攻撃みたいなものでか?

彩瑛   :だって、そうじゃないとおかしいよ。ポンヤンペ。
      痛みをなんとも思わない風につっこんできたんだもん。

伽子   :なぁ、甘ちゃん妹。

彩瑛   :あ、えと、私・・・?

伽子   :その契約者の名前はわかるか?

彩瑛   :えっと・・・トモカ・・・って呼んでた気がする。

ムカゼ  :伽子・・・。

伽子   :ああ。当たりだ。

ポンヤンペ:あたり・・・とは?

伽子   :浦上智香。数日前から消息不明になってる。
      家の人間を皆殺しにしてな。知ってたか?

彩瑛   :うん。本人が言ってたから・・・。

伽子   :こいつは、私の仇につながるかもしれない情報を持っているらしい。
      そのために、ずっと追ってたんだが。ちょうどいい当たりを引いたようだ。

ポンヤンペ:情報って・・・。まさか。

伽子   :ああ、そういや、お前は知っていたな。

彩瑛   :なんのこと?

伽子   :私の親父の仇を取るため。私は契約者になった。

彩瑛   :仇・・・。

ムカゼ  :王手に一歩近づいたな。伽子。

伽子   :ああ。というわけだ、どんな奴か詳しく聞かせろ。(脅迫

彩瑛   :あの、伽子さん!

伽子   :なんだ?

彩瑛   :えと、あの、情報は教えます。だけど、その前に約束してくれませんか

伽子   :なにをだ?

彩瑛   :私たちと協力してくれるってことを

ポンヤンペ:はぁっ!?

ムカゼ  :協力ぅ!?

伽子   :どういうことだ?

彩瑛   :私は、今とても怒ってるんです。あのバートリっていう奴に。
      復讐をしたいんです。でも、私じゃ力が足りない。だから

伽子   :私を利用しようってか。そもそもの兄の仇である私を?

彩瑛   :はい。

伽子   :ふ・・・ははっ!あははははっ!バカか!?
      恨みを持つ相手が違うだろう!?私じゃなくバートリに?心を覗かれた程度で復讐とは・・・
      はははっ!バカにも程がある

彩瑛   :伽子さんに恨みがない訳じゃないです。お兄ちゃんを殺したことは許せません。

伽子   :・・・ほう?

彩瑛   :でも、さっき気づいたんです。お兄ちゃんは私を守るために死んだ。
      それはそれで、お兄ちゃんとしても『覚悟していたこと』として死んだんだって。
      だから、私は、兄の死に恨みを持つことはしません。

ムカゼ  :・・・んん?なにを言ってるんだ?

伽子   :死者の意思・・か。お前の兄は守ることに自分の尊厳をかけて死んだ。だから、私を恨むのはその尊厳を踏みにじることだ・・・と?

彩瑛   :はい。それに、私は兄が死んだことより、むしろ、その兄を騙って、私たちの記憶や思い出を壊そうとしたあいつが許せないんです。

ポンヤンペ:サエ・・・。

伽子   :フフフフっ、ハハハハハハッ!ホントに可笑しな兄妹だ!狂ってるな!

ムカゼ  :か、伽子!?どうした!?

伽子   :殺した事実を持つ者でなく、概念を殺そうとした者を恨むなんてな。狂っているとしか思えん

ポンヤンペ:おい!言いすぎだろ!

伽子   :おかしいとは思わないか?聖剣。ふつう私を恨むぞ?それを放棄して、記憶を重んじるとは。

彩瑛   :どう思おうとも、かまいません。ですから、協力してください。

伽子   :お前は良い狂人になるぞ?赤阪彩瑛。正義よりも記憶、情より理想を取る変わり者だ。
      ともすれば、エリザベート・バートリよりも、より劣悪な狂人にな。

ポンヤンペ:・・・お前にいくら恩があるといっても、それ以上言えば許さんぞ!

伽子   :それが、正しい反応だ。聖剣。だが、見てみろコイツを。
      フッ・・・平気どころじゃないな。意にも介してない。とんでもない忘れ形見を残したな?あの甘ちゃんは。

ポンヤンペ:あっ!どこに行く!?

伽子   :明日から動くぞ。彩瑛。今日はよく寝とけ。あと、その部屋は自由に使え。

彩瑛   :それって・・・

伽子   :気に入った。協力してやる。それじゃあな。

ムカゼ  :お、おい!待てって伽子ぉ!

彩瑛   :やった・・・。よかったぁ~。

ポンヤンペ:おいサエ!自分がさっき何を口走ったかわかってるのか?

彩瑛   :うん。わかってるよ。自分が何を言って、なんて言われたか。

ポンヤンペ:そう・・・だが・・・。

彩瑛   :頭がどうにかなったって思う?

ポンヤンペ:いや!そんなことは・・・

彩瑛   :私はね。ポンヤンペ。恨みよりも大切なことに気付いたんだ。

ポンヤンペ:大切なこと・・・?

彩瑛   :今、私たちが生きてること。生きて、有ったことをすべて覚えておくこと。
      この聖剣と魔剣の戦いであったことすべて。
      そして、最後まで生き残って再び同じようなことが起こらないようにする。

ポンヤンペ:同じことが・・・そうだな。

彩瑛   :そのためにも、なんとしても、戦って、勝たなきゃ。二人で。

ポンヤンペ:そうだな。サエ。
      ・・・なぁ。

彩瑛   :なに?ポンヤンペ。

ポンヤンペ:オレは、サエを守ることに必死で・・・。
      一人で戦ってた気がする。でも、これからはそうならないようにする。

彩瑛   :うん。・・・・ポンヤンペ。信頼してるよ。


ポンヤンペ:ああ、任せてくれ。改めて、よろしく頼む。






to be continued...




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シナリオの感想とか演じてみて台本としての感想とかいただけると作者がよろこぶかも・・・w


こちらの台本はコンピレーション企画「Arc Jihad(アークジハード)」にて
書かせて頂いたものです。
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