Arc Jihad -想いと決意-

♀赤阪 彩瑛(アカサカ サエ):17歳。適合者。ポンヤンペの前契約者であった秋弥の妹。
             理知的で、兄思いの少女。原因不明の病があり、失明状態。
             自分を救う為、また、世界を救う為契約者となった兄の遺志を継ぎ、
             自分自身も契約者となる。

♀ポンヤンペ:聖剣クトネシリカの担い手。ポンヤンペという名前だが、正確にはポンヤンペの人格をインストールされた異世界人。
       男勝りな性格で、姐御肌。何があっても人を守り、魔剣を滅ぼすという信念を持ち、がさつなようで実は思いやりに長けた人間。
       前契約者である秋弥を守れなかったことに自責の念を感じている。

♂本山 志光(モトヤマ シコウ):ミスティオン関西支部聖剣派の長。年齢不詳の男性。見た目は20代なのだが、口調は古風。
               秋弥を適合者として選出したのも彼。何事にも冷静で分析力に長けている。元契約者で、適合の素質はあるが参加しない。
               秋弥や彩瑛にとって親の様な存在。
      

彩瑛:
ポンヤンペ:
志光:
______________________________________________

志光     :我らが同志。赤阪 秋弥(あかさか あきや)は、聖剣の下、正義の下に命を賭け、世を救う礎となり聖者の列に入った。
        だが、例えここで身体は失せようと、その勇気と遺志は、後世の者へと継がれよう。彼の御魂よ・・・安らかに眠れ。

ポンヤンペ(M):ミスティオン礼拝堂。そこでは、聖剣と魔剣による世界の存亡を掛けた戦いにその身を投じ、死んだ少年―赤阪秋弥の葬儀が行われていた。
        祭壇に横たえられた亡骸に、参列する多くの構成員が冥福の思いを向け献花している。
        ――今、契約者がおらず実体化できない俺には、それを眺める事しかできない。共に戦った戦友を送れないのだ。

彩瑛     :Arc Jihad -想いと決意-


志光     :さぁ、皆。これで葬儀は終わりだ。戦士を休ませよう。
        持ち場に戻ると良い。・・・彩瑛。

彩瑛     :・・・・。

志光     :大丈夫か?

彩瑛     :ええ、一応。

志光     :・・・大丈夫じゃ無いのだな。

彩瑛     :バレバレですか。

志光     :まぁ、無理もない。たった1人の親族を失ったのだ。辛かろう。
        ・・・泣いても良いのだぞ?

彩瑛     :泣くのは、止めようと誓ったんで。それに、兄を悲しませるから。

志光     :なるほど。ならば、そうすればよい。

彩瑛     :はい、そうします。・・・あの、志光さん。そちらにいる人は誰ですか?

ポンヤンペ  :なっ!?

志光     :ん?・・・ああ。なるほど。

彩瑛     :はい。ここで視たことない人ですけど。お知り合いですか?

志光     :まさかお主にも適合者としての素質があるとはな。

ポンヤンペ  :お前達・・・俺が見えているのか。

志光     :彩瑛。彼女は、剣の担い手だ。・・・お主の兄と契約していたな。

彩瑛     :剣の担い手・・・。兄の。

ポンヤンペ  :どういうことだ・・・。適合者となれる人間が二人もいるなんて。

志光     :簡単なこと。私は剣と契りを交わした『契約者』であったことがあるからな。見えて当然。
        そして、この子は。秋弥の妹。血縁者であれば適正能力があってもおかしくは無かろう?ポンヤンペ。

ポンヤンペ  :俺の名前まで・・・。貴様、何者だ!?

志光     :ああ、身構えなくてもいい。・・・挨拶が遅れ、失礼した。私は本山志光。ミスティオン関西支部長である。
        ま、お主にとって言えば、お主と秋弥を引き合わせた者。といった方が早いかも知れぬが。
        
ポンヤンペ  :そうだったのか。

志光     :時に、ポンヤンペ。お主、此所で何をしている?
        
ポンヤンペ  :・・・友を、見送りに。

彩瑛     :ありがとうございます。兄も喜びます。

志光     :ふむ。律儀な担い手であるな。
        だが、いいのか?次の適合者を探さなくとも。

ポンヤンペ  :それよりも、友に礼を尽くすのが先だ。今の私にとってはな。

志光     :そうか。良い相方であったのだな。

彩瑛     :あの・・・志光さん。

志光     :どうした。彩瑛。

彩瑛     :私、ポンヤンペさんと二人で話がしたいのですけど、いいですか?
        あ、もちろん。ポンヤンペさんがよかったらですが。

志光     :だそうだ。どうする?

