擬天黙示録 第九話 例え望まれぬ結末であろうとも

ミカエル♂ 24歳 大天使、軍全体の指揮官をしている、生真面目で融通の聞かない性格。真名はアーサー。
ウリエル♂ 23歳 大天使、遠征隊の指揮官、気が早く荒いタイプ、だが隊長としての腕は一流。真名はレオン。
ペネム♂ 24歳 堕天使、ミカエル達とは旧知の仲、今は軍を離反した身。真面目だが情熱家。真名はルイス。



ミカエル♂:
ウリエル♂:
ペネム♂:



ミカエル「町の外れで待機していろか、明確な指示が入ったという事は何かある、という事だろうな」

ウリエル「ペネムが高速でこちらに向かっているらしいが、どういう事だ、
     サリエルの言葉も要領を得ないし、一体何が・・・」

ミカエル・ウリエル「っ!?」

ウリエル「何か来るぞ!」

ミカエル「分かっている!」

ペネム「ミカエル!退けぇぇぇえええええ!」

ミカエル「速い、くぅ!?」

ウリエル「ミカエル!」

ミカエル「くっ、無事だ・・・・!」

ペネム「退けと、言っただろう、ミカエル・・・!」


ペネム「擬天黙示録 第九話 例え望まれぬ結末であろうとも」


ミカエル「ペネム、これは一体どういう・・・っ!」

ウリエル「お前、その翼・・・!」

ペネム「お前たちには関係ない」

ウリエル「関係ない訳・・・!」

ペネム「関係ない!」

ウリエル「っ!」

ペネム「もう、何も関係ない、もう何も要らない、あの子のいないあの村なんて、
    あの子のいないこの世界なんて、あの子を守れなかった、この身なんて!」
    
ミカエル「まさか・・・・」

ウリエル「くっ、だからって!無差別に人を殺していい訳が・・・!」

ペネム「だから関係ないと言っている!私があの村の、この世界の、この身の存在を許せないだけ、
    破壊に、それ以上の理由が必要あるというのか!」

ミカエル「ならば、貴様はただの殺戮者に成り下がると言うのだな」

ペネム「そうだ」

ミカエル「ここで私たちに斬られようと、何も文句はないと言うのだな!」

ペネム「そうだ!」

ミカエル「聞いての通りだ、ウリエル、行くぞ」

ウリエル「ミカエル・・・」

ミカエル「行くぞ!」

ウリエル「・・・・あぁ、同胞の過ちは俺たちが正す」

ペネム「あぁ、今なら奴の、力の源が分かる、これが、堕ちるという事か・・・」

ミカエル「翼が黒く輝いて・・・!」

ウリエル「ミカエル、下がってろ!」

ミカエル「あぁ」

ペネム「堕天せし我が身に宿るは負の力、放つは憎悪、薙ぎ払え、黒光<コッコウ>・焦牙<ショウガ>!」

ウリエル「罪人を立ち入らせぬは神の采配、立ちはだかれ審判の炎、劫火<ゴウカ>・焔壁<エンペキ>!」

ミカエル「主よ、恐れ多くも我のような者が近付く事を許したまえ、神に似たるものは誰か、聖人・降誕!」

ペネム「どこを見ている!」

ウリエル「なっ、上!?」

ミカエル「遥か先の平和だ、はぁ!」

ペネム「くっ、ならば目の前は、すぐそこの平和を作る事はどうでもいいというのか!」

ミカエル「そうではない!」

ペネム「ぐっ!」

ミカエル「我々は全世界に平和をもたらさねばならない、だがそれは小さきを見捨てるという事ではない!」

ウリエル「全てをいっぺんに救うなんてのは出来ない、だから一つ一つ小さい物を積み重ねるんだろうが」

ペネム「なら、何故エリカを救ってくれなかった!」

ミカエル「っ、それは」

ペネム「理想だけでは全てを救うことなんて出来ない、全てをと言うのなら、
    ルシファーを、リリスを救ってみたらどうだ!」

ウリエル「なんで裏切り者を、悪魔の総指揮を救わなきゃならない!」

ペネム「二人とも元は天使軍の者だろう!」

ウリエル「それは論点のすり替えじゃねぇか!」

ペネム「昔の仲間、小さな村の娘、それすら守れずに何が理想だ、私はそんな物認めない・・・!」

ウリエル「俺たちがまだ力不足なのは分かっている、部下すら守れない若輩だ、民すら守れない愚か者だ」

