【喫茶えんどうまめ 第一話 縁の通り道】
[ 所要時間:約11分 ]
《 キャラクター 》
遠藤 亜佐美(えんどう あさみ)♀ 26歳
喫茶えんどうまめの店長。独身。
好きなものは酒とつまみとインコ。
えんどう豆は自家栽培している。
航のことを「わた坊」と呼んでいる
大船 航(おおぶな わたる)♂ 22歳
大学卒業後、役者を目指し始めたばかりの青年。
1ヶ月前に4年付き合った彼女と別れた。
亜佐美とは古くから家族ぐるみでの付き合いがあった。
水橋 玲奈(みずはし れいな)♀ 24歳
HNは『注射針』。職業は看護師。
夜勤明けで隈ができている。夜勤明けでテンションがおかしい。
普段は物静かで真面目な看護師さん。
見合いという行為は初めて。
※作中に出てくる『ライヌ』は『LINE』をもじったものです。
亜佐美♀:
航♂:
玲奈♀:
〔ドアベル音〕(航 入場)
亜佐美「いらっしゃいませ!あ、わた坊!」
航「ども…オープンしたって母から聞いて」
亜佐美「そそ!今日からオープンなの!お客様第一号だよ、わた坊」
航「あれ、そうなの?…オレでいいのかな」
亜佐美「いいのいいの!ささ、どうぞどうぞ~」
航「お、お邪魔します…メニューはこの小さいのだけ?」
亜佐美「うん、まだメニュー考え中でねぇ…」
航「コーヒーに紅茶……ん?」
亜佐美「んー?」
航「亜佐美さん、この…えんどう豆ジュースって…」
亜佐美「えんどう豆をジューサーにかけたものだよ」
航「……うん、コーヒーにしようかな」
亜佐美「チッ」
航「舌打ち!?」
亜佐美「あれ、聞こえた?」
航「思いっきり聞こえたよ!やだよオレ、そんな冒険したくない」
亜佐美「わた坊、あんた役者目指してんでしょ?冒険しなきゃ」
航「それ飲んで生活に支障が出たらどうしてくれるんですか」
亜佐美「我が身を恨め」
航「人ごと!?はぁ…ん?おつまみ?亜佐美さん、ここ喫茶店ですよね?」
亜佐美「そだよ。ほら日本茶にもお茶受けってあるじゃない?そんな感じよ」
航「なるほど…って待って。えんどう豆と得体の知れない豆しかない」
亜佐美「えんどう豆しか置いてないわよ?」
航「この…えっと、ご縁の縁(えん)に交通の通(つう)って書いて…」
亜佐美「うん、だから『縁通豆(えんどうまめ)』」
航「普通のえんどう豆とは違うんです?」
亜佐美「そ。それは特別メニュー。オーダーした人にしか教えない予定」
航「何なんだろう、この豆…」
亜佐美「気になる?ねぇねぇ、気になるぅ?」
航「…変なのが出ても困るし、普通のま」
亜佐美「冒険!!しようよ!はい、『縁通豆』ね!まいどー!」
航「ちょ、ちょっと!?オレいるなんて言ってな」
亜佐美「おほん!この度は『縁通豆』をご注文いただき、ありがとうございます」
航「勝手に始めちゃったよ…」
亜佐美「当店では喫茶店としてだけでなく、お客様の出会いをサポートするサービスも行っております」
航「何その出会い系サイト風な…」
亜佐美「ネット社会でいつでも会えるという環境になっても、良縁に繋がる機会は少なく運命の人と出会えず年を重ねている方も大勢います」
航「亜佐美さん、まだ独身でしたっけ?」
亜佐美「あ?」
航「…なんでもないです」
亜佐美「ここでは結婚相談所よりも気楽に、おつまみをオーダーする感覚でいい出会いを提供できればと思っております」
航「おつまみ感覚って…亜佐美さん、居酒屋じゃないんだから…」
亜佐美「で!わた坊は、現在彼女は?」
航「あー…先月、別れました」
亜佐美「ほう、別れた理由は?」
航「はは…情けない話、オレが大学卒業して就職せず役者になるって言ったら、将来が見えない、て言われて…」
亜佐美「そらそうでしょうよ」
航「で、ですよねぇ…」
亜佐美「ふむ……わた坊は、役者になりたいのね?」
航「え、あ、そりゃあ…もちろん!」
亜佐美「それで食っていくの?」
航「う…まぁ…」
亜佐美「それじゃあ彼女さんも愛想尽かすよ。あ、元カノさんね」
航「言い直さなくていいですよ…」
亜佐美「まだまだ女の子の理想像として、『お嫁さん』が上位だからねぇ」
航「『お嫁さん』…」
亜佐美「言い換えると『専業主婦』ね。旦那の稼ぎが良いならできることだね」
航「はぁぁ…稼ぎかぁ…」
亜佐美「男女平等つってもまだまだ男が外で稼ぐもんって感覚は抜けないからさぁ」
航「うぅ…」
亜佐美「とは言っても、女性の活躍が増えているのも事実。そこでだ、わた坊」
航「え…?」
亜佐美「稼ぐ女性を捕まえる!」
航「そんな野生動物を捉えるみたいな…」
亜佐美「そんな感じよ?働く女性は仕事優先だからねぇ」
航「そういうもんなんです?オレのイメージでは合コンとかしまくっていそうな…」
亜佐美「自分磨きにお金使う子が多いかなー。出会い、結婚になかなか繋がらないのよねぇ」
航「…それって亜佐美さんの」
亜佐美「なあに?わた坊」
航「…すみません」
亜佐美「そんな時には『喫茶えんどうまめ』にお任せ!てれてれてってってー!」
航「スマホ?」
亜佐美「お、返事きたきた」
航「何を見て…って『ライヌ』じゃないですか!SNSに頼って!!」
亜佐美「あ、コラ!!勝手に見るんじゃない!」
航「結局ネットじゃないですか!なんなんだもう…」
亜佐美「うし、今から10分でこっちに来るって。まぁコーヒーでも飲んでってよ!」
航「あ、ありがとうございま…これ、えんどう豆?」
亜佐美「うん、コーヒーに入れて飲んでね」
航「嫌ですよ!」
10分後
〔ドアベル音〕(玲奈 入場)
亜佐美「いらっしゃいませ!」
玲奈「こ、こんにちはぁ…」
航「お…おお?だ、大丈夫ですか…?隈(くま)が…」
玲奈「は、ははは…あ、はい…大丈夫です…」
航M「本当に大丈夫か…?」
亜佐美「『注射針』さんですよね。どうぞどうぞ彼の隣に」
玲奈「あ、失礼します…」
航「ち、注射針…?」
亜佐美「彼女のハンドルネーム。職業柄なんですってね?はい、コーヒー」
玲奈「あ、ありがとうございます。そうなんですよぉ…実は夜勤明けで…へへっ」
航「じゃあ寝ていた方が…」
玲奈「そ、そんな!折角のチャンスだしっ!!」
航「ち、チャンス…?」
玲奈「あ…ライヌで大型グループがあって、そこに良縁を求めた男女が大勢いるんです」
亜佐美「ちなみに管理者はわ・た・し♪」
玲奈「管理人の『枝豆』さん、この度はありがとうございます。本当に出会いがなくて…」
航「『枝豆』!?いくら酒好きだからってそんな安直な」
亜佐美「いいって『注射針』さん。むしろごめんねぇ、わた坊との見合いで」
玲奈「わた坊さん…?」
航「あ、アダ名ですよ!んんっ、大船 航です」
玲奈「わ、私は水橋 玲奈と申します…ライヌで『注射針』と名乗っています」
航「注射針…ということは、『看護婦』さん?」
玲奈「はい…あ、今は『看護師』、です」
亜佐美「『看護婦』だと男尊女卑みたいなこと言われて、今は『看護師』なのよねぇ」
航「え!あぁ、すみません!!」
玲奈「いいですよぉ、私達もまだ抜けなくてたまに『看護婦』て言っちゃいますし…」
航「すみません、本当に…」
亜佐美「あーもう!ホラ、折角見合い機会設けているんだから。お互い聞きたいことを聞いてく!」
航「はっ…あ、そうか。えっと…し、趣味はなんですか?」
玲奈「趣味…ですか…」
亜佐美「無趣味?」
玲奈「いえ、そうではなくて…最近忙しくて趣味らしいことはしてなくて…代わりに特技ならあります」
亜佐美「いいよ、特技で!」
玲奈「特技は………注射です」
航「…ん?」
玲奈「ほら、血管に針を入れて…スッて入ると気持ちがいいんですよぉ」
航「…んん?」
玲奈「注射針に血液が入ってくると、自分が吸い出しているんだぁって思ってゾクゾクしちゃうんです」
亜佐美「それは特技というか趣味ね」
玲奈「え?あ、これ趣味ですか…じゃあ、趣味ということで」
航「怖いですよ!!えっと、血…が好き、なんですか…?」
玲奈「血は味が鉄っぽいから好きじゃないんです…こう、採血の時と」
亜佐美「よし、お互い好きな食べ物は?」
航M「亜佐美さんナイスフォローだ!」
玲奈「好きな食べ物…レバー、かな」
航「採血後には…良い、ですね……」
亜佐美「わた坊の好きな食べ物はハンバーグ。よし次」
航「なんで勝手に答えてんですか!」
亜佐美「ちゅ…じゃなくて、えっと…水橋さん?は、結婚相手に絶対欲しいものってあります?これだけは譲れないっていう条件」
玲奈「結婚条件、ってことですよね?…うーん」
航「亜佐美さんはあるんです?条件」
亜佐美「そりゃあねぇ」
航「やっぱり優しさとかそういう?」
亜佐美「何言ってんの。金よ、マネー。財力」
航「………」
玲奈「あ、条件ありました」
亜佐美「お?なになに?」
玲奈「採血させてくれる人!」
亜佐美「仕事に戻ろうか」
玲奈「え?あの、コーヒー代…」
亜佐美「いいのいいの!ほら、帰って寝なさいな。患者さんへの注射でミスっちゃうから」
玲奈「自慢になっちゃうんですけど、私針を入れるのに失敗したことないんですよ!針だけは!だからハンドルネームも悩んだんですけど注射ば」
亜佐美「またお見合いに呼ぶから!お疲れ様!」
〔ドアベル音/速い音〕(玲奈 退場)
航「あ…亜佐美、さん…」
亜佐美「どうだった?わた坊」
航「うん、なんか……凄かった…」
亜佐美「どう?彼女に」
航「遠慮させてください」
亜佐美「だよねぇ…この時間帯はあの子しか反応しなかったのよ」
航「夜勤明けって言ってましたし…」
亜佐美「さ、『縁通豆』のお値段1000円ね」
航「コーヒー2杯とえんどう豆で!?」
亜佐美「こんな貴重な体験、なかなか出来ないわよ~?」
航「う…わ、分かりました…」
亜佐美「まいど!また来てね、わた坊♪」
航「う、うん…考えておくよ…ごちそうさま」
〔ドアベル音〕(航 退場)
亜佐美「ありがとうございましたぁ!
……喫茶えんどうまめのサービス、いかがでしたか?
こうやって差別化しないとね、やってらんないのよ。
次のお客さんは誰かなあ…お?お客様だ。
いらっしゃいませー!」
Written by ノスリ
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