ポンヤンペ  :俺は構わないが・・・。

志光     :では、私は席を外すとしよう。執務室にいる。用があれば来るといい。

彩瑛     :はい。ありがとうございます。・・・初にお目に掛かります。ポンヤンペさん。

ポンヤンペ  :君が、噂の妹か。

彩瑛     :聞いていたのですか?

ポンヤンペ  :ああ、ことある事に言っていた。
        大事な妹だと。

彩瑛     :そうですか。全く・・・兄らしいです。

ポンヤンペ  :すまなかった。

彩瑛     :なんでです?

ポンヤンペ  :アキヤを・・・。君の兄を守れなかった。

彩瑛     :頭を上げて下さい。ポンヤンペさん。・・・覚悟してたことですから。

ポンヤンペ  :だがっ!

彩瑛     :その口ぶりだと。やはり、兄は家の事は言っていないのですね。

ポンヤンペ  :・・・どういうことだ?

彩瑛     :赤阪家は明治から続く華族の家です。そして、ミスティオンに様々な協力をしてきたのです。
        経済的にも、人員的にも。

ポンヤンペ  :聖剣側として、戦いのサポートをしてくれていると言うことか。

彩瑛     :いいえ。どちら側などありません。

ポンヤンペ  :なに?

彩瑛     :ミスティオンは元々、只のオカルトサークルですよ。言わば、お金持ちの道楽です。
        伝説で語られる人知を越えた剣や宝物を探すという。

ポンヤンペ  :では、なぜ、この戦いに参加している?

彩瑛     :簡単な事です。この戦争すら、道楽なんです。

ポンヤンペ  :なにっ!?

彩瑛     :魔剣と聖剣。どちらが勝とうが関係無い。人が命を賭け、戦い、そして死んでいくその様をみて楽しんでいるんです。
        
ポンヤンペ  :それでは・・・アキヤの死は・・・。

彩瑛     :言うなれば、道楽の種になったって事ですね。

ポンヤンペ  :ふざけるな!道楽のために俺は戦っている訳じゃない!この世界を魔剣から守る為にっ!

彩瑛     :ええ。本当にふざけたお話です。だから、兄は戦った。命を使った暇つぶしを終わらせるためにも。
        自分が戦わなくても良い立場にいたのにも関わらず。

ポンヤンペ  :そうだったのか・・・。

彩瑛     :兄の事です。どうせ、ヒーローになりたいとしか言ってなかったのでしょう?

ポンヤンペ  :ああ、契約の理由を聞いてもずっとそれしか言ってなかったな。

彩瑛     :ホント、馬鹿な人です。私の為にこんな事をしなくても。

ポンヤンペ  :君の為?

彩瑛     :本来、私は担い手としてこの戦いに参加していた立場なのです。
        私は赤阪家に第二子として生まれました。第二子の役割はただ1つ。捨て駒として、戦争に参加し暇つぶしを盛り上げると言う事。

ポンヤンペ  :自分の子を捨て駒にだと・・・?

彩瑛     :ええ。兄はそのことを知って、私を守る為に自分から戦争に参加したんです。
        そして、それを隠す為にヒーローになりたいなんていい訳をしてた。

ポンヤンペ  :良い・・・兄だったのだな。

彩瑛     :ええ。私にとって大切な兄でした。

ポンヤンペ  :そんなヤツを・・・俺はっ・・・。

彩瑛     :良いのです。ポンヤンペさんは、ちゃんと兄を守ってくれました。
        責められるべきは、この私です。兄を引き留め、私が戦争に行けば・・・。

志光     :いいや。責められるべきは、この戦いを遊びに使っているヤツらだ。

彩瑛     :志光さん・・・聞いていたんですか。

志光     :すまないな。この部屋に忘れ物をしてしまってな。聞くつもりはなかったのだが、聞いてしまった。
        だが、彩瑛。お主の話を聞いていれば、この場には、彼の死で責め苦を負うべき存在はいない。
        責任をはき違えてはならぬ。・・・それに、お主が秋弥の死を自分の所為にしたのなら、彼は悲しむ。

彩瑛     :そう・・・ですね。

志光     :分かったならばいい。ここに集まる者は彼を悼み、そして忘れないでいればいい。さすれば、彼は報われよう。
        ・・・さて、話は変わるが、ポンヤンペ。お主はこれからどうする?