ペネム「ならば・・・!」

ウリエル「だけどそれは理想じゃない、俺たちの使命だ!果たさなきゃならない事だ!」

ペネム「出来もし無い事を掲げて、兵に夢を見せているだけだ、世界を見てみろ、そんな物はまやかしだ!」

ミカエル「お前は、そんな低い理想で我々を裏切ったのか」

ペネム「何?」

ミカエル「こんな事を言えば、まだお前達は世界を知らないと言われるかもしれない、
     だがお前は、現実を見、夢から逃げるために裏切ったと言うのか!」

ペネム「違う」

ミカエル「ならば何故だ、答えろ!」

ペネム「私たちは軍にいては守りきれない人々を守るために・・・!」

ミカエル「だと言うのに貴様はその人々を傷つけようと言うのか!」

ペネム「・・・・・・分かった」

ミカエル「・・・・はぁ、分かってくれたか」

ペネム「ガブリエルを、殺す」

ミカエル・ウリエル「っ!」

ウリエル「お前何を・・・・!」

ペネム「ウリエルは黙っていろ、さぁミカエル、これでも何も思わないか」

ミカエル「・・・・今、あいつは関係ない!」

ペネム「そうか、なら、お前にも私と同じ想いをさせてやる・・・!」

ウリエル「翼の光が強く、っ、まさか本部まで飛ぶ気か!」

ペネム「また会おう、ガブリエルの亡骸の前で!」

ミカエル「くっ、ふざけるなぁ!」

ペネム「ふっ、そうだ、それが人だ、いくら取り繕おうと抑えられるものでは、ない!」

ミカエル「っ、ぐぁぁぁああああああ!?」

ウリエル「ミカエル!」

ミカエル「来るな!大丈夫だ・・・!」

ペネム「これで、分かっただろう、私の気持ちが!」

ミカエル「あぁ、分かった・・・」

ウリエル「ミカエル・・・」

ミカエル「ペネム、貴様が私の敵だということが今よく分かった!」

ペネム「・・・・・あぁ、それでいいんだ、さぁ、私を止めたければ殺してみろ、神の右腕!」

ミカエル「もう遠慮はしない、神託は意思を超越し人を運ぶ、導くは我らなり、神導<ジンドウ>・光翼<コウヨク>!」

ウリエル「漆黒に染まり黒い光を纏った翼と、直視出来ないほどの輝きを放つ翼・・・」

ミカエル「行くぞペネム!はぁぁぁぁあああああああ!」

ペネム「来いミカエル、はあぁぁぁあああああああ!」

ミカエル「はぁ!」

ペネム「フッ!そこ!」

ミカエル「なっ、くぅ!」

ペネム「愚直すぎるぞミカエル!はぁぁあああ!」

ミカエル「歪むものか、私は神の右腕だ!」

ペネム「くっ、よくその身で喰らい付くな、だが体が悲鳴をあげているぞ」

ミカエル「ふっ、知ったことか、ウリエル!何をしている、撃て!」

ウリエル「なっ、そんな近接戦に撃ち込んだら・・・!」

ミカエル「撃てと言っている!」

ウリエル「くっ、もたらすは滅びの判決、焼き尽くせ裁きの焔、落ちろ!烙弩<ラクド>・破焔<ハエン>!」

ミカエル「ふっ!」

ペネム「くっ!」

ミカエル「何だ今の火力は!次は避け切れない物を撃て!」

ウリエル「そんな事できる訳・・・!」

ミカエル「命令だ!」

ウリエル「あぁー!分かりましたよ!」

ペネム「くっ、お前は、死が怖くないのか!」

ミカエル「あぁ怖いさ、だがガブリエルを失うくらいならば、私は半身が焼け落ちようと構わん!」

ペネム「なんだ、分かっているじゃないか・・・」

ミカエル「何を呟いている、祈りならばもう届かないぞ、堕天使!」

ペネム「ふっ、祈る神などもう捨てた」

ミカエル「そうか、ならば、その捨てた者の右腕によって、落ちろ!」

ペネム「やれるものならやって見せろ、はぁ!」

ミカエル「っ、どうした、お前こそ太刀筋が真っ直ぐではないか・・・!」

ペネム「お前には関係のない事だ・・・!」

ウリエル「己が名は神の炎、裁くは有象無象、神を冒涜せし者、焼かれしは等しく罪人なり、
     悪しきを罪ごと焼き払え、かわせよミカエル!劫火<ゴウカ>・神焔<シンエン>!」

