落日への足跡
エルドレッド♂
イリス♀
ヴェラ♀
エル♂:
イリス♀:
ヴェラ♀:
ヴェラ「エルドレッド様、エルドレッド様!」
イリス「どうしましたヴェラ、騒がしいですよ」
ヴェラ「っ、イリス、様・・・!」
イリス「そんな嫌そうな顔をしなくてもいいでしょう、
側近である私がここにいるのはおかしくないはずですよ」
ヴェラ「そうですね」
イリス「それで、どうしました?」
ヴェラ「何であなたに話さなきゃならないんですか」
イリス「エルドレッド様は今お休みになられている故、
必要であれば折を見て私が伝えます」
ヴェラ「くっ、見て分かりませんか、急ぎの用件です!」
イリス「あなたが焦ってしまっているだけでそう大した事ではないかもしれない」
ヴェラ「・・・斥候が勇者の一行を城の近くで発見しました、
距離は1日もあれば移動できる物とのこと、
仕掛けた者は未だに帰ってきておりません・・・!」
イリス「分かりました」
ヴェラ「急ぎの内容だったでしょう!ほら早くそこを・・・!」
イリス「この後エルドレッド様に報告し、動きが決まり次第下知します、
ありがとうございました」
ヴェラ「ふざけるな!城周辺の警備を指揮しているこのヴェラが異常事態だと言っている!
貴様に一体どれだけの権限があるって言うんだ!」
イリス「私にはエルドレッド様をお守りすると言う使命がある、
あなたの様な頭に血が上った者をあのお方に会わせる訳にはいきません」
ヴェラ「っ、貴様・・・!」
エル「そこまでだ、イリス、ヴェラ」
ヴェラ「エルドレッド様!」
イリス「部屋先で騒いでしまい、申し訳ありませんでした」
エル「問題ない。ヴェラ」
ヴェラ「は、はい!」
エル「何かあったのか?」
ヴェラ「っ、はい、斥候から勇者の一行をここから1日の距離で発見したと報告がありました、
その際仕掛けた数名が未だ帰らないとの事」
エル「・・・そうか」
ヴェラ「はい、ですので、出撃の許可をいただきたく参りました」
エル「・・・分かった」
ヴェラ「では!」
エル「だがその前に話したいことがある、私の部屋に来てくれ」
ヴェラ「っ、は、はい!」
イリス「それでは私は・・・」
エル「イリス、君も来て欲しい」
イリス「はい、畏まりました」
ヴェラ「・・・なんだ、二人きりじゃないのか」
イリス「ヴェラ?」
ヴェラ「なんでもありません」
エル「落日への足跡」
イリス「あの、エルドレッド様、どちらまで・・・?」
エル「私の部屋といっただろう、玉座の間は魔王の部屋であって私の自室じゃない」
ヴェラ「え、エルドレッド様の自室!?
わ、私なんかが入ってしまってもよいのですか!?」
エル「でなければ呼びはしない」
ヴェラ「あ、そう、ですよね!」
イリス「・・・・・・・」
エル「イリス、そう拗ねないでくれ」
イリス「拗ねてなどいません」
エル「ふっ、そうか、すまない」
イリス「私は謝られるような事はないと思いますが」
エル「そうか、そういうならそうなんだろうな」
ヴェラ「・・・・・?」
エル「あぁ、あまり気にしないでくれ、私は友達が少ないからな、
いつもこうして遊んでもらっているんだ」
イリス「私で遊んでいるの間違いではないですか?」
エル「そんな事はないよ」
イリス「それならいいのですが」
ヴェラ「・・・エルドレッド様も、そんな風にお話されるんですね」
エル「あぁ、いつも毅然としていては疲れてしまうからね、
さ、どうぞ入って適当に掛けてくれ」
ヴェラ「し、失礼します」
イリス「失礼致します」
エル「イリス、紅茶を入れてもらっていいかな、落ち着く奴が良い」
イリス「畏まりました」
ヴェラ「あ、あの、それでお話と言うのは・・・」
エル「せっかちだねヴェラ、紅茶が来てからでいいだろう?」
ヴェラ「・・・あの、何故、そんなに落ち着いていられるんですか?」
エル「それは・・・」
ヴェラ「それは・・・?」
エル「紅茶が来てからゆっくり話そう」
ヴェラ「そんな・・・」
イリス「お待たせしました」
エル「ありがとう、ん、良い香りだ」
イリス「恐れ入ります、ヴェラもどうぞ」
ヴェラ「あ、ありがとう、ございます」
エル「・・・うん、やはり温かい飲み物は落ち着くな」
イリス「はい、そうですね」
ヴェラ「あの・・・」
エル「ヴェラは」
ヴェラ「っ・・・」
エル「ヴェラは勇者に勝てると思うかい?」
ヴェラ「勝てなければ、戦ってはいけないんですか?」
エル「いいや、そこに意義があれば構わないと私は思っている」
ヴェラ「なら、私は勇者と戦う事に意義を感じています」
エル「それはどんな?」
ヴェラ「どんなって、すぐそこで仲間がやられているんですよ!
それを黙って見過ごすなんて私には出来ません!」
イリス「そのやられた姿は、誰か見ているのですか?」
ヴェラ「は?」
イリス「その目でやられる姿、もしくは骸を見た者はいるのですかと私は聞いているのです」
ヴェラ「帰ってこない、その現実だけで充分じゃないのか」
イリス「その者たちは生きています」
ヴェラ「っ、なんだって・・・?」
エル「私たちはね、限られた範囲なら同志達の生き死にを知覚することが出来るんだよ」
イリス「集中さえしていれば、ですが」
ヴェラ「そんな事が・・・、いやでも、生きているなら何故帰ってこないんです」
イリス「ここからは推測になってしまうのですが、
勇者が何か条件をつけたのではないかと」
ヴェラ「みんなが、裏切ったと・・・?」
エル「もしくは、死にたくないのであれば魔王軍と手を切れ、
とかもあるかもしれないな」
ヴェラ「・・・まさか勇者はお二人にその力があるのを知って?」
エル「そこまでは知らないだろうね」
ヴェラ「では何故・・・?」
イリス「ヴェラは勇者の持つ武器を知っていますか?」
ヴェラ「武器・・・、いえ」
イリス「私も噂でしか知りませんが、鈍器を、使うらしいですよ」
ヴェラ「鈍器、ずっと剣だと・・・」
エル「先入観だな、私もその話を聞いた時に耳を疑った」
ヴェラ「じゃあそれが本当だとすると、みんなは・・・」
イリス「生きてこの世界のどこかで帰れずにいるでしょうね」
ヴェラ「・・・・・・」
エル「それが彼らにとって良い事か悪い事かは分からないが、
無事である事を願いたいな」
ヴェラ「私には分かりません」
イリス「分からない?」
ヴェラ「私はエルドレッド様のためならこの命を捧げても良いと思っている、
自分の命欲しさに、帰ってこない事が分からないんです」
エル「それじゃ私の頼みなら、聞いてくれるかい?」
ヴェラ「はい、もちろん」
エル「ありがとう。ヴェラ、君には・・・」
ヴェラ「・・・・・」
エル「みんなを率いて勇者から逃げて欲しい」
ヴェラ「・・・・・・え?」
エル「勇者は私たち二人で迎え撃つ」
ヴェラ「それ、どういう・・・」
エル「これ以上の犠牲は無用だ、私たちで終わりにする」
ヴェラ「・・・・・・さい」
イリス「ヴェラ?」
ヴェラ「ふざけないでください!
そんな事、聞ける訳ないじゃないですか!」
エル「私の頼みを聞いてくれる、それは嘘だったのかい?」
ヴェラ「そうじゃない、そうじゃなくて!
なんで、エルドレッド様が犠牲にならなくちゃいけないんですか!」
エル「ヴェラは私が勇者に負けると思うの・・・」
ヴェラ「エルドレッド様が自分で言ったんです!」
エル「そうか、そうだな、確かにそう言った様に聞こえたかもしれないな、あれは」
イリス「エルドレッド様は隠すのが下手すぎます」
エル「あぁ、自覚しているよ」
ヴェラ「すぐに皆を集めて勇者に仕掛けます、そんな事はさせません」
エル「ダメだ」
ヴェラ「何故!?尊敬する人の最期に抗っちゃいけないんですか!」
エル「私の命が終わったとしても、みんなが生きていれば私の意志は終わらない」
ヴェラ「っ!」
エル「君には、私の意志を継いで欲しいんだ」
ヴェラ「・・・そんなの、勝手です」
エル「それは承知の上だよ」
ヴェラ「・・・・分かりました、必ず、エルドレッド様の意思、繋ぎます」
エル「ありがとう、・・・ヴェラは、この戦いの始まりを知っているかい?」
ヴェラ「この戦いの、始まり・・・?」
エル「あぁ、そうだ」
ヴェラ「いえ・・・、物心付いたときにはもう人と戦っていたので・・・」
イリス「モーフィングであるあなたは人より遥かに長命でしょう?」
ヴェラ「そう、ですね・・・」
イリス「それほど昔から我々魔族と人は争い続けているのです」
ヴェラ「お二人は知ってるんですか?」
エル「父、先代から聞いているからね」
ヴェラ「先代、え、エルドレッド様って、二代目なんですか?」
イリス「正確には三代目です、お爺様の代からこの戦いは続いています」
ヴェラ「そんな昔から・・・」
エル「そうだ、そして、代が変われば戦いの理由は移ろう、
祖父の意思を覚えている者がどれだけいる事か」
イリス「覚えていた者も、みな戦いの中で薄れてしまっているでしょうね」
ヴェラ「その、その意志というのは・・・?」
エル「すまない、少し脱線してしまったね、祖父は、魔族を一つにしたかったそうだ」
ヴェラ「私たち魔族が、魔王様の元に集っていない時があったんですか!?」
エル「あぁ、何百年も前の事だけどね」
イリス「デーモンロードの一族であるお爺様は絶大な力をお持ちでした、
それと同時にとても高い理想も」
エル「当時の魔族には敵しかいなかった、同じ魔族ですら、敵だった」
ヴェラ「モーフィングとデーモンロードも・・・?」
エル「もちろん、同じ種族であるデーモンロード同士でさえね」
ヴェラ「っ・・・・・」
イリス「本当に、敵ばかりだったんです、
それを、あのお方は一代で纏め上げてしまった」
エル「我が先祖ながら恐ろしい物を感じるよ、
私にはそんな力ないからね」
ヴェラ「そんな!エルドレッド様は立派に魔王をやってらっしゃるじゃないですか!」
エル「祖父が、そして父が作り上げた今があるからこそだよ、
現に、私より強い魔族は大勢いる」
ヴェラ「魔王は、力だけでなる物じゃないと思います」
エル「あぁ、血筋があるからこそ私は今魔王をやれている」
ヴェラ「そうじゃありません、エルドレッド様にはみんなを惹きつける魅力があります!
信頼だってあります、ただ強いだけなら私は今ここにいません!」
エル「・・・ありがとう」
ヴェラ「あ、いえ、こちらこそ、すみません」
イリス「ふふっ、謝るような事はしてないと思いますよ」
エル「そうだよ、むしろ謝らないといけないのは私のほうだ、
これでは悲願を叶えるなんて夢のまた夢だ」
ヴェラ「もしご自身だけで足らないと思うなら、私が力になりますから」
エル「あぁ、そのつもりだよ、協力してほしい、魔族に真の平穏をもたらす事に」
ヴェラ「魔族に、真の平穏を・・・?」
イリス「魔を1つに束ねただけでは平穏は訪れませんでした」
エル「強大な勢力には圧力を」
ヴェラ「っ、まさか・・・!」
イリス「えぇ、1つになった魔族に刃を向けたのです、人間が」
エル「祖父はすぐに討たれたそうだよ、大事を成し遂げた直後だった」
イリス「力を回復する間もなく、これからと言う時に・・・」
ヴェラ「そんなのって・・・」
エル「それからだよ、魔族と人間の戦争が本格的になったのは」
イリス「ずっと魔族は虐げられ続けてきました、
それがより顕著に現れてしまったのです」
ヴェラ「勝手だ・・・」
エル「そう、とても身勝手だ、私たち魔族もね」
ヴェラ「なんで、だって先々代は魔族を1つにしたかっただけなんですよね?」
エル「それが招く結果を予想できなかったからだよ、
だって魔族だって同じ事をしようとしたんだから」
イリス「先代は、人を滅ぼそうとしたんです、
人が我々を滅ぼそうとするならこちらもそうしようと」
ヴェラ「そうしなければやられてしまう、ならやり返すのは当たり前でしょう!」
エル「その考えは、とても身勝手だとは思わないかい?」
ヴェラ「っ、それは、でも必要な事じゃないですか!」
エル「必要な事、そう思ったからこそみんなそうしたんだろう、
己が未来のため、ひいては種の存続のため」
ヴェラ「ダメだった、そうなんですね・・・?」
エル「・・・あぁ」
イリス「それからの戦いは本当に長かったんです、
お互いに疲弊し、始まりを忘れてしまうほどに」
エル「だから、私は父のようになりたくなかった、
憎しみに駆られ、全てを焼き尽くしてしまうような悪しき魔王には」
ヴェラ「エルドレッド様は、果たせていると思います」
エル「ヴェラの目には、そう映っているかい?」
ヴェラ「はい」
エル「そうか・・・」
イリス「大丈夫ですよ、エルドレッド様、きっと伝わります」
エル「・・・あぁ、ヴェラ、もう一度お願いしたい、
みんなを率いて勇者から逃げて欲しい、
そして、人間に知られないよう、みんなで平穏に生きて欲しい」
ヴェラ「・・・・・・はい、分かりました、必ず」
エル「ありがとう・・・」
イリス「私からもお願いがあるの、ヴェラ」
ヴェラ「っ!?な、なんですか?」
イリス「エルと私を忘れないで」
ヴェラ「い、イリス様?」
イリス「イリスと呼んで」
ヴェラ「イリス・・・?」
イリス「ありがとう、これで上も下も関係ない、ただの魔族同士よ」
ヴェラ「イリス・・・、そうね、それじゃ最後に、
ずっと思ってたこと言ってもいい?」
イリス「何?」
ヴェラ「あなたのすました態度、大嫌いだったわ」
イリス「っ、ごめんなさいね、何の面白みもない女で」
ヴェラ「でも、今のあなただったらきっと友達になれたわ」
イリス「そう、それじゃ次会えた時はきっと」
ヴェラ「えぇ」
イリス「ありがとう」
ヴェラ「どういたしまして、・・・あの」
エル「エルでいいよ、ヴェラ」
ヴェラ「・・・エル、私、まだあなたに伝えてない事があるの」
エル「うん、なんだい?」
ヴェラ「生きて、また会えた時に伝えるわ、だから、必ず」
エル「・・・そうか、うん、楽しみにしているよ」
ヴェラ「えぇ、それじゃ、また」
エル「また」
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イリス「・・・ねぇエル」
エル「なんだい、イリス」
イリス「本当によかったの?」
エル「もちろんさ、これで私はやっと1人の魔族になれた」
イリス「・・・そうね」
エル「君こそよかったのかい、つき合わせてしまって」
イリス「今更何を、あなたの無茶につき合わされるのは昔からよ」
エル「あはは、そうだった、すまないね」
イリス「謝られるような事は何も」
エル「それもそうか、確かにそうだ」
イリス「えぇ、いつもの事よ」
エル「・・・イリス」
イリス「何?」
エル「勇者の目に、私はどう映るかな?」
イリス「ただの、1人の魔族ですよ」
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