ポンヤンペ  :そうだな。まずは、魔剣に見つかる前に次の適合者を探さねばいけない。

志光     :確かにな。うむ・・・動けるのならば、私が契約するところなのだが。
        
ポンヤンペ  :出来ないのならば、強制はしない。俺は、共に戦う相手でないと契約したくはないからな。

志光     :だろうな・・・。ふむ・・・。今、この支部で適性が在る者は誰がいたか・・・。

彩瑛     :あの、私じゃダメですか?

志光     :彩瑛。お主、自分が何を言っているのか分かっているのか?

彩瑛     :兄が守ってくれたこの命。大切にしなければいけないのは分かっています。
        でも、私がこの戦いから逃げたら、また兄の様な人を増やしてしまいます。
        そんな無責任なことは、いやなんです。

志光     :彩瑛。お主の覚悟の程は分かった。だが、お主のその目では何も出来ないだろう。

ポンヤンペ  :目?・・・もしかして、君は・・・盲目なのか?

志光     :話してさえいないのに、志願したのか。お主は。

彩瑛     :はい。そうでもしなければ、認められないと思ったから。

ポンヤンペ  :ちょっと待て。盲目というのなら、どうして俺の事が分かった?

彩瑛     :気配・・・といえばいいでしょうか。多分、目の代わりにその他の五感が鋭くなってるんだと思います。

ポンヤンペ  :なるほど。そういうこともあるのか。

志光     :だが、戦闘となれば話は別だろう。契約者は時に、担い手と共に戦わなければならない。
        ポンヤンペの負担が大きすぎるのではないか?

彩瑛     :それは・・・。

ポンヤンペ  :サエ・・・と言ったか。君の盲目は生まれた時からのものなのか?

彩瑛     :いえ、違います。この目が見えなくなったのは私が六歳の時です。

志光     :なぞの病でな。原因が全く掴めていない。

ポンヤンペ  :病気が原因なら・・・治せるかも知れない。

彩瑛     :じゃあ、私が契約すれば・・・

志光     :私は反対だ。彩瑛。

彩瑛     :何故ですか!

志光     :目が見えるようになったとして、お主に戦闘ができるのか?
        秋弥は、契約者となることを前提で様々な訓練を受けてきたが、お主は・・・。

彩瑛     :訓練が必要ならやります!体力も、今より付けて戦える様になります!

志光     :だが・・・

ポンヤンペ  :もうよせ。これ以上、サエを止めても無駄だ。

彩瑛     :ポンヤンペさん。

ポンヤンペ  :さん付けは止めてくれ。よそよそしいのは嫌いなんだ。呼び捨てで良い。

志光     :ポンヤンペ。良いのか?

ポンヤンペ  :ここまで言うんだ。それ相応の覚悟と信念だ。俺はそれを認める。
        それに・・・。

志光     :それに?なんだ?

ポンヤンペ  :これもある意味、アキヤの願いなのかも知れないと思ってな。
        この場に契約者たり得る者と担い手が一挙に揃ったんだ。

志光     :それが本当ならば、私はどういう立場になるんだ?秋弥は私が契約者にはならない事を知っていたはずだ。

彩瑛     :見届ける者が必要じゃないですか。

ポンヤンペ  :アキヤと俺を引き合わせて送り出したんだろう?今回も、同じ立場でいればいいさ。

志光     :そうか。・・・まったく。こやつめ。酷な仕事をまたさせるのか。私に。
        ただ、送る側も辛いと言うに。

ポンヤンペ  :さて・・・。必要無いだろうが、もう一度問う。
        サエ。君に戦う覚悟はあるか?

彩瑛     :あります。

ポンヤンペ  :よろしい。ならば、契約の証たる刀を授けよう。
        集え、大地の力・・・クトネシリカっ!

志光     :おお、これが聖剣クトネシリカか。

ポンヤンペ  :さぁ、サエ。手を出すといい。

彩瑛     :これでいいですか?

ポンヤンペ  :ああ、それでいい。ここが刀の柄だ。分かるか?

彩瑛     :はい。これを握れば良いんですね?

ポンヤンペ  :そうだ。握れば、契約となる。

彩瑛     :これで、私も・・・っ!?

志光     :なんだ!?この光はっ!?

ポンヤンペ  :刀に宿る雷神が、契約者であるサエに反応したんだ。すぐに収まる。

志光     :全く、驚かすでないぞ。

彩瑛     :これで、終わり・・・ですか?

ポンヤンペ  :ああ、そうだ。案外あっけないだろう?

彩瑛     :そう・・・ですね。

志光     :だが、世界の命運がかかった荷の重いことだ。忘れるでないぞ?
 
彩瑛     :分かってます。

ポンヤンペ  :それじゃ、今度は俺の仕事だな。サエの目を治す。

彩瑛     :お願いします。

ポンヤンペ  :敬語。外してくれ。もう、今から相棒なんだ。

彩瑛     :そう・・・だね。お願い。ポンヤンペ。

ポンヤンペ  :おう。分かった。・・・それじゃあ、いくぞ?
        成長と癒しの女神よ。ここに舞い降り、病(や)める者に癒しの加護をっ!
        清浄快癒(せいじょうかいゆ)

彩瑛     :すごい・・・暖かい。

ポンヤンペ  :どうだ?サエ。目は、見えるか?

彩瑛     :・・・見え、ます。見えます!

志光     :成功したようだな。

ポンヤンペ  :なんだ?どこか、くやしそうだな。

志光     :くやしいのではない。・・・ただ、物悲しいだけだ。

彩瑛     :志光さん?

志光     :面と向かって会うのは初めてだな。彩瑛。

彩瑛     :そうですね。でも、思ってた通り。優しそうな人で良かった。

志光     :フフ。なら、よかったよ。・・・彩瑛。

彩瑛     :なんでしょう?

志光     :気をつけるんだぞ?戦いに出ても絶対に、ここに帰って来い。

彩瑛     :もちろんです。・・・あなたが、ポンヤンペ。

ポンヤンペ  :ああ、よろしくな。サエ。

彩瑛     :はい。よろしくおねが・・・

ポンヤンペ  :敬語。出てきてるぞ。

彩瑛     :あっ。えっと、よろしく。

ポンヤンペ  :おう!よろしくな。

志光     :では、旅立つと良い。と、言いたいが、そのまえに訓練だ。今のままではいいカモになりかねない。

彩瑛     :そうですね。頑張ります。

ポンヤンペ  :色々なことを教えなければな。

志光     :形になるまで、この関西支部に居ると良い。一応、協力関係にある契約者に応援も頼んでいるしな。
        しばらくは、魔剣に襲われることもないだろう。

ポンヤンペ  :さっそく、訓練といきたいが・・・。今日は、アキヤを送る日だな。

彩瑛     :ポンヤンペ。これを。

ポンヤンペ  :これは?

彩瑛     :リンドウの花です。正義と愛情の花言葉を持つんです。

志光     :この支部での儀式のようなモノだ。亡くなった者に感謝と尊敬を込めて捧げるんだ。

ポンヤンペ  :なるほど。では、それに倣(なら)おう。
        ・・・今までありがとう、アキヤ。絶対に・・・絶対にお前の妹は守ってみせるからな。

志光     :おっと、もう11時になるのか。2人とも、もう休め。明日から忙しくなる。

彩瑛     :もっと、いろいろ見たいけど。

ポンヤンペ  :慌てないでも大丈夫さ。

志光     :ああ、ここの景色はなかなか変わらぬさ。

彩瑛     :でも・・・。もう少しだけ、ここに。

志光     :ああ、そういうことか。なら、無理をしない程度にな。
        ポンヤンペ。こちらへ来るといい。寝床を用意しよう。

ポンヤンペ  :俺は、別になくともいいのだが。

志光     :まぁ、そう言うな。たまに横になるのもいいだろう。
        彩瑛との相部屋だがな。

ポンヤンペ  :ふむ、そう・・・だな。先に戻っているからな。サエ。

彩瑛     :うん。お休みなさい。ポンヤンペ。志光さん。

志光     :おやすみ。

ポンヤンペ  :お休み。サエ。

彩瑛(M)   :2人が去った後、私はそっと祭壇に近づき、兄の頬に触れる。
        毒で死んだと聞かされたけれど、その顔は苦しんだ様子もなく、むしろ安らかだった。
        冷たい頬を撫でながら、私は心の中で語りかける。
        ―お疲れ様、お兄ちゃん。そして、ありがとう。
        そう語りかけ、決意する。お兄ちゃんの分まで戦う。そして、この戦争を絶対に終わらせるんだ。



こちらの台本はコンピレーション企画「Arc Jihad(アークジハード)」にて
書かせて頂いたものです。
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