【喫茶えんどうまめ 第ニ話 ニオイと電気は突然に】

[ 所要時間:約11分 ]


《 キャラクター 》

遠藤 亜佐美(えんどう あさみ)♀ 26歳
 喫茶えんどうまめの店長。独身。
 好きなものは酒とつまみとインコ。
 えんどう豆は自家栽培している。
 航のことを「わた坊」と呼んでいる

大船 航(おおぶな わたる)♂ 22歳
 大学卒業後、役者を目指し始めたばかりの青年。
 1ヶ月前に4年付き合った彼女と別れた。
 亜佐美とは古くから家族ぐるみでの付き合いがあった。

相田 絵美(あいだ えみ)♀ 23歳
 HNは『絵手紙』。職業は自称画家。
 HNの由来は初めて絵を描いたのが絵葉書だったことから。
 「えてがみ」の両端の文字も本名と一緒だったから。
 とにかくマイペースで、悪臭とか居住地について気にしない。
 友達は野良猫さん。よく威嚇される。


※作中に出てくる『ライヌ』は『LINE』をもじったものです。



亜佐美♀:
航♂:
絵美♀:






  〔ドアベル音〕(航 入場)


亜佐美「おかえりなさいませぇ、ご主人様!」

航「…………メイド…?」

亜佐美「………」

航「………」

亜佐美「死ねやゴルア!!!」

航「なんで!?」

亜佐美「忘れろ!忘れるか死ね!!」

航「忘れる!忘れますから!!」

亜佐美「いいか、絶対だぞ!!」

航「なんかのフラグですか?」

亜佐美「あ゛?」

航「っ!な、なんでも、ないです」

亜佐美「テキトーに座っといて!」

航「は、はい…」

航M「だ、大丈夫かな、亜佐美さん…」



  〔ドアの音〕(亜佐美 退場)


 10分後


  〔ドアの音〕(亜佐美 入場)



亜佐美「はぁぁぁ………」

航「あ、あの…す、すみませんでした…」

亜佐美「あ?忘れろって言っ」

航「忘れる!!ハイ、今忘れましたぁ!!」

亜佐美「はぁ…なんでこのタイミングで来るのよぉ…」

航「いやぁ、母からコレを持っていけって言われて…」

亜佐美「なに?」

航「コレです」

亜佐美「どれどれ……おぉ!?おおお!!」

航M「俺は中身見てないけど…そこそこ重かったんだよなぁ…」

亜佐美「えんどう豆!!」

航「ぶっ!?」

亜佐美「いやぁ助かるわぁ」

航「あの!亜佐美さん、えんどう豆は…自家栽培している、って」

亜佐美「そうなんだけどねぇ。足りなくなっちゃうのよ、店やっていると」

航「はぁ」

亜佐美「ジューサーにかけると、かなりの数を消費しちゃうからさぁ」

航「一応聞きますけど、その…えんどう豆ジュースって、売れているんですか?」

亜佐美「何言ってんの、バカ売れよ!」

航「嘘っ!?」

亜佐美「毎朝飲んでるわ!」

航「そんな人もいるんだ…」

亜佐美「私が」

航「………え?」

亜佐美「だから、私が毎朝飲んでいるの」

航「………。えっと、他に飲んでいるお客さんは…?」

亜佐美「居ないわよ。そもそもアレ以来、わた坊ぐらいしかお客なんて来てないし」

航「亜佐美さんが一人で消費しているじゃないですか!!」

亜佐美「しょうがないじゃない。ナマモノだもの。あさみ。」

航「どこかの詩みたいな言い方しても駄目です!……亜佐美さん、大丈夫ですか?」

亜佐美「何が?」

航「何って、色々ですけど…特にお店。成り立っているんですか?」

亜佐美「ま、まぁ?オープンして、まだ一週間だしぃ?」

航「…宣伝とか、しているんですか?」

亜佐美「大きく看板出しときゃ来るでしょ」

航「来ないよ!というかあの店先の看板!なんでちょっとスナック風なんですか!」

亜佐美「えへへ、カッコイイでしょ」

航「いかがわしい店に見えますって!看板替えて、ビラ配りしましょう!」

亜佐美「えーーー」

航「子供みたいに駄々こねないでくださいよ!お店潰れますよ?」

亜佐美「………もん……」

航「え?」

亜佐美「ううん!なんでもない!じゃあまずは資金集めね!」

航「…え?」

亜佐美「さ、コレを」

航「…え??コレって…コーヒーと、えんどう豆……ま、まさか!!」

亜佐美「『縁通豆(えんどうまめ)』をご注文いただき、ありがとうございまーす!」

航「待って亜佐美さん!!俺、注文していない!!」

亜佐美「当店では喫茶店としてだけでなく、お客様の出会いをサポートするサービスも行っております」

航「それ、前回も聞いたから!!というか注文してないですってば!」

亜佐美「ネット社会でいつでも会えるという環境になっても、良縁に繋がる機会は少なく、運命の人と出会えず年を重ねている方も大勢います」

航「亜佐美さーん?聞いてますー?」

亜佐美「ここでは結婚相談所よりも気楽に、おつまみをオーダーする感覚でいい出会いを提供できればと思っております」

航「おつまみを強制的にオーダーに入れるって、これ駄目なんじゃないですかね…」

亜佐美「さてさて、今日はもう既に返事をくれた方がいます。もうそろそろ来る頃かな」



  〔ドアベル音〕(絵美 入場)



絵美「あのー…喫茶えんどうまめって…ここ、ですかぁ?」

亜佐美「噂をすれば!いらっしゃいませ!喫茶えんどうまめへようこそー!」

航「こんにち……うっ!?」

絵美「あ、こんにちはぁ。ライヌでは『絵手紙』って名前ですぅ」

亜佐美「どうぞ、カウンターにいる彼の隣に」

航「亜佐美さん!なんでそんな距離取るんですか!!」

亜佐美「えー、だってー」

絵美「そうですよぉ、『枝豆』さん。もっとこっち来てくれないとぉ」

航「お、俺の隣…く、来るんですか……」

絵美「え?だって『枝豆』さんが隣に行って、って…」

亜佐美「『絵手紙』さん、臭いわ」

絵美「え?」

亜佐美「だから、臭い」

絵美「え、えぇぇ…」

航「ちょちょちょっと!亜佐美さん、ストレート過ぎますって!!」

亜佐美「だってホントのこーとさー♪」

航「歌ってないで!!…ゴホン。えっと、『絵手紙』、さん?」

絵美「あうう…」

航「そ、その…この、ニオイって…」

絵美「ヘドロですぅ」

亜佐美・航「はぁっ!?」

絵美「あ、私…画家やっていてぇ…。普通じゃ売れないので、ヘドロで絵を描こうと…」

航「いやいやいや!なんでそのチョイスしちゃったんですか!?」

絵美「他に思いつかなくてぇ…」

亜佐美「(鼻つまみ)どーりでくさいわ。くさいくさい」

航「亜佐美さん!言動がストレートなんですってば!」

絵美「あはは…だから彼氏どころか人も集まってこなくてぇ…」

亜佐美「でしょうね」

絵美「絵も全然売れなくて…」

航「あー……」

絵美「今は、ダンボール集めて生活してます」

航「ホームレス!?え?ライヌやっているんですよね!?」

絵美「あ、それはぁ…以前もらったスマホと、色んな施設にある無線Wi-Fiと、コンセントから充電して…」

航「えっと『絵手紙』さん?それ盗電ってことになりますよ?」

絵美「えっ」

亜佐美「えっ」

航「なんで亜佐美さんまで驚いているんですか。駅構内とかのコンセントからの充電とかは許可無ければ盗電になってしまうんですよ。犯罪になっちゃいます」

亜佐美「あー…マジかー…」

航「亜佐美さん…。
  『使っていいですよ』の明記がない所で充電すると、電気が瞬時に盗まれたということで窃盗の罪になる場合もあるんです」

絵美「あっ、『充電どうぞ』ってところでやってるよぉ」

航「それなら大丈夫です。屋外に不自然にあるコンセントとか、屋内施設の下の方にあるコンセントは明記がなければ使っちゃ駄目ですよ?」

絵美「はーい」

亜佐美「ま、いっか!」

航「ま、いっか!じゃないですよ亜佐美さん。覚えておいてくださいよ?」

亜佐美「詳しいわね、わた坊」

航「以前耳にしたことがあって、自分で調べたんですよ」

亜佐美「じゃあしてたんだ、わた坊も」

航「してないですよ!俺はモバイルバッテリーを使っていますから」

絵美「あのぉ…『枝豆』さんが亜佐美さんで…こっちが、わた坊さん?」

航「あぁ!す、すみません!俺は大船 航(おおぶな わたる)って言います」

絵美「はっ!わ、私は相田 絵美(あいだ えみ)って言いますぅ」

航・絵美「よ、よろしくお願いします」

亜佐美「挨拶済んだー?」

航「呼んだのは亜佐美さんなのに……えっと、絵美、さん」

絵美「は、ひゃい!」

航「そんなにかしこまらないでください。見た感じ、年も近そう…」

絵美「にっ、23、ですぅ…」

航「あ、近いですね。俺は22です」

絵美「ホントだ…近いですねぇ」

航「さっき画家って言っていましたけど…どんな絵を描かれるんですか?」

絵美「えーっと、こんな感じのを…」

亜佐美「へー、持ってきてい…むぐっ!?」

航「ちょ…っと、待った!に、臭いが…強烈に…っ!!」

絵美「え?そうですかぁ?これ一番小さいやつなんですけどぉ…」

航「確かにサイズはB5ぐらいですけど…ゲホゲホゲホッ!!」

亜佐美「『絵手紙』さん!今度!今度外で見せて貰うわ!!」

絵美「そうですかぁ…残念です」

亜佐美「この、えんどう豆、あげるから。ゴー」

絵美「え!良いんですかぁ?」

亜佐美「うんうんうん良いよ、いいから、ゴー、アウト。アウト」

絵美「ちょ、ちょっと押さないでく」



  〔ドアベル音/速い音〕(絵美 退場)



亜佐美「換気換気換気ぃぃいいい!!」

航「ゲホゲホ!ゴホッ…はぁ…はぁ…」

亜佐美「ぜぇー、ぜぇー……ふぅ。さて、わた坊のお相手には?」

航「アウトですよ」

亜佐美「デスヨネー」

航「はぁ…勝手に注文したことにされて…。
  『縁通豆(えんどうまめ)』、1000円でしたっけ」

亜佐美「あ、ごめん」

航「え?」

亜佐美「5000円で」

航「は?」

亜佐美「いやぁ、さっきわた坊ママからもらったえんどう豆全部あげちゃったからさ、新しいえんどう豆買わないと」

航「だからってなんで5倍になるんですか!?」

亜佐美「投資だと思ってさぁ」

航「嫌ですよ!俺だって役者やりながらバイトやりくりしてるんですから!!」

亜佐美「そこをなんとか!」

航「何ともなりませんよ!!」

亜佐美「じゃあ3000!」

航「………今度2000円おごってくださいよ」

亜佐美「わた坊!!ありがと!!!」

航「じゃあ、もう帰ります……はぁ……」

亜佐美「ありがとうございましたー!」



  〔ドアベル音〕(航 退場)



亜佐美「喫茶えんどうまめ、いかがでした?
    前回とはまた違った女性(ヒト)でしたよね~。
    ……ちょーっとニオイだけは、ひどいけど。
    さーって、換気したら次のえんどう豆調達しないと!
    いっそがしいそがしぃー♪」





Written by ノスリ

もどる

☆ 演じた感想などをお待ちしています ☆