【チ か て つ】

[ 所要時間:約13分 ]


《 キャラクター 》

駅員♂
 地下鉄の駅員。細身長身の男。
 帽子を深くかぶっていて顔がよくわからない。
 「お客様」じゃなくて「お客さん」と呼ぶ。
 すごくマイペースにしゃべる。

客♂ 24歳
 2年前に就職した会社の新年会で酔いつぶれる。
 ごく一般的なサラリーマン。
 実家が田舎で、仕事のため上京してきた。

少女♀ 推定6~7歳
 平均よりも更に細めの体型。
 髪はサラサラストレートで腰回りまである。
 基本棒読みで、普通より少し遅いテンポで動く。



駅員♂:
客♂:
少女♀:






駅員「お客さん…お客さーん」

客「ん…んぁ…」

駅員「お客さん、終電終わりましたよ」

客「あれ…んっ…今、何時…?」

駅員「お客さん、立てますか?」

客「うん、立てる…何時だよもう…スマホ、スマホ…」

駅員「出口はあちらです」

客「うわ、バッテリー切れてるし…最悪」

駅員「お気をつけて」

客「ん?駅員さん、ここって地下鉄…」


〔駅員の姿が無い〕


客「早っ!もう居ないのか…っと、なんだっけ。確か、新年会でしこたま呑まされて…」

少女「ねえ」

客「え?」

少女「どうしたの?」

客「あ、いや…どうやら寝ちゃってたみたいでさ、終電逃して。えっと、親御さんは?一人?」

少女「いないよ」

客「は…?いないって、置いて行かれたってこと?」

少女「うん」

客「うわ…なんて親だよ…。なら、さっきの駅員さんに…」


〔駅員の姿は相変わらず無い〕


客「なんだよ、もう帰っちゃったのか?駅員さんも」

少女「かえるの?」

客「俺?そりゃあ、まぁ。今が何時か分かりゃ良いんだけどさ、外に出ないとわかんねぇわ」

少女「おはなししよ」

客「話?」

少女「うん」

客「うーん……まぁ、少しだけならいいよ」

少女「すわろ?」

客「あ、いや、いいよ。立ってるの慣れてるし。変な体勢で寝てたみたいだから身体硬いし…」

少女「なにしてるひと?」

客「見ての通りだよ」

少女「わかんない」

客「サラリーマン。分かんない?」

少女「わかんない…」

客「やべ…触れちゃまずい内容だったか…?」

少女「それなに?」

客「これ?スマホだよ。みんな持ってるでしょ」

少女「なにするの?」

客「電話とかメールとか…あ、メールって手紙ってこと」

少女「ふーん」

客「スマホも知らないか…くそ、なんでバッテリー切れてんだ…」

少女「それないとこまる?」

客「勿論!生活必需品。これなかったら連絡取れないし」

少女「れんらく?」

客「営業先のクライアントとか。あー…あれ?今日何曜日だ?仕事…」

少女「ねえ」

客「あ?」

少女「ままは?」

客「いや、君の親御さん帰っちゃったんだろ?」

少女「ううん」

客「…あ!俺か?俺の親は遠くに住んでるよ」

少女「とおく?」

客「そ。関東と東北じゃ距離あるだろ」

少女「……わかんない…」

客「えーっと…まぁすぐに会えないってことだ」

少女「おいてかれたの?」

客「違う違う。俺が仕事の為に上京したの」

少女「じょう…きょう…?」

客「俺から離れたってこと。置いていかれたわけじゃないから」

少女「そ、っか」

客「……?」

少女「ねえ」

客「ん?何だよ?…チッ、バッテリー入れなおしても駄目か」

少女「あそぼ?」

客「遊ぶって…こんな薄暗いところで遊べるわけないって」

少女「だめ?」

客「無理だなぁ。そろそろ俺も帰らねえと…仕事あるし」

少女「いっちゃうの?」

客「大人だからさ。はーあ、子供んころに戻りたいわ…」

少女「いっちゃやだ」

客「やだって言われても…せめて時間がわかれば…ん?時計もないのかよ…」

少女「ここにいて」

客「俺の代わり呼ぶから。すみませーん!すみませえーん!!」

少女「いなきゃだめ」

客「え、ちょ服引っ張らない…すみませーん!駅員さーん!!」

少女「こっち」

客「うわっ!?ま、待った待った!ちょっ何この力!?」

少女「きて」

客「とま!止まって!そっち!線路!!線路だから!!!」

少女「うん」

客「うん、って……ぐっ!?」

少女「こっちにきて」

客「ぐぅっ…首…が……!!」

少女「こっちのほうが、いい」

客「がっ…やめ…やめろ…ぉ…ッ!」

少女「おにいちゃん、あそ」

駅員「お客さん、出口は反対ですよ」

少女「!!」

客「むぐ…っ!て、てめぇ!!」

駅員「ここから出なくて、いいんですか?」

客「…で…っるに…決まって…ンだろ…!!」

少女「でちゃだめ」

駅員「わかりました。では、手を」

少女「だめえええ!!」

客「く、そおおおおおおお!!」

少女「あっ……」


〔少女が線路へ落ちる〕


客「っはあ…はあ…はあ…あ、あの子は!?」

駅員「まもなく電車が通過します」

客「おい!大丈夫か!?」

駅員「白線の内側までお下がりください」

少女「いたいよぉ…」

客「待ってろ!今助けるから!!」

駅員「お下がりください」

客「電車の音…?おい!電車を止めろ!!」

駅員「通過します」

少女「おにい」


〔轟音と共に高速で電車が通過する〕


客「あ……!」

駅員「お客さん、気をつけてお帰りください」

客「今…あの子……」

駅員「出口はあちらです」

客「あ…あぁ……け、警察…連絡、しないと……」


〔路線と反対側の階段を上がる客〕


駅員「さようなら」

少女「い…だ……い……」

駅員「………」

少女「いだ…い…いだいよぉおお……」

駅員「今更何を言っているんです」

少女「い…やだあああああああああいだいいいいいいいい」

駅員「もう何度も経験したでしょう」

少女「やだ…やだいやだいやだ……」

駅員「いい加減にしないと」

少女「ひとりはいやだあああああああああ」

駅員「消すぞ」

少女「ひっ…!」

駅員「ある女性を待ちたい、と言ったのはアンタなんだ。何故男も狙う?」

少女「だ、だって…」

駅員「だって?」

少女「……寂しかった、んだもん……」

駅員「アンタは、『アンタを捨てた母親』を待っているんだろう」

少女「だってぇ…」

駅員「遊び相手まで取り込む気ですか。仕事を増やさないでいただきたい」

少女「うぅ…」

駅員「私はアンタの探し人が来るまでアンタを見てなきゃいけない」

少女「べつにいいのに…」

駅員「良くない。これも、仕事なんで」

少女「………」

駅員「わかりましたか?返事は?」

少女「……はい…」

駅員「よろしい。はぁ…これ以上、仕事を増やさないでいただきたい」

少女「…ッ……」

駅員「……もうすぐ、夜明けですか。今夜こそ、アンタの母親だと良いですね」


〔駅員と少女が消える/客が戻ってくる〕


客「やっぱりちゃんと確認を…!うぐっ!眩しっ!?
  ……ん?んん!?あれ…いつの間にこんな人が…
  あ…始発、ってことか……いや待て。だったらさっきの電車は…
  それに…!?いない…あの女の子も、血の痕も、ない……
  俺は…何を見ていたんだ…?
  あっすみません…後ろに並びます、はい…」

駅員「(アナウンス)本日もご乗車いただき、誠にありがとうございます。
   まもなく、電車が参ります。白線の内側まで、お下がりください。
   誤って踏み込んでしまいますと、大変なことになりますので、お気をつけ下さい。
   電車、参ります。白線の内側まで、お下がりください」

少女「またね、おにいちゃん」

客「!?」

駅員「(アナウンス)扉閉まります。駆け込み乗車はお止めください。扉、閉まります」

客「今…あの子の声が……」


〔電車の扉が閉まり去っていく/乗客が居なくなる/駅員が隅でゴミ拾いする〕


客「……あ、スマホ…電源、いつの間に入ってんだよ…バッテリーあんじゃん。
  あれ、ニュース…?『地下鉄で人身事故、少女が死亡』…
  …!?この、顔………だ、誰か…あ、駅員さん!!」

駅員「はい?」

客「こ、この子!俺、見たんですけど…」

駅員「あー、昨日の」

客「いや!さっき!さっき、見たんです」

駅員「え?」

客「ここ!ここに居て…俺に話しかけて来て…」

駅員「は…?はぁ…あの、大丈夫ですか?」

客「えっ?」

駅員「このニュース、昨日の朝の記事ですよ。
   実際亡くなったのは一昨日の夕方、昨日の朝のニュースで取り上げられたものです」

客「え…」

駅員「だから、先ほどまで話するって、出来ないんですよ」

客「…俺…あ、あの……」

駅員「大丈夫ですか、お客さん。顔色、悪いですよ?」

客「だ、だだ…大丈夫……あの、えと、すみません…変なこと聞いて」

駅員「いえ…お気をつけて」





Written by ノスリ


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