箱庭の世界で、第四十四話、氷雪の理由<わけ>

氷雪♂ 18歳&15歳 (ひゆき)
雪菜♀ 15歳 氷雪の幼馴染 (ゆきな)
冷菜♀ 40歳&37歳 雪菜の母親 (れいな)
雹河♂ 15歳 雪菜の友達 (ひょうが)

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氷雪&雹河♂:
雪菜&冷菜♀:




氷雪N「焔が行方をくらませてから数日後、俺は幼馴染の、雪菜の墓参りに来ていた」

氷雪「よぅ、久しぶりだな、三年ぶりか?・・・・・なんてな」

氷雪N「返事が無いのは分かりつつ、墓の下の雪菜に語りかける」

冷菜「薄情ね、三年間一回もお参りにこないなんて」

氷雪「うわぁ!?しゃ、喋った!?・・・・・って冷菜さん、何してるんですか」

冷菜「あれ、本気で驚いてくれたんじゃないの、残念」

氷雪「そりゃ声は後ろから聞こえて来たし、思いっきり冷菜さんの声だったし」

冷菜「酷いわ、私をおばさんだって言うのね、しくしくしく・・・・」

氷雪「あぁ〜、ワザとらしい!分かりましたよ、声そっくりで枕元に立たれたかと思って
   超びっくりしましたー!っでいいですか?」

冷菜「うん、許してあげるー」

氷雪N「満面の笑みでにっこり笑う冷菜さん、えー、彼女は墓の下で眠る雪菜の実の母親だ、
    俺がこの辺りに住んでた頃にはよくお世話になってた、おかげか気付けば友達みたいな状態に・・・」

冷菜「でも、三年、本当に久しぶりね、元気にしてた?」

氷雪「無駄に元気でしたよ、体も丈夫になりましたしね」

冷菜「そういえば邪学に入ったのよね、まだ続いてるの?」

氷雪「えぇ、そりゃもうばっちり、俺、滅茶苦茶強くなりましたよー」

冷菜「あら、それなら転校した甲斐もあったってものね」

氷雪「ですね、もう、あの時みたいに何も守れないガキじゃないですから」

冷菜「・・・・・氷雪君、まだ引きずってるの?」

氷雪「どうなんでしょうね、少なくとも忘れたくない思い出だとは思ってます」

冷菜「思い出、か、そうね」

氷雪「えぇ、雪菜との思い出、はぁ、三年前か、懐かしいな・・・・」


冷菜「箱庭の世界で、第四十四話、氷雪の理由<わけ>」


氷雪N「15歳だった頃のとある日、俺は学校も終わっていつも通り、
    ふらふらと理由もなく遠回りをして家に向かっていた」

雪菜「ひーゆーきー!」

氷雪N「遥か後方から俺を呼ぶ声、いくら人通りの少ない所でも人の目という概念はないのかあいつは」

雪菜「ひーゆーきー!」

氷雪N「少しづつ近づく呼び声、俺まで仲間にされちゃかなわないので他人の振りを決め込む」

雪菜「もぅ、氷雪ってばぁ!」

氷雪「ぐぇ!いってぇー!何すんだよ!」

雪菜「何って、全力疾走スーパーラリアット?」

氷雪「何で疑問系なんだよ!」

雪菜「えー、技名考えてなかったしー」

氷雪「そこじゃねぇよ!俺が聞きたいの技名じゃねぇよ!」

雪菜「まぁまぁ、いいじゃん、氷雪だもん」

氷雪「何それ!?俺なら何してもいい訳!?」

雪菜「うん!」

氷雪「うっわ、全力で肯定されたよ、満面の笑みだよ」

雪菜「そんな事より聞いてよー」

氷雪「お前が話聞けよ!」

雪菜「今日ね、一時間目が体育だったんだけどさ、先生がねー」

氷雪N「こんな具合に、コントをやりつつ一日の報告を受ける、
    これが俺の日課になっていた、別にどっちが始めたって訳じゃないけど、
    気付けば毎日報告を受けている気がする」