ミカエル「神よ、我に力を、っ、そら!」

ペネム「ぐぅ!」

ミカエル「ふっ!」

ペネム「く、ぅ、はぁ!・・・・ちぃ、これは、避けきれないか・・・・!うわぁぁあああああ!」

ウリエル「やった!」

ミカエル「まだだ!」

ウリエル「何?」

ペネム「づ・・・ぅ・・・」

ミカエル「これで最期だ、うぉぉぉおおおおおおお!」

ペネム「ぐぅ・・・・・・!」

ウリエル「胸を貫いた刃が、黒い翼を散らして・・・・」

ペネム「ごふっ、流石だ、な、ミカエル・・・」

ウリエル「ミカエル、ペネム!」

ペネム「はは・・・、何故私の名まで呼ぶんだウリエル・・・、私は、敵だぞ・・・」

ウリエル「あぁ、敵だ、だけど、お前も天使だった、同期の仲間だった!
     そんな奴の死に目だぞ、辛くないわけ無いだろう!」

ペネム「そうだったな・・・、お前は昔からそういう奴だった・・・、そっちは、違うみたいだけど、な・・・」

ミカエル「・・・・・ルイス、何故お前はそこまで身を堕とした?」

ウリエル「っ、ミカエル!」

ペネム「いいんだ、ウリエル、いや、レオン・・・、尤もな、疑問だよ・・・」

ウリエル「ルイス・・・」

ペネム「私たちが、離反した後の事は、話したな・・・、私は、軍を離れてすぐに、悪魔の襲撃にあったんだ・・・、
    重傷を負った私は、皆に見捨ててもらったんだ、足手纏いに、なりたくなかった・・・」

ミカエル「散り散りになったのもその時か・・・」

ペネム「その通り、だ、あの時は、死を覚悟していた、けど、彼女が、エリカが助けてくれたんだ・・・、
    他の村人の反対を押し切ってまで、私を村に置いてくれた、身元も明かさぬ、私を・・・」

ウリエル「村人の、反対・・・?」

ペネム「当然、だろう・・・、統治外の地域で、他人を信用する方が、珍しいんだ・・・」

ミカエル「・・・・そうか」

ペネム「あぁ、短い間だったけど、幸せだったなぁ・・・、ごふっ、げほっげほっ・・・!
    ははは・・・、堕天の力は、凄いな、胸を貫かれても、まだ話していられる・・・、
    そろそろ、逝きたいんだけど、な、彼女の、元に・・・」

ミカエル「罪を犯そうとした、お前が同じ所に行けるとでも、思っているのか?」

ウリエル「っ、おい、アーサー!」

ペネム「いいんだレオン、それも、そうだ・・・、私は、罪人だ、そんな夢を見る事は、許されない・・・」

ウリエル「ルイス・・・・・」

ペネム「神よ・・・、もし、願いが叶うのなら、せめて、彼女に・・・、幸せ、を・・・」

ミカエル「・・・・・・・・・・」

ウリエル「アーサー・・・?」

ミカエル「大丈夫だ、私は、こんな所で、立ち止まっている訳にはいかないんだ」

ウリエル「あぁ、そうだな、・・・・戻ろう、村に」


ペネム「次回予告」


ミカエル「悪魔は死んだ、が、守るべき者も、失ってしまった」

ウリエル「一行は、沈痛な想いを抱えたまま村に戻る」

ミカエル「そこで待ち受けていたものは・・・」

ペネム「次回、擬天黙示録 第十話 結果と現実と」

ペネム「それを見てなお、歪まずにあり続けられるのであろうか」




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シナリオの感想とか演じてみて台本としての感想とかいただけると作者がよろこぶかも・・・w