雪菜「だったんだよー!氷雪は今日なんかあった?」

氷雪「俺?特別なんも無かったかな、今日も普通に授業ーって感じ」

雪菜「嘘だー、先生に怒られたって聞いたけど、大丈夫だったの?」

氷雪「なんで知ってんだよ・・・・、まぁ、大丈夫大丈夫、
   俺もちょっと失敗した所あったしな」

雪菜「えぇー、他の人に押し付けられたとかって聞いたんだけど・・・」

氷雪「びっくりするぐらい調べてあるな、俺話さなくていいんじゃねぇのそれ」

雪菜「やーだー、氷雪の口から聞きたいもん」

氷雪「聞いたとおりだぜ、多分、俺に非が無いわけじゃないし、
   俺が怒られて丸く収まるならそれでいいんじゃない?」

雪菜「んー、そっか、うん、氷雪が嫌じゃないなら私もそれでいいよっ」

氷雪「なんだよそれー」

雪菜「なんでもだよこれー」

氷雪「日本語おかしいしさ」

雪菜「えー、そんな事無いよ」

氷雪「はいはい、そういう事にしといてやるよ」

雪菜「でしょ?」

氷雪「開き直るな!」

雪菜「えへへー」

氷雪N「町がオレンジ色に包まれるまで二人で話し続けた、
    これも最近では日課になっている、
    お互い特別待ち合わせもせずに、何も計画も立てず、ただ話す、
    そんな、なんて事のない毎日が、凄く心地よかった」

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雪菜「っと、もうこんな時間だね、そろそろ私帰らなきゃ、氷雪は?」

氷雪「どうしようかなぁ、帰ってもやる事無いしなぁ」

雪菜「えっと、じゃ、じゃあウチ来る?私もやる事、あんまり無いし・・・」

氷雪「んー、いや、時間も時間だし、俺も帰るよ、親に怒られたくないしね」

雪菜「はぅ・・・、そ、そっか、それじゃ、気を付けてね」

氷雪「おぅ、雪菜も気をつけて帰れよー」

雪菜「うん、それじゃあね、ばいばいっ」

氷雪「ん、また明日なー」

雪菜N「氷雪と別れ、家に向かう、人の気持ちに気付かない所が氷雪らしいなーっと
    思いながらも、ちょっと残念な感じ、でも、実はそんな所も好きだったりする。
    それから、のんびりと家に帰る途中で、周りの気温が少し上がった様な感じがした」

雪菜「この時間に・・・・?なんでだろ、もう日が沈んでく時間なのにな」

雹河「はぁ・・・・はぁ・・・・お、おい雪菜!」

雪菜「あれ、雹河君、どうしたの?そんなに慌てて」

雹河「た、大変だ、魔族が、魔族が魔界から出てきて、
   すげぇ炎撒き散らしながらこっちに・・・・!」

雪菜「魔界から・・・・じゃあ北の方、だよね」

雹河「あぁ、真っ直ぐこの町に向かってきてる、避難した方がいい!」

雪菜「う、うん、これって皆知ってるの?」

雹河「いや、俺もたまたま高台で遊んでて遠めに見えただけだから、
   まだ知らない人も沢山いると思う」

雪菜「嘘・・・・、魔界から真っ直ぐ南でしょ・・・・」

雹河「だからこの辺はまだルートから外れてるから・・・」

雪菜「氷雪が・・・・、氷雪の家が危ないよ!」

雹河「止めとけ!今行ってもお前も巻き込まれるぞ!」

雪菜「でも、でもあの辺りの人皆をほっとくなんて出来ないよ!」

雪菜N「私は制止する雹河君の手を振り払い、氷雪の家に急ぐ、
    行く途中も魔族が来るって皆に叫びながら走った」

雪菜「はぁ・・・はぁ・・・、もう、すぐ・・・・氷雪の家だ・・・」

雪菜N「走ったせいで熱いのか、魔族が近づいてきていて熱いのかよく分からない、
    叫びすぎてもう大声も出せない、頭が、くらくらする・・・」

雪菜「はぁ・・・・・はぁ・・・・、着い、た、氷雪・・・・」

雪菜N「急いで家に入ると、まだそこには氷雪のご両親の姿が、
    でも、氷雪の姿が見えない、まだ帰ってない・・・?
    とにかくお二人だけでも避難させないと・・・・、
    氷雪のご両親にその事を伝えようとした時、辺りが、炎に包まれた・・・・」

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氷雪N「雪菜と分かれた後、俺は真っ直ぐ家には帰らず、またより道をしていた」

氷雪「しかし、なんか熱いな・・・、もう夕方過ぎだぞ、なんで気温上がるかなぁ・・・・」

氷雪N「帰ってクーラーでも浴びたいなぁっと思ったその時だった、
    町の真ん中を、炎の塊が通り過ぎていった、
    それは、ありとあらゆる物を破壊していく、
    通っていた学校も、住み慣れた町並みも・・・・」

氷雪「・・・・・っ、おい、待てよ、あっち、俺んちがある方じゃねぇか・・・」

氷雪N「嫌な予感が全身を襲う、周りを包む火も気に留めず、全力で家に走る、
    炎が通った後は本当に酷かった、焼け野原、自然災害が起こったんじゃないかと
    思わせられる位酷いものだった、そして、俺の家は、災害の真下にあった・・・」

氷雪「なん、だよこれ・・・・、家、俺の家が・・・・、っ、父さん、母さんは!?」

氷雪N「辺りを見渡しても人っ子一人いない、
    それに、この時間は二人とも家にいる時間だ」

氷雪「父さん!母さん!返事してくれ!誰でもいいから、誰かいませんか!?」

氷雪N「返事は、ない、当然だ、辺りの家は全壊、避難してここにいないか、
    死んでこの世にいないか、どちらかだ」

冷菜「氷雪君!」

氷雪N「その時、俺を呼ぶ声、よく知った人の声」

氷雪「冷菜さん!」

冷菜「良かった、無事だったのね」

氷雪「冷菜さんこそ、けどどうしてここに」

冷菜「雪菜がいないの、それで雹河君からこっちに行ったって話を聞いて・・・」

氷雪「な・・・・あのバカ、なんでワザワザこんな危ない方に!」

冷菜「氷雪君に、炎が近づいて来てるのを知らせに行くんだって」

氷雪「そんな・・・、一番大切なのは自分の命だろうが!」

冷菜「・・・・・探しましょう、もしかしたら避難してるかもしれないわ」

氷雪「・・・・そうですね」

氷雪N「避難所に行ってみたけど、両親の姿も、あいつの姿もなかった、
    鎮火し、瓦礫が撤去された我が家の中から、3体の遺体が出てきた、
    強い火災のせいか、どれも火葬の済んだような状態で身元の
    確認も取れないような状態だった、けど、そんな事しなくても俺には分かった、
    父さんと母さんと、・・・・・雪菜だ」

冷菜「雪菜・・・・、そんな・・・・」

氷雪「すみません、俺が真っ直ぐ帰ってればこうなってなかったかもしれないのに・・・」

冷菜「氷雪君が悪い訳じゃないわ、こんなの、災害みたいなものだもの、
   運が、悪かったのよ、あの子・・・・」

氷雪「そう、ですね・・・・、あ、そうだ」

冷菜「どう、したの・・・?」

氷雪「俺、一人っ子なんで、喪主しなきゃ、
   なんで、もし良ければ、色々教えてもらえませんか?」

冷菜「・・・・・・・・」

氷雪「どうしたんですか?あ、そうか、冷菜さんも雪菜のがありますもんね、
   どうしようかな・・・・」

冷菜「氷雪君、悲しく、ないの?」

氷雪「え?」

冷菜「私、まだ氷雪君の涙、見てないわ、ご両親が亡くなって、悲しくないの?」

氷雪「あー・・・・、うん、悲しいけど、次の事考えなきゃいけないんで、
   泣いてる暇、ないですよ」

冷菜「氷雪、君・・・・」

氷雪「後俺、色々落ち着いたら、邪学行こうと思うんです」

冷菜「邪学に・・・・?」

氷雪「えぇ、何も出来なかったんで、せめて、何かを守れるくらい、
   強くなろうと思うんです」

冷菜「・・・・・そうね、私、応援するわ、何かあったら、頼ってね?」

氷雪「もちろんです、必ず強くなってくるんで、期待しててくださいよ」

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冷菜「三年、か・・・・・、本当に逞しくなって帰ってきたわね」

氷雪「そうですか?そう言って貰えると頑張った甲斐がありますよ」

冷菜「ふふっ、どう?あれから新しく守りたい子は出来た?」

氷雪「へ?新しくってどういう?」

冷菜「あら、そのままの意味よ?」

氷雪「・・・・・・ん、ま、まぁ・・・・」

冷菜「うんうん、良い事よ、まだ若いんだから、一つの恋に囚われてちゃダメだもの、
   雪菜も、覚えててもらえるのは喜ぶだろうけど、捕らえてるのは悲しむだろうし」

氷雪「・・・・・へ?」

冷菜「どうしたの?そんなハトが豆鉄砲食らったみたいな顔して」

氷雪「あ、いや、うん、そうですね、言われてみれば、そうだったのかもしれないな」

冷菜「・・・・・ははーん」

氷雪「な、なんですか?」

冷菜「鈍感ここに極まるね」

氷雪「う、うるさいです、もう自覚症状もあるんで」

冷菜「ふふっ、それならいつか直るわね」

氷雪「だと、いいですね・・・・」

冷菜「大丈夫、氷雪君は良い男だもの、良い恋愛出来るわよ」

氷雪「ははは・・・・、ありがとうございます」

氷雪N「しかし、今更気付くなんてな、俺、あいつの事、好きだったのか・・・・、
    いや、しかし、本当に今更だな俺・・・・」

冷菜「あれ、氷雪君、泣いてるの・・・?」

氷雪「え・・・?あ、本当だ、涙、久しぶりだな、どうしたんだろ」

冷菜「三年前、一滴も流さなかったのに、不思議ね」

氷雪「あー、無駄に熱い親友がいるんですよ、そいつに影響されたかもしれないですね、
   昔より温度が上がったのかも」

冷菜「良い事じゃない、昔よりもっと良い男になってるわよ」

氷雪「えぇー、思い出し泣きってかっこ悪くないですか?」

冷菜「ううん、血も涙も無いより、ちゃんと怒ったり泣いたりする方が
   人間らしくて素敵よ」

氷雪「そっか・・・・、そうかもしれないですね」

冷菜「そうよ、絶対そう」

氷雪「じゃあ、そう思っときます」

冷菜「ふふっ、素直なのも素敵よ」

氷雪「褒めても何にも出ないすよー」

冷菜「あら、残念」

氷雪「ぶっ、全部台無しだよ!」

冷菜「あっははは!あー、久しぶりに氷雪君と話せたし、楽しかったわ、ありがとね」

氷雪「いえ、こちらこそ、楽しかったですよ、ありがとうございます」

冷菜「それじゃ、またね」

氷雪「あ、一つだけ、一つだけ聞いても良いですか?」

冷菜「ん、何かしら?」

氷雪「例えば、例えばですけど、もしあの事件の犯人が見つかったら、
   その・・・・、復讐とか・・・」

冷菜「ううん、そんな事してもしょうがないでしょ、あの子も望まないだろうしね」

氷雪「・・・・そうですね、うん、ありがとうございます」

冷菜「えぇ、・・・・迷ってるの?」

氷雪「いえ、今ので決心しました、もう迷いません」

冷菜「そ、良かったわ、それじゃ、また来てあげてね、この子もきっと喜ぶわ」

氷雪「はい、次来る時は彼女でも連れてこれるようにがんばりますよ」

冷菜「ふふっ、その時には私にも紹介してね」

氷雪「分かりました、楽しみにしておいてください」

冷菜「えぇ、楽しみにしてるわ」

氷雪M「今天秤にかけて、傾く物は一つもない、全てが均等に釣り合っていて、
    どれも失いたくない物ばかりだ、今は、色んなカタチでバラバラになったけど、
    かならず、俺は焔をとりかえして、フィオと火炎も仲直りさせて、
    また、あの四人で笑い合える日を、取り戻すんだ」


雪菜「次回予告」

氷雪「様々な悲しみを生み出した赤い悪魔、彼は進路はそのままに、
   南区に辿り着く」

雪菜「そこで、彼は、大きなターニングポイントに遭遇する事になる」

氷雪「次回、箱庭の世界で、第四十五話、朱の交わる時」

雪菜「悪魔と少女が出会う時、それは、それぞれの運命を大きく狂わせる時」


とぅーびー・こんてにゅーど


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シナリオの感想とか演じてみて台本としての感想とかいただけると作者がよろこぶかも・